タウイタウイ島との国交樹立より約2ヶ月 タウイタウイ島近辺上空 特務輸送機『延空』機内
「いやー、タウイタウイ島の人気は凄まじい物があるな」
「なんか旅雑誌のランキングじゃ、どの誌面でもトップ3に入ってるんだっけ?」
この日、大日本皇国が誇る三英傑の3人は、タウイタウイ島へ視察や交渉など諸々の用事をこなす為に飛んでいた。
一応名目上は『視察』と銘打っているが、その実は聖地巡礼旅行である。国民の血税で何してるんだと怒られそうだが、行く場所丸々聖地なのだから仕方がない。それにちゃんと仕事もやる。
少々旅行気分の三英傑を乗せて、『延空』はタウイタウイ島から護衛兼誘導で派遣された2機のF104Gの先導の元、タウイタウイ島西部の飛行場へと向かう。大体30分程度の飛行の末、機体は無事に着陸した。飛行場へ降り立つと、見覚えのある第二種軍装に身を包んだ男が出迎えてくれた。
「川山さん、神谷さん、一色さん、お久しぶりですね。タウイタウイへようこそ」
タウイタウイ泊地提督にして、現在は国家元首扱いになっている堺修一である。
「こちらこそ、お久しぶりです。いやぁ、やはりこの島は暑いですね。さすが南の島、という感じです」
「全くですね。こんな暑いところで立ち話も何です、こちらへどうぞ」
駐機場には大日本皇国製の車がスタンバイしており、それに乗り込んでタウイタウイ泊地司令部へと向かう。飛行場から15分ほどだ。
「この雰囲気は懐かしいな、横須賀や呉の鎮守府を思い出す」
赤煉瓦作りの建物を見て、神谷がそう呟いた。神谷にとって横須賀鎮守府はかつて第一主力艦隊の司令をしていた頃に世話になったし、呉鎮守府は江田島の海軍兵学校にいた頃に何度も足を運んだ思い出のある鎮守府なのだ。
「まあ、それらの鎮守府に倣った作りになっていますからね」
「建物同士の間隔が広いですね。空襲や火災への対策ですか?」
「鋭いですね川山さん。仰る通りです。
さ、到着しました。どうぞお降りください」
泊地司令部といっても、建物は複数ある。艦娘たちの住まう寮や工廠、船渠、所謂ドック、艦娘憩いの場である「甘味処 間宮&伊良湖」、空母艦娘たちのための弓道場、提督執務室を含む司令部棟といった感じだ。甘味処と弓道場を除いて、どの建物も3〜5階建てになっており、グラウンドまで付いているため学校のような印象がある。
その建物群の中の司令部棟に入り、エレベーターで4階へ上がる。その一角に提督執務室があるのだ。
「どうぞお入りください」
堺に勧められて入ってみる。部屋の第一印象は『青』である。冗談でも何でもなく、部屋が全体的に青色で統一されているのだ。板張りの床には青いカーペットが敷かれ、壁紙も青い。ドアを入って正面奥には青いテーブルクロスをかけた執務机が置いてあり、その右手には年季を感じさせる棚が2つある。どちらも書類がびっしり置かれていた。
執務机の左手側には、白いテーブルクロスのかかったテーブルに椅子2脚と緑のソファー、つまり応接セットが展開されていた。執務机の右手側には棚の他に小さな丸テーブルがある。このテーブルにはお茶を淹れるためのポットやカップ、ティースタンドが置いてあった。
応接セットの背後の壁には、ステンドグラスの絵がかかっており、後部がやたら平らになった戦艦が描かれていた。恐らく、伊勢型だろう。そして執務机の背後には青いカーテンのかかった窓があり、そこから青い海原が見える。本当に青尽くしであった。
(青は確か、視覚的に人を落ち着かせる効果があるんだったな。ここまで青一色でまとめているとなると、そういう効果をちゃんと考えてるんだろうな)
川山が冷静に考察する一方で、一色と神谷は表面的には冷静そうに見えたが、心の中ではだいぶ興奮していた。
(こ、これはマジモンの家具類か!ゲーム画面で見ていた物が、実物として目の前にあるなんて....)
(Fooooooo!ゲームで見た家具類が、マジで目の前にある!!
これは多分「軍艦色の壁」、机は「提督の机」、床は「ブルーカーペット」、この応接セットは確か「金剛の紅茶セット」じゃないか!それに「航空戦艦ステンドグラス」と「鎮守府お茶会セット」まである!ゆ、夢のような光景だ.......!)
実は三英傑は全員「提督」業を営んでいる。川山と一色はそこそこ程度のガチ勢、まあジュウコン済程度だ。だが神谷はオタクというか、もうその域を越えているのだ。具体的には実装済み艦娘全員とケッコン済、装備は全てコンプリート済といえば、どれほどのオタクか窺い知れよう。そんな訳で、家具を全て言い当てるなんて造作もない。
そんな部屋の中に、女性が1人待っていた。
「ヘーイ提督、お帰りなさいデース!」
「ああ、ただいま。言ってたお客様方を連れてきたよ」
両サイドにお団子を結ったブラウン色のロングヘアに、アホ毛の生えた巫女さんのような衣装を着て、「デース!」という特徴的な発音。そんなキャラはたった1人しかいない。
「大日本皇国から来られた方々ですネ!金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」
英国で生まれた帰国子女、金剛型戦艦のネームシップである金剛である。
「大日本皇国の外交官、川山慎太郎と申します。本日はよろしくお願いします」
「大日本皇国軍総司令官、神谷浩三です。よろしくお願いします」
「一色健太郎と申します。大日本皇国の首相、総理大臣を務めております。お初にお目にかかります」
「Oh.......すごいお偉いさんが来られまシタネ.......。ヨロシクデース!」
やはりリアルの金剛も、かなりのフレンドリーらしく握手してくれた。だが、目の前に好きなゲームキャラがいて尚且つ触れられたのだ。その心境たるや、筆舌し難い位の歓喜に包まれている。
特に川山と神谷は嫁艦である以上、軽く幽体離脱しかけた。
「金剛、程々にしとけよー」
金剛に釘を刺しておいてから堺は「こちらへおかけください」と、応接セットのソファーをすすめた。 だが、完全に天国に行きかけていた3人は反応が遅れてから、微妙な返事をして席に着いた。
ウェルカムドリンクを出してくれるそうなので川山と一色は紅茶、神谷はコーヒーを頼んだ。金剛お手製のクッキーも来て、ちょっとした会談が始まる。
「まずは先に、大事な要件を済ませてしまいましょう。私の見たところ、御三方とも艦娘たちの大ファンであらせられるようなので、要件だけ先に片付けて、後は心行くまで楽しむ。その方が良いのではないですか?」
「正直なところ、その意見には心から同意します。私はともかく、神谷が一番大変でしょうからね」
堺の指摘に川山が苦笑して答える。神谷と一色の目がしばしば金剛に泳いでいるのだ。また、嫁がいるとあって川山自身もなかなか落ち着けなかった。堺はそれに気付いたらしい。
「そして御三方が揃って来られたということは、何かよほど重要な案件のようですね。それも、政治と軍事の専門家が同時にいらっしゃるとなると、これは相当な案件のようだと思いますが?」
「お察しの通りです、堺さん」
流石、艦隊を率いていた司令官。何も言わずとも、ある程度こちらの意図を察してくれていたらしい。代表して一色が襟を正して話し始めた。
「実は2ヶ月後、我が国において重要な日があるのです。今の天皇陛下が御即位なさってから、ちょうど20年になるのです」
「ほう、節目というわけですね。それはおめでとうございます」
「ありがとうございます。そこで、御即位20周年を記念したいということで、我が国ではあるイベントを企画しております。それが、『軍観閲式』というものです」
ここから先は軍事関連である以上、神谷が説明していく。一色に任せようものなら、トンデモない兵器が生み出されそうなので仕方ない。
「この式典は文字通り、天皇陛下が我が国の軍を。陸軍、海軍、空軍、特殊戦術打撃部隊の全てをご観閲なさるものです。当然ながら、海軍に関しては観艦式という形になります。
