アルー奪還より数週間後 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ
「父上、私は最前線基地に視察に行こうかと思います。
皇族、しかも皇太子である私が励ましの言葉をかけに、しかも最前線に赴けば、兵達は大いに士気が上がる事でしょう!!」
そう帝王に直談判する筋骨隆々の金髪男。グラ・バルカス帝国皇太子、グラ・カバルである。
「カバルよ。最前線は我々の考える状況とは異なるのだ。皇族を迎え入れようとなれば、大掛かりな準備もいる。そのための準備と、皇族にあてる警備だけでも前線の兵には負担になろう。それに突発的に敵が攻め、虚をつかれる可能性すらある。
安全性は確保されていない、それが最前線というものなのだ」
「父上!皇族あっての民、皇族の影響力は計り知れません。
皇族が訪問する、ただその一点だけで士気はとても上がります。新聞にもよく書いてあるではありませんか!!」
帝王であるグラ・ルークスは、若かりし頃に陸海軍に所属し軍を率いていた。その為、皇族が前線に出張った時の苦労を知っているのだ。ルークスはあくまで戦場に『軍人』として立っていたが、カバルは『皇族』として立つ。これでは護衛やら何やらで、レイフォルから最前線まで多大な苦労を将兵及び関係各所の職員に大きな負担を掛ける事になる。
「どうなっても知らぬぞ?せめて、レイフォルにしておくが良い」
「いえ!私は最前線、バルクルス基地へ参ります。これ以上の問答は無用!これにて失礼!!」
そう言うと、ガバルは部屋から出て行き、それを大慌てでガバルの侍従が追い掛ける。
「あのバカにも困った物だ.......」
「止めますか?」
「アレはもう止まらん。ここで止めても、無理矢理行くであろう.......。私に似たのか、あやつも頑固というか手段を選ばんというか。しかもそれがこういう形で出てくるから、余計に面倒だ.......」
ルークスとルークスの侍従は、お互い頭を抱えて胃が痛かった。この後の展開を想像して更に痛みが増す中、執務室に今度は女性が入ってきた。
「お父様。先程、カバルお兄様とすれ違ったのですが、何かありましたか?」
「おぉ、レミリアか。なに、いつもの事だよ。カバルがまた暴走して、我らに頭痛の種を増やしただけのこと」
スタイル抜群の金髪の女性。カバルの妹にして、ルークスの娘。グラ・レミリアである。こちらはカバルと同じ行動派であるが、理知的でルークスの言う事を良く聞き、主に国内の孤児院や病院などの福祉施設を訪問するタイプの人間である。
「お父様も大変ですね。サモリナ侍従長も」
「滅相もありません、レミリア殿下。これも私の職務でありますれば、お気になさらず」
「お父様。私で出来る事があれば、幾らでもお申し付けください」
「あぁ。今後、戦闘が激化すれば負傷兵も後送されてくるだろう。その者達のケアを任せたい」
「分かりましたわ。お任せください」
こちらは何とも平和に終わった訳だが、その頃カバルは自室で大荒れであった。「父上は分かってない!」と言いながら、机の上の物を床にぶち撒けたりしている。
「民を導くべき我ら皇族が前線に赴く事こそ、兵の為にもなると言うのに何故それが分からないのだ!!」
因みに皇族が前線に来るとどれだけ迷惑かと言うと、マジで過労死するレベルの迷惑である。通るルートと予備のルートは全て検査が入り、建物はペンキを塗り直され、標識は新品になり、多数の護衛が配置に付き、飲食物も最高グレードな物を用意する必要がある。
今回であればバルクルス基地に行く訳だが、そこに配備されている兵器もペンキが塗り直され、磨き上げられてなくてはならない。兵士だって栄誉礼とか、色々準備する物がある訳で最前線からしてみれば口には出さないが大迷惑である。航空機エンジントラブルなり、悪天候で来ないで貰いたい、とすら思うクラスだ。
だが結局、なんだかんだで無理矢理捩じ込みやがりましたのでカバルのバルクルス基地訪問は、決定事項となってしまったのである。しかもこれ、基本的に覆す事は出来ない。カバルの気が変わるか、病気や怪我、或いは死ぬか、バルクルスが訪問前に陥落でもしない限り無くならない。
