タウイタウイ泊地接触より1ヶ月後 大日本皇国 霞ヶ浦
「朝田くん、そろそろかな?」
「えぇ、間も無くですよ」
この日、川山と部下の朝田は霞ヶ浦に急遽建設した仮設の水上機発着場で、タウイタウイ泊地からの使者2人を待っていた。その使者とはタウイタウイ泊地の提督である堺修一と、艦娘の霧島である。
今回2人は、大日本皇国をよく知る為に見学に来るのだ。野次馬対策の兼ね合いで二式大艇を使用して皇国にやってくるのだが、現在皇国には水上機を運用できる飛行場が存在しない。皇国が唯一保有するPUS3三式大艇は水上機だが、US2と同じ様に陸上に配備されているので水上機発着場は必要ない。だが二式大艇はランディングギアが搭載されてない以上、陸上には胴体着陸になる。
そこでかつて、旧海軍が水上機基地として運用していた霞ヶ浦に仮設の水上機発着場を建設し、ここで出迎える事になったのだ。
「ん?亜梨沙から電話?もしもーし」
『シンくんシンくん!ヤバいよ!!ネット見て!!!!掲示板、大荒れだよ!!!!』
「は?」
いきなりの妻からの電話に驚くが、中身も何を言ってるのか分からない。取り敢えず掲示板を開いてみたのだが、
124:名無し 2058/9/8 08:56:00 ID:2NbStxiQe
おい、ニュースで言ってたあの人は飛行艇で来たらしいぞ!
125:名無し 2058/9/8 08:56:41 ID:YPqwQ35Kq
帝都上空を二式大艇が飛行してる
126:名無し 2058/9/8 08:57:33 ID:yECcOkgyo
大艇ちゃんかよ!あれ確か陸上には降りられない機体じゃねーか!
127:名無し 2058/9/8 08:58:09 ID:sde66hLZ9
やられたぁ!一番乗りでご尊顔を拝しようと思って、羽田で張り込んでたのにぃ!
128:名無し 2058/9/8 08:58:54 ID:QfnIc4K3i
俺もだ!休日だから早めに来て羽田で待ってたのに、まさか大艇で来るなんて!
129:名無し 2058/9/8 08:59:24 ID:8FH9UCUl9
成田と踏んでいた私をぶん殴りたい
130:名無し 2058/9/8 09:00:13 ID:dPskIK1ey
ワイもワイも
131:名無し 2058/9/8 09:01:09 ID:1Fyk4ZCRg
どこへ向かった!?予想できるか!?
132:名無し 2058/9/8 09:02:06 ID:dBic63lQn
多分湖か海だろ?
133:名無し 2058/9/8 09:02:56 ID:ZHmOn/Kuh
大艇は北東へ向かったっぽいぞ。帝都から北東ってことは、茨城県とか?
134:名無し 2058/9/8 09:03:32 ID:j9THPM/S5
大洗か?
135:名無し 2058/9/8 09:04:00 ID:F6yDSVfSL
鉾田の可能性
136:名無し 2058/9/8 09:04:58 ID:YUp/VXior
大洗市民ワイ、大歓喜
137:名無し 2058/9/8 09:05:31 ID:I57BIU44g
そういや霞ヶ浦の方で護岸工事とかいって何かやってたな、あれそういうことか!(気付くのが遅い土浦市民)
138:名無し 2058/9/8 09:05:44 ID:eyfI/uEDa
それだ!
139:名無し 2058/9/8 09:06:17 ID:uSdzTWMx5
それだな!
140:名無し 2058/9/8 09:06:54 ID:DNJttlg9O
大艇ちゃん迎えるための工事じゃねえか!
141:名無し 2058/9/8 09:07:41 ID:5u0wBOnuY
見に行ってこい!そして現地リポートしろくださいおねがいします
142:名無し 2058/9/8 09:08:23 ID:fMnwz6lSe
ちょっと出掛けてくるかな。ワイ香取市民だけど間に合うかな
「.......これ、ヤバくね?」
「ヤバいですね.......」
今回の来日は別に極秘ではないが、所謂お忍び扱いである。その為、場所の発表などの詳細は関係者しか知り得ない。マスコミにも伏せてあるのだが、何処かで漏れてしまったのだろう。見事に拡散されてしまっている。
「Twitterでも艦娘来日がトレンド入りしてますよ.......」
「あーあー、報道のバンまで来ちゃってるし。こーれ、どうしよ」
「取り敢えず警察に応援読んでもらって、規制線だけ貼りましょう」
「警視庁に頼んで、多めに戦力用意してもらって正解だったな」
30分もすると報道各社と一般人の見物客でごった返し始め、当初の予定は狂ってしまっている。だが備えはしていたので問題はない。こんな事もあろうかと、多めにSPと雑踏警戒の警官を用意してあるのだ。更に在日中の機体の警護の為、皇国陸軍も一個大隊を派遣しているので問題ない。
さらに暫くすると、二式大艇と護衛の二式水戦2機が着水し、中から堺と霧島が出てきた。因みに朝田はある作戦の為、既にここを離れている。
「堺さん、霧島さん、大日本皇国へようこそ。ご足労いただきありがとうございます。本日は私、川山 慎太郎がご案内いたします」
「お久しぶりです川山さん。本日はよろしくお願いいたします。あの、ところでこの束になった報道陣はいったい.......」
「ああ、実はタウイタウイ泊地との出会いや閣議決定が報道されてからというもの、我が国ではどこもかしこもこの話題ばかりで.......。しかも艦娘の方が実在するとまで発表があったので、余計に騒ぎになっているんです」
「そ、そうでしたか.......」
「さ、こちらへどうぞ。まずはこのまま帝都、東京へ向かいます」
2人を用意してあるクラウンにどうにか乗せて、そのまま東京へ…ではく、まずは近隣のリニアトレインの駅へと向かう。これは朝田の「どうせなら、色々な角度から皇国のことを知って貰いたい!」という発言で川山が考えた物で、敢えて車でそのまま行かずに一度、短い区間だがリニアトレインに乗って貰って皇国の鉄道技術を見てもらおうという考えなのだ。
そんな訳で車は東京とは反対方向の、宇都宮方面へと向かう。宇都宮駅にはリニアトレインの駅があるので、ここから乗る事になっている。因みに皇国には北海道の稚内から、鹿児島までのリニアトレインの鉄道網がある。勿論、普通の新幹線も未だ現役である。リニアトレインよりも新幹線の方が乗車費は安いのだ。
「やはりリニアはすごい。速いし、それに静かですね」
「我が国の技術の結晶の1つですからね。開発には苦労することも多くありましたが、威信を賭けて開発したものですよ」
「技術者の皆様の苦労が偲ばれます。ところで、私さっきからずっと、報道陣のヘリやら何やらに追い回されている気がするのですが.......」
「気のせいですよ.......。と言いたいところですが、些か多いですね」
「あ、やっぱりですか.......」
到着した時はカメラのフラッシュと撮影ドローンに囲まれ、霞ヶ浦から宇都宮駅まで移動する時は大量の車とバイクに追いかけられ、今は上空をヘリが飛び回っている。堺自身、ここまでメディア露出するとは思ってなかったらしい。ここに関しては、川山も同じ意見である。まさかこんな事態になるとは思っていなかった。だが、対策はしっかりしてある。
「取り敢えず、東京に着きましたら撒きますのでご心配なく」
「撒く、と言いますと?」
「東京駅に到着したら、お2人には裏の職員用出入り口から出て貰います。表には私の信頼のおける人物達に、2人のコスプレをして貰って車に乗り、適当にあちこち走ってもらう予定です」
