最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第六十三話アルー侵攻

あの謎外交交渉から早3ヶ月。皇国軍はムーへの援軍派遣の準備は最終段階へと突入していた。この3ヶ月、皇国は官民問わず大量の技術者と資材をムーへと投入。超突貫作業でムーの基地を皇国軍を受け入れられる状態にまで改造したのだ。例えば飛行場ならジェット機が吐き出す炎に耐える耐熱性能の高い特殊なコンクリートへの張り替え作業とか、駐屯地なら一部ではあるがメタルギアを整備できる設備の建設とか、色々である。これに加えて燃料弾薬や修理パーツ等の兵站関連の補給物資の輸送も、民間船をチャーターして行っている。

ムー側もただ黙って、これを見ていた訳では無い。ムーはムーで兵器の大量増産を開始しており、例の新兵器群の量産を急いでいる。尤も本来であれば最前線に送るべきなのだが、頭数が少ないのもあって中央に一点集中で配備されており、戦闘時には即応部隊として出撃する事になっている。こういった軍備増強の他にも、現在進行形でアルーの住民を強制疎開させてもいる。住民達は反対したのだが、無理矢理『戦時特例』という強引な形で疎開させているのだ。

そして今日、ムーの西部に存在するアルーに程近い飛行場と駐屯地が一緒になっているリュウセイ基地に、派遣部隊の先遣隊が着任することになっていたのだ。

 

「…とまあ、本日より政府が要請した援軍として、大日本皇国統合軍の先遣部隊が到着します」

 

そうリュウセイ基地の人間に説明するのは、意外な事にムー随一の技術屋兼神谷の同士(オタク友達)のマイラスである。現在、彼は本来の所属である特別技術開発室*1室長の任を外れて、統合参謀本部に出向し皇国軍と現地のパイプ役を担っているのだ。

 

「大佐殿、質問よろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

「私たちが受けている説明では、大日本皇国軍に全面的に協力するように指令を受けています。

ムー国を支援に来てくださる友人に支援を惜しむつもりもなく、命令どおり全力で支援、支持いたします。ですが大日本皇国とは、世界第2位の列強国であるムーが、これほどまでに気を使うほどに力を持っているのでしょうか?」

 

中央にいる部隊は基本的に、例外なく皇国を敵に回した時の恐ろしさというのを知っている。あの地獄の演習で完膚なきまでに叩きのめされたのを見聞きした、もしくは体験しているのだから当然である。だがこういう地方部隊では、眉唾な話という認識がまだ根強いのだ。

 

「正直に言いまして、彼の国はムーどころか神聖ミリシアル帝国すら、太刀打ちできないでしょう。技術、練度、士気、規律。その全てが高い次元で確立されています。

文明圏外国とミリシアル程の差が開いている、と言っても差し支えないでしょう。いえ、或いはそれ以上かも」

 

文明圏外国家と神聖ミリシアル帝国。その軍事技術の差は歴然であり、絶対に超えることが出来ない。戦闘となったら、どう足掻いても文明圏外国で勝つことが出来ないほどの差がある。

それ以上の差であると、軍内で歴代最も優秀とされる技術士官マイラスが断言しているのだ。信憑性はかなり高い。

 

「そんなばかな事があると思うか?」

 

だが新人航空兵は、隣の同僚にそう話しかける。

 

「いや、さすがに盛りすぎだろう。同じ科学技術国家で、空力をつかった航空機にそこまで差が出るとは思えない」

 

「俺も正直あり得ないと思う。参戦してくれるのはありがたいが、ちょっと大日本皇国を神格化しすぎてやしないか?」

 

先輩航空兵も、新人航空兵の意見に同調した。そんな話を他所に、マイラスは話を続ける。

 

「今回の皇国の先遣隊飛来について、西部航空隊の中では友軍を出迎えようといった意見も出ました。

しかし空中においてマリンが遅すぎ、皇国の航空機が失速してしまう可能性が出てくるため私が上申し、中止となりました」

 

ムー国最強のマリン型戦闘機の最高速度をもってしても遅すぎるとは、いったいどういう事か。一同が困惑する中、聞いたことの無い轟音が聞こえた。兵士達は我先に窓へと走り、外を見る。

 

「何だあれは!?!?」

 

「なんて速さだ!!」

 

12機の小型機と、3機の大型機が上空に飛来し順番に滑走路へと降り立っていく。マリンよりも大きい機体でプロペラを持たずに飛行しているが、神聖ミリシアル帝国の天の浮船よりも美しく見える皇国の機体に、ムーの兵士達は唖然とした。

駐機スペースに次々に停まっていく戦闘機達の尾翼には、それぞれの部隊章が描かれていた。一つ目に角と翼の生えた巨人、槍と盾を構えて馬に跨る騎士、青い鷲か何かの猛禽類と思われる鳥、棘付きの首輪をつけて身に巻かれた鎖を噛む赤い犬の4種類の部隊章があった。ただし1機だけ、尾翼にデカデカと3本の爪痕が描かれ、リボルバーを口に咥えた狼が小さく描かれた機体もあった。

 

