という訳で、今回いよいよAC関連の設定集を出してますので、是非ご覧ください!
数時間後 ムー統括軍前線司令部 応接室
「誠に申し訳ありませんでした!!!!!」
ムーの司令官であるカサダラは、神谷の姿を見るや否や土下座の勢いで頭を下げる。大慌てで神谷と向上が止めるも、それでも尚、土下座をやめようとしない。
「その、あー、取り敢えず気が済むまで土下座してもらって、気が済んだらソファに座って貰えると………」
「は、はい、わかりました………」
カサダラはソファに座り直すが、顔色は真っ青で唇は震え、冷や汗はダラダラ。というか身体も小刻みに震えており、見ているこちらが申し訳なく思うほどだ。
「………マイラス殿より簡単な事情は聞いている。輸送母艦ごと、Mig21バラライカ一個連隊108機、F4ファントム二個大隊72機、F5Aフリーダムファイター三個連隊324機が行方不明」
「仰る通りでございます………」
「カサダラ司令、護衛となる僚艦はいたのでしょうか?」
「はい。輸送船団は戦術機母艦24隻と、護衛の駆逐戦隊と軽巡、合わせて10隻が護衛しておりました。しかしどうやら、航空機と潜水艦による奇襲を受けたようで………」
この世界では対潜水艦戦闘は不慣れである。何せ潜水艦という兵器自体が、現状では皇国と帝国しか保有していない。お陰でムーをはじめとして各国の認識では潜水艦は未だ、未知の兵器という扱いが強い。
「妙ですね、長官。近隣の航空基地から離陸していれば、確実に我が軍の早期警戒機が探知しそうですが……」
「そうだな。提灯も既に5基、先行到着している。恐らく探知できるはずだが………」
「そこが謎なのです。空母機動部隊であれば、我が国にしろ貴国にしろ、何処かの国が必ず探知します。レイダー提督も「潜水艦はともかく、航空機の所在がわからない以上、対策も限定的になってしまう」と」
既にグラ・バルカス帝国の各港湾については、皇国が監視の目を光らせている。偵察衛星、偵察機は当然として、潜水艦や場所によってはスパイも監視しているのだ。出港すれば即座に何かしらが捉えるはずだし、例え秘密基地にあろうと、出てきた瞬間、必ず何かしらの監視網に引っ掛かる。
そもそも空母は単独で行動せず、必ず護衛の駆逐艦が随伴する。単独行動で出撃してしまえば、敵に捕捉された時に対処仕切れないのだ。要塞超空母たる赤城型ですら、単独行動可能とはいえ必ず護衛が随伴する。
「………………伊400型」
「あっ!」
「なんですかそれ?」
向上の呟きに、神谷は納得した顔を見せるが、カサダラは陸軍の人間というのもあり、ピンとは来てないらしい。
「我が国がかつて、帝国と同じ技術レベルの頃に保有していた実戦型の潜水空母です。大型の潜水艦で、内部に攻撃機を3機搭載していました」
「なるほど………。それなら確かに、可能でしょうな」
「向上、直ちに対潜哨戒機の数を増やす様に伝」
「失礼します!!」
応接室に血相を変えた士官が飛び込んでくる。カサダラはムッとするが、そんなのお構いなしに士官は続ける。
「戦術機輸送母艦が奪われました!!」
カサダラはショックの余り、そのままヘナヘナと椅子に同化する様に力が抜けていき、神谷と向上は顔を見合わせると溜め息を吐く。
「あー、君。司令は見ての通りだから、被害と攻撃手段を教えてほしい。俺が誰かは、説明がいるかな?」
「いえ!存じ上げております、神谷浩三元帥殿!!」
「よろしい。では、話せ。恐らくこの件はそちらでも機密になるだろうが、さっきここで司令と話していたのは、別件の強奪の件だ。まあこれも、問題ないだろ。なんかあれば、俺が責任取るし名前も出していい。なんなら、脅されたって言っていいぞ」
