最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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特別編6 Let's go タウイタウイ(後編)

タウイタウイ泊地の工廠は、その一部が海に面する形で建設されている。その海に面した区画に一行はやってきた。一行がやってくると同時に、その視界に1機の航空機が映りこむ。2つのフロートを装備し、フロートと機体との接合部のパーツがゴツい水上機、瑞雲である。瑞雲は下腹に抱えた魚雷を投下し、機首を引き上げて上昇していく。

 

「今はちょうど、航空機による対潜誘導魚雷の性能試験中ですね」

 

堺が説明しているが、3人の注意は別のところに向いていた。試験に立ち会っている艦娘は明石、木曾、五十鈴、夕張、雪風、伊勢と謎の艦娘の7人。その中の謎の艦娘がターゲットである。

身長は180㎝前後か、アメジストを溶かしたような鮮やかな紫色の長髪が特徴的だ。「爆」とか「巨」とまでは言わないが、スタイルもなかなかである。落ち着いた表情でタブレット端末と海を交互に見詰める紫色の瞳には、深い知性が垣間見える。そして彼女の艤装は大和型姉妹並みに大きく、主砲の代わりに巨大なクレーンが4つも突き出ていた。この辺りから察するに、明石の様な工作艦ないし技術系に強い艦娘なのだろうが、工作艦の艦娘は明石以外実装されていない。

 

「(おい、ありゃ誰だ?あんな艦娘がいた覚えがないんだが.......)」

 

「(俺も初めて見る方だ。あんな艦娘は実装されてないぞ)」

 

「(まさか、あの方がさっき堺司令の言ってた「釧路」って方か?)」

 

「マーカーを確認しました!」

 

双眼鏡で海を見ていた雪風が叫ぶ。その直後、赤く染まった海面から桃色の髪を持つ艦娘、潜水艦『伊58』が顔を出し両手で大きくマルを作る。

 

「合図のピンガーを受信!目標への魚雷命中を確認しました!正常に動作したようです!」

 

岸壁近くの海上に立っていた五十鈴の報告を受けて、明石が謎の艦娘に声をかける。

 

「釧路ちゃん、速度の計測結果は!?」

 

「音波の伝播に伝わる時間を引くと、発射から到達までに要した時間は約6.2秒。投下地点から着弾点までの距離は200mですから、雷速は時速116㎞、ノットに直して62.7ノットというところです。計画数値は63ノットでしたし、対潜魚雷としては十分な速度と言えるでしょう」

 

「よーし、どうやらこれで大丈夫そうね!静海面における航空対潜誘導魚雷の試験は成功と判断するわ!」

 

この時点で神谷は気付いた。速力だけでいえば皇国海軍の誇る潜水艦を以てしても、この対潜魚雷から逃げられない、ということに。

まあ伊号シリーズの4桁艦は、装甲が基本化け物なので多分数発なら耐えるが。

 

(全体的な国力とかを考えると、もし日本国と対峙した場合我が方の勝利は揺るぎない。が、時々出てくるな。我が皇国よりも高い技術が。勝てるにしても、思わぬ被害を受ける可能性はゼロではない、か)

 

神谷のそんな思いとは関係なく、明石がそう宣言すると、周囲にいた艦娘たちが笑みを浮かべる。そんな中、瑞雲は海面に着水すると、海上に立つ艦娘、伊勢の元へと向かっていく。 薄々分かっていたが、やっぱり伊勢型の機体だったらしい。

 

「成功したようだな」

 

「あ、提督、お疲れ様です!」

 

堺が声をかけると、明石が挨拶した。

 

「あれ、お客さんですか?」

 

「ああ、3人とも大日本皇国からいらっしゃった方々だよ」

 

堺の紹介を聴いて、明石は3人に向き直った。そして1人ずつ握手しながら、興奮した様子で自己紹介する。

 

「噂の大日本皇国ですか!一度行ってみたいんですよね、すごい技術力があるって聴いたので!

工作艦、明石です!ひょっとしたら知っているかもしれませんが、私は戦闘は得意じゃない代わりに装備の開発や改修が得意です。応急修理もお任せください!」

 

それを皮切りに、周囲にいた他の艦娘たちも順番に自己紹介していく。なお例によって3人とも尊死しかけている。これはもう、仕方がない。

 

「重雷装巡洋艦の木曾だ。よろしく」

 

「海から失礼します、軽巡洋艦の五十鈴です。水雷戦隊の指揮と、対空・対潜はお任せ。よろしくお願いします」

 

海から挨拶しているので視線が三段くらい低いが、それでも礼儀正しく一礼する五十鈴。

あ、当然ながら、あのどでかい胸部装甲が谷間ごと丸見えになっているため3人とも脳内お察し状態である。脳内メモリに解像度マックスで記録したとか。

 

「陽炎型駆逐艦、8番艦の雪風です!どうぞ、よろしくお願いしますっ!」

 

「兵装実験軽巡洋艦、夕張と言います。この後搭載した新装備の試験を行うので、待っててくださいね!」

 

艤装でも弄っていたのか顔にオイルが付いているが、それすらも押しのける爽やかな笑みが印象的な夕張。

そして、神谷たち3人にとって最も気になる艦娘の番がくる。

 

「改舞鶴型移動工廠艦の釧路と申します。艤装の建造や修理、装備の開発と改修、精糖まで何でもできますよ」

 

3人とも全く聴いたことのない艦種・艦級である。特に神谷にとっては、興味の尽きない対象であった。

 

「それじゃ、次の実験まで皆ちょっと休憩ねー!」

 

「次は俺か。ちょっと準備してくる」

 

タイミングよく、明石が休憩を呼びかけた。この機を逃すなとばかり、例の釧路に神谷が話しかけようとする。しかしその前に、機先を制した者がいた。

 

「大日本皇国ってどんなところなんですか?雪風、気になります!」

 

雪風である。神谷は艦娘たちを前にしてオタク脳になっており、そのためかなり早く口を回せるはずであるが、その無邪気さでなんと先手を取ってしまった。

しかもこういうアバウト質問に、子供でも分かるように答えるのは中々に難しい。

 

「うちの国か、んー.......。いろんな才能を持った人がいろんなことをして楽しませてくれる国、かな」

 

とっさに二の句が継げなかった神谷に代わって、一色が答えた。こういう時の頭の回転は、大体一色が早い。あの地獄の国会の舌戦を戦い抜いてるのだ。こういう時の頭の回転は、トップクラスである。

因みに川山は交渉とコミュニケーション、神谷は決断力や判断力が強い。

 

「いろんなことって、どんなことですか?」

 

