グラ・バルカス帝国海軍、第52地方隊イシュタムによるムー本土攻撃があった日、バルチスタ沖でも海戦が発生しようとしていた。参加戦力は以下の通り。
○世界連合艦隊
・神聖ミリシアル帝国
戦艦3、魔導巡洋艦6、小型艦4
・ムー
空母5、戦艦4、装甲巡洋艦8、重巡12、軽巡16、補給艦5
・大日本皇国
空母1、戦艦4、航空戦艦2、対空巡洋艦1、駆逐8
・トルキア王国
戦列艦隊82
・アガルタ法国
魔法船団70
・ギリスエイラ公国
魔導戦列艦隊98
・中央法王国
大魔導艦2
・マギカライヒ共同体
機甲戦列艦28
・ニグラート連合
竜母機動部隊30
・パミール王国
豪速小型砲艦隊115
○別働隊
・第二文明圏連合竜騎士団500騎
・神聖ミリシアル帝国 第1、第2、第3魔導艦隊
各 魔導戦艦6、空母6、重巡洋洋艦24、巡洋艦48、小型艦120
空前絶後の大艦隊なのだが、正直頼りにできる艦が一切いない。この中で互角に戦えるのは皇国と、もしかすると神聖ミリシアル帝国とムーが戦えるかもしれない、という状況だ。対して相手のグラ・バルカス帝国はグレードアトラスター級戦艦を筆頭に戦艦15、空母14、重巡30、軽巡42、駆逐234という大艦隊だ。これに加えて潜水艦がいる可能性もある。それ故に、この派遣艦隊の指揮を任せられた麦内誠光大将は、全く気が休まる暇がない。
「航空参謀、間も無く敵航空機の行動圏内に突入する。早期警戒機を上げてくれ」
「そう来ると思って、既に待機中であります!」
「ははっ、そうかそうか。では直ちに発艦、警戒監視に当てさせろ」
「アイ・サー!」
内戦で管制室に命令が行き、待機していたE3鷲目、コールサイン『シャドウペッパー』に発艦命令が下る。
『シャドウペッパー、発艦を許可する。good luck』
「シャドウペッパー了解。行ってくる」
エンジンの回転数を上げ、シューター役の水兵に合図を送る。次の瞬間、シートに強く押しつけられる感覚と共に一気に加速し無事に発艦した。シャドウペッパーはブリーフィングで指示されたポイントを目指して進路をとる。道中の機内は、何故か機長の酒話で盛り上がっていた。
「…それでな、俺の親友は、酔うと必ずトイレに行くんだ。別に吐くわけじゃない。じゃあ何をしてるかというと、態々脱いでるんだわ」
「マジっすか!?」
「マジマジ。で、素っ裸になって出てくるんだ。でも面白いのが、わざわざチ○コを太腿に挟んで隠して、ジョジョ立ちをするんだよ。それもスマホで態々処刑用BGMを流しながら」
この話で機内は大爆笑。しかもこれに加えて「たまに先輩がいると、スッとチン毛をライターで燃やす」と続いた物だから、更に機内は大爆笑の渦に飲まれる。
その内、今度は初めて飲んだ酒は何だとか、初めて二日酔いしたのはいつだとか、そういう他愛もない話で盛り上がっていた。だがレーダーに影が映り込むと、すぐに空気が切り替わる。
「レーダーに感。方位180、高度6000、速力400、機数200。恐らく攻撃隊と思われる」
「すぐに通報しろ」
「ウィルコ」
直ちにこの情報は母艦である空母『瑞鷹』に通報され、直ちに制空装備でF8C震電IIを発艦させる。
『総員、対空戦闘用意。総員、対空戦闘用意。航空隊は直ちに発艦、迎撃に迎え。総員、対空戦闘用意。総員、対空戦闘用意。航空隊は直ちに発艦、迎撃に迎え。総員…』
「インターセプトまで後どの位だ?」
「迎撃による遅延を考慮せず、このままでくるとなると凡そ2時間。射程圏内に入るまでは1時間半程度かと」
「司令、ムー艦隊より入電。航空隊を発艦させて、迎撃に当たるそうです」
この報告を受けて、麦内の顔は不満そうに歪んだ。ムーの戦闘機であるマリンは、所詮は複葉機の鈍足機。迎撃に当たられても、相手のスコアを増やす雑魚に他ならない。
