第四十九話東京ディズニーランド
勅命休暇が出た翌日 神谷邸
「おはようございます旦那様。本日より一ヶ月の休暇とのことですが、如何なさいますか?」
「なぁ爺ちゃん。差し当たって、重要な問題がある。休暇って、何したら良いんだろ.......」
(あー、これは重症ですね.......)
まさかの回答に、流石の早稲も困惑である。大体常時ぶっ飛んでいて、幼少期より予想できない思考回路を持って予想できない事態を引き起こしてきた神谷だったが、ある意味今回が一番ぶっ飛んでいるかもしれない。
「そうですね。こんなのは如何ですか?」
だがやはり、そこは神谷に「爺ちゃん」と呼ばれているだけはある。懐から6枚の紙束を取り出した。
「こ、これは!!」
「これで一日、楽しんできてください」
「車回しとけ!!!!」
「仰せのままに」
その紙束の正体は何なのかというと、アレである。日本にあるテーマパークで、敷地に入れば最早ファンタジーの世界となるあのネズミがいる遊園地。ディズニーランドの入場券である。
「グッドモーニング!!!!」
そう言いながら、ヘルミーナの部屋のドアを蹴破らん勢いで開けた神谷。突然の訪問に「わひゃぁ!?!?」という、なんとも可愛い悲鳴をあげている。
「え!?か、神谷様!?」
「おはようミーナ。早速だが、遊びに行くぞ!!」
「は、はぁ.......」
朝寝てたところをいきなり起こされて頭が回っていないのに、話が飛びすぎていて理解が追いつかない。そんなヘルミーナを置いて神谷は部屋を出ていき、同様に他の四人にも同じように部屋に突入&大声挨拶で起こして回った。
そして身支度を急いで整えさせて、そのままリムジンに連れ込み、夢の国へと向かう。
「で、なんで朝っぱらに叩き起こしたのかしら?」
「有体に言うなら、まあデートなのか?取り敢えずまあ、絶対に楽しめる場所に連れて行ってやる。朝叩き起こされた疲労感も吹き飛ぶ、最高の場所さ」
五等分の花嫁達は正直顔が「なに言ってんだコイツ」という顔をしているが、神谷としてもそうとしか説明できない以上、気にしないようにしている。気にしてしまったら、メンタルがクラッシュ.......いや、しないな。うん。
08:45 東京ディズニーランド前ロータリー
「よっしゃ、着いた」
神谷が降りたのに続いて、五等分の花嫁達もリムジンから降りる。目の前に広がるのは、これまで見てきた日本の街並みとは一線を画す建物。日本の近未来的な建物でありながら、何処か此方の世界の国々にある宮殿のような建物もある。
「神谷殿、ここは一体.......」
「もしかして私達、社交会にでも出るの?」
「違う。ここはな、言うならば魔法が使えないはずの旧世界に於いて唯一魔法にかかれてしまう、夢が叶う場所。東京ディズニーランドだ!!」
尚、「千葉県の浦安市にあるだろ!」というツッコミはしないで頂きたい。変な事書くと、私がこの国のネズミに消されかねない。
因みに今回のディズニーランドデート、結構役立つ裏技や小技も書いていくので、是非今後行く事があれば参考にして頂きたい。では、本編に戻ろう。
「「「「「とうきょうでぃずにーりぞーと?」」」」」
急にヒアリングが幼くなっているが、どうか許してほしい。中世ヨーロッパには『テーマパーク』という施設の概念は存在すらしていない以上、この反応は必然と言えるだろう。
「まあ取り敢えず、入ってみよう。入ってみたら、全てがわかる」
まずは半信半疑の五人を引き連れて保安検査場に並び、程なくして開演時間の09:00となったので中へと入場する。
六人の目に飛び込んできたのは、まるで神殿か何かの入り口のような巨大な建造物。ディズニーランドの顔、ワールドバザールである。
