神谷と五等分の花嫁がショッピングに繰り出そうとしていた頃 グラメウス大陸上空
『であるからして、君達軍人は必要ないのであって』
「なあ真司?あのバカ、そろそろ叩き出したいんだけど」
「彰、まだだ。もう少し待て」
空軍から出向している技術大尉、澤部彰は国防大学の同期である陸軍大尉にして、出向先の第75歩兵中隊の中隊長、岡真司に目の前でクソみたいな熱弁を振るってる男への文句を言っていた。
その熱弁を振るってる男というのが、中川貴一郎である。彼はどういう訳か、演習に視察の名目でやって来た。しかし反一色派の筆頭格であり、旧世界では中韓のスパイと言われていた男でもある。
そんな男に、というか軍とは一切関係ないのに、演習同行の許可は普通出さない。しかし今回はわざわざ、本省の事務次官の署名付きの書類を持参の上でいらっしゃってくれやがった。そんな免罪符を持ってこられては、基地や司令部は「NO」とは言えない。
「ホント、なんで来やがったんだか」
「まあ手は打ってあるから。な?」
既に1時間近く、わざわざ拡声器をもって「君達軍人はいらない。それでは平和にならない」と、全くもって有り難くも為にもならない不快な雑音とも言うべき演説をしており、兵士達の士気はみるみる下がっていた。そこで岡は1つの名案を思い付き、そろそろそれが実行されるのである。
数分後、相も変わらずクソ熱弁を振るっていると、機体が突如ガタガタ揺れ始めた。
『エンジンに異常発生。緊急で進路を変更する』
「は?え?」
「なに?本当に?」
『搭乗員は積荷を緊急投棄し、脱出に備えよ』
「脱出、脱出、脱出、脱出!?」
中川はいきなりの事に、一時「脱出」という単語以外喋らなくなった。隊員達の顔も強ばり始め、これが本当の事だと気付いた。
「よーし、全員。パラシュートを持て」
岡の指示に兵士達が足元や椅子の上の壁にあるパラシュートを取り出し、自分の背中に装着していく。一方で岡は中川の分のパラシュートを受け取り、中川の背中にパラシュートを装着していく。
「手順は、ご存知ですか?」
「知る訳ない!飛んでる飛行機から飛び降りた事など無い!!」
「でしょうねぇ」
「あ、おい!本当なのか!?」
「えぇ。さあ、行きますよ」
岡のやる気の無さそうな塩対応を見て気付き始めた読者もいるかもしれないが、これは演技である。実際は何の異常もなく、パイロットが意図的に機体を揺らしてるだけである。
「ちょっと待て!!なにか仕掛けたんだろ!?!?」
「何の事です?聞いてたでしょ?機長の命令ですよ。緊急時の規定であって、私は命令に従ってたまでです。ご満足でしょう?」
「大尉、君のキャリアは終わったものと思え」
中川は未だに毒付くが、タイミング良く機体がまた大きく揺れた。これによって、中川はすぐに黙った。
「あー、こりゃ不味い。さあ、こっちですよ」
「どうなるんだ?なあ、私は胃潰瘍なんだ!」
「こっちへ。さあ、こっちです。さあ来て、大丈夫です」
そう言いながら、無理矢理中川を引っ張って後部ハッチへと連れていく。丁度ハッチが開いて、視界に白い雪の大地が見える。勿論、高所からの眺めである。
「いやいやいや!!ちょっと待て!!!!死にたくない!!」
「ほんのちょっと飛ぶだけですよ!こっち来て!こっちへ、ほら早く!」
高所からの絶景に、中川は完全に恐怖してしまって逃げようとする。しかし軍人である岡が腕を掴んでる以上、力で振り解く事はできない。殆ど抵抗できずに半ば引き摺られて、ハッチの前へと来てしまう。
「VIPの安全を確保するのが優先なんです!!さあ、良いですか!?よーく聞いてください!!今から言うことを全部覚えて!!」
「OKOK」
「救助隊がGPSで見つけて、すぐ助けに来てくれます!!そのストラップは、コンテナの蓋を閉めてるピンを支えてます!!聞いてますか!?」
「何を言ってるのかさっぱ――」
「集中してっ!!」パシンッ!!