「お、お戯れを。分かりました、概要は以下の通りです。先程、こちらに向けて本国から出港した戦術機母艦輸送の第二陣が、潜水艦からの魚雷攻撃と、新型攻撃機の攻撃を受けているとの一報が入り、その数十分後には、護衛の全滅と戦術機母艦のみが艦隊を離れ、明後日の方へと航行していったとの報告が入りました。更にその数分後、戦術機母艦から死体が海に投棄されており、投棄されたのは船員である事が分かっています」
こうなった以上、一応対潜哨戒機を送るが、多分それも間に合わないだろう。結果としてムーは1日でMig21バラライカ四個連隊432機、F4ファントム三個連隊324機、F5Aフリーダムファイター六個連隊628機、F15イーグル一個連隊108機、F15E二個大隊72機が強奪された。これを受け皇国は形だけの抗議を行い、ムーは平謝りどころか高官の何人かは首が飛ぶ事態となった。
皇国は衛星やら何やらで捜索を行い、即座に現在位置を特定できた。しかしそこはどうやら秘密基地であり、山を改造している点から、バンカーバスターでも破壊できるか微妙な場所であった。尚、この報告を受けた神谷の反応はというと……
「これ、どうしましょうか?」
「んー、放置で」
なんと放置する事にした。普通なら血眼になるだろうが、別に皇国としてはどうでも良いばかりか、何なら幸運とすら言えるのだ。
「よろしいので?」
「向上、忘れた?戦術機って、見た目の割に強くない。えーと盗まれたのは、やらないか♂……じゃなくてバラライカ、ファントム、フリーダムファイターが大半。それからイーグルとストライクイーグルだろ?第一世代と第二世代が少しだ。こっちには第三世代機のステルス機があるし、なによりNESTがいる」
「NEST……。例の部隊ですね?」
特殊戦術打撃隊に新たに発足した特殊戦闘部隊。それが『NEST』である。アーマード・コアを集中運用する部隊であり、アーマード・コアと戦術機甲部隊が配備されている。現在はレイヴンがいる『ハウンズ』を始め、精鋭エリート部隊の『ヴェスパー』、叩き上げの荒くれ者ども『レッドガン』、技術屋集団の『RaD』、現地人徴用によるACと戦術機運用のテストケースである『独立義勇軍』の五部隊がいる。
「アーマード・コアは、言うなればアンチ戦術機を目的に開発した兵器。戦術機という存在その物への、物理的な安全装置でもある。浄龍の戦術機甲連隊がダース単位で襲い掛かろうと、ACであれば簡単に殲滅する」
「えぇ!?そんなに強いんですか!」
「あれ、知らなかった?」
「知りませんよ!!」
因みにどの位強いかというと、ACの装甲は120mm砲を完全に防ぎ、通常状態で戦術機を遥かに上回る機動性と、瞬間加速能力を持ち、アサルトブースト状態であれば、F15ACTVの巡航速度をも凌駕しつつ、武装は戦術機の兵装よりも強力である。
「そもそも連中は、戦術機の斬新さとか、見た目的な強さしか見ていない。というか訓練できないだろ?」
「あー、そういえば確かに」
「既存のどんな兵器とも、操作体系が違いすぎる。戦術機を戦力としてカウントするには、最低でもシュミレーターでの訓練がなくては、歩かせる事もできない。無用の長物とは、まさにこの事だ」
「そうか………確かに今回は、戦術機と武装だけ。シュミレーターは奪われてませんね」
「ついでにリバースエンジニアリングしようにも、向こうには何が何だか分からない有り様だ。知ってるか?月に行ったアポロ11号の指令室のコンピューター、処理能力自体はスマホ以下らしい。そのレベルのコンピューターすらないのに、戦術機のOSが理解できねーよ」
