フォーク海峡海戦発生より数時間後、グラ・バルカス帝国の作戦は次の段階に進んだ。漂流者救助の任務を終えた駆逐艦は『グレードアトラスター』と共に本国への帰途に着いたが、それと入れ替わるように輸送船団とヘルクレス級戦艦『コルネフォロス』がやって来た。この艦隊の任務は「なるべくカルトアルパスを滅茶苦茶にする事」である。
そしてこの頃には近くの基地から、防衛を命じられた部隊が沿岸部に陣地を築き上げていた。
「戦闘用意!!」
沿岸部にはカルトアルパス守備隊がアクタイオン型対空魔光砲や150mm魔導砲を並べ、防御態勢を整えている。
因みにアクタイオン型対空魔光砲は、スペイン海軍がCIWSとして採用しているメロカのように横8列×縦3段の計24門を束ねた物で、制圧力は結構高い。だがしかし、全門一斉発射なんてしよう物なら反動で銃身はブレるわ、そもそも土台が持たず後退しだすという欠点があるので、数門をバースト射撃で撃ちつつ数秒ごとに変更していくスタイルが採用されている。
「敵機来襲!!」
「アクタイオン、自動呪文詠唱完了!魔力充填70%、80%、90%、100%、連射モード切替完了!!属性比率、爆14、風65、炎21、対空魔光砲発射準備完了!!」
「撃てッ!!」
アクタイオン型対空魔光砲から放たれるレーザーの様な弾幕がシリウス型爆撃機とリゲル型攻撃機の編隊に襲い掛かる。一応連射力に物を言わせて、ある程度一定の効果を上げてはいる
「いいぞ!いいぞ!」
だが多勢に無勢とはこの事で、10門程度では100機にも迫る爆撃隊を完全に防ぐ事はできず、シリウスが急降下爆撃に入った。甲高い風切り音が鳴り響き、爆弾を投下する。
「ま、まずい!にげ」
次の言葉を言う前に爆炎が辺りを包み、魔石にも引火して大爆発を起こした。それも後方にいた魔導砲部隊も巻き込んで。周囲にカラフルな爆炎を撒き散らしながら、部隊は壊滅。シリウスは悠々と飛び去る。
『クソッ、砲兵隊が吹っ飛ばされた!』
「お前達、仇を取るぞ。続け!!!!」
『『『『『了解!!』』』』』
カルトアルパス近郊の空軍基地から飛び立った航空隊は、ようやくカルトアルパス上空に差し掛かった。カルトアルパス空軍基地は既に滑走路が潰され、残っていた機体も機銃掃射で蜂の巣にされてるか、爆弾によってキャンプファイアーになってしまい、基地としての機能を喪失している。
この事を受け、各近郊基地は旧式機だろうがマルチロール機だろうが、とにかく全部上げる方針を取り、今ようやくカルトアルパスに到着したのだ。その為編成が
・エルペシオ3(最新鋭制空戦闘機)21機
・エルペシオ2(一世代前の制空戦闘機)84機
・エルペシオ(老兵制空戦闘機)3機
・ジグラント3(マルチロール戦闘機)84機
・ジグラント2(旧式マルチロール戦闘機)84機
・ジグラント(骨董品マルチロール戦闘機)6機
合計 282機
という、中々にバラエティに富んだというか、戦闘機博覧会並みの編成なのである。因みに一個航空戦闘団=42機である。
だがまあ、幾ら数を揃えようとベネットではないが「ただのカカシですな」としかならない。これに加えてフォーク海峡海戦をどうにか生き残って、雲の中に隠れていた風竜騎士団8騎も参戦し、一応の体裁は整った。
では一方のグラ・バルカス帝国軍はというと
・アンタレス型戦闘機(零戦52型)60機
・シリウス型戦闘機(彗星)90機
・リゲル型雷撃機(九七式艦攻)40機
合計 190機
しかも前述の通りヘルクレス級戦艦、つまり長門型戦艦と上陸部隊までいるので、中々に厳しい戦いとなる。だがしかし上陸部隊を乗せたボート群は、深刻なダメージを受けながらも未だその闘志に揺らぎ無き猛者達が相手取る。
「砲撃用意!!主砲はいいから、副砲と補助砲で吹き飛ばせ!あんなボート、至近弾でも脅威になる筈だ!!」
ムー海軍の象徴、戦艦『ラ・カサミ』である。確かに魚雷が命中して機関が暴走し、最後には座礁して今は身動きは取れない。だが座礁した事で、取り敢えず浸水被害も無視できる。主砲は動かせないが、まだ両舷の副砲と補助砲は撃てる砲もある。
今や浮砲台となったが、せめて奴らに一矢報いるべく、艦長ミニラル以下、生き残った乗員達は『ラ・カサミ』を動かし始めた。
「照準、準備よーし!」
「装填よし!」
『まだだ!本艦を
分隊長がメガホン片手に甲板を歩き回り、まだ撃たないように周知徹底させる。間も無くして上空では航空隊がいよいよ戦闘が始まった。だがしかし、アンタレスに堕とされていくだけなので割愛させていただく。
空での戦いが始まった数分後、上陸用舟艇が黒い群れとなって迫ってきた。だがまだ、砲撃は指示しない。舟艇が『ラ・カサミ』を通り過ぎて、丁度『ラ・カサミ』が舟艇群の真ん中になった時だった。
「砲撃開始ぃ!!!!」
「それいけぇ!」
ドォン!ドォン!ドォン!