「わかったわかったわかった!」
もう完全にパニックになっており、首をガクガク上下にふりながらオドオドしてる。
「良いですか!?パイロットシュートが膨らんだら、ピンが引っ張られてメインシュートが開きます。赤がバックアップ、青がメイン!!青を引っ張ってください!!力一杯、グッと引っ張るんですよ!!」
そう言われて、あろう事か中川は機上のここで引っ張ってしまった。勿論パイロットシュートが射出され、外へと飛んでいく。
「握ってるああ!!まだです!!飛行機の上で開くバカがいるかッ!?!?」
「なに?あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?!?!?!?」
パイロットシュートが外に飛び出して空に飛んでいったのだから、その後に付いているメインパラシュートも開く訳である。中川は岡のツッコミに「なに?」と返した瞬間、大空へと元気よく飛び出していった。巨大な悲鳴を上げながら。
「アイツ、サヨナラは?」
「いや。言わずに行った」
これで邪魔者はいなくなったと言わんばかりに、岡と澤部は冗談を言い合っていた。しかし次の瞬間、本当のトラブルが発生した。機体が急激に揺れて、エンジンの轟音がピタリと止んだ。
『エマージェンシー!!エマージェンシー!!エンジンダウン!!エンジンダウン!!衝撃に備えろ!!!!衝撃に備えろ!!!!』
機長の怒鳴り声がキャビンに響き渡り、全員が弾かれたように座席へと滑り込んでベルトを着け、対ショック姿勢を取る。
飛行機というのは実は、エンジンが止まっても真っ逆さまに落ちる事はそうそう無いのである。「低高度からの急上昇中でエンジンが止まった」とか、「翼がへし折れた」とかじゃない限りは少しの間はグライダーのように滑空できる。幸いにも周辺は殆どが平原であり不時着可能である。ならば一度不時着して、救助を待つのが安全である。
しかしここで、更なるアクシデントが襲った。
「おい!?二番機もエンジンが止まってんぞ!?!?」
「嘘だろ!?!?」
なんと隣を飛行している2番機のエンジンも止まっており、2機仲良く高度が落ちている。これだけならまだ良い。一番最悪なのは、何故か無線やら電子機器がブラックアウト、つまり故障してしまったのである。現在高度や速度だけは、緊急用で装備されてるアナログ形式の物で判明しているが、今どの辺りをどの方角で飛んでいるのか等は分からない。
しかも無線もイカれてるのだから、助けも呼ばないのである。
「やるしかねぇ!!不時着させる!!!!」
「機長の腕に俺の命全ベットしますよ!!」
「お前だけじゃない。この機体に乗ってる奴、全員の命だ!!機長、成功させてくださいよ!!!!」
いつの間にかコックピットに移動してきた岡が、副議長の言った言葉を利用して鼓舞する。今回の機長はベテランのパイロットであるが、流石に不時着なんてした事は無い。だが今、彼は根拠こそないが必ず成功する確信を持って操縦桿を握っている。
「任せてくださいよお客さん。空軍のベテランパイロットの名にかけて、必ず不時着させてやる!!!!!!!!」
どうやらエンジンこそ死んだようだが、フラップやエルロンを始めとした着陸に最低限必要な物は全て生きている。エンジンが使えないため、一発勝負の博打ではある。だがその程度、パイロット達にとっては困難の内に入らない。
「ランディングゾーン確認!状況報告!!」
「高度800m、速力200ノット!西から微風なれど、着陸に支障無し!!いつでも行けます!!!!」
「よし、少し早いが着陸する!!」
機体は徐々に高度を下げていき、永遠にも感じられる時間を過ごした後、機体が上下にグワングワン揺れる。火花が散り、外からは金属の擦れる耳障りな音と、地面を抉る爆音が響き渡る。窓の外は土煙で、茶色に染まっており何があるのかは分からない。
「止まれ、止まれ、止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
出来る事は、なるべく早く止まれるように祈る事だけである。祈った甲斐あってか、全員失神こそしたが生き残った。そして墜落していく2機の姿は、近くの集落にて畑の絵を描いていたサフィーネという少女が見ていた。