「トリガー、ご挨拶に行くぞ」

 

「あぁ」

 

「なら、こちらも行ってきた方がいいな。タリズマン、頼んだ」

 

「サイファー、お前も行ってこい」

 

4人の隊長達が代表して、基地の建物に入っていく。彼らこそ皇国空軍が誇る、スーパーエース部隊の隊長達。サイクロプス1、ワイズマン。ストライダー1、トリガー(3本線)。ガルーダ1、タリズマン。ガルム1、サイファー(円卓の鬼神)である。

この他、皇国空軍にはカウント(伯爵)ピクシー(片翼の妖精)メビウス1(リボン付きの死神)黄色の13(イエロー)オメガイレブン(Mr.ベイルアウター)ブレイズ(ラーズグリーズの悪魔)フェニックス(皇国の不死鳥)等々、大量のエースがいる。エース部隊としてはストライダー隊、サイクロプス隊、ガルム隊、ガルーダ隊、メビウス中隊、イエロー中隊、ラーズグリーズ隊、スカーフェイス隊が挙げられる。他にも海軍と特殊戦術打撃隊にも幾つかあったりするが、それはまた登場した時にでも解説しよう。

彼らの到着からさらに数時間後、今度は5機のUH73天神、3機のCH63大鳥、2機のAH32薩摩、1機のOH8風磨が飛来した。どれも機体カラーが通常の黒ではなく、真っ白に塗装された機体である。

 

「福島!隊員を掌握をしてくれ。俺は先に挨拶に行って来る」

 

「了解、小隊長」

 

「あれが司令部庁舎、だな」

 

もう言わなくても分かるであろうが、この先遣隊の正体は白亜衆である。指揮官は柿田聖一大尉。エルフ五等分の花嫁を迎えに行ったりしていた、あの柿田である。

柿田はハンガーでトランプをしていたエース部隊のパイロット達と簡単に挨拶を終えると、中の司令官室を目指す。

 

「失礼します。大日本皇国ムー派遣主力軍、先遣隊、隊長の柿田聖一大尉です。本日からご厄介になります」

 

「お待ちしておりました、柿田大尉。私がこのリュウセイ基地の司令、マックス・パーマー少将です。こちらこそ、よろしくお願いします。それとこちらは…」

 

「あれ、マイラスさん?貴方もこちらに?」

 

「えぇ。お久しぶりです、柿田大尉。今は出向で、皇国軍と現地のパイプ役をやっているんですよ」

 

思わぬ再会に驚きつつ、指令通りに挨拶をこなしていく柿田。パーマーはすぐに、さっきから気になっていた事を質問する。

 

「所で、まさか今回派遣された陸上部隊は白亜衆なのですか?」

 

「えぇ、そうですよ。我々なら恐らくムーでも名が知れ渡ってるでしょうから、広告塔には丁度良いだろうとのことでして。ここに派遣された空軍部隊も、全員エース級部隊です。それも二つ名を持つ者がゴロゴロいる部隊ですよ」

 

思ってたよりも精鋭部隊だった事に、パーマーは驚く。てっきり普通の部隊が来るかと思ってたのだ。事前にもらった書類でも、部隊の規模位しか書かれていなかった。

 

「失礼します!!パーマー少将!!緊急事態です!!!!」

 

「何事だ」

 

「アルーにグラ・バルカス帝国軍が侵攻してきました!!!!」

 

入ってきた下士官の報告に、司令室内に居た3人の時が止まった。だがすぐにパーマーは指示を飛ばす。

 

「直ちに航空隊上げろ!!せめて、疎開中の住民だけでも逃げれる時間を稼ぐんだッ!!!!」

 

「直ちに伝達致します!!」

 

「では少将、私は一度本部へ帰還します。恐らく、奴等は一旦アルーで止まるはず。そこから先、一歩もいれてはなりませんから」

 

「頼むぞ、マイラスくん!」

 

「ハッ!!」

 

パーマーとしてはムー統合軍だけで、この危機を脱そうとしていた。だが、それよりも先に柿田が司令に提案してきたのだ。

 

「司令、そういう事なら我々も力を貸しますよ」

 

「お気持ちはありがたい。ですが、あなた方はゲストだ。ここで死ぬべきでは無いでしょう?どうか待機して頂きたい」

 

「.......我々も見くびられた物ですな。死ぬ?たかが、グ帝の軍勢如きに?寝言は寝てから言わないと、寝言にはなりませんよ司令。

我々の任務は、ムーの国民を守り、グラ・バルカス帝国を第二文明圏から叩き出す事。その為にここに居る。命じれてくだされば、我ら国境なき軍団の真髄をご覧に入れますとも。さぁ、一言命じてください。行ってくれと」

 

「..............分かりました。ですがどうか、偵察機からの情報を精査した上で判断させてください」

 

「了解しました、司令」

 

 

 

1時間前 アルー防衛陣地

「本当に攻めて来るんですかね?」

 

「.......今攻めてきても可笑しくはないぞ。しっかり見張れ」

 

「了解」

 

