最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第三十八話ウェルゾロッサ防衛戦

翌日 ウェルゾロッサ要塞

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

 

「(なぁ、ジャスティード正騎士殿は何をあんな「殺す殺す」言ってるんだ?)」

「(なんでも恋していた町娘が、例の謎の軍団のリーダーと婚姻したらしい。しかも告白というかプロポーズの瞬間を、バッチリ見ちゃったらしくて病んでる)」

「(うわぁ悲惨ー)」

 

現在ジャスティードは病んでいる。超病んでいる。何故かって?それはこんな理由。

 

 

(命を賭ける戦いの前だ。サフィーネと床を共にし、我が子種をサフィーネの膣内に入れなくては!)

 

昨夜の事。ジャスティードは正騎士用の宿舎を抜け出し、サフィーネに告白&ナニをして子種を宿らせるつもりで、サフィーネのいる避難所のキャンプに向かっていた。

キャンプに行くには、どうしても日本軍の宿舎を通る必要がある。何か賑やかなのが少し気になったが、それを無視して自分の息子がイラついているのを抑えながらサフィーネの元へと向かった。

 

「ん?あれは.......」

 

日本軍の宿舎を越えた先の広場に、人集りが出来ていた。その中心にはあの岡と愛しいサフィーネの姿があった。胸騒ぎがしたので、物陰に隠れて観察していた。すると、ジャスティードにとっては死んだ方がマシな声が聞こえてきた。

 

「あのね、私、岡くんの事が好き。だから、私と、結婚してください!!」

 

(な!?!?!?)

 

そう。サフィーネが。あの「我の子種をくれてやろう」とか言って今夜一発かまそうとしていたサフィーネが。(ジャスティードの脳内では)子供を8人作る事まで確約したサフィーネが。あの何処の馬の骨とも知らぬ、岡とかいう奴に告白していた。

 

(ははは。そ、そそそそうだ。今のは聞き間違い。そう聞き間違いなのだ!そもそも何で愛しのサフィーネが、あんなナヨナヨした弱そうな奴に恋するのだ?可笑しいだろう。私の様に強くて逞しくて、オマケに優しくて勇敢で、将来は超安泰の正騎士がいるのだ。人間性、武力、知力、財力、権力、社会的地位のいずれに於いても勝利している!聞き間違いでなければ辻褄が合わ)

 

チュッ♡

 

そんな事を考えていると、今度は岡とサフィーネがキスをした。

 

(くぁwせdrftgyふじこlpぉきじゅhygtfrですぁq)

 

瞬間、ジャスティードの精神は崩壊した。

因みに蛇足ではあるが、一応簡単にジャスティードと岡の地位を比較してみよう。

まずは人間性。岡は紳士的で優しい好青年なのに対して、ジャスティードは妙にプライドが高く人をよく見下す。

武力も岡は軍全体で見ても狙撃技術はトップクラスなのに対し、ジャスティードは一応上の中から上の下位には剣技は上手い。ここは同格と言った所だろう。

知力は岡は国防大学の卒業成績は20位であり普通に頭はいい。ジャスティードは本人が、というより文明レベルが中世ヨーロッパ程度なのだから教育レベルもお察しである。

財力は岡の場合、基本年収が690万程度。しかしボーナスやら手当てやらで、大体730万位になる。ジャスティードは日本円換算で年収840万位だが、仕事道具、つまり鎧やら剣やら馬の維持費とか新しく購入する際の資金は補助金も出るには出るが、基本的に自腹である。その為、自由に使えるのはごく僅かである。勿論岡の武器は基本全て官給品なので全て税金から賄われている。まあ一部の小物やアタッチメントは自腹で購入しているのもあるのだが。

権力、社会的地位は何方も同等である。だが総じて、大体岡に軍配が上がっているので、ジャスティードに勝ち目は元から無かったのである。

 

「.......殺す。絶対に殺す。コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

 

とまあ、こんな具合に精神をぶっ壊してしまったのである。因みにぶっ壊れた方向が岡への逆恨みによる憎悪であり、岡としてはこの上なく面倒臭い。だが本人はまだ知らないので、戦闘中に集中を乱される事もないだろう。

 

 

「彰、無線は繋がったか?」

 