父親が医者であるのもあって、困ってる人は見過ごせない心優しい性格のサフィーネはすぐに墜落した丘の上の平原へと走った。そこで見たのは、鳥でも魔獣でも無い、鋼鉄の塊。お尻の部分に大きな穴が開いており、中には白と黒のマダラ模様がついた鎧兜を身に付けた人がたくさん座っていた。
「こ、これって死んでいる、の?」
鋼鉄の塊の腹の中へと入ると、皆同じ格好していて何処かの兵士かのように思える。そして兵士達の前には、巨大な鋼鉄の壁で隔てられていて動くのが大変であった。さらに奥に進んでいくと、呻き声が聞こえた。
「うっ.......」
「まだ生きてる!」
どうにか外へと引き摺り出し、応急手当てを施す。程なくして村人達もやって来て、他の人達も外へと引っ張り出して手当てを行ったり村へと運んだりしていた。
そんな中、後部カーゴドアが閉じたままだったもう1機のC2から人が何人か出てきた。
「いってぇな。ってか、ここ何処」
「お、おいアンタ大丈夫か!?」
「ん?お、おう。頭が砕けそうなぐらい痛ぇし、脳みそがシェイクされてるみてぇにクラックラしてるがな」
口の悪い兵士が自分の症状を伝えていると、自分の仲間達が大勢倒れているのに気が付いた。すぐに駆け寄り、大声で「おい!!おい!!」と怒鳴ったり揺すり始めた。
「って、なんだ。ノビてるだけか」
「あ、あの。あなた方は一体、何者なんですか?」
「俺達は大日本皇国陸軍第7師団、第75歩兵中隊の兵士だ。訓練で空を飛んでたら、いつの間にか地面に不時着しちまってた訳よ」
ついでに目的も説明すると、村人達に困惑の顔が広がっていた。聞いた感じだと、日本に驚いてるというより国家があることに驚いているようだった。取り敢えずこの口の悪い兵士も、村へと案内されてC2の元を離れた。そして数時間後、捜索のために飛行中だったRF2が機体を発見したのであった。
墜落から数時間後 大日本皇国 統合参謀本部
「長官!偵察中のRF2より、墜落したC2を2機とも発見したと報告が入りました!!!!」
「状況は?」
「どうやら不時着したようで機体は綺麗に形を留めており、周りに人の存在は死体も生きてる者も確認できなかったとの事。そしてやはり周りでは電子機器が不調を起こすようで、計器の類は勿論のこと無線も使えなくなるそうです」
「そうか。流石にEMP攻撃とか妨害電波によるジャミングは考えにくいから、恐らくソーラーマックスによる磁気嵐みたいな自然現象だとは思うがな。第609航空隊に下令。AWACSを派遣し、電波異常の原因を調査させろ」
「了解!!」
実を言うとこの命令には、もう一つの隠された狙いがあった。知っての通り不時着したのはグラメウス大陸という、魔物が闊歩する世紀末みたいな場所である。もし強い魔物、例えばいつぞやの魔王みたいな化け物クラスが出てきた場合に対応可能な部隊を応援として出す事となるだろう。
その時の管制のために、E787を保有する第609航空隊に出撃命令を出したのである。
プルルル、プルルル、プルルル
「はい?」
『岡がコードを引っ張れと言ったんだ』
「そうですか」
なんとどういう訳か、パラシュートで脱出した中川から電話が入ったのである。勿論一帯は謎のジャミングで、電子機器が正常に動いてない筈である。
「ちょっと待て!ここは一体、なんて国なんだ?」
「大日本皇国ネ。日本ヨ』
中川は助けてくれたと思われる、恐らくボケ始めたお爺さんに聞いたようだった。そしたらやはり、ボケてたらしい。
「なに?違う!ここは大日本皇国じゃない!!私が日本から来たんだ!!」
「あー、あぁ」
『何もない。周りはトナカイだらけ』
ここまで聞くと、神谷は受話器を叩き付けて電話を切った。周りから「え?誰からです?」みたいな顔をされながら、視線を集めていたので自分から説明した。
「我々の良き友、中川貴一郎くんからでしたよ。ご機嫌ななめだった。こっちが部下と連絡どころか安否すら分かってないというのに、よくまぁ連絡してこられたもんだ。グラメウス大陸の、雪原の、ど真ん中から」
「(長官もご機嫌ななめだな)」
「(そりゃそうだ。噂じゃ、デート中だったのを呼び出されたらしいぞ)」
「(え!?閣下って彼女いるの!?!?)」
「(最近できたって噂だ。しかと超美人で、スタイルもヤバいらしい。マジで二次元から飛び出してきたような、男のロマンを詰め込んだプロポーションだとか)」