砲撃が始まった。大半が至近弾だったが、読み通り転覆させる事に成功した。中には直撃した舟艇もおり、この不運な舟艇は派手に吹き飛び、爆炎を高々に上げている。
「装填急げ!!」
『各砲、自由射撃!!任意の目標を撃て!!!!』
分隊長と水兵が走り回って命令を伝達し、砲撃を続ける。その甲斐あって上陸部隊は回避運動を取り始めており、進軍速度の低下に貢献したのだ。だが、これを黙って見ている程、グラ・バルカス帝国も甘くない。近海に到達したヘルクレス級戦艦『コルネフォロス』が砲撃を開始したのだ。
「!?海峡出口の戦艦の主砲、こちらを指向しています!!!!」
「なに!?」
「敵艦発砲!!!!」
「衝撃に備えぇ!!!!!!!」
ミニラルが叫んだ直後、周辺に巨大な水柱が上がった。明らかに自艦の主砲である、40口径30.5cm砲の威力をはるかに上回っている。
「主砲、応射いけるか!?」
ミニラルの問いに、ダメコンの責任者である専任軍曹は首を横に振った。
「撃てるには撃てます。ですが今撃ちゃ、最悪破口が広がったり、新たに出来ちまったりして、下手すりゃ沈没ですぜ」
「撃てるには撃てるんだな?なら撃つ!!」
「たっはぁー、この艦長、見た目の割にやる事なす事、全部過激なんだから。二斉射、何が何でも持たせますから決めてくださいよ」
「わかった!」
41cm砲弾が降り注ぐ中、急いで攻撃準備に移る。砲塔を回し、砲弾と装薬を込め、砲身を上げて、照準器に『コルネフォロス』を捉える。
「砲撃よーい!!」
だが次の瞬間、後部主砲近くに41cm砲弾が直撃。火薬庫付近で火災が発生した。
「クソッ!!野郎共行くぞ!!!!」
すぐに先任軍曹が部下を引き連れて現場へと走り、ミニラルは冷静に残った前部主砲で『コルネフォロス』を撃った。現代のレーダー照準射撃に砲身安定装置の合わさった砲塔ならいざ知らず、この頃のような測距儀で目標を人力で照準するアナログ方式で、初弾命中は余程の練度があっても実は凄く難しい。だが今回は奇跡が起きた。放たれた2発の砲弾は正確に『コルネフォロス』の中央部に着弾したのだ。
「ぜ、全弾命中!!!!」
観測員の報告に艦橋中が歓喜の声を上げるが、代わりに『ラ・カサミ』には限界が来たらしい。艦が急激に傾き、砲戦ができなくなってしまったのだ。
「これまでか。総員、退艦!!」
二番砲が吹っ飛ばされた挙句、元々副砲と補助砲の弾薬も底をつき始めていた以上こうなるのは確定していたので、乗員達の動きは素早かった。だが『ラ・カサミ』から離れる事に涙する者も少なくなく、ミニラルら幕僚達は「必ずここへ取りに帰る」という意味を込めて、帽子を艦橋に置いて退艦した。
一方その頃、空では地獄の死闘が繰り広げられていた。
「クソッ!クソッ!!クソッ!!!!奴ら何なんだ強すぎる!!」
既に282機いた航空隊の大半は堕とされてしまい、今残っているのは風竜含め20機程度。肩や敵に与えられた被害は、10機位であった。全く割に会っていない。10機を倒すのに250機以上の生け贄とか、全く笑えない。
『こちら、エモール王国風竜騎士団、ベーズニクル。我ら二騎、これより突撃を持って騎士団の誉れを示す。其方はどうされるか?』
「我々は.......」
隊長機が堕とされ続け、今やミリシアル航空隊の指揮官にスピード出世してしまった若き少尉は返答に迷った。このまま突撃しても、敵に与えるダメージは皆無なのは明白だ。だが一方で、仲間を殺して国土をめちゃくちゃにした上に会議を台無しにしたグラ・バルカス帝国に一矢報いたいとも思っている。
思考の坩堝にハマり、決断を下さないでいると、目の前にあり得ない光景が飛び込んできた。巨大な飛行物体が、雲の中から現れたのである。
「まさかアレも、グラ・バルカス帝国の兵器なのか.......」
『待たれよ!あの紅の紋様、間違いない。アレは大日本皇国の紋様だ!』
「大日本皇国!?」
そう。彼等の目の前に現れたのは、グラ・バルカス帝国のカルトアルパス侵攻を察知して派遣した特殊戦術打撃隊の空中空母『白鯨III』と支援プラットフォームの『黒鯨V』『黒鯨VI』、そして空中母機『白鳳X』『白鳳XI』である。
『敵機直上!!』
援軍に気を取られている間に、航空隊は真上を取られていた。太陽を背に、アンタレスが降下してきたのが見える。アンタレスに搭載された20mm機関砲は、普通に機体に大穴を開けてくる威力を持つ。防ぐ事はできない。え、7.7mm?アレは豆鉄砲だ。牽制とラッキーパンチ狙いで撃つが、あまりそれで落ちる事はない。
だがアンタレスのパイロット達は知らなかった。自分達の背後には既に、死神が迫っている事に。
ピッピッピッピーー
「ターゲット、ロック。FOX2」
アンタレスの更に後方には、『白鯨III』から発艦したF8C震電IIが居たのだ。震電IIは機内小型パイロンに装備されたAIM25紫電を2発発射し、アンタレス2機を撃墜。残った機体には20mm機関砲を浴びせて、更に撃墜。これに加えて『白鳳X』に搭載されているMQ5飛燕2機のパルスレーザー砲も使い、世界連合軍の編隊に襲い掛かろうとしたアンタレスは全て撃墜された。
3機はそのまま編隊の間を降下しながらすり抜け、そのまま機体を上昇させて高度をまた上げた。
『凄い.......』
『アレが大日本皇国.......』
「あんな戦い、ついていける自信がない.......」
真上で起きた常識外れの戦闘に呆気に取られていたが、それを現実に引き戻す位あり得ない事態が起きた。
『空中の編隊、聞こえるか?こちらは大日本皇国特殊戦術打撃隊、空中空母『白鯨III』所属のAEW。コールサインは『ウィンドイアー』、風の耳という意味だ。其方の最先任は誰だ?』
どういう訳か魔導無線に、魔法技術を持たぬはずの大日本皇国が割り込んできたのだ。しかもAEWだのコールサインだのと、訳の分からない単語も出てきている。だが最先任を問われた以上、答えない訳にもいかない。