ところがせっかく答えたものの、雪風の無邪気さで逆に一色が一瞬答えに詰まってしまう。窮地を察した川山が、ギリギリで滑り込んだ。

 

「たとえば、俺の奥さんは動画投稿をやってるよ。毎日色々なネタを探して、それを面白い動画にまとめてくれるんだ。見てくれる人もかなり多いんだよ」

 

「動画ですか!雪風も見てみたいです!」

 

はしゃぐ雪風を見て、一色と神谷は2人揃って(慎太郎グッジョブ!)と讃えていた。というか三英傑をここまで振り回すなんて、実は雪風は大物なんじゃないだろうか。

 

「ニュースの解説とかもやってることがあるよ。この間はちょうど君たちのことを、動画で解説したんだ」

 

「え?じゃあ雪風たちがテレビに出たんですか?」

 

「そんな感じだよ」

 

「ふわあぁ.......!」

 

目をキラキラさせる雪風の姿は、完全に子供そのものである。 普通に可愛い。

 

「本当にTVや動画に出たんだ.......。それって、どこかで見られますか?」

 

「確かタウイタウイでも、うちの国のネットワークが使えるんだっけ。それなら、ええと…」

 

夕張の質問に、川山が自身のスマホを取り出して弄り始める。ややあって、動画投稿サイトのあるページを表示して見せた。

 

「これだよ」

 

それは、川山の妻がやっているYoutubeのチャンネル『ありさのおもしろ開発局』である。

 

「これが、ええと…?」

 

「あ、ごめん。そういえば自己紹介してなかったな。

大日本皇国の外交官、川山慎太郎だよ。そっちの軍服の人は神谷浩三、皇国軍の総司令官をやってる。そしてスーツの人が一色健太郎、大日本皇国の総理大臣だ」

 

「え、ええっ!?総司令官に、総理大臣!?」

 

ぎょっとしたように夕張が目を見開いた。他の面々も大きくざわついている。まあ、そりゃこんなVIPが来ているなんて思わないだろう。

 

「すごい方々がいらっしゃってたのね.......」

 

いつの間にか艤装をしまって海から上がってきていた五十鈴が、会話に加わった。

因みに伊勢と伊58は実験結果のまとめのため既に工廠に引っ込んでしまっており、この場にはいない。

 

「はは、驚かしてごめんよ。それで、と.......。あった、これだ」

 

川山がタップしたのは、2ヶ月ほど前に投稿された雑談動画だった。雑談とはいうがニュース解説のような形を取っており、その中で「タウイタウイ泊地から来た提督と艦娘」について触れられている。川山が持っている『艦これ』アカウントのプレイ場面を例に出して、解説していた。もちろん川山本人も出演している。

 

「こんな感じ」

 

「本当に動画に出てるのね.......」

 

五十鈴が目をぱちくりさせた。この他、神谷と一色が出てる物もあれば、一色妻が出ている物もある。

 

「わあぁ…!雪風も出られますか?」

 

「ひょっとしたら、出られるかもしれないよ」

 

「出たいです!」

 

この様子を見て、やっぱ雪風って無邪気で可愛いな、と思う神谷達3人であった。

その時、落ち着いた声が割り込んだ。

 

「スマホの初期型ですか。これは珍しいものを見られました」

 

釧路が動画ではなく、スマホそのものに目を留めている。技術屋らしい視点であった。

ここで本来の目的を思い出し、神谷が質問する。

 

「皆さん見ての通り、私たち大日本皇国人の多くが、艦娘をゲームの中の存在として知っています。もちろん、ケッコンカッコカリしてる方もいます。

ゲームの中には様々な艦娘がいるのですが…実は釧路さん、貴女は全く見たことがありません。移動工廠艦でしたか、そんな艦種も初めて知りました。貴女はいったい、どちらの艦娘なのですか?」

 

名前からすると日本艦っぽいが、神谷がどれだけ頭を巡らせても、「釧路」という艦名の船は覚えがなかった。となると、目の前にいる『釧路』という艦娘は、オリジナル艦娘だということになる。

彼女はいったい、何者なのか。神谷にはもちろん、一色と川山にとっても興味の尽きない対象であった。

 

「もう察しておられると思いますが、私は名前こそ日本風であるものの、日本生まれではありません」

 

ここまでは、3人の想像通りである。しかし、その直後に続いた台詞は、3人の想像を超えていた。

 

「私は宇宙から来たのです」

 

「.......え?」

 

まさかの答えに、3人揃って首を傾げる羽目になった。つまりコイツはエイリアンなのかと、3人とも脳内でグレイっぽいエイリアンとUFOがぐるぐる回っている。

 

「皆様は、エッジワース・カイパーベルトをご存じでしょうか?」

 

「ああ、確か太陽系の一番外側、冥王星より向こうにあるとされる小惑星帯でしたか?」

 

「そうです。私は、そこで建造されました」

 

「あ、あんなところで!?」

 

地球外で生まれた艦娘がいるなど、誰に想像できるだろうか。いきなりSF要素ぶっ込まれてるのだ、一色以外は理解するまで少し時間がかかる。

 

「にわかには信じがたいかもしれませんが、それが私にとっての真実なのです」

 

「では、釧路さんを生み出した国家というのは?」

 

「既に除籍されていますが、私を建造したのは『銀河星雲連合』という国家です」

 

「銀河星雲連合.......」

 

国名から推測するに、どうやら銀河をまたにかけるような巨大な宇宙国家らしい。当然ながら、神谷たち3人の誰も知らない国である。

というかこれ、ちゃっかり宇宙には我々以外の生命体がいるという歴史的大発見なのだが、3人ともそれには気が付いてない。

 

「その銀河星雲連合が保有するドックにて、私は建造されました。先に着工していた2人の姉、『舞鶴』『神戸』と共に、エッジワース・カイパーベルトにいたのです。

私たち舞鶴型は、『移動工廠艦』の種名通り、移動式の工業ステーション、又は宇宙船の造船所となるべくして建造されました。なので、大気圏内外問わず飛行・航行可能です。

そして、ここからがさらにオカルトじみた話になるのですが.......、実は、私たちの創造主たる銀河星雲連合は、神と繋がっているのです」

 

「神と言いますとあれですか、天照大神やら何やらのことですか?」

 

「そうです。その神々からの要請を受けて、銀河星雲連合は各世界に戦力を派遣しています。

私は元々、姉である『舞鶴』と『神戸』が派遣された世界に、援軍第2弾として派遣されるはずでした。ところが、その予定がキャンセルになってしまい、その代わりの派遣先となったのが、このタウイタウイ泊地だったというわけです。