「いや全然。欲を言えば、皇軍を乱入させたかったんだがな。こうなりゃ、俺達だけでやれるとこまでやるしかないだろう。

それに最悪死ぬ事になっても、俺達は命を助けてくれた恩人達の為に死ぬんだ。悔いはねーだろ。まぁ、もう一度祖国の土を踏みたいがな」

 

「そうだな。それに俺達は、まだ何も絶対に死ぬと決まっていない。精々足掻きに足掻きまくって、生き延びてやろうぜ」

 

「おう!」

 

澤部と岡は互いの手を強く握る。もしかすると今生の別れとなるかもしれない一時だが、常に一緒にいた相棒に別れの言葉も何もいらない。少し話すだけで、それ以上の言いたい事は勝手に伝わるのだ。

澤部は城壁に残ってトラップの制御を担当し、岡は塔に登ってザビルと共に狙撃による先制攻撃を行う手筈となっていた。

 

「来たな岡殿」

 

「あぁ、ザビルさん。首尾はどうだ?」

 

「予定通り、と言ったところか。まだ魔軍は確認されていないが、もう攻撃するか?」

 

そう聞くザビルに岡は首を横に振った。攻撃しても恐らく当たるとは思うが、場所がはっきりしてない上に確実なダメージが入ってるかわからない以上、弾は無駄にしたくない。

 

「いや。どうせ狙撃するなら、指揮官を狙った方が効率的だ。たしか魔物っていうのは、基本的に群れを作る位の社会性しかないんだろ?あんな大規模な軍勢になっているのなら、その中心にいる連中を倒せば浮き足立つ。

そしてそこをトラップと分散配備した中隊の仲間達で叩き、さらに混乱させた方が色々楽だ」

 

「確かにそうだな。ならもう少し待機だな」

 

ザビルがそう言った瞬間だった。岡の無線に、渓谷に仕掛けておいた監視カメラの映像を見ていた兵士の声が響く。

 

『敵影確認!!距離、8km!予測通り、渓谷を進軍中!!!!』

 

「中隊長了解。中隊総員、戦闘配置。繰り返す、戦闘配置」

 

報告を受けた岡は、直ちに中隊の兵士達へ戦闘配置を下命する。この指示は王国兵にも伝達され、戦闘準備がなされていく。

銃の安全装置を外し、初弾を装填。照準を覗き、トリガーに指をかける。王国兵は剣を抜き、弓やバリスタに矢を装填。替えの矢も配置し、携行式の矢避けの板を使って防御を上げる。

 

「ザビルさん、準備はいいか?」

 

「いつでも」

 

「まもなく観測手からの無線が入る。指示に従って撃ってくれ」

 

岡とザビル程の技量があれば、観測手がいなくても狙撃可能である。しかし今回は数が多い上に、ライフルの弾は心許ない。百発百中は大前提として、百発で千発分の戦果を得るくらいの勢いが無いと今回は狙撃の意味がなくなってしまう。

つまりどういう事かと言うと、高脅威目標や指揮官クラスを最優先で叩く必要があるわけである。

 

『中隊長、これより観測データを送ります。方位2、距離8,000。上下角、+5度。オークキングです。見えますか?』

 

「あの鉄製のデカい棍棒を装備した一際デカい豚か。補足した」

 

『ザビル殿は方位359、距離変わらず。上下角+2度。ゴブリンチャンピオンです』

 

「捉えた」

 

2人の48式狙撃銃のスコープには、しっかりターゲットの頭が捉えられていた。

 

『fire』

 

ダ、ダァン!

 

少しズレたが、二つの銃声が重なった。間も無くして2匹の脳は、後方にぶち撒けられながら倒れる。

 

『head shot kill』

 

続けて次の目標が送られてくる。そしてこの軍勢は運が良い事に、偵察に出ていたRF2蛇によって撮影されていたのだ。そしてそのデータは、本国へとリアルタイムで送信されている。

 

 

 

同時刻 大日本皇国 国防省 地下指令室

「何だこの軍勢は.......」

 

「魔物、のようですが、凄い数です」

 

「長官、概算結果出ました。推定で総勢50万程度です」

 

「ごじゅ!?」

 

余りの数にいつも(推しが関わらなければ)冷静な向上も、流石に驚いているようだ。一方で神谷は別の事を考えていた。

 