訪問が決定した以上、各方面の仕事は増えに増えまくる。特に外務省は先述の標識の取り替えや舗装、剪定といった諸々を手配する羽目になっているのでシエリア&ダラスのコンビは事務作業や下請けとの連絡でレイフォル中を奔走していた。
「粗相が無い様にしなければ.......」
「帝王陛下のご子息であり、次期帝王陛下の筆頭候補で在らせられますからな。粗相どころか、1つの不手際たりと見逃せません」
特にダラスは根っからの帝王と王族の信奉者なので、力の入り用はこれまで見てきた中でも1番である。そんな中、執務室に外務省の職員が血相を変えて飛び込んできた。
「今し方、帝国陸軍より連絡が入りました!!!」
「陸軍の方も張り切っているな。次の街をもう落としたのか?」
「そ、それが、キールセキに侵攻した第4師団と航空隊は全滅し、アルーと近隣のドーソン基地は陥落したと.......」
「な!?!?!?!?!?」
ダラスはまるで怪獣の様に大きな口を開けたまま固まり、シエリアも冷や汗が一気にぶあっと流れ出たのが分かった。
「お、おい。それは君の見間違いとか、盛大な勘違いとかではない.......よな.......」
本来、軍の作戦結果が外交官達に伝わる事は基本ない。その作戦の成否が外交に直結するのなら別だが、一々軍も「この日にこんな戦いやって、こうなりました」なんて連絡はしてこない。それが来たということは「皇太子を出迎えられない」という、暗黙の意思表示なのだろう。
今回は皇内庁、皇国では宮内省にあたる組織から外務省に指示が出ている。つまり総責任は、外務省の正確に言えばレイフォル出張所である。勿論護衛は軍の担当だが、総責任はここになる上に総責任者はシエリアであり、現場責任者はダラスなので、最悪は社会的どころか物理的にも首が飛ぶ。
2人してフリーズしていると内線が鳴った。どうやら下に、ムー国征伐軍総司令部のランボール陸軍大佐が来ているらしい。恐らく、今回の顛末の説明だろう。すぐに応接室に通してもらって、話をする事になった。
「急な来訪をお許し下さい。通信だけでは状況が理解出来ないかと思い、説明に参りました。
ご連絡した通り、キールセキへと向かった全部隊は壊滅的被害を受け、アルーはムーに奪還されました」
「何故だ!!何故そんな事が起きたのだ!!!」
「現在目下原因を調査中です」
別にランボールはダラスの部下でもないし、何なら管轄もランボールは軍でダラスは外務省。全く違うにも関わらず、それはもう狂犬の様に吠えまくる。
「調査中?そんな情報を持ってきてどうする!!何故まだ解らないのだ!!軍の怠慢ではないのか!!!皇太子殿下の来訪を断るという事が、どういうことか理解しているのか!!!」
「解らないから解らないのです!!!特に第4師団などは、短期間に全滅している。情報は、初期の段階では断片的なものしか入らないものです。情報を精査して確実な情報をお届けするのであれば、相当に期間がかかります。
迅速な情報というものは、不確定なものなのです!!精査した後であれば時間がかかりすぎて、それはそれで文句をいうでしょう!!」
「ダラス、怒鳴っても意味は無い。ランボール殿も、迅速な情報を伝えようとわざわざ来て頂いているのだ。
ランボール殿、部下が失礼した。どうか続けてほしい」
流石に2人して喧嘩モードになられては、いよいよもって収集がつかない。一旦落ち着いて貰う。
「失礼。第4師団からの無線では「巨大な戦車に待ち伏せされ、後方から砲撃に晒されている」と報告が上がっており、航空隊からは「赤丸の航空機と接敵した」や「3本の爪痕に追い掛けられている」、「片翼が赤いのと両翼が青いのに」と無線が入っておりました。また一説では、戦車に2本の剣と銃と角と羽の生えた馬の紋章を見た者も居たらしく、こんなマークを持つのは恐らく大日本皇国だけかと」
「「ッ!?!?」」
2人の脳裏には、先日行った皇国との外交交渉の場での事が蘇っていた。確かあの時、神谷の右腕にそんなマークがあったのだ。
そしてシエリアの脳裏には、あの川山とのお茶会での話を思い出していた。
『そう言えば、そちらの白亜衆の白色には何か意味があるのですか?』
『色に深い意味は無い筈ですよ。確か穢れを払うとか、目立つとか、なんかそういう意味はあった筈ですけどね。