「何ですかこれ!?!?」
「ミーシャ、そんな興奮してはダメよ!!!!」
「そういうミーナ姉様も興奮してますよ!!」
大興奮のミーシャとヘルミーナ、それから驚きでフリーズしている他の三人を尻目に解説を始める。
「これはワールドバザール。簡単に言うと、お土産屋とレストランが入った商店街みたいな物だ。ここでしか買えない限定品とかもある。だが、まだここには寄らない。まずディズニーに来てする事は…」
「「す、する事は?」」
「コインロッカーの確保だ!!!!」
やはり一歩入ってしまうと、とにかく早くアトラクションに乗りたくなるものである。だが、それは愚者の行動と言えるだろう。まずすべきは、コインロッカーの確保である。コインロッカーは入場門から見て、右前と左前にある。やはり友達や同僚にお土産を買うと思うのだが、大量のお土産を引っ提げて移動は面倒であろう。そんな時にコインロッカーを確保しておけば、いろいろ楽である。上着をしまっておいたりもできるし。
因みに「お土産は後から買うし、後半でいいや!」というのは、マジで後から痛い目を見るのでやめよう。他のゲストも大体同じような事を考えているので、いざ確保しようと思ったら全部埋まってたり、小さいのしか無かったりするのだ。
「コインロッカー、ですか?」
「おう。それから、今のうちにトイレも行っておいた方がいいぞ」
六人はトイレに行ったりロッカーを確保して、また再集結した。そしていよいよ、本格的に中へと入っていく。
「うわぁ.......」
「すごい.......」
「天井が一面ガラス張りだ.......」
「あ、これ可愛い!」
「これも可愛いわね.......」
因みにここでまた裏技なのだが、ワールドバザールにある時計は集合時の目印になるので、もし逸れてしまった時なんかは活用しよう。私も修学旅行時に友人と合流する目印として使ったが、意外と分かりやすいのでオススメである。
「お土産は荷物になるから、後から買うぞ。まずはそうだな、カリブの海賊でも行くか!」
最初に乗るのは、ジャック・スパロウのいるカリブの海賊。私も大好きなアトラクションである。
『やい、テメェ達。今更コースを変えようたって、間に合わねぇぜ?この先の入江にゃ、おっそろしい海賊達が手ぐすね引いて待ってるぞ。皆一塊になって、汚ねぇ手を船から出すな…』
お決まりのガイコツが世界観を壊さないよう、注意をしている。だが右ではヘルミーナが神谷の腕をガッチリ掴み、左はミーシャがガッツリ掴んでいる。ぶっちゃけると、両腕が二人の胸の間に挟まれて天国である。
「がががが、骸骨が喋った!!」
「作り物だ。大丈夫、大丈夫」
そう言っていると最初の洗礼、真っ暗な中急に落ちるヤツが来る。
「きゃあ!?!?」
「冷たっ!!」
神谷、被弾。しかも顔面に掛かった。他は落ちたのが怖すぎて悲鳴を上げたが、神谷は冷たさで悲鳴をあげる。程なくして、早速白骨化した海賊達が見えてくる。酒を飲んだり、宝の山にいたり、様々である。その一つ一つに五人とも驚いて、ガチガチ震えている。
(これ、ホーンテッド大丈夫か?)
カリブの海賊は骨が出てくるだけで、ホラー系では無い。ディズニーのホラーと言ったら、やはりホーンテッドマンションであろう。カリブの海賊でこれだと、ホーンテッドマンションは微妙である。
「恐ろしいです怖いです.......」
「大丈夫大丈夫。ほら、もう抜けるぞ。ここからは骸骨は出てこない」
そう言って、ミーシャの顔を上げさせる。丁度ボートは、謎のイカ人間を越えて海戦の真っ只中に入る。
ボン!ボン!