(この数、明らかに普通じゃない。恐らくまた魔王が生まれて世界征服でもする気なのか、はたまた何処ぞの第三国の組織がアフリカや中東のテロリストよろしく、資金やら技術やらを使って動かしているのか?どっちにしろやばい事に変わりはない)

 

神谷の脳内では、この2つが考えとして導き出されていた。魔王に関してはこの世界特有の物だし、ドラクエみたいなRPGでもストーリー上仕方がないとはいえど毎回魔王がいる。従って魔王が1人とは限らない。

だが問題なのは、後者の第三国の介入である。アフリカや中東には、様々な武装勢力がいる。そしてこれらの勢力には、実は裏で大国による援助が行われていたりする。武器は勿論、資金を送ったり、時には精鋭の軍事工作員を派遣していたりもする。ただ魔物は基本的に意思疎通が図れないらしいので考え難いが、この世には不可能を可能にする無茶苦茶理論の魔法がある。もしかすると魔物と対話したり操ったりする魔法や、魔道具があったって不思議はない。

そんな事を考えていると、1つの違和感があった。

 

「オペレーター。さっきの映像を巻き戻してくれ」

 

「はい」

 

正面モニターに先程の偵察映像、正確には渓谷を進む軍勢の映像が映し出されている。

 

「?止めろ。それから、ここを拡大」

 

レーザーポインターで画面の隅にある、出っ張った岩肌を指す。そこを拡大してもらい、画像処理もしてもらう。

 

「こ、これは!?」

 

「C4だ。恐らく、岩肌を崩落させるトラップだろう。C4は粘土みたく形を変えられる、プラスティック爆薬だ。例え旧世界の一般人が見たとしても、軍事系の知識がなければ粘土だと思うだろう。現地人なら尚更な。だが確かここは、人は誰も住んでいない筈の言うなれば魔物の国。てことは」

 

「75中隊がいる.......。オペレーター!周辺に人工構造物は!?」

 

「お待ちを!衛星で確認しますッ!!」

 

オペレーターがコンソールを操作し、当該地域の静止衛星画像をさかじ探し出す。探し出した画像には城壁を持つ巨大な人工構造物、ウェルゾロッサ要塞の姿があった。

 

「ありました!!メインモニターに映します!!」

 

「......よし。消息不明の第75中隊に関する情報は、何で存在してるかは謎だがこの要塞にある物と断定する!これにより現時刻を持って、第75中隊救出作戦、『オペレーション・レッカーダウン』の発動を宣言する。大至急第7海兵師団と待機中の陸軍第7師団含む、全部隊を急行させろ!!」

 

「全攻撃部隊出動、正体不明の軍勢を攻撃せよ。承認行動TW、1304時」

「こちら作戦本部。陸戦隊を当該地域に向かわせろ」

「第五航空戦隊、電撃開始!」

 

神谷の決断にオペレーター達が次々に指示を伝達し、それに対応して各司令部が指定された部隊を出動させる。これらの部隊が間に合うのかは分からないが、少なくとも素早い決断であったのは確かである。

 

 

「魔軍、そのまま突っ込んでくる!」

 

「狙撃は成功、トラップには気付いてない。さあ、戦争の盤上をひっくり返そう」

 

そう言いながら澤部は悪い笑みを浮かべつつ、手に持つ端末にコードを打ち込む。打ち込み終わった瞬間、RF2の捉えていた出っ張りの岩壁が爆発。そのまま巨大な岩となって、渓谷内にいる魔物を押し潰す。

 

「グキャ?」

「グギャギャギャ!?!?」

「プギャーー!!!!」

 

自分達は無敵で要塞にいる人間共を殺し、食らい、女は犯すと考えていた魔物達は一気に浮き足立つ。本来ならをそれを止めるべき指揮官クラスは、既に岡&ザビルによる超長距離狙撃でその数を減らしている。

無論たくさん上位種は残っているが、一部は勝手に逃げ始めたりして動揺と混乱を招き、ひいては士気の低下をもたらす。

だが奴らは知らない。既にこの渓谷は、トラップだらけのキルゾーンと化している事を。

 

「前菜のトラップは上々。さて、次はオードブルだ」

 

一部の前に出過ぎていたゴブリン集団が、今度は丸太トラップに引っかかる。この丸太トラップは地面に仕掛けてあるロープが切断されると、真上から無数のうんこ付きの先端が尖った丸太が降ってくるトラップである。

ゴブリンは一部の上位種を除けば、基本的に人間の子供と変わらない。なので貫かれると言うより、押し潰されると言った方が表現としては最適だが、先が尖っている上に重力加速によって地面に突き刺さり完全に動きを封じる。文字通り袋の鼠状態であった。

 

「さーて、やっちまえよ。月光」

 

 

ブモォォォォォォォ!!!!