一度銀河星雲連合から派遣されると、二度と帰還は不可能になりますので、私は銀河星雲連合から除籍された上で派遣されました。そしてここにいる、というわけです」

 

何ともスケールの大きな話だったが、神谷たち3人は彼女の来歴について納得できた。こんな特殊な事情があるのなら、こんなオリジナル艦娘の存在も頷ける。その時、艤装を着けた木曾が戻ってきた。

 

「よーし、休憩終わり!あと2つ、一気に片付けるよ!」

 

堺と話し込んでいた明石が声を張り上げる。楽しい雑談タイムは終わりを告げた。

 

「計測の準備急いで!今回は射程が長いよ!」

 

明石の叫びに、雪風が真っ先に動いた。光に包まれたかと思うと艤装を展開し、ゲームでよく見る姿になって桟橋から海へと飛び降りる。そして、水上スケートさながらの動きで港の外へと駆け出した。

 

「うおぉ、アニメやアーケードゲームの動きそのものだ!」

 

神谷が目を輝かせる。一色も川山も、心が踊るような感覚を覚えた。

続いて五十鈴が艤装を展開し、テスト用の標的らしいものを抱えて海へと飛び降りる。ある程度岸壁から距離を取ったところで、もう一度彼女の姿が白い光に包まれた。

次の瞬間…

 

「「「おぉ!!」」」

 

神谷たち3人が声を上げる。

光が消えた時、そこには五十鈴の姿はなく、代わりに1隻の小型艦がいた。7基の単装主砲、箱型の艦橋、艦中央に並ぶ3本の煙突。明らかに軍艦である。

 

「5,500トン型、長良型軽巡洋艦だ!」

 

神谷が一瞬で艦級を見抜いた。

 

「まさか、あれが五十鈴なのか!?」

 

「そうですよ」

 

一色の叫びにも似た質問に、堺が答えてくれた。

 

「うちの艦娘たちには、3つの形態があるんです。1つめが『人形形態』で、この形態では艤装が展開されません。このため、艦娘たちは普通の一般女性と見分けがつかなくなります。

2つめは『艦娘形態』、これは艤装を展開して水上スケートする時の姿です。さっきの雪風がそうですね。

そして3つめ、『艦艇形態』。これは、実際の軍艦の姿となって航行するものです。今の五十鈴はこの形態ですね」

 

「まさにメンタルモデル!」

 

神谷がコメントしたが、堺には何のことやら分からなかった。当の『五十鈴』は、標的を曳航して港を出ていくところである。

一応この『メンタルモデル』がなんなのか説明しておくと、かつて艦これともコラボした『蒼き鋼のアルペジオ』の敵に当たる『霧の艦隊』と呼ばれる存在の、重巡洋艦クラス以上が各艦に所有する人型の意識体の事である。

 

「よし、それじゃ次は俺だな!」

 

木曾が海へと飛び降り、形態変化を実行した。

光が消えると、そこには5,500トン型軽巡洋艦の初期型たる球磨型軽巡洋艦の姿がある。しかしそれを見て、神谷が叫んだ。

 

「あれは.......まさか、ミサイルランチャー!?」

 

重雷装巡洋艦の外見上の特徴といえば、艦体中央から後部にかけてずらっと並べられた箱状の兵装、魚雷発射管である。ところが、目の前に現れた『木曾』には、そんなものは一切見当たらなかった。その代わりに、4本の金属製の筒を束ねた兵装があったのである。

それに似た形のものを、神谷は知っていた。明らかに、ハープーンのような対艦ミサイルを発射するためのランチャーである。

 

「え、マジかよ!?」

 

「艦娘にミサイル積んでるってのか!?」

 

これには一色と川山も驚いている。艦これに実装されているミサイル兵器は今の所ないのだから当然である。

 

「お気付きの通りです。アイオワに搭載されているハープーンを元に、ちょっとした性能改良型を開発したのです。それを木曾に試験的に搭載し、これからその性能を試そうというのですよ」

 

堺は何でもないことのように話しているが、どれほど凄まじいことをやっているか、神谷にはよく分かった。

第二次世界大戦当時の軍艦と現代艦では、根底にある戦闘教義、所謂『戦術ドクトリン』が全く違う。第二次世界大戦までの戦闘は目視圏内での、有視界戦闘が基本であった。このドクトリンがあったからこそ、大艦巨砲主義などの海戦のセオリーが生まれたのである。だが航空機の有用性がわかった事で、これまでの有視界戦闘からアウトレンジでの戦闘に切り替わって行った。やがてミサイル兵器などの登場により、現代では優れたレーダー、人工衛星、ドローンといった探知方法を駆使して、遥か彼方の敵を早期に発見、ミサイルで効率的に目標を破壊するのが現代のドクトリンなのだ。それを実行するアビオニクスがイージスシステムに代表される最新鋭の武器システムなのだ。

そんな訳で当然ながら、第二次大戦時の軍艦にはそんなアビオニクスはないしドクトリンなんて欠片さえない。そんなところにミサイルだけ搭載しても、ほぼ意味はない。それならロケット砲を搭載した方が、まだ兵器として使えるだろう。しかも艦載能力に余裕のある戦艦アイオワのような大型艦ならともかく、木曾は駆逐艦に少し毛が生えた程度の小型艦。そこにミサイルを搭載できたとしても、レーダーなどは搭載する余裕がないはずなのだ。レーダーは探知するレーダー本体以外にも、色々装備をつけなければ単なるハリボテにすぎない。コンピューターとか大量の配線とか火器管制システムとかである。しかもこれを動かせるだけの、大出力発電機も搭載しなければ意味がない。

だというのに目の前にいる木曾はミサイルを搭載して、運用しようとしている。ということはおそらく、あのミサイルは『撃ちっ放し式』となる。現在ウクライナで大活躍中のジャベリンの様に、弾頭に搭載したレーダー類だけで目標の識別などを行い目標に突入する代物だろう。技術力としてはかなり高い。

 

「こりゃ良いものが見られそうだな」

 

神谷は、好奇心が頭をもたげるのを抑えきれなかった。

神谷たち3人の隣では、明石が無線通信回路を開き、出港していった2人や木曾と連絡を取っている。釧路は例の薄いタブレット端末を手に、そろばんの玉でも弾くように指をせわしなく動かしていた。実験計画でも確認しているのかと思いきや、

 

「気温32.2℃、湿度46%。風向と風力は…」

 

呟きながらデータ入力を始めている。そんな彼女の様子を見て、一色があることに気付いた。

 

「なあ、ここの艦娘たちって皆『艦艇形態』になれるんだよな?」

 