一応、今から発艦させるのならレーダー上に味方として登録し、それをデータリンクで共有すればIFFが無くても問題ない。しかしミサイルは発射前にターゲットをマークする必要があり、発射後にIFFを使用して自動で目標決めるモードでは撃てない。咄嗟の状況ではIFFによる識別で敵味方を判別する以上、100%誤射しない訳でもないので邪魔でしかないのだ。
「司令、ムー艦隊より続報。『我にコルセアあり』だそうです」
「コルセア?.......まさか」
麦内の脳裏に、この前神谷が言っていた事が蘇る。直ちに監視員にムーの艦載機がどんな機体かを確認させると、こんな答えが返ってきた。
『あー、機体はF4Uコルセアに酷似しています。流石にどのタイプかは分かりませんが、あの逆ガルは見間違いようありません』
そう。ムーはこの短期間で航空戦力の拡充に成功し、艦載機は全て一新されたのだ。戦闘機にはF4U5にターボ過給器を搭載した『コルセン』、急降下爆撃機兼雷撃機にはバラクーダMk IIの武装を7.7mm機銃2挺から12.7mm機関銃2挺と、後部に7.7mm旋回機銃に変更した『バラクダル』が配備されているのだ。
「まぁ、コルセアなら戦えるか?」
「少なくとも複葉機よりかはマシかと」
ムーの作ったコルセア、いや。新型戦闘機コルセンがどの程度の物かは分からない。だが少なくとも非力なエンジンを付けた複葉機であるマリンよりかは、確実に戦力として数えられる機体ではある。
ムー空母から発艦したコルセンは艦隊上空で編隊を組み、レーダーで味方機として識別。これをデータリンクで共有し、無事にムー艦載機編隊を味方として登録できた。コルセンの編隊は通報のあった空域へと前進する。
「お前達!いよいよ、この新型機、コルセンの初陣だ!!!!勝利の栄光を持って、この機体の輝かしい歴史の始まりとしよう!!!!」
隊長のオットー大尉が部下達にそう鼓舞する。部下達は雄叫びをあげ、中には翼を振る者もいた。士気は十分である。
『.......ガッこちらは大日本皇国海軍、空母『瑞鷹』所属のAEW。コールサイン、シャドウペッパーだ。ムー海軍機、聞こえてたら返事してくれ』
「こちらムー海軍所属、迎撃隊指揮官のオットーだ。貴官らがブリーフィングで言われていた、空の水先案内人か?」
『空の水先案内人ときたか。そうだとも、我々こそ空の水先案内人だ。
君達の編隊から見て、11時の方向。高度6000に敵編隊がいる。既にこっちの航空隊がミサイルで落としちゃいるが、まだ奴等はいる。迎撃してくれ』
「言われなくても。全機、高度9000まで上昇!!続け!!!!」
コルセンが銀翼を煌めかせて、雲海の中へと飛び込む。シャドウペッパーによる誘導を受けつつ、編隊は順調に敵編隊へと接近する。
『間も無く目視圏内に入るぞ』
『敵機発見!!』
「シャドウペッパー、支援に感謝する」
『なーに、給料分の仕事をしただけさ。感謝の気持ちは生きて帰ってから、テメェらの財布で払ってくれ』
「飛行隊総出で相手しよう。さぁ、全機!我に続け!!」
オットーのコルセンを先頭に、編隊が敵編隊目掛けて襲い掛かる。完璧な奇襲に、高火力の20mm機関砲。その効果は絶大であった。一撃目で敵機12機撃破、18機撃墜という戦果を挙げる。
「す、すげー!!!!」
『一気に敵が堕ちていく!』
『勝てる、勝てるぞ!!』
第二文明圏で好き勝手やるだけでは飽き足らず、世界連合軍を撃退したグラ・バルカス帝国軍。その軍隊に自分達が、初めてダメージというダメージを与えられた事実に否応もなく士気は上がる。
だが、これがのちに悲劇を生む。彼らはよりにもよって、アンタレスに巴戦、つまりドッグファイトを挑んでしまったのだ。
「よし、捉えた!」
カチッ
ドカカカカカカ!!