ブモォォォォォォォ!!!!

ブモォォォォォォォ!!!!

 

それは一瞬であった。真上から謎の生物的な足を持った鋼鉄の塊が、渓谷の上から降ってきたのである。

この兵器は初期で散々出てたのに、最近はめっきり出番の減っていたWA2月光である。今回の月光は全てが対戦車仕様ではなく、一部には近距離での対空戦やヘリコプターの様なソフトスキン航空機をターゲットとしたハ型も多く含まれていた。ハ型の武装は機関砲のみであり、戦車と同程度の走行を持つゴルアウスには流石に歯が立たない。そこで一番威力の出る近距離での対人(今回は魔物だから対魔?)戦闘に使われた。

前と後ろを固められて身動きの取れない魔物達の真上から、余程の攻撃でもなければダメージの与えられない装甲を持ちながら、足回りが人工筋肉で出来ている事から有り得ないほどの三次元機動力を手に入れた月光が降ってくる。これ程面倒なことはないだろう。

 

キュィィンブォォォォォォォ!!!!!

 

「ピギャァァ!?!?」

「プギャッ!?」

「グオォォ!!!」

 

中には勇敢にも棍棒で殴りかかる奴もいたが、人工筋肉を舐めてもらっては困る。数十tの重さを持つ巨体をたった2本で支えるほどのパワーを備える自慢の足を使った回し蹴りを、対象の土手っ腹や頭にぶち当たる。しかも回し蹴りなので、巨体を支えるパワーに遠心力が加わる。その威力は、もうお察しください。

 

「グギャ!グギャ!」

 

「グギャ!」

 

負けることは分かっているが、周りの魔物総出で月光に攻撃を仕掛ける。その間にゴブリン・シャーマンの様な魔法職が最前線と最後尾に向かい、魔法で突破口を作り出す。所詮は丸太と岩なのですぐに破壊されてしまい、また進軍が始まる。今度は漆黒騎士も前線に出てきた。

だが.......

 

ガシャン!!

「グギャ!?」

 

「グ.......ギャ.......」

 

落とし穴入りうんこ付き先尖り丸太のトラップに引っかかる。更に調子こいて我が物顔でパカラッてる漆黒騎士も、ワイヤートラップに首を持っていかれて撃退されていく。

流石にこうもトラップの連続では、動揺と混乱は最高潮に達する。進軍速度は殆ど0に等しくなる。そしてその瞬間を「待ってました!」と言わんばかりに、また別の月光ハ型が襲いかかる。今度は岩肌の壁に足でへばりつき、魔法や弓でないと届かない距離から蹂躙していく。

 

 

「あれは戦いと呼べるのか.......」

「こんなの戦いではない」

「騎士道精神はないのか.......」

 

一方でウェルゾロッサ要塞の城壁でも、何故か動揺が広がっていた。最初はリアルタイムで見られる綺麗な映像と双眼鏡に驚いていたが、次第に余りに一方的な戦闘に対して違和感を感じ始めていたのだ。

そんな中、岡に文句を言う騎士が現れた。ジャスティードである。

 

「おい貴様!例え魔物であろうとも、騎士道精神を持って戦うべきだろう!?!?貴様ら蛮族には無いかも知れぬが、我らは誇り高き騎士だ。敵にも敬意を払えッ!!!!」

 

こんな事を大真面目に言われては、日本兵からしてみれば「えぇ.......」である。正直、そんな事言われてもとしか言えない。

 

「アホらしい。確かに戦闘に於いて騎士道精神や武士道精神は尊ぶべき物であるし、相手に敬意を持つ事は戦闘で相対する者への礼儀なのかも知れない。だがそんな物を一々考えていては、勝てる戦にも勝てない。そんな物は犬にでも食わせておけ。

それに奴等、魔物はそんな高尚な精神を理解できるのか?アイツらにも同じような精神があるならお前らの精神に則って、正々堂々決闘でも何でもして戦うがいい。だが奴等は捕虜だろうが民間人だろうが殺すか食うか犯すかする化け物。そんな存在に騎士道だ何だ言っていれば、こっちの身が滅ぼされる。