こんな事もあろうかと、既に手配は終わっている。川山の妻である亜梨沙に頼んで霧島のコスプレをして貰い、体格が似てる朝田に堺のコスプレをして貰うよう頼んだのだ。こうしてしまえば、マスコミも分からないだろう。
「あ、それから到着後は着替えて貰いますから。流石にその格好だと、余りに目立つので」
今の2人の格好は流石に目立ちすぎる。何せ堺は白の第二種軍装で、霧島はあの巫女服っぽいヤツである。この格好では忍べないので、服はしっかり用意してある。
ついでに言えば川山もスーツは目立つので、家から私服をしっかり持ってきて貰っている。3人は東京駅に到着後、素早くバックヤードに入り、そこで手早く服を着替えた。
「お2人とも、よくお似合いで。サイズの方は大丈夫でしたか?」
「はい。問題ありません」
「私のも、ピッタリです」
霧島は上から紫のカチューシャ、緑のVネックと薄茶色のカーディガン、そして黒のロングスカート。堺はグレーの薄手のトレーナーに、黒紫のジーンズ。そして川山は白の薄いニット、黒いチェスターコートと黒いパンツという格好である。
「さて、それではまずは浅草寺に行きましょう」
3人は川山の妻、亜梨沙の愛車であるPanamera Turbo S E-Hybridに乗り込む。因みに川山自身の愛車はアヴェンタドールであるので、3人は乗せられない。一行は浅草寺を目指して、車を走らせる。
「流石にまだ、空飛ぶ車は無いんですね」
「車は地面にタイヤ付けて走ってますよ、と言いたいんですけどね」
「というと?」
「空飛ぶ車、エアリアルビークルと呼ばれる物が開発されてるんですよ。写真見ます?」
「見ます!見ます!」
堺のこの食いつきようから見るに、どうやらロマン大好きな人種らしい。川山は車の運転を自動操縦に切り替えて、ホログラムによる立体映像でネットの検索画面を見せる。
「うおっ!?」
「これ、立体映像ですよ!!」
「オプションでつけて貰った装備です。一応、こんな感じに触って操作もできます。ちょっと待ってくださいね」
尚、このオプションをつけた結果、値段が+50万位掛かったのだが、それは気にしてはいけない。そのまま検索をかけて、エアリアルビークルの広報映像を見せる。
「これがエアリアルビークルですか?」
「えぇ。AV車とも呼ばれる物で、タイヤが全部ジェット推進機に切り替わっています。垂直離着陸可能ですので、人命救助なんかでの活躍も期待されています。他にも軍は重装甲化して、人員輸送機として使用する事も検討してるとかで、案外10年くらいしたら車が空を飛び交っているかもしれませんね」
暫くすると、雷門へと到着。雷門を潜って、仲見世通りを通って本殿を目指す。
「意外と新しいお店も多いんですね」
「そうか、霧島は来た事ないもんな。ここの通りは実は意外と、店が入れ替わるんだ。だから老舗と最新が入り混じるんだよ」
堺の解説に霧島は驚いた。実は仲見世の店舗は、入れ替わったりする事あるのだ。なので昔ながらの煎餅屋だとか団子屋なんかもあるが、中には雑貨屋なんかもあったりする。
「お!今日は七味の屋台が出てるのか」
「七味の屋台?」
「見れば分かりますよ」
川山は2人をある屋台へと連れて行く。その屋台に入ると頭にタオルを巻いた50代くらいの中年男性が、何かを調合していた。
「いらっしゃい!」
「七味を、そうだな。オーソドックスなのを4つ」
「それでは。
七味七色、七通り先ずは中辛から七種類を順番に入れて調合して参りましょう。
最初に入りますのは、主役の八房。不思議にも必ず八つの房を実らせると言うこの八房、四国讃岐の名産物です。主成分であるカプサイシンには、脂肪をよく燃やしエネルギー代謝を活発にする効果があります。
さらに、免疫力を高める効果もあることがわかっています。
続いては紀州は有田、和歌山県の特産物であるお蜜柑の皮を粉末にしたもの。中国漢方では陳旧なるものに価値がある事から陳皮と呼ばれています。ビタミンCたっぷり風邪のお薬や、健胃生薬としても用いられます。
磯の香りを楽しみましょう。細かく千切って散らしたところ松葉の様に見えることから松葉海苔とも言われております。海のミネラルたっぷり老化防止や肺癌の予防、美白効果もあると言われております。香りの良い青海苔は江戸前は東京、大森の名産。香りの良い青海苔に続きましては、香りと言えば風味、風味と言えば香り、やはり七色、七味に欠かせないのがこの山椒の味と香り、色は黒いが味みやしゃんせ、誰が植えたか岩山椒。山椒、三年目の薬。と歌にも謳われております、東海道は朝倉山の名産。
また、金ごま、銀ごま、白ごま、黒ごまと数ある種類の中から武州川越は埼玉県の特産物である白ごまの摺りごま。脂肪分たっぷり食物のバターとも言われるこの白ごま、血液の循環を促し脳卒中や心臓病の原因である動脈硬化を防ぎます。
続いてこちら、見た目は固そうですが噛んで香ばしい野州日光は栃木県の名産。噛んで香ばしいだけでは無く、動悸、息切れ、心臓のお薬。また人間の嫌な体臭や口臭を消し止めてくれます。
最後に入りますのは、唐辛子を焼いた焙煎唐辛子です。焼くことにより香ばしくなり辛さと風味に深い味わいを与えます。こちらは信州からです。長野県は善光寺さん門前の八幡屋さんで有名な焙煎唐辛子が入りまして七種類、七色のお目通り、七味唐辛子となります。
この様に薬効あらたかな各地各種の名産物が花のお江戸に集められ、三代将軍家光公のご時世に誕生致しました、この七味唐辛子。その後、時代は下り明治、大正、昭和、平成と現代に至るまで秘伝の調合、伝統の香りで御座います。
只今、お客様の目の前にて各地の名産品を十二分に混ぜて出来上がりましたこちらが、秘伝の中辛となっております。
朝晩のおみおつけから鍋物、煮物と何にかけて頂いても大変美味しく頂けます。また滋養、薬用となっております。さぁ、どうぞ!」
そう言って差し出されたのは、4つの小さな紙袋であった。これこそ浅草名物、七味屋台である。
「すげぇ。リアルで見たの初めてだ.......」
「長波や朝霜が見たら、きっと大はしゃぎするでしょうね」
浅草寺でお参りした後、今度は東京インペリアルタワーへと向かった。この東京インペリアルタワーとは、こっちで言うところの東京スカイツリーである。ただし高さは635mではなく、750mになっている。
「さぁ、お次は東京インペリアルタワーです。高さ750mの超大型電波塔で、隣には商業施設も併設されています」
「これはまた、中々に巨大ですね」
「それにこんなに人も。とても賑わっていますよ」
霧島の言う通り、インペリアルタワーの周りは賑わっている。だが明らかに、いつもより人が遥かに多い。一瞬2人の存在がバレたかと思ったが、どうやら原因は別にあったようだ。
「.......あー、そういうことか」
「何かありました?」
「いえ。我が国のアニメのコスプレイベントがある様でして、その撮影会の行列ですよ」
「アニメ、ですか?」
「折角なら少し見てみます?」
という訳で、そのイベント会場にこっそり入ってみた。と言っても屋外なので、遠目からしっかりキャラが見える。
「学園モノですか?」
「いえ、戦闘モノです。あの学生服は単なる都市用の迷彩で、あのキャラ達は簡単に言えば国家機関の殺し屋です。赤い服のが錦木千束で、青い服のが井ノ上たきなですね。ロボ頭がロボ太で、黒人のがミカ。
うおっ!マージマサーンに、心臓もいる!!」
「そんなに有名な作品なんですか?」
まあ皆さんお分かりかとは思うが、その作品の名はリコリス・リコイルである。続編制作決定万歳。
