最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第六十二話新兵器と外交交渉(?)

長崎県佐世保市 佐世保駐屯地 師団長室

「師団長!何故、私達は未だに部隊所属にならないのですか!?」

 

師団長室から軍には似つかわしくない、銀鈴の女性の声が響いてくる。師団長室には長い銀髪の美人女性士官と、眼鏡をかけた中年男性が居た。しかも女性の方が男性の方に詰め寄っているという、逆転現象が起きている。

 

「何度も言ってるがね少佐、君達はイレギュラーなのだよ。普通の部隊編成に入れる訳にはいかないんだ」

 

「ですから何度も、単独部隊で運用するように具申してるではありませんかッ!!」

 

「簡単に言ってくれるけどねぇ、難しいんだよ。色々と」

 

この女性士官は、新たに開発された新型機甲兵器のみで編成された部隊の指揮官、長谷川麗奈少佐である。彼女は国防大学を首席で卒業した才女であり、今回、新たに編成された新型機甲兵器のみで編成された部隊の指揮官に抜擢された。

と言えば聞こえが良い。若くして新設部隊の指揮官。大抜擢と言えよう。だがそもそもの新兵器に問題があるのだ。というのもその新兵器が、既存の機甲兵器とは違いすぎる兵器なのだ。しかも兵器自体がピーキーで何人ものテストパイロットを病院送りにし、今は首の皮一枚で存在してるような状況。そんな兵器を集めた部隊を作る事になったのだが、その隊を率いる指揮官として『才女』と謳われた長谷川を充てがった。

ところが何故か行く先々の上官連中は事勿れ主義者しか引けず、見事にタライ回しにされてここに行き着いたのだ。

 

「君も、そろそろ現実を見たまえ。あんな駄作兵器、さっさと廃棄してしまえば良いのだ」

 

「お言葉ですが、あの兵器は使いこなせれば現用の戦車以上の働きをします!駄作ではありません!!」

 

「そうかね。まあ、私にはどうでも良い事だ。下がりたまえ」

 

長谷川は怒鳴りたくなる衝動をグッと堪えて、師団長室を後にした。少し離れた廊下まで来ると、一気にため息を吐く。

 

「はぁ〜〜.......。これ、どうしたらいいのよ.......」

 

「どうだったんですか、麗奈?」

 

そう言って声を掛けてきたのは、部隊の戦隊総隊長である千葉真影である。戦隊総隊長と言いつつ実際の所は現場のリーダーであり、長谷川も実戦では大体千葉に細かい指揮は丸投げしている。

 

「シン〜!またダメでした。あの師団長、全く話を聞いてくれようともしてくれませんし.......」

 

「まあここの師団長は、極度の事勿れ主義者で有名ですから」

 

「あうぅ.......。なんでこうも私ってくじ運ないんでしょうか?」

 

「こればかりはくじ運で片付く問題でも無いと思いますが.......」

 

長谷川は基本的に、結構運がない。二択を選ぶにしても、10回やって8回か9回はハズレを引く。

 

「うぅ.......こんなんじゃ、皆さんに顔向けできませんよ..............」

 

「そんなことありません。少佐は良くやっていると思います」

 

「シン〜!!」

 

「あー、目の前でイチャつくのやめて貰っていいか?」

 

イチャつこうとしていた2人の背後に、高身長のワイルドな男が立っていた。千葉の部下にして、一番の親友。山下雷電である。

 

「い、イチャついてませんよ山下中尉!!!!」

 

「雷電、イチャついてはいない。断じて」

 

「へいへい、だが俺も仕事でね。2人とも、そろそろ、ほら」

 

そう言いながら山下は、自身の腕時計を2人に見せながら指差す。2人を時計を見て、すぐに走り出した。演習の時間が迫っていたのだ。

 

「相変わらず、仲良いなぁ。さーて、俺も行きますかね」

 

山下も2人を追いかけて、演習場へと走る。演習場には新兵器、XMLT1土蜘蛛が居た。この機体、本来は『戦車に代わる新たな機甲兵器』というコンセプトで開発された筈が、いつの間にやら比喩なしの殺人的機動力を発揮する超高機動機体に仕上がっていたという兵器である。

 

「遅いよ雷電」

 

「すまんすまん」

 

「弛んでるんじゃないのか?」

 

「いや俺はテメェを呼びに行ったんだろうが!!」

 

何故かちゃっかり先に出撃準備を終わらせている千葉が、コックピットからそう言う。この部隊じゃよくある話なので、他の仲間達からは笑いが出る。

 

『戦隊各位、準備は宜しいですか?』

 

「こちらアンダーテイカー、問題ありません。演習場内に侵入します」

 

四足歩行の特異な戦車達が、演習場の中へと入ってゆく。だが、全部が全部同じ装備ではない。操縦者達の戦闘スタイルに合わせた武装となっている。例えば戦隊長である『アンダーテイカー』こと千葉は基本装備の90mm滑腔砲に、副兵装として高周波ブレードを搭載している。山下なら60mm機関砲、他の者も思い思いの装備で結構バラバラである。

 

『演習のミッションデータを送ります』

 

「.......確認しました、状況開始します」

 

千葉がそう返答したのと同時に、演習場内に的が複数出現する。レーダーでその位置を確認しつつ、まずは長谷川が指示を出し、それを千葉が戦況や流れにあったポイントに誘導して攻撃を開始する。

 

「スノウウィッチ、ポイント214に制圧攻撃を頼む」

 

『わかったわ』

 

「ヴァアヴォルフ、援護頼む」

 

『へいへい』

 

『おいアンダーテイカー!!前に出すぎるな!!!!おい待て!!!!』

 

『ははっ。やっぱりシンは、こういう時ツッコむよね。なら俺も付き合わないとな』

 