神谷はそう言って笑う。例え帝国が戦術機を奪ってようと、全く戦力にならない。武装はトラックや何かしら巨大な台車に搭載するとか、固定兵器として使えるかもしれない。だが肝心の戦術機は、動かす事すら困難と来た。これでは絵に描いた餅の良い例なのだ。
だが、神谷は知らない。奴等は、想定以上に強かである事を。
数日後 グラ・バルカス帝国 秘密基地BSB-69
「ほう、これが奴らの新型兵器か」
「はい殿下。皇国が開発した完全二足歩行型戦闘機、通称『戦術機』でございます」
グラ・バルカス帝国の首都より、北東30kmに位置するダイナモ山。これと言った特徴がなく、近くに村がある程度のなんて事はない、海に面した山だ。だがそのダイナモ山の地中には、大型の秘密基地BSB-69がある。
この基地は現在バイツが個人的に使用しており、核開発の状況把握や魔帝の遺物の研究等、言ってしまえばバイツ専用の司令部なのだ。
「Mr.アダムスカ、貴公と貴公の組織の協力に感謝する」
「いえいえ。我々はただ、たまたま情報を売っただけですよ?」
今回の襲撃は帝国が行った物であり、船を乗っ取ったのも帝国の、正確にはバイツが編成した特殊部隊によるものだ。だが輸送の情報、航路、船団の規模といった情報を提供したのは、神聖ミリシアル帝国である。厳密にはセージ家のジャッカルである。
「だとしても、お陰でこの兵器が手に入った。そうだ、感謝といえばアニュンリールの連中にも言わなくてはな」
「アニュンリール?まさか、アニュンリール皇国ですか!?」
「そう言えば、Mr.アダムスカには伝えていなかったな。彼らも私の協力者なのだ」
アダムスカが驚くのも無理はない。アニュンリール皇国は表向きは、あくまでも文明圏外国。実際はミリシアル以上の魔法文明を有し、魔帝復活を目指す秘密結社の様な事をやっていると知っているのは、当事国たるアニュンリール皇国と大日本皇国のみだ。
「しかし何故、彼らが協力を?というか、どの様な協力をしているのですか?」
「……………まあ、これまでの実績に報いるとしよう。他言無用だぞ?彼らの目的は、魔帝の復活だそうだ。遺物の幾つかは、彼の国が提供した物だよ」
「ほう………。では今回はどのような形で協力を?」
「今回はシュミレーターとやらの横流しだ。聞けばこの戦術機、我が国の如何なる兵器とも操縦系統が違うそうじゃないか。教官は捕虜にしたパイロットに任せるとして、こちらの兵士を訓練する必要がある。その為の機材が、シュミレーターなる物だそうだ」
「なるほど。アニュンリールも一応は世界連合軍傘下。戦術機の訓練設備を持っていると」
バイツはニヤリと笑う。これで完全に、神谷の予測は狂ってしまった。帝国は、バイツは、戦術機を戦力化できてしまう。戦術機は倒せる兵器ではあるが、それでもやはり通常兵器や歩兵には強い。皇国はともかく、他の国には脅威となる。
「それで殿下、例の計画の方は?」
「あぁ。それも言わなくてはな。第一目標はルーンポリス、第二目標はカルトアルパス、第三目標はイーブウィーヴィスに投下予定だ。投下方法は、専用に改修したグティーマウンI型を使用する」
「では、各地への工作を行いましょう。投下日が決まり次第、ご報告を。防空部隊を下がらせます」
「よろしい」
バイツは声をあげて笑い、アダムスカもまたクツクツと笑う。その姿は2人して、悪の枢軸にふさわしいものであった。この機密情報は、直ちに皇国にも伝わり、全員が頭を抱えることとなる。
この数日後、港湾都市グランディス近郊にあるシャリオ統合基地。現在、神谷戦闘団の本部と皇国軍の本部が置かれている基地だ。そこにミリシアルの輸送機が3機、着陸していた。
「なんか連絡受けてます?」
「いや全然。何しでかすか分からないし、一応総員警戒配置で」
「了解」