若手幹部達がなんか色々言ってるのを尻目に、神谷は今から行われる記者会見の為に会見用の部屋へと向かった。
「えー、本日未明、皇国空軍所属のC2鐘馗輸送機2機が、訓練中に消息を絶ちました。この機体には皇国陸軍第7師団所属の第75歩兵中隊が搭乗しており、同部隊に付きましても同じく行方不明となっております。
既に機体は発見しておりますが、現在救出の目処が立っておりません。墜落地点がグラメウス大陸の内陸の方であり、救出には相当の時間が掛かると思われます」
今回は事が事だけに、報道官ではなく神谷自身が演台で会見を開いた。この方が記者からの質問に正確に答えられるし、報道時も真摯な対応として国民に見られるため、予想される面倒なイチャモンに対抗できるのである。
「東西新聞の安田です。発見された機体の状態は、どのような状態だったのでしょうか?」
「RF2による航空写真を見ると、墜落というよりは不時着と言った方がイメージがつきやすいですね。機体は綺麗な形で残っており「爆発して炎上していた」とかといったものではなく、兵士が生きていてもおかしくない状態です」
「毎回新聞の鎌内です。救出の目処が立っていないとの事でしたが、その原因は何でしょうか?」
「原因として挙げられるのは、魔物の存在と国家が存在しない事の2点です。グラメウス大陸はフィルアデス大陸側に存在するトーパ王国という国家しか存在しておらず、王国の支配域は「世界の扉」と呼ばれる巨大な壁までは支配していないのです。今回の現場は、その世界の扉を越えた遥か先での出来事であり、現地国家への協力要請ができないのです。
魔物については、正直魔物単体だけなら余り問題にはなりません。しかし奴等は、基本的に群れで行動します。そのため、救助の邪魔になり難航する事が予測されるのです」
その後も色々な質問がされたが、その全てに丁寧に対応していった。約1時間程で会見は終了したので、神谷は対策本部へと戻ろうとした時に今度は携帯が鳴った。
『浩三。今回の一件、なんかややこしくなった』
「アレだろ?中川の件だろ、絶対」
『知ってたのなら話が早い。今、アイツの取り巻き連中が今から面会を申し込んできやがった。頼む、お前も同席してくれ』
「はいはい分かりましたよ」
正直全くもって行きたくない。「中川の取り巻き」とか言ってる時点で時間の無駄になるのは目に見えてるし、何より長嶺へのストレスが凄い事になる。そのお陰で、神谷の足は鉛の靴を履いてるかのように重い。
「我々としては今回の一件について、正式に厳重に抗議する」
「そうだ。中川さんは、絶対に安全だから乗られたのだ!!なのに何故遭難したんだ!!」
((いや知らねー。あのオッサンが勝手に乗りやがって、運悪く遭難しやがっただけだっつーの。ってか遭難予測できる訳ねーだろ))
案の定、トンデモ無茶苦茶理論で色々言ってきた。因みにこんな感じの事を、かれこれ1時間は言われてる。一周回って、よく飽きずに同じ事を言い続けられる物だと感心すらしてくる。
「特に神谷長官!!中川さんの捜索は、しっかり行われておるのかね!?!?」
「そりゃ勿論。こっちだって部下が同様に行方不明なんだ。しっかり探しちゃいますが、ジャミングが酷くて正直捗ってはいませんな」
「貴様ぁ!!!!それでも三英傑と呼ばれる英雄の1人か!?!?!?!?たとえお前は死んでも代わりがいるが、中川さんは代わりはいないんだ!!!!!!!!!」
正直ウザい。というか面倒くさい。正直な話、中川がくたばったところで日本にマイナスはない。というか寧ろ、プラスですらある。因みに神谷が死ぬと最大戦力が居なくなるし、兵士の士気が超ダダ下がりになるし、陸海空の全てを指揮できたり現場も上も知りつくしてる人が消えてしまう訳で、今のような柔軟かつ迅速な対応が出来なくなる。
「(なあ健太郎?そろそろコイツらの妄言にも飽きたし、帰らせていい?)」
「(え?そんなんできるの?)」
「(いやだって俺、一応最近魔法使えるようになったんだぜ?催眠系とか精神操作系とかマインドコントロールの魔法ぐらいあるだろ。多分)」
「(まあ最悪死んでも揉み消せるし、コイツら消えても影響ないし、やっちまえ!)」
返事の代わりに席を立って、色々言いまくってる中川議員のお友達議員三人衆の目の前に手を翳す。いきなり意味不明な行動をした事で、なんか余計に喧しく吠え始めた。しかしそれを捻じ伏せるかの如く、某オーバーなロードの位階魔法に影響されまくってる即興の魔法を低い声で詠唱する。
