最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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特別編7 艦隊演習(前編)

「さてさて、午後からは演習になります。海に出る前に、まずはこちらをご案内します」

 

昼食の後、一行は泊地の片隅にある海に面した建物へとやってきた。この建物は植え込みによって周囲から切り離されており、庭が広く取られている。そして庭や、庭から見える海の上には白黒に塗装された円形の板、恐らく弓道か何かの的が置いてあった。

 

「ここは、空母艦娘たちが利用する弓道場です」

 

「お、アニメ1話に出てきたあそこだ!」

 

「浩三お前、マジでよく覚えてるな.......」

 

さっそく神谷が興奮し始め、一色が呆れる。流石に神谷とて、常に分かる訳ではない。今回は来る前に艦これのアニメと映画、二期も含めて全話見て予習して来てるから分かったのである。

入ってみると、既に数人の空母艦娘たちが弓を持って鍛練に励んでいた。二航戦の2人と祥鳳、瑞鳳、それにアクィラが矢を射ている。それらの矢は空中で光と共に戦闘機に変化し、的に向かって機銃を撃ち込んでは離脱していた。

 

「あら、大日本皇国からのお客様ですか?」

 

そこに声をかけてきたのは、ワンピースのような黒い衣装を着た女性。赤みがかった茶色の髪、『E』と書かれた煙突状の艤装、そしてダイナマイトボディが特徴的だ。その手には銃のような形状の飛行甲板艤装を持っている。そう、アメリカ空母のサラトガである。

 

「おうサラ。そう、3人とも見学にいらっしゃったんだよ」

 

「そうでしたか。航空母艦のサラトガです。気軽にサラとお呼びくださいね。よろしくお願いします」

 

例によって3人とも尊死の衝動に必死で抗っていた。特に川山は嫁艦なので、内心はカオスであった。取り敢えず「ヤバイヤバイ」と叫び散らかしている。神谷は安定で大興奮だが、一色の場合はちゃっかり「結婚したい」とか考えたそうな。

 

「あら?どうしたのでしょうか、皆様揃ってどこかぼんやりしているようですが.......」

 

「あー.......、気にするなサラ。皆ちょっと感動しすぎてるだけだから」

 

「?」

 

きょとんとした表情で、コテンと首を傾げるサラトガ。 たったそれだけでも、オタク三人衆には破壊力がエグかった。川山は語彙力を喪失し、神谷は魂がヴァルハラへと飛び立ち、唯一、一色がどうにか生き残った。

危うく2名ほど、永遠の旅に逝きかける事態になりそうだったが、幸いにも飛龍がサラトガを呼んだので生き延びた。だがそれでも、2人は帰ってこない。流石に痺れを切らした一色が、2人の脳天に拳を叩き込んで蘇生。2人は現世に帰還した。

 

「……はっ!?ゆ、夢か!?嫁が目の前にいた気がするんだが」

 

「俺も同じく」

 

「大丈夫だ、気のせいとか夢じゃない。現実だ」

 

コントのようなやり取りに、堺も苦笑するしかない。 因みに3人は、オフの時は結構こんな感じなので割と平常運転である。

その時、どこからかサイレンのような甲高い音が聴こえてきた。それがだんだん大きく、さらに甲高くなる。

 

「お、この音は.......。外に彼女がいるな」

 

堺がそう言った時、ひとつながりになって急降下する航空機が見えた。突き出た脚、液冷エンジン特有の尖った機首、そして奇妙に折れ曲がった主翼。Ju87C改である。

海上を移動する的に向けて、次々と模擬爆弾を命中させるシュトゥーカの姿は、まさに『悪魔』という表現に相応しいだろう。

 

「お、シュトゥーカじゃないか!」

 

「あの機体は、グラーフ・ツェッペリンにしか配備されていないものなんです。その機体が飛んでいるということは、多分外に彼女がいるでしょう」

 

「なるほど!あのサイレンの音が堪らない!!」

 

そんな弓道場の片隅には、円形の的に混じって妙な的がある。明らかに人間の形をしたものだ。

 

「あれ、この的だけ形が違う?」

 

「ああ、それは私用ですね」

 

川山の疑問には堺が答えた。

 

「私用、とは?」

 

「実は私射撃を嗜んでおりまして、それに使う的なのですよ。良い射撃練習場がないので、ここを間借りしています」

 

そう言いながら、堺は弓道場の片隅に置かれたロッカーを開けてみせた。そこには4丁の銃が収まっている。

銃を見た神谷が、すらすらと言い当てていった。

 

「これは三八式歩兵銃?いや、照門がV字型ではなく円孔式だし、照星も三角柱式だから九九式小銃の方か。こっちはM1ガーランドかな。これはStG-44。これは?」

 

次々に言い当てていくが、一つだけ明らかに異質な見た目の銃があった。3つの銃は第二次世界大戦当時の日本、アメリカ、ドイツの名銃達。だが最後の1つだけは、明らかに現代モデルのアサルトライフルだったのだ。それも、全く見た事がない。

一応何処かドイツのHeckler & Koch社がドイツ連邦軍向けに開発したG36の様な、スコープとキャリングハンドルが一体化したあの特殊なパーツっぽいのが、装着されている。だが位置が後方ではなく、前方にある。

 

「それは89式7.7㎜自動小銃です。陸上自衛隊が配備している物ですね。

そういえば神谷さん、前に私が貴国の本土を訪問したとき、貴国の銃を撃たせてくださったことがありましたね」

 

「はい、ありましたね。.......まさか、これ撃って良いのですか!?」

 

「神谷さんがお望みでしたら」

 

そう言われて「NO」と答える神谷ではない。勿論撃たせてもらう事にした。

 

(意外と軽いな。形状も人間工学を意識した形状になっている。グリップも手に良く馴染んでいるし、サイトも視認性が高い。トリガープルも意外と軽いな)

 

ある程度、銃を観察し終えると堺からマガジンを受け取る。マガジンを差し込み、コッキングレバーを引く。

 

「異世界の銃。さて、どんな物かね?」

 

セレクターレバーをSAFEを意味する『ア』から、SEMIを意味する『タ』に移動させる。

 

(7.62mmは結構なリコイルが起きるが、7.7mm口径か。結構なリコイルを覚悟した方が良いな)

 

一先ず一番近い200mの的に照準を定めて、1発撃つ。トリガーを引くと、7.7mmの割には小さい銃声が鳴り響く。

 

(リコイルが小さい!?しかもこれ、5.56mmよりも小さいぞ!?!?どんな構造してんだ.......)

 

明らかにリコイルが小さく、恐らく今まで撃ってきた銃の中でもトップクラスに小さい。正直、アサルトライフルを撃った感覚ではない。というか7.7mmでそう感じられるのだから、驚きである。

次は3点バーストに切り替えて、500mの的を狙う。

 

タタン!!タタン!!タタン!!

 

(へぇー。バーストでも、意外と精度がいい。妙なバラつきも、変なブレもなくて良いな)

 

次はもう一度、単発に切り替えて一番通い1km先の的を狙う。アイアンサイトだが、ここは頭を狙ってみよう。

 

「ここだ」

 

タン!!