しっかり照準のど真ん中に相手を捉えた。トリガーを引けば、必ず当たる。その筈なのに、目の前の機体が不意に消えた。
「なっ!?」
消えた事に気付いた次の瞬間、機体に振動が走り主翼が爆発。そのまま炎が一瞬の内にエンジンに回って爆発し、機体も勿論爆発する。こんなことが、至る所で頻発していたのだ。
アンタレス、というより零戦自体は狂気的なまでの徹底的な軽量化を重ねた結果、軽業の様な抜群な機動力を手に入れた。一撃離脱は苦手だが、ドッグファイトによる空中戦となれば零戦は最高の戦場となる。しかもグラ・バルカス帝国の将兵の大半は、何度も愛機と共に実戦を積んだ者達ばかり。機体の特性や機体ごとの癖に至るまで、全てを網羅し手足の様に扱う。
一方のコルセンは一撃離脱でこそ真価を発揮し、零戦よりも重いことからドッグファイトは不利となる。更にパイロットの練度もお世辞にも高いとは言えない以上、この結果は必然と言えるだろう。さらに間の悪い事に、震電IIは別動隊の迎撃に向かっており、今この場にはコルセンしか居ないのだ。
「何機残ってる!?」
『およそ50!!』
「半分食われたか。全機、ドッグファイトに持ち込むな!!エレメントを組み、一撃離脱を徹底しろ!!!!」
オットーは無線でそう指示を出すが、それを実行にできる者は少ない。中堅は中堅同士でどうにか組み、ベテランはルーキーの助けに入るが、何方かが堕とされる場合もあった。だが、どうにか出来上がった数組が果敢に攻撃を仕掛ける。
『堕ちろ!!』
ドカカカカカカ!!
『不味いケツにつかれた!!』
『すぐに助けてやる!!耐えろルーキー!!!!』
だがしかし、やはり練度に差がある。しかも数が減ってしまっている以上、中々戦況はひっくり返らない。だが、そんな状況をひっくり返すのがシャドウペッパーの仕事だ。
『おいオットー!生き残ってるか!?!?』
「シャドウペッパー!?どうにか生きているが、今にも死にそうだ!」
『そんなお前らに朗報だ。15秒だけ耐えろ!!』
「何を言っているんだ!?」
シャドウペッパーがそう言った15秒後、別働隊の迎撃に向かっていた震電IIの一部が飛来。敵に襲い掛かる。
「各機、敵は鈍足だ。
『『『ウィルコ』』』
まず戦闘機隊をコルセンから引き離し、そのままコルセンを攻撃機編隊に向かわせる。戦闘機の相手は全て、震電IIが引き受けるのだ。
「これで良いかシャドウペッパー?」
『あぁ。あの飛行隊の連中は、経験こそあるがコルセンでの戦闘経験はない。何せ零戦相手にドッグファイトを仕掛けるんだ。そんな奴らに玄人の乗る零戦は荷が重い』
「確かにな。なら、精々俺達はあっちに火の粉が飛ばない様にしないとな!」
ここから先の戦闘は、全くの異次元であった。敵戦闘機は全部で30機近く。対して震電IIは僅か8機。数の差は絶望的なまでに開いている。だがそれすらも埋める震電II自体の高いポテンシャルと、パイロットの神業とも言える腕によって埋めるどころか、それ以上の状況を作り出す。
「後ろを捉えたぞ!!」
「甘い」
後ろを取ったアンタレスをクルビットで回避しつつ、逆に後ろを取って20mm弾を浴びせたり…
「野郎!!!!」
ドカカカカカカ!