「
次の瞬間、神谷の手から紫色のもやみたいなのが出てきて、三人衆の顔というか頭部全体を覆った。目の前で起きた現実離れした出来事を理解する前に、三人衆の意識は闇へと落ちる。意識が無くなったと同時に、3人の顔は一様に視線は生気のない虚空を見つめ出し、表情は真顔とも違う「不気味」としか形容できない無表情のまま固まった。
「この部屋から立ち去って家へと帰り、アホな理論によるアホみたいな抗議をしに来るな。そして今見た事は全て忘れろ」
神谷がそう命じると、酔っ払いのようなフラフラとした足取りで部屋を出ていく。足取りも普通だし、体の色も普通だがまるでゾンビである。
「す、すげぇ.......」
「いやー。即興で思い付いた適当魔法だが、なんかどうにかなるもんだな」
「マジでお前が味方で良かった。ってか、お前やろうと思えば世界征服できるんじゃね?」
「出来るだろうな。だが俺は、お前と慎太郎の2人と日本を大きくする事の方が楽しいし、それ以前に世界征服とかおもろそうだけど面倒臭そうだし、絶対にやる事はないな」
こうは言っているが、実際のところは最近の日本は何やかんやで世界征服してるようなものである。少なくとも事情を知らない他国、特に攻め込まれた国、例えばロウリアとかパ皇から見れば「謎の新興覇権国家」である。
まあ戦った国は全て滅びて当然の行いをしてたので、言ってしまえば自爆したのと変わらないのだが。
「そう言うと思ってた。お前ホント、欲とか野心があるんだか無いんだか分かんねぇよな」
「いやいや。欲くらいあるぜ?」
「へぇ。どんな?」
「日本に仇なす国家や勢力を、最大火力で焼き払うか消し炭にしたい」
(あぁ、これアレだわ。近い内に世界滅ぼしちゃうヤツだわ)
思ってたより世界征服する魔王と同じような思考だった事に、割とガチで世界が滅ぼされそうな予感がしてならなかった。
「まあ、いいや。取り敢えず、お前これ持て」
そう言うと一色は、引き出しから2つの壺を取り出した。蓋をあけると、中身は白い結晶体だった。
「なあ、これってもしかして.......」
「塩だ。撒くぞ」
「お、おう」
そう言うと、外へと連行される。外の車寄せの辺りに行くと、一色は徐に壺に手を突っ込むと塩を撒き始めた。
「そぉーい!!二度と来るんじゃねぇ!!!!!!!」ワサッー!!
「クズはー外ー。売国奴もー外ー」
神谷もそれに倣い、塩を撒く。撒きながらも今後の対応を色々考え始め、アイツらを動かす事に決めた。神谷の作った神谷戦闘団の影、秘密特殊部隊「義経」を。
一方その頃、例の中川は寒空の中、1人でサバイバルしていた。
「何故だ!!何故この私が!!総理になれる器の私が、こんな地球か冥王星か見分けのつかない場所で1人ぼっちにならねばならんのだ!!!」
因みにさっきの電話の時に助けてくれていたお爺さんは中川のプライド(何故か自分に触れていいのは上流階級でないといけない、というアホみたいなプライドがある)が原因で、自らの手で追っ払ってしまった。食料もある訳がなく、水は雪を食うことでどうにかやり過ごしているし、幸いライターは持っていたし洞窟も見つけたので、ここをキャンプとして使っている。
しかしこの洞窟は、この地で何故か暗躍中のアニュンリール皇国という国家の魔帝復活対策庁復活支援課支援係という、要は「傍迷惑帝国の復活をお手伝いする部署」の秘密基地があるのである。しかも中川の陣取っている場所はメインで使う出入り口であり、既に中の職員に気付かれている。
「捕まえろ」
「ハッ!」
1人の男が部下にそう命じた。男の名前はダクシルド。無能である。いきなり無能呼びは酷いと思うかもしれないが、本当に無能だから仕方ない。無能男ダクシルドくんは、いつぞやの魔王ノスグーラを復活させた張本人である。最初はノスグーラを制御しようとするがノスグーラの魔力が大きすぎて制御できず、なんならノスグーラから色々とボロクソに言われる始末であった。
しかもノスグーラが倒される瞬間も見ていたが、欠陥兵器だとか言って負け惜しみを並べまくった挙句、魔王は制御できない上に何の収穫も無く予算が無駄になっただけの無意味な事しかやっていない。これを無能と言わずして、何といえば良いだろうか?