 

的を見れば正確に、頭を撃ち抜いている。アレが人間なら眉間の位置なので、確実に相手は即死だろう。

ここで神谷は、この間皇国で試射をした堺の発言を思い出した。確かコチラの銃を「じゃじゃ馬」と言っていた。この銃に慣れているのなら、確かにアレはじゃじゃ馬だろう。

 

「なるほど。堺さんがうちの銃をじゃじゃ馬だと言った訳が分かりました。確かにじゃじゃ馬ですね.......」

 

「地球ではナノマシンをフル活用したフレキシブル素材の研究が盛んでして、小銃もその恩恵を大きく受けたのですよ」

 

「ナノマシン!?そりゃまた便利な」

 

一応皇国でもナノマシンの研究は行われているが、まだ動物実験の段階で改良の余地は多数あると聞く。それを実用化しているのだ。技術交流が出来れば、研究は加速度的に進むだろう。尤も神谷は戦争屋であって技術屋ではないので、その辺りはよく分からないが。

最後にマガジンを替えて、フルオート射撃で的を撃ち抜く。200mと500mの的で良いだろう。

 

「ッ!!」

 

スタタタタッ!スタタタタッ!スタタタタッ!

 

銃口を2つの的の間で滑らかに横移動させて、重なった瞬間にトリガーを引く。発射と同時に的に当たると鳴る軽快な音が連続して響く。すぐに1マガジン撃ち切った。

ここで余りのマガジンに素早く交換。マガジンキャッチを押して空となったマガジンが落下するの同時に、マガジンを差し込んでコッキングレバーを引く。リロードの操作性も、かなり良好である。

 

スタタタタッ!スタタタタッ!

 

最後の2発は正確に的の眉間を撃ち抜き、しっかりトドメを刺している辺りプロである。というかそれ以前に射撃も、リロードも素早い。明らかに堺よりも早く、特殊部隊員にも匹敵する速さだ。

それに撃っていて感じたのだが、この銃は射撃音がフルオートでも静かだ。これならサプレッサー無しでも、ある程度は隠密性が期待出来るだろう。

 

「ありがとうございました。これはうちの小銃もまだまだ改良の余地がありそうです」

 

「ご満足いただけて何よりです。おっと、もうあまり時間がない。そろそろ軍港へ行きましょう」

 

 

 

数十分後 軍港区画

「それではここからは、海に出ますよ!艦隊による行動演習です!」

 

「「「おお!」」」

 

午後1時30分、堺と「三英傑」の姿はタウイタウイの軍港にあった。演習に出る艦娘たちが、ぞろぞろと出港していくところである。

 

「神通、行きます!」

 

「軽巡『能代』、出撃します!」

 

第二水雷戦隊の面々が、単縦陣を組んで飛び出していく。これから『鬼の二水戦』の親玉による猛訓練が始まるのだろう。

 

「しおい、いきます!どぼーん!」

 

「じゃあろーちゃんも!どぼーんっ!」

 

こちらは何とも微笑ましい光景である。プールに来てはしゃぐ、子供のようだ。

そんな中、一行の前に10人の艦娘たちが横一列に整列した。いずれも、神谷たちには見覚えのある子ばかりである。というか2名、さっき会ったばかりの子がいる。

 

「えー諸君、今回は大日本皇国から3人の方が見学に来ていらっしゃる。今回の訓練内容は対空戦闘だから、撃沈判定を受けてしまうのは仕方ないかもしれないが、それでも五省、特に2番の『言行に恥づるなかりしか』と5番の『不精に亘るなかりしか』は強く意識して、演習に臨んでもらいたい。

では御三方、自己紹介をお願いいたします」

 

艦娘たちに向けてそう言うと、堺は3人に自己紹介を要請した。 3人は一歩前に出て、姿勢を正す。

 

「大日本皇国から参りました、特別外交官の川山 慎太郎と申します。本日は訓練に同席させていただけること、光栄に思います。よろしくお願いいたします」

 

「大日本皇国軍総司令官、神谷 浩三と申します。皆様と海に出られることが楽しみです。今回はよろしくお願いいたします」

 

「大日本皇国総理大臣、一色 健太郎です。お初にお目にかかります」

 

神谷と一色の自己紹介に、艦娘たちが一瞬どよめいた。まあ無理もない。特別とつくとは言え外交官の川山はいざ知らず。軍の総司令官に総理大臣となれば、身分が全く違う。

 

「というわけで、2人ほどすごい身分の方がいらっしゃるが、戦場に出れば肩書や出自など関係ない。強く意識しすぎることなく、演習に励むように。

では、皆からもお客様に自己紹介してくれ」

 

堺に言われて、艦娘たちは列の一番左から順に自己紹介していく。 勿論誰が誰かは、既に3人は知っているが直に声付きで自己紹介してくれるのだ。これは聞かないと損である。

 

「大和型戦艦1番艦、大和です。本日はよろしくお願いいたします」

 

初っぱなに日本を代表する戦艦娘、大和が登場し3人のテンションが一気に跳ね上がる。 取り敢えず川山と神谷は尊死手前で踏み留まった。だが、嫁艦にしている一色は幽体離脱してしまう。

この時点で3人とも、脳内がだいぶカオスなことになってきているが、そこに次々と追撃が入る。

 

「防空重巡洋艦、摩耶様だ!よろしくなっ!」

 

さっき「軍の総司令官と総理大臣がいる」と言われたにも関わらず、両手を腰に当てて胸を張って堂々と言い放つ辺り、劇中の設定通りだ。因みに「よろしくなっ!」の部分で胸を張ったので、その立派な胸部装甲が派手に揺れる。

 

「阿賀野型軽巡洋艦、3番艦の矢矧よ。よろしくね」

 

クールな印象を抱かせる矢矧。こちらも、相手が軍の総司令官と総理大臣であることに怯む様子は全くない。

 

「初春型駆逐艦、4番艦の初霜です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

どこか舌足らずな声ながら、礼儀正しく一礼する初霜。なんか背伸びしてる感があって、ちょっと可愛い。

 

「朝潮型10番艦、霞よ。ガンガン行くわよ、ついてらっしゃい!」

 

ゲームと変わらぬツンツンぶりを発揮する霞。 普通、リアルのツンデレは痛いだけ。目も当てられないレベルで痛いのだが、霞は全然痛くない。というか寧ろ、可愛い。いや、尊い!!

 

「さっきぶりですね!雪風です!今回もよろしくお願いしますっ!」

 

相変わらず無邪気な雪風。マスコット兼ムードメーカーだろう。

 

「陽炎型駆逐艦12番艦、磯風だ。私が護ってあげる、心配は要らない」

 

ともすれば自信家にも見える、武人気質な磯風。 案の定、駆逐艦にしてはお胸が育っている。

 

「陽炎型13番艦、浜風です。.......な、何ですか?私の兵装に、何か?」

 

ここで川山が尊死しそうになった。浜風は彼の嫁の1人なのだ。一色と神谷の脳内には「乳風」という言葉が思い浮かんでいた。理由は言うまでもない。その視線を受けた浜風は若干キョドっていた。

浜風よ、2人には遠慮無くゼロ距離で酸素魚雷を撃ち込んで良いぞ。by Red October

浜風ー、魚雷だけじゃアレだからゼロ距離砲撃と顔面爆雷投球もしていいよ。私が許す。by鬼武者

 

「よお、あたいは夕雲型の16番艦、朝霜ってんだ!よろしく頼んだぜ!」

 

どこか男勝りな朝霜。ゲーム通り、なんかカッコいい。

 