桐谷裕翔ことペイルライダーの静止を振り切り、山下の援護を受けつつ千葉が目標に向かって突撃を敢行する。それを見ていた千葉翔麗ことデュラハンが追いかけて、2機で敵陣へと突っ込んで行く。

 

『シンの奴、また無茶してるよ。ラフィングフォックス、援護行けるか?』

 

『行けるよー』

 

『こっちも片付いたし、手伝うぜ!』

 

それを見ていた石谷大弥ことブラックドッグ、藤原瀬音ことラフィングフォックス、山下春渡ことファルケの3人が突っ込んでいった2人を援護する。因みに千葉翔麗が兄、千葉真影が弟である。

 

『あっ!クソッ、死神の奴突っ込んで行きやがった!!私達も行くぞ!!』

 

『キュクロプス、待ちなさい!そのまま右から接近中の敵部隊を叩いてください。正面はアンダーテイカーとデュラハンに任せて大丈夫です』

 

『わかったよ女王陛下!』

 

一見連携も何もあった物じゃない。まるで自分達がやりたいように好き放題暴れている様に見えるが、それは違う。確かにある程度自由気ままに戦っているが、絶妙な線引きで連携を取り合っている。阿吽の呼吸、という表現がベストかもしれない。彼らは彼らなりの意思を全体の共通意思として、それを達するべく1つの生命体の様に群となって蠢いているのだ。

 

「やはり、あの部隊は俺達の部隊にこそ相応しい」

 

この演習の様子を双眼鏡で覗いていたサングラスを掛けた男、というか神谷がそう呟いた。暫くして演習が終わり、機体が格納スペースへと戻ってきた。

 

「おいシン!!千葉真影!!!!」

 

「.......」

 

「無視をするな!!こっちを向け!!!!」

 

「なんだ裕翔」

 

「なんだじゃない!!さっきの演習、貴様は戦隊総隊長!この独立試験隊の副隊長なのだから、もっと規律を遵守しろ!!!!」

 

桐谷とシンは、基本的に仲が悪い。桐谷は真面目、シンはマイペースな奴なので公私共に大体ぶつかる。因みに桐谷と千葉兄弟は親戚に当たる。正確には兄弟の父方の祖父の兄弟の末っ子の孫が、この桐谷に当たる。まあまあ遠い親戚だが、昔から結構な頻度であってるので実質兄弟みたいな物だ。

 

「まあまあ裕翔、その辺で」

 

「レイ!!君も君だ!!!!シンの兄だろ?止めないか!!」

 

「あはは、ついアドレナリンが」

 

微笑ましい3人の喧嘩を、部隊の仲間たちも微笑ましそうに見ている。いつの間にやら指揮官である長谷川も帰ってきていて、喧嘩を止めようか放置しようかで悩んでいるのかオロオロしていた。

そんな中、手をパチパチと叩く音が格納庫と宿舎を結ぶシャッターの方から聞こえてきた。

 

「お前達の戦闘、素晴らしかったぞ」

 

「いやアンタ誰だよ!」

 

赤髪、オッドアイ、高身長、スタイル抜群の口の悪い女が早速ツッコんだ。因みにこの女がキュクロプスこと泊明紫電である。

 

「あんな奴、基地にいたっけ?」

「さぁ?ってか、なんで私服?」

「あのシャツ、DIORのブランド物よ?」

「え、マジ?」

 

「いやまぁ誰って…」

 

土蜘蛛の周りで何か色々話してる連中をスルーしつつ、サングラスを外した。

 

「元帥ですけど?」

 

そこに居たのは、自分達の上官だったのだ。全員、驚いた。ある者は土蜘蛛から転げ落ち、ある者は飲んでいたペットボトルを落としてしまった。

 

「.......あ、あのぉ?」

 

そんな中、代表して長谷川が質問をする。他の者は未だ、驚きから復活していない。

 

「なんだ少佐?」

 

「一体ここには、何をしに来られたのですか?」

 

「君達をスカウトしにきた」

 

「す、スカウトですか?」

 

いきなり現れて、いきなりスカウト言われても、理解が追いつかない。長谷川もどうにか食いつけてる状況で、理解は完全には追いついてない。

 

「そうだ。この部隊の保有する土蜘蛛の有効利用法を考えた時、特殊部隊の様な輸送できる火力が限られてしまう部隊に配置するのが得策だと考えた。

更にこの兵器は出来立てホヤホヤの新機軸の兵器かつ、これまでの機甲戦力と同じ様に運用できる代物でも無い。となれば、俺の直下で動かした方が色々自由も聞くだろ?どうだ少佐、俺の所で好き勝手暴れてみないか?」

 

「いや、でも、それは.......」

 

「今の師団長が許さない、ってか?心配すんな、今から話を付けてきてやる。重要なのは、お前達が俺の元で戦いたいか、戦いたくないかだ」

 

そう問われた時、長谷川の答えは半分決まった様な物だった。あんな師団長の下で戦うよりも、目の前の男の方が遥かに信頼が置けるのは確か。だがらと言って、自分1人の勝手な一存で「はい、良いですよ」とは言えない。仲間達の意見も聞かない事には、答えは出せない。

 

「.......お話は嬉しいですが、これは私の一存では決められません。みんなの意見を」

「その心配は要りません、少佐。こちらの意見は、満場一致で長官の元に行く事になりました」

 

「おお、仕事早いねぇ。少佐、良い部下を持ってるな。さて、では改めて聞こう。長谷川麗奈少佐、君は俺と共に世界で暴れたいか?」

 

「一緒に.......暴れたいです!!」

 

そう答えると、神谷は笑った。豪快に。不敵に。これで残すは師団長の説得だが、それは神谷がやるべき事なので長谷川らは一度、宿舎に戻って貰った。

神谷はその足で、師団長室のある棟へと向かう。

 