「こちらは神聖ミリシアル帝国、第28制空戦闘団、第3飛行小隊3番機、ビーガリル少尉」
『エモール王国、風竜騎士団所属、ベーズニクルだ』
若き少尉改め、ビーガリルとベーズニクルはそう返答した。少し時間をかけて、ウィンドイアーが話し始めた。
『.......確認した。周囲にいる13機は味方でいいのか?』
「間違いない」
『よし。こちらのレーダー情報に登録した。これより、君達をこちらの指揮管制下に組み込ませてもらう。これは効率的かつ最小限の被害で敵を倒す為の措置だ。理解してほしい』
「具体的に、其方は何ができる?」
『君達が目視で見つけるよりも先に、敵と味方の正確な位置、速度といった情報を提供しよう』
陸上戦だろうが、艦隊戦だろうが、空中戦だろうが、戦闘は常に先に見つけた方が有利となる。現代のようにレーダー技術が発展し、有視界内での戦闘が殆ど無い戦闘に於いても、先制攻撃出来た方が確実に戦いの主導権を握る。その事を知っているからこそ、ウィンドイアーの提示した内容は直ぐにでも手を組みたくなるものであった。
『ビーガリル殿、我々としては組みたいと思っている。其方はいかがする?』
「.......我々も組みます。ウィンドイアー、誘導してくれ」
『了解した。編隊より10時の方向、別働の飛行隊がいる。速度的にみて爆撃機だが、油断はするな。戦闘機が紛れている可能性が高い』
「了解!!」
ウィンドイアーの誘導指示に従って飛んでいると、すぐに敵編隊を捕捉できた。しかも相手は気が付いてないのか、回避運動も取らないし、機銃も撃ってこない。
「こちらビーガリル、敵を目視にて補足した。これより攻撃する」
『待て!直ぐにその空域から離れろ!!!!早く!!!!!!』
ウィンドイアーが聞いたこともないくらい焦った声で叫ぶので、全機慌てて高度を取って空域から距離を取った。
次の瞬間、紫色の光線が敵編隊を薙いだ。アガルタ法国の艦隊級極大閃光魔法のような巨大レーザーは、その見た目通りの破壊力で編隊にいた全ての機体を破壊した。
「あれは一体.......」
『今の攻撃は我が国の保有する無人機、空中母機『白鳳X』によるロングレンジTLS攻撃だ。あの攻撃を喰らって無事で居られる航空機は、殆ど存在しない』
『なんて攻撃なのだ.......』
こんな現実離れの戦闘を見せられては呆気に取られてしまうのも分かるし、当然の反応なのだが、ここはまだ戦場のど真ん中。別の指示を飛ばして、今度は彼らを上陸用舟艇及び海岸付近の陸上部隊殲滅に当たらせた。
大日本皇国到達直後 空中空母『白鯨III』艦橋
「やはり、艦隊の壊滅前には間に合わなかったか」
「えぇ。ですがまだ、戦いは終わってないようです」
艦長は助けられたかもしれない世界連合軍の将兵達を悔やんだが、今は死者に思いを馳せる暇は無い。今すべきことは、生者を生かすことである。
「まずは航空優勢の確保からだ。航空隊、全機出撃!!」
「アイ・サー!総飛行機発動、稼働航空機全機発艦!!急げ!!!!」
この指示に従い、航空隊は『白鯨III』の腹から飛び出して、青き大空へと羽ばたく。さらに『白鳳X』『白鳳XI』からも飛燕が投下され、空中で翼を翻し、敵編隊へと襲い掛かる。
「全機、あの大型機を落とすぞ!!!!続けッ!!!!!!!!」
グラ・バルカス帝国も、黙ってやられはしない。編隊は目の前の白鳳、黒鯨、白鯨を目指して突き進む。だがそんなこと、無意味なのだ。
白鳳にはTLSの他、パルスレーザー砲2門に加え、対空ロケットランチャーが90基搭載されている。白鯨には対空機関砲88基に対空ミサイル発射機50基の他、改修で新たに203mm四連装火薬・電磁投射両用砲12基が搭載されており、火力が上がっている。そして黒鯨は速射砲、対空機関砲、VLSが大量に搭載された対空ハリネズミと形容できる程に、対空武装が充実している。こんな機体に、たかがレシプロ機で挑めばどうなるであろうか。
「対空戦闘始め!!!!」
キュィィンブオォォォォォォォォ!!!!
ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!
凄まじい弾幕が展開されて、全部倒される。だが航空機がダメなら、航空機以外で倒せば良いだけだ。その発想で生まれた作戦が、沿岸の『コルネフォロス』による砲撃であった。
「コイツはまずい。敵戦艦、こちらに砲を指向しています!!艦種識別、長門型戦艦!!」
「長門型か。ビッグ7の一角にして、41cm連装砲を備える歴とした最強格戦艦だ。白鳳を前に出せ!!」
運良く砲塔旋回段階で気付けたので、直ぐに対応する。無人機である2機の白鳳を有人機である空中空母艦隊の前に出し、盾とするのだ。
(頼むぞ、白鳳)
前に出た『白鳳X』『白鳳XI』は機体上部に搭載されたマイクロ波増幅装置を起動させ、天使の輪っかのような青い円を作り出した。そしてその円が機体の全幅を超えた瞬間、巨大な青い球体に変化して機体をすっぽり覆ったのだ。
砲弾はその球体に全弾命中するが、命中箇所が物体が落ちた水面のように波打つだけで被害は愚か爆発も起きない。
「『白鳳X』及び『白鳳XI』、APS正常に作動。敵砲弾を防御しました」
これこそ白鳳にのみ搭載されているAPSという装置である。この装置は増幅されたマイクロ波を放出し、球状の電磁バリアフィールドを展開することができる。このフィールドにはミサイルは勿論、爆弾も砲弾もレーザーも効かず、例え戦闘機で特攻したとしても機体が破砕されてしまう。因みに戦艦や固定砲台として配備されている電磁投射砲は、唯一APSを無視して破壊できる。
そんな事を知らない『コルネフォロス』は次弾を装填し、また撃とうとするが、そうはさせない。
ゴンッ!!!!!!