因みに堺は心臓を『真三』とか『晋三』みたいな、人の名前だと思ってる。
「マージマサーンは地味に好きなキャラなんですよ。そして心臓は、もう、ホントおもしろくて。本名は吉松シンジって言うんですけど、回が進むごとにたきなからの呼び方酷くなって行くんですよ」
「というと?」
「最初が吉さん、次が吉松氏、吉松さん、お前、最終的に心臓になりました」
「何があったんだ.......」
「あの、心臓ってまさか、この心臓ですか?」
霧島は自分の胸を指差しながら聞いてきた。その心臓である。そう伝えると霧島も「何があったら、そんな呼び名になるんですか.......」と驚いていた。
「詳しくは本編を見てください。マジで名作なので。因みに最終的に心臓は、たきなから「心臓が逃げるッ!!!!」って鬼気迫る怒鳴り声を上げられながら銃ぶっ放してましたからね」
「えぇ.......」
「あ、でも。ミカとは古い知り合いで恋人だった過去もあったり、予告編じゃミカに「なんで戻ってきた?」と言われて、「ミカに会いたかったからさ……ミカに会いたかったからさ」と答え、2回目の「ミカに会いたかったからさ」には謎のエコーがかけられたりと、意外とネタキャラ感もあって、とにかく面白いですよ」
この後、適当にコスプレを見てから、いよいよインペリアルタワーの展望台へと向かう。まずは450mの高さにある第一展望台へと伸びる高速エレベーターに乗り込み、展望フロアを目指す。
「静かなんですね」
「しかも速い.......」
わずか1分という、驚異的な速さで展望フロアへと到達した。しかも全く揺れてないし、音も静かでスゥーッと登っていた。それに2人も驚いている。
「さぁ、お二人共。帝都の姿をご覧ください」
2人の目の前に広がっていたのは『未来都市』という言葉が良く似合う、遥かに発展したメトロポリスであった。
「こんなにもたくさんのビル群があったんですね.......」
「て、提督!あれ、ビルとビルを繋いでますよ!!」
「何?ホントだ.......。柱か何かなのか?」
「川山さん、アレは何でしょう?」
霧島が指差したのは白を基調としたビル群を繋ぐ、レールの様にも見える建造物である。川山はそれを見て「あー」という顔をしながら、2人に説明し出した。
「アレは空中回廊というヤツですよ。あの白いビルは、簡単に言うと街なんです」
「街?アレがですか?」
「えぇ。信じられないでしょうが、あのビルで全てが完結するんです。あのビルは1番下に複合商業施設があり、その上に小学校と中学校があります。更にオフィス、病院、空中庭園、発電所、居住施設と続いています。普段の生活なら、あそこで全て完結してしまうんです。
そしてあの細いレールの様な物は各ビル、正式にはメガタワーというのですが、それらを繋ぐ歩道橋であり送電設備なのです」
「こうして見ると、未来と伝統が融合した街なのですね.......」
堺は東京の歪さに関心を寄せていた。川等を1つ隔てると全く違う景色を見せる街並みに、結構な違和感を感じる。さっきまで居た浅草の周りは昔の情緒を残していたが、こういう風にして全体を見ていると発展している。違和感は感じるが、同時に面白さも感じていたのだ。
「面白いでしょう?あっちは未来で、こっちは昔。パッチワークの様に歪な街ですが、1つの都市で色々な物を味わえる。東京の醍醐味ですよ。さぁ、次は更にこの上の展望台に参りましょう」
またエレベーターに乗り、第二展望台へと登る。因みにこちらの高さは583mである。
「あ、富士山ですよ!」
「運がいいな。よく見える」
「堺さんの言う通り、今日は運がいいですよ。天気が悪いと、影すら拝めませんからね」
エレベーターを降りた3人を迎えたのは、日本の霊峰である富士山である。本日は天気も良く、空気も澄んでいるので良く見える。
「あの、所で川山さん」
「何でしょう?」
「先程から気になっていたのですが、あの海に浮かぶドームは何でしょうか?」
そう言って堺が指差したのは、東京湾のど真ん中に浮かぶ巨大なガラス張りのドームであった。読者諸氏なら、それが何なのか分かるであろう。
「あのドームは神室町という、ここ以上の未来都市ですよ」
「というと、我々が滞在するホテルがある?」
「えぇ。まあ泊まるのはホテルなんかよりも遥かにサービスが良く、ついでに警備も厳重な場所ですけどね」
堺は良く分からないらしいが、この後しっかり分かるので問題はない。暫く東京の街並みを見下ろして、次は昼食を食べに行くべく新宿へと向かった。
数十分後 新宿 天麩羅『天冠』
「着きましたよ」
川山が連れてきたのは新宿の大通りを少し入った場所にある、如何にも高級そうな店である。
「オヤジさーん、来たよー」
「おう、らっしゃい」
川山が引き戸を開けると、カウンターには強面で角刈りの60代くらいの男と川山と同い年くらいの若い男が居た。
「ようシンちゃん!」
「暫くだな源吉!今日はちょっと大事な客を連れて来てる。1番良いのを頼むよ」
「だとさ親父」
「ガハハハ!息子の友達の頼み、それも常連かつ外交官先生の頼みとありゃ腕によりかけねぇとなぁ!!ゲン!!!!裏から今日1番の食材持ってこい!!!!」
「おう!!」
この源吉とオヤジさんと呼ばれる2人は、川山の知り合いなのだ。源吉は川山の大学時代の友達で、学部は違うが良く一緒に遊んでた奴である。その流れで店によく来ており、いつの間にやら常連と化したのだ。
「あの、お二人とはお知り合いなのですか?」
「えぇ。若いのが私の友人で、この店の九代目ですよ」
「九代目!?」
「凄い歴史だな.......」
霧島も堺も驚いている。この『天冠』は江戸時代から続く天麩羅の名店であり、知る人ぞ知る隠れた名店なのだ。価格も幅広く設定されているので、地元の人には長年愛されている店である。
「ハハハッ!ただ古いだけですよ。まあ、腕の方は心配せんでくださいや」
オヤジは手早く冷蔵庫から小麦粉、水、卵を取り出し、氷水を貼ったボウルの上にボウルを置いて衣を作っていく。しかも衣用の水にも氷を入れている。
「あの、何故氷水を衣に?」
「お、お嬢さん目の付け所が良いねぇ。天麩羅の衣ってのはな、なるべく温度を低くしなきゃならねぇんだ。そして混ぜすぎず、粘り気がない物が一番よ」
「親父!この辺りでどうだい?」
「やっぱ今日のは良いねぇ。お客さん、アンタらは運が良いよ。今日入ったタネはな、揃いも揃って特に良い物が揃ってる。おい母さん!揚げるから、米出してやってくれ!」
奥から簪を刺した着物姿の50代位の女性が姿を現し、人数分の米を茶碗に盛り、味噌汁を注ぐ。更に天つゆや塩なんかも手早く用意して、それを3人に出した。
「失礼致します。右手から順に天つゆ、塩、抹茶塩となっておりますので、お好みでお試しください。お米とお味噌汁は幾らでもお代りできますので、お声がけくださいませ」
女性が下がると、オヤジが天麩羅を揚げ出した。まずは海老。オヤジは油に海老を入れると目を閉じて、そのまま動かなくなった。
「.......アレは何を?」
「オヤジさん曰く、嗅ぎ分けだそうです」
「か、嗅ぎ分け?」
川山のよく分からない回答に、堺は余計に頭にハテナを浮かべた。それを察して、すぐに源吉が解説する。
「天麩羅に限らず、揚げ物は揚がると音が変わるでしょ?天麩羅の場合は、他の揚げ物よりも揚げのタイミングがシビアなんです。なのでウチの店では「耳で音を嗅ぎ分ける」と言って、これが出来て一人前なんです」
源吉の解説を聞いていると、いつの間にかオヤジが海老を拾い上げ皿に盛り付ける。