アルーには新たに防衛用陣地として、全長20kmの塹壕が掘られている。塹壕だけではない。まず地雷原があって、その後方には有刺鉄線やコンクリートブロックなどの戦車走行阻害用の障害物。その後方にはトーチカや機関銃陣地を備える塹壕があって、最後尾には砲撃陣地も完備されている。

歩兵装備もローアルド9、グラン軽機関銃といった最新世代に更新されている。機関銃陣地の物は従来品だが、最新装備に更新した他部隊の余剰品を惜しげもなく流しているので母数自体は大量にある。正に鉄壁の要塞と言えるだろう。

 

「おーい、誰か司令部に伝令に行ってきてくれ。有線電話の調子が悪い」

 

隊長が塹壕内にある簡易な通信所から顔をひょっこり出して、そう言った時だった。目の前の地雷原地帯に無数の砲弾が降り注いだのである。

 

「敵砲弾!!!!」

 

1人の兵士がそう叫んだ。次々に兵士達は銃を手に取り、塹壕内に設置されている待避壕に避難する。

 

「敵さん、地雷を吹っ飛ばしてやがる。その内、こっちに砲撃を飛ばしてくるぞ.......」

 

そんな事を言っていると、本当に塹壕の中にも砲弾が降り注いできた。30分程すると砲撃が止んだので、兵士達は待避壕から出る。そのまま塹壕にライフルを固定して構え、今から来るであろう陸上部隊の迎撃に備える。

 

「.......来た!敵影、12時の方向!!先頭には黒い兵器、恐らく戦車と思われる!!!!」

 

「聞いたな、砲撃に移る!!」

 

さっきの準備砲撃の中、唯一生き残った一四年式十糎加農砲モドキこと、105mmイレール重カノン砲が砲撃準備に入った。

 

「距離、3000。目標、正面。弾種、徹甲榴弾!!!」

 

「照準よーし!」

 

「弾込めよーし!!」

 

「撃て!!!!」

 

放たれた105mm徹甲榴弾は、運良く敵戦車に命中。砲塔が弾け飛んだ。だが返礼代わりに、相手の戦車砲が命中し砲術員諸共、吹き飛ばされる。

 

「弾幕展開!!!とにかく撃ちまくれ!!!!!」

 

隊長の叫びにも命令を受けて、一斉にトーチカと機関銃陣地が火を吹く。塹壕にいる歩兵達も、手持ちのライフルを撃ち始めた。

 

「この弾幕を潜れるものなら、潜ってみろよ!!!!」

 

だが、戦車には通じない。幾らグラ・バルカス帝国の戦車がチハに良く似た戦車とは言えど、腐っても戦車。たかだか重機関銃、それも小銃弾クラスの弾丸を使用する機関銃を弾かなくては話にならない。しかも弾丸の雨は、真正面から受けているのだ。戦車は今も昔も、正面装甲が1番厚い。

 

「全く効いてないだと!?」

 

「装甲に全部弾かれてるんだ!!」

 

戦車の後方に続く歩兵部隊には、一応まあまあの被害は与えられている。だが戦車には全くダメージが与えられておらず、それどころか主砲でトーチカを破壊されており、今やトーチカの数は半数を割っている。

しかもこのタイミングで、信じられない報告が入った。なんと後方の砲撃陣地と、アルー市街は航空機の爆撃に晒されていると言うのだ。

これを受け、アルー防衛司令部からは撤退命令も出た。だがそう言われても、土台無理な話だ。

 

「このまま出て行ったら、背中から狙い撃ちにされるだけだ。ならば!

総員、待避壕へ退避!!敵が接近するのを待つ!!皆、覚悟を決めよ!!!!」

 

隊長が取った戦法は待ち伏せである。待避壕に逃げ込み、一旦付近にまで敵を誘導。1人でも多くの敵兵をここで殺すべく、文字通り死守してアルー市民の避難の時間を稼ぐ。

そう。アルーは冒頭で『強制疎開させている』と書いているが、それはまだ途中なのだ。というかこの強制疎開は昨日始まったばかりで、まだ大多数の住民が取り残されている。その為アルー駅では、疎開用の列車に積めるだけの住民をすし詰めにして1人でも多く送り出せる様に奔走していたのだ。

 

「もっと引きつけるぞ........」

 

段々と戦車のエンジン音と、キャタピラの「キュラキュラキュラキュラ」という音が近づいて来る。その音が完全に上を通り過ぎた時、隊長は合図の爆竹に火を付けた。

 

「掛かれ!!!」

 

「隊長に続け!!!!」

 

隊長がカトラスと拳銃を装備して外に飛び出し、その後ろから銃剣を付けたライフルを装備した歩兵や、スコップやピッケルなんかを装備した軍医などの支援兵達が塹壕に入ってきたグラ・バルカス帝国兵に襲い掛かる。

 

「生きてやがったのか!?」

 

「死ねぇ!!!!」

 

「グボッ!」

 

「チクショ、応戦しろ!!」

 

塹壕は地獄と化した。ムーとグラ・バルカス帝国双方の兵士が入り乱れ、銃撃戦ではなく格闘戦になっていた。第一次世界大戦の塹壕戦をイメージしてもらったら、1番分かりやすいだろう。