何やら鈍い音が鳴り響いた。見れば『コルネフォロス』を何かが貫いたのだろう、巨大な穴が中心部分に3つ出来上がっている。次の瞬間『コルネフォロス』は大爆発し、そのまま海底に沈んでいった。
「艦長、『伊3505』より入電。「第五潜水艦隊、これより戦闘に参加する」です」
「あの長門型も、例の新型潜水艦によるロングレンジ砲撃か」
「そうでしょうね。にしても、エゲツない」
『コルネフォロス』が沈んだのは、某救済狂人艦長が乗っていたアリコーンに良く似た潜水艦、伊2000型の610mm電磁投射砲による物で、今回は第五潜水艦隊に配備されている『伊2013』『伊2014』『伊2015』が撃った。
「さて、そろそろあの方達に動いてもらいましょうか」
「そうだな。ここからは、あの方のターンだ」
『コルネフォロス』が海底にその身を沈ませていた頃、『白鯨III』の後部甲板には彼らが整列していた。皇国が誇る最精鋭部隊にして、世界最強の戦闘集団。一つの目的を共通意志とし、多数の生命が一つの生命体の様に戦う、最恐最悪の
先頭に立つのは「皇国剣聖」の文字が入った至極色の羽織を着た二刀流の男。その背後には6人の人間が立っている。1人は「鉄砲頭」の文字が入った黒いロングコートを身に纏い、残りの5人は殆ど同じデザインの鎧を身に纏った美女達であった。但し腰巻の色が薄いピンク、薄い紫、レモン色、薄い水色、薄い赤と言った具合に違う。
更にその後ろには普通の装甲服を見に纏った兵士達と兵器群がいる。ただし一部、真っ白な装甲服を纏った隊員や兵器群もいるが。
「さぁ野郎共、戦争を始めよう」
至極色の羽織を着た男、神谷浩三は静かに命令した。次の瞬間、全員が甲板の端を目指して走り出す。そのまま飛び出し、空挺降下を始めた。
「極帝!!!!」
「久しぶりに我を呼んだな、友よ!!!!」
神谷の背後から現れたのは、全長数十キロにも及ぶ巨大な赤い竜である。数時間前、この地で戦っていたワイバーンとも、風竜とも明らかに格が違うのが見て取れるほどに巨大で、尚且つ強大な力を持つ事が見て取れる程に堂々たる姿だ。
それものその筈。この竜は異世界にいる他の竜とは別格。ワイバーンを始め風竜のような真竜種、世界に数体しかいないオンリーワンの存在である神龍種、その全ての頂点に立つ竜神皇帝なのである。
「ここならお前も好きに暴れられるだろ!!敵は全部ぶっ潰せ!!!!」
「心得た!!!!」
極帝は姿を数百メートルサイズまで縮めると、加速して下にいるグラ・バルカス帝国の兵士に襲い掛かる。
「な、なんだアレは!?」
「竜が襲ってくるぞ!!!!」
「追い払え!!」
グラ・バルカス帝国では当初こそ、竜を侮れない相手としていた。だがすぐに現代兵器に対して殆ど通用しない事が露見し、最近では「竜は見た目こそ威圧的だが、実際は空飛ぶ火を吹くトカゲ」という扱いなのだ。なので彼らのように戦場に出た事ない者は、竜を下に見ている節がある。
だがしかし、空中戦ならともかく地上戦では竜は結構強い。生身で炎を受ければ普通に焼け死ぬし、第二次世界大戦相当の戦車なら炎耐性を余り持ってないので、エンジンルームにでも命中すれば破壊できる。まあ極帝は炎の威力が高すぎて、皇国軍の戦車でも中を蒸し焼きにしてしまう事もできるのだが。
因みに最大火力でぶん回した場合、一応60,000℃(太陽の中心が16,000℃とされる)出せるらしい。(極帝談)
「その程度で、我は止まらぬわ!!」
ゴオォォォォォ!!!!!!