「まずは海老ね!」
「美味っ!」
「ホント!衣サクサク」
「やっぱりオヤジさんのは美味いね」
出された海老の天麩羅は、本当に美味しかった。衣はサクサクで、海老の身はプリプリ。最高である。その後は鳥、カボチャ、豚、タマネギ、ピーマン、ホタテ、鮎と続く。どれも美味しかった。
そして最後に、オヤジからこんな提案があった。
「お客さん達、どうせならシメを食ってみないか?」
「一体何が出るんですか?」
「ウチの名物兼賄い料理なんだがね、天丼と天ぷらうどんかそばだ。食べるかい?」
天麩羅屋の天丼、天ぷらうどんorそばが美味くない筈がないので、二つ返事で作ってもらう。出て来たのは何方もミニサイズだが、中身の具材は贅沢な物だった。天丼は海老、タマネギ、鳥、豚、かき揚げ、卵。天ぷらうどんは海老とかき揚げという贅沢な物だった。
「なんで天ぷら屋なのに、うどんも美味いんだ.......」
「そばもプロ並みですよ.......」
堺はうどん、霧島はそばを頼んだのだが、何故か何方も麺と出汁が普通に専門店並みに美味しいのだ。天ぷら屋でなくとも、うどん屋そば屋として売り出せるレベルの美味さである。
「嫌味に聞こえるかもしれねぇが、ウチの天ぷらは美味すぎてな。普通の出汁と麺じゃ味が追い付かねぇんだ。色んな意見もあると思うが俺は天ぷらうどんやそばってのは、天ぷら、麺、出汁の3つが互いの持ち味を引き出す物だと思っとる。どれかが強すぎてもダメなんだ。だから、ウチの天ぷら専用に作っちまったんだ。麺も、出汁もな」
普通なら確かにオヤジの言う通り、嫌味にしか聞こえないだろう。だがこのうどんとそばを食ってしまっては、嫌味だとは言えない。その位美味しかった。
腹も膨れたので、今度は秋葉原へと向かう。適当な所に車を止めて、歩いて散策になる。勿論周りには溶け込む様にSPが配備されているので、全く問題ない。
「秋葉原。メイド喫茶にでも行くのですか?」
「まさか提督、行きたいとか言いませんよね?」
「いやそうじゃなくて!だって秋葉原と言ったら、メイド喫茶のイメージないか?」
霧島からジトーとした目で見られてしまい、どうにか誤解を解く堺。堺には嫁艦の大和がいるので、仮に「メイド喫茶に行きたがってた」なんて話が誤解だとしても耳に入れば、それはそれは大変面倒な事態に発展するのだ。故に堺も必死である。
「流石に我が国の賓客をメイド喫茶に連れて行くのは、ちょっと不味いですね。勿論、堺さんが望めばその限りではありませんがね」
「やめてください!本当にそう言うんじゃないです!!」
全力で否定して来る堺の後ろで、霧島が少し黒い笑みを浮かべてグッジョブしてる。川山も勿論、同じ様な顔で同様にグッジョブで返す。
「まあ冗談はさておき。今回、お2人にはあるゲームをプレイして頂きます。そんな訳で、こちらにどうぞ」
てっきり何処かのゲーム会社にでも案内されるのかと思ったが、案内されたのはアニメイト。その最上階にあるイベントフロアであった。
「こちらになります」
「な、なんですこれ?」
そこには多数のヘッドセットの様な物がズラリと並んでいた。ヘルメットやバイザーの様な物から、謎の巨大なベッドまで。そのサイズは様々である。
「これは我が国のサブカルにかける情熱と、最新技術がフュージョンして生み出されたゲーム機の最終到達地点。フルダイブ型VRゲーム機です!!」
「フルダイブ型VRゲーム機?」
「さっぱり分からん.......」
「簡単に言うと、ゲームの世界に入れるゲーム機です。取り敢えず、やれば分かります」
2人の頭にヘッドセットを取り付けて、手早くセッティングしていく。
「それではお二人共。リンクスタート、と言ってください」
「「り、リンクスタート?」」
2人がそう言った瞬間、何やらSF映画のワープ空間の様な青と白の光のトンネルの様な空間を勢い良く進んでいった。すぐにトンネルは終わり、気がつくと草原に2人して立っていた。
「こ、ここは何処だ?」
「わかりません.......」
「よっと。さぁ、お二人共こちらに」
2人の目の前にいきなり川山が現れて、石で出来たアーチ状のオブジェクトの方に案内される。そこを潜り抜けると『WF2 VR』と描かれた看板が、デカデカと空中に浮かんでいた。VR空間なので当然だが、柱もワイヤーも何も固定されてない。本当に空中に浮かんでいる。
「WF2?」
「第二次世界大戦を舞台にしたゲームです。現代戦より、こっちのが楽めるかと思いまして」
「こんなゲームが.......」
簡単にチュートリアルを済ませたのだが、結構自由度が高いゲームだった。例えばそこら辺の石に手榴弾括り付けて投げることが出来たり、銃を鈍器として使う事も出来たり、果ては無人の車や戦闘機を敵陣に突っ込ませる事なんかも出来る。
だが逆に銃の方は様々な物が選べるのだが、スキルを合わせて初めて真価を発揮する使用となっていた。例えばスナイパー系統のスキルでマシンガンを使うと弾は当たりやすいが移動速度が遅くなったり、普通のライフル兵がスナイパーライフルを遠距離で使うと極端に命中精度が落ちる等々、結構リアルであった。
「これ、何かオススメはありますか?」
「基本はライフル兵が良いと思いますよ。なんだかんだ使える武器も多いですし、マシンガンでもスナイパーでもそこそこ使えますから」
このアドバイスの結果、堺も霧島もライフル兵を選んだ。使用武器は堺がメインにStG44、サブにサイレンサー付きワルサーP38。霧島がメインにM1ガーランド、サブにワルサーP38。そして川山は…
「やっぱり俺は、これだ」
「嘘ぉ!?」
「えぇ!?!?」
川山がメイン、サブ共にMG45。つまりMG45の二挺拳銃ならぬ二挺機関銃である。
「あ、このゲーム。頑張ればこの装備もできるんですよ。その代わり、移動速度がバカ遅くなりますけどね」
涼しい顔でそういう川山だが、2人からしてみれば余りにぶっ飛んだ装備だったのだ。頭も痛くなる。
「お二人共、これで驚いてちゃ持ちませんよ?健太郎、ウチの総理なんかダブルバレルのブローニングM2重機関銃をぶん回してますから.......」
「よ、よく肩持ちますね」
「まあゲームですから」
ここはゲームの世界。なんでもありなのだ。堺も霧島も、余りに世界がリアル過ぎてそれを忘れていたのだ。
「さぁ、始めましょうか!」
川山がそう言うと、周りの景色がいきなり変わった。今までは訓練場の様なマップだったのだが、今度はトーチカや塹壕のある防御陣地にいた。
「遅いぞー」
「すまん浩三」
「え!?」
「神谷閣下!?」
なんとマップには神谷がいた。アバターが仮面を被ったキャリなので顔は2人、というか霧島に至っては初対面なので余計に分からないが目の前のアバターは神谷である。
「敵は来たか?」
「あぁ。サクッと2ウェーブ終わらせたぞ」
「相変わらず、お前はリアルでもゲームでも強いなぁ。それじゃ、ウェーブ3からだな」
そんな事を言っていると、何処からともなく銃声が聞こえてきた。ウェーブ3、開始である。
「慎太郎はいつも通りに。2人はトーチカで兎に角、敵に機関銃を撃ちまくってください!!」
神谷の指示で3人が動き出す。川山がMG45をあちこちに乱射し、霧島と堺が重機関銃を撃ちまくる。視界の左端にキルログが出て来ているので、どうやら順調に倒せてるらしい。
「意外と動きは単調だな.......」
『堺さん、それフラグですよ』
「え?」
『ウェーブ5になれば分かります』
神谷のこの発言に堺は疑問を持ったが、ウェーブが進むごとに敵も増えて来てすぐに疑問は忘れ去られた。だがウェーブ5になった時、明らかに敵の動きと戦力が変わった。