それに忘れてるのか知らんが、俺達はあくまで墜落してボロボロだった俺達に救いの手を差し伸べてくれたカルズ地区の住民の為に戦っている。本当ならこんな戦争、違法もいい所。バレれば即処刑であっても可笑しくは無いが、受けた恩義に報いる為に無理矢理ここに立っている。正直に言ってやろう。別にカルズ地区の住民以外のエスペラント王国民が何千人死のうが何兆人死のうが、俺達は知ったこっちゃない。だって国民でも被保護者でもない。そういうくだらない価値観を振り翳して、こっちの戦闘行動の邪魔をするのなら」

 

岡はジャスティードの鎧を掴み、身体を持ち上げながら自分の顔の近くに引き寄せる。

 

テメェをあの戦場のど真ん中に落として、孤立無援で敵と戦わせるぞ

 

あんな大軍勢に孤立無援で戦うなど、数百、いや数千回は余裕で死ねるだろう。まあ人種によっては、なんか普通に殲滅しそうなのが約2名ほどいるが。ほら。刀2本持った司令官とか、刀2本持った提督とか。

だがそんな化け物では無い以上、そんな事をされては確実に死ぬ。普通の正常な判断力が残っていれば、ただの脅しとして聞き流せたのかもしれない。だがここが戦場である上に、目の前の男には「本当にやるぞコラ」と言わんばかりの凄みがあって正常な判断力を奪っていた。怖気付いたジャスティードは恐怖に顔を引き攣らせながらその場を逃げる様に去っていった。

 

「まさか正騎士ともあろう者が、あそこまで愚かとは。同じ同胞として、恥ずかしい限りだ。あのバカ騎士に代わって、謝らせて欲しい」

 

「いや、アンタが悪い訳じゃない。腐ったみかんが混じってただけだ」

 

ザビルの謝罪に岡がそう返した瞬間、城壁の王国兵が口々に叫んだ。「漆黒騎士が来たぞ」と。見ればいつかのC2の調査中に射殺した騎士が、隊列を組んでまっしぐらに突っ込んでくるではないか。

 

「あんなに漆黒騎士が.......」

「勝てる訳ないよ.......」

「僕は、騎士団のお荷物です。ブヒッ!」

 

なんか1人変なのが混じっているが、王国兵は目の前に迫り来る「死」に恐怖していた。だが皇国軍人は、誰一人として恐れていない。王国兵が絶望に染まる中、澤部はあるアニメの名シーンのセリフを語る。

 

「漆黒騎士ってのはアレだろ?人間離れし反射神経や運動能力を持ち、獣の様に殺気を感じ、恐ろしいまでの馬鹿力を持つ。剣撃を容易く避け、馬に騎乗し、その馬鹿力で立ちはだかる人間を蹂躙するんだろ?

じゃあ、こういうのはどうだい?」

 

騎馬隊の戦闘集団の足元が突然、爆発を起こしてその身体を吹き飛ばした。それに動揺し騎馬隊は歩みを止めてしまう。それこそが狙いとも気付かずに。

 

「止まったぞ。殺れ」

 

部下の1人が連続してレバーをカチカチと押す。今度は連続的に様々な場所が爆発し、騎士達がまた吹っ飛ばされていく。

 

「ビンゴ!人間様を舐めるとこうなるんだ」

 

「い、いつの間にこんな仕掛けを.......」

 

「仕掛け?馬鹿が突っ込んだら来るから悪いんだ、真っ正面から。心も動きも無い発射装置。そして点ではなく、避けられない面攻撃。クレイモア地雷3,000個の同時点火。避けられる物なら、避けてみろっつの。

よーし。城壁、グレネード斉射。連続発射で火線を張れ。連中に頭を上げさせるな!面だ、徹底的に面で攻撃しろ。ライフル分隊は分隊火力を各員の目標と目標周辺に集中弾幕射撃!