「そうだな」

 

「さっきの堺司令の説明に従えば、そうなると思うけど」

 

「ってことは、釧路の艤装も見られるのか?」

 

一色の疑問に、神谷と川山がはっとした。

 

「言われてみれば.......」

 

「確かにな」

 

「できるにはできますが、ここでは止めておきましょう。というのも釧路の艦艇形態は、全長1,670m、最大幅470mにも及び、大和型戦艦でさえ駆逐艦にしか見えなくなるほどのスケールなのです。さすがに貴国の熱田型やら何やらには負けますが、それでもスケールとしてはかなり大きいでしょう。そんな艦がこんな狭い港に出現したら、大事故待った無しです」

 

「「「確かに.......」」」

 

3人とも納得したが、同時に釧路の艤装も見てみたかったなぁ、と少し残念に思った。

 

「データ入力完了!いつでもいけます!」

 

「よし。こっちも、雪風ちゃんと五十鈴さんの準備はできたよ!あとは木曾さんだけ…あ、できた?」

 

話の途中で木曾から連絡があったらしい。

 

「それじゃ、実験始めるよ!10秒前!8、7、6、5、4、3、2、1、発射!」

 

明石の号令と同時に、『木曾』の艦体中央部にオレンジ色の炎の塊が出現した。次の瞬間、昇り龍を思わせる勢いで対艦ミサイルが射出され、大量の白い煙を吐いて飛んでいく。

 

「おお、マジで撃った!」

 

「スゲー、艦娘もここまで進化するもんなんだな」

 

一色と川山も興奮する中、神谷は冷静にミサイルの動きを目で追った。そしてすぐに気付く。

 

「もう白煙が消えた?これは視認性が比較的低いな」

 

通常、ミサイルは白い煙を引いて飛ぶものとして描写されがちだが、実はそれはある意味正しくない。というのは、目標に接近する間にミサイルは視認性を下げるため、白煙の尾を引かなくなるのである。さらにハープーンはその構造上、艦隊発射タイプは7秒間固体燃料ロケットエンジンで飛行し、その後これを切り離してターボジェット・サステナーに切り替わる。恐らく4秒程度で切り離されたので、それだけ加速性能の高いロケットエンジンを搭載している事になる。それだけでも脅威だ。

もちろんだが、白煙を引く時間が短いほど、視認性は少しだが低くなる。

 

「ようーい..............だんちゃーく!」

 

発射からたった10秒ほどで、タブレット端末を見詰めていた釧路が声を張り上げる。

 

「弾頭カメラにて命中確認!」

 

「目標との距離は32㎞。それを10.7秒で飛びましたから、時速にして約10,776.36㎞。マッハ8.79ってところですね」

 

(ヤベェ、釧路マジヤベェ!)

 

神谷は釧路の戦略的重要性を改めて強く認識した。

おそらくタウイタウイが生き残ってこられたのは、彼女の存在が大きいだろう。皇国軍のそれにも匹敵しうる凄まじい装備を、あっさり作ってしまえるらしいのだから。皇国軍でもこんなマッハ9近くで飛翔するミサイルは対艦ミサイル虎徹、ASM4海山、AGM255銀河、後は一部の弾道ミサイルのみである。因みにハープーンの飛翔速度はマッハ0.85である。

 

「よし!提督、とりあえずは実験成功です!」

 

「OKだ。引き続き実験を重ねて、量産配備の目処を立ててもらいたい」

 

「分かりました!」

 

認可を貰えた明石も嬉しそうにしている。

 

(この新型ミサイル、後でこっそり調査した方が良いな。マッハ9目前の速度で飛ぶなんて、うちの海兵たちが聞いてもびっくりするだろう.......。どれほどの機能があるか、知っておかないとな)

 

神谷は密かにそう考えていた。

新兵器のテストの最後は、夕張の出番である。が、正直言ってえらいことになっていた。このテストでは「敵役を担うAI操縦の航空機に対し、新開発の主砲を用いて対空戦闘を行う」という想定であり、釧路が『夕張』艦橋の音声をタブレット端末から流して中継してくれた。が。

 

『トラックナンバー2628!主砲、撃ち方始めっ!』

 

『撃ちぃ方ぁ始め!』

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

『夕張』に突撃していった流星が、百発百中で撃墜されていく。

 

(((いやそれジパングじゃねえか!!!)))

 

そして三英傑は当然のように、総ツッコミを入れる羽目になった。多分、あの最初に撃墜されたAIは「たかが主砲で、何が出来る!」とか考えてたのではないだろうか。知らんけど。

 

「さて、ここで御三方に質問です。次に挙げる3箇所のうち、どこで昼食を摂りたいですか?」

 

テストが全て終了し、艦娘たちが帰投してきた時、堺が質問を投げ掛けた。その瞬間、3人は一斉に身構えた。

 

「1番、先ほどご案内した間宮と伊良湖の店。こちらでは食べたい物をメニューに従ってご随意にご注文いただける他、艦娘との交流も期待できます。ただ、店の規模が規模なので、会える艦娘の数は少なくなると予想されます。

続いて2番、司令部棟1階の大食堂。艦娘との交流を期待するならここですね。ただ、今日はカレーの日ですから、ここを選んだ場合昼食のメニューは自動的にカツカレーで固定となります。

最後に3番、司令部棟4階の私の執務室。こちらでは大和型姉妹の給仕を受けながら、姉妹お手製の肉じゃがをご堪能いただけます。ただ、艦娘との交流は最も少ないでしょう。

さあ、いずれになさいますか?」

 

堺としては、3人はこの「究極の選択」に結構な時間をかけて迷うだろうと思っていた。

だがしかし…

 

「2番!」

「2番の食堂で」

「2番でお願いします」

 

まさかの即決であった。それも全会一致。

 

「分かりました、大食堂ですね。

えーと、今の時間ですと、だいたい食堂はいっぱいになりつつある頃でしょう。よろしければそろそろ移動しませんか?」

 

「よし、それじゃ行きましょう。慎太郎も健太郎も、良いよな?」

 

「そうだな、行こうか。カレーと聞いて急に腹が減ってきた(棒)」

「俺もだな。やれやれ、飯テロの効果ってすごいなぁ(棒)」

 

「それじゃ、俺たちはこれで。皆お疲れ様、熱心なのは良いがやりすぎるなよ。小休止と栄養は思考への影響が大きいからな」

 

「「「はーい」」」

 

艦娘たちの良い返事を背に、4人は食堂へと向かうのだった。 食堂に近付くと、やはりというか騒がしい喧騒が聴こえてくる。それと共に3人のテンションも上がっていく。

 