「師団長、いるか?」

 

「こ、これはこれは神谷閣下。本日はどう言った御用でしょう?」

 

「君の所にいる、例の新鋭機甲部隊。アレを俺に寄越せ」

 

そう言われても、師団長だって困る。仮にそれで、すぐにヒョイと渡しては面子が立たないのだ。

 

「そういきなり言われても、困りますなぁ。彼らは私の保有する部隊の中で、一番の精鋭。代価を支払って貰いませんとなぁ」

 

「精鋭、ねぇ?」

 

神谷は無言で懐からスマホを取り出して、さっき録音させて貰った音声を再生する。

 

『あんな駄作兵器、さっさと廃棄してしまえば良いのだよ』

 

「ッ!?」

 

「こう言ってるが?」

 

「ぐっ.......喜んで、お渡し致します.......」

 

「理解に感謝する。あぁ、そうだ。これからは発言後の責任も考えて、発言したまえ」

 

まさかあの時の発言が録音されてるとは思ってなかったのか、顔には困惑の表情と焦りが同居していて地味におもしろい。

師団長室を出て、今度は適当な会議室に独立試験隊の面々を集めた。

 

「起立!気を付け!敬礼!!」

 

「あぁ、そんな畏まらなくて良いから。畏まるな、って言っても難しいだろうがな。別にガチガチになって聞かなくていいから。楽にして聞いて欲しい」

 

いつもの事だが、やはり軍のトップである以上、会う軍人達からは毎回畏まられる。だが神谷としては、余りそういうのは得意ではないので、こういう風に言うのが常だ。因みに神谷戦闘団の連中は、もうその辺を知っているので最初と最後だけキチッとして、残りは基本楽にする。

 

「さて諸君、さっきもあったが改めて初めから話そう。神谷浩三だ、これからよろしく頼む。今回ここに来たのは君達をスカウトする為だ。知っての通り、この世界は旧世界程、国際間の道徳というかルールというか、何と言えば良いかな。とにかく、旧世界の常識が通用しない。今は亡きパーパルディア皇国の様な、狂いまくった国家も存在している。

そう言った国々と戦うとなると、我が戦闘団の様な自由度の高い部隊が適任となってくる。そこで現在、部隊の増強を図っていてな。スカウトもその一つ、という訳だ。君達の運用するXMLT1土蜘蛛は、なんだかんだで高機動、高速、軽量の三拍子が揃った兵器になった。普通の機甲戦力として活用してしまえばすぐスクラップだろうが、我々の様な特殊部隊では最も必要とされる戦力だ。という訳で君達を、我が神谷戦闘団、正確にはそれとは別の新部隊として丸々迎えたい」

 

「あの、質問よろしいでしょうか?」

 

「いいぞ少佐。なんだ?」

 

「新部隊、というのはどの様な?」

 

「新部隊とはいうが、実質は今のまんまだ。神谷戦闘団の組織図は、俺を頂点とし、その下に白亜衆を形成する一個ずつの歩兵、装甲歩兵連隊がある。そのもう1つ下に三個歩兵師団、二個重装歩兵師団、二個戦車師団、二個砲兵連隊、三個対戦車ヘリコプター隊、それから専用輸送部隊『トランサー』と護衛戦闘機隊『ラーズグリーズ』からなる神谷戦闘団がある。

君達には新たに作る、土蜘蛛とそのバックアップ部隊だけの新たな独立機甲部隊に入ってもらう」

 

独立試験隊の面々は、この新たな部隊の編成に驚いた。というのも、ここに配属されてる者の大半は戦闘技術は凄まじいが、一癖も二癖もある連中ばかり。簡単に言えば、人事上の流刑地の様な物なのだ。それ故に、彼らは他部隊との共闘というのが余り得意ではない。

しかしこんな風に独立した別部隊という形なら、共闘時もある程度の自由が認められる。こちらの長所と短所を生かす編成をする辺り、やはり目の前の男は信頼に値すると、そう結論づけた。

 

「移動とかその辺の日程はこちらから後程送るが、なるべく早く来てもらう。というのもな.......」

 

ここで少し、神谷は言葉に詰まる。一応ここから先は、今は機密扱いになっている。余り漏らしたくはないが、ここで言ってしまった方が楽でもある。

 

「いや、流石に大人数には言えんな。指揮官階級のみ残り、残りは外してくれ」

 

その結果残ったのは、この10人。

・独立試験隊指揮官 長谷川麗奈(ブラッディレジーナ)

・総戦隊長兼第一戦隊『スピアヘッド』戦隊長 千葉真影(アンダーテイカー)

・第二戦隊『スレッジハマー』戦隊長 千葉翔麗(デュラハン)

・第三戦隊『レザーエッジ』戦隊長 藤原瀬音(ラフィングフォックス)

・第四戦隊『ロングボウ』戦隊長 谷家春香(キルシュブリューデ)

・第五戦隊『ファランクス』戦隊長 早見杏樹(スノウウィッチ)

・第六戦隊『クレイモア』戦隊長 石谷大弥(ブラックドッグ)

・第七戦隊『ブリジンガメン』戦隊長 泊明紫電(キュクロプス)

・第八戦隊『サンダーボルト』戦隊長 上村霧矢(ペイルライダー)

・第九戦隊『ノルトリヒト』戦隊長 本山明夫(ヴァルグス)

 

「さて、じゃあ話すか。まだこれは確定事項でもないし、何なら機密扱いだ。その辺を理解して聞いて欲しい。

現在、統合参謀本部は第二文明圏方面への派兵を計画している。目的はムー西部に集結中とされる、グラ・バルカス帝国軍を殲滅し、ムーを防衛する事だ。これを受けて、我が神谷戦闘団がこの尖兵として投入される事が決定した。これが増強とスカウトの理由だ。