ヘッドオンで正面勝負をしよう物なら、高度を下げてコブラをして、アンタレスの下面を20mm弾をばら撒きながら潜り抜けたりして、撃墜数を稼いでいく。
しかも今回はミサイルを使わずに、機首の20mmバルカン砲のみで敵を迎撃しているのだから、その強さは化け物そのもの。みるみる内にアンタレスの編隊は数を減らし、遂には最後の1機すら撃墜された。
一方、コルセンも攻撃隊を殲滅し、無事に第一次攻撃隊を殲滅したのだった。だが、これは言うなれば陽動。第二次攻撃隊こそが、敵の本命だったのだ。
「れ、レーダーに感!!敵大編隊、艦隊正面より接近中!!機数、600!?!?」
「600だと!?!?」
草薙武器システムは数百の目標を同時に探知し、そこから数十個の目標に対して同時に迎撃ができる。しかし、単純に弾薬が足りるかはまた別問題だ。それに今回の任務は、グラ・バルカス帝国海軍を倒す事ではない。神谷からの命令はこうだ。
「今回の戦闘に於いて重要視するのは、まず敵の戦力、戦術、性能を推し量る事。次に好きに暴れても良いが、ある程度手を抜く事。そして最後に、敵に世界連合艦隊が破れるか引き分ける事だ」
そう。この海戦、寧ろ勝ってはダメなのだ。今の世界、マトモな国が基本的にない。神聖ミリシアル帝国だって所詮やってる事は地位に胡座を掻いて、格下の国がやる事なす事が気に入らなければ邪魔をする。旧世界でもそうではあったが、こっちの世界はその比じゃない。
故にこの辺りで、世界最強の座からは降りて貰う。何より大日本皇国軍の真価は、周りの国の技術が劣っている以上は協力よりも単独の方が発揮される。そうなってくると生じ権力を持ってる癖して全く役に立たないミリシアルは邪魔なのだ。他の国家に関しては、基本的に弱すぎて話にならない。唯一、ムーだけは別と言える。あそこは皇国が力を貸した結果、飛躍的に成長する可能性を大いに孕んでいる。
この世界の神になるつもりは無いが、超大国として君臨し世界を牽引するリーダーになる力を皇国は持っている。この世界では考え付かない様な新たな仕組みを導入し、平和な世の中だって作れるかもしれない。国民の平和と安寧の為、彼等には犠牲になって貰おうという事なのだ。
「ここは弾薬を節約したい。長距離ミサイルを使わずに、砲撃戦と短距離でのミサイル戦で仕留める。旗艦に陣形変更の要請を出せ」
「アイ・サー」
神聖ミリシアル帝国の旗艦に敵編隊発見の報と、陣形変更の要請を出す。現在の陣形から皇国海軍を最前列に配置する陣形なのだが、先頭を走られたくないのか知らないが返答は「許可できない」という物。
「致し方ない、か。このまま砲撃戦に移る。全艦、対空戦闘用意!」
麦内の「対空戦闘用意」の発令は、艦隊の各艦に伝達される。初撃を仕掛けるのは戦艦『扶桑』『山城』『河内』『美濃』と航空戦艦『蔵部』『直隆』の6隻だ。
「正面、対空戦闘。CIC指示が目標。弾種、時雨弾」
「主砲、照準開始。電磁投射砲モードに切り替える」
各砲に時雨弾が装填され、電磁投射砲モードに切り替わる。砲身が4つに割れて、中に電流が迸る様は他の国の水兵からしてみれば珍しい物らしく、不思議そうに見ている。
「充電よし!」
「撃てぇ!!!!」
放たれた砲弾はレールガンの加速力により、敵編隊目掛けて飛び出す。近接信管で所定の距離になった同時に起爆。ミサイルを撒き散らし、敵編隊に襲い掛かる。
何が起きたか分からぬまま、数十機が火だるまになって堕ちた。しかし、それでも焼石に水。大きな効果があるとは言えない。
「第二射、続けて撃ちます。撃て!」
これに続き第四射、第五射まで撃ち、一度砲身冷却の為に射撃を止める。レールガンは速度が速くなる他、貫通力も上がるのだが、その分冷却時間が必要となる。これが通常の火薬による砲撃なら、砲身自体に冷却装置が搭載されているので砲身の限界が来るまで撃ち続けられる。
「砲身冷却完了!射撃システム、オンライン!!」
「!?敵編隊、更に現る!!方位45、海面スレスレを侵攻してきた為、距離近い!!機数40!!さらに方位300、同じく海面スレスレを50機が進んでくる!!」
目の前の大編隊は、恐らくは陽動。本隊でもあるが、同時に囮でもあるのだろう。海面スレスレを進む別働隊が切り込み隊であり、流石にこの数を同時に相手するのは皇国海軍とてキツイ。
「致し方ない。全艦に下令、ウェポンズ・フリー!!我が艦隊に接近する敵機を堕とせ!!!!」
麦内はそう命じる。流石に手を抜いて政治云々を気にする場合じゃなくなった。こうなった以上、16隻の皇国海軍艦艇の生存を最優先に行動するしかない。
「対空戦闘用意!!対空魔光砲、発射準備!!」
「魔導エンジン、出力45%から上昇開始!!」
「動力振り分け45%を維持しつつ攻撃回路へ接続」
「接続完了」
「対空魔光砲への魔力充填開始!80%.......95%、100対空魔光砲、エネルギー充填完了!」
「残魔力、装甲強化のためコンデンサへ!」