「今度は何ですか!?」
「このアトラクションは、海賊達の体験だ。だから、今は戦闘中な訳よ」
着弾の演出で、オレンジの光が灯り水が噴き出る。BGMも『彼こそが海賊』が流れていて、壮大であった。
それを抜けると、海賊達が水責めの拷問をしてる所や酒を飲んで大騒ぎしてる所、女性を追いかけ回す所(ただし、約1名逆襲で追いかけ回されている)を通っていく。
「これ、歌ですか?」
「あぁ。どうせなら歌ってやろう。Yo ho, yo ho, a pirate's life for me.」
(訳:ヨーホーヨーホー、海賊暮らしは俺にぴったりさ)
「We pillage plunder, we rifle and loot. Drink up me 'earties, yo ho.」
(訳:俺達は略奪、強盗、全部巻き上げる。酒を飲み干せ)
「We kidnap and ravage and don't give a hoot. Drink up me 'earties, yo ho.」
(訳:誘拐、破壊、おかまいなしさ!酒を飲み干せ)
しっかり英語の原文で、本当の海賊が歌うかのように荒々しく着々音程をわざと外して歌う。まさか歌える奴が同じボートにいるとは思ってなかったのか、後ろに座るゲスト達からも歓声が上がる。
「どうせならみんなで歌おうぜ!歌えなくても、それっぽく歌えば楽しいぞ!!」
ディズニーで時たま起こる、謎の現象。ゲストのキャスト化である。時にゲストは他のゲストを楽しませたりする、この謎の現象。だがまさか、こんな楽しませ方をする奴は居なかっただろう。
神谷に釣られ出し、他のゲスト達も歌い出す。その声はやがて大きくなり、後ろと前にいるボートのゲストにも伝播していき、すぐにYo Hoの大合唱へと発展していった。ゲスト達が初めて、カリブの海賊の仲間入りを果たした瞬間と言えるだろう。
「次はビッグサンダーマウンテン行くぞー!」
「な、なんだその魔法のような名前の物は.......」
「行けばわかる!」
アドベンチャーランドを後にし、ウェスタンランドへと向かう。一応この間にウエスタンリバー鉄道に乗っているが、特にこれと言った事はないので省略する。
「それにしても広いですね、ここ」
「そりゃ国内でもトップクラスの遊園地だ。規模もデカい」
そう言いながら歩いていると、神谷はやにわに足を止めた。目の前には謎のワゴンがあり、そこに並ぶ。
「ほい、お前ら。ミッキー仕様のアイスキャンディだ」
人数分のアイスキャンディを買って、差し出した。早速食べたのだが、五人ともお気に召したらしい。夢中で食べてる。
「何故かディズニーのアイスキャンディって美味いんだよなぁ」
そのままビッグサンダーマウンテンの列に並び、程なくして乗り込む。因みに今度隣に座ったのは、ミーシャである。
「神谷様。これって、一体どんな物なんですか?」
「まあそうだな。舌、噛まないようにしとけ。おっ、動き出すぞ」
ビッグサンダーマウンテンは知っての通り、汽車型のジェットコースターである。勿論他の遊園地にあるジェットコースターの方が圧倒的に速いし、動きも激しい。怖さでいうと、実はあまり大した事はない。ところがこの五人、どうやら絶叫もダメらしい。
「えっと、これは今から何が?」
「さぁ、いってみようか」
「え?」
登りきり、ガタンという音が鳴った次の瞬間、コースターは急降下を始める。
「キャーーーーーーーー!?!?!?!?」
「イィィィヤッホォォォォォォォ!!!!!!」
神谷は超楽しいそうな悲鳴を上げるのに対し、隣のミーシャはガチ物の悲鳴を上げている。
「楽しいんだけどパンチたんねぇぞ!!!!もっとデカいの来いや!!!!」
「止めて.......許して.......」
もう後半は何か、死に掛けの人間がトドメを刺すように懇願してるかのような感じの声で「止めて」と呟き続けていた。神谷含め、この事に降りた後に気付き神谷は「しまったー、チョイス不味ったな」と呟いていたとか。
「そろそろお腹空きましたね」
「そういう事なら、俺オススメの店に行こう」
場所は移動して、トゥモローランド。ここのパン・ギャラクティック・ピザ・ポートのピザとカルツォーネを購入する。因みに五等分の花嫁は、リトルグリーンまん9も頼んだ。
「ここのピザ、マジで美味いんだよ」
「.......確かに美味しいですね」
「私はこっちの中に入ってるヤツ好きー」