君達は近日中に東京へ本拠地を移動して貰い、然る後に戦闘団へと合流する事になるだろう。何か質問はあるか?」

 

この後、幾つか質問に答えて解散。神谷も飛行機に乗り込んだのだが、その道中、川山から連絡が入った。

 

「あれ、どしたの慎太郎?」

 

『浩三、悪い、ちょっと会議に参加してくれ』

 

川山がこう言ったのには、理由があった。というのも、今川山は日本に居ない。ムーとミリシアルとの調整の為、神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリスに居るのだ。

 

『例の第二文明圏への派兵について、お前の話が聞きたいそうだ』

 

「それは構わんが、ミリシアル側はなんて言ってるんだ?」

 

『あちらさんは「もし我々に気を遣っているのなら、その必要はない」だそうだ』

 

神谷が派兵を遅らせたのは、ミリシアル側の感情を考慮してのことだった。ポッと出の新人に手柄を総ナメにされて喜ぶ者はいない。多かれ少なかれ、心の内に嫉妬が生まれる物だ。

あくまでムーは同盟国である以上助ける必要はあるが、政治を挟んで少し派兵が遅れても気にはしない。これが皇国の存亡に関わるのなら、問答無用で送り込むが今は政治を気にしても問題はない。そこで派兵は、ミリシアル側の意向を汲むことで3人は合意したのだ。

 

「了解した。それじゃ、相手さんに繋げてくれ」

 

『わかった』

 

パソコンの画面に映し出されたのは2人の人物であった。1人はムー外務省、列強担当課の課長、オーディグス。もう1人は神聖ミリシアル帝国外務省、対グラ・バルカス帝国担当部の部長、エンドルンである。

 

「どうも、初めまして。大日本皇国統合軍、総司令長官の神谷浩三です。今回のお話は我が軍の派兵について、でよろしいですね?」

 

『はい。ムー国北西には、アルーという人口13万4千人の高原の町があります。位置は旧レイフォル領国境から20kmの位置にあり、国境の町といって良いでしょう。旧レイフォル領側にも、小さな町があります。

最近我が国が得た確度の高い情報によりますと、グラ・バルカス帝国陸軍が集結しつつあるようです』

 

流石に「うん、それもう知ってる」とは言えないので、静かに話を聞く。もしかしたら向こうが新たに、何かしらの情報を得ている場合もあるので遮るのはデメリットしか無いのだ。

 

『街にはすでに避難指示を出しており、我が軍も向かいつつあります。しかし、バルチスタ沖海戦において、我が軍はグラ・バルカス帝国に手も足も出なかった。カルトアルパスでは『ラ・カサミ』と『ラ・イーセ』の活躍はありましたが、被害は相当な物でした。

さらにご承知の通り、あの神聖ミリシアル帝国でさえも劣勢に追い込まれ、最後には古の魔法帝国の超兵器、空中戦艦でさえも撃沈されています』

 

オーディグスの言う通り、バルチスタ沖海戦は負けなんて可愛い物では無い大敗北を喫したし、カルトアルパスも皇国の力でテコ入れして勝てたような物。この辺りの現実をしっかり客観的かつ冷静に分析できてる辺り、ムーの本気度が伺える。

 

『我が国では戦う前、グラ・バルカス帝国の真の脅威を主張する者は、技術者等、ほんの一部しかいなかった。多くの軍人、外交官、政治家も、これほどまでに奴らが、奴らが強すぎるなんて、考えてもいなかったのです!!!ある程度は戦えるだろう。神聖ミリシアル帝国までもが参加すれば、第二文明圏から駆逐できるだろう。そう考えていました。今、陸上侵攻の可能性が高まり、現在アルーの民は命の危機にさらされています。

帝国とムーがぶつかり、市街戦となった場合はどれほどの被害が出るのか.......。考えただけでも恐ろしい。彼らの侵攻は、この街にとどまらず、戦火はムー全土に及ぶでしょう。そして、彼らを止める力が我々には無い』

 

『我が神聖ミリシアル帝国もご承知の通り、バルチスタ沖海戦による損害は計り知れない物がありました。現在海軍の再編成を行なっており、第二文明圏方面への援軍は殆ど出せないというのが現状です』

 

エンドルンからは悔しそうな声で、そう言われた。潜水艦が闊歩しているだろう海域を丸裸の輸送船で航行するのは自殺行為だろうし、流石に海軍の援護が無いと戦術的にも面子的にも成り立たない。

 

『グラ・バルカス帝国の脅威を唱えた技術者たちは、口をそろえてこうも言います。

「日本ならば勝てる。大日本皇国に救いを求めるべきだ」と……。

我が国の願いはただ一つ、軍事支援です。グラ・バルカス帝国を第2文明圏から叩きだす事が出来る、効果的な軍事支援が欲しい!!!少しでも........可能な限り早い支援をお願いしたいのです!!