そして我々は、せっかくの20周年記念という重要な節目に当たる訳ですから、この『軍観閲式』を国際的なものにしたいと考えております」
「なるほど.......。およそ話は分かりました。つまり、私のところの艦娘たちにも『日本国代表』として式典に参加して欲しいと、そういうことでしょうか?」
「堺さん、ご明察恐れ入ります。その通りです。単刀直入に言えば、是非とも貴方と艦娘たちにも式典に参加していただきたいのです」
そう、これが三英傑が揃ってタウイタウイを訪れた2つめの目的である。式典への参加を要請しに来たのだ。
艦娘が参加するとなれば、大きな広告塔になる。何よりそれをきっかけにして軍への理解が深まれば、もう万々歳である。
そして神谷は説明しながらも、意識は座っていたソファーの後ろへと向いていた。この部屋に入ってソファーに座ってすぐは下にいたのだが、その後背後へと移動している。それに微かに呼吸音や、一度ソファに軽い衝撃が走ったので多分、誰かいる。念には念を入れて、金剛と堺の意識が他に向いてる間に、懐に忍ばせてある26式拳銃のセーフティを解除してあるので、もし仮に敵であっても撃退できるだろう。
「お話はよく分かりました。艦娘たちの意向もあると思いますので、返事は一旦保留とさせていただけますか?」
「分かりました。快いお返事をお待ちしております」
一色がそう返事をすると、堺は不意にとんでもないことを口走った。
「ということだ、青葉、よろしく」
その直後、3人が座っていたソファーの背後から、いきなり人影が現れた。
「ふぇぇっ!?ちょ、司令官、気付いてたんですか!?」
「青葉、いつからいたデスカ!?」
「うわ!?びっくりした!」
「あ、青葉さん!?いつの間にそんなところに.......!?」
ソファーの後ろに青葉が隠れていたのだ。突然の登場に、金剛、川山、一色が揃って驚く。
「当たり前だ、俺とどれだけの付き合いがあると思ってんだよ。ついでに言えば、お前には何回もタネを抜かれてんだ、少しは対策もしようというもんだ。
それに、うちに外からお客、それも外国の方が来るなんて滅多にないんだからな。お前にとっちゃ格好の記事のタネだろ、そんなもんに食いつかないはずがない。最初はソファーの下、それから後ろに移動して、話を全部聴いてたろ」
「あうぅ.......司令官に完全に見抜かれてた.......」
がっくりと肩を落とす青葉。見抜かれた上で泳がされていた、というのは少しショックだったらしい。
「そういう訳だ、見抜かれた罰としてうちの子たちに今の話を広めてこい」
「分かりましたっ!皆様、失礼しました。また青葉をよろしくねっ!」
つむじ風のように、青葉は颯爽と部屋を飛び出していった。 本当に嵐の様な奴である。
「全くアイツは.......。皆様、驚かせてしまいすみませんでした」
「いや、彼女らしいと思いますよ」
神谷的には、こういうのは万々歳である。青葉のキャラが二次創作とかにある、あのパパラッチの如き執念で取材するヤツまんまだったのだ。それだけで迷惑どころか、単純に面白いと思える。
「そういえば神谷さんだけ驚いていませんでしたね。気付いていたのですか?」
「まあ、何となく」
流石に「最初から気付いてて、銃のセーフティーも外してました」とは言えないので、適当に誤魔化す。
「ということで、私たちから伝えたかったのは観閲式の参加の要請です。これで要件は全て済みました」
「承りました。それでは、お茶とクッキーをいただいて、後はお楽しみタイムといきましょう。
金剛、お茶をありがとう。戻って良いぞ」
「了解デース!では、私はいってきマス」
「あ、金剛さん」
川山は出て行こうとする金剛を呼び止めた。せめて最後に何か、話したいと思ったのだ。なのでお茶とクッキーの感想を言う事にする。
「What?」
「紅茶とクッキー、ありがとうございます。とても美味しいですよ」
「Oh、そう言ってもらえて嬉しいデース!では、私は失礼しマース!」
今度こそ退室した金剛を見送り、4人はお茶と軽食を楽しんだ。それが終わったタイミングで、執務室のドアがノックされる。
「失礼します。鹿島、参りました!」
「お、来たか!入って良いぞ」
「失礼します」
入って来たのは銀髪を緩くウェーブのツインテールで纏めた、白い制服に身を包んだ女性だった。既に名前が出ているが、もうこの見た目はコミケの覇者である有明の女王に他ならない。
「すみません皆様、私はお茶のセットを片付けてからいきます。少し場所を移していただいて、最初はこちらの鹿島からかつて我々が所属していた組織、日本国の国防軍である自衛隊や海上護衛軍について説明を受けていただきます。
鹿島、頼んだ」
「はい!お話は聞いています、大日本皇国の方々ですね。練習巡洋艦の鹿島です!よろしくお願いしますね、うふふっ♪」
この瞬間、3人は死んだ。鹿島のリアル「うふふっ♪」は、艦これオタク共にはダメージがデカすぎた。もう脳内では、超カオスな事になっていた。どの位カオスかって?こんな感じだ。
(やべぇぇぇぇぇ!!『有明の女王』の実物だぁぁぁぁ!! これが本物の「うふふっ♪」か、画面越しとは全然違う!!良いわぁ。マジ良いわぁ)by川山
(俺を尊死させる気かよ堺司令!?こんなタイミングで鹿島が来るなんて思わねーだろちくしょう!!待って、ダメ、しんどい.......。アッ。エデンへ逝くわこれ.......)by神谷
(うおぉぉぉ鹿島キタ━(゚∀゚)━!!!やっぱここ天国じゃねえのか!?神よ感謝します!!)by一色。
キャラ崩壊が甚だしいって?そんなの気にすんな。
「おい鹿島、程々にな」
「はい~♪では皆様、こちらへどうぞ」
提督執務室の2つ隣の部屋に移動した一行。ドアを開けると、そこは完全に「学校の教室」になっていた。何やらプロジェクターとスクリーンが準備されている。
「ここは普段、艦娘たちの座学の授業とかで使われる部屋です。ひとまずお好きなところに座ってくださいね♪」
3人が着席すると、鹿島はタブレット端末を操作して映像を呼び出した。 やはり練習艦、つまり艦娘にとっての先生となるのだ。その動きはまるで、本物の美人教師である。というかこんな教師が本当にいれば、その学校の男子は機能不全を起こすだろう。
「まずはこちらの映像を見てください。私たちがまだ地球にいた頃に作られた、国内向けのプロパガンダ映像です」
が、3人の注意は映像ではなくタブレット端末そのものに向けられていた。厚紙のような薄さしかないのである。
間違えないでもらいたいが、3人ともタブレット端末に目が行っているのである。決して、そのタブレット端末の隣に寄せられた鹿島の豊かな双丘に目が行った訳ではない。決して。
オープニングのBGMが始まったことで、3人とも映像に注意を向ける。『日本国陸上自衛隊 永和◯◯年度富士総合火力演習』とテロップが表示されたところで、3人とも気付いた。
「(おい、あんな元号使ったことなかったよな?)」
「(我が国の歴史書のどこを探しても見当たらないぞ、あんな元号は)」
「(やっぱりタウイタウイ泊地があった日本国って、俺らの国とは違うんだな.......) 」
テロップが消え、演習場の中を動き回る複数の戦車が映し出された。だがそれは異様な見た目をしている。車体の割に砲塔があまりにも小さく、一見するとオープントップか何かの自走砲と見間違えそうだ。しかし、よくよくみればちゃんと回転砲塔になっている。ここで神谷の観察眼が光る。
(おそらくこいつは、主砲の砲身長は55~60口径。砲口径はざっと150㎜ってところか。結構な威力してんな。しかも砲塔の小ささからして無人砲塔であるにちがいない。乗員は2、3人ってところか。
ん!? 待て、砲口付近のあの謎の切れ込み.......。まさか漸減口径砲!? ということは、口径以上に貫徹力がでかいのか!