どうやら大好評のようだ。神谷が「昔はクリームソースのカルツォーネもあったんだよなぁ」とか言うと、食いしん坊のヘルミーナがガチで羨ましがり、カルツォーネを気に入っていたレイチェルも「食べてみたかった」と残念そうにしていたので、どれほどお気に召したかがわかるだろう。
「さて、じゃあ次のアトラクションに行くか」
「次は何に乗るの?」
「多分この中だと、レイチェルが一番喜ぶアトラクション」
そう言って入ったのはパン・ギャラクティック・ピザ・ポートの斜め前にあるアトラクション、スターツアーズである。
最初はどんなアトラクションかわからなかったらしいが、進んでいくに連れて聞いた事のあるBGMや見たことあるドロイドに感づいたようだ。
「ねぇ、これってもしかしてスターウォーズ?」
「そうだよ。このアトラクションは、スターウォーズのアトラクションだ」
そう言うと、一気に目の色が変わった。何を隠そう、レイチェルが初めて見たハリウッド映画はスターウォーズなのである。それ以来クローンウォーズにハマり、解説動画を見漁り、バトルフロントIIなんかのゲームもプレイしていて、完全にスターウォーズの沼に取り込まれたのだ。そんな彼女がこのアトラクションに来て、興奮しない訳がない。
「あ!アクバー提督もいる!!」
「え?あ、ホントだ。初めて気づいた」
何度も乗ってる筈の神谷も気付いてなかったアクバー提督に気付いたり、ドロイド達に話しかけてみたり、多分一番楽しんでいるレイチェル。そしていよいよ、アトラクションの本番である宇宙船に乗り込んでスターウォーズの銀河系への旅に出る。
「ストームトルーパーいるよ!」
「今回は帝国編か」
実はスターツアーズは幾つかパターンがあり、今回最初に引いたのは帝国編らしい。一応ストーリーは反乱軍のスパイが乗り込んでるらしく、その追跡から逃げるというものらしい。
「TIEファイター!インターセプターもいる!」
「結構手が込んでるんだよなぁ」
TIEファイターに追いかけられていると、逃げる為にハイパースペースへと突入する宇宙船。ハイパースペースから出るとそこは、エピソード1でアナキンが出場していたレースであった。
「タトゥイーンだ!!タスケン・レイダーいるかな!?!?」
「探せばいるかもな!」
レース会場を突っ切ってまたハイパースペースへと突入する。今度は銀河共和国の首都があるコルサントの上空に飛び出し、共和国宇宙軍のヴェネター級と分離主義勢力との砲撃戦の真っ只中を通過し、コルサントへと降下。空飛ぶ車が走る道を逆走したり横切ったりして、謎の着陸場に着陸。
『ありがとう。君たちのおかげでスパイの情報は無事に届けられた。これで君達も今日から反乱軍の一員だ!』
「ねぇ、時代設定おかしくない?」
「言うな」
レイチェルの冷静なツッコミに、神谷も同意見ではあるがそれは言わないお約束である。因みにスターウォーズ未履修の読者諸氏は何が何だか分からないと思うので、簡単に解説しよう。
スターウォーズの映画はエピソード1〜9まである。(他にもボバ・フェットみたいな外伝なんかもあるが)その内、反乱軍が出てくるのはエピソード4〜6までの間で、ダース・ベイダーやルーク・スカイウォーカー、ハン・ソロにレイア姫が出てくる話に出てくる組織である。
一方で先程書いていた『アナキン』や『共和国』というのは、エピソード1〜3に出てくる。詳しくはネタバレになるので語らないが、共和国がパルパティーンというベイダーの上司によって帝政へと変わり、その支配に反抗しているのが反乱軍である。なので共和国時代に反乱軍は存在せず、時代背景がおかしいのだ。
まあ共和国時代にもその統治に反対する勢力として、分離主義勢力というのが居て、主人公サイドはこことドンパチしてるのだが。(ドゥークー伯爵とかグリーヴァス将軍が所属しているのが分離主義勢力である)
「楽しかったー!」
「因みにこれ以外にもパターンあるぞ。ベイダー卿にフォースで捕まったり、ホスの攻勢に参加したり、アクバー提督の艦に着艦したりとかな」
「なにそれめっちゃあるじゃん!」
スターウォーズファンにしか分からないだろうが、ファンとしてはどれも行ってみたい場所である。因みに私は2回このアトラクションに乗ったのだが、2回とも同じルートを引き当てた。そのルートが今回、神谷達の乗った宇宙船が検査用ドロイドに捕まって、タトゥイーン行って、コルサントに着陸するルートである。
「次は何乗ろうかな〜」
「神谷殿、一つ気になるのがあるのだが.......」
「お!なんだ?」
「このホーンテッドマンション、というのに乗ってみたい」