大日本皇国が1日でも早く軍を派遣して下さると、数百、いや、数千の命が救われるでしょう。どうか、どうかお願いしたい!!!!』

 

『私からも強く、お願いしたい!!!!もしも我が国の面子の為に渋っているのなら、それは気にしないで頂いて結構!!!!それよりもどうか、皇国の力で友邦ムーを救っていただきたい!!!!』

 

オーディグスとエンドルンの2人が、揃って頭を下げた。ここまでされて「NO」とは言えないし、元より言うつもりもない。答えは決まっている。

 

「頭をお上げください。色々手続きがありますので今日明日とは言えませんが、必ず援軍を送ります。それに私は今、この派兵に向けて各基地を飛び回っているのですから。それこそ今だって、その帰りですからね。

我が大日本皇国統合軍は既に、そちらへの派兵、ないしレイフォルを筆頭とした第二文明圏全域の解放を視野に入れた部隊の編成に入っております。例えば海軍が保有する八個主力艦隊を全てを統合し、新たに就役した究極超戦艦『日ノ本』を筆頭とした聨合艦隊を編成することであったり、空軍のエース級部隊を集めて集中的に運用する『Long(L) Range(R) Strategic(S) Strike(S) Group(G)計画』を構想していたり、私の指揮する戦闘団の増強を図っています。

恐らくそう遠く無いうちに、私が部隊を率いてそちらに迫りくるグラ・バルカス帝国の軍人どもに死をプレゼントしに行きますよ」

 

『浩三、お前それ』

 

「別に構うかよ。これ位で気休めになるんなら、安いもんだろ」

 

実際、オーディグスとエンドルンは2人とも安心そうな顔になっている。これで良いのだ。

 

「あーっと、もう着陸だ。では、これにて」

 

実質的な参戦の確約が出来た事で、オーディグスもエンドルンも会談に来た時よりも幾分かマシな顔で帰っていた。それを見送ると、川山は迎えの機体に乗り込んでムーへと飛ぶ。今度はそこで、神谷と待ち合わせるのだ。

目的は、グラ・バルカス帝国との戦闘回避を模索する為………なんて、甘ったれた理由は表向き。真の目的は適当に戦力を見せて、時間稼ぎをする事。今回の戦争、皇国も最大限利用する事が決まっている。その1つとして、皇国軍を世界の表舞台のセンターで暴れさせるのだ。だがそんな盛大なショーを催すとなると、準備に時間がかかる。この時間を稼ぐ為に、交渉しに行くのだ。神谷がついていくのは護衛目的で、秘密裏について行くことになっている。

2人はムーからレイフォルへと入り、いつかの捕虜奪還交渉を行った現地行政府へと向かう。

 

 

 

翌日午後 レイフォル現地行政府

「良くいらした、皇国の外交官。確か、川山とか言ったかな?

今、先の海戦が原因で、我が国に降る国が多すぎてね。午前中もひまわり油王国だか、ヒノマワリ王国だかが降った所だ。そういう具合に外務省は多忙を極めていてね、要件は手短に話してもらえると助かる」

 

あの捕虜奪還交渉で舐めた態度を取りまくっていた、確かダラスとか言う奴が、やはりこちらを完全に舐め切った態度で接してくる。

 

「先のバルチスタ沖海戦で、貴国と世界連合が、痛み分けで終わった事は聞いています。貴国は当初、世界会議で全世界に向けて、我が国を含め宣戦布告を行った。しかし痛み分けと言いつつ、全軍の半数以上が吹き飛ばされた。もう世界征服なんて、大それたことを成し遂げるのは無理だと気付いているのではないですか?」

 

流石に川山とて人間なので、ここまで舐められた態度で接せられるとイライラを募る。なので少し挑発して、ダラスに言ってやった。言われたダラスは表情が変わる。

 

「フン!お前たちは海戦の詳細を知らないようだな........。

我が国が苦戦したのは空中戦艦と謎のレーザー魔法のみだ、それも軍部ではすでに対策を考えているぞ。

神聖ミリシアル帝国以外の国は、いくら数が増えようとものの数ではないわ!!!」

 

無論ハッタリだ。空中戦艦を倒したのはあくまで奇跡であり、あんなのそうポンポンできる代物でも無い。レーザー魔法ことプラズマ粒子波動砲だって、皇国にだって正面からぶつかり合って防ぐ術は無いのに、たかが第二次世界大戦程度の技術しかない国家に防げる訳がない。

そんな見えすいた揺さぶりで、三英傑が1人にして特別外交官である川山慎太郎の心は乱れない。

 

「貴国は転移後、軍事技術格差を生かして無敵を誇った。貴国が強く、外交的に決して舐められぬ事は証明出来ているはずだ。

もう良いだろう?貴国の目指すべき所は何なのだ?」

 

「お前らには解るまい.......。すべては帝王グラ・ルークス陛下の御意志のままなのだ。

グラ・ルークス陛下の書にはこうある。

 

いさかいが起こるのは、国家単位で意識が細分化し、それぞれが国益のみに囚われて行動するからであると。

真の平和を望むなら、圧倒的な力で各国家を統治する事が必要である。

 

しかし民度によって同一の支配方法では、国に混乱を与える事例が散見された。そこで土地土地に会う統治方法を認めた上で、圧倒的な力で管理するのだ。

我が国が目指すところ、それは永遠の平和であると断言しよう」

 

戦争を仕掛けてきておいて、平和を目指すという言葉に絶句する川山。だがすぐに現実へと意識を戻し、更に質問する。

 

「しかし、貴国は支配地から富を吸い上げているではないか。これで真の平和が得られると思うのか?」

 

「日本国は、地方自治体から税を吸い上げていないのか?本社が首都にあるという理由から、地方で得た富を首都あるいは国が吸い上げてはいないのか?