全体に角が丸く、流線型っぽい感じ.......。レーダー対策でステルス性を意識してるか?)
次は『86式戦車』というのが登場した。こちらはさっきの戦車とは打って変わって、今度は巨大な戦車である。
(なんてこった、砲塔の大きさ以外はうちの46式と大して変わらないじゃないか.......深海棲艦と戦争してても、陸上兵器を開発している余裕があるのか? いや、あるいは陸上兵器ですら新開発しなきゃならないほど、戦況が逼迫していたのか.......?))
そして、射撃訓練の中でとんでもない光景が出現した。戦車と自走砲で一斉射撃を行い、なんと砲弾炸裂の白煙を使って空中に富士山を3Dで描いてみせたのである。
勿論皇国軍だって、普通にマンパワーで富士山を描く事くらいはできる。だがそれは平面であり、三次元の3Dは流石に無理だ。頑張れば出来なくはないかもしれないが、少なくとも全員がエース以上の実力を持ってないと成立しないだろう。
(おいおいマジかよ.......下手すりゃ我が皇国陸軍よりいい装備してんじゃねえか!)
続いては『海上自衛隊』ならぬ『海上護衛軍』の登場である。だが、こちらは先ほどの陸上自衛隊の映像と比較するとどこか寂しい感じが否めなかった。神谷はその理由を即座に見抜いた。
(『艦娘部隊』と称して、艦娘たちとその装備品らしいレシプロ機は多いが、我が皇国海軍が持っているようなイージス艦なんかがあまり出てこない.......。
撃沈されたか、あるいは補充とか行われていないのか? そういえばどっかの艦これアンソロ小説で、イージス艦の攻撃は何故か深海棲艦には効かない、って設定があったっけ)
さらに航空宇宙自衛隊も、特に戦闘機部隊はどうにも数が少ない印象があった。単純に映像中の出演回数が少ないだけかもしれないが。
だがその代わりなのか、AWACSはちらちら見かける。
(おそらく深海棲艦の航空機を迎撃できないんで、現代的な戦闘機は減らされたのかな。そして深海側の空襲を早期に探知できるよう、AWACSを増やしたってことじゃないかな。
それにしても、なんだか防衛用の装備ばっかり充実していて、海外遠征とかを行うための装備が乏しいな。どうしたんだろ?)
出てきた艦艇の殆どが艦娘を除けば、基本的に駆逐艦ばかりだ。一応空母も出てきちゃいるが、そのサイズ感は出雲型強襲揚陸艦や龍驤型軽空母の様な、空母としては小型の部類に入るサイズなのだ。
そんな事を考えていると、堺が部屋へと入ってくる。
「お、ちょうど映像終わったか」
「はい。ここからは提督にお願いしますね」
「ああ、日本国の歴史の説明は俺がやるって予定だったな。ありがとな鹿島」
「いえいえ、こちらこそ。映像用意してくれたのは提督さんじゃないですか、ありがとうございました。うふふっ♪」
また例によって3人揃って骨抜きになりかけたところで、司会が堺にバトンタッチし次の説明が始まる。
「えー、それではここからは趣向を変えまして、日本国の歴史について、そして我々タウイタウイ泊地艦隊がたどった歴史について、ご説明いたします」
スクリーンに新たな映像が映り、堺が話し始めたことで3人ともどうにか意識を現世に繋ぎ直した。
「まず我が国がいつ成立したか、ということですが、歴史家たちの通説としては…」
その後の説明は、大日本皇国がたどってきた歴史と大差ないように思われた。だが昭和年代の第二次世界大戦から、状況が一気に変わり始める。
「西暦1945年8月15日、第二次世界大戦並びに太平洋戦争は終結。日本は国土の大半を空襲によって焼き払われ、さらに原子爆弾2発を投下され、アメリカをはじめとする連合国に降伏しました。その後紆余曲折を経て、世界第2位クラスの経済大国に返り咲いたのです。
第二次世界大戦に降伏した後、我が国は『大日本帝国』から『日本国』へと国号を改めましたから、我が国は灰の中から再出発したといっても過言ではないのです。またこの際、日本国は常備軍の保有や外国との戦争を法律で禁止し、専守防衛を旨とする自衛隊を設立しました」
道理で防衛用の兵器が多く、原子力空母の様な大型艦が居ない訳だ。
スクリーンの中では新幹線開通時の白黒映像や、『地下鉄サリン事件』『阪神淡路大震災』などのカラー映像が踊っている。
「こうして我が国は何とか立ち直りましたが、一方の世界では紛争や戦争が絶えず、我が国もそれに巻き込まれて対外情勢は不穏なものを孕んでいました。
ところが西暦2060年、全てが一変したのです。そう、世界中の海で一斉に始まった、深海棲艦の侵攻です。世界各国は必死に戦いましたが、何故か深海棲艦には現代兵器が通用せず、人類はあっという間に制海権を奪い取られ、島嶼国家は次々に滅亡に追いやられました。アメリカですらハワイ諸島を失陥するほどの有り様だったのです。しかも深海棲艦側には戦車のような陸上戦力まで存在し、このままでは人類の滅亡は遠からぬものと予想されていました。
そんな中、西暦2101年に日本国において初めて『艦娘』という存在が現れ、そこから人類の反撃がようやく始まったのです。以後100年近くにもわたって、人類の守護者たる艦娘と深海棲艦の戦闘が続きました。そんな最中に、私たちのタウイタウイ泊地は突然、異世界へと飛ばされてしまったのです」
思ってたよりも壮絶な歴史の説明に、3人とも言葉を失っていた。 二次創作の小説なんかでは、その辺りも詳しく書いていることもあったが公式から正式に艦これ世界がどんな風な有様かは余り語られていない。ある程度予想はついてはいたが、実際に語られればやはり言葉を失うのだ。
「我々のいるタウイタウイ島が転移した場所は、ロデニウス大陸の北東34㎞沖でした。最初はクワ・トイネ公国、次いでクイラ王国と国交を開設しまして、この頃は我々はまだ日本国を名乗っていました。その後、ロウリア王国のクワ・トイネ侵攻によって発生したロデニウス大陸戦争では、我々はクワ・トイネ公国側で参戦、ロウリア王国を打ち破って勝利を収めました。これが、中央暦1639年の4月~5月のことです」
この辺りから神谷たち3人にも、馴染みの深い暦や国名が出てきた。そのため3人にもイメージして理解しやすくなる。
「戦争が終わって間もない中央暦1639年7月1日、パーパルディア皇国の脅威に対抗するため、ロデニウス大陸の諸国は1つにまとまり、『ロデニウス連合王国』となりました。この時我々タウイタウイ艦隊も『日本国』の国号を封印し、ロデニウス連合王国の一部となって『ロデニウス連合王国海軍第13艦隊』を名乗るようになったのです。そして必死に大陸の近代化に取り組み、同時に大規模国家共同体『大東洋共栄圏』を主宰して第三文明圏外各国との国際協調を図りましたが、あまりにも時間が足りなさすぎました。
年が明け、中央暦1640年になってすぐ…1月下旬とかの話なので本当にすぐなのですが、ロデニウス連合王国はパーパルディア皇国と開戦しました。この戦争は最終的に第三文明圏内外各国を巻き込んだ『第三文明圏大戦』となり、結果は我が方の勝利に終わりました。パーパルディア皇国は本土の制空権・制海権を全て喪失し、我が軍の本土上陸を許してしまい、エストシラント、デュロといった重要都市を失陥した後、最終的にパールネウスを落とされて滅亡しました。現在は『新生パールネウス共和国』となって再出発しています」
「質問よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
川山が単純に気になった、パーパルディアとの開戦理由について質問する。