「どうぞお入りください」

 

堺に言われて入った食堂には、それこそ眼福としか言い様のない光景が広がっていた。どっちを向いても艦娘、艦娘、艦娘!ゲームで馴染みのある顔ぶれがずらっと並んでいるのである。立ち込めるカレーの香りも素晴らしいアクセントだ。

 

「おおぉ、これはヤバい!何時間でも眺めてられそう!!」

 

さっきまでの冷静な神谷は何処へやら。一気にハイテンションになっている。

 

「すげぇ、俺の嫁があっちにもこっちにも!」

 

食事を摂る艦娘たちを見て、一色も興奮気味だ。

そんな中、川山は興奮しかけたところで気付いた。最後に食堂に入ってきた堺が、いきなり下を向いて右手を額に当てたのだ。まるで「ウソダドンドコドーン!」とでも言わんばかりに。

 

「どうされました、堺さん?」

 

「あれを.......」

 

堺が力無く指差した先を見て、川山は絶句した。

1つのテーブルを占める、巨大な茶色の山。言うまでもなくカツカレーなのだが、あまりにも大盛りすぎる。しかもその山が4つ並んで山脈を形成していた。そのうち2つの山を、こちらに背を向けた2人の艦娘が凄まじい勢いで食している。顔は見えないが、片方は黒のロングストレートの髪に赤いスカート風の弓道着、もう片方はサイドテールに青いスカート風の弓道着が目立つ。

こんな格好をした艦娘といえば、どう考えても一航戦の2人、赤城と加賀に決まっている。そしてあの2人なら、この超盛りカレーも頷ける。山脈の反対側にも2人の艦娘がいるはずだが、カレーに隠れて顔が見えない。だが頭頂部付近は見えており、片方は茶色の髪にカタツムリの角を思わせる艤装が突き出ていた。

 

(あの艤装、片割れは陸奥で間違いない。となるともう片割れはきっと長門だな。

ビッグセブンに一航戦。そりゃこんな馬鹿げた量にもなるか)

 

その時、堺がぼそっと呟いた。

 

「おい嘘だろ.......。こりゃまた大破確定じゃねえか..............」

 

続けて「当面海女さん生活かもな…」という悲壮な声も聴こえた。

 

(ああ、大破ってお財布か)

 

しかもよく見ると、カレー山のすぐそばに空の皿が2、3枚重ねて置いてあるではないか。あの超盛りのカレーをお代わりしたというのか。

赤城や加賀は確かに大食いとして弄られやすいキャラだが、いざ目にするとぶっ飛んだ食事量である。同時に、大日本皇国内で出回る「薄い本」での描き方すら生ぬるいと思わされてしまった。

 

「…うわ.......何だあの量..............」

 

「マジか.......。さすが一航戦」

 

さしもの2人もドン引きである。というかあんなの、常人が食えば胃が破裂して腹が裂ける。あのカレー山脈を見る2人を尻目に、川山はそっと堺に声をかけた。

 

「堺司令、心中お察しします。というか声に出てましたよ」

 

「.......うわマジか。やらかしましたね。情けないところをお見せしました」

 

「いや、アレを見たら誰でもそんな反応になりますよ。堺司令の反応は何もおかしくありません」

 

「.......そう言っていただけると助かります」

 

「あと、来週以降の我が国との食糧の取引に関して可能な限り値段を下げるよう、一色と神谷辺りから通達させましょうか?」

 

「非常にありがたいです」

 

世知辛い一面が垣間見えたところで、4人は本来の予定を思い出した。尊死寸前やらお財布大破確定のカツカレー山脈やらで忘れかけていたが、昼食を食べに来たのである。

列に並んだ途端、3人はあちこちから視線を感じた。もちろんだが、艦娘たちが興味津々の視線を投げかけているのである。

 

(((ヤバい!これはヤバい、尊死の衝動がががが!!)))

 

3人とも必死で耐えているが、SAN値はガリガリと削られていく。四方八方から飛んでくる艦娘たちの好奇の視線は、3人にとって凄まじい威力の猛毒だ。

何とか耐える中、川山が気付いた。堺が誰かと話し込んでいる。

灰色の衣装、金髪、高身長のグラマラスなボディ、そして帽子に描かれたバルチックスキーム。見間違えるはずもない、ビスマルクである。何故か半泣き顔になっている。

 

「ところで提督、そちらの方々はどなたかしら?」

 

「こちらは大日本皇国から視察にいらっしゃった方々だ。言わば俺のお客人だよ。向こうはお前さんのことを知ってるかもしれんが、一人前の淑女たる者として自己紹介を頼む」

 

「了解よ」

 

さっきまでの半泣き顔は一瞬で消滅した。そこにいたのは、いつもの自信に溢れたレディである。

 

「Guten tag. 私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルクよ」

 

川山の嫁艦、ビスマルク。その姿を見た川山は勿論、死にかける。

そこへビスマルクと共に列に並んでいた面々が振り返り、次々と自己紹介してくれる。

 

「大日本皇国からのお客人か。私が航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ」

 

「Guten tag!私は重巡洋艦、プリンツ・オイゲン。よろしくね!」

 

「Guten tag. 僕の名前はレーベレヒト・マース。レーベで良いよ、うん」

 

「Guten tag. 私は駆逐艦マックス・シュルツよ。マックス…でもいいけれど。よろしく」

 

ゲームそのまんまの見た目と台詞の数々に、神谷も一色も脳内が大変なことになる。特に神谷はアズールレーンでの推し艦であるプリンツ・オイゲンがいたのもあって、テンションの方向性がバグりそうになっていた。

それに川山はもう1人の嫁艦であるオイゲンが居たのもあって、人一倍必死に尊死に耐えていた。そこにいきなり後方から奇襲攻撃を喰らった。

 

「Oh, hello!Mr. Kawayama、久しぶりね!私のこと覚えてるかしら?」

 

突然後ろから手を回され、誰かが抱きついたのだ。柔らかくも中心に何か硬いコリコリとした部分のある物が背中に当たる、そのとんでもないボリュームと質感に川山の意識が完全に吹っ飛びかける。しかし一瞬だけ幽体離脱したところで何とか意識を引き止め、言葉を返す。

 

「ひ、久しぶりですねアイオワさん」

 

「お、ちゃんと覚えててくれたのね!嬉しいわ!」

 

振り向いた川山の両手を握り、ぶんぶん振り回すアイオワ。数々の修羅場を潜ってきた歴戦の外交官も、この凄まじいアメリカ式アプローチにはたじたじである。

 

「アイオワ、ちょっと積極的すぎないかしら?」

 