日本国も一定の文明レベルにあると聞く。大体の国がそうだが、貴国も過去に内乱を経験し、統治しているのではないのかね。我が国は、それを世界レベルで行おうとしているに過ぎない」

 

確かにダラスの言う通り、日本だって各地方自治体が税金を取っているし、それが最終的に国家の収入となる。だがこんな『搾取』クラスの税金なんて取っていない。

ここでダラスは、今回の本質について聞いてきた。

 

「茶番は良いだろう。日本国が今回来た目的は何だ?我が国を挑発しにきただけでもなかろう」

 

「……我が国の事を、少しでも知ってもらおうと.......。そして.......貴国に多大な死者を出す前に、再考してもらおうかと思ってね」

 

「今、我が国が何を見ようが、何を説明されようが、国家の目指す世界統治の目標は変わらぬ。もちろん、征服範囲には日本も含まれるがな。

弱き国の外交官よ、本来ならば追い返しても良い所だが、この帝国の強さを知り、なおもたてつく貴国に敬意を表して説明を許す」

 

「くっ、ククク。はははっ」

 

思わず笑ってしまう川山。ダラスは「何がおかしい!!!!」と怒鳴り付けてくる。

 

「皇国が弱き国?帝国の強さ?笑わせる。アンタ、外交官やるより芸人でもやった方が良いぜ?もし外務省やめたら、芸人やると良いよ。

さて、それじゃ、始めますかね。最近、俺の良いところ皆無だったしな。これでも一応、三英傑なのに」

 

ダラスと、その隣で今まで黙っていたシエリアの目つきが変わった。やはり2人に取って『三英傑』とは、1つのキーワードらしい。

 

「貴様が三英傑.......だと.......」

 

「あぁ。そういう事なら、改めて自己紹介を。大日本皇国外務省特別外交官にして、大日本皇国第134代内閣総理大臣たる一色健太郎、大日本皇国統合軍総司令長官たる神谷浩三・修羅と共に『三英傑』に名を連ねる者。川山慎太郎です。今更ながら、以後、よろしくお願いします」

 

まさか目の前のただの外交官が、あの神谷浩三・修羅と同じ三英傑とは思わなかったらしい。何方もフリーズして、驚愕の眼差しで川山を見ている。

そんな2人を尻目に、川山はせっせとノートパソコンを操作して紹介映像を見せる準備を進める。グラ・バルカス帝国人の見慣れた映像が見れる機械といえばテレビなのだが、アナログの白黒テレビ、つまり大きい箱、小さい画面、白黒で、画質の悪いテレビなのだ。それに比べて厚さが無いのではないかというほどに薄い。故に最初2人はそれが映像を見せる装置だとは気づかなかった。

 

「これより、大日本皇国についてまとめた簡単な映像を見ていただきます」

 

川山の説明によりシエリアが川山が披露した機械がテレビないし、それに準ずる映像再生装置だと気付く。

 

「そ、それはテレビか?」

 

「いえ、ノートパソコンという機械になります。映像や写真を見る事や、メール、インターネットへの接続、買い物、設計、書類や資料の作成、動画の編集、絵を描く事だって出来ますよ。

 

「電源の規格が会わないのではないか?」

 

「これは電池を内蔵しているので、ご心配無く」

 

「本国から中継するつもりか?大型機械の持ち込みは許可されていないはずだが」

 

「いえ、データの映像を見てもらうだけです。これにデータは入っていますので」

 

そう言いながら、川山はシエリアにUSBメモリを見せた。別に何か特別な物ではなく、普通にその辺の電気屋に売ってるちょっと容量多めのプライベートUSBである。

 

「「!!!」」

 

だが、そうであっても2人に取っては見たこともない装置。驚きを通り越して、絶句していた。映像を流すためにはテレビ局で大掛かりな装置を使い、大きなテープにそれを記録し再生にももちろん大きなサイズの機材を要する。

それが、赤ちゃんの手よりも小さいサイズのカード状の装置に記録され、劇的に薄いテレビが再生機能も備えているなど、グラ・バルカス帝国では考えられない事だった。先述の通り帝国においては未だ白黒テレビで、何なら庶民にはちょっとお高い買い物。その為、VHSビデオテープですら遥か未来の技術である。この反応も仕方がない。特にシエリアは元々理系大学に通っていたので、その凄さをより深く理解した。

一方、同席していたダラスは文系出身の人間であり、この技術格差に気付いていないようであった。

 

『グラ・バルカス帝国のみなさん、これから大日本皇国について、説明をいたします』

 

ナレーションが始まり、映像が流され始めた。見た事が無いほどの美しい、自国のはるか先を行く精細な解像度と色鮮やかな映像。まずは皇国の自然について解説が始まった。春は桜、夏は向日葵、秋は紅葉、冬は雪と四季により変化する色合いを見せる自然、美しかった。

映像は続き神話、日本国の成り立ち、2度に渡る蒙古襲来、戦国時代と、時を追って進む。流石にこの辺の映像は、絵巻や大河ドラマの物を使用している。

やがて、映像はカラー画像から彼らの見慣れた白黒画像となり、70年前の大戦争、つまり大東亜戦争の映像が流れ始めた。

 

「ば、そんなバカな!!!はっ!!」

 

思わず声の漏れるダラス。映像には、グレードアトラスターに酷似した戦艦が写っていた。

アルタイル急降下爆撃機に酷似した機体が、猛烈な対空砲火、正に光の雨とも言える、とてつもない弾幕をかいくぐり、敵の空母に果敢に爆弾を落とす様や、大規模な陸上戦の映像もあった。さらには原爆投下の瞬間、更地となった東京、その下で逃げ惑う国民。中には惨たらしい遺体の写真もあった。

そして最終作戦である、米本土上陸作戦とワシントン強襲。最前線で馬を駆る、若かりし頃の神谷倉吉の姿もある。

終戦後、更地だった東京都は、たったの30年で復活し、約110年後には、帝都ラグナを超えるのではないかと思えるほど、超未来的な発展を遂げる。街には帝国を遥かに上回る量、そして質の高い車が行き交い、鉄道は時速300kmと、比較にならないほどの速さで走る。更には日本列島を縦断するリニアモーターカーもあり、こちらは最大700kmを出す。

映像が終わった時、シエリアは汗でびっしょりと濡れていた。川山は畳みかける。

 

「これはあくまで、皇国の歴史。次は皇国が保有する、統合軍についてお見せ致します。その前に、簡単にどの様な世界に居たのかを映像を見てもらいましょう」

 