「パーパルディア皇国との開戦経緯は何だったのでしょうか?我が皇国もパーパルディアと戦争しましたが、その原因はフェン王国のニシノミヤコで我が国の民が捕らえられ、パーパルディアによって公開処刑されたことでした」
「おお、貴国も似たような開戦経緯だったのですね。私たちの場合は、貴国と同じくフェン王国における邦人処刑の報復の他に、大東洋共栄圏に対する脅威の排除、将来的な自存自衛、友邦たるフェン王国の救援の4つが、開戦事由でした」
「世界線は違えどパ皇はパ皇だった、ということですなぁ」
「全くですね」
今度は神谷が、あの馬鹿2人の末路を聞く。
「そちらでもパーパルディアを滅ぼしたってことは、そちらの世界ではルディアスとレミールはどうなったんです?」
堺の眉間にしわが寄り、表情がやや険しくなった。もちろんそれを見逃す神谷ではない。何かあったのだろう。
「実は.......2人とも死にました。というより、私が殺したも同然ですね」
「と言いますと.......?」
「まずレミールに関しては、この私の手で射殺しました。処刑場所はこの泊地の片隅です。墓碑もそこにありますよ。
それとルディアスですが、エストシラント市街地ごと耕しました.......大和の46㎝砲で」
「「Oh.......」」
想像以上にグロかったのか、川山と一色が絶句した。だが神谷はケロッとした顔で、「あー、やっぱり」という顔でこちらの状況を話した。
「おや、そちらも我々と似たようなことをやったんですね」
「え、神谷さんも?」
「えぇ。というか私からすると、46㎝砲で済んだだけまだマシ、というレベルです。我々がエストシラントを攻略した時は、燃料気化弾頭のSLBM、710㎜砲を筆頭とした艦砲射撃、『富嶽II』による10,000トン近い量の爆弾投下、自走砲による支援砲撃までやって、最終的にメタルギアから何から陸上戦力をほぼ全部突っ込みましたから、終わった後は建物なんて1つもないような状態でした」
「うわぁ.......私たちのやったことが生ぬるいとすら思える.......」
衝撃を受ける堺。その隣で鹿島が冬でもないのにガタガタ震えている。
「それに、まあ、レミールとルディアスの末路も其方よりも酷いものでしたよ」
「い、一体何があったんですか.......?」
堺は何故か聞くのも恐ろしく、聞いてはいけないと本能が警報を鳴らしているのに聞いてしまった。
「一言で言えば、人間とは思えない最後でしたよ。ルディアスは蛇に体内を喰われて絶命し、死体は肉食獣によって見るも無惨に。レミールは
読者諸氏は覚えているだろうか?あの2人は神谷が手を下している。ルディアスは蛇攻めの後、肉食獣に食われて死体が消えた。レミールはタイヤネックレスの刑に処されて、人間とは思えない姿になって死んだのだ。
無論この事はガッツリ法律違反である以上、あくまで裏で行われた
(だが待てよ、堺司令と俺たちで決定的に違う点がある。俺たちが使ったのはあくまで『兵器』だが、堺司令のは『艦娘』だ。兵器と違って自我や人格がある。
エストシラントを艦砲射撃したってことは、戦闘員ではない一般人が大量に、大和の砲撃で死んだはずだ。その事実が大和の心に影響を落としてる可能性があるな)
「話に戻ります。それでパーパルディアとの戦争が終わった後は、ミリシアルやカルアミークをはじめとする国家群と国交を順次開設し、世界平和と将来的なラヴァーナル帝国との戦争に備えようとしていたのですが、また世界大戦です。皆様もお察しかもしれませんが、相手はグラ・バルカス帝国でした。
激しい戦闘を何度も繰り返した末に、我が国はミリシアルやムーなどと協力してグ帝を追い詰め、どうにか降伏にこぎ着けました。そして、その戦後処理を終えた私と艦娘たちがムー大陸からタウイタウイに帰ってきてすぐ、ここに転移してきたのですよ」
「波乱万丈、という言葉がぴったりですね」
一色がしみじみとコメントした。
歴史の講義が終わった後は、いよいよ泊地の案内である。鹿島は教室の片付けのため離脱し、ここからは案内役が堺に戻る。
「それでは、まずはこの建物からご案内します。この司令部棟は5階建てですが、5階は艦隊司令部を兼ねた通信室があるだけで、後は屋上ですね。機密の部分もありますので、すみませんが5階は紹介を省きます。
4階は私の執務室と私室、後はさっきの教室が5つと会議室ですね」
階段で3階へ降りると、教室がずらっと並んでいる。完全に学校そのものだ。
「ここは講義室フロアです。主に魚雷戦や砲術理論、対空戦闘理論、その他歴史学や一般教養といった座学と、演習ボードによる机上演習で使われます」
「やっぱりあるんですね、そういう講義も」
「そりゃあ、理論も無しの実践なんて弾の無駄になるだけですからね。習うより慣れろとは言いますが、まずはお勉強からです」
続いて2階、ここは資料室が多くを占めている。
「この資料室には、かつての地球に関する情報やこの世界に来てから我々が経験した戦役、その他様々な情報が収められています。荷物を運ぶために使う小型エレベーターがあって、4階の提督執務室や5階の艦隊司令部と連絡しています」
最後に1階は、食堂と図書室という2つの大部屋が大半のスペースを占めており、その隙間に挟まるようにして医務室がある。
「こちらが食堂です。今は閑散としていますが、食事の時間になると艦娘で溢れかえりますから、あなた方にとっては眼福な光景が広がることになりますよ」
「それは是非見てみたい.......」
「おーい浩三。本音漏れてる」
「はっ!?い、いかんいかん!」
バッチリ神谷の本音が漏れている。それを川山がツッコんで、一色はそれを見てゲラゲラ笑い、堺は苦笑した。
「そして向こうが図書室です。私より前にここで提督をやっていた方の誰かが本好きだったようで、結構な量の蔵書を残していたのですよ。それをありがたく使わせてもらっています。地下書庫もありますから、正確な数は数えたことがありませんが、どう少なく見ても500冊はあるでしょう」
「本のジャンルは歴史書とかそんなのばかりですか?」
一色がそう質問する。一色自身、何度か本を執筆した事がある位の読書家でもあるのだ。
「いえね、それがそうでもないのです。専門書からライトノベルまで、いろいろとあるんですよ。おかげでこの世界に来てから大分助かりました。現地の方々に技術指導とかやる際に、蔵書が大いに役立ちましたからね」
「それは幸運でしたな」
「ええ、全く以てありがたい限りです。
ああ、それとAV室もありますよ。なので映像作品なんかも閲覧可能です」
そんな風に説明を聞いていると、医務室の中をちらりと覗いた川山がある物を見つけた。
「ここの医務室、ずいぶん豪華な設備がありますね」
「ん、どうされました川山さん?」
「いや、こんなところにCTがあるなんて、と思って.......」
扉の窓から、巨大なリング状の機材が置いてあるのがちらりと見えたのだ。
「CT?.......あー、アレか。あれ実はCTじゃないんです」
「え?ではあれは何でしょうか.......?」
形は確かにCTに似ているが、実は全く違うものなのである。
「うーん……まあ、ここだけの話として明かしましょう。この話はオフレコでお願いします。
あれは『波動治療装置』といいます」
「波動治療装置?」
そんな装置、聞いた事がない。別に医療に明るい訳ではないが、それにしたって聞き慣れない名前だ。
「はい。私は医療の専門家じゃないので詳しい説明はできませんが、人間の身体は無数の原子によってできている、ということはご存知かと思います。そして、それらの原子には熱運動があり、原子1つ1つが振動していることも、化学の授業などで習ったかと存じます。そのため、原子が複雑に結合して作られている人間の身体からは、常時何かしらの波動が放出されています。