向上の横に控えていた士官が走り、館内放送で警戒配置に移行する様に伝達。向上は神谷と共に、輸送機へと向かう。
「なんだコイツら……。見たことない装備だぞ」
「えぇ。一体彼らは……」
軍服の腕についてる国籍証、軍服の色合いやデザインからして、ミリシアルの人間であるのは分かる。そして敵意もない。前回の報復に貴族派が軍を送り込んできた、という訳でもないようだ。というかそんな事、普通ならしないだろう。だが貴族派ならしかねないと、神谷と向上が思ってるのも事実ではある。
「……失礼します。大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥殿と、その秘書官、向上六郎大佐殿でお間違いないでしょうか?」
一団の奥から短髪のプラチナブロンドが美しい、若いが背の低い女性が現れる。なんというか、ぱっと見は可愛らしい顔で背丈も相まって、中学生位の様にも見える。だがその纏う雰囲気や表情は、歴戦の猛者のソレだ。
「何者だ?ミリシアル軍の少佐とお見受けするが……」
「申し遅れました。私は神聖ミリシアル帝国軍にて、第141空中魔導大隊の大隊長を拝命しております。タチアナ・シモノフ少佐であります」
そう言って見事な敬礼をする。こちらも敬礼するが、なんというか、アンバランス感が凄まじい。本来ならガキのコスプレと一蹴する所だろうが、雰囲気や立ち居振る舞いが歴としたエリート軍人そのもの。
「シモノフ少佐。失礼ですが、着陸基地を間違えてはいませんか?ここは大日本皇国統合軍と神谷戦闘団の司令部。ミリシアル軍は当基地の滑走路ではなく、エアトレック空軍基地の滑走路を使用する取り決めの筈」
「いえ、大佐殿。このシャリオ基地で間違いありません。我々は神谷戦闘団と共に戦う様にと命令を受けております」
「………長官、聞いてます?」
「初耳だわ。あー……取り敢えず君達、ハンガーで待機しなさい。基地の中には、申し訳ないが立ち入りを禁じる。失礼かもしれないが、我が皇国、そして私個人もまたミリシアルを信用していない」
「構いません。では諸君、ハンガーで待機だ。速やかに移動しろ」
大急ぎで司令部に戻り、ミリシアル側に連絡を取ると、どうやら本当に謝罪名目で派遣されたらしい。曰く「貴族派の件で迷惑かけた、我が国からの誠意の証であり、好きに使い潰して欲しい。彼女の大隊はミリシアル最強の大隊である」らしい。
「……………なぁ、五反田?」
「はっ」
「ミリシアル、馬鹿なんじゃね?」
「…………ノーコメントという事にはできませぬか?」
何とも面倒な話である。彼らにとっては友好の証だとか、謝罪の意なのだろうが、それでも戦い方を知らない以上は共闘は難しい。さらに言えば、精神的にもやはりこちらにはまあまあ、色々と思うことがある。
「しっかし、追い返すわけにもなぁ」
「新たな外交問題になりかねませぬからな」
「それなー」
かと言って追い返せば、言ってしまえば「テメェら許さん」という意味になる。向こうの面目を潰す事になるわけで、流石にそれはコチラとしても避けておきたい。特に貴族派という明確な不確定要素がある以上、それ意外のマトモなヤツとは仲良くなっておきたい、というのが本音なのだ。
「五反田、幕僚を集めておけ。それから空いてる官舎に連中を住まわせる」
「承知」
神谷は痛くなりそうな胃をさすりながら、シモノフらの待つハンガーへと向かう。ハンガーにつくと、シモノフが出迎えてくれたが、会って早々頭を下げられた。
「どうやら我が祖国が、またも不手際をおこしたご様子。司令部に代わりまして、謝罪いたします閣下」
「君が謝る必要はない」