「対空魔光砲、魔力回路起動!属性分配、爆48、火22、風30、対空魔光砲発射準備完了!!」
まず接近する航空機に攻撃を開始したのは、神聖ミリシアル帝国の戦艦『セインテル』であった。砲口に煌びやかな粒子が吸い込まれていき、次の瞬間光弾が空に向かって飛び出す。
しかし近接信管も無しで手動で行われる照準では、いくら連射しているとはいえ攻撃は全く当たらない。
「そんな弾幕で、我らは止められん!!」
これに加えてパイロット達は皆、もっと濃密な対空砲火の中を突破してきている。この程度、恐るるに足らず。爆弾を『セインテル』にきっちり投下。命中させる。
だがまだ『セインテル』は、相手としてはマトモであった。マギカライヒ共同体の機甲戦列艦に至っては、単なる機銃掃射で爆沈する始末である。
「マギカライヒ共同体、旗艦バルテルマ轟沈!!」
「トルキア王国戦列艦隊、ヘルマ、ぺクノス、ジェイアード、他40隻近く轟沈!!」
「中央ギリスエイラ公国魔導戦列艦、ナーノ、ピルコ、ミーリル.......50隻近く轟沈!!」
「神聖ミリシアル帝国『セインテル』大破、炎上中!!」
麦内の元に続々と被害報告が上がる。既に艦隊の6割強はその姿を海へと消し、3割が大破炎上などで何とか浮いてる状況。残りも多かれ少なかれ被害を被っており、無傷なのはムーの一部と皇国海軍程度である。
「シャドウペッパーより入電!『別動隊の神聖ミリシアル帝国、艦載機を発艦。敵艦隊に向かう』です!!
「分かっていたが、我々は囮だったのだな。であれば、もうその必要もないだろう。何よりデータは手に入れた。通信、ミリシアルとムーの旗艦に撤退を進言しろ」
「アイ・サー!」
そう。目的の情報収集は達成したし、シャドウペッパーにより敵艦隊の位置も正確に把握している。グラ・バルガス帝国もまた、艦隊を二分し『グレードアトラスター』を筆頭とした主力部隊は別動隊の神聖ミリシアル帝国艦隊に向かっていて、一部の艦艇、それでも100隻近い艦艇がこちらに接近しているのだ。もうこれ以上、犠牲は要らない。
「司令、ミリシアル側より許可が出ました。救助が終わり次第、撤退を開始するそうです」
「そうか。彼らには悪い事をした。せめて生きている者を、1人でも多く救え」
「アイ・サー!」
この戦いで皇国は、自国有利になる様に敵を利用し他国の力を削いだ。ミサイルを使って本気で戦わなかったし、この戦いが始まる前、最初の航空攻撃の前に艦隊が潜水艦に見つかっていたのを探知しながらも、敢えて攻撃も報告もせずに、そのまま追尾させていた。読者諸氏もいきなり航空隊が来た事に違和感があったかもしれないが、こういうカラクリがあったのだ。
もし皇国が手を抜かず、それどころか主力艦隊を派遣していればこんな事にはならなかった。この戦いで散っていた戦死者は、本来なら失われない命であった。ならばせめて、生き残った者には救助の手を差し伸べる義務がある。各艦から内火艇や複合艇、SH13海鳥が出動し、救助活動を開始。生き残った他国の艦艇にも連絡し、重傷者を大和型、伊吹型、『瑞鷹』に運び込む様に頼んだ。これらの艦には手術もできる医療設備があるので、生存率は上がるだろう。
「た、助けてくれ」
「大丈夫だ!コイツに捕まれ!!」
ロープ、角材、浮き輪、その他諸々使える物を使い、兵士達を手繰り寄せて船へと引っ張り込む。中には掴んだ瞬間に、安心したのか海に落ちていく者もいた。だが、そんな風になれば
「とうっ!」
絶対飲み込んだらタダじゃ済まない位に汚れた海へと飛び込み、無理矢理とっ捕まえて浮上。そのまま船に押し込む。
「救助活動、順調に進んでいます。恐らく、敵艦隊との接敵より前に終わるでしょう」
「そうか。良かった」
この報告より二時間程で、救助活動は終わった。撤退しようとしたその時、敵艦隊が現れたのだ。他の国の司令部達は、その姿に恐怖した。司令部だけではない。末端の水兵に至るまで、恐怖した。
「各艦に下令。対水上戦闘、用意。砲雷撃戦で仕留める。駆逐艦と『古鷹』は、撤退する艦隊の護衛に入れ。それから各国艦艇に通達。『本艦隊、これより殿として戦闘に突入す。各艦は直ちに撤退の上、生き延びられたし』以上だ」
「アイ・サー!!」
「これより、旗艦を『扶桑』に移す。司令部要員は、直ちにヘリに乗り移乗せよ。『瑞鷹』も撤退し、艦隊を生きて帰せ」
「アイ・サー。司令、ご武運を」
直ちに司令部を戦艦『扶桑』へと移し、装甲の薄い艦艇は撤退させる。今ここにいるのは戦艦6隻のみ。対して、相手は100隻近くいる。数の差は絶望的だ。
「攻撃開始!!」
だが今ここにいるのは、かつての世界最強であり敵の首都に殴り込みを掛けた超武闘派の武勲艦の妹達。この程度では臆さない。
装備している垂直発射装置に納められた艦対艦ミサイル桜島を発射。同時に砲撃も始める。
「砲術、撃って撃って撃ちまくれ!!!!」
「言われなくても!!主砲、斉射!!!!」
ズドォォォォン!!!!!