グラ・バルカス帝国兵を一気に焼き払い、死体も残らないほどに燃やした。兵士の立っていた場所には人影の石の様に、影だけが石段に刻み込まれている。
「野郎共!!散開し、敵を討ち滅ぼせ!!!!兵器は全部壊せ!!!!いつもの様に暴れて、勝利を収めるぞ!!!!!!!」
極帝が兵士を焼き払った直後、神谷戦闘団の面々も降下した。そこからの動きはとにかく迅速だった。神谷と副官の向上、神谷の妻であるエルフ達で構成された神谷戦闘団特殊戦闘隊、通称『白亜の
「お前達、これが入隊後としては初陣となる。これまでの猛訓練の成果、そして才能を見せてみろ」
「私達にお任せください!」
「こうくん、私達の戦闘力は知ってるでしょ?まあ見ててよ」
因みにこの部隊の設立にあったては、結構色々あった。内外から色々ボロクソに言われたのだ。やれ「神谷長官専用の喜び組」だの、「職権濫用」だの、「軍人の風上にも置けない」だの、とにかく色々言われてる。
では何故、態々部隊を分けたのかというと、彼女達が尖りすぎてるからである。彼女達、神谷家ではエルフ五等分の花嫁と呼ばれているのだが、元はナゴ村に住まうエルフ族の族長の娘であり、使用する武装も剣と弓と魔法という、皇国軍に存在しないどころか概念から無かった武装を得意とする。神谷も刀を二刀流で戦うし、異世界に転移してからは魔法も操れる様になったが、それはあくまで1人なので問題はなかった。
だが5人もイレギュラーが居ては、流石に指揮する時に色々面倒な事になる上、そもそものポテンシャルを活かせない可能性が高い。そこで新たに部隊を創り、神谷という絶対権力の直下に配置する事で遊撃可能な機動戦闘ユニットとしての活用を可能としたのだ。
「そんじゃ、取り敢えず上に上がるぞ」
7人は腕に装備されたグラップリングフックで建物の屋根へと飛び上がる。因みにエルフ五等分の花嫁の武器と装備は「第四十六話リーム王国へ」にて、神谷が『
「正面、敵戦車。見た目から察するに、チハですね」
「え、マジだ。チハたん三兄弟じゃん」
正確には57mm砲を搭載したハウンドIという戦車なのだが、向上と神谷の言う通り帝国陸軍の九七式戦車チハと瓜二つの戦車が3台いる。その後方には恐らく三八式歩兵銃らしき何かを装備した兵士がいて、その射線の先にはミリシアルの即席防御陣地があった。
「それじゃレイチェル、反対の建物の屋根に移動して合図を待て。エリス、合図と共に降下。破壊しろ。向上、アーシャ、ミーシャはここからアビリティで援護。ミーナは俺とこい」
神谷はすぐに指示を飛ばし、迎撃の準備を整える。ものの10秒で完了し、攻撃の合図を出した。
「悪く思わないでよね!」
まずはレイチェルが矢を放つ。放ったのは爆裂魔法と貫通力を上げる魔法を込めた矢である。当初は爆裂魔法だけだったのだが、今では好きな魔法を掛けられる様に変更してある。その為爆裂魔法の他、火、電、水、風、回復、各種毒や弱体化、麻酔等々、汎用性が飛躍的に向上した。
放たれた矢は先頭にいたチハたんの薄い天井を貫き、内部で爆発。砲塔が吹っ飛んだ。
「エリス!」
「行くわよ!!」
エリスはその黒に赤いラインの入った、自分の身体と同じくらいの大きさのある大剣を地面に叩きつけた。次の瞬間、地面が不規則に曲がりながらも真っ直ぐにひび割れ、その割れ目から溶岩が勢いよく噴き出す。その溶岩は正確に戦車に当たり、足回りがドロドロに融解し行く足が止まった。
因みにエリスの大剣は叩きつけると溶岩が噴き出るが、地面に突き刺すと大量の剣が剣山の様に地面から生えてくる。勿論、その剣を引き抜いて使うこともできる。イメージ的にはハイスクールD×Dのソード・バース。
「かかれ!!」
今度は上からアーシャがレイピアの刀身を無数の蛇に変え、兵士に食らい付かせ、ミーシャが各種魔法で攻撃する。それに加えて向上による的確な射撃で敵の頭を押さえ込み、その隙にヘルミーナと神谷の斬り込み隊が突っ込む。
尚、3人の武器も改良されている。アーシャは代謝を阻害して相手をグズグズにする危険な毒が使える蛇を生み出せたが、新たに麻痺毒と麻酔も使える様になった。ミーシャは火、水、雷、風、土、闇、光の魔法を自動行使する剣を2本ずつ計14本出す物だったが、これを28本に増やして好きな属性に割り振れる様になり、新たに別個で同じ様に属性を割り振れる槍を35本出せる様になっている。ヘルミーナも毒はアーシャと同じ様に麻痺と麻酔を追加して、新たに30mm弾まで防げる可動式の盾を腕甲に仕込んである。普段は普通に腕甲になっているが、起動すると縦1m、横70cmの半透明の盾が出てくる。連続6時間の作動が可能で、6時間使っても1分でまた6時間分使えるぶっ壊れ装備である。
「当たると結構痛いわよ!!」
「取り回しの悪いライフルで、接近戦に対応できるわけないだろ!!」
ヘルミーナは二つのブロードソードを鋏にして、相手の身体や首を切り刻んでいく。肩や神谷は確かな経験と千年近い時を使い、先祖達が栄々と編み出した剣術でバッサバッサと切り捨てていく。攻撃開始よりたった3分で、戦車3両含む一個小隊規模の歩兵部隊を倒したのであった。
「う、動くな!!」
ミリシアルの守備隊がM14っぽいライフルを構えて、こちらにゆっくりとやって来た。どうやら警戒しているらしい。
「心配すんな、俺達は敵じゃない」
「では何者だ!!」
「大日本皇国統合軍、神谷戦闘団。俺は団長の神谷浩三だ」
顔を見合わせるミリシアル兵達だったが、銃を降ろして、くれなかった。