まず再生されたのは、6つの旗から始まる映像だった。『これ以上の地獄は無いだろうと信じたかった。されど人類最悪の日はいつも唐突に』という歌詞と共に、白黒の映像が流れる。更に歌詞が進むと『奴らは駆逐すべき敵だ』という歌詞と共に、何故か日本の国旗が他の2国の国旗と共に映し出される。だが2番の歌詞では『奴らは憎悪すべき敵だ』というので、また別の3枚の国旗が映された。1番と2番のサビを見比べてみると、1番で撃破されていた国の兵器が、2番では撃破する側になっている。恐らく、互いの国の立場で描かれているのだろう。

2番の歌詞が終わるとメロディだけが流れ出し、悲惨な戦闘の映像や白黒の映像が流れる。そして最後は時計の針が高速で進むと共に、様々な写真がそれに合わせて螺旋状に映し出されていく。そしてまた歌詞が始まると、映像は一気に綺麗になり、予想だにしない映像が流れてきた。巨大なビルが爆発し謎の旗を振り回す民兵達が、トラックを乗り回す映像が流れたのだ。それが終わると元いた惑星が回転する映像を背景に、さっきの国旗と概ね同じ国旗がまた映されて、破壊された兵器や墓地の映像が『さーさげよ、ささーげよ、しーんぞうをささーげよ。全ての苦難は今、この瞬間のために』という歌詞と共に流れる。最後のサビでは各国の兵器と思われる様々な兵器が映し出されて、最後は各国の軍人達が整列している映像で終わった。たった5分程度だというのに、映像も歌詞も引き込まれる物であった。

因みにこれ、川山が神谷に相談したら、神谷が選んで来たYouTubeのMAD動画である。著作権?バレなきゃ犯罪じゃ無いんですよ。

 

「次は皇国軍の映像ですね」

 

そう言って再生されたのは、今まで以上にスタイリッシュというか、映像の字幕も近未来のSFの様なタッチになっていた。ナレーションも、何故か伝説の傭兵がやってそうな野太い声である。陸、海、空、陸戦隊、特打撃隊の兵器群が登場し、最後の統合軍のシーンではコイツが出て来た。

 

『統合軍は本来、独自の部隊を持たない。あくまで全ての軍事組織を統合した物が、統合軍なのだ。だが唯一、とある部隊を保有している。その部隊こそ『神谷戦闘団』。軍内で唯一の常時編成の戦闘団であり、常に最前線に飛び込む。ついた通り名は『国境なき軍団』。この部隊ある限り、皇国に敗北は無いだろう』

 

「とまあ、そんな具合です。現在、グラ・バルカス帝国軍はムーとの国境の町、アルー西側約30kmの位置に基地を作りつつありますよね?

我々は先ほども出ていた、人工衛星という技術で既に把握をしています。決してアルーに、ムー国に侵攻する事が無いよう、上の方々にしっかりと伝えていただきたい。大日本皇国は同盟国、ムーを守るために、本格的に参戦する準備がある。

重ねて申し上げる。あなた方の技術はすでに、我々が110年前に通過した場所だ。110年もの技術格差がどういったものか、あなた方でも理解して頂けるだろう。帝国がムーへの侵略を開始した時、グラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるだろう」

 

ある程度技術に精通しているシエリアは、絶句する。まだ日本国の全体の規模や国力、継続戦闘能力は解らない。しかし、もしも映像が真実であった場合、少なくともこれまでのように簡単に勝てる相手ではないという事を理解した。

だがダラスはあの映像でバグってしまったのか、笑い転げながら机にあったライトスタンドで川山をぶん殴ろうとした。

 

「この詐欺師めがぁぁぁぉぁ!!!!!」

 

「ダラスよせ!!!!」

 

シエリアが制止したが時既に遅く、もうライトスタンドが頭に当たる寸前だった。だが、川山は堂々とダラスの顔を睨み続け、全く防ぐ様子もない。川山は知っている。この攻撃は当たらない。何故なら…

 

「遅い!!!!」

 

川山の隣には、最強の兵士が居るのだから。頭に当たる前にライトスタンドのスタンド部分と、ライトの部分を切り落としたのだ。

 

「.......はっ!私は何を」

 

「ダラス!!!!この馬鹿者めがッ!!!!外交の使者を殴ろうとする者があるか!!!!!」

 

「そうだぞクソ野郎。全く、野蛮なのはどっちやら」

 

その言葉が聞こえた瞬間、ダラスは壁へと投げ飛ばされた。何が起きたか分からないシエリアとダラス。だが次の瞬間、いきなり空間が剥がれ落ちるようにして、あの男が刀を抜いた状態で立っていたのだ。

 

「お前は.......!!」

 

「神谷浩三・修羅........」

 

「その通り。神谷浩三・修羅、ここに見参ってな。さーて、ダラスとか言ったか?」

 

神谷は刀の切っ先を、ダラスの首へと向ける。少しでも神谷が腕を伸ばせば、そのまま突けてしまう距離だ。

 

「テメェ、俺の友達を殴ろうとしたよな?死ぬ覚悟あるんだろうな?