「さっき工廠で騒がしくしてすみませんでした!改めて、秋月型防空駆逐艦、2番艦の照月よ。どうぞよろしくお願いします」

 

ちょっと緊張気味だが、明るくはつらつとした照月。以上10名が、今回の対空戦闘訓練に参加する子たちである。

 

「先ほどちらっと話題に上りましたが、今回の訓練は対空戦闘の演習となります。午後2時から日没までの間、艦隊の主力艦となる大和を守りきるか、もしくは敵機動部隊を撃破すれば作戦成功。失敗条件は大和が撃沈判定を取られることです。ここまではよろしいでしょうか?」

 

「分かりました」

 

堺の質問に神谷が答えた。川山と一色も頷いてみせる。

 

「あとは、御三方がどの子に乗艦するか、ということが問題となります。といっても事実上四択になりますね」

 

堺がそう言った途端、3人とも目が光った。まさか、艦娘の艤装に乗り込めるとは思ってもみなかったのだ。

 

「基本的に駆逐艦の子たちは、艦橋の容量に余裕がありませんから除外ですね。ただ、照月だけは例外です。水雷戦隊司令部を乗せるくらいはできますから。

となりますと、御三方に乗っていただくのは、照月、矢矧、摩耶、大和のいずれかになるというわけで」

 

堺がそう言いかけた瞬間、3人は全く同じ答えを返した。 だって、もうこれしか選択肢ないでしょ。

 

「「「大和でお願いします!」」」

 

一切迷う余地もなく、しかも示しあわせたように同じ回答だった。

 

「わ、分かりました、大和にご乗艦いただきます。ということだ大和、良いか?御三方のついでに俺も乗る訳だが」

 

「承知しました。私は構いませんよ」

 

「堺司令、今気付いたのですが、この演習は結構難易度が高くありませんか?」

 

ここで川山が質問する。 普通なら神谷が質問しそうな物だが、今回の神谷はちょっとテンションがバグって冷静さ0なので気付けてないのだ。

 

「と仰いますと?」

 

「私は軍事の専門家ではありませんが、それでも戦闘機無しで空襲を乗り切るのが厳しいことは想像できます。それをやると?」

 

「そうです。難易度はかなり高いですよ」

 

ぶっちゃけすぎた堺の説明である。 というかこの編成、三英傑は知らないが史実の坊ノ岬沖海戦、所謂『大和特攻作戦』に参加した艦の編成である(摩耶と照月は除く)。

何故これを三英傑が知らないかと言うと、大日本皇国の歴史では坊ノ岬沖海戦は発生していないので知らないのだ。因みに坊ノ岬沖海戦が発生した時期、つまり4月6日〜4月7日はスエズ運河攻略の支援の為に大体インド洋の辺りを航行している。

 

「.......勝てるんですかこれ?」

 

「それは神のみぞ知る、ですね」

 

身も蓋もない返答であった。だがこの時、神谷は気付いた。堺はああ言っているが、ちゃんと何か策があるらしい、ということに。というのも、口では「自信はない」という割に、どこか堺の表情に余裕が感じられるのである。

そんな事を考えていると、艦娘たちが順番に海へと滑り出し、海上で光に包まれて実艦へと姿を変えていく。あっという間に大和の順が来た。堺は三英傑に声をかける。

 

「すみませんが御三方、手を繋いでいただけませんか」

 

「え、こうですか?」

 

唐突な指示に戸惑いながらも、3人は互いに手を繋ぐ。

 

「川山さん、私に手を」

 

「はい」

 

何が何だか分からないまま、川山は指示された通りに堺と手を繋ぐ。すると、堺は空いた方の手を伸ばして大和と手を繋いだ。そして、

 

「よし、出撃だ!」

 

「旗艦『大和』、出撃します!」

 

その号令と共に、いきなり3人は何かに吸い寄せられ、引きずり込まれるような感覚を感じた。

 

「「「!?」」」

 

その感覚も一瞬だけで消え失せ、気付いた時には3人は鋼鐵製の部屋の中にいた。周囲には大量の機械があり、オペレーターと思しき数人の女性がいる。奥の方に小さな窓が複数並んでおり、その外には青空と大海原が見えていた。

 

(これはまさか!)

 

ここがどこなのか神谷が思い当たった時、堺の声がした。 設備は古いが、この光景には見覚えがある、

 

「済みました、もう手を離して大丈夫ですよ。

ようこそ、戦艦『大和』へ。ここは『大和』の昼戦艦橋です」

 

「うわあぁぁ!やっぱり!」

 

そう、3人は大和の艤装に乗り込んでいたのだ。 一体どういう原理でそうなるのかは見当もつかないし、別に気にはしないが今日一番の驚きなのは違いない。

 

「両舷前進原速!」

 

「よーそろー!」

 

号令と共に、エンジンテレグラフのチーンチーンという音がする。『大和』の巨大な艦体が動き出したのが感じられた。

 

「すごいな.......。ってか俺たちどういう扱いになってんだ?」

 

「まあ、簡単に申し上げるならば、御三方も私も『妖精』の1人になっている、という形ですね」

 

「え?妖精?するとあれですか、ゲーム内で使える装備にくっついているあの小さな存在に私たちはなっている、ということですか?」

 

「左様です」

 

「うわぁぉ.......」

 

まさか妖精扱いになっているとは思わず、川山が感嘆の声を上げた。一色も目を見開いている。

 

「さて大変申し訳ございませんが、演習開始まであまり時間がないですから、本艦の案内は割愛させていただきますね。慌ただしくてすみませんが、演習の簡単な説明をさせていただきます。

今回の演習内容は『対空戦闘』と『主力艦護衛』。日没まで大和が沈まずに生存していれば、こちらの勝ちとなります。敗北条件は大和の沈没判定です。ちなみに、敵役となるのは第六〇一航空隊です。

続いて本艦の兵装説明です。主砲は45口径46㎝三連装砲3基、副武装としては、三年式60口径15.5㎝三連装砲は全廃し、八九式40口径12.7㎝連装高角砲も交換しました。このため副武装は九八式65口径10㎝連装高角砲、いわゆる『長10㎝砲』18基、九六式25㎜対空機銃150丁となっています。また、一部にボフォース40㎜機関砲を連装で4基搭載しています」

 

史実とは全く異なる装備であるが、艦娘なればこそこの辺の装備変更はフレキシブルにできてしまうのである。

 

「さらに、電探系にも強化が入りました。残念ながらSK+SGレーダーの配備が間に合いませんでしたが、その代わりとして21号対空電探ではなくFuMO25 レーダーを配備。さらに、22号対水上電探は33号対水上電探に交換し、索敵兼射撃レーダーとして運用しています。また、高角砲弾にはしっかりVT信管を配備しましたし、主砲弾には『四三式弾』も配備しています」

 

この辺の変更ができるのも、艦娘なればこそである。実はレーダーの交換自体容易なことではないのだ。

例えば21号対空電探とSK+SGレーダーで比較すると、単純なアンテナの重量だけでも21号は840㎏、SK+SGは1,060㎏+1,320㎏である。重量にかなりの差があるのがお分かりいただけるだろう。これにさらに、電源出力やら電気回路やらレーダー本体の重量やらの問題が絡んでくるのである。レーダーの交換がどれだけ大変なのかよく分かる。

 

「すみません、質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「主砲に配備されたという『四三式弾』は、どんな砲弾ですか?」

 

「それは…」

 

神谷に堺が説明しかけた時である。レーダー手の妖精が叫んだ。

 

「電測より艦橋、対空電探に感!艦隊からの方位45度から60度、距離55浬!高度は、一群が高度ヨンマル(4,000m)、一群がフタマル(2,000m)!敵機数は概算で100機以上!」

 

その報告を受けて、艦橋の空気は一気に実戦のそれとなる。堺も指示を飛ばし始めた。

 

「戦爆雷連合だ、雷爆同時攻撃が来るぞ!輪形陣に移行、全艦対空戦闘用意!