ですが、マークには意味があるらしいです』
『マーク?』
『えぇ。神谷戦闘団のマークは旧世界の世界地図がバックにあり、2本の刀と銃、アレは浩三の使う得物です。そしてその上に有翼の一角獣、アリコーンという幻獣があります。このマークには『世界中何処へでも行く』という意味が込められており、国内では『国境なき軍団』という風にも呼ばれていますよ。
あの部隊は歩兵は勿論、戦車に砲兵隊、専門の輸送航空隊まで保有していますからね。それも最高練度を誇る、我が国随一の精兵です。白亜衆に至っては特殊部隊員も凌ぎますからね』
川山はこう言っていたのだ。つまり、第4師団を迎撃したのは皇国軍の中でも最強格であろう神谷戦闘団である。
「ランボール大佐。恐らく、第4師団を迎撃したのは神谷戦闘団です.......」
「なんですと!?というと、アレですか?捕虜処刑の現場に強襲し、そのまま捕虜を奪還し、我が国に宣戦布告を叩き付けたという、あの神谷浩三・修羅の.......」
「外交の場で、皇国の外交官から聞きました。「そのマークには『世界中何処へでも行く』という意味が込められている」と」
「なんて事だ.......」
ランボール自身、神谷戦闘団の恐ろしさを直接見た訳では無い。だがその恐ろしさは、しっかり知らされているのだ。
「元々軍部では、今回の基地壊滅を非常に重く受け止めていました。しかしそこに皇国の、それも神谷戦闘団の介入があったとなると事は想像を遥かに超えて深刻です.......。
まさか海に続き、陸でも負けるとは.......」
「どういう事ですか?」
ここも含めて外務省には、先のバルチスタ沖海戦の情報しか入っておらず例のムー襲撃の件は報告されていないのだ。
「やはりですか。各官庁が情報を共有化しておかないと.......。今後の帝国運営に支障をきたしてはいけないので、この場でお話します。どうやら海軍は、既に3度、皇国に敗北を喫しているのです」
「何ですと!?!?」
ダラスが叫ぶ。2人にとっても、青天の霹靂といった所だろう。2人にとっても帝国軍は最強の存在なのだから。
「カルトアルパスではグレードアトラスター撤退後に入った部隊が全滅し、先のバルチスタ沖海戦でも世界連合軍の艦艇のほとんどを殲滅しましたが、皇国には1隻の撃沈どころか被弾した艦艇も居ませんでした。そして現在は無かったことになっているイシュタム隊を動員した、ムーへの同時攻撃時も皇国海軍の戦艦1隻によって全艦沈められています」
「そんな事が.......」
「報道上では勝ったことになっていますし、現に我々もそう伝えられています。私の同期に参謀本部の将官を補佐している者がいまして、私は偶々、その同期から情報を得ました。ですので、オフレコでお願いします」
シエリアの脳裏には、捕虜の返還交渉時に川山が言っていた、「我が国の最強の軍が海に、空に、陸に現れた時がグラ・バルカス帝国の終わりの始まりとなるだろう」という言葉が再生されていた。
本当にその通りなるとは、思っていなかった。いや、思いたく無かったのかもしれない。
「今後戦況については分析していくが、今回のバルクルス攻撃、不意打ち的なものではなく、正規に警戒していてなおもやられたのであれば、日本皇国の戦力、そして今後の作戦と進撃速度を見直す必要がある。そう考……」
「栄えある帝国陸軍将校がそんな考え方で良いのか!!グラ・ルークス皇帝の速やかなるムーの制圧、そして早期の大日本皇国攻略という勅命が出ている限り、それに従い、命をかけて命令を守るのが我々の努めではないのか!!」
ダラスの愛国心スイッチと、グラ・ルークス信奉者スイッチが入り怒鳴り散らかす。管轄も違えば立場も違うのに、この叫び様。流石である。
「私は日本皇国と講和するべきだとは一言も言っていない!!戦力を見直す必要があると言ったのだ!!」
「陸軍は臆病風に吹かれたのか!!!」
「私の一言で陸軍全体にレッテルを貼るな!!精神論だけ振りかざして何が出来る!!最前線の兵は分析を間違えば死ぬのだぞ!!安全な所から口だけ出す外務省には解らぬかもしれないが、冷静に敵を分析するのは将校の努めであり義務なんだ!!