「巫山戯るな!!なぜ上級将校である者が、こんな最前線にいるのだ!!!!嘘をつくなら、もっとマシな嘘をつけ!!!!」
「はぁー、面倒臭い。ん」
神谷が指をパチンと鳴らすと、ミリシアル兵の背後に白亜衆の隊員達が静かに忍び寄っていた。
「銃を下ろせ。このお方を何方と心得る」
「なっ!貴様ら、分かっているのか?我々は最強の神聖ミリシアル帝国軍に所属する兵士だぞ。そんな蛮行、許されるものか!!!」
「戯け。お前達の目の前におられる方こそ、大日本皇国統合軍、つまり皇国の全ての軍隊の指揮権を持っておられる統合軍司令長。神谷浩三元帥であるぞ。それに、貴様らの国よりも我が祖国は遥かに強い。たかが歩兵戦闘車程度の性能しかない戦車を前に、遮蔽物に隠れる事しか出来ない兵士が最強を語るな」
たかだか地方部隊の守備隊と、幾つもの修羅場をくぐり抜けた歴戦の猛者では比べるまでもない。威圧に負け、ミリシアルの兵士達は銃を下ろした。
「よろしい。長官、我々はこのまま前進します。そちらは?」
「なら、俺達は適当にこの辺の戦車を破壊するかな。お前達、行くぞ」
こんなクソみたいなミリシアル兵も居たが、これは腐ったみかんにすぎない。勿論、誇り高き兵士もいた。例えば彼ら。
「おい、こっちだ!!走れ!!!!」
カルトアルパス陸軍基地、第241保安警備隊、第8憲兵隊の隊長であるフィーラは、部隊を率いて逃げ惑う国民の避難誘導を行なっていた。先に国賓である外交官を逃すために鉄道を確保したり、防衛部隊の展開を優先してる間に攻撃が始まり、大半の市民が逃げ遅れていたのだ。しかも避難訓練なんざロクにやってない上に、爆発音と銃撃音が鳴り響いているので冷静さもない。
それでもせめて、1人でも多く逃すために憲兵隊と警察隊が避難誘導を行なっていたのだ。だが効果は焼け石に水どころかお湯といった所で、あんまり効果はないが気休めにはなる。
「あ、あの憲兵さん。孫がな、孫がおらんのじゃ。頼む、一緒に探しとくれ」
「婆さん、心苦しいがそれは無理だ。今はとにかく逃げてくれ」
「そんな殺生な。頼む、まだ4つなんじゃよ。私は死んでも良いが、あの子だけは.......」
そう言って泣き崩れる老婆。本当なら探し出してあげたいが、今ここで持ち場を離れることは出来ない。確かにこの老婆に取っては大切な命なのだろうが、この逃げ惑う全体で見れば1つの命に過ぎない。その1つの為に、全体を危険に晒すことはできない。
「お婆さん、良いかい?探し出すのは無理だけど、ここから見える範囲なら探してみる。だから、先に避難して待っていてあげて。案外、先に避難してるかもしれないから」
若い警官がそう言うと、老婆は人の波に戻り避難してくれた。ほっとしたのも束の間、後ろから一般人が大声で叫んだ。「鋼鉄の地竜と兵隊が来るぞ!」と。
すぐに憲兵隊は後方に走り、遮蔽物に身体を滑り込ませる。警官隊は避難する市民を後ろから急かしに急かして、少しでも遠くへと追いやる。
「まだ撃つなよ!!この銃は射程が短いんだ、ここから撃ったって当たらん!」
フィーラは部下達にそう命じたが、この判断は間違っていた。ハウンドIが避難民の一団に主砲を撃ったのだ。ハウンドI、というよりチハは戦車としては弱い。貧弱な装甲にあんまり強くない主砲と、大戦中は多数が撃破された。
だが、人相手なら話は別だ。銃弾を弾き返す装甲に、人の一団を余裕で吹っ飛ばす主砲。それも訓練を積んでない単なる一般人である避難民には、十二分に脅威となる。今の砲撃で10人近く吹っ飛んだし、20人近くが破片で怪我を負った。
「撃て!!!!少しでもこっちに注意を引かせるんだ!!!!!!!」
装備しているM3によく似たサブマシンガンを連射し始める。だがサブマシンガンである以上、射程は短く弾もバラけて効果的な攻撃にはなっていない。逆に随伴歩兵と車載機銃の攻撃で、3人の仲間がやられた。
「奴ら、強すぎるだろ!」
「ヤバいですよこれ.......。後方からも例の鋼鉄兵器が来てます!」
見ればその後方からも8両のハウンドIが迫っていた。ここは丁度、街の中心部。戦車達はここを目指す事になっているので、ここにいては包囲されてしまうのだ。勿論フィーラはそんなこと知らないが。
「どうやら、俺達はここまでのようだな。お前達、覚悟を決めよう.......」
フィーラは死を覚悟した。だが、その前に彼らが来たのだ。
「耳を塞いで口を開けろ!!!!」
フィーラの背後にデカい人間が立っていたのだ。堅牢な装甲に守られた、重装兵といった感じの見た目で、威圧感が凄い。腕には不釣り合いな程に大きな大砲が2門付いていた。
「APFSDSを食らいやがれ!」
白亜衆の装甲歩兵が腕に装備した60mmオートライフル砲を撃つ。ハウンドIの装甲は薄く、余裕で貫通できてしまう。砲弾に誘爆し、爆炎を上げて動かなくなった。
「対戦車兵器もないのに、よく頑張った。後はプロに任せろ」
「あ、アンタらは一体.......」
次の瞬間、目の前でありえない事がおきた。迫り来る他の鋼鉄の地竜も、破壊されたのだ。しかも歩兵がである。槍状の何かを後ろに突き刺されたり、大きなハンマーとアックスで殴られてたり、謎の巨大な筒を持った兵士が光り輝く槍を発射したりして、とにかく何が何だかは分からないが全ての鋼鉄の地竜が破壊されたのだ。
「撃て」
そして白い装甲服を身に纏った兵士達が、黒いおもちゃのような魔導銃を向けると弾が連射して吐き出され、迫り来るグラ・バルカス兵を殲滅してしまったのだ。
「クリア」
「次のポイントに行くぞ。続け」