と、そのまま殺してやりたい所だが、ここは外交の場。流血沙汰は避けよう。俺の任務は護衛だしな」

 

ダラスはヘナヘナと腰を抜かして、そのまま震えて歯もガチガチ鳴らしてみっともない。

 

「.......川山殿。何故、ここにあの神谷浩三・修羅がいるのだ?本当に、護衛か?」

 

「それについてはご安心ください。無論、本来であればこういう風に外交の場に秘密裏に護衛を付けることはありません。しかし我が国は転移以来、旧世界の常識が通じず常に苦労してきました。聞けば貴国も、皇族をレイフォルの属国に殺されたとか。

我々も今は亡きパーパルディア皇国に、自国民を虐殺されています。それも私と、彼の前でね。故にこれは我が国なりの安全策であり、本来なら姿を見せる事なく終わる筈でしたが…」

 

「そこのダラスのせいで、姿を見せたと。.......はぁ、全く。今回の不手際は、こちらの責任。正式に謝罪させてほしい、申し訳なかった」

 

シエリアは素直に、2人に対して頭を下げた。てっきり傲慢に何か言ってくるかと思っていたが、どうやらシエリアはマトモな部類らしい。

 

「ダラスは.......気絶しているな。なら私も、本音を話させて貰おう。私個人としては、貴国は我が国と同等かそれ以上の国家と認識していた。戦争だって本当はしたくない。故に今回、そちらが開示してくれた軍事情報はそのまま上と軍部に届ける。だが、恐らくは意味はないだろう」

 

「というと?」

 

「人を介せば中身が腐っていく、という事だ」

 

「.......あー、そういう事。其方も苦労しますね。ウチの国にもありますよ、そういうの。忖度というか何というか」

 

つまりどういう事かというと、上に上がっていくごとに情報が都合のいい方向に変貌していくと言っているのだ。仮にシエリアがありのままを伝えても、シエリアの上司が自分の上司に伝える時には中身が変貌し、最終的には「なんかちょっと強いかもしれない」位の認識になるかもしれないのだ。

どうやら国どころか世界が違えども、そういう事は万国共通らしい。

 

「外務省って、力弱いのだよ.......。これ、なんでなんだろうか?」

 

「ウチは結構強いですよ。というか基本的に話し合いで平和裏に解決するのが皇国の基本戦略で、戦争は最後の手段ですから。まあ、その主義もこの世界じゃ通用しないらしいですがね」

 

(おいおいおいおい!!何だこの空気!?!?)

 

神谷がこう思うのも仕方がない。場の空気はピリピリした空気から、一気に愚痴の言い合いみたいな方向にシフトしてるのだから。というか横で気絶してたダラスは、なんかまだ気絶してるし。

 

「あのー、そろそろ時間なんっすけど」

 

「え、もうちょい話したたいんだけど」

 

「奇遇だな、私もだ」

 

「え、シエリアさんも?」

 

「この辺に良いカフェがあるのだ、今からそこに…」

 

流石にこれで行く訳がない。これで行ったら単なるバk……

「良いですね」

 

はい、この外交官了承しやがりました。延長コース、確定したのだ。なんか2人して部屋を出て行き、シエリアは「こちらで待つと良い。川山殿はしっかりお返しする」とか言ってるし、川山自身も「一応護身術はお前が仕込んだだろ?何かあったら連絡するわ」とか言いながら、ホイホイついて行きやがった。

 

「.......なんだこれ。あーもー、考えても仕方がねぇ。おーい誰かー!!!!誰かいないか!!!!!」

 

「シエリア様、どうかなさいって、ダラス!?ってかアンタ誰!!!!」

 

「いやもうね、色々話すの面倒だからさ、取り敢えずそこのダラス回収してもらって良い?後、出来れば水をくれ。

あ、俺はここにきた皇国の外交官の護衛だ。怪しい者じゃない」

 

対応してくれたグラ・バルカス帝国の人間も、なんか色々察してくれたのか「アンタも大変なんだな」とか言いながら、水と飴玉までくれた。なんか意外と、グラ・バルカス帝国の人間も良い奴らしい。

1時間程して、本当にお茶してたらしく2人して帰ってきた。

 

「たっだいまー」

 

「オーケー慎太郎、いっぺん死ぬか?お前さぁ、一応曲がりなりにも敵国の外交官とお茶会ってどんな神経したんだよ!!!!!」

 

「どんなって、こんな神経?」

 

「まあまあ、良いではないか」

 

「シエリアさん!!アンタも何で敵国の外交官とお茶したんだよ!!なに、外交はお茶会する事なのか?初耳だぞ俺!!!!

っていうかさぁ、俺ここで1時間くらい待ちぼうけだったからな!?!?その内、ここの職員に同情の眼差しを向けられ始めたんだぞ!?!?なぁ、俺の気持ち分かるか?なぁ!!!!」

 

何か2人してキョトンとした顔してやがるし、多分神谷の言ったことを理解してない。コイツら多分アレだ。天才と書いて、馬鹿と読むタイプの輩だ。

 

「もう、なんか疲れた。帰るぞー」

 

「うぃー。ではシエリアさん、今度は皇国にいらしてください。今度は私が良いカフェをご案内しましょう」

 

「是非お願いしたい。まずは、この戦争を終わらせなくては」

 

「そうですね!お互い頑張りましょう」

 

そう言って2人は固い握手を交わす。どうやら、その辺のブレちゃいけない所はブレてないらしい。

 

「あ、そうだ神谷浩三!」

 

「はぁ、今度はなんだ。皇国に連れてけとか言うなよ?」

 

「いや、それは魅力的なのだが、そうではない。お礼を言わせてくれ。

あの時、捕虜虐殺の現場を襲ってくれて、本当にありがとう。お陰で私は、捕虜を殺さずに済んだ。私は本当は.......」

 

「それ以上言わない方が、アンタの身の為だろ?皆まで言うな。だがまあ、そうだな。もし平和になって皇国に来る事がありゃ、うまい飯屋くらいは教えてやるよ」

 

気付けば、神谷もシエリアにこう言っていた。2人がカフェ行ってきた理由がわかる気がする。恐らくシエリアには、何か人を惹きつける物があるのだ。

神谷と川山は行きと同じようにレイフォルを出て、ムーを経由し皇国へと帰還したのであった。

 

 

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