俺たちゃ喧嘩なれしてねぇからよ、おっかなくて正々堂々戦争なんてしないぜ?騎士サマ達よ」

 

指示に従い兵士達が射撃を開始する。真上から降ってるグレネード弾とライフル弾の雨が降り注ぎ、騎士達はその動きを完全に止めてただ地面に倒れてゆく。

騎馬とは機動力こそが、その真骨頂にして最大唯一の強み。その強みを捨ててしまう事になる進軍の停止は、それ即ち死である。結果として漆黒騎士の騎馬隊は、その全てが攻撃を加える事なく全滅した。

だがこの戦闘の合間に、渓谷を突破したのだろう。雑兵軍団と思われるオークとゴブリンの大群が、なりふり構わず突撃を敢行してきた。

 

「多いな。だが、その程度で俺達を超えられるものか。撃ちまくれ!!!!」

 

ズドドドドドド!ズドドドドドド!ズドドドドドド!

ドカカカカカカカカカカ!!!

ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!

 

43式小銃、32式戦闘銃、42式軽機関銃の弾幕が雑兵軍団を貫く。しかも鎧という鎧を装備していないので、威力がデカすぎて2人抜き3人抜きをしまくって雑兵軍団を駆逐していく。

その戦況を静観していた今回の軍勢を率いている将軍、バハーラは焦りを感じていた。

 

「何だあの攻撃は.......。まるでそう、太陽神の使いと戦っている様な一方的な戦闘だ。まさか、また再臨したのか?」

 

「バハーラ様!侵攻軍の第一陣は既にその半数以上が殲滅され、軍団の一部が個々に敗走を始めております!ご指示を!!」

 

「こうなれば、ゴウルアスを投入する他あるまい。後詰に残していた兵も動員.......いや、後詰は要塞の左右や後方に回り込ませて中を撹乱させよ。不可視化の魔法も忘れるな!」

 

「ハッ!」

 

バハーラは虎の子であるゴウルアスを動かす事を決めた。だがバハーラは知らなかった。敵はゴウルアスの様な化け物を歩兵であっても破壊でき、例え数の暴力で来ても撃退できる作戦を準備している事に。

 

 

 

戦闘開始より約二時間後

「大体は倒したな。第一ウェーブ終了、って所か」

 

「だ、第一うぇーぶ?」

 

「いや、まあ、敵の第一波は取り敢えず食い止めただろうって事だ。報告の数よりも少なかったし、もしかしなくても第二波、第三波は間違いなく来るが、一つの峠は越した訳だ」

 

「それもそうだな」

 

岡とザビルは戦闘開始以来、ずっと覗き続けていたスコープから目を離した。流石の2人でも、少しは疲れたらしい。伸びをしたり、軽く腰を動かしてストレッチする。

 

「しかし、ゴウルアスが来てないのが気掛かりだ」

 

「あぁ。だがこちらは既に、ゴウルアスをもてなす準備はできている。油断する気は無いが、恐らく撃滅できる筈だ。殲滅しなくとも、一部を倒せば撤退してくれると思うし」

 

「そうか。余裕、と言ったところか」

 

本当なら頷きたい所だが、実際は違う。確かに武装はどうにか殲滅出来るくらいはあるが、余裕は全くないのである。

 

「ザビルさんだから言うが、正直弾薬は心許ない。確かにこっちの兵は練度も高いし、武装も専用の物を使えば恐らくはゴウルアス撃破でも簡単にできる。だがその武装の弾薬が、本当にギリギリの量しかない」

 

「つまり少しでも外せば.......」

 

「あぁ。こっちにやぶれかぶれで特攻してくる可能性も全然ある。まあ流石に撤退はしてくれると思うが、もし突撃でもされたらここを捨てて逃げるしかないだろうな」

 

その言葉にザビルは驚くのかと思ったが、案外普通にしていた。ただ一言「そうだったのか」と言って終わりである。そのまま視線を慌ただしく動く兵士達に向ける。

 

「俺はこの国が好きだ。雪が綺麗だし、食料は多くないが人々は温かい。魔物に囲まれていて平和とは言えないが、街に行けば活気に溢れていて平和そのものと言える。

そんな国が死に掛けていた時、お前達が現れた。そして魔物を殲滅は出来ずとも、同等以上に戦える武力を貸してくれた。戦って死ぬのなら、俺は一向に構わない」

 

「ザビルさん.......。その、言いづらいんだが、殲滅は出来なくはないぞ?」

 

「は?」

 