さっきカリブの海賊でギャーギャー騒いでたが、今回はアナスタシアの発案なのでこっちに類は及ばない。というか神谷自身、乗りたいのでその案を採用して反対方向まで歩いてファンタジーランドに向かう。
「ここか?」
「ここだ。さっ、みんな行くぞー」
並ぶ時から既に『ザ・ホラー』な飾り付けや置物があり、ヘルミーナとミーシャは恐怖モードである。そしてエリスもその1人であった。まあ顔には出してないつもりらしいが、足はガックガクだし声も上ずっている。
そしてそれに気付いた神谷。こんな可愛い姿を見せられては、いじめたくもなる。そんな訳で都市伝説の幽霊話をしてみる。
「なぁお前ら、知ってるか?このアトラクション、まあ見ての通りホラー系なんだが、実は本物の幽霊が出るって噂があるんだ.......」
「かかか神谷様!?ここはアトラクション、つまり偽物ですよ!?!?」
「そ、そうですよ!見間違いですきっと!!」
「フン!そもそも幽霊なんて居ないわよ!!」
ミーシャとヘルミーナは見るからに怖がり、エリスは一応強がっている。だがそれで終わる訳ない。
「ここのアトラクション、途中で無限回廊と呼ばれる区間がある。その区間には時折、ピノキオっていうディズニーのキャラのぬいぐるみを持った男の子や手招きをする女の子が立っているらしい。そしてパーティー会場の区間もあるんだが、そこに何故か日本人らしいおかっぱの女の子がいるらしいんだ。
見ての通り西洋系で統一されてるのに、明らかにおかしいだろ?キャストさん達もそんな仕掛けは無いといってるし、俺も何度も乗ってるが見たことはない。だが俺の知り合いにも見た奴はいるし、それ以前に目撃情報は数多く存在する。というかそもそも、お化け屋敷は元来幽霊が集まりやすいっていうし」
ミーシャとヘルミーナは完全に震えている。エリスも見るからに顔が真っ青になっていて、さっきの強がりは何処かへ撤収したらしい。
「あー、神谷さん?この空気どうすんの?」
「.......ごめんちゃい」
「だが襲われれば、撃退すればいいのだろう?」
うんアーシャ。そういう脳筋発想のアトラクションではないぞ。というツッコミはさておき、いよいよ順番となり列が進む。まずは部屋が下がってんだか、絵が動いてんのか分からない部屋に通されて謎の絵を見せられる。
「不気味ね.......」
「絵がキモいです」
「こういう時の対処法はな、現実に置き換えることだ。例えばアレ。ワニに食われそうになっているが、あんなのしてたらすぐに警官のお世話になるだろ?そんな事考えてたりしてると、案外楽しいぞ」
こういうノリは意外と友達と行った時に起こるが、不思議と怖くなくなるのは何故だろうか?
そうこうしていると、扉が開きあの動く椅子へと座る。今回はアナスタシアとレイチェルでエリスを挟み、その後ろにヘルミーナとミーシャで挟んで神谷が座っている。
「本物に会わないといいわね.......」
「何かあれば神谷様が倒してくれますよ!」
「あー、俺武装してないんだけど。ってかそもそも、幽霊に物理攻撃って通用するのか?」
頼みの綱である神谷も全く機能しない事が発覚し、一気に悲壮感漂う2人。まるで死地に赴くような雰囲気であるが、これはあくまでホーンテッドマンションという子供でも楽しめるタイプのお化け屋敷で起きている事である。逆にここまで悲壮感と絶望を顔に出せるのは、もう天才である。
因みにガチ物の幽霊が出てしまったら、ターンアンデッドとかの魔法で消滅させれば良いだけである。法律には『魔法を無闇矢鱈に使うな』とも書かれてないし、まして『幽霊を攻撃するな』というのは存在しない。幽霊である以上、殺すという表現は適切じゃないかもしれないが向かってくれば殺すのみだ。
「幽霊いませんか?」
「早々いるもんか」
「大丈夫ですよね?」
「大丈夫だから、顔上げろ」
そう言って2人の顔を上げさせるが、タイミング悪い事にセットの幽霊の真正面で上げてしまった。
「「キャーーー!!」」
「いや唯の人形だって」
「嘘つき!」
「居ないって言ったじゃないですか!!」
「いや、そりゃあ、ここお化け屋敷だし。セットとか仕掛けとして、作り物の幽霊はいるに決まってるじゃん」
結構理不尽である。だがホーンテッドマンションは子供も楽しめるタイプのお化け屋敷なので、他のお化け屋敷に比べると余り怖くはない。少し可愛い要素もあるので、大人になると普通に楽しめるくらいの余裕はできるし、友達と行くと幽霊を煽ったりする奴もいる。神谷もその例に漏れず、殆ど「あー、これどんな仕掛けだ?」とか何とか考えていた。
この瞬間までは.......