神谷さんすみません、説明は後で」

 

「訓練、両舷対空戦闘用意!」

 

今度は大和が号令を飛ばす。対空戦闘のラッパが鳴り響き、艦内の空気が更に殺気を孕んで動き始めた。艦内にいる妖精たちが一斉に動き出す気配が感じられる。

 

「電測、敵機の速度は?」

 

「電測より艦橋、敵速は216ノット(およそ400㎞/h)!」

 

「了解。あと7分くらいで敵機が来ます、配置急いで!」

 

大和が艦内に向けて指示を飛ばす傍ら、堺は艦隊の指揮を執っている。

 

「照月は大和の左舷に、摩耶は右舷に占位しろ!他の駆逐艦の割り振りは矢矧に任せる!」

『照月、了解です!』

『摩耶だ、任せときなっ!』

『矢矧了解。そうね、初霜は摩耶の前方、雪風は摩耶の後方を固めて。大和の右舷側はこの3人で防御するわ。残りは大和の左舷に布陣!前から順に、朝霜、霞、矢矧、照月、磯風、浜風で行く!各員、配置急いで!』

『『『了解!』』』

 

無線で艦娘達が指示を受けて動き出していく。その練度の高さは、皇国海軍にも勝るとも劣らない。

 

「なぁ、浩三?45度から60度ってことは、右から来るんだよな、敵」

 

一色が少し不安そうな声で、そう聞いて来た。一色の言う通り45度から60度は、正確には右斜め前からである。

 

「そうだ」

 

「なら何で堺司令も矢矧も、照月を左に?右に固めた方がいいんじゃないか?」

 

「いや、それはダメだ。あくまで探知したのが右ってだけで、左側から来ないとは限らない。皇国の保有する草薙防空システムのレーダーだって、海面スレスレを飛んで来られたら探知できる距離は相当近くからじゃないと無理だ。幾ら艦娘の装備とは言え、所詮は第二次世界大戦かそれに毛が生えた程度の性能。探知できる距離は恐らく目視と変わらないだろう。

ならここは念には念を入れて、左にも防空の要を置くのが最適解なんだ。何より海は陸や空と違って、場所移動にも一苦労だからな。それに右を固めるのは、あの摩耶だぞ。対空めちゃ強なのは知ってるだろ?」

 

「イベントでお世話になったからな」

 

一色の疑問を解説していると、堺が何やら対空には関係なさそうな物を用意するように命令した。

 

「あと、各艦は応急班並びに医療班を待機させろ、特に火災と浸水対策が最優先。それから、炭素棒をありったけ用意しておくように」

 

何のために炭素棒なんぞ必要とするのだろうか。一色と川山には分からなかったが、神谷はすぐに気付いた。

 

「主砲四三式弾、対空戦闘用意!

それから手の空いている者は、艦後部への炭素棒運搬を手伝ってください!」

 

この時点で『対空戦闘用意』の号令がかかってから2分が経とうとしている。そこからさらに2分が経った頃、「総員配置完了!」の報告が大和に上がってきた。

大和は昼戦艦橋から防空指揮所に上がり、双眼鏡で空を見据えている。堺は引き続き昼戦艦橋にあって、護衛の面々からの報告を聴いている。

因みに上がる時、彼女のスカートの中が見えそうになったため3人は慌てて視線を逸らした。仮にもしも運良く?見えていたならば、彼女の下着は黒である。これは堺提督からの情報なので、信頼度は高い。

やがて防空指揮所にいる大和と数人の妖精が操る双眼鏡が、艦隊の右舷側から接近する無数の黒点を捉えた。まるでスコールの雷雲でも沸き出したかのような光景だ。よく見ると、高空と低空の2群に分かれている。

 

「右35度、敵戦爆連合大編隊!」

 

「目標、敵雷撃機編隊。測的始め!」

「目標、敵雷撃機編隊。測的始めます!」

 

大和のすぐ後ろにある15メートル二重測距儀が右に回転する。

それに先駆けて、『大和』右舷側を狙える高角砲や対空機銃が動き始めていた。ハリネズミと錯覚するほどびっしり集まった対空機銃の銃身が、空に向けられる。

 

「あんなにちっちゃいんだな」

 

「そりゃまあ、所詮は双眼鏡使って漸く見えるって距離だ。豆粒みてぇに小さい。今回は攻撃隊だから分かりやすいが、もしアレが偵察機なら探すのはクソ面倒だぞ」

 

「測的完了!射撃諸元、主砲に伝達します!方位40、仰角15、距離サンマルマル(30,000m)!」

 

「1番、2番主砲、射撃用意!3番主砲は右舷90度へ旋回して待機!高角砲は敵降爆を狙え!対空機銃は分隊長指揮の下で統制弾幕射撃!」

 

巨大な46㎝三連装砲が、凄まじい重厚感を伴って動き始めた。3本の砲身にゆっくりと仰角がかかり、砲口が敵編隊を睨み付ける。

この時昼戦艦橋では、三英傑が堺から警告を受けていた。

 

「この昼戦艦橋ではなく、上の防空指揮所に上がって見学していただいても結構です。

ただ、神谷さんは気付いておられると思いますが、本艦の主砲発射時の衝撃は想像を絶するものがあります。これから私の言うことをよく聴いてください。

主砲発射は、『撃ち方用意』という号令と、独特のブザー音3回で知らされます。もし屋外、つまり防空指揮所にいる時にそれが聴こえたら、すぐに両手で耳を固く塞ぎ、下腹に力を入れて、口を大きく開けてください。でないと衝撃波が体内に飛び込んで、生きながらミンチ肉に加工されることになりますよ!」

 

「「ひえっ.......」」

 

「あと、戦闘中はいつ主砲を発射するか分かりません。周囲の音をよく聴いて、ブザー音が聴こえたらすぐに今私が言った行動を取るよう、よろしくお願いいたします」

 

青い顔で一色と川山は全力で頷いた。その横で神谷は、2人の様子を見て笑いを堪えるのに必死だった。

 

「一度対処行動を練習しておきましょうか。ここは艦内ですから衝撃波が来ることはまずありませんが、念のためということで」

 

なんて言っていると、本当に主砲をぶっ放すタイミングが来てしまったのだ。

 

『砲術より艦橋、1番、2番主砲照準良し。射撃用意良し!』

 

「主砲、発砲警報!撃ち方よーい!」

 

ジジーッ、ジジーッ、ジジーッ…

 

「これが警報ブザーです!すぐに対処行動を!」

 

堺の叫びに、3人は急いで対処行動を取った。下腹部に力を込め、両耳を塞いで口を大きく開ける。確認した堺が手でマル印を作ると同時に、「てーっ!」という号令、そしてジジーー…というブザー音が鳴った。

その直後…

 

ドドオォォォォォォン!!!