まあ無能なのは一先ず置いておいて、中川は麻酔針を撃たれて夢の国へと旅立つ。そしてそのまま奥へと引き摺られていき、とある目的に利用される事となった。
翌朝 エスペラント王国 カルズ地区
「うっ.......。ここは、一体.......」
「おっ!目覚ましたな」
「彰か。ここは何処だ?」
「どうやら俺達は、グラメウス大陸内にあるエスペラント王国とかいう国の住民に助けられたらしい。まあ色々話を聞いたが、纏めるとこうだ。
一万数千年前、太陽神の使いと魔王ノスグーラの戦いが終わった後の事。魔王討伐軍が組織され勇者たちと共にグラメウス大陸に派遣された。 しかし討伐軍は撤退中に遭難し、やむなく天然の要害に立てこもって捜索隊を待つことを強いられた。そのまま何年も捜索隊が現れなかったため、討伐軍は次第に「他の人類は魔王に滅ぼされたのではないか」「自分たちが人類最後の生き残りなのではないか」と考えるようになった。でもって討伐軍隊長エスペラントって奴が定住を決意し、魔物と戦いつつ少しずつ町を発展させていったんだと。こりゃ帰ったら、お役所と三英傑が頭抱えるな」
まだ目覚めて間もないのもあって岡は、今の内容の半分も理解していないが頷いた。それよりも聞きたい事があったからだ。
「他のみんなは?」
「全員無事だ。怪我もせいぜい、骨にヒビが入ったとかそんな物だ。戦闘にも支障はない。因みに本国との連絡は、未だ取れてないがな」
「そうか。良かった.......」
「っと、寝ないでくれよ。今から先生呼ぶから、検査だけ受けてくれや」
そう言うと彰は一度部屋を出て、この家の主人である医者のバルサスを連れてきた。色々検査とか何やらをしてくれて、無事に「異常なし」のお墨付きを貰うことができた。まあ今日1日は安静にしてろと言われたが。
しかしどうやら、まだ寝かせてはくれないらしい。この辺りを守護する騎士が、事情聴取の為に面会を申し込んできたらしい。断る理由もないので受ける事になり、すぐに腰にサーベルをもった男が2名部屋に入ってきた。
「我が名はジャスティード、このカルス地区を守護する騎士だ。医師バルサスから説明を受けた。
君に質問をしたいが、いいか?」
「いいでしょう」
「まずは所属と名前を」
「大日本皇国陸軍第7師団所属、第75歩兵中隊中隊長。岡真司大尉です」
「そうか。それで貴殿はこのエスペラント王国の外から来たと聞いたのだが、それは真か?」
「はい、間違いありません」
ジャスティードの部下である、後ろの騎士2人が互いに「信じられない」という顔をしながら顔を見合わせる。
「では、何のために来たのだ?」
「目的なんてありません。事故で飛行計器が狂い、何かしら原因、恐らくバードストライクか何かでエンジンが故障。そのままどうにか不時着し、運良くここの親切な住人に中隊一同世話になった。それだけです」
ジャスティードは意味不明の単語の羅列が理解できず、眉間にシワが寄る。まあこの時代の文明レベルの人間がバードストライクだの、エンジンだのが分かったら逆に怖い。
「では、エスペラント王国に用があって来た訳ではないのだな?」
「はい。簡単な言い方をすれば、事故による遭難です」
「ほう。では、お前の乗っていた飛行機械はどうやって作るのだ?」
「私の専門は陸戦の現場指揮官であって、パイロット教育課程は受けていません。というか、そもそもアレは皇国陸軍の所有物では無く、皇国空軍の輸送機です。私では無く、パイロットの方に聞いた方がまだ分かりますよ。まあパイロットも整備士や技術者じゃないので、全部は分からないでしょうけど」
「そうか。あれが我が国で作れれば空から矢を射る事も出来、有用な兵器となると思ったのだがな」
因みにある意味この発想は中々に先進的である。というのも輸送機に武装を装備させて地上攻撃する考えは、知っての通りアメリカで実用かされている。AC130やMH60DAPがそれに当たる。