「いえ。それに閣下ならお分かりくださると思いますが、我々が手を取り合い仲良く戦場を駆けるには、些か時間が少なすぎます。恐らく共闘という形にはなるでしょうが、果たしてそれを成し得れるかどうか」
どうやらこのシモノフは、しっかりとした士官らしい。これが唯一の不幸中の幸い、かもしれない。だが訓練の手段はある。ミリシアルにはない、皇国だからこそ出来るやり方がある。
「………少佐。その口ぶりから察するに、君は君達の立ち位置、君達がミリシアルから求められる役割、そして我が国が君達をどう扱おうと思っているか、分かっているんじゃないか?言ってみろ」
「では、恐れながら。我々の立ち位置、置かれている状況は言うなれば賠償、お詫びの印であります。となれば我が祖国が我々に求めるのは、皇国と共に戦い、最低でも「共闘し戦った」という事実、できるのなら勝利や皇国軍との関係回復と言ったところでしょう。
しかし皇国、いえ、閣下の部隊にとって我々は邪魔者。聞けば神谷戦闘団は、兵士達が1つの個として動ける程に高い練度を有するとか。そんな部隊にとって、その連携を崩すばかりか、そもそも皇国での常識を知らない軍隊と戦うのは、どんな戦の神であろうと不可能というもの。かといって、無下には扱えない。それをしてしまえば、折角の皇国優位の今の状況に影が見えてしまうから。こんな所でしょうか」
「パーフェクトだ、シモノフ少佐。だがその一方で我々、いや、俺はこうも思っている」
シモノフの横をすり抜け、141大隊の兵士達の前に立ち、ブーツを鳴らして叫ぶ。
「注もぉぉぉぉく!!!!!!!」
ハンガーに響く神谷の声に、大隊の全員が即座に神谷の顔を見る。なんなら、そのまま直立不動の姿勢を取るほどだ。その後ろでシモノフは驚きの余り、口をぽかんと開けて固まっている。
「貴様らに問うッ!!貴様らは何をなしに来たッ!!!!」
いきなりの質問に全員が顔を見合わせながら困惑し、答えようとする者は誰もいない。他国とは言え、軍の最上位階級者で、この世界で多分1番強い兵士で、最も優秀な指揮官で、軍神とも言うべき男を前に答えられる者なんていない。
「そこのお前。好きに答えろ。君は、何をしにここに来た」
取り敢えず手近の、黒髪オールバックで少し老け顔の中年兵士を指差す。まさか当てられるとは思ってなかったようで、少し挙動不審ながらもどうにか声を絞り出す。
「た、戦う為であります!」
「そうか。他はどうか!小さくていい!!好きに声に出してみろ!!!!」
そう言って暫くすると、ポツリ、ポツリと声が上がる。「戦う為」「勝利のため」「命令のため」「軍人の責務」「仲間のため」と、口々に出した。
「………ありがとう。戦う理由は、皆様々だ。更に言えば君達は、あくまで君達の祖国の政治の為に不本意ながら送り込まれてしまった部隊でもある。だが君達は、どんな経緯であれ最前線に来てしまった訳だ。
そこで問おう。君達は、俺達と共に戦うか?最前線の更に前に飛び出し、敵の鉄風雷火吹き荒れる地獄を自分の意志で渡り歩き、戦場の端から端まで、仲間と共に好きに駆け抜ける、そんな戦いを望むか!!
その果てにあるのは、祖国を守る、ミリシアルを守るなんて小さな物じゃない。世界を守護する、英雄の列に名を連ねる最大の栄誉が約束される。それも死んだ英雄じゃない!生ける伝説や生きてる英雄だぞ!!」
兵士達は否が応でも引き込まれる。こういう演説で人を動かす、やる気にさせるというのは、神谷が最も得意とすることだ。
「諸君は決して、政治の道具などではない。諸君は戦士だ。そんな馬鹿げた政治の為なんぞに最前線に連れてこられて、そのまま惰眠を貪る様な愚者、或いは死地に飛び込まされて『祖国の為の戦死』という建前の無駄死にを遂げる為の哀れな兵士ではない!!それを諸君は望まない筈だ!!!!