510mm、460mm、203mmの各砲が砲撃を開始し、あり得ない位高い命中精度で敵を殲滅していく。逆にグラ・バルカス帝国側は射撃で当てることは出来ず、数十秒のタイムラグも計算しながら砲撃していく。かたや皇国は自動装填装置により数秒間隔で砲撃してくるので、グラ・バルカス帝国の艦艇は回避運動を取りながら逃げ惑う。
「敵の陣形が崩れた。今しかない。波動砲を使う!」
「アイ・サー。プラズマ粒子波動砲への回路開きます。非常弁、全閉鎖。強制注入機作動」
「艦首解放、プラズマ粒子波動砲展開」
大和型も伊吹型も『日ノ本』同様に普段菊の御紋がある場所に、波動砲は収められている。こちらは単装だが、それでも威力は充分に高い。
「安全装置解除」
「セーフティーロック解除。強制注入機の作動を確認。最終セーフティー解除」
「薬室内、プラズマ化粒子圧力、上昇中。86、97、100。エネルギー充填、120%!!」
「全艦連動!!射撃管制、扶桑に移譲されました!!」
「波動砲、発射用意。対ショック、対閃光防御」
艦橋のガラス窓がシャッターで覆われ、閉鎖される。
「電影クロスゲージ、明度20。照準固定!プラズマ粒子波動砲、発射!!!!」
砲雷長がトリガーを引いた瞬間、水色のビームが敵に襲い掛かる。そして麦内の命令で、艦が一気に後退する。
「カウンター出力カット!!」
プラズマ粒子波動砲はその威力ゆえ、様々なデメリットがある。その1つが反動が大きい事だ。その反動の大きさ故に、発射と同時に一杯相当の推力を出さないと撃った瞬間に艦が後進してしまうのだ。
麦内はこれを利用し、砲撃の反動で戦線を離脱するという中々にぶっ飛んだ事を考えたのだ。砲撃を継続したままバックし、ビームが消えると同時に先に撤退した艦隊を追い掛ける。この攻撃でグラ・バルカス帝国の別動隊はその9割がその身を海に沈めたのである。
数十分後 旗艦『扶桑』
「司令、偵察中のシャドウペッパーより入電。2つの超巨大飛行物体を見つけたそうです」
「超巨大飛行物体?」
「レーダー上には全長250m程度の大きさが映ってるらしく、速度は200kmと遅いそうです。しかし別動隊のミリシアル艦隊の直上追い越したそうですので、敵ではないかと」
これより前に入った報告では、別動隊は既に壊滅。旗艦などは生き残っているが、それでも半数がやられたらしい。仮に敵ならそんな美味しい獲物を逃さないだろうから、恐らく味方ではある。だが事前情報に、そんな戦力を投入するなんて話は聞いていない。
「何がどうなってるか分からんな。蔵部と直隆に制空装備と対艦攻撃装備の航空隊を上げさせろ。その超巨大飛行物体とやらを追尾させろ。敵じゃないと思うが、敵なら厄介だ」
「アイ・サー。通信!今の命令を伝達しろ!!」
命令を受けた航空戦艦『蔵部』と『直隆』は、直ちに航空隊を発艦させ20機の震電IIが超巨大飛行物体の元へと飛んだ。
『メイデン1、聞こえるか?』
「こちらメイデン1。シャドウペッパー、トラブル発生か?」
『ミリシアル艦隊の無線を傍受した。グラ・バルカス帝国の攻撃隊、20機に襲われてるらしい。援護に迎えるか?』
「ウィルコ。1編隊で足りるだろう。ベックス隊を向かわせる。ベックス1、聞いたな?」
『ウィルコ。援護に向かう。ベックス隊、行くぞ』
4機の震電IIが救援の為に、別動隊の方へと向かう。その間もメイデン1を筆頭とした航空隊は、その超巨大飛行物体目指して飛ぶ。そしてその動きは超巨大飛行物体こと、神聖ミリシアル帝国の空中戦艦『パル・キマイラ』に探知されていた。