指揮官クラスなのだろう、さっきの巨大な大砲を持った兵士よりも軽装の歩兵が命じると、敵が密集する前線へと向かい出した。
「ま、待ってくれ!」
「なんでしょう?」
フィーラは手近の兵士を呼び止めた。
「あなた達は、一体何処の軍隊なのだ?」
「我々は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団『白亜衆』です。我々は大日本皇国統合軍司令長官、神谷元帥指揮の下、グラ・バルカス帝国軍の殲滅作戦を展開しています。引き続き、カルトアルパス市民の避難誘導をお願いしたい。我々が来たからには、これ以上この街の市民に被害は出させません。では、これにて」
白亜衆の兵士は足早にその場を去り、フィーラは頼まれた通り避難誘導に戻った。
同時刻 フォーク海峡出口付近 揚陸指揮官『タトゥイーン』
「もうすぐ海峡を抜けるな」
この作戦の指揮官であるマックインは、指揮所でパイプを吹かしていた。何せもう、作戦は完了しているのだから。
恐らく画面の前にいる、全ての読者諸氏はこう思っているだろう。「いやいや、まだ占領できてないのに何が作戦完了だ」と。この上陸作戦は、別にカルトアルパスを占領するのが目的ではない。この作戦は陽動なのだ。グラ・バルカス帝国の真の狙いとは、この先進11ヵ国会議をメチャクチャに破壊し、世界各国の代表をカルトアルパスから逃し、その逃避行の最中を襲って、代表者全員を抹殺する事にある。
本上陸作戦は、あくまでその囮。こちらに注目させるだけの作戦であり、別に占領しようがしなかろうが、部隊が皆殺しになろうが捕虜になろうが、どうでも良いのだ。なにせこの上陸部隊は全員が死刑判決ないし終身刑が決定した犯罪者、素行不良の人事上のゴミ、上に楯突く厄介者で構成された部隊。上層部的には全滅してもらった方が都合がいいのだ。
上陸部隊を援護する海軍部隊こそ、精鋭中の精鋭や最新鋭の艦艇で構成されている。だが上陸部隊の装備は不良品や旧式をつかまされており、弾薬も食料も殆ど装備してないのだ。
「司令、もう間も無く海峡出口です。にしても、奴らには同情しますな」
「何を言うかね、艦長。彼らは栄えある帝国に泥を塗った面汚し共だが、最後にこのような場を設けて貰ったのだ。むしろ感謝すべきだと、私は思うよ」
「それもそうですな」
こんなふざけた事を話していると、突如前方の艦が巨大な水柱を上げた。
「な、何事だ!?!?」
「わ、わかりません!」
(まさか、この世界には魚雷があるのか!?)
勿論ない。この世界には魚雷という概念は、全く存在していない。だが、異世界からの来訪者であるイレギュラーの大日本皇国は違う。この国はかつて、世界でも日本でしか開発に成功しなかった酸素魚雷を保有していたくらいには魚雷のエキスパートである。では、現在の魚雷はどうか。現在の魚雷は最早、排出されるのが水素で、静音性に優れるのに雷速が120ノットも出す化け物に仕上がっている。威力だって高い。その魚雷が今、この艦隊に向かって放たれたのだ。
しかも、攻撃はそれだけでは終わらない。
「今度は爆炎が上がりました!!それも外縁部の輸送船が全滅する勢いです!!!!」
この攻撃は伊3000型潜水艦による飽和ミサイル攻撃による物で、艦隊が身動き取れなくするように外縁部の輸送船を攻撃した。これにより艦隊は前にも後ろにも、右にも左にも逃げられなくなっている。
文字通りの袋のネズミとなった彼らの運命は、もうお分かりいただけるだろう。輸送艦隊は相手が何かを知る前に、全隻海中にその姿を消した。
そして艦隊が全滅したのと同じ時、神谷もまた今回の作戦の全貌を無線傍受によって知ったのだった。
「長官、どうしますか!?」
「外交官は鉄道で逃がしてるらしい。なら、それに追いつくまで。極帝!!」
「乗れ、我が友よ」
神谷と向上、それにエルフ五等分の花嫁と周りにいた白亜衆の隊員を背中に乗せて、極帝は川山の乗る列車を目指して飛ぶ。
一方その頃、川山ら外交官の乗る列車は停車していた。目の前の線路が突如、吹き飛んだのだ。
「爆破テロとか、異世界も存外、旧世界も変わらないってか?皮肉なもんだ」
他の外交官達は慌てているが、川山は妙に冷静であった。目の前でミリシアルの兵士が射殺されても、とてつもなく冷静だったのだ。
「出ろ」
目出し帽を着けた男たちが車内に入ってきて、外交官達を外に無理矢理連れ出した。そして1人1人線路上に並べていき、両手を頭の後ろで組まされて跪かされる。
「か、川山殿。これは一体、何が始まるのですか.......」
偶々マギが隣に跪かされており、その顔は青褪めていて、恐らく予想はついてるのだろう。だかそれでも、聞かれた質問に答える。
「処刑でしょうね」
「やはりか.......。あなたは何故、そんなにも冷静しておられるのですか?」
「.......簡単な事ですよ。我々が元いた世界は、この世界よりもずっと平和で、外交官が出先で命を落とすなんて早々ない事でした。ですが、この世界じゃ命は羽毛のように軽い。どんな手を使ってでも、目的を果たそうとする国々で溢れている。なので私は、パーパルディア皇国との戦争の後、覚悟を決めたんですよ。国に文字通り命を捧げると。その時が来ただけなんです」
この答えにマギは驚いていた。だが川山は尚も続ける。「ですが、私はまだ生還を諦めていません」と。川山は確信していたのだ。自分の親友にして同志である、神谷がここに助けに向かっていると。