ならば共に来いッ!!!!世界最強の、世界中如何なる国や地域にでも飛び込み、自分達が戦いたい様に戦う一種の理想郷へ!!!!俺達と共に戦え!!!!!!そしてミリシアルの精兵の力、世界に知らしめて見せろッ!!!!!!!!!!」
ハンガーの中に軍靴の音が鳴り響き、兵士達が神谷に敬礼する。神谷もまた、その敬礼に敬礼を持って答える。
「………諸君らと言う、新たな戦友を迎えられた事を嬉しく思う。現在君達の官舎を準備中だ。取り敢えず、今暫くはここで待機してもらおう。シモノフ少佐、ついて来い」
「ハッ、閣下」
シモノフを連れ、ハンガーを後にし、そのまま司令部区画へと向かう。シモノフの顔は正に狐に摘まれた様なという顔であり、まだ少し現実に理解が追いついてないらしい。
「少佐。君の様な合理的思考に基づいて判断を下すものには、あの演説は意外だったかな?」
「は、い、いえ!その様なことは」
「無理しなくていい。責めてもない。その考え方は決して間違いでもないし、むしろ大切にした方がいい。そういう芯や根幹がなくては、俺にはついてこれないぞ」
「了解であります、閣下」
神谷は懐を探り、シモノフにワッペンを渡す。あしらわれているのは、当然神谷戦闘団の紋章。世界地図を背にしたアリコーンと、その下にクロスさせた日本刀と、その間に銃口を向けた拳銃である。
「これは……」
「我が神谷戦闘団のエンブレムだ。私の指揮下に入るのだ、悪いがこのエンブレムもつけて貰うぞ。っと、ここだ」
扉の横には『神谷幕僚団司令部』と書かれており、扉の前にはサーベルを持った兵士2人が門番として立っている。
「お戻りで団長」
「そちらの方は、ミリシアルの士官でありますか?」
「あぁ。詳細は追って知らせるが、まあ、俺達の新たな仲間だ。全員揃っているか?」
「はい。どうぞ」
門番の兵士が扉を開けると、そこには神谷以外の幕僚団の面々が椅子に座り神谷達を待っていた。
「まずはお前達に、新たな仲間を紹介する。神聖ミリシアル帝国軍、第141空中魔導大隊大隊長、タチアナ・シモノフ少佐だ。これまでの非礼の詫びって事で、ミリシアルがよこした向こうの精鋭部隊だ」
「タチアナ・シモノフ少佐であります。若輩ではありますが、第141空中魔導大隊を率いており、我が大隊は過分な評価ではありますが精鋭と呼ばれております。この様な形で皆様と戦闘を共にすることを深く謝罪しますと共に、戦えることを嬉しく思っております」
「とまあ、彼女は見ての通り現実をよく見ている上で、こっち側の事情も汲んでくれる。我が部隊は、141を戦力として受け入れる。異論ある者はいるか?」
シモノフは内心ヒヤヒヤドキドキではあるが、幕僚団の仲間達は一切気にしていない。エルフ五等分の花嫁こと神谷の
「長官。戦力として受け入れる事には異論ありませんが、訓練はどうするのです?」
「いつものフルダイブVRでいく。悪いが、ちょっと状況がヤバくてな。取り敢えず、幕僚達の自己紹介は後回しだ。少佐は……」
「あ、あの!私の隣が空いてますよ!」
「だな。少佐、そこの銀髪ロングの美人の隣に座ってくれ」
因みにこんな事言うと、女王陛下付きの墓掘り騎士がシャベル片手に追いかけてきそうだが、唯一ギリギリ許されている。尚他の幕僚達が試した結果、同姓であるヘルミーナ以外は訓練でシャベル片手に追いかけ回された。
「さて野郎共、ちょっと面倒なことが起きた。もうすぐ二度目の大型作戦が開始されようとしているが、正直かなり状況が変わった。恐らく噂で聞いてる者もいるだろうが、ムーの戦術機がゴッソリ消息を絶った」
どうやら幕僚達も噂程度では聞いていた様で、思ったよりも反応は薄い。唯一驚いているのはシモノフだけだ。
「少佐。戦術機については知っているか?」
「ハッ。皇国が新たに開発した新型二足歩行兵器であり、人間の様に手足を持つSF小説の様なロボット兵器であり、現在は皇国、ムー、その他の世界連合軍参加国が数カ国運用している。この認識で間違いないでしょうか?」