だがムーの防衛兵力は1000人に満たないのに対して、グラ・バルカス帝国側がこのアルー侵攻に動員したのは一個師団。その内、ここに押しかけているのは3000人近くにのぼる。この規模の人数差では、どんなに奮闘しても勝てっこない。だがムーの兵士達は善戦し、最終的にこの一連の戦闘においてはムーは防衛兵力1,784名中1,743名戦死、30名行方不明、11名捕虜という犠牲を払うも、グラ・バルカス帝国側はその塹壕戦までで、15,893名中2,683名の戦死者とハウンドII戦車1両損失した。

そんな地獄の戦闘が終結してから約1時間半後、リュウセイ基地から飛び立ったバラクーダMk.IIのムー製造バージョン『バラクダル』は、アルー市街上空に到達した。

 

「こ、これは.......」

 

「酷いですね.......」

 

眼下に広がるのは、正に地獄そのものであった。アルー市街は瓦礫と化し、逃げ遅れた市民は逃げ惑う。あちこちから煙が上がり、恐らく何かしらの大砲と思われるオレンジの光が不気味に一瞬光っている。

 

「すぐに基地に打電します」

 

「頼む。写真撮り終わったら、退散するぞ」

 

この情報は直ちに打電され、司令部はアルーの放棄を決定。航空隊等による支援は取り止めになった。だが、この後入ったSOSで事情が変わる。

 

「司令。避難列車4号より、SOSです」

 

「なんと言ってきている?」

 

「それが『レールが爆破され、グラ・バルカス帝国の車両が迫ってきているかもしれない。このままキールセキ目指し、徒歩で向かうので助けてくれ』と」

 

「位置はわかるか?」

 

パーマーの質問に、通信兵が地図に送られてきた座標の位置に印をつける。印がつけられた場所は、最寄りの街であるキールセキから150km地点。このリュウセイ基地からは、200kmも離れている。

 

「無理だ.......。とてもじゃないが間に合わないぞ」

 

「仮に準備が間に合うとしても、助けた後に護衛しながらキールセキまで撤退.......。そんな絶好のカモを、グラ・バルカス帝国は見逃してくれるのか?」

 

司令室には一気にお通夜ムードが漂う。彼らとて、助けたいのだ。だが物理的に不可能である以上、見捨てる他ない。

だが、それはムーに限った話。大日本皇国なら話は全くの別だ。

 

「パーマー司令、であれば我々にお任せください」

 

「柿田大尉。無理ですよ、こんなの。無謀だ」

 

「確かに其方の兵器では、どうしても合流後に地上をノロノロ護衛しながらキールセキを目指さなければなりません。運良く見つからずに撤退出来るかもしれませんが、まず不可能でしょう。というかそもそも、キールセキまで150kmあるんですよね?軍人の脚で行軍するとしても、1時間で4km程度しか進めない。単純計算で37.5時間、ここに休憩とかを入れるとなると3日は歩き続けなければならない。

おまけに今回は、全く訓練を受けていないアルーの一般市民だ。女子供、老人は移動速度が遅くなる以上、さらに時間が掛かるでしょう。しかし我々の兵器であれば、わざわざ行軍する必要はありません。全員を空路で輸送する事が可能です。人数にもよりますがね」

 

パーマーら、リュウセイ基地の幕僚達は目を丸くして驚いた。そんな事が出来れば、現状の全ての問題点は解決される。

 

「どの程度、輸送できますか?」

 

「大型の輸送ヘリ2機で、大体110名。幼少の子供であれば、もう少し。詰めれば、恐らく120名位いけるでしょう。これで足りなければ、我々が乗っていくヘリに乗せて、我々は現地に残留。避難民輸送後、我々を回収して貰えば良いでしょう」

 

パーマーの考えは、決まった。

 

「柿田大尉。どうか、我が国の国民を救ってください」

 

他の幕僚達も席から立ち上がり、深々と柿田に頭を下げる。断る理由なんて無い。

 

「お任せください。それでは準備に入ります。あ、そうだ。ここって、館内放送とかできます?」

 

「できますよ。通信兵!」

 

「こちらにどうぞ。ちょっと待ってください、設定を変えるので。

あ、どうぞ。行けます!」

 

『こちら、先遣隊隊長の柿田だ。たった今、リュウセイ基地司令のパーマー将官より避難民保護の要請を受けた。これを受け、我々白亜衆はキールセキの北東150km地点にいる、アルー避難民の救出作戦を展開する。各部隊長はハンガーに集合せよ。

また空軍についても、各パイロットと指揮官クラスはハンガーに集合して頂きたい』

 

柿田はマイクを切ると、パーマーに頼んで地図やペンなどの作戦説明に必要な物品一式を準備してもらう。それら物品を抱えて、柿田とパーマーはハンガーに走った。

 

 

 

15分後 ハンガー

「これより作戦を説明する。先程も話した通り、我々の任務はキールセキ北東150km地点にいる、アルーからの避難民を救出する事だ。我々の今いるリュウセイ基地はここ。キールセキがここで、避難民がいると思われるのは恐らく、遭難地点から大体半径5kmだ。避難民は無線機なんて持って無いだろうから、目視による捜索が必要となる。