波動治療装置とは、健康な人間が放つ波動を固有の周波数帯として登録し、病気にかかった人間に対して登録した波動を浴びせることで、免疫機能を活性化させると共に、おかしくなっている原子の配列を元に戻したり、異分子を排除したりして、病気を治療するという装置です。骨折とかの外科的疾患はこの機械では治療できませんが、例えば臓器のがんとか高脂血症、各種感染症、統合失調症などは、これだけで対応できますよ。切り傷に対しては直接治療こそできないものの、血小板の機能を活性化して傷の早期治癒に繋げられます」
「な、なんと.......!素晴らしい機械じゃないですか!」
一色が目を輝かせた。さすがの大日本皇国とて、そんなぶっ飛んだ機材はないのである。
「ただ、実はこの機械のことを皆様にお話するつもりはありませんでした。というのも、こんなものの存在を公表して輸出でもしようものなら、貴国の医師と看護師と臨床検査技師なんかが軒並みお役御免になってしまいますからね。失業者を大量発生させて余計な恨みや社会不安を生み出す訳にはいきません」
「確かにそうですね.......。私たちも、この話は聴かなかったことにしましょう」
「そうしていただけると助かります」
因みに神谷としては戦場での診断や宇宙空間での利用には、案外使えるかもしれないなぁと考えたりしていた。
「さて、司令部棟はこれで全てご案内しました。次は外へ行きますよ」
司令部棟を出た一行は、艦娘たちの寮棟の間を抜けるようにして泊地内を歩く。途中で演習に向かうらしい何人かの艦娘とすれ違い、敬礼を交わしていく。
「ここが最大の寮である駆逐艦寮、その向こうが軽巡寮、さらに奥が重巡寮。道を挟んで駆逐艦寮の反対側が空母寮、その奥が戦艦寮と特殊艦寮です。これとは別に『海外艦寮』もありますよ」
「特殊艦寮にはどんな方が入るのですか?」
「そうですね、水上機母艦や潜水艦、潜水母艦、揚陸艦、工作艦などといった面々です。と言いましても、実は工作艦の子に関しては、寮の部屋はただ寝るためだけにあるような物ですね。何なら工廠に泊まり込むことも珍しくないですから」
「うわぁ.......。何というか、秋葉原に通うオタクの匂いがしますね」
「オタクで済むなら可愛いんですがね」
堺が頭を掻きながら濁した。ぶっちゃけその手の艦娘は全員、マッドサイエンティスト並みに狂ってる。故に今週のびっくりドッキリメカよろしく、なんかトンデモないのを結構な頻度で作ってくるのだ。
そんな中、一色がある物を見つけた。
「あれは、対空砲陣地ですか?」
一色の指差す先には、土嚢が積み上げられていた。その向こうから対空機銃と思しき細長い黒い砲身がのぞいている。
「そうです、あれは確か九六式25㎜三連装対空機銃ですね。他にもボフォース40㎜機関砲や3.7㎝Flak、アハトアハトもありますよ」
「勢揃いですな」
「それだけ航空機が怖いんですよ」
確かに堺の言う通り、この現代戦に於いて航空機の存在は大きい。多数の航空機が来襲すれば、軍事施設はもちろん都市だって焼き払われる。その悲惨さは、歴史が証明している。
寮がある一帯を抜けると駐車場と正門がある。その駐車場で、3人が思わず声を上げた。
「お、戦車か!」
「デカい.......何か昔の資料で見た覚えがあるな、何だっけ?」
川山が首を傾げている横で、神谷は少年の様に目を輝かせている。何せ目の前の戦車は、第二次世界大戦時にドイツが生み出した傑作戦車の進化系、ティーガーIIだったのだ。少し毛色は違うが。
「ティーガーⅡ、いや、よく見ると少し違う!こいつ、105㎜砲持ってるな?しかも滑腔砲じゃねえか!
あと、エンジン音がガソリンエンジンのそれじゃない。むしろT-34とかに見られるディーゼルの音だ」
ちょうど走行試験中の『43式主力戦車 ケーニヒスティーガー改』に出会したのだ。主砲を68口径105㎜砲に乗せ変えた火力強化型である。
これだけ細かい違いを1発で全部見抜いた神谷って、どんな化け物だよ。
「我が方の新鋭戦車です。グ帝との戦争の最終局面で先行試作型を投入しましたが、量産型が投入される前に戦争が終わりました。今は魔帝との戦争に備え、火力の強化などの改修を行っています。
さて、ここらへんで小休止です。次からが本番なので、その前に少し休みますよ」
堺が3人を連れていったのは、和風な雰囲気漂う一軒の店だった。看板に書かれた店名は「甘味処 間宮&伊良湖」である。それを見た瞬間、3人のテンションがまた上がった。
「おおっ、この看板があるということは!」
「これが、間宮さんの店?いや、伊良湖もいるのか.......」
「甘味のお店ですね」
「そうです。艦娘たちが『キラキラ』になる店ですよ」
船渠、工廠と並ぶ鎮守府の最重要施設、間宮と伊良湖の店である。食事はもちろんだが、ここで提供されるあんみつやラムネ、羊羮、最中といった甘味は、艦娘たちの士気の維持、向上に極めて重要なのだ。
「いらっしゃい!あ、提督さん!お客様ですか?」
対応に当たったのは伊良湖。ゲーム通り、ピンクのワイシャツに紺のネクタイを締めた割烹着姿である。
「ああ。4人だが、頼めるか?」
「はい、こちらへどうぞ!」
時間が時間だからか、店内には4人以外の客はいない。 つまり、貸し切り状態だ。
「こちらメニューです。お決まりになりましたら、お呼びください」
メニューには様々な料理が載っているが、流石に午前10時くらいでガッツリ食べるものではない。それにさっきクッキーも食べているので、早々にスイーツのページが開かれた。
「おおぉ!アニメで見た特盛りあんみつだ!」
アニメ一期で吹雪とか利根が食べていた、あの超メガ盛りの餡蜜があったのだ。
「え、貴国では艦娘たちはアニメに出演したのですか?」
そして堺は、艦娘がアニメに出たという所に驚いている。すかさず神谷が、その情報を話した。
「はい、劇場版も製作、公開されましたよ。なので映画館のスクリーンでも彼女たちが動いていたわけです」
「おお、それはそれは.......」
堺と神谷がアニメ談義で盛り上がっている間に、川山と一色はささっと注文を決めてしまった。
「浩三、決まったか?俺たちは決めたぜ」
「早ぇよお前ら!ちょっと待って、ええと.......」
何とか神谷の注文が決まったところで、堺が机に置かれたハンドベルを鳴らす。これが店員の呼び出しベルなのだ。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「特盛りあんみつのセット1つお願いします」
「浩三の分量多いな.......。なら私は、アイス最中2つとアイスコーヒーで」
「私はシュークリーム1つとアイスレモンティーを、ダージリンでお願いします」
神谷はアニメ比較するべく餡蜜を頼み、一色は好物の最中、川山は安定の紅茶系の飲み物とそれに合うであろうシュークリームを頼む。
「提督さんはどうします?」
「シベリアと「どりこの」で。あ、それと間宮さんの羊羮を3本」
「承りました!」
オーダーした商品が来るのを待つ間に、堺から今後の流れを説明して貰う。
「この後は船渠と工廠に行きますよ。そこで午前中の予定を終了してお昼にし、午後からは演習の様子をご覧いただきます」
「おおっ、工廠がきた!!」
神谷がさっそく小躍りし始める。装備開発の様子などを見られると思ったのだ。
「船渠ってことは、ドックですか?」
((あの兵器系を悉く間違える健太郎が、船渠をドックと認識した、だと.......))