そこへ、アイオワと共に列に並んでいたウォースパイトがやんわりと注意した。そのまま3人に自己紹介する。

 

「大日本皇国の方々ですね。我が名はQueen Elizabeth class battleship Warspite!よろしく頼むわね」

 

さらに川山の嫁艦ウォースパイトが入り、ついに川山は止めを刺されてしまった。キャパシティオーバー、尊死である。川山は真っ白になって、幸せそうな顔を浮かべながら機能停止した。だってさっきから嫁艦フィーバーなのだ、死ぬしかしないだろう。

機能停止して動かなくなった川山を見て、優雅にカーテシーを決めたままウォースパイトが首を傾げる。

 

「.......どうされました? お身体の具合でも悪いのでしょうか.......?」

 

「気にしなくて良いぞウォースパイト。ちょっと感動しすぎてるだけだから」

 

堺のその言葉でアイオワが気付く。

 

「あ、そっか。そういえば大日本皇国では、私たちはゲームの中だけの存在だったわね」

 

「そう、その実物に会えて感動しきりって訳だ」

 

「そういえば堺司令」

 

とここで、神谷が正気に戻って質問を投げた。

 

「どうされました、神谷さん?」

 

「いろいろな艦娘がおりますが、ガングートっていますか?」

 

それを聞いて、川山と一色が何かに気付いたようにはっとなった。

 

「そういえば見ていませんね」

 

「確かに.......」

 

すると、逆に艦娘たちが首を傾げた。

 

「ガングート?ねえビスマルク、そんな子いたっけ?」

 

「いえ、いないわね」

 

「Royal Navyの方ではないようですね。私も存じておりません」

 

「ガングートという子はいませんね」

 

しかし堺は、「ただ」と続けた。

 

「その名前は聞き覚えがあります。どこで聞いたっけな.......」

 

その時、意外な事に、堺の後ろから声が上がった。グラーフ・ツェッペリンだ。

 

「それは私じゃないか?Admiral、前に一度話したのを覚えているか?私の艦爆隊長妖精のことだ」

 

「あっ.......あー、そういやそうだったな!すっかり思い出したよ。確か、お前んとこの妖精さんが1トン爆弾で真っ二つにしたのが、ガングート級の『マラート』だったっけ?」

 

「そう、それだ」

 

「聞き覚えがあったのはそれでか.......」

 

その時、神谷は気付いた。この艦爆隊長の戦歴に、心当たりがあることに。

 

「グラーフさん、つかぬことをお訊きしますが.......」

 

「む、貴方は?」

 

「ああ、すみません自己紹介が遅れました。大日本皇国から参りました神谷と申します。

グラーフさんの艦爆隊長の方は、どんな機体を使用されているのですか?」

 

「機体か?Ju87C改、いわゆるシュトゥーカだな。最近ではアーツェーンベー改も使っているが」

 

アーツェーンベー改、というのは「A-10B改」のことである。アルファベットと数字をドイツ語で発音したのだ。

因みに神谷は英語の他、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ラテン語は日常会話程度であれば使いこなせる。

 

「シュトゥーカではどんな兵装をお使いになっていたか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ほう、兵装モジュールとはだいぶ突っ込んだ質問だな。よく使うのはSC-250、250㎏爆弾や500㎏爆弾、1トン徹甲爆弾、それと37㎜機関砲2門だ。爆弾は対艦・対地攻撃に、機関砲は対地攻撃に使用している」

 

使用機体がシュトゥーカにA-10、しかも機関砲で対地攻撃と聞いて、神谷の中で「もしかして」という思いがどんどん強くなっていく。

 

「爆弾で対地攻撃は分かりますが、機関砲で対地攻撃とは、どんな目標を攻撃するのでしょうか?」

 

「機関砲で狙うのは、主に戦車や装甲車といった車輌類と野戦砲だ。

Admiral、グラ・バルカス帝国との戦いでは、アイツは何輌破壊したんだったか?」

 

「ええと、正確な数は覚えていませんが、ムー大陸での総反攻作戦の時だけでも、かなり破壊していましたよ。戦車、自走砲、装甲車、トラック類、全部合わせたら700輌は下らないでしょう。あと野戦砲は最低200門は破壊してますね。

対艦攻撃に関しては、第二次バルチスタ沖大海戦の時にたった1個飛行隊、それも旧式のシュトゥーカで、グラ・バルカス帝国の空母4隻を一挙に屠っています。それも戦闘詳報によれば、スコールの切れ目を縫って垂直急降下爆撃を仕掛け、攻撃隊発艦準備中のタイミングを捉えて攻撃し、引火誘爆によって4隻を撃沈確定にしたとのことです。江草隊より凄まじい練度なんですよ」

 

ここで神谷は察した。江草隊長より高い練度を持ち、かつ急降下爆撃機、それもシュトゥーカ乗りとなると、心当たりは1人しかいない。

 

「ちなみにその隊長さんって、牛乳と体操がお好きだったりします?」

 

「む、何故分かったのだ?確かにアイツはよく牛乳を飲んでいるし、休憩時間などしばしば体操しているが」

 

「その隊長さんのお名前は?」

 

「ハンス・ウルリッヒ・ルーデルだ」

 

神谷が察した通りであった。というか、そんな化け物じみた急降下爆撃機乗りが2人もいてたまるか、という話である。この瞬間、神谷は「うちのゲームにも欲しいな、シュトゥーカ・ルーデル隊」とか考えていた。

 

「Oops!?」

 

その時、急にアイオワが前方へふらついた。辛うじて体勢は立て直したが、その際に何とか正気に戻っていた川山の目に双丘の上面と谷間がガッツリ映り込んでしまい、またしても川山が尊死一直線ルートに入ってしまう。

 

「どーんっ!通商破壊っ!」

 

その声に振り返ってみれば、アイオワのすぐ後ろにスク水の上からセーラー服を羽織った、茶髪の小柄な子がいる。その後ろにスク水+セーラー服の子たちがずらっと並んでいた。

 

「あれあれ?何だか見たことない人たちがいる?」

 

「おいニム、混雑した食堂で通商破壊は勘弁してやれ」

 

アイオワがふらついたのは、伊26が背中をダイレクトアタックしたからである。

 

「こちらの御三方は、大日本皇国の方々だよ。視察にいらっしゃったんだ」

 

「へえー!あたし、伊26潜水艦!ニムで良いよ!よろしくね!」

 

いつもながら元気印の伊26である。それに続いて、潜水艦娘の子たちが次々と自己紹介した。

 

「グーテンターク、あ、違った、ごめんなさい。伊8です。はち、で良いですよ」

 