「艦長、魔導電磁レーダーが接近する機影を探知しました。しかし」
「どうしたのだね?」
『パル・キマイラ2号機』の艦長、メテオスは言い淀む部下に聞く。そして部下から次に出た報告に、疑問を抱いた。その報告とは「反応が小さすぎるのに、速度が速すぎる」という物だったのだ。前者だけならレーダーの不調の可能性もあるかもしれないが、速度が速いとなると航空機の可能性が出てくる。
因みに魔導電磁レーダーとは、レーダーの電波部分を魔力に置き換えた物である。
「確か、大日本皇国の航空機は速いと聞いたねぇ。もしかすると、皇国の機体があるのかもしれない。アトラタテス砲、攻撃準備だ。ただし、敵を識別するまでは撃たないでくれたまえ」
アトラタテス砲とは対空魔光砲の一種で、簡単に言うと対空魔光砲版バルカン砲である。『パル・キマイラ』には6基のアトラタテス砲が、船体に埋め込まれる形で搭載されているのだ。
「艦長、恐らく接近中の機体から通信が入りました」
「ふむ。私が出よう」
メテオスがマイクを手に取ると、スピーカーから男の声が流れてきた。
『こちらは大日本皇国海軍、空母『瑞鷹』所属のAEW、シャドウペッパーだ。そちらの所属を明らかにされたい』
「こちらは神聖ミリシアル帝国、空中戦艦『パル・キマイラ2号機』の艦長、メテオスだ。まさか君達が、この艦に追い付くとは思わなかったねぇ」
『艦長殿。我々はそちらが、その空中戦艦?を派遣する事の通達を受けておりません。どういう事でしょうか?』
「これはだねぇ、陛下の御慈悲なのだよ。君達の犠牲が少しでも少なくなる様に、我々は君達の救援に来たのだよ。聞けば世界連合艦隊は、既に壊滅。きっと貴君の艦隊も、壊滅的被害を受けたのだろう?」
なんか妙に上から目線なのが地味に苛つくが、まあそこはグッと堪えて、こちらは少し皮肉めに事実を伝える。
『その御慈悲には感謝致しますが、どうやら必要はないようですな。確かに壊滅的被害を受けた世界連合艦隊ですが、既に撤退しております。それに皇国海軍には現状、1隻の沈没は愚か、1人の死傷者も出しておりません』
「ほう、それは驚いたねぇ。ではそんな君達に、我々の戦いを見せてあげよう」
丁度メテオスがそう言った瞬間、雲から震電IIが飛び出した。パイロット達はその姿を見たのだが、余りに異様な姿に言葉を失う。
メルセデスベンツのロゴの様な形状をした円盤で、恐らく中心が艦橋なのだろう。明らかに空力やら物理学やらを無視した形状に、どんな原理で浮いてるのかも想像もつかない。
「我々はこれより、敵艦隊本隊へ向けて進撃を開始する。付いてきたまえ」
『.......どうやら、我々が先行するハメになりそうですよ。敵編隊を探知しました。これより我々は制空戦闘に入ります』
シャドウペッパーのレーダーが、接近する敵編隊を探知したのだ。メイデン1以下、8機の震電IIが敵編隊に向かって加速する。
「感謝しよう。もしかすると、貴君らと我々は良いチームになれるかもしれないな」
『まあその辺は、上が協議するでしょう。ですが今は土壇場ではありますが、協力をお願いします』
「望む所だよシャドウペッパーくん。我々の戦いを、よく見ておく事だ」
先に突入した震電IIが敵編隊に噛みつき、ミサイルと機関砲で敵を圧倒する。
「なんだあの機体は!?」
「恐ろしく速いぞ!!!!」
「護衛戦闘機が追い付いてない!!!!」
負けじと防護機銃やらで反撃するが、そんなのでは震電IIの素早さに追い付けられない。
『メイデン3、FOX2』