「な、なんだありゃ.......」
『戦車に装甲車、戦闘機まで.......』
堺も霧島も、この数には驚いた。明らかに、いきなりレベルが跳ね上がっている。だが逆に、2人は楽しめそうだと思った。何せどちらも最前線で戦って来た猛者。特に霧島は深海棲艦相手に最前線で戦った、バリバリの武闘派。この程度では臆さない。
「全員集合」
神谷の命令で3人が集まる。神谷の手には第二次世界大戦には似つかない、周囲地図を立体映像で映す装置が握られていた。
「この数になると、結構面倒だ。まずは敵の連携を崩す。慎太郎は戦闘機を相手しろ。俺は敵陣に殴り込む。堺さんは私の援護を」
「あの、私は?」
「霧島さんには、コイツを頼みたい」
そう言って神谷は、赤いラインの入った双眼鏡を渡して来た。一見すると、別に普通の双眼鏡である。
「コイツで敵をスポットしてください。そしたらマップに共有されます。そしてもう一つ、私の合図で砲撃をお願いします。コイツはスポッターにも砲撃支援を要請する無線機の代わりにもなるアイテムです。砲撃時にはメニューから支援砲撃を選んで、敵をマークしてください。そうすれば勝手に砲撃が開始されます」
「分かりました」
「よし、では出撃!!」
流石現役の指揮官というべきか、声のトーンが何処か映画の隊長の様である。3人が配置についたのを確認すると、神谷は機関銃を無理矢理装備したジープで飛び出し、敵陣目掛けて突っ込んだ。
「ちょっ!?戦車いるのにジープじゃ自殺ですよ!?!?」
『大丈夫』
川山の声が聞こえた次の瞬間、敵の戦車の砲塔が吹き飛んだ。川山が後方の榴弾砲で、戦車の砲塔を破壊したのだ。
「ナイス慎太郎!!」
『そのまま行け。戦闘機と戦車は任せろ!」
「任せる!!」
神谷はジープのアクセルをベタ踏みし、敵陣向けて突貫。そのまま助手席に固定してた機関銃の発射レバーを倒して、弾丸の雨を降らせる。負けじと堺も後ろからM2で援護し、敵を削り続ける。
「堺さん!そのまま右翼側の敵を中央に押し込む感じで撃ってください!!」
『了解!!』
『俺も援護する』
堺が右翼側を、神谷が左翼側の敵を中央に押さえ込み、川山も榴弾砲で的確にそれを援護する。そして敵の大多数が中央に集まったタイミングで、神谷が叫んだ。
「今だ霧島さん!!!!」
『狙い、よーし!方面支援砲撃、全門、斉射ー!!!!』
方面支援砲撃が開始され、一箇所に固まっていた敵があちこちに吹き飛ばされた。そして最後の敵を堺が撃つと、堺の目の前に『ミッション・コンプリート』と現れて全員がマップに入った時の場所にワープさせられた。
「はい、これで終わりです」
「凄いですねコレ!私も欲しいですよ!!」
どうやら堺はお気に召したらしい。目が輝いている。霧島もその横で頷いているあたり、楽しんでくれたのだろう。
「他のレギュレーションも色々ありますよ。今回は拠点防衛でしたが、逆に拠点攻撃、オンラインだと1チーム128人にプレイヤー1人に20人のAI分隊員が追従して戦うのもあったりと、これはまだ序の口です」
「それにコイツは第二次世界大戦モチーフですが、戦争系なら大昔の騎士や侍が出て来るヤツ、第一次世界大戦、現代、近未来、果てはスターウォーズや銀英伝みたいな星間国家同士の戦争もありますよ。
更に戦争のみならず、初期四部作である『ソードアート・オンライン』通称SAO、『アルブヘイム・オンライン』通称ALO、『ガンゲイル・オンライン』通称GGO、『プロジェクト・アリシゼーション』通称UW若しくはアンダーワールドなんかもありますから、色々調べてみてください」
因みに三英傑は揃って、初期四部作をしっかりやりこんでいる。身バレしない様にこっそりであるが、プレイヤーネーム自体はどのゲームでもそれなりに通っている。
「おっと、もうこんな時間だ。それじゃ、私はこれにて。また後でお会いしましょう」
そう言って神谷はログアウトした。だが「また後で」の意味がわからない。
「あ、そう言えば言ってませんでしたね。今日の神室町での案内は、私ではなく浩三が担当します。私はこの後の国会議事堂の見学で終わりになりますね」
「どうして川山さんではなく神谷さんが?」
「まあ、行けば分かりますよ」
霧島の質問には答えない川山だったが、読者諸氏ならその理由は分かるだろう。あの街は神谷家が作ったのだ、神谷以上の適任はいない。この後、もう少しVRゲームを楽しみ今度は国会議事堂へと向かった。
数十分後 国会議事堂
「では、次は国会議事堂になります。まあここは恐らく余り変わらないと思いますがね」
「確かに我々が知る国会議事堂と大差ない様ですね」
「今回は特別な許可を貰ってますので、中まで見学頂けます。勿論、本来公開してない所まで」
堺だって元いた世界、かつて深海棲艦と戦っていた世界に於いては中将という上級将校に分類される階級にいた。だが国会議事堂なんて、見た事はあるが入ったことは無い。故に結構ドキドキである。
「そう言えば川山さんは国会議事堂に入ったことが?」
「えぇ。何度か外交関連の話の時に入った事がありますよ。尤も私の場合、首相官邸に入り浸る事の方が多いですがね」
「首相官邸に入り浸ってるんですね.......」
この回答には霧島も予想だにしてなかったらしい。普通に生きていれば、まず言う事のないセリフであろう。川山が特殊すぎるのだ。
「ここが議員食堂になります」
「国会議事堂に食堂なんてあったのか」
「国会議事堂と言いつつ、議員以外にも色々職員がいますからね。職員の食堂にもなってるそうです。私も一度食べた事がありますが、結構味もしっかりしてて美味しいですよ。
因みに健太郎曰く、唐揚げ定食と海鮮丼が美味い、らしいです」
「その辺りは他の食堂と同じなんですね。見た目は豪華ですけど」
実はリアルの国会議事堂にも食堂はある。しかも4種類位あり、メニューも豊富なのだ。意外かもしれないが弁当なんかの販売もしている。
「次は審議室に参りましょう。多分、今の時間なら実際の会議が見れますよ」
中に入ると川山の言う通り、中では審議の真っ最中であった。YouTubeなんかにも上がってる様に、与党と野党による舌戦が繰り広げられている。
「ですから、これでは強権的かつ前時代的ではないのですか!?我が国は民主国家!にも関わらず、この統治方式は明らかに帝国主義的としか言いようがありません!!!!」
恐らく野党の議員と思しき中年男性が、マイクの前で叫んでいる。その後ろからは野次による援護射撃も加えられており、イメージ通りの国会であった。因みに今回の議題は、グラ・バルカス帝国の統治方式についてである。
『一色健太郎くん』
「前時代的、強権的、帝国主義的と仰いますが、それがグラ・バルカス帝国です。確かに我が国の技術レベルからしてみれば、また戦争になろうとも勝利を収められるでしょう。しかし他国はその限りでは無い。もしまた戦争が起これば、他国は血の海となるでしょう。それに観光や仕事等の理由で居合わせた、我が国の国民が巻き込まれないとは言い切れない。グラ・バルカス帝国の牙を抜く為にもこの様に統治するべきと考えているのです。
勿論、この統治方式は最初期のみに抑えます。軍を用いる事は現地住民には多大な不安と恐怖を与える事にはなりますが、この行動が帝国内に残る不穏分子に対する牽制となり、それが治安回復といったグラ・バルカス帝国への明確な利点となるのです」
『中江貴一くん』