「ところで」
ジャスティードは剣を抜き、目にも止まらぬ速さで岡の喉元に突き付ける。体を負傷している岡は反応のしようがなく、固まっていた、
「おまえ、本当は魔物ではないのか?最近の王国への侵攻の真の目的はなんだ?答えろ!!!」
「き、騎士殿!やめて下され!!」
「ジャスティード様、お止め下さい!!」
バルサスとその娘であるサフィーネも彼を止める。しかし岡は動じず、堂々と言い放った。
「何をしでかすと思えば、剣を抜いてどうする気ですか?私と殺り合おうって言うのなら、相手になりますよ?俺達第7師団は、設立以来どんな苦難でも乗り越えてきた。そんな猛者の中隊長を相手にするんだ。テメェ、死ぬ覚悟はあるんだろうな?」
岡、というより全ての大日本皇国軍人は武器を向けられた程度では屈しない。それどころか、その武器を奪って相手に突き付ける位のことをするようなバーサーカー集団である。そんな化け物の集まりの中でも、師団の中では一、ニを争う強さを誇る第7師団相手ではジャスティードとてタダでは済まない。
こんな事を知る由もないが、これ以上脅すのはヤバいと気付いてしまい剣を収めた。しかし彼は負け惜しみかのように、こんな事を言い出した。
「王国は人類最後の砦、他に国があるなどと、今さら信じられるか!!!神話においても大規模な援軍を約束し、それでも援軍は来なかったとある。こいつは魔物の送った刺客である可能性が高い!!」
「しかし、この者の言っていた空飛ぶ乗り物は、本当にありましたぞ!?」
「では聞こう!!」
ジャスティードは岡に向くと、質問してきた。しかし答えられそうもない。その質問は、この世界に於ける神話の話。転移してきた日本人は誰も答えられない。
「お前は、グラメウス大陸の外から来たと言った。ならば神話に残っているはずだ!!何故お前たちは我が先祖が苦戦している時に、援軍を約束したにもかかわらず、送らなかったのだ!!!」
岡は意味不明な質問に、困惑しながらも何とか答える。
「魔王軍に関する神話は世界各地にあり、トーパ王国には特に詳しく残っていると聞いています。しかし私は日本国の者ですので、「この世界」の神話は詳しくありません」
「人間でおきながら、神話を知らぬ訳がない!!詭弁だ!!!」
「落ち着いて質問をしてください!!!落ち着いて……けが人なのですよ。」
サフィーネが大声を出し、騎士のトーンが下がる。因みにジャスティードは、サフィーネが好きなのである。サフィーネの方は.......察してほしい。
「私も質問をよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「先ほど貴方は、最近の魔物の侵攻とおっしゃった。今、この国は魔物からの組織的な攻撃を受けているのでしょうか?」
「そうだ!お前が魔物ならば知っているだろうが、すでに2つの街区が魔物の侵入に遭い、2万人以上が犠牲になっている。」
「2万人!?その街は取り戻せたのでしょうか?」
「まだだ」
「岡殿、この国は城壁の国といっても差し支えない。城壁を拡大する事によって、人類の居住範囲を広げてきたのだよ。
よって、街が1つ落ちると、その街への侵入口は限られるため、取り戻すのに大変な困難を伴うのだよ。」
岡にバルサスが説明していると、急にジャスティードは立ち上がる。
「もう良い!!この事は一応上には報告する。こやつが魔物だとしても、騎士団の監視下に置けば問題ないだろう」
彼は岡の耳元に口を近づけ、静かに話す。
「『お前が人間だった場合の警告だ。サフィーネに手を出すなよ。あれは俺が将来妻にする女だ)」
「はい?」
予想の遥か斜め上をいく発言に、流石の岡も戸惑った。岡の中では「俺はいつでもお前を見ている。不穏な動きがあれば、容赦なく殺す」的な事が来るのかと思いきや、サフィーネに手を出すなとは予想外であった。