 

艦内にいるにも関わらず、鼓膜が破れるのではないかと思うほどの轟音が響いた。主砲が発射されたのだ。これでも全門斉射でないだけまだマシなのだが。発砲音の残響が響く中、堺が説明してくれる。

 

「相手として飛んできている機体は、全てAIが操縦する演習用の無人機です。なので、こちらは遠慮無く実弾を撃っておりますよ。これほど強烈な衝撃なのもそのためです」

 

「実弾演習、というわけですか」

 

目を輝かせながら神谷がそう言った時、外から別の砲声が聴こえてきた。直後に「摩耶、主砲発砲!」の報告が飛び込んでくる。

 

「駆逐艦はまだ撃つなよ、今はまだ有効射程外だ」

 

堺が無線でそう指示を与えた時、「ようーい…だんちゃーく!」という声が上から聴こえた。

とっさに3人が窓の外を見た時、信じがたい光景が見えた。『四三式弾』というネーミングから、3人とも三式弾の仲間のようなものを撃っているのだと思っていた。従って3人が想像していたのは、空に大量の白煙が触手のように伸びる光景だった。

ところが、そんなものは見当たらない。その代わりに、空のただ中に巨大な青白い光の玉が出現し、それが恐ろしい勢いで膨れ上がる様がはっきりと見えた。花火のようにも思えるが、おそらくそれよりもっと禍々しいものだろう。

一色と川山には分からなかったが、神谷にはすぐにピンとくる物があった。この青白い閃光、どことなく似ているものがある。某エースでコンバットな空で戦った、あのどでかい無人空中母艦が撃ってくるミサイルだ。確か『ヘリオス』とかいったか。

 

「まさか、燃料気化砲弾!?」

 

「鋭いですね神谷さん。まさか1発で当てられるとは思いませんでしたよ、さすが専門家でいらっしゃる」

 

「そんなものまで.......。とんでもない技術力ですね。これもあの釧路さんの力ですか?」

 

「左様です。本当に、彼女には頭が上がりませんよ」

 

皇国海軍にも月華弾という燃料気化砲弾があるし、更に言えばその進化系にして『Eco Nuke』の異名を持つ伊邪那美弾頭なんかもある。なので見慣れてはいるが、まさか艦娘で実用化させてるとは思ってなかった。

 

「なあ浩三、燃料気化砲弾ってそんなにすごい装備なのか?」

 

「ぶっちゃけ、我が軍と変わらん装備だぞ」

 

「マジか。そう言われると確かにすごいな」

 

その時、海面付近に新しい光の玉が現れる。『摩耶』が撃った20.3㎝砲の四三式弾だ。

青白い閃光が消えた時には、向かってきている雷撃機たちは少なくとも2割は減らされたように見えた。編隊も大きく崩れている。

 

「結構落としたんじゃないか?」

 

「そうだろうな」

 

一色と川山は楽観視しているが、神谷は険しい視線を窓の外に投げかけている。

 

「どうした、浩三?」

 

一色の質問に神谷が答えるよりも早く、堺の声が聴こえた。

 

「チッ、弾着より前に分散しやがったな。思ったより落ちてないし、むしろ対空弾幕の分散になりかねん」

 

「お前ら。どうやらこの演習、随分楽しめそうだぞ。まさか弾着前に回避して、頭数を残すとはな」

 

「どう言う意味だ?」

 

川山の質問に、神谷は目線を編隊に合わせたまま答える。その目は、戦場に立つ艦隊司令の物であった。

 

「そのまんまだ。あの編隊、主砲塔が向けられた所から発砲までのタイミングを見極めて、射撃と同時に一気に編隊をブレイク、つまり散開させて回避したんだ。普通は大半が火だるまになって墜ちるだろうが、あそこまで機体を残している。かなり厄介だぞ」

 

神谷達がそんな話をしている中でも、戦況は更に刻々と進んでいく。

 

「大和、聴こえるか」

 

『はい提督?』

 

「対空機銃は予定通り統制弾幕射撃。高角砲だが試験中の改良砲弾、あったよな?」

 

『はい、搭載しています。それを使うのですね?』

 

「そうだ、よろしく頼む。それと、余力があれば護衛の子たちを高角砲で援護してやってくれ」

 

『了解!』

 

そこへ、「ただいまの戦果、撃墜破20機前後と認む!敵機大編隊、距離ヒトフタマル!」の報告が入る。 三式弾よりは多いが、恐らく回避がなければこの2、3倍は堕とせているだろう。

 

「司令より砲術、ヒトフタマルか、もう1発撃てるな?」

 

『お任せを!』

 

「よし、照準は任せる。やれ」

 

『了解しました!』

 

暫くして、またあのブザーが鳴った。一色と川山はビクビクしながら、大急ぎで耳を塞いで口を開ける。一方の神谷は同じ動作をしながらも、しっかり編隊の方を見ていた。

 

ドドオォォォォン!!

 

今度も凄まじい轟音と衝撃だ。艦橋のガラスどころか、それ自体がビリビリと震えて結構な揺れが襲う。

 

「「す、すげぇ.......」」

 

魂まで刻まれるような強烈な主砲発射の衝撃に、一色と川山が声を震わせる。

 

「敵機間もなくくるぞ、全艦射撃用意!摩耶、照月、頼むぞ!」

 

『任せとけってんだ!アタシの弾幕を簡単に超えられると思うなよ!』

 

『照月、了解です!主砲、対空戦闘よーい!』

 

一度昼戦艦橋から防空指揮所へと上がり、堺は双眼鏡で敵役を見据えた。敵編隊は多少は分散したものの、ほぼ2群にまとまったままこちらへと向かってくる。

 

「お前ら、そろそろ来るぞ」

 

「砲弾の起爆だな。大丈夫だ」

 

「違う違う。対空戦闘、それも機関砲や高角砲を使った近接戦だ。空の色がドス黒くなるぞ」

 

神谷がそう言ったその時、『大和』の右舷に接近しつつあった敵機の姿が、青白い光の玉に遮られて見えなくなった。『大和』が撃った、「四三式弾」の第2射だ。敵機をきれいさっぱり消し飛ばしたかと錯覚させる光景だが、閃光が消えると敵役は健在な姿を見せる。

堺が昼戦艦橋に戻ってきたタイミングで、「敵距離ハチマル(8,000m)!」の報告が上がった。すかさず堺が指示を飛ばす。

 

「オールガンズフリー!全艦射撃始め!」

 

『今度はよく引き付けるんだ…よし、てぇっ!』

『見てなさい。』

『◯ねば良いのに!』

『艦隊をお護りします!』

『撃って撃って撃ちまくれ!』

『お相手しましょう。来なさい!』

『うるさい敵だな、やってやんよ!』

『ガンガン撃ってー!長10㎝砲ちゃん、頑張って!』

 

無線から入っていた艦娘達の声が消えた直後から、小さな砲声が断続的に聴こえ始める。と思った時、 それらを塗り潰すようにして、主砲の砲声にも負けないほど大きな砲声が響いた。だが、発射の反動は明らかに主砲より小さい。

『大和』の副武装たる10㎝連装高角砲の射撃だ。右舷前方に指向可能な8基16門での射撃だが、全ての砲が一度に揃って撃った時の砲声は強烈だ。

4秒に1発のレートで、大和の10㎝連装高角砲は砲撃を繰り返す。他の艦も主砲や高角砲、両用砲の5インチ連装両用砲Mk.28改を撃ちまくる。上空に黒煙の花が咲き乱れる中、敵役の航空部隊が向かってくる。唐突に1機が黒煙に包まれ、直後に糸の切れた凧のようにくるくる回転しながら海面へと落ちていった。続いてもう1機、黒煙の尾を引きずって急激に高度を下げ、海面に達する前に汚い花火となる。

さらに、低空では同時に3機が被弾した。空中に開いた炎の花が2つ、そして白い飛沫が1つ。続けて1機、今度は操縦AIを破壊されたらしく、炎を噴き出すことなく海面に滑り込む。

 

『まだまだぁ!アタシの弾幕はこんなもんじゃない!派手でなければ魔ほ…戦闘じゃない!弾幕は火力だぜ!』

 

(((それ魔理沙だろ!!!!)))