「総理は神谷元帥のために、この統治方式を取ったのではありませんか!?総理と元帥は三英傑のお仲間。この行動により軍は予算獲得時に使えるカードが増える。2人の蜜月が、この方式を採用させたのでは無いですか!?あの男に全軍の指揮権を与えていることこそ、その証拠でしょう!!!!もし、あの男が反乱でも起こしたらどうするおつもりか!!!!!!お答え頂きたい」
いつの間にやら野党勢力の反論は、三英傑に対する批判へと切り替わっていた。だが、一色はその程度で止まらない。
『一色健太郎くん』
「まず今回の統治方式について、神谷元帥からは最初「NO」と言われました。「漸く戦争が終わったのだから、兵士達を祖国で凱旋させてやりたい」と申し出もあったのです。しかしそれを私が頼み込み、この結果になりました。従って蜜月などはありません。
それからアイツが反乱でも起こしたらどうするかと言われましたが、反乱起こされたらどうしようも出来ないでしょうね。アイツは単体でも絶対な力を持つ。刀を銃弾で切り裂くとか、そんなぶっ飛んだ事をやってのける男です。単体でも反乱を起こせば軍も多数の被害を出すでしょう。例えそれが1番下っ端の階級だったとしても。指揮権についても私ではなく陛下が下賜なされた事であり、陛下の御意志。そこにケチを付けるのなら、それ相応の証拠を見せて貰いたい。
というかそれ以前に、今の議題はグラ・バルカス帝国の統治方式に関する事。私や三英傑への批判をする場でありません。それに確か中江議員には、今週刊誌を騒がしてる某社との収賄疑惑がありましたよね?我々の事をどうこう言う前に、まずはそれを国民の皆様に説明するべきでは?我々の給料やここの運営費、それから手当諸々の資金は国民の血税の上に成り立っている。我々は国民に感謝し、国民の為にここで議論すべきなのです。それを忘れてしまっては、アンタ見放されますよ?」
完膚なきまでの攻撃に、中江議員は黙る。顔を真っ赤にしながら足早に自分の椅子に戻り、与党側からは拍手が巻き上がった。
「これがここの日常なのですか?」
「堺さんの居た日本じゃ考えられないと思いますよ。というかウチの国でも、アイツの一個前の総理はあんな感じじゃありません。多分、堺さんが想像するものと同じ感じですよ。アイツが可笑しいんです。
本来なら委員長も止めるべきなんでしょうが、あの通称『一色節』は国民にも大人気で止めたらクレームが入るんですよ。というか多分、委員長も楽しんでますからねアレ。半分公認です」
本来であれば傍若無人と言われ叩かれるであろう言動だが、あの言動で国民から許されているのは、それだけ一色が国民に対して誠実であるという事でもある。それだけの男がトップをやってる国は強い。この国が強国である理由の一端が分かったような気がした。
この後も議論が続いたが、すぐに時間切れとなり閉廷となる。議員達が外に出て行く中、一色は3人の居る方にやって来た。
「お疲れー」
「おう。そっちもな、案内ご苦労さん。さて、初めまして堺さんに霧島さん。大日本皇国総理、一色健太郎です。本日は出迎えられず、申し訳ありませんでした」
「いえいえ!お気になさらず」
まさかいきなり頭を下げられるとは思っておらず、2人とも驚いた。曲がりなりにも目の前の男は総理、つまりこの国の政治のトップ。その男がこうも簡単に頭を下げられるという事は、立場がどんなに上でも誠実であれる事の証拠だ。
「にしても荒れてんな」
「あぁ。だがあの国には荒療治でもしないと、国がマトモにならんよ。浩三にはめっちゃ渋られたが、まあ結果オーライだ。恐らく今の感じなら初期は軍で押さえ込み、以降は新生帝国政府に委ねて、後は復興支援とか諸々で企業にテコ入れして貰う感じになるだろ。不平等条約なしのパーパルディア方式だ。そっちもそれを意識して動いてくれ」
「了解了解。そういやアレ、中江のヤツ。あの犯人お前だろ?」
「勿論。そろそろ三英傑絡みとか俺と浩三関連で噛みついて来ると思ったんで、3週間前に週刊誌にリークしてやったぜ。中江の顔、ありゃネットの玩具にされるぞwww」
「あー、早くコラ画像とかボケてに出ないかなー」
横で全部聞いている堺と霧島は、一色が怖く感じた。つまり一色は今日辺りに中江が議論とは関係ない反論までして来ることを見越して、カードを増やせる様に手を打っておいたという事なのだ。そこまで見越せる一色という存在に、言い様のない恐怖を感じざるを得なかったのだ。
「おっと、完全に我々の世界に入ってしまいましたね。申し訳ない」
「か、構いませんよ。所で三英傑では、さっきの様に国政を共有しているのですか?」
「そうですよ。何なら軽く国の命運を左右する重要な決め事も、三英傑間で決める時は結構軽いノリで決めてます。大学生の「次の合コンの会場どうする?」「こことかで良くね?」みたいなノリです」
「か、軽いですね確かに.......」
(よく国が滅びなかったわね.......)
因みに2人の脳内での三英傑の会議というか、国関連の決め事はガチガチの感じかと思っていた。よく映画なんかにある、全てを裏で操ってる感じの勢力の会議みたいなヤツである。
2人の戸惑いは他所に、以降は一色も交えての国会議事堂巡りを行い1時間程で周り終えた。最後に一色からボールペンをプレゼントされ、ここで一色とは別れた。そして一行は、今度は東京駅へと向かった。
「ここが私との旅では最後の目的地となる東京駅です」
「おぉ、やっぱりデカいな」
「提督、天皇陛下や各国大臣も利用する駅ですよ?小さくては舐められます」
「それもそうだな」
駅構内に入り神室町行きのリニアの改札の近くに行くと、そこには私服姿の神谷がいた。
「お、いたいた」
「よっ!お疲れさん。それにさっきぶりですね、お二人共。尤もアレは電脳世界でしたが」
「先程はどうも。霧島、この方が大日本皇国のトップ、神谷浩三元帥殿だ」
「霧島です、よろしくお願いします。元帥閣下」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。あぁ、そうだ。私は堅っ苦しいのは苦手なので、神谷とお呼びください。元帥閣下じゃ息が詰まっちまう」
一応来日後リアルでは初の顔合わせとなり、そして霧島にとってはファーストコンタクトとなる神谷。簡単に自己紹介も終え、リニアもそろそろ来る。川山とのお別れの時間だ。
「それではお二人共、私はこれにて。まだ少し早いですが、一日お疲れ様でした。次は外交交渉の際にお会いしましょう」
そう言って川山は帰って行った。神谷、堺、霧島の3人は神室町行きのリニアへと乗り込み、水上都市である神室町へと向かう。
「所で、今から行く神室町とはどの様な場所なのですか?」
「まあ平たく言うと、ウチの会社と国が好き勝手やってる実験都市ですかね」
堺の質問にこう答える神谷。神室町自体、都市計画と建設は神谷の兄貴である賢介が社長を務める神谷組が行なっているし、町にある施設の大半は神谷グループの資本だったりする。かく言う神谷自身も街の3割位の物件を持っていて、1ヶ月で数千万単位の不労所得が入る。
「どういう事ですか?それにウチの会社というのは.......」
「神室町自体、私の兄の会社が都市計画を担当しているんです。その親会社が父の会社でして、あそこの施設も大半が同系列の企業が独占しているんです。
勿論、独占しているのも理由があります。さっきも言った様に実験都市として、様々な先進技術を用いた都市開発を行い、各産業にも同様に最先端の技術やプロトタイプのシステムを導入して実地試験をしているんです。ですので1つの企業が独占した方が何かと楽なんですよ」
「確かに合理的ですが.......」