珍しく一色が兵器系の間違いをせずに、しっかり船渠をドックと認識した事に軽く戦慄しているが、それに堺は気付かず説明を続ける。
「左様です。と言いましても、艦娘たちのプライバシーという切実な問題がありますから、船渠は建物の外から見るだけになります。その代わりに、工廠は中まで踏み込みますよ」
「おおぉ!!」
説明を横で聴いていた神谷の目が、ギラリと光る。 もう工廠とか、絶対楽しいに決まっている。
「すみません、何だか工廠見学に取る時間が長くないですか?」
「お気付きの通りです。と言いますのも、ちょうど工廠の方で新装備のテストをしておりまして、その様子をご覧いただく形になるのです。なので時間を多めに取りました」
「なるほど」
川山はこの説明で納得したが、実は堺はあと1つ、工廠見学の時間を長めに取った理由を隠している。まあ、これはその時になれば自ずと分かるだろう。
「ところで堺司令、さっき『どりこの』と注文していましたが、何ですかそれは?」
「気になりましたか一色さん。それは、あ、ちょうど来たみたいですね」
「お待たせしました!まずはこちら、シベリアと"どりこの"のセットに間宮さんの羊羮と、シュークリームとレモンティーのセットです!」
川山と堺の注文が先に届いた。つまり「どりこの」の実物が到着したのである。
「「「何だこりゃ?これが『どりこの』?」」」
3人の声が重なった。
堺の前に置かれたのは、三角形のカステラめいた物と飲み物。シベリアとはあんこを挟んだ三角形のカステラのことだから、お菓子がシベリアで間違いない。となるとドリンクが「どりこの」になる訳だが、それはちょっと高級そうな形の瓶に入ったウィスキーのような琥珀色の液体だった。炭酸は入っていない。そして何故か、水の入った瓶が付属していた。
「これが「どりこの」です。種類としては清涼飲料水になりますが、滋養強壮剤を謳っていました。皆様の知る言葉でいえば、エナジードリンクのようなものです」
言いながら、堺は瓶の蓋を開ける。そして「ごめん、コップ3つ持ってきてー!」と追加オーダーを出した。
「これそのものは濃縮液です。カルピスのように薄めて飲むんですよ、だいたい6倍くらいに.......」
コップが届いたので、堺は自身の分も含めて4つのコップに「どりこの」を注いだ。そこに水を入れ、薄めていく。
「……よし、これくらいで良いでしょう。お一つずつどうぞ」
堺に言われて、3人は各々「どりこの」を飲んでみた。ふんわりとした甘さが口内に広がり、それを嚥下すると甘い液体が一気に胃の府まで駆け抜けていく。フルーティーで爽やかな後味が何とも心地良い。
「「「.......旨い!」」」
3人揃って全く同じコメントだった。
「どうですか?」
「こんな飲み物があったとは、初めて知りました。これ、できれば我が国への輸出品目に加えてくださいませんか?これは人気が出そうです」
真っ先に川山が口を開いた。神谷と一色もうんうんと頷いている。
「なかなか好評のようですね、分かりました。検討させていただきましょう。
ただ、これのレシピを知っているのが間宮さんしかいないので、最初はどうしても数量限定品になりそうです。まずは先行販売キャンペーンをやってみて、好評なら生産ライセンスの売却も視野に入れましょう。こいつの製法が失われるのは惜しいので」
「ありがとうございます!」
そうこうしていると、遅れていた一色と神谷の注文が届いた。
「では皆様方、お楽しみくださいませ。あ、どりこのはまだまだありますので、ご随意にお飲みくださいね、私1人じゃ飲みきれないので。
それと、先にこちらをお渡ししておきます。おみやげですよ」
堺は3人の手に間宮の羊羮を1本ずつ握らせた。今回も高級そうな木箱に入っている。
「おおぉ、何から何までありがとうございます!ちょうどこの羊羮をまた食べたいと思っていたのですよ!」
「慎太郎と同じです。あの時の羊羮は旨かったですからね」
川山と神谷は一度この羊羮を食したことがあるのだ。
「いつか健太郎にも食わせてやろうと思っていたところです」
「慎太郎、これそんなに旨いのか?」
「旨いなんてものじゃない、帝国ホテルに入ってる和菓子屋の羊羮が霞むレベルだ」
「そうそう、一級和菓子屋の羊羮ですら太刀打ちできないほどの品物なんだ。貰えたのは超ラッキーだぞ、これ多分艦娘たちの間でも取り合いになるからな」
川山と神谷大絶賛の間宮羊羹。因みに帝国ホテルの羊羹は、一本2000円の超高級品である。
「そんな人気商品なのかこれ.......。確かに高級そうな感じはするけど」
「わざわざ木箱に1本ずつ入れているだけのことはあるな。これ以上旨い羊羮を俺は他に知らん、間違いなくこれが一番旨い」
「浩三、お前自宅でシェフ雇ってただろ。彼なら作れるんじゃないか?」
「無理だな。彼にも1回羊羮を作ってもらったけど、これはそれより断然旨い。餡の舌触りはきめ細かいのに、甘さがその強烈さの割に全然しつこくないんだ。これが一番旨い」
因みに神谷邸にいる料理長は、和菓子作りも出来るが専門ではない。というか基本的に神谷自身がスイーツ系よりも、飯系の方が好きなのでパティシエとか和菓子職人とかは基本雇ってない。
本家が雇っているので、パーティーとかで必要になったら作って貰ったりしている。
「2人揃ってこれを推すほどなのか.......」
「まあ、お好きな時に召し上がってくださいな。さて神谷さん、あまり放置するとあんみつが溶けますよ?」
「っ!いかん、忘れてた!いただきます!」
「じゃ俺たちも食うか」
「そうだな。あ、堺さん、「どりこの」をもう1杯」
「セルフでどうぞー」
こんな具合にまったりしたお茶会を楽しみ、今度は船渠のある区画へと向かう。因みにティータイムの勘定は全て堺持ちである。
「ここが船渠、つまり艦娘たちの入渠ドックです」
船渠は和風の温泉のような雰囲気のある建物である。
「中をお見せすることはできませんが、まあ和風の温泉旅館のようなものと思ってください。もちろん高速修復材もここで使います」
入渠ドックを通過すると、目の前には何かの工場を思わせる非常にメカメカしい外見の大型施設がある。
「さて.......、ついに到着しました。ここが、皆様にとっては1つめの山場となるであろう場所。工廠です」
タウイタウイ泊地工廠。艦娘たちの艤装や装備を扱う、泊地の最重要施設の1つである。
「ここにいるのは基本的に工作艦の子ばかりですが、違う子もいますよ。よく見かけるのは夕張や秋津洲、龍驤ですね」
「夕張がいるってことは、開発した新兵器のテストとかですか」
「鋭いですね神谷さん、さすが軍事の専門家でいらっしゃる」
そう言いながら堺が工廠の扉に手をかけようとした時、ガラガラと音を立てて勝手に扉が開いた。誰かが内側から扉を開けたのだ。
「おお、誰か思たら提督かいな」
「おう龍驤。新装備の性能試験は終わったか?」
「ウチのは終わったで、航空魚雷の検証結果はどうやら有効そうや。
お?お客さんかいな?」
「ああ、大日本皇国からいらっしゃった方々だ」