「インガンレンジ、ファイア!!」
更に敵を殲滅していると、『パル・キマイラ』も戦域に到着。攻撃を開始する。
「アトラタテス砲、攻撃開始!!」
外郭が回転を始め、アトラタテス砲が発射される。簡単に言えばこちらで言うCIWSなので、その連射力と命中精度は皇国軍に勝るとも劣らない。
「敵、我が方に突っ込んできます」
「装甲強化」
だがグラ・バルカス帝国だって、闘志では負けてはいない。数機のシリウス型爆撃機が急降下してきたのだ。
メテオスはアトラタテス砲では間に合わないと判断し、船体に魔力を流して装甲を強化する事を選択。命令を飛ばす。だが、上にはコイツらだっているのだ。
「俺達忘れてもらっちゃ困るぜ?インガンレンジ、ファイア!!」
メイデン隊が背後に回り込み、20mm弾を浴びせる。シリウスを撃墜し、メイデン隊はそのまま回転する外郭と中心を繋ぐ3本の柱の間をすり抜ける。
「やはり、皇国の戦闘機は強い。評価を上げるべきかもしれないねぇ。記録は取れているかね?」
「バッチリです」
「思わぬ土産ができた物だ」
震電IIの戦いっぷりはしっかり記録され、ミリシアル側に知られる事になるのだが皇国に知る由はない。時を同じくして、別動隊の方にはベックス隊が現場空域に到達していた。
「敵機接近!!」
「まだ来るのか!?一体どれだけの機体を寄越してくるんだ。グラ・バルカス帝国のクソ野郎め!!!!」
司令官のレッタルはそう叫んだ。しかも今度は見張から「左舷より所属不明機、急速接近!」という報告まで上がってきたのだ。本気で怒りと同時に死を覚悟したという。
「艦隊から敵を引き剥がす。FOX3!!」
AIM63烈風が発射され、雷撃コースに入っていたリゲル型雷撃機を破壊。震電IIはそのまま別動隊の旗艦『カレドヴルフ』の目の前を通過する。
艦橋をビリビリと衝撃波が揺らす中、レッタルは確かに機体に描かれた赤い日の丸を見た。
「騎兵隊の到着だ!!!!」
レッタルがそう叫ぶ。ベックス隊は散開し、次々に敵機を屠っていく。しかも敵は全くと言っていい程、対応しきれておらず落されていく。
これに触発されてか、戦意を失いかけていた各艦からも対空砲火が上がる。流石に命中精度が高くなるなんて事はないが、相手には良いプレッシャーにはなる。ベックス隊の乱入から10分程度で、攻撃隊は全機撃墜された。
「ベックス1、ミッションコンプリート。RTB」
『2、コピー』
『3、コピー』
『4、コピー』
「あ、そうだ。お前達、合わせろ。編隊飛行だ」
ベックス隊の各機は艦隊の後方に回り込むと編隊を組む。そのまま艦隊上空を通過すると、機体を外側へとロールさせつつ降下。水面ギリギリで急上昇し、また編隊を組みながら一気に高度を上げながら加速していく。
「アレが大日本皇国の力なのか.......」
レッタルはただただ、敵では無かったことを神に感謝した。
一方、空中戦艦『パル・キマイラ』の方は敵艦隊と接敵。装備された15cm三連装魔導砲を用いて敵艦隊を攻撃していくが、最終的にはグレードアトラスター級戦艦の46cm砲が、1号機に命中し撃墜された。これを受けてメテオスは即座に撤退し、ここにバルチスタ沖海戦は世界連合艦隊は3分の2が沈み、航空兵力は壊滅。さらに先述の通り空中戦艦『パル・キマイラ』が撃墜された。
一方のグラ・バルカス帝国側は戦艦16、空母18、重巡34、軽巡艦 53、駆逐239、潜水艦64の戦力の内、戦艦12、空母10、重巡18、軽巡39、駆逐150が沈み、引き分けという結果を持ってここに終結したのである。