「そろそろ終わりだな。おーい、お前らそろそろ終わるぞ」
そう2人に声を掛けて、最後の鏡のある辺りの手前で顔を上げさせる。不意に神谷が顔を上げると、あり得ない人間がそこに存在した。かつての旧大日本帝国海軍の第一種軍装を着た二振りの太刀を帯刀した士官が立っていたのである。時代的にも世界観的にも合わない以上、多分これ幽霊である。
(あっるぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?なんで!?どうして!?え????いやいやいやいやいやいやいや!!!可笑しいだろ!!!!何で欧州の洋館に旧海軍の軍服を着た軍人がいるんだよ!!!!!!時代も世界観も違うだろうが!!!!!)
神谷長官、完全にパニックである。しかも心なしか、椅子の動きもスローモーションになっている気がする。そしてよくよく見てみると、どこかで会った気がする。そんな事を思っていると、その幽霊が不意に二振りの太刀を鞘付きのままコチラに投げてきた。まるで刀を託すかのように。だが刀は幽霊の手を離れると、砕けるようにして消える。
「え?」
幽霊は敬礼すると、どこか誇らしげに神谷を見つめていた。優しそうな瞳で、だが強い意志が同居する軍人の目。幽霊は天井に吸い込まれるようにして消えていった。
「神谷様?」
「お、おぉ。どうした?」
「何か居たんですか?」
ヘルミーナが心配そうに神谷の顔を覗き込む。どうやら本物の幽霊が見えたのは、恐らく神谷だけらしい。流石に本当の事を言う訳にもいかないので、適当に誤魔化してホーンテッドマンションを後にした。
「さて、じゃあ次は何乗る?」
「あ、私乗りたいのあります!このスプラッシュマウンテン、気になります!!」
「お!じゃあ行くか!!」
ヘルミーナのリクエストでまたも絶叫系に行く。一応今回は事前にミーシャに言ったが「さっきのに比べればマシだと思うので、多分大丈夫です!」と返してきた。まあ後に落ちていくのを見て、顔色は悪くなっていたが。
なんだかんだで順番が来て、今度はエリスが隣に来た。
「ふん!隣なのは癪だけど、今回くらいは我慢してあげるわ!」
「そりゃどうも」
ボートは動き出し、アトラクションがスタートする。のっけからいきなり落ちるので、エリスは驚き神谷は濡れる。
「カリブでも濡れて、ここでも濡れるのかよ」
「いきなり落ちるとか聞いてないわよ」
「ならさっさと言っておこう。この後、もう一回落ちるぞ」
「へ?」
そう言った瞬間、また少し落ちた。もちろん水が舞い上がり、神谷は濡れる。
「これ作った奴、馬鹿なんじゃないの!?」
「まあまあ。意外と楽しいから」
そう言いながらエリスを宥めつつ、ボートはさらに進む。結構細かいギミックでトンネルというか洞窟の中を楽しみながら進み、いよいよ最後の落下へと差し掛かった。
「ねぇ、これがさっきのかしら?」
「あぁ」
前のボートが順番に落ちていく。その度に絶叫が響き、エリスはどんどん心細くなっていくのが自分でもわかった。
「ディズニーのあるあるなんだが、大体こういう待ち時間で覚悟決めるんだよなぁ。で、中々落ちそうで落ちないんだ」
「.......アンタ、平然としてるわね」
「そりゃ何度も乗ってるし。それに、ぶっちゃけ他の遊園地の絶叫系とか、他の怖いものをたくさん知ってるからな。この程度、まだまだだ」
そんな事を言っている間に、前のボートが落ちた。どうやら、次がこのボートの番らしい。
「さぁエリス。叫べ。来るゾォ!!」
ボートは一気に落ちる。今までの落下とは格の違う、一気に降っていく感覚にエリスは叫んだ。
「キャーーーーーーーー!!!!!!」
「水くるぞー!!!!」
バッシャーーーーーーン!!!!!!