「あら、素敵な方々なのね。伊19なの。イクって呼んでも良いの!」

 

「こんにちは、伊58です。ゴーヤって呼んでも良いよ。苦くなんかないよぉ!」

 

「伊168よ。イムヤで良いわ。よろしくねっ!」

 

「特型潜水艦、伊401です。しおいって呼んでね」

 

「伊13です.......。ヒトミ、と呼んでください.......」

 

「伊13型潜水艦2番艦、伊14です。イヨって呼んで。よろしくね」

 

「呂号第500潜水艦です。ユーちゃん改め、ろーちゃんです!」

 

「はじめまして、まるゆと言います。よろしくお願いします」

 

3人にとっては、これまた見慣れた顔ばかりである。潜水艦の艦娘たちだ。旧オリョクルやらバシクルやらで少なからず世話になっている面々である。

 

「Admiral、そろそろ順番だぞ」

 

グラーフ・ツェッペリンの言葉通り、いつの間にやら列が進んでいた。もうそろそろ注文の順番が来る。

週1回のカレーの日とあって、メニューはカツカレーとコンソメスープとサラダのセットか、カレーうどんだけという非常に潔い限りである。カレー専門店でも、もう少し種類あるだろう。だが2つしかないというのは、裏を返せばそれだけ味に自信があるという意味でもある。

 

「お、カレーの味を選べるのか」

 

貼り出されたメニューを見て一色が呟いた。そこには3種類の味が書かれており『六駆特選 甘口』、『伝統の味 中辛』、『足柄力作 極辛』となっている。

 

「おおぉ!一期6話のカレー洋作戦だ!!」

 

「浩三お前、本当によく覚えてるな」

 

神谷が瞬時に当てたのを見て、川山が呆れている。まあ恐らく読者諸氏はお気付きだろうが、艦これ1期のアニメ第六話『第六駆逐隊、カレー洋作戦!』のカレーである。

暫くすると順番が回ってきたため、各々注文を開始する。やはりというべきか、艦娘たちは全体的に量が多い。大体の店は大盛りがMAXである。偶に特盛りとかもあるが、基本は大盛りが上限だろう。だがここは大盛りと特盛りの上に、超盛り、赤城盛り、大和盛りとさらに続いている。何処ぞの中間管理職が食べてるカツ丼屋みたいな感じである。

因みに流石の艦娘でも「大和盛り」はレジェンド盛りらしく、これに挑むという猛者はそうそう居ないらしい。ちなみに、さっき一航戦とビッグセブンが食べていたカレー山脈が「大和盛り」である。

 

「さすがに俺あんなには食えんわ」

 

「俺もだな」

 

ということで、一色と川山は中盛りを選択した。ルーは「中辛」を頼んでいる。

 

「うーん、中辛は多分うちのカレーと似たような味だよな…ならばここはこれしかない!

すみません、極辛を『赤城盛り』で!」

 

神谷は思い切って極辛カレーを選択。足柄の手になるあの味を、腹一杯楽しむつもりだ。その一方で、小盛りを頼む者が1人だけいた。

 

「え、堺司令?小盛りですか?」

 

「はい。実は私、少食なもので」

 

まさかの堺である。特に神谷にとっては意外であった。大食いと言わずとも、軍人である以上は結構食うと思っていた。

 

「まさか堺司令が少食とは.......」

 

「何だかんだでなかなか入らないんですよ.......」

 

「クリスマス会の時にサラトガのターキーサラダサンド1個で轟沈してたわね」

 

「ちょ、おまっ!?それ黒歴史!!」

 

神谷のコメントに堺が苦笑した瞬間、後ろからアイオワがツッコんだ。しかも、さらっととんでもない情報を暴露されてしまい堺が慌てる。

 

「え、サラトガのサンドイッチで轟沈したんですか?」

 

「いやー.......。ははは…」

 

「サンドイッチっていっても、20㎝×20㎝×8㎝の大きさよ」

 

アイオワに言われて、3人はサンドイッチの大きさを想像した。まあ確かにサンドイッチとしては、デカい部類だろう。だが少なくとも、轟沈レベルの大きさではない。つまり結論…

 

「「「堺司令、もうちょい食べた方が良くないですか?」」」

 

である。因みに神谷曰く「その量じゃ絶対俺は持たん。俺に限らず、ウチの部隊の他の連中でも持たんぞ」らしい。

 

「むう、御三方にまでそう言われるとは.......」

 

少々むくれながら堺が集団で空いた席を探し当てる。ちょうど空きテーブルが1つできたため、それが占領されることになった。堺、三英傑、ドイツ勢、アイオワ、ウォースパイト、潜水艦勢と勢揃いすると、さすがのテーブルもやや手狭に感じられる。

 

「えぇと、いただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

堺の音頭で食事が始まる。まずは神谷、スプーンでルーと米を掬って口に放り込む。

 

「はらっ!?はらふひる!!」

 

「浩三、何やってんだ」

 

「お前、それはちょっと見苦しくないか」

 

勢いよくカレーに食いついた神谷が、涙目で悶絶した。慌てて牛乳のコップを取り上げる。一色と川山が苦笑したが、神谷にはそれに答えている余裕は全くない。思ってたより3倍辛かった。だがアニメでも言っていた様に、激辛だが後を引く味でもっと食べたくなる味である。

 

「ひえぇ、思ったよりハードボイルドだった」

 

「油断したな浩三。まさかカレーに不意を打たれるなんて」

 

「全くだ」

 

「やっぱりね。このカレー、最初は皆そんな反応よ」

 

そういうアイオワも「赤城盛り」の極辛カレーである。彼女は慣れているのか、普通にバクバク食ってる。

 

「さすがにこれを食べようとは思わないわ.......」

 

中辛カレーを匙で掬いながらウォースパイトが言った。だが量はしっかり大盛りを頼んでいる。やはり彼女も、れっきとした戦艦娘なのである。

 

「神谷さん、戦艦としてやっていけそうなのね」

 

「イク、それは食べる量だけでち」

 

伊19に伊58がツッコんだ。その後も新手のメンバーまで加わり、わいわいと話しながら食事が続き、総員の食事が粗方終わりかけた頃、新たな話題が堺から切り出された。

 

「そういえば、神谷さんたちの率いる大日本皇国は、グラ・バルカス帝国とは戦ったのですか?」

 

「ええ、戦いましたよ」

 

「貴国から見れば、グラ・バルカス帝国など赤子未満でしょうに。楽な戦だったのではないですか?」

 

「まあね。ただ、物量だけは少し苦労しましたよ。何だかんだ言っても、戦いは数だよ兄貴、ですから」

 