「勿論、他の企業に対して不公平ですから、しっかり他企業にも旨味がありますよ。店を出店する際にグループの不動産を買う訳ですが、相場よりも割安で提供しているんです。その代わりに、システム導入に同意するという契約を結ばせる。ですので店自体は結構いろんな企業が出店していますので、悪い話ばかりではないんですよ」
霧島が気にしていた、産業での軋轢が綺麗に回避されている。更に神谷は「建設も主導こそウチのグループでも、建設は様々な企業が協力している」とも言ったので、合理的な実験都市かつ新たな市場も産まれる中々に理に叶った都市だと霧島は思った。
しばらくしてリニアは神室町の玄関口である『神室ステーション』に到着し、モノレールに乗り換える。
「まるで未来都市ですね」
「ここが玄関口の歌舞伎地区です。ここが本土とここを結ぶ神室ステーション。あっちに見えるのが、港湾施設と物流拠点が融合しフルオートメーションで動く神室ウォーターフロントです。まずはこのまま、紅蓮地区に行きます」
堺も霧島も、結構楽しんでくれているのか窓の外をじっと眺めている。特に堺は目が少年の様にキラッキラしていて、見るからに楽しそうだ。
「紅蓮地区には何が?」
「紅蓮地区は北側に町の中核を担う施設が集約されていて、南側はマンション群があります。今回は北側の施設を見学してもらいます」
「あ、提督!あんな大きな建物までありますよ?」
窓の外を見ていた霧島が、中心部に聳え立つ建物を見つけた。周りのタワーマンションが小さく見えるほどに巨大で、四隅にタワーマンション4棟分位の大きさを誇る構造物と、真ん中にそれより巨大な構造物で構成された想像できないほどに大きな建物である。
「市庁舎か何かじゃないのか?それか、神谷さんのお兄さんの会社とか」
「神谷さん、あの建物はなんですか?」
「アレは家ですよ」
「あんなマンションまであるんですね。家賃幾らするんだろうか.......」
「提督、現実に急に戻すのやめてください。それに多分、あんな大きさですから月数百万単位ですよ」
いきなりの現実に引き戻す発言に、霧島がジト目で堺を見てくる。だが、2人は根本的に勘違いしている。アレは家は家でも、タワーマンションではない。周りのはタワーマンションだが、真ん中の巨大なのは違う。
「あー、何か勘違いしてません?」
「どういう事ですか?」
「アレ、私の家です」
「「.......え?」」
「だから、アレ、俺の、家。That is my house」
その真ん中にある家は、紛れもなく目の前にいる神谷浩三の自宅である。
「あの、本当にそうなんですか?」
「えぇ。あの家自体、この神室町を包むガラスドームの柱なんですよ。何かあった時に血縁者が住んでいたら、色々と楽でしょ?だからあの建物を、そのまま私の家としての機能を付けて建設したんです。お陰で、一族が住む家の中で一番でかい建物ですよ」
余りにぶっ飛んだ発言に2人して固まる。まさかの町で1番大きな建物が、町のを作った人間の血縁者とは言え、たった1人の家なのだから。
「まさか、あんな大きな家に1人で?」
「流石にキツイですよ。使用人達が大量にいます。それに怒られるかもしれませんけど、あそこまでデカいと色々大変なんですよ?光熱費とかの諸々の維持費と生活費だけで一般人の平均年収近い額が一月で飛ぶわ、使用人の給料も払わないといけないわ、そもそも税金もバカにならないわで、結構お金が.......」
ぶっちゃけ不動産からの不労所得が無かったら、あの莫大な維持費を賄えない。神谷は更に株式運用で資金を増やして、不動産の所得が一気にゼロになっても10年は現状を維持できるだけの貯蓄をしていたりする。
「なんか、大変なんですね」
「もうヤバいです。夢の町だって言う人も居ますけど、私からすれば結構リアルを見せられる町ですよ。あぁ、着きましたね」
紅蓮地区に着くと、早速赤と黒を基調とした市庁舎が見えて来る。建物のデザインは何処か重々しい感じだが、全体的に近未来の建物の様に感じられるし、何より周囲にある美しい公園や広場で重々しさが中和されている。
「あれが市庁舎です。あそこの受け付けはロボットなんですよ?」
「ロボットですか?」
「勿論人間も居ますが、簡単な手続きはロボットが自動で行ってくれるんです。例えば転居届とか婚姻届みたいな書類関連とか、観光案内とか、後は保険適用の手続きだとか」
流石に中には入れないが、話を聞く限りなら確かに未来都市である。だが次の瞬間、未来都市である事を実感する物を見る。
「おい霧島。あれ、ドローンじゃないか?」
「あ、ホントですね」
見れば2つのプロペラを持った手のひらサイズの小さなドローンが飛んでいる。下には何か、棒状の物体が装備されている。
「あのタイプは警察の追跡ドローンですね。下の多目的レールガンから、スタンガンが発射されるんです。他にも暴徒鎮圧用にゴム弾を装填した機関銃とスタングレネードを発射する鎮圧ドローンもありますし、常時宅配ドローン、貨物ドローン、救急警備ドローン、消防ドローン何かが街を回っています。あ、アレが救急警備ドローンですよ」
そう言って指差した方向には、小学校高学年位の高さのある自動車型のドローンが町を走っているのが見える。
「なんか可愛いですね」
「可愛くても、中身は高性能ですよ。横にロボットアームが付いていて、人1人位なら余裕で引き摺って移動させられますし、遠隔で医者や看護師が操作して点滴なんかを投与したりも出来ます」
どうやら、本当に未来都市らしい。この後見せて貰った警察署も巨大で先進的な見た目であったし、他の施設も近未来を感じさせる建物が多かった。
「では次は神谷地区に行きましょうか」
「神谷地区?」
「父の企業の主要な傘下企業のオフィスビルが立ち並ぶ地区で、神室メモリアルパークという神室町の建設史が紹介されてる公園もあるんですよ」
またモノレールに乗って南東部のカムロモールや遊園地、リゾートホテルが立ち並ぶ太平地区、南部のベッドタウンや『天下一通り』という、地上40階に建てられた特殊な構造を持つ繁華街がある阿頼耶地区を抜けて、神谷地区へ到着する。
「これはまた、すごい光景だ.......」
「360°全部ビルですね.......」
今、3人は円形の公園にいる。この下には交差点があり、更にその下にはラウンドアバウトもある。そしてその周りを取り囲む様に600m近いビルが5つ並んでいて、まるでビルの壁の様に見える。
「正面から建設部門の神谷組、芸能部門のカミーヤプロダクション、金融部門の神谷金融、軍事部門の神谷タクティクス、ICT関連産業部門の神谷テクニカ、農林水産部門のAFF神谷の本社ビルです」
「神谷さん、ホントに只者じゃない..........」
「それじゃ、行きましょうか」
近くにある神室メモリアルという施設に入ると、神室町の立体映像で作られた模型があったり、建設から現在に至るまでの開発と発展の歴史を紹介するパネル、建設中の映像なんかもあって、結構楽しい時間が過ごせた。
かれこれ1時間ほど居て、外に出る頃にはすっかり暗くなっている。
「お二人共、迎えが来てますのでどうぞ」
そう言って神谷が指差す方向を見ると、黒いリムジンが停まっている。それに乗り込み、本日から5日間泊まることになる神谷邸へと車は進み出した。
40分程度で車は神谷邸の下へと到着し、車を降りるといつもの様に執事の早稲が出迎える。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ただいま。彼らが例の客人だ、丁重に頼む」
「お任せを」