巨大な水飛沫を上げながらボートが突入し、水が四方八方から襲いかかる。
「べぇっくしょい!!待って待って鼻に水入った!」
「アンタ酷い顔よ」
「仕方、ヘクション。ないだろ!べぇっくしょい!!」
何気に初めてエリスが神谷に対して笑い掛けた。まあ当の神谷は、鼻に水が入った事でそれどころではなく、鼻がツーンとするし服は濡れるしでダメージがすごかったが。
「あ!これ、私達の写真じゃない?」
「そういやここ、落ちる瞬間の写真が撮られるんだよな。別料金で購入可だ」
レイチェルが写真を見つけ出し、みんなでそれをみる。神谷とレイチェルは楽しそうな顔で、エリスとアナスタシアはビックリし、ヘルミーナとミーシャは互いに抱き付いている。
「よし、買うか。すみませーん」
係のキャストに声をかけて写真を購入し、その写真は後に各々の自室に飾られた。
「さーて、そろそろ晩飯行くか」
スプラッシュマウンテン以降、白船とかイッツ・ア・スモールワールド、ミートミッキー、スペースマウンテン等々。粗方のアトラクションには乗った。スモークターキー、ポップコーン、チュロス、アイスなんかも食べた。だが時間も時間なので、そろそろ晩御飯としたい。そこで神谷は、最高のレストランを準備していた。
「ここは?」
「クラブ33。会員制の文字通り選ばれた者しか入れない店だ」
伝説のレストラン、クラブ33。このレストランはディズニーランド内で唯一、酒類の提供されている店であり、会員になっていないと入れない店でもある。
この会員になる方法も結構複雑で、まあまず一般庶民がなれることはないと言って良いだろう。かつてはブラックカード会員の者が抽選で会員を取れていた事もあるが、現在は無くなっている。つまり最低でもブラックカード所持レベルじゃないと入れないのだ。
「ちょっと待ってろよ」
そう言うと神谷は右にある『33』と書かれた金色のパネルを押して、パカリと開いた。そこには小型のインターホンがあり、何の迷いもなく押す。
『いらっしゃいませ。ご予約名をお聞かせ願いますか?』
「予約していた神谷浩三だ」
そう言うと入り口の鍵が開けられ、ドアが開く。中にはドアを開けた2人の店員と、案内役の店員が居た。
「お待ちしておりました神谷様。受け付けを行いますので、こちらへどうぞ」
「あぁ」
目の前で繰り広げられる、明らかに社会的地位が高い会話。いくら慣れてきたとは言え、頭が追いつかない。フリーズしてしまう5人だったが、そこはプロの店員達。すぐにそれを察知し、フォローに入る。
「お連れ様もご一緒にどうぞ」
「ようこそ、クラブ33へ。素敵なお時間となるサポートは、私共にお任せください」
「おーい、行くぞー」
受け付けを済ませると二階へと通され、そこでフランス料理のフルコースを楽しんだ。私自身、フランス料理のフルコースを食べたことが無い上に調べても料理の種類が凄すぎて、ついでに味の想像も付かないので描写は見送らせてもらう。というかそもそも、当然だがクラブ33にも行ったことない。
なので料理描写の代わりに、私のオススメ店をお教えしようと思う。ズバリ晩御飯でオススメなのは『ハングリーベア』というカレー屋である。少人数で行って、いろいろ園内で食べた場合はこの位が丁度いい。しかも回転が速い。大人数の場合はレストラン北斎なんかもオススメである。
「あー、うまかった」
「お城、綺麗でしたね」
「まだパレードまで時間あるし、城の前で写真撮るか?時間的にも夕日とお城のセットは良いだろ?」
その返事は大喜びの五人の笑顔であった。オムニバスなんかの通る道に陣取り、写真を撮る。まずは五等分の花嫁だけの写真を二パターン。五人が横一列に並んでるヤツと、真ん中に固まってるヤツを。そして次に神谷と各々のツーショット。
結構個性的でヘルミーナとエリスの場合は普通にピース、ミーシャは神谷の腕に絡みついた物、アナスタシアとは背中合わせで、レイチェルは神谷がしゃがみレイチェルは立った状態で謎のポーズである。
そして最後に六人で写真を撮った。この写真も後に各々の部屋に飾られて、神谷だけ自室ではなく統合参謀本部の執務室に飾った。
「じゃあ写真も撮ったし、今のうちにお土産買うぞ」