次の瞬間、周囲一帯が白煙に包まれた。そして銃声と呻き声が辺りに鳴り響く。
「来るのが遅えよ。浩三」
姿が見えずとも、川山には分かった。今の銃声は神谷の部隊の物だと。煙が晴れると辺り一面には工作員達の死体と、真っ白な装甲服に身を包んだ兵士達がいた。
「よーし、片付いたな」
「こっちもです」
各国の外交官達は、目の前に突然現れた兵士達に困惑していた。取り敢えずこちらを襲っていた兵士を倒したのだから、恐らくは味方の筈、という感じでまだ敵が味方もハッキリとしていない以上、安心はできない。
「生きてるか慎太郎」
「あぁ」
「あ、あの、川山殿。こちらの方は.......?」
「神谷浩三という、我が国に於ける実質的な軍の最高指揮官ですよ」
マギ含め、何も知らない外交官達はただただ驚いた。普通に考えて、こんな最前線に軍のトップがノコノコやって来るなんて有り得ないのだから。
だが神谷の武勇を身をもって教え込まれたムーと、実際に話したこともあるエモールのモーリアウルはあまり驚かなかった。
「神谷殿、助けて頂き感謝する」
「モーリアウル殿、でしたかな?これが我々の職務です、お気になさらず」
「それで、俺達はどうするんだ?」
川山の問いに、神谷は何も答えられなかった。何せ今神谷達の居る場所、周りが森でヘリコプター位しか降ろせないのだ。
だがヘリコプターでは万が一、敵の零戦擬きことアンタレスが襲ってきたら流石に不味い。極帝は背中に乗せることは出来るが、もし襲われた時に全力で逃げるとなると外交官連中が耐えられない可能性がある。となるとVTOL機のVC4隼辺りで逃げたいのだが、ここは降ろせない。電車自体はダメージが殆ど無いので動かせる筈だが、操作方法は分からないし、何より進行方向の線路は吹き飛ばされていて、バックしか出来ない。結論、どうしようも出来ないのだ。
「あー、この中のミリシアルの最高ランクの方は?」
「わ、私です。先進11ヵ国会議の議長を担当している、カメラードと申します」
「ではカメラード殿、この現状下に於ける対処マニュアルや指示は出ていますか?」
カメラードは首を横に振った。停車してすぐ襲われたので、連絡も何も出来てない状況なのだ。
「となるとまずは」
パァン!
乾いた音が鳴り響き、ミリシアルの職員1人が倒れた。狙撃である。すぐに撃たれた方向に牽制射撃を加えつつ、迅速に非戦闘員である外交官達を車両の裏に誘導する。
「まだ残ってやがったか。おい、被害は?」
「ミリシアルの職員一名被弾!されど脚部に命中しただけで、命に別状ありません!」
連れてきた分隊の衛生兵が、既に応急処置を施していた。だが初手の動きを見る辺り、恐らく相当の手練れのスナイパー。神谷達に緊張感が走る。
「にしても、足に当たるなんて。どうやら練度は低そうでよかった」
マギカライヒ共同体の外交官がそう呟いたが、すぐに神谷はそれを否定した。
「その逆ですよ」
「え?」
「今の攻撃、あれはスナイパー、狙撃手の常套戦術です。1人目を敢えて急所を外して殺さずに、それを助けようと出て来た兵士を撃つ。それに今の攻撃、発砲と着弾にズレがあった。恐らく、700mは離れてる。しかも正確に足を撃ってきた辺り、練度もかなり高いですよ。他の皆さんも、顔を覗き込ませたりせんでくださいよ!!頭撃ち抜かれて死体になるのがお望みなら、止めはしませんがね」
外交官達は震え上がった。今この時より、ここは戦場となったのだ。兵士ではないが何人かは戦場を歩いたこともあるらしく、指示を聞かない者がどんな末路を辿るかは知っているらしい。すんなり指示には従ってくれた。
「浩三様、極帝さんに焼き払ってもらいますか?」
「いや、流石にそれはヤバいだろ。こっちが焼け出されかねん」
ヘルミーナの意見は手軽ではあるが、失う物の方がでかい。周りは森で、最悪の場合は森林火災コースになる。そうなってはこっちも一酸化炭素中毒やら何やらで、スナイパーよりも面倒な事になりかね無い。
「おい、敵の位置は分かるか?」
「お待ちを.......。見つけました。北に750m程離れた場所に陣取ってます。こっちに照準を向けて、ピクリとも動かない。こりゃ頭出した瞬間にキメられますよ」
「それなら、そうだな…。向上、その辺のライフル拾って狙撃いけるか?」
「いけます!」
「なら野郎共、3カウントで牽制開始だ。準備しろ」
兵士達は武器を構え、小銃手達は新しいマガジンをセットして備える。神谷がカウントダウンし、ゼロと言った瞬間、飛び出した。
機関銃手が車両の連結部に42式軽機関銃を固定し、弾幕を展開。反対側から43式小銃と32式戦闘銃を装備した兵士達と向上、神谷、エルフ五等分の花嫁が飛び出す。
「プレッシャーを掛け続けろ!!」
弾幕を貼りつつ、エルフ五等分の花嫁は自分達が持つ武器を使って、スナイパーの注意をこちらに向けさせる。地面を割って溶岩を出してみたり、蛇を使って木を揺らしたり、適当な魔法を適当に打ったり、風魔法の矢で砂埃を立てたりしていた。
パァン!パァン!
2発連続で撃たれた弾も、片方はヘルミーナが盾で受け止め、もう片方は神谷が両断した。そしてその頃には、向上の準備も終わっている。
「失せろ!」
パァン!
放たれた弾丸は正確にスナイパーの頭を、スコープと眼球ごと吹っ飛ばした。すぐに兵士たちを周辺警戒にあたらせつつ、外交官を近くの平地まで誘導。迎えの隼に乗り込んで、無事に戦闘地域から退避させた。
後の歴史に皇国が国際社会に躍り出た事件として語り継がれていく一連の戦闘は、こうして幕を下ろしたのである。