「そうか、こら失礼しましたわ。
大日本皇国では艦娘が知られとるって聞いとるけど、念のため自己紹介しとくで。軽空母の龍驤や。よろしゅうな!」
そう言って挨拶してくれた龍驤だが、3人の脳内は別の事で埋め尽くされていた。川山は『まな板』が浮かび、神谷は単純に尊すぎて死に掛け、一色は艤装見られないのが残念だが会えた事を純粋に喜んでいた。
龍驤よ、川山は爆撃して良いぞ。
「ん?ウチの顔に何か着いとる?」
「あっ、いえいえ。失礼しました。
外交官の川山と申します。我が国では艦娘は二次元の存在としてしか知られていないので、ここで本物の艦娘の方に会えるのが本当に感動的で.......」
「な、何や、面と向かって言われると恥ずいな///」
普通に川山は理知的なタイプのイケメンなので、龍驤も顔を赤らめて照れている。
「んで龍驤、まだ性能試験は続いてんだよな?」
「あ、せやった。それを提督に報告しよ思てたんや。
まだ試験中やね。今頃やと、多分伊勢かゴーヤか木曾がやっとるやろ。釧路ちゃんが言うてたで、今回は自信作です!ってな」
「ほう、そりゃ楽しみだ」
伊勢にゴーヤに木曾に釧路。皆、艦これで世話になった艦娘であr.......ん?釧路?
ここで3人は、艦娘と思われる謎の『釧路』という単語が引っかかった。
「(おい浩三、クイラだかクシラだかクネロだか知らんけど、それって誰だ?)」
「(俺も初耳の名前だな、そんな艦娘いたっけか?)」
「(分からん、俺も初めて聞く名前だ。誰だろう?) 」
「んじゃ、ウチはこれで」
「おう、お疲れさん」
いつの間にか龍驤との話が終わった堺が龍驤を見送り、また案内へと戻る。
「それじゃ、行きましょう」
中に入ると、早速巨大な機械が2つ鎮座している。2つともデパートの衣類販売フロアによくある試着室くらいのスペースの真ん中に台が置かれ、その真上の天井から複数の金属のアームが伸びている。アームは金槌やらバーナーやら様々な物を掴んでいた。
「今は稼働していませんが、この2台が建造ドックです。ここで艦娘の艤装が建造されます」
「「「おお!!」」」
ゲームでよく使うアレである。
「ではここで、この機械の裏側に回ってみましょう」
裏側に回ると、そこにも建造ドックが2つ並んでいた。ただし、こちらは何故か赤い幕などで派手に装飾されている。
これを見て3人ともピンと来た。
「これはまさか!!」
「ああ、アレだろうな」
「大型艦建造用ドックですか?」
「お、さすがに分かりますか。そうです、ここで大型艦建造を行います」
「すげぇ、マジで赤い幕が張られてんだ.......」
初めて目にするリアルの大型艦建造ドックに、3人ともテンションが更に上がってきたようだ。
「そっちにも建造ドックがありますね」
一色が大型艦建造ドックの隣を指差した。そこには同系統の機械が1つある。
「いや、そっちは建造ドックじゃないんです。似てますけどね」
確かに似た形の機械だが、アームが掴んでいる工具が違う。こちらのアームが掴んでいるのは金鋸、ドリル、鋏のような巨大な工具だ。まるで何かを分解する時に使うようである。
「待て、アームで掴んでいる工具が違う。ひょっとして解体ドックか?」
「お、神谷さん正解です。艦娘の艤装の解体や、装備の廃棄をここで行います」
つまり、「解体」と「廃棄」をここで行うのである。
カーン....... カーン....... カーン.......
「「「ひぇっ.......」」」
3人とも肝が冷えた。というか幻聴だと思いたいが、あの解体音が微かに聞こえた気がした。
「この解体・廃棄ドックの裏側にあるのが、装備の開発装置です。工廠の主だった機能の説明としてはこんな感じですね。改修工廠は、今は入れませんので説明を一旦飛ばします」
実際、周囲に艦娘が誰も見当たらない。改修工廠に入るには工作艦の艦娘の同伴が必要である以上、これでは改修工廠には入れない。
「ん?でも堺さん、これだけの機能の割には工廠の規模が大きくないですか?」
一色が疑問を提起した。 そう、この工廠は明らかに大きいのだ。それに今まで見てきた設備では、大きさとの勘定が合わない。
「鋭いですね一色さん。他のスペースには、例えば新兵器の検討のための会議室や、資源や開発資材の保管庫、艤装の格納庫や調整室、仮眠室などがあるんです。そして、そういった部屋の中には、この世界に来てから増設したものもあります」
「ああ、道理で工廠外の壁が部分的に新しくて、パッチワークみたいになっていると思ったら」
「おや、気付いておりましたか神谷さん。見事な観察眼ですね」
確かに外壁がチグハグな部分があり、恐らく増改築を繰り返していたのは分かったが、謎が解けた。
「それでは、先に工廠2階をご案内します。2階は会議室や仮眠室がメインになります」
鉄骨で組まれただけの、工事現場なんかで見かける簡素な階段を2階へ上がる。上がった先は細い廊下になっており、両側に幾つかドアがある。それらの部屋のドアを開け、軽く案内していく。
会議室らしい部屋には、テーブルの上に大量の書類がちらばり、どれにも細かい文字がびっしり書かれていた。数字も大量に見える。
別の部屋は「設計室」と銘打たれており、机はこれまた書類で溢れかえっていた。それだけではなく、壁一面を占領する黒板には訳の分からない数式やグラフが山ほど書いてある。3人にも分からないものばかりだった。
仮眠室に来たところで川山と一色が首を傾げる。
「仮眠室?これがですか?」
「ベッドが見当たらないのですが.......」
そう、ベッドもハンモックも見当たらない。何故かロッカーが4台並んでいるだけだ。
「いや、まさか!これタンクベッドか!」
「お察しの通りです」
「おおぉ、夢の技術!」
少しの時間でも最大効率の睡眠が取れる夢の技術の塊、タンクベッドだったのである。
「ベッド!?これが!?ロッカーにしか見えなかった.......」
「すごい、SFの技術じゃないですか…」
「当然ながら、この技術もまだ輸出するつもりはありません。貴国の経済に与える影響が大きすぎると思われますので」
「うう、仕方ないけど惜しいな.......」
仮眠室を通りすぎると、また鉄骨の階段がある。それを降りて1階に戻ると、目の前が艤装や装備の調整室兼格納庫になっている。
「ここは艦娘たちの艤装を収納する格納庫で…ごぶっ!?」
3人はその瞬間をはっきりと見た。堺が扉を開けた瞬間、中から灰色の塊が飛んできて堺にぶち当たったのだ。堺はそのまま廊下に押し倒される。
堺に命中したのは、なんと連装砲塔だった。信じがたいが、冗談抜きに砲塔なのである。だがよく見ると、そいつには金属の手足があった。
「「「!?」」」
3人があっけにとられる中、金属の光沢を放つそいつはガチャンガチャンというやかましい音と共に、短い手足を動かして廊下を走っていく。この時になってやっと神谷の理解が追い付いた。
因みにちゃっかり懐に入ってる拳銃のグリップを握っている。
(あれは、連装砲ちゃんとかいう!!)