必要な情報を確実につかみ、前線の兵の被害が減るよう全身全霊をかけることが、多くの死者が出ることが解っていて、なおも死地に赴けと命令する側の最低限の義務なんだよ!!」
帝国軍全体では、旧大日本帝国軍の様な精神主義が横行している。だがランボールは合理的な思想を持つ者で、精神精神と言う前に合理的な考えを持っているのだ。その為、軍内部でも珍しい部類に入る。
「ダラス、一々噛み付くな。冷静な議論が出来なくなる。ランボール殿、失礼した」
「ぐっ!!」
「我々としても、皇国に関しては独自のルートから探ってみます。個人的にもあの国は、何か嫌な雰囲気がするのです」
「すいません、よろしくお願いします。我が陸軍も、情報をつかんだらまたお伝えしたいと考えます」
取り敢えず現場間の幹部層は、少なくとも「大日本皇国は脅威になりうる」という点で合意した。まあダラスは吠えているが、そこはスルーして貰いたい。
となれば次の議題は、皇太子の来訪についてに移る。
「グラ・カバル皇太子殿下の来訪は、陸軍としてはとても現状満足のいく警備体勢が出来るとは思えません。また警備は良しとしても、何より来訪地となるバルクルス基地自体が危険です。
外務省が本件の主体となっている以上、皇内庁の方に延期を申し入れる事はできませんか?」
「バルクルスの警備責任は軍部にあるだろう?軍備を増強するなりなんなりして、警備を万全にするべきだ」
もう完全にグラ・ルークス信奉者モードで周りが見えてないダラスが、またも良く分からん提案をしてくる。しかし今回はランボールも、ダラスが納得するだろう理由がある。
「今回はその軍部が、遠征部隊壊滅の原因が判明するまで止めた方が良いと言っているのだ。我々現場の人間が勝手に言っている訳ではない」
そう。流石の『気合・熱意・魂』みたいな精神論を振り翳してくる軍部も、事が次世代の帝王継承者となる皇太子殿下に関係するともなれば合理的に考える。
「皇太子殿下が来ることは決定事項だ。人が足りない?危険性がある?出来ない理由を並べるのでは無く、やらなきゃだめなんだよ!!そんな意気込みで良いのか!!!」
だがダラスは、それでもダメだった。こればかりは物理的な問題で不可能なのだ。「やらなきゃダメ」とかで片付けられない。煮えたぎる溶岩の中をクロールで遠泳しろと言われたところで、物理的に不可能なのと同じ様に。
「意気込み?そんな姿勢だって?こちらだって精一杯やってるんだ!!物事をなすにはプロセスと、適正な人員配置と、時間が必要なんだ!!
意気込みもいるだろうが、精神論だけで危険性は除去されないんだよ!!」
「貴様ッ———」
「ダラス!!噛み付いてばかりでは何も生まれないだろう?ランボール殿、失礼した。
皇太子殿下の御身を危険にさらすわけにはいかないだろう。 外務省としても皇内庁に、殿下の御身に害が及ぶ危険性があるため中止するよう進言しよう」
白熱というか、ダラスの言い掛かりが燃料となって燃え上がった議論は終わった。
ランボールが帰るとシエリアは直ちに、グラ・バルカス帝国本国の外務省に連絡。最前線基地が敵の襲撃を受け陥落する危険性が除去されていないため、皇太子殿下訪問の延期する様に進言するのだった。これには外務省としても渡りに船であった。何せ外務省的にも、どうにかしてカバルの視察を無くしたかったのだ。だが無くすには、それ相応の理由が必要となる。流石に「自身の身を危険に晒してでも、俺は行くぞ!」とは言わないだろうと、そう考えていた。のだが…
「ふん、お前は解っていないな」
当のグラ・カバル皇太子殿下は、態々忠告に来た外務省職員に哀れみの目を持ってそう言い放ちやがりました。
「最前線基地とは、危険なもの。そんな事は百も承知だ。しかし、私は信頼している。絶対的な強さを持つ帝国臣民の作りし兵器を、そしてそれを運用する精鋭グラ・バルカス帝国兵を!!