「今どういう訳か本国、つまり俺達の祖国である大日本皇国とは連絡が取れない。だが連絡が取れれば、恐らく軍を派遣してくれる筈だ。我が皇国は今の君達の文明から見て、ざっと数百年後の文明を持っている。まあ装備を見ればわかるだろうがな。

とにかく今の武力は、皇国の本気ではない。もし本気でこの戦争に介入するとなれば、もしこの場に第7師団がいれば、魔物を殲滅した上で逆に侵攻するくらいの事は造作もなく出来るだろう。それに最強の兵士にして、我が皇軍の実質的なトップである神谷大将が来てくだされば1人で戦況をひっくり返す位の事もするだろうし」

 

「貴様の祖国は化け物か.......」

 

これがザビルが何とか出した答えであった。このザビルの回答は、ずっとこの作品を見続けてきた読者諸氏であれば正解だとわかるだろう。これまで何度ロマン兵器に馬鹿でかい兵器と奇人変人狂人の集まりである皇軍が、異世界転移してから暴れたか覚えている筈。あの所業を「化け物」と言わずとして、何と言えば良いのだろう。

そんな馬鹿話をしていた中、無線に西門と東門に魔物が溢れていると連絡が入った。これまで渓谷の出口が正面にある南門に兵力を割いており、残りの門に皇国兵はほとんど配備されていないのである。岡はすぐに待機していた近接戦闘仕様である44式装甲車ロ型を西門に派遣し、東門にはC2のパイロットを向かわせた。

 

 

「弓矢構えー!放てぇぇ!!!!」

 

王国兵が城壁から矢を撃ちまくっているが、数が多すぎて全体的なダメージになっていない。それどころか魔物達は数に任せて、倒れた仲間を顧みずに突撃してくる。

そんな中、緑色のフライトスーツを着た男が優雅に歩いてきた。

 

「奴等は訓練すれば生き残れると思っている。門を壊し、壁を破壊し、武器を敵に突き立てる。だが、最も基本的なルールを忘れてはいけない」

 

そう言うとフライトスーツを着た男は、手に持っていたリモコンのスイッチを押す。次の瞬間、門に取り憑いていた魔物達を中心に稲妻が走り焦げ臭い臭いと悲鳴が響く。

これこそ昨日の内にC2のバッテリーと配線を流用した、即席電撃トラップである。

 

「真のハンターはまず足元を警戒する」

 

そしてフライトスーツを着た男、もといC2のパイロットはこのトラップを使う際に言いたかったセリフが言えて満足だったと言う。因みに西門の方は、すぐに機関砲群で殲滅されたらしい。

取り敢えずは一安心かと思いきや、北門が攻め込まれた挙句、突破されてしまったらしい。北門は今回の主戦場とは反対であり、しかもゴウルアスの様な大型魔獣を運用できる程道が広く無かった為、皇国兵は1人も配置していなかったのだ。

 

「40式と対人仕様の極光を出せ!どうせゴウルアス戦には使えないからな。急げ!!」

 

「了解!」

 

岡はゴウルアス戦ではまず役に立たないだろう対人仕様のWA2極光と、現在の装備で唯一兵員輸送に長けている40式小型戦闘車を投入した。すぐに手空きの兵士が乗り込み、北門の方へ急行する。

一方で北門には、このアホも向かっていた。

 

(間に合え!!間に合え!!!)

 

正騎士ジャスティードである。因みに本来なら武器庫の警備だったが、北門が破られたのに勘づいて馬に跨って全力で向かっていた。なぜ向かっているかと言うと、北門の近くにはカルズ地区の住民が避難している避難所がある。つまりサフィーネを助けに向かっているのである。

 

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

非戦闘員の避難誘導を行っていた騎士が、オークキングの錆びた剣により斬られる。いや力任せに叩き潰される、と言った方が良いだろう。

 

「いやあああああああ!!!」

 

避難中の女性が悲鳴をあげ、走り始める。サフィーネ含むその一団は、絶望の淵にあった。戦いに出向いた岡達。しかし城壁が崩れ城門も破壊されている。おそらく作戦は失敗し、岡達は蹂躙されて突破されたのだろう。

オークキングたちがこの区画を襲い始めた時、避難誘導に従って逃げ始めたが目の前の騎士がオークキングにいきなり殺されてしまった。恐怖のあまり他の女たちと共にはチリジリになって逃げたが、目の前を走っていた女がゴブリンにこん棒で殴られ、気を取られていると目の前に魔物の群れが現れた。

殴られた女はぐったりとしている。一方でオークキングは、臭いよだれを垂らしてサフィーネを見る。

 

(確かオークキングの生態は.......)