神谷がそれに気付いた直後、部屋から誰かが走り出てきた。
「もうっ、長10㎝砲ちゃん!逃げないでって言ったでしょ!わあぁぁぁ提督ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
部屋から飛び出してきたのは、明るいセミロングの茶髪を2本の三つ編みおさげにした艦娘。ジャージ姿だが、間違いなく秋月型の照月だ。おそらく彼女の半自律型艤装ユニット「長10㎝砲ちゃん」が整備を嫌って逃げ出し、そこにたまたま堺がぶつかってしまったのだろう。
「.......大丈夫だ問題ない」
「問題しかないじゃないですか!」
「俺のことは良いから、アレ追っかけてきな」
「そうでしたっ!長10㎝砲ちゃん、待ってぇぇぇ!」
長10㎝砲ちゃんを追いかけて、バタバタと照月が走っていく。
「痛ぇ.......さすがに今のは効いた.......」
「大丈夫ですか、堺さん?」
神谷は堺のそばに行き、肩を貸す。見た感じ外傷は無いが、多分衝撃はすごかっただろう。
「まあ、何とか.......」
「やれやれ、相変わらずだな照月の主砲は。提督、大丈夫か?」
そこへ別の声がかかる。声の主は照月の妹の初月だ。艤装の整備中だったらしく、彼女もジャージ姿である。
「初月か.......。何とか大丈夫だ」
「そうか。来客中にこんな目に遭わせてすまなかった」
「ただの事故だ、仕方ないよ。御三方、こちらが初月です」
「秋月型防空駆逐艦、4番艦の初月だ。よろしく。さっき飛び出していったのは姉の照月だ、急に驚かせてすまなかった」
初対面の相手、しかも成人男性3人が相手であるにも関わらず、堂々と挨拶する初月。この胆力は流石というしかない。
「工廠の案内中なんだが、格納庫に入っても大丈夫か?」
「ああ、問題ないだろう。今ここには秋月姉さんと僕しかいないからな」
そう言うと、初月は室内を振り返った。
「姉さん、見学の方が来ているようだ。提督がこの部屋を案内したいって言ってるんだが、入っても大丈夫か?」
部屋の中から、「え、司令が?分かった、いいよって伝えて!」と声が聞こえた。
「OKだそうだ、提督」
「それじゃ御三方、行きましょう」
部屋の中には、一面に艤装が格納されていた。どれも神谷たちにとっては、ゲームでよく見る艤装だ。
「おおおぉ!!!!すげぇ、夢のような光景だ!!」
さっそく神谷が興奮を隠しきれなくなった。
「これは吹雪型、そっちは暁型、これは確か朝潮型……おおっ、リベッチオのハロウィン艤装まである!」
もはや周囲の様子すら目に入っていないかのようだ。 完っ全に自分の世界に突入している。
「完全にただのオタクですな.......」
「ははは.......。まあ、浩三が一番ハマってますからね」
「間違いない」
ひとしきり苦笑すると、神谷を除く3人は部屋の中央で艤装を弄っている1人の艦娘に目を止めた。秋月である。ちょうど主砲である「長10㎝砲ちゃん」の整備をしているところだった。
汚れても良いようにジャージに着替えており、頭にはいつもの高射装置の代わりにヘルメット、手にはスパナと油差しという、ゲームではまずお目にかかれない格好をしている。
「秋月型防空駆逐艦、1番艦の秋月です。よろしくお願いします!」
一旦作業の手を止め、秋月が自己紹介する。 その姿を見て川山と一色はゲームでは見れない姿のギャップに、またもキャラ崩壊していた。心の中でクソ叫びまくっている。
するとそこへ初月が、ペンキの缶と刷毛を持って現れる。
「提督、整備に戻っても大丈夫だろうか?」
「ああ、お客さんはこっちで案内するから戻って良いよ。すまんかったな、邪魔をした」
「いや、邪魔なんてことはないよ。それじゃ、やってくる」
そう言うと初月は自身の艤装の傍らにしゃがみ、艤装にペンキを塗り始めた。秋月も自身の作業に戻る。ドライバーを手に、高射装置を弄っていた。
「艦娘たちの艤装って、こうやって整備してるんですね.......」
艤装の整備に集中する姉妹を見ながら、川山がぽつりと言った。
「はい。秋月がやっているのは言わば日常点検、初月がやっているのが本格的な点検といった感じです。それ以外に、工作艦の子に手伝ってもらって艤装や装備を隅々まで点検・調整・修理するオーバーホールもありますよ」
「なるほど。ゲームじゃこんな光景には全くお目にかかれませんから、こういうのは非常に新鮮味があります」
「全くです、良いものを見せていただきました」
そう言った一色が、神谷を振り返った。
「おーい浩三、まだ見てんのか?」
「今ちょうど見終わった。.......すごいな、こんなのゲームでもアニメでも見たことないから、感心してしまうよ。おおっ、秋月型の面々か!」
とここで、神谷が秋月姉妹の存在に気付いた。いやいや、気付くの遅いよ。
「そういえば堺司令、秋月、照月、初月と見ましたが、涼月や冬月はいないのですか?」
「涼月に冬月ですか?」
堺が首を傾げた。
「すみません、その2人はうちにはいないですね」
「そうですか。そういえば、寮の説明の時に海防艦も出てきませんでしたね、いないのでしょうか?」
「海防艦?はて、そういった艦種の子は聴いたことがないですね」
「そうですか」
この時、神谷は素早く考えた。
(海防艦がいないとなると、特に最近実装された子はいないと見るべきだな。海防艦が初めて実装されたのは「出撃! 北東方面 第五艦隊」のイベントの時だから、それ以前の子しかいない、ってことか?
その割にアイオワは誘導弾とCIWS持ってたし、どうなってんだ?)
神谷がそう考えている間に、堺が説明を追加している。
「この部屋の外、工廠に入ってすぐのスペースは、建造や開発の他に艤装の調整を行うスペースになっています。オーバーホールもそこで行うのですよ。
そして、調整を終えた艤装はそのまま海に持ち出され、試験が行われるというわけです。
それじゃ、海の方へ行ってみましょう。
新装備のテストを大々的にやっていますから、きっと面白いものが見られるでしょう」
やっとのことで「長10㎝砲ちゃん」を捕まえてきた照月と入れ替わるようにして、一行は格納庫兼調整室を出た。
特務輸送機『延空』については、設定集をご覧ください。