1時間程前に放送があった様に、既にアルーはグラ・バルカス帝国による攻撃を受けている。我々は戦闘の真っ只中に突っ込む事になるが、ここで空軍の皆さんにご協力頂きたい。我々のヘリでは、幾らレシプロとは言えど戦闘機は普通に脅威です。そこで先んじて航空優勢の確保と、敵戦車がいた際にはこれの撃破。以降は我々の近接航空支援をお願いしたいのです」

 

「そういう事なら、我々の本分だ。是非協力しよう」

 

先遣航空隊の指揮官である、ロングキャスターがそう返事するとパイロット達も「やってやろうぜ」とか「我々がエースと呼ばれてる所以を見せてやろう」とか色々騒ぎ出した。つまり、協力してくれるという事らしい。

 

「皆さん、本当にありがとう。どうかご無事で」

 

パーマー少将がそう言ってくれたので、皇国の精鋭達は敬礼を持って返す。そのまま出撃準備へと入り、程なくしてまずはE787早期警戒管制機、コールサイン『ロングキャスター』が離陸する。それに続いて第123戦術飛行隊のストライダー隊、サイクロプス隊が離陸。その後第366飛行隊『ガルム』、第408飛行隊『ガルーダ』が離陸し、最後に白亜衆のヘリコプターが全機離陸した。

因みにエース級部隊では、航空隊の番号がアラビア数字表記になる。一般部隊は漢数字になる。一桁目が保有機体を表すのは変わらないので、ガルム隊はF8A震電II、ガルーダ隊はA9ストライク心神である。第123戦術飛行隊のみ特殊部隊扱いなので、一桁目は関係ない。保有機体はF9心神である。

 

 

『各機、間も無く作戦エリアだ。まずは避難民を探すぞ。高度を下げ、捜索を開始しろ』

 

『今回の任務はバーガーを口に運ぶ余裕があってよかったな』

 

『いや。今日は寿司を持ってきた』

 

ロングキャスターのこの発言に、全員から怒りの声が上がる。この男、指揮管制時に必ずサンドイッチ、ハンバーガー、パン、ドーナツ、おにぎりの様な手でサクッと食べれる食事を持ってくる。指揮管制自体は常に適切な管制を行い、そのサポート能力は皇国空軍でもトップクラス。だが、この軽い悪癖が珠に瑕なのだ。因みにパーソナルマークも大好きなビッグマック風のバーガーに、日本の国旗を立てた物であったりする。

今回はまさかの寿司を持ってくるという、他のパイロットからしてみればズルいとしか思えない行動に、怒りというより嫉妬に近い文句が噴出する。

 

『おいロングキャスター、ズルいぞ』

 

『そうだそうだ!ズリィなおい。俺達にも用意しろ!』

 

『HAHAHAHA。悪いな、これが最後のパックだ。来る前に6パック入れてたんだがな』

 

『私が買い物に付き合わされた時のパック寿司の正体はそれか.......』

 

どうやらロングキャスター、日本を発つ前にパック寿司を買っていたらしい。しかもその買い物にサイクロプス4のフーシェンは付き合わされてたのだ。

 

『おいフーシェン、そらどういう事だ?』

 

『一昨日の出撃前、偶々町でロングキャスターを見かけて声を掛けたら、飯を給料に買い物に付き合わされたんだ。確かペーヤンのサンドイッチ、各コンビニのレンチンハンバーガーとおにぎり、イオンのパック寿司、ミスドのドーナツ。その他諸々』

 

『どんだけ買い込んでんだよ.......』

 

『ロングキャスター、出来れば我々にも分けて欲しいのだが』

 

『勿論だ。こんな事もあろうかと、大量に買い込んでるからな』

 

ワイズマンのお願いを快諾したロングキャスター。パイロット達からは喜びの声が上がる。

 

『ガルム1より、ストライダー1。123じゃ、これがデフォルトなのか?』

 

『そうだガルム1。これがデフォルトだ』

 

『イーグルアイも中々キャラが中々濃いと思ってたが、どうやらロングキャスターの方が濃いな』

 

エース級部隊には様々な特権が与えられる。先述の部隊ナンバーが漢数字からアラビア数字に変わる事の他にも、二つ名を名乗る事、パーソナルマークやアグレッサー塗装を機体に施す事が許可される。更にトップエース或いはウルトラエース、スーパーエースというエースの中でもトップクラスの実力を持つ部隊は空軍の場合、必ず専門のAWACSが随伴する事が挙げられる。例えば今回で言えば第123戦術飛行隊にはロングキャスター、ガルーダ隊にはゴーストアイ、ガルム隊にはイーグルアイというAWACSが付いてくる。

今回は先遣隊というのもあって、ガルーダ隊とガルム隊は一時的に第123戦術飛行隊隷下に組み込まれてるのでロングキャスターが管制を行う事になってる。一緒に飛来した残り2機の大型機は、空中給油機のKC787である。

 