「パーフェクトだ」
「団長。それはかなり不味いのでは?我が軍はともかく、他の軍にとってはアレは、航空機を除けば最も恐ろしい兵器でありましょう」
海原の言葉に、他の幕僚達も頷く。この世界の戦車を一撃で破壊できる砲弾を、マシンガンみたいに撃ってくる二足歩行兵器。しかも戦闘機の様に空を舞い、ホバリングも可能。そこに装甲車程度の装甲も含まれるとなれば、それはもう戦場は地獄となる。
「その通りだ。まあ流石に、向こうの練度の話もある。いきなり大規模投入、とはならないだろう。それでも用心に越した事はない。そこで我が軍も、今回ばかりは本気で行く。本土の第三、第四世代級を運用する戦術機甲部隊、皇国斯衛群の全力投入。そしてNEST、アーマード・コアの投入を決定した」
「まさかこの間の話が現実になるとは………」
向上はこの間の話を聞いているので分かっているが、それ以外の幕僚達は戦術機はともかく、NESTの事はわからない。NESTを知っている者は少ないのだ。
「………少佐含めて、ほとんど分かってないな。戦術機には第一から第四世代までがある。現在他国に輸出され、配備しているのが第一世代。ムーの様な高い技術力を誇る国の次期主力となるのが第二世代。皇国が主力戦術機として運用する第三世代。そして最強格の第四世代がある。世代一つ変わる事に、単純なスペックの話であれば旧世代が勝つ確率は著しく下がる代物だ」
「そういうたら団長。第三世代にはステルス機がおるんやないですか?」
「おー、リキバニアよく知ってんな。そうだぞ。第三世代級にはステルス、つまり魔道電磁レーダーに映らない機体が存在する。さらに近接戦闘能力を極限まで高めた機体もあるぞ。これは皇衛群が多く配備しているな」
ステルスという機能自体は、皇国では今やありふれた機能である。最近ではステルスを看破するレーダーの開発も行われており、既存技術であるのは知っての通りだ。しかしミリシアルでは未だ、最新鋭艦か魔帝の異物でも無いと搭載できない超最新鋭兵器。なんなら軽く機密扱いである。それを既に実用化してることに、シモノフは驚愕し側から見ると、とても面白い顔をしていた。
「団長。それでその、NESTやらアーマード・コアってのは?」
「アーマード・コアとは、対戦術機を根幹に量産性をかなぐり捨て、究極の汎用性と戦闘能力のみを追求し開発したロボット兵器だ。戦術機、それも第四世代の浄龍をダース単位、上位の実力者であれば数個連隊を単機で壊滅せしめるほどにな」
「(失礼、大佐殿。一個連隊の戦術機数は?)」
「(確か108機の筈です………)」
長谷川に耳打ちで聞いていたシモノフが、いよいよ気絶しそうな程に驚愕する。というか幕僚達も、かなり驚いていた。戦術機は倒せる兵器とはいえ、流石に正面からガチンコでぶつかれるのは同じ戦術機か、航空機。戦車では遠距離砲戦ならともかく、近距離戦なら46式ですら単体では勝てない。
それを真正面から、それも単機で数百機を相手取れるなんて化け物でしか無いのだ。少なくとも本来なら、そんな真似は正気の沙汰ではない。
「で、NESTはACを運用する唯一の特務部隊だ。麾下には戦術機甲部隊も多く在籍する。所属は特殊戦術打撃隊ではあるが、基本的に単独で独立した作戦行動を展開する」
「ねぇ、浩三様。それってつまり、何も問題ないんじゃ………」
「まあ皇国にはな。当然だが武器を輸出するとして、銃とかはともかく、他のデカい兵器なら例え自国に向けられようと、それを押し返せる兵器を揃える。安全保障として当たり前だ」
それはその通りではあるが、いかんせんインフレが過ぎる。なにせ盗まれた戦術機は第一世代と第二世代ちょっとであり、ということはAC1機で殲滅が可能という事になる。まあ現実は、弾数の問題も発生するし、何より現実的では無いのでやらないが、スペックの話で可能なのは変わりない。その事実に幕僚達は「やっぱ皇国やべー」と苦笑を浮かべ、シモノフは苦笑を顔面に貼り付けながらも、内心では阿鼻叫喚の地獄であった。