 

考えたくもない。思い出したくもない!!サフィーネは手で両肩を抑え、迫りくる恐怖に身震いする。

 

「女、おんなぁ.......」

 

オークキングもゴブリンも、よだれを垂らして自分を見る。

 

「いやぁぁぁ!!!」

 

身の毛もよだつ気持ち悪さにサフィーネは耐え切れなくなり、悲鳴を上げて逃げ出す。すかさずゴブリンがこん棒を彼女に振り下ろす。鈍い音がして左手に激痛が走り、彼女は地面を転がる。

 

(か、囲まれた!!!)

 

もうこの先に待つ運命など、簡単に予測できる。快楽に溺れて何も考えられなくなる、なんて言うのは漫画の世界だけ。余程の淫乱痴女でもない限り、一生物の傷を心身共に追うのがオチである。

 

(恥辱を受けるくらいならば!)

 

彼女は自ら命を絶とうと決意する。

 

「残念ね、私はあなた方にあげるほど安くないの」

 

短剣で自分の喉を刺そうとしたその時だった。

 

「ぴびゃぁぁっ!!!」

 

彼女を殴り、いまにも飛びかかりそうだったゴブリンが悲鳴を上げる。

よく見ると魔物の肩には弓が突き刺さっている。

 

「彼女から離れろぉぉぉぉ!!汚物どもめぇぇぇ!!!!!!」

 

剣を抜いた騎士が馬に乗り、飛び込んで来た。彼は力任せにゴブリンを斬る。切られたゴブリンは血飛沫をあげながらのたうち回る。

魔物たちは、騎士に対して敵意をむき出しにした。

 

「じゃ、ジャスティードさん?」

 

「サフィーネ!!今すぐに逃げろ!!逃げるんだ!!!」

 

ゴブリンだけであれば、なんとかなるだろう。しかし敵はオークキングが含まれている。戦力比を考えても、騎士1人でなんとかなる戦力ではなかった。

戦力比がある事は、サフィーネでさえも解る事だった。

 

「で、でも.......」

 

ジャスティードにゴブリン数体が同時に切りかかり、数発を鎧に受けながらも彼はゴブリン2体を切り捨てた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。な、何をしている!!!早く!!早くこの場から立ち去れ!!ここは俺が食い止める!!!」

 

「おいおい。この数相手に1人で戦うのは、ウチの特殊部隊か最強の白亜衆でもないと無理だぜ?クソ騎士野郎」

 

ジャスティードの真後ろから巨大な刀が現れて、手近のオークキングを一刀両断にした。あり得ない光景に、ジャスティードもサフィーネも固まった。

 

「よう、クソ騎士野郎にサフィーネちゃん。助けに来たぜ?」

 

「おまえ、じゃまするか?」

 

「お前?何言ってんだ。俺一人な訳ないだろ?なあ、野郎共!!」

 

オークキングを両断した極光の後ろには、完全武装の皇国兵の姿があった。

 

「おうクソ騎士野郎。出会い頭に中隊長に剣を向けるわ、紋章を馬鹿にするわ、挙句戦場で謎理論振りかざしてくるような、いっそぶっ殺したくなる位クソな騎士野郎だが、我らがオアシスのサフィーネちゃんを守った事は評価してやる。

そしてお前達、魔物共。そこのクソ騎士は良しとして、我らがサフィーネちゃんをどうしようとしていた?恐らく、脳内で裸にしてレイプしてる映像でも思い浮かべたんだろ?よって貴様らは、サフィーネちゃん保護法違反の為、死刑だ」

 

次の瞬間、皇国兵達が引き金を引いた。弾丸が発射され、魔物達はすぐにボロ雑巾へと加工されていく。何せ極光には7.62mmバルカン砲とか、大太刀とか、榴弾機関銃とかを搭載できる。しかも中には火炎放射器を搭載している奴もあり、魔物のBBQが行われたりもした。

そんな中、オークキングの中でも一際デカい奴が他の魔物を盾&囮にしてサフィーネを襲おうとした。

 

「サフィーネちゃん!!!!」

 

「うそ.......」

 

 

 

 


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