『おっと全機警戒(コーション)!レーダーに複数の目標を発見した。今、データリンクした。参照してくれ!』

 

レーダー上にロングキャスターから送られてきたレーダー情報が次々に表示されていく。複数の地上目標が何かを取り囲む様に静止しており、周囲には20機ばかしの航空機がいる。

 

『思ってたよりも多いな.......。恐らく、例の避難民が発見されたのだろうな』

 

『シャムロック、その心は?』

 

『簡単さガルーダ1。避難民の規模は数百名規模。それを仮にトラックに乗せるなら、この位は居る。周りのは護衛の装甲車か兵員用の車両だろう。航空機の説明は.......ちょっとつかないが』

 

ガルーダ2ことシャムロックの考えは、実際の所大正解だった。丁度今、避難民はグラ・バルカス帝国の放った避難民狩りの部隊に追いつかれてしまっていたのだ。グラ・バルカス帝国が元居た世界では、こっちの世界で言うところのジュネーブ条約に近い戦時条約があった。このジュネーブ条約が何なのかと言うと、平たく言うなら「軍人であっても捕虜、傷病者、遭難者は傷付けませんよ。一般人も流れ弾とかは別として、占領後に傷付けたりしませんよ」という物。

だがこの世界には、そんな条約なんて存在しない。弱肉強食、略奪上等。占領地の物は占領者の物。女、お宝、その他お気に召す者は占領地の兵士の自由にして良し!の世界。それを受けて第二文明圏侵攻部隊の司令官は、兵士達に「占領後は何しちゃってもいいよ」と言ったのである。その為、兵士達は1人でも多くの女、極一部は男を欲し避難民を1人でも多く捕らえたかったのだ。その毒牙に、最後の避難民は噛み付かれたのである。この一個前に出発していた避難列車には、焼夷弾が落とされており航空機はその帰りなのだ。

 

『今、ムー司令部に確認が取れた。この地域に展開している部隊は存在しない。奴らは敵だ。全て殲滅しろ!各機、ウェポンズフリー!地上部隊の進路を切り開け!!』

 

『サイクロプス隊、行くぞ』

 

『ストライダー隊、続け』

 

『よし、花火の中に突っ込むぞ!』

 

『行こう、ガルーダ1。金色の王の微笑みが共にあらんことを!』

 

皇国空軍のトップクラスのエース達が、グラ・バルカス帝国軍目掛けて突撃を開始する。サイクロプス、ストライダー両隊が制空。ガルム、ガルーダ両隊が地上目標を担当する。

 

『ストライダー隊、エンゲージ』

 

『サイクロプス隊、エンゲージ!』

 

まず敵に食らいついたのは、ストライダー隊とサイクロプス隊である。両隊は散開すると、瞬く間に敵を落としていった。だがその中でも、異常だったのがストライダー1、『3本線』の異名を持つトリガーである。

 

『FOX2。インガンレンジ、ファイア』

 

『おぉ、凄いなトリガー。3機一気に落としたぞ』

 

淡々と敵を落としていくのだが、その速度が異様に速い。他が1機落としてる間に、トリガーは2、3機落としてるのだ。この異常性は、グラ・バルカス帝国のパイロット達もすぐに気付いた。

 

「何だアイツは!」

 

「クソッ、何でこんなにも他のより素早い!同じ機体じゃないのか!?」

 

逃げ惑う機体の内、1機だけ司令部に無線を繋げることが出来た。パイロットはすぐに怒鳴る。

 

「こちらハンター飛行隊!大日本皇国の襲撃を受けた!!」

 

『帰還できるか!?』

 

「無理だ!!化け物がいる!!3本の爪痕!奴は、化けも ガッ」

 

後にグラ・バルカス帝国のパイロット達を震撼させる、エースパイロット達の1人に数えられる3本線。彼の物語の序章は、ここで始まったのである。

一方、地上襲撃に掛かったガルーダ隊とガルム隊も着実にその任務をこなしていた。

 

『敵戦車、ロック。投下』

 

『食らってみやがれ!』

 

正確無比な誘導爆弾と、空対地ミサイルが帝国の戦車やら装甲車に襲い掛かる。更にストライク心神には一式七銃身30mmバルカン砲が2つ搭載されている。ソフトスキンのトラックなんかには、多大なる威力を発揮してくれる。

 

「あの機体、大日本皇国だぞ!」

 

「トラックがやられた!!」

 

「あークッソ!クソッ!!何だよこの様!!カモ狩りのつもりが、一瞬の内にこっちが滅ぼされかけてる!!砂漠のど真ん中で退路もねぇ!!!!」

 

「うるっせぇ!俺に言うなよッ!!」

 

一瞬の内にグラ・バルカス帝国側の劣勢に切り替わった。彼らの地獄はまだ続く。

 

『ロングキャスターより白亜衆。掃除は済んだ。まだ歩兵が残ってるが、避難民もいる為、残りは其方に任せたい』

 

「こちら柿田。感謝する。後は任せてくれ。引き続き、上空警戒と航空支援を頼む」

 

『了解だ。good luck!』

 