「堺さん、霧島さん。紹介しましょう、ウチの執事、早稲です」
「お初にお目にかかります、当家執事の早稲と申します。以後、お見知り置きを」
流石ベテランの執事。その所作は物語に出てくる執事を、そのまま現実世界に出した様に完璧で美しい。
「わ、私は堺修一と申します。5日間、よろしくお願いします」
「霧島と申します。よろしくお願いします」
「堺様に霧島様ですね。ご丁寧にありがとうございます。それでは…」
早稲が手をパンパンと叩くと、後ろにいた男性の使用人が素早く前に出て来た。
「お荷物をお預かり致します」
「あっ、ありがとうございます」
「お願いしますね」
「それでは御二方、お部屋にご案内致します。こちらへ」
ヘリポートからエレベーターで下のフロアへと向かう。途中、神谷と早稲は神谷の自室のある部屋で降り、堺と霧島はそのさらに下のフロアにあるVIPゲストルームに通された。
「こちらの部屋が堺様、その隣、あちらの部屋が霧島様になります。どうぞ」
一度ここで堺と霧島が別れ、自分達の充てがわれた部屋へと入る。中は何方も同じ内装なのだが、まあ凄い。明らかに最高級ホテルの1番グレードの高い部屋と同等、或いはそれ以上の部屋であった。
「こ、これは凄い.......」
堺も軍の高級将校である以上、数回ではあるが高級ホテルに滞在したことがあるにはある。しかしその泊まってきたどの部屋よりもランクが遥かに上であった。
「お荷物はこちらでよろしいですか?」
「あ、はい」
「前のお部屋にミーティングルームも御座いますので、滞在中はお好きにお使いください。何かございましたら、こちらの内線をお使いください。すぐに我々が参りますので。
お食事は1時間後になりますので、準備ができましたら1つ上の大広間までお越しください。それでは、失礼致します」
使用人は最後の部屋を出る瞬間まで、洗練された動きで礼を尽くし出て行った。さて、取り敢えず荷物も来たことだし、今から1時間は暇な時間だ。なら、やる事は1つ。
「部屋探検、するか」
そう。部屋探検である。流石にこの広さの部屋は泊まったことが無いので、何処にどんな部屋があるのか。どんな設備があるのか全く検討も付かないのだ。
「ここがリビングルームだな。あるのはキッチン、大型のテレビモニター、多分20人位は座れる広いソファー、ダイニングテーブルと椅子、で、何だこれ」
謎の炎が出ている、現代版囲炉裏の様な謎の設備がある。だが炎の周りはガラスで覆われていて、炎がゆらゆらしている光景を見るだけのようだ。
と思っていたのだが、上にスイッチが付いていて、それを押してみるとガラスがスライドしたではないか。
「火力調節もできる.......。これ、ホントに現代版囲炉裏だ」
部屋はメゾネット式の様で、リビングルームに階段がある。一応玄関からリビングルームは数段下がった位置にあるのだが、玄関と同じ高さの位置に扉がある。まずはそこに入ってみた。
「ここは、ワークスペースか?」
自分の執務室にある物より明らかに豪華な机と椅子があり、後ろにはバリスタのコーヒーとお茶、ウォーターサーバーもある。様々なモデルに対応できる様に各充電端子もあり、コピー機やFAXまである。仕事が捗る事は間違いない。
「まるでオフィスだな」
次はさっきの、下に降る階段を降ってみる。そこを降ると左にウォークインクローゼットがあり、正面には大きなベッドルームがある。その奥には風呂があるのだが、浴槽が2つあった。1つは屋内で、もう1つが露天風呂である。石造りの浴槽に竹が植えられていて、屋根がない。流石に周りは木製の壁で囲われているので外は見れないが、屋内の浴槽からは夜景が見える。こんな豪華な部屋は見た事がない。
取り敢えず霧島を部屋に呼んで、簡単に打ち合わせをしていると、すぐに食事の時間が近付いてくる。パーティー用の衣服に着替えて、大広間へと向かった。
「堺様に霧島様。お二人共、よくお似合いでございますよ」
大広間の前には早稲が待機していて、堺と霧島を出迎える。
「ありがとうございます」
「さぁ、こちらへどうぞ」
早稲が扉を開けると、やはり待っていたのは煌びやかな部屋であった。シャンデリアが光を生み、白いテーブルクロスの敷かれた長机。明らかに高そうで座り心地の良さそうな椅子に、赤地に金の刺繍の入った絨毯。奥にはイブニングドレスを着た5人のエルフが既に座っていて、その奥には紋付き羽織袴姿の神谷もいる。
「堺さんに霧島さん、どうぞこちらに」
神谷は2人を自分の前の席へと案内し、席につかせる。神谷が先に着いた事を確認すると、早稲が合図して料理が運ばれて来た。
「今日は宴だ。好きに食べてください」
因みにメニューはこんな感じ。
先付け
・鮭の和風カルパッチョ
吸物
・鱧の吸物
造り
・黒マグロ三種(赤身、中トロ、大トロ)、伊勢海老、アワビの刺身
八寸
・鯛カマの塩焼きと生ハムカプレーゼ
焼き物
・仙台牛のステーキ
炊き合わせ
・筑前煮
ご飯
・薩摩地鶏の炊き込みご飯
甘味
・バニラアイス
「おぉ、これは」
「普通の懐石料理じゃ、ちょっと遊び心がないんでね。料理長に頼んで、色々やって貰ったんですよ」
本来であればコース料理で出てくる上に、味付けも奥ゆかしく上品な物が多い。だが目の前の懐石料理は一気に全部きて、尚且つ料理自体もイタリアンが含まれていたりして、初めて見るタイプの懐石料理であった。
お味の方はというと…
「うまっ!」
「ほんと。美味しい」
「もっと言ってやってください。多分、その辺で料理長が感想に聞き耳立ててますから」
次の瞬間、ガタンと物音がした。どうやら本当に聞いていたらしい。すぐに「何もしてませんでしたけど?」という顔で、料理長が挨拶にやってきた。
「本日より、私が料理の準備をさせて頂きます」
「よろしくお願いします、料理長さん」
「これ、本当に美味しいです!」
「ありがとうございます」
一応強面なのだが、褒められた時の顔は子供の様に無邪気な笑顔を浮かべている。どうやら、本当に料理が好きらしい。
「あの、所で神谷さん。彼方の方々は?」
「あぁ、紹介が遅れて申し訳ありません。彼女達は私の妻です」
神谷はサラリとそう言うが、5人いる。日本国では法律上は1人までしか結婚できない筈なのだが、何故かハーレム状態である。妾だとしても、客人がいる目の前でこんな堂々と食事を共にさせるとは考えられない。
「長女のヘルミーナと申します」
「次女のアナスタシアだ。よろしく頼む」
「三女のミーシャです。よろしくお願いしますね」
「四女のレイチェルでーす」
「五女のエリスよ。まあ、よろしく頼むわ」
しかも姉妹である。五人姉妹をそのままハーレムにしているという、中々にぶっ飛んだ状況と酒で堺も頭が回らない。だが、霧島は違った。
「あの、質問しづらい事ですが、何故5人も奥様がいらっしゃるのですか?」
「彼女達との婚約は、それはまあ特殊なんですよ。知っての通り、本来これは違法です。昔こそ妾制度はありましたが、今は一夫一妻制と法律に定められています。
しかし転移後に幾つかの法改正がなされまして、新たに郷に行っては郷に従え法という、異世界で婚約した場合にその村や土地の兼ね合いで一夫多妻や多夫多妻をせざるを得ない際に一夫一妻以外の婚姻関係が認められる法律が出来たんです。彼女達も村の掟で私と結婚しなかったら死ぬ事になっていまして、この法律により5人と結婚したんですよ」
「そんな法律が.......」
因みにこの後、エルフ五等分の花嫁からナゴ村での戦闘の話を聞いて、目の前の男が思ってた以上にぶっ飛んでいた奴だと思い知ったという。