「本当に、仰る通りです」

 

堺の目がやや遠くなった。どうやら色々苦労したらしいが、まずはこちらの話だ。

 

「私たち大日本皇国は、とりあえず主力艦隊だろうと何だろうとグラ・バルカス帝国の船を片っ端から撃沈して、制海権・制空権を完全に奪いました。そして植民地も次々と落としていき、最終的にはグ帝の本土に上陸して決戦をやって、それに勝って終わっています」

 

「いいなぁ、敵の本土に上陸する余裕があるなんて」

 

羨ましがる堺。その様子から察するに、どうやら本土決戦のようなことはできなかったらしい。

 

「いやー、私も最前線で暴れまくってましたよ」

 

「神谷長官ならそうくるだろうと思ってましたよ。明らかに指揮官先頭型でしょうし」

 

「司令部で吸う空気より、硝煙と鉄の生臭さに溢れる戦場の匂いの方が心踊りますよ、私にとっては」

 

「でしょうね」

 

神谷が先頭で戦うのは、楽しいという側面もあるが何より効率的だからである。本来将は後方に控えるべきだが、神谷の場合は素の強さがある。並の兵士どころか兵器を持ってしても倒せない。そんな将軍であれば前線にいても問題にならないし、不測の事態に陥っても即決即行で対処できる。その思想の元に生まれたのが神谷戦闘団である。

 

「そういえば、堺司令はどうだったのですか?最初にお会いした時に『ロデニウス連合王国』と名乗っていたということは、タウイタウイはロデニウス大陸諸国の一部だったのですよね?あの辺の国の技術力は地球でいうと中世レベルですから、グ帝の相手はかなり厳しかったのではないかと思いますが」

 

「川山さんの仰る通りです。実際、我々も様々な手法をこらして戦争を戦っていましたが、早晩国力が尽きることは明らかでした。ですから、できる限り早期に講和したいと思っていたのです。

我々はひとまず、ムー大陸からグ帝の勢力を追放することを目指しました。第二次バルチスタ海戦でグ帝の主力艦隊を叩き、その勢いでパガンダ・イルネティア両島を落として制海権を奪取し、補給ルートを断ち切りました。そして、ムー大陸で総反撃に踏み切ったのです。

その傍らで、ミリシアルやムーなどと交渉し、とりあえずムー大陸を解放した後にグ帝に和平交渉を持ちかけることで決定しました。あの交渉は大変でしたよ。何せ世界一の皇帝に直接会わなければならなかったんですから」

 

かなり遠い目をして語る堺に、3人ともかなり興味津々である。

 

「それじゃ、ミリシアル8世に会ったということですか?」

 

「お目通りくらいなら良いのですが、ガッツリ直談判させられたので寿命が縮みましたよ。

それで、ムー大陸をどうにか解放できたのですが、和平交渉は案の定蹴られてしまいました。そこで、うちの子たちで暴れた訳ですよ」

 

「暴れたって、グラ・バルカス帝国の主力艦隊と戦ったのですか?」

 

「実を言いますと、グ帝の主力艦隊とはほとんどまともにやり合っていません。そんなことしたら、可愛い艦娘たちや妖精たちの負担が過大になりますし、轟沈のリスクも増えるじゃないですか。そんなことできませんよ。

ということで、私たちがやったことはひたすらに『通商破壊』です。輸送船団は1隻も逃がさない勢いで撃沈しましたし、物資の積出港やそこに通じる線路なんかも、艦砲射撃やら空爆やらで叩きまくりました。特に輸送船団は何が何でも全滅させるつもりでした。輸送船団叩くのに主力の空母機動部隊を全力で突っ込みましたし」

 

えげつない行為がいとも容易く行われている。いくら護衛がいるとはいえ、速力が遅く防御力も対空迎撃能力も低い輸送船の群れに、精鋭機動部隊の航空部隊を全力で叩き付ければ、どんな結果になるかは容易に想像できるだろう。

因みに大日本皇国の場合は潜水空母が群れで襲いかかるという、よりタチが悪い戦法を取っている。

 

「堺司令もお人が悪い。腹が減っては戦はできぬ、を言葉通りにやってるじゃないですか.......」

 

こんな事ほざいてるが、この神谷が例の潜水艦隊による攻撃を考案した。犯人はコイツである。

 

「物量も技術力も何もかもオーバーキルをやってる貴国に言われたくないですよ」

 

2人揃って悪い笑みを浮かべる堺と神谷。 もうこれどっちが悪役か分からないというか、この2人が組んだらヤベェ作戦考えつきそうである。

 

「そういうわけで、腹が減って戦えなくなったグ帝を、どうにか講和に追い込んだのですよ。流石に腹ペコで主力艦隊も戦車も航空機も、果てには兵隊までもが動けないとなれば、優れた兵器があっても何もできません。加えて、あの国は本土の面積が小さく、主要な資源の多くを植民地に頼っていますから、それが絶たれると待っているのは食料不足による飢餓、GDPの壊滅的減少、そしてハイパーインフレです。こうなれば戦争もヘチマもあったものではありません。

現にグ帝の外交官の皆さんは、汚れほつれた衣服を着てガリガリに痩せこけて、こっちに泣いて土下座して和平を請うてきましたし」

 

「「うわぁ.......」」

 

一色と川山がドン引きした。ここまでやられては、どう考えても戦争どころではないだろう。無条件降伏しかない。

 

「お互い、大変だったんですなぁ」

 

「そういうことですね」

 

「ところで、先ほど『様々な手法をこらした』とお話がありましたが、具体的にはどんなことを?」

 

「食糧はクワ・トイネで、資源はクイラでどうにかなるとして、問題になったのは戦費の調達ですね。ということで、ムー大陸に日本製アニメを布教しまくって、その見返りに一定の『娯楽料』を得ました。また、ロデニウス国内に対しては、競馬とワイバーンのエアレースを新設して公営ギャンブルとし、戦費と娯楽の一挙獲得をやりましたよ」

 

「ちょっと待ってください。競馬?

嫌な予感がするんですが…ロデニウス大陸って確か、馬系獣人の方もいませんでしたっけ?」

 

「.......貴方のようなカンの良い方は苦手です」

 

「「「こいつ、うま◯ょいしたんだ!」」」

 

「う◯ぴょい言わんでください!」

 

きみの愛馬が!ずきゅんどきゅん 走り出しー(ふっふー)

ばきゅんぶきゅん かけてーゆーくーよー。こんなーレースーはー はーじめてー。

とまあ、うまぴょいは置いといて、楽しい楽しい昼ご飯は終わった。

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