そう、ここからは最強の白亜衆の出番なのだ。彼らに待つ運命は名誉ある戦死を遂げるか、何も出来ず殺されるかの二択のみ。捕虜なんて取るつもりはない。

 

「全機、攻撃態勢!そうだ、音楽を流そう!!そうだな、BF4のメインテーマでも流そう!」

 

柿田の提案に、パイロットがすぐに応える。大音量スピーカーに端末を繋ぎ、バトルフィールド4のメインテーマを流し始める。しかもタイミングよく、盛り上がる瞬間に薩摩が攻撃を開始したのだ。

 

「薩摩に食い尽くされる前に行くぞ!続け!!」

 

白亜衆の面々がジェットパックを活用して、地上へと次々に降り立っていく。見た事もない兵器に、見た事もない装備を纏った、見た事もない兵士。そしてこれまでの攻撃の数々。混乱するには充分な要素が起こった。

 

「神谷戦闘団白亜衆、ここに推参!!さぁ、欲に忠実な愚者を滅ぼしてやろう!!!!」

 

「「「「「「っしゃぁ!!!!!」」」」」」

 

柿田を先頭に、白亜衆の面々が走り出し、そのまま射撃を開始する。本来であれば走りながらの射撃なんて、どこに弾が当たるか分からないので牽制目的でしか撃たない。しかも今回は周りに守るべき避難民がいて、地面はただでさえ歩きにくい砂漠。にも関わらず、走りながらの射撃で正確に帝国兵を撃ち抜いていく。

 

「コイツらなんで走りながら当てれるんだ!!」

 

「クソッ!クソッ!クソッ!!発射レートも向こうが上かよ!!!!」

 

「退避ぃ!!退避ぃ!!!!車両の残骸まで退けぇ!!!!」

 

余りの勢いに、帝国兵は未だ炎上中のトラックや装甲車の残骸まで後退。それを遮蔽物に応戦しようとするが、甘い。それ位では白亜衆はおろか、一般兵からも逃げられない。

 

「遮蔽物に隠れようが、上はガラ空きなんだわ!!」

 

ジェットパックを装備している以上、上にも遮蔽物がないと全く障害にならない。寧ろ遮蔽物の周りに密集してくれるので、上から狙えば良い的だ。

 

「空を飛ぶとかアリかよ!!」

 

「撃ちまくれ!!!」

 

「はいはい、当たりませんよっと!」

 

真上から43式小銃の掃射を食らって、バタバタと残る帝国兵は倒れていく。一部は逃げ出してアルーの方に走り出して行く始末。

 

「終わったな。すぐに避難民を乗せるぞ!!」

 

ロングキャスター経由で後方に待機していた大鳥を呼び寄せ、避難民を収容。運が良いことに全員乗れたので、そのままリュウセイ基地目指して飛び立つ。任務は完了、と思っていたのだがロングキャスターから無線が入る。

 

『敵を探知した。3機編隊、方位1-9-5!』

 

『こちらで対応する、行くぞピクシー』

 

『そうだな。そろそろ、ドッグファイトもしたかった所だ』

 

編隊からガルム隊の2機が離れ、目標ポイントへと針路を変える。この3機がやっていた事とは、バイクで逃げていたアルーに住む貴族の娘2人を追いかけ回す事だったのだ。

齢16にしては神がかった操縦で、巧みに執拗な機銃掃射を避け続ける。しかも後ろには幼い妹を乗せて、その機動をやって退けているのだ。オートレーサーの才能があるだろう。だが速度を上げていたせいか、小石に躓きバイクがクラッシュ。幸い下は砂漠の柔らかな砂だったのもあって、ケガはしなかった。その隙を逃すまいと、3機の戦闘機が襲い掛かる。

 

「そうだ!!!」

 

貴族の娘アリアは妹ベロニカを連れ、急降下してくる戦闘機の方向に向かって走る。この手法は戦闘機の機銃掃射を交わすには最適な方法なのだ。機体に向かって走ると、降下角度を深くつけないとならなくなる為、掃射される時間が短くなりパイロットも墜落の恐れが出てくるので降下をやめざるを得なくなるのだ。因みにヘリコプターの場合は、機銃がグリグリ動くしホバリングとかも出来るので、この限りではない。

 

「ま、まだ来るの!!」

 

「お姉ちゃん!怖いよ!!死んじゃうの!?!?」

 

アリアは怖がるベロニカを抱き寄せる。せめてベロニカでも守ろうと、自分を肉壁にするべく背中を戦闘機に向ける。撃たれると思った瞬間、爆発音が響き戦闘機が墜落した。

 

「な、何がおきたの.......」

 

次の瞬間、2人の頭上近くを2機の飛行機が通過した。右の翼が真っ赤に塗装された機体と、両翼が青く塗装された機体である。どちらもプロペラがついてない。

 

『相棒、右は任せる』

 

『なら左をやろう。ブレイク』

 

サイファーは大きく回り込み、左側の敵を正面に捉えて20mm弾を浴びせる。逆にピクシーは右側の敵を背後取って、20mm弾の雨を浴びせる。2機が爆炎に包まれたのは、ほぼ同時だった。