危険はあるだろう。だが、危険が有るからといって私が行かなければ、グラ・カバルは安全な所にしか行かない臆病者と兵達は考えるかもしれない。皇族の、しかも皇太子が危険な最前線基地で兵達を励ます。このことこそが、重要なのだ!!
私が行くことは決定事項だ。外務省と軍幹部には、皇太子権限で行くことは決定事項だと伝えろ!!」
「しかし!」
「くどいわ!!皇太子権限であれば文句はあるまい!!!!」
(いや文句しかねぇよ!!!!)
因みにこの皇太子権限というのが何かというと、現帝王のルークスが皇太子時代に軍人を経験した時に作られた法律である。皇太子が戦場に赴くとなれば、それはもうあちこちから今の様に色々来る。元老院での評議を待たなければならないし、皇内庁に話を通したり、関係各所への根回しで相当な時間を食っていた。その時間が余りに無駄かつ、何度もそれが原因で出遅れて結果的に軍に迷惑が掛かった為、無理矢理この法律で強行突破できる様にしたのだ。
やがて戦争も終わり、ルークスは帝王となってこの法律は使われはなくなった。所がここにきてカバルが、今度は自らの見栄とかプライドの為に使う、いや。利用する事になったのである。
「殿下!!どうか、どうかご再考を!!!!本当に危険性が高いのです!!!!!!!」
「くどい!!クビにしてやるぞ!!!!!」
そう言ってカバルは部屋を出て行った。もうこれで、何人のクビが飛ぶだろうか。恐らく、その1人に自分も入っているだろう。
「.......外務省職員って、転職とか再就職に有利だっけ?まあ公務員だから、良いのかな。ハハハ.......」
カバルの部屋から出てきた職員の顔はゾンビの様に生気がなく、背中は物凄い哀愁を漂わせていたらしい。
1週間後 バルクルス基地 飛行場
「捧げぇ、銃!!!!」
あれから1週間後、本当にカバルは最前線のバルクルス基地に来た。最新鋭の爆撃機である深山に良く似た爆撃機、スピカを真っ白に塗装し、胴体の国籍章はグラ皇族の紋章になっている特別仕様機だ。
バルクルス基地の将兵達は最低限の監視要員を除いて全員が片膝を付き、軍楽隊による壮大なメロディーが奏でられ、儀仗隊からの栄誉礼をカバルは受けている。
「出迎えご苦労!!!!」
中には目の前に現れたカバルに涙する将兵もいたが、ここの指令でもあるガオグゲルは無事に帰ってくれるかが心配で気が気では無かった。
「カバル皇太子殿下。本日は我ら兵の為に、この様な最前線まで遥々お越しくださり誠に有り難く存じます。私はバルクルス基地司令、ガオグゲルと申します」
「うむ!資料で其方の名前は何度か見た。精鋭の第4師団を従える猛将だと聞き及んでいる。貴様が指揮を取っているのなら、この戦、勝ったも同然だな」
「ははっ、有難きお言葉、感謝致します」
その精鋭である第4師団は、既に空洞山脈の先とかで草木の肥料と化しているのだが。勿論そんな事を言う訳にもいかないので、適当に話を合わせておく。
カバルを早速中へ案内しようとした時、駐機場の航空機が爆発したのだ。
「何事か!?!?」
「分かりません!!敵の攻撃なら事です!!!!退避を!!」
兵士達は即座に動き出し、整備員組は消化器や消防車の元に走り、対空要員は自分の使う対空兵器の元へと滑り込む。ガオグゲルとその幕僚、カバルとその護衛の兵士達はすぐに地下の司令部へと向かう。この地下司令部は防空壕も兼ねているので、爆撃されても問題はない。
まあ皇国には、そういう地下の拠点を破壊するバンカーバスターもしっかりあるので、これを使われれば全くの無意味である。
「状況を報告せよ!!」