 

三英傑全員が、一斉にツッコんだ。『摩耶』から機銃にしては太い火箭が伸びる。 これが銃火でなければ、どんなに美しい事だろう。

これと同時に『大和』艦橋の近くからも重々しい連続音が響き始めた。この特徴的な音から察するに、ボフォース40㎜連装機関砲が火を噴いたのだ。

 

「おかしい」

 

「え、何が?」

 

神谷が急に呟いた言葉に、一色が反応した。川山も「は?」という疑問顔である。

 

「この時代のVT信管にしては低空目標に当たりすぎてる」

 

「えっと、なにそのVTR信管って」

 

「VT信管だ。近接信管とも言う。簡単に言うと砲弾の先端にレーダーがついていて、目標の近くで起爆する。対空戦闘に於いては、実は砲弾は当てないんだ(・・・・・・)

 

神谷の発言は軍事を広く浅く程度には齧っている川山ですら、何を言ってるのか分からなかった。一色に至っては混乱しまくっている。

 

「何言ってるか分からないだろうな。そもそも飛行機ってのは、知っての通り速い。それを捉えて、砲弾でぶち抜くなんて、まあまず不可能だ。無論ラッキーパンチで偶然当たるなんてあるが、基本は砲弾を目標付近で爆発させて、その破片で攻撃する。

これまでそれをする為には時限信管、つまりタイマー式の爆弾を取り付けた砲弾を飛ばしてた。だが1943年以降、皇国では44年以降から新たにレーダーで目標を探知して起爆する信管が開発された。それがVTなんだが、この砲弾には欠点がある」

 

「今の話を聞く限り完璧な砲弾じゃないのか?軍事に疎い俺でも分かるぞ」

 

「慎太郎の言う通り、VTは対空砲弾の信管としては現状ベストアンサーと言っていい。だがな、初期のVTは低空だと使い物にならないんだ。海面でレーダー波が乱反射して、信管が誤作動を起こす。目標手前で爆発したりしたらしい。

恐らくあの砲弾には、高度な解析装置が搭載されてる。現代艦になると、そもそもミサイル戦主流だから対空用のVT信管搭載型砲弾は軽く過疎ってるがな」 

 

そんなやり取りの間にも、航空機は1機また1機と落ちていく。高角砲と機関砲による射撃だけで実に20機近くが墜落し、さらに10機ほどが黒煙を吐き出していた。それらの機体は爆弾や魚雷を捨てて、退避を開始している。

だがこれでも、全機の阻止には到底足りない。残る機体は全く怯まずに艦隊上空に到達した。向かってくる航空機は、いずれも練習機であることを示す橙色に塗装されている。それらのうち尖った機首を持つ急降下爆撃機『彗星』が、真っ先に機首を翻した。ダイブブレーキを展開しつつ急降下に入る。

 

「見張より艦橋、摩耶に降爆8!さらに朝霜に降爆4!あっ、降爆10、本艦に向かってきます!」

 

報告を聴きながら自身の目でも敵機の動きを観察し、大和が命令を下す。

 

「主砲右90度、俯仰角ゼロ度、三式弾を装填して待機!目標は敵雷撃機です!

高角砲のうち後部4基は照準そのまま!前部砲群は新たな目標を接近する降爆に設定!機銃、降爆を目標に射撃用意!」

 

敵役の急降下爆撃機は、戦艦に対しては威力不十分な500㎏爆弾で、『大和』を狙おうとしている。これはおそらく『大和』自身の対空火器を使用不能にする意図に基づくものだろう。 500㎏爆弾では戦艦は沈まないが、対空砲を破壊することならできる。

 

『見張りより艦橋。低空の敵雷撃機、横隊を組み始めました!距離ロクマル!』

 

この報告を聴いた瞬間、大和が命令を下した。

 

「目標、敵雷撃機!主砲、砲撃始め!一斉撃ち方!」

 

「撃ち方よーい!」

 

「お前らデカいのが来るぞッ!!!!!!」

 

神谷も2人に叫ぶ。主砲の一斉射は、さっきまでの砲撃とは格が遥かに違う。耳を塞いでも、鼓膜が破壊される威力の爆音が響き渡るのだ。

 

「てーっ!」

 

ドドドドドドオォォォォォン!!!

 

最早デカすぎで、他の全ての音がかき消されて何も聴こえなくなった。それほど凄まじい轟音が耳をつんざき、鼓膜を突き破らんばかりの暴力を伴って響きわたった。

46㎝砲9門の一斉射撃である。これほど暴力的な音響もまたと存在するまい、と思わされるほどの音量だ。え?熱田型や『日ノ本』はどうなるかだって?アレは船体自体に特殊なコーティングを施して、しっかり防音してあるので発射音はそこまで響かない。仮にコーティング無しで聞こうものなら、耳塞ごうが口を開けようが問答無用で死ぬ。少なくとも鼓膜が破けるのは確実だ。

主砲が斉射を放った時には、新しい目標を振り分けられた高角砲群が射撃を再開し、瞬く間に1機を撃墜している。さらに1機の彗星が黒煙の花に包まれた、と思う間もなく、両の主翼が折れ飛んだ。砲弾のような形になった彗星は、そのまま海面へと直行した。

 

「ようーい、だんちゃーく!」

 

報告と同時に、低空にパッと閃光が走った。その直後に大量の白煙の筋が発生する。立ち込める白煙に混じって、炎が2つ3つ見えたような気がした。またも巨大な青白い光の玉が1つ現れる。

投雷コースに乗った流星の鼻先で三式弾が炸裂したのだ。噴き伸びた白煙の触手は雷撃隊の中でも前方にいた流星の群れに掴みかかり、4機に損傷を与え、そのうち2機を撃墜した。第3主砲には四三式弾が入っていたため、その炸裂によって1機が吹き飛ばされている。

その直後『摩耶』が20.3㎝砲の一斉射を放つ。それは、雷撃隊で後攻を担当していた天山隊の目の前で炸裂し、禍々しい高熱の青白い光の玉を4つ生み出した。ほぼゼロ距離射撃で四三式弾を撃ち込んだのである。