サイファーとピクシーは爆炎を突破すると、腹合わせですれ違う。ZEROの最後でサイファーがピクシーを落とした時の様に。

 

『ロングキャスター、敵は全機落とした。下に民間人2名を確認した』

 

『了解したサイファー。すぐに救助に向かわせる。それまで、現空域にて待機してくれ』

 

程なくして、柿田を乗せた天神が姉妹の元に飛来。近くに着陸して、柿田と副官の福島が姉妹の元に近付く。

 

「やめて!来ないで!!」

 

てっきり襲われると思ったアリアは最後の抵抗と言わんばかりに、砂を引っつかんで投げてくる。ベロニカもそれを真似て、砂を投げてくる。

 

「待って!やめてお願い!前見えない!!」

 

「お嬢ちゃん達、俺達は味方だ!」

 

「みか、た?」

 

「そう味方だ。あ、そうだ。この国旗、わかるかい?」

 

柿田は自身が纏う装甲甲冑の左腕にプリントされた、赤い日の丸を2人に見せる。

 

「赤い丸、大日本皇国?」

 

「うん。俺達は大日本皇国の軍隊だ」

 

「大日本皇国の白い鎧.......。もしかして、神谷戦闘団白亜衆?」

 

「お!よく知ってるね。そうだよ、俺達は大日本皇国統合軍、神谷戦闘団、白亜衆の隊員さ」

 

姉妹の目は一気に希望に満ち溢れた物になった。今や『神谷戦闘団』、『白亜衆』、『神谷浩三・修羅』の3つのワードは世界共通のワードである。あの捕虜虐殺の現場に飛び込み、捕虜を奪還して、悪逆の限りを尽くしてきたグラ・バルカス帝国へ実質的な宣戦布告をする。そんな英雄的部隊だからこそ、世界中の人々にとっての希望なのだ。

流石にアルー市民全員を救う事はできなかったが、それでも避難民167名を救う事ができた。人数が輸送限界より多いのは、大半が子供だったからである。子供だったので、無理矢理乗せる事ができたのだ。

 

 

 

数時間後 ムー近海 上空

「団長、先遣隊より報告です。本日午前、グラ・バルカス帝国軍によるアルー侵攻が発生。この侵攻時に発車した避難列車救助の為、白亜衆と空軍飛行隊を投入。無事、救助に成功したとの事です」

 

「アルーの状況は?」

 

「防衛隊は壊滅。隣接していたドーソン空軍基地も占領され、都市は爆撃と砲撃で瓦礫の山と化し、市民の死傷者も大勢出ています。どうやらムー側は侵攻直前に、ようやく戦時特例による強制疎開を開始したようで相当数の被害が出ています。避難列車も先遣隊が救助した便の前の便だと、客車に焼夷弾が投下されていた、と」

 

その一言で報告を聞いていた神谷と向上は、客車の惨状が脳裏に浮かんだ。人間には大量の脂肪が含まれている。筋肉質だろうが、ガリガリであろうが、脂肪は含まれている。更に衣服という、焼夷弾からすれば燃えやすいものを纏っている。そんなのが大量にある場所に焼夷弾が放り込まれれば、人間なんて一気に燃え上がるだろう。それも叫び声を上げようと呼吸すれば、熱と炎で瞬時に肺、気管支、喉といったいった空気の通り道が一気にダメージを負い、声すら上がらないだろう。

更に言えば焼夷弾の炎は、普通の炎と物が違う。物にもよるので一概には言えないが、基本的に水では消えないか消えにくいのだ。燃え広がる客車を前に、市民も職員も出来ることなんてない。ただ呆然と見るか、勇気を持って炎に飛び込む英雄的行動に移るかだろう。まあ後者は、死体が増えるだけになるのだが。

 

「他に何か情報は?」

 

「まだ不確定の情報ですが、JMIBによれば捕虜や市民の処刑、虐殺、強姦、略奪が起きていると」

 

「そうか、分かった。ありがとう」

 

「失礼しました!」

 

報告に来た士官が敬礼をして、自分の座席へと戻っていく。薄々予想はしていたが、まさか当たるとは思ってなかった所業に頭が痛い。

 

「まあ、こうなったら敵を全部ぶっ潰そう。次狙うとしたら、恐らくキールセキ。確実にアルーは奴らのFOBとなってくるだろう。こうなった以上、奴等を早いとこムーの玄関先から叩き出さないとヤバいぞ」

 

「そうですね。後はそのまま、第二文明圏から締め出せれば万々歳ですが、上手くいってくれるでしょうか」

 

「その辺はまあ、俺たちが頑張るしかないだろうよ」

 

神谷戦闘団の本隊を乗せたAVC1突空の群れは、ムーを目指して飛んでいく。神谷戦闘団だけではない。この他にも戦闘団を編成しており、その他の部隊も含めて続々とムーに集結しているのだ。グラ・バルカス帝国がムーどころか、第二文明圏から叩き出される日も近い。

 

 

 

 

*1
ムーが新たに設置した部署で、簡単に言うと皇国の技術を解析し、それを元にした新兵器の設計開発を行う部署

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