「分かりません!レーダー、反応なし!!機体が動いてない駐機場故、事故の可能性は低いです!!どちらかといえば特殊部隊や工作員による爆破の可能性が高いでしょう」
司令部に詰めていた幕僚の1人が、ガオグゲルとカバルにそう報告する。だが、その暫く後、管制塔の見張りから「敵機発見」の報告が上がった。ガオグゲルはすぐに管制塔へ駆け上がり、自らの目で確認する。
「.......どれだ?」
「真ん中の辺りに黒い点がある筈です!その機体から、爆弾が落ちて来ていました」
「.......あれか?」
ガオグゲルはどうにか、上空に黒い点を見つけた。だが余りに高過ぎる。高過ぎて、機体形状どころか先述の通り黒い点にしか見えない。レンズについたゴミかと思う程に、それは余りに小さかった。
『敵機捕捉!!低空より超高速で接近中!!!!!!方位、1-9-7!!!!』
レーダー室から伝声管を伝って報告が上がり、言われた方向を見てみると、4機の航空機が迫っていた。すぐに周囲の対空砲が弾幕を張るが、全く意味を為さない。グラ・バルカス帝国軍ではVT信管を採用してはいるが、接近する航空機が早過ぎて正常に信管が作動しないのだ。簡単にいうと、信管のレーダー波が目標を捉えても、早過ぎて起爆の前に加害範囲から目標が抜けてしまうのだ。
では対空機銃ならどうだ、となるが、こっちも早過ぎて照準が追い付かない。しかも例え当たっても、全く効果が無いのか避けもせずに真っ直ぐ基地目掛けて飛んでくる。
「ターゲットロック」
「へへっ、食らってみやがれ!!!!」
バルクルス基地に飛来した航空機の正体は、大日本皇国空軍のぶっ壊れチート兵器。A10彗星IIである。今回はパイロンに、AGM103旋風を搭載している。1機辺り、マルチパイロン使用で64発の旋風が積めて、更にそれが4機いるので、合計256発ものミサイルを叩き込める。因みに初手の爆撃の犯人は、A9ストライク心神である。4機編隊で大型パイロンにGB9天山、中型パイロンにはGB8流星を搭載してあった。
彗星IIの正確な攻撃により、対空砲の全てが破壊し尽くされた。それだけでは無い。燃料タンク、火薬庫、駐機してあった機体にも攻撃が当たり、誘爆したりで消火に当たっていた整備兵ごと吹き飛んだのだ。攻撃を終えると、彗星IIは素早く進路を変えて元来た方向へと帰還し、上空のストライク心神もいつの間にか帰還していた。
『燃料タンク炎上!!火の手が早く、全く手が付けられません!!』
『火薬庫爆発!!現在も誘爆が続いており、消火しようにも近付く事すらできない!!』
『電源設備、送電設備もやられました!!!!レーダー、使用不能!!!!』
『対空陣地沈黙!!!!全ての陣地、応答ありません!!!!』
『駐機中の機体の大半がやられました!!死亡者、負傷者も大量に出ています!!!!』
『司令、ご指示を!!』
各所から被害報告が上がってくるが、流石にこれは予想外の被害だった。何よりレーダーサイトの喪失は痛い。基地の照明くらいなら非常用電源でどうにかなるが、レーダーは大量の電力を消費する為、元から非常用電源が配置されてないのだ。というより、今の技術では非常用電源では動かせられる電力を賄えないのである。
「見張り、警戒を厳にせよ。私は指令室に戻る」
「ハッ!!!!」
ガオグゲルは指令室までの移動途中で、色々と考えた。対空砲も航空機も使えない今、この基地は無防備。航空基地という飛行機を運用する事が主目的である以上、要塞壁のような遮蔽物はない。一応塀くらいはあるが、戦車砲で簡単に壊れてしまう。
「司令!ご指示を」
「倉庫に移動式の対空砲がある筈だ。アレを引っ