まさか自分たちを狙ってくるとは思っていなかった天山のAIたちは、手痛い一撃を受けることとなった。ほぼ完璧なタイミングで炸裂した四三式弾により天山は46機のうち実に14機が木っ端微塵となり、5機は飛行こそ可能だが攻撃が行える状態ではなくなってしまった。それだけではなく編隊が大きく崩れてしまい、有効な雷撃も困難になってしまったのである。たった一撃で天山の4割以上を戦闘不能にした上効果的な攻撃能力までもを奪った摩耶が、一枚以上上手だった。

だが、これだけ奮戦しても全機の阻止には及ばない。

 

『アタシの機銃を喰らいやがれ!ついでにこれも持ってけ、『雪風流 探照灯対空戦闘術』!!アタシだって免許皆伝なんだ!』

 

『摩耶』の艦体後部から白く太い光が伸びる。探照灯、つまりサーチライトだ。こんな対空戦の途中にサーチライト使うなんて狂ってると思うかもしれないが、意外とこれは効果的な一手となる。

探照灯の明るさは10万カンデラを誇る。新月の夜にこれを点灯すれば、10㎞先でも新聞が読めるほどの明るさなのだ。そんなものをたった数百~2,000メートル程度の距離で照射されれば、十二分な目潰しとなる。尚、この探照灯の機構は、炭素棒に電気を流して光を得るカーボン・アーク灯である。堺や大和が戦闘前に炭素棒を用意させたのは、このためだ。15分ほどで炭素棒は消耗してしまうため、予備を用意させていたのである。

因みに10万カンデラがどの位の明るさかというと、1カンデラがロウソク1本の明るさとなる。車のハロゲン型ロービームが大体2万5000カンデラ、HID型が3万5000〜4万カンデラとなる。閃光音響手榴弾、所謂スタングレネードは100万カンデラ以上の光を発する。

 

「あんなので目潰し食らったら、まず飛行機は操縦できないだろうな」

 

「なぁ浩三。アレって、実戦で使ったりしてたのか?」

 

「なんか、割とマジで使ったらしい。というか陸じゃタクティカルライトを使って、囮にしたり目潰しさせたりで普通に使うしな」

 

この戦法と対空砲を駆使して、『摩耶』が敵をどんどん落としていく。だがそれでも、他の艦へのダメージはそれなりにあった。

 

「矢矧被弾!続いて朝霜被弾!」

 

矢矧は飛行甲板を損傷するも、戦闘航行に支障無しと判定が出た。だが朝霜は火災の火が魚雷に回って誘爆、轟沈判定となった。

 

「敵2機撃墜!本艦に急降下!」

 

「全機銃、応戦!阻止してください!」

 

「照月に急降下!機数2!あっ、浜風被弾!」

 

『浜風、第3砲塔大破、並びに火災発生判定』

 

「あの位置で火災となると、下手すりゃ爆雷に引火する。やばいな」

 

神谷の分析に、一色と川山はそこまで事の深刻さを理解していないのか、頭にはてなを浮かべている。どうやら2人の中では、爆雷如きで沈まないとか思ってるらしい。

 

「お前ら言っとくが、船ってのは結構脆いからな?駆逐艦の爆雷が爆発すりゃ、位置的にスクリューのプロペラシャフトとかもやられるし、更に発電機やその後ろのタービンまでやられるかもしれん。そうなりゃ漂流して、沈むか沈められるかを待つだけの運命だ」

 

「結構恐ろしいんだな.......」

 

神谷もかつては艦艇に乗り組んでいたのだ。ダメージコントロールの重要性や、しくじった時の運命は嫌というほど叩き込まれている。

 

「さらに敵1機撃墜!」

 

『磯風被弾。機関損傷、大破判定。出し得る速力11ノットに低下』

 

『しまった、こんな所で航行不能になる訳にはいかない。動け、動け!』

 

「雪風、1機撃墜!さらに爆弾3発回避、直撃は無し!」

 

『クソっ、アタシも喰らった!だがこんなもんじゃないぜ!』

 

『摩耶被弾。両用砲1基使用不能判定』

 

艦隊の面々も多数が被弾し、各艦共に多かれ少なかれダメージを追っている。その時、『大和』の艦体に続けざまに衝撃が走った。

 

「やられたか!」

 

堺が身を乗り出すようにして窓の外を確認している。そこへ判定が下された。

 

『大和、3発被弾。第1砲塔に異常無し、戦闘継続可能。飛行甲板に火災発生判定。右舷後部、高角砲2基大破判定』

 

「チッ」

 

堺の舌打ちが聞こえた。だが、喰らったのは3発だけらしい。対空砲火により3機を撃墜し、さらに回避運動も加えた結果、投下された爆弾のうち4発は空振りに終わったようだ。

 

「ダメージコントロール!消火急いで!」

 

「浩三!!沈まないよな!?大丈夫だよな!?!?」

 

「大丈夫だから落ち着け健太郎!!そもそも訓練だからホントに沈まないし、そもそも爆弾3発食らった程度で戦艦が、それも戦艦の王者たる大和型が沈む訳あるか!!」

 

大慌てでいつもの威厳とか冷静さ皆無の一色が、神谷の腕を掴みガクガク揺らす。そんな状況の中、今度は『照月』が被弾してしまった。

 

『いやぁ!?ったぁ、いったぁ.......。魚雷発射管は大丈』

 

唐突に照月からの無線がぷつりと切れた。 それと入れ替わるように、被害を伝えるアナウンスが入ってくる。

 

『照月、艦体前部に被弾。第1・第2主砲誘爆大破、大火災発生。電源途絶、通信不能判定。大破判定、出し得る速力5ノット』

 

「くそ!」

 

堺が悪態を吐いているが、こればかりは仕方ないだろう。あの被害では『照月』は戦えない。それどころか艦隊への追随すら不可能だ。電源が失われ通信もできないとあっては、為す術はない。

しかも『照月』といえば、大事な防空艦だ。それがやられてしまったのだ。これでは艦隊全体の防空能力もガタ落ちになってしまう。

 

「大分やられてしまったな。だがさっきからの報告を聴いてると、これでだいたい降爆の攻撃は終わった。ここからが本番だ、雷撃機が来るぞ!」

 

仲間たちに声を励ます堺。それに応えるかのように、低空から流星が向かってくる。

 

「敵雷撃機、右舷より接近!数9!狙いは摩耶もしくは本艦の模様!」

 

「撃て、撃ちまくれ!魚雷を投下させるな!」

 

堺の命令と同時に『大和』の高角砲が火を噴いた。続いてボフォース40㎜機関砲の野太い射撃音。

たちまち1機の流星が主翼から火を噴き、直後にバランスを崩して飛沫に変わった。さらに1機、キラキラと光る物を空中に振り撒いてガクンと機首を下げ、海面にダイブする。

 

『喰らいやがれぇ!』

 

摩耶の罵声と共に、白い光が流星を照らし出した。必殺の探照灯である。海面すれすれを高速で飛んでいる時にセンサーを焼かれてはひとたまりもなく、流星1機がふらついて自ら海面へと滑り込んだ。

直後に摩耶のエリコン20㎜機銃が一斉に弾幕を吐き出す。瞬間的に形成された20㎜の弾幕に、流星1機がもろに引っ掛かった。主翼から火を噴き、一瞬ふらついたが体勢を立て直そうとする。しかし、追い打ちとばかりに追加の20㎜弾がまんべんなく撃ち込まれ、全身ボロボロになった「流星」は力無く海面に落下した。