今度はワールドバザールをあちこち回って、色んなお土産を買い漁る。取り敢えず神谷は家の使用人達様と軍での側近達様にお菓子系を購入し、配達してもらう事にする。一方の五等分の花嫁達はぬいぐるみやアクセサリー系を見ていた。
そんな時、レイチェルが面白い物を見つけた。
「ねぇねぇ!みんなでこれやろうよ!」
そう言って連れてきたのは、トゥモローランド側にあるアトラクション。どうやら神谷もずっとやりたかった物が、ここにもできたらしい。
「こ、これザヴィのワークショップじゃねーか!!!!」
「こういうのあるなら先に言ってよね」
「いやこれ、元々無かったんだ。このアトラクションは海外のディズニーにしか無くてな、俺もずっとやりたかったんだ。まさか東京でできるとは.......」
どうやらこっちに転移してきた結果、海外にしか無かったアトラクションで人気なものは幾つかこっちでも建設する予定らしい。その内の一つがまさかの、ザヴィのワークショップだったのだ。このアトラクションが何かというと、スターウォーズに出てくるライトセイバーを作れるという物だ。しかも自らの手で。
「やるか!!というかやろう!!!!俺ずっとこれやりたかったんだよ!」
今日一番ノリノリの神谷を前に、他の五人も乗り気でやる事になった。一人二万は安くないが、ロマンを買えると思うなら安い安い。
「ダークサイドが力を増してきている。ジェダイの新しい希望はレイだ。そして君達もまた、新たな希望なのだ。さぁ、儀式を始めよう」
ライトセーバーがスターウォーズの武器なのは知っての通りなのだが、あれは全て使用者が自分で作るのだ。詳しい解説は省くが、エネルギーを『カイバークリスタル』というのに通して光の剣として具現化している。
この『カイバークリスタル』の色で、セイバーの色も変化する。この色は使用者の素質にあった色に変わる。例えば青ならライトセイバー戦闘を重視する平和の守護者、緑ならフォースとの繋がりを重視する者、紫なら光と闇の中間、赤ならダークサイドに落ちた者、白はダークサイドを浄化した者といった感じである。
「ギャザリングか」
「なんかジェダイイニシエイトになったみたい」
「では色をお選びください」
そう言ってキャストがカイバークリスタルを差し出してきた。どうやらその中から好きなのを選べるらしい。選んだ色は神谷とレイチェルが青、ヘルミーナは白、アナスタシアは紫、ミーシャは緑、エリスは赤である。
因みにギャザリングとは作中でのジェダイの試練の一つで、自らの手でカイバークリスタルを見つけてライトセイバーを作る事で儀式の一つである。ジェダイイニシエイトとはジェダイのランクで、いうなら候補生である。パダワンが弟子で、ナイトは一人前。マスターはジェダイの統括者で、グランドマスターはジェダイのトップである。
「アクティベート!」
ジェダイマスターからの指示で、参加者は一斉にライトセイバーの電源を入れて掲げる。その様子は圧巻の一言である。
保護ケースを貰って体験は終了し、丁度タイミングよくエレクトリカルパレードの時間にもなっていた。すぐに場所を確保し、パレードを見る。あの音楽と光と共にディズニーのキャラ達がやって来て、六人とも大興奮である。
だが20分ある筈のパレードは体感5分で終了し、そのまま花火も見て、本日のディズニーは終わったのであった。
「あーらら、みんな寝てるよ」
「旦那様、どうでした?ディズニー」
「めっちゃ楽しいぞ。それも、こんな美女五人と回れるとか神だよ神」
運転手と雑談しながら、神谷邸を目指す。だが脳内ではホーンテッドマンションであった幽霊のことを考えていた。
(にしてもあの幽霊、マジでどこで見たっけなぁ?というか、なんで刀を投げてきたんだ。それも渡すかのように.......)
結局結論は出ないまま、神谷も就寝した。だがその夜、夢を見た。かつて神谷家の本邸があった場所に立っており、目の前にはあの幽霊がいた。
「おいアンタ!お前は一体、誰なんだ?」
「……………」
何かを喋っているが、何を言ってるかはわからない。だが幽霊は敷地内にある蔵を指差すと、また消えた。
「何だってんだ、一体」