5機に減った流星が『摩耶』の上空を飛び越える。その瞬間、真下から突き上げられた40㎜機関砲弾のアッパーカットを喰らい、1機がもんどりうって墜落した。さらに1機、『大和』の高角砲に捉えられてバラバラになる。

 

「す、スゲー!殆ど落としたぞ!」

 

「健太郎、これで終わりじゃねぇぞ。まだ来る」

 

神谷が残る3機を睨む。たった3機になった流星だが、怯む様子を見せずに『大和』に向かっていく。だがそこには、最低でも75丁を超える九六式25㎜機銃が手ぐすね引いて待ち構えていた。

 

「右80度、高角10度、距離2千!てぇー!」

 

号令一下、嵐のように25㎜弾が吹き荒れる。何が何でも撃墜してやるとばかりに、どの機銃座の妖精たちも鬼の形相で敵を睨み、発射ペダルを踏み続ける。『大和』からの距離1,500メートルのところで1機が仕留められた。そしてついに2機になってしまった流星が『大和』から1,300メートルで魚雷を発射する。

 

「あんなの当たりません、このまま直進!」

 

「それよりも敵機がまだ来ています!今度は多いですよ!艦長より航海、面舵2当て!」

 

後攻の天山が向かって来ているのだ。それも、まだ20機はいるだろう。

 

『墜ちろ墜ちろ!アタシの弾幕を越えられると思うな!』

 

『大和』の前に『摩耶』が立ち塞がり、艦全体を発射炎で赤く染めるほど撃ちまくる。『防空巡洋艦』の異名は伊達ではないと思わされる光景だ。

両用砲と機関砲だけであっという間に1機の天山が仕留められ、さらにエリコン20㎜の弾幕が加わって3機が立て続けに叩き落とされる。だがさすがに阻止しきれず、10機以上の天山が『大和』に向かう。

 

「自由射撃!各個に撃て!」

 

大和の号令で10㎝連装高角砲が真っ先に火を噴く。海面付近であるにも関わらず、高角砲弾がかなり正確な照準で炸裂し始めた。1機の天山が鞭で打つようにしてはたき落とされる。対空機銃も迎撃に加わり、さらに『摩耶』と『雪風』の援護射撃もあって1機が海面に落ちた。だが、残る機はまっすぐ突っ込んでくる。

 

「敵機との距離は!?」

 

「ヒトサンです!」

 

「了解!」

 

伝声管を掴みながら防空指揮所に仁王立ちし、大和は向かってくる天山を見詰める。距離が1,100メートルを切ろうという瞬間、大和は伝声管に「面舵一杯!」と言った。

伝声管は操舵室に繋がっており、命令を受けた妖精が舵輪を目一杯右に回す。予め軽く面舵を当てておいたため、舵のレスポンスはかなり良かった。『大和』の艦首が右に振られ始めた瞬間、天山が魚雷を発射する。対空弾幕が飛び交う中、白い航跡が7本『大和』に向かってくる。

魚雷の進路と自身の艤装の向きを見比べていた"大和"が、不意に「戻せ、舵中央!」と叫んだ。続いて「艦長より機関、両舷前身いっぱい!」と下令する。

魚雷の群れにまっすぐ艦首を向け、『大和』は回頭によって失った速力を回復しながら突っ込んでいく。みるみるうちに魚雷が近付き、2本ばかり艦首に隠れて見えなくなった。近付いてきた魚雷の群れが「大和」とすれ違い、目標のいない海を虚しく航走していく。 衝撃は全くこないし、演習被雷を示す赤い水柱もない。

 

「敵魚雷、全て回避しました!」

 

「新たな敵機は?」

 

「本艦隊周囲に新たな敵機無し。生き残った敵機は撤退しつつあります!」

 

「了解」

 

自身の目でも周囲の状況を確認し、大和は堺に報告した。

 

「提督、新たな敵機接近の兆候はありません。戦闘終了と判断します」

 

それを聴いて堺は無線機を取り上げて、命令を下す。

 

「提督より全艦。対空戦闘終了、用具収め」

 

「お、終わった?」

 

「あぁ。終わった。にしてもまぁ、偶にはこういうアナログな戦闘も良い。現代と違って、こう戦ってる感がある。海戦でこの感覚を味わうのは久しぶりだ」

 

戦闘は終わったが、まだ全てが終わった訳ではない。味方の被害を集計し、艦隊陣形を再構築しなければならない。さっそく堺は大和と打ち合わせを始める。 その間に川山は神谷に、1つ気になっていた事を聞いた。

 

「なあ浩三、なんであの魚雷は航跡が見えたんだ?帝国海軍の魚雷は酸素魚雷だから、航跡は見えない筈だろ?」

 

「それは基本的に艦艇の話だ。確かに酸素魚雷を使っちゃいるが、そもそも酸素魚雷ってのはコストがバカ高い上に結構信頼性も低いんだ。それに酸素魚雷は航空機用には不向きで、計画こそ浮上したがすぐに却下された。だから航空機用のは普通に航跡が見えるんだよ」

 

「そうだったのか」

 

そんな話をしていると、どうやら堺と大和の打ち合わせも終わったらしい。打ち合わせた結果、演習は継続する事が決まった。生き残った面々は、艦隊の再編成を急ぐ。この間、少し堺は手が空いた。チャンスと見た神谷が堺に、信管の件について質問する。

 

「すみません堺司令、質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「さっきの高角砲弾、海面すれすれを飛ぶ敵機にもよく命中していましたね。堺司令のところでも、VT信管は実用化しているんですよね?」

 

「はい、実用化しております」

 

「それにしては、海面すれすれの低高度における命中率が異様に高いように感じました。もしかして、クラッタの処理能力を持たせているのではありませんか?」

 

その質問に、堺は頭を掻いた。いかにも「してやられた」と言わんばかりの様子だ。

 

「ここまで見破られるとは.......。素晴らしい、100点満点の回答です神谷さん。そうです、今試験中の改良VT信管には、海面反射波(サーフェス・クラッタ)の処理能力を試験的に持たせました。この機能追加によるコストパフォーマンスが十分採算に叶うものかどうか、試験をしているところなのです」

 

「そうでしたか。しかしすごいですね、使い捨ての砲弾にまでクラッタの処理能力を持たせるとは.......」

 

「まあ、VT信管の弱点は低空を狙いにくいことですからね。どうやったらそれを改善できるか、考えておったところなのですよ」

 

「確かに、あれはVT信管を使う限り逃れられない欠点ですからね」

 

そこへ、川山が質問した。 さっき信管云々の話は聞いたが、解説の部分は何が何やら全く分からなかったのだ。

 

「なあ浩三、お前と堺司令が何を言ってるのかさっぱり分からないんだが.......」

 

「軍事関連だから、難しいのも無理ないか。健太郎なんて頭から湯気が上がってる感じだし。

まあ簡単に言うと、『余分な反射波とかの情報を上手く処理して、必要な刺激だけに砲弾が反応して炸裂できるようにしている』ってことだな。もっと分かりやすく言うと『おりこうさん砲弾』って訳だ」

 

「砲弾に『考える能力』を持たせた、ってことか?」

 

「それで正解だな」

 

厳密に言うと川山も一色みたいに頭がオーバーヒートしそうなので、こういう説明で良いだろう。そんなやり取りの間にも、艦隊の再編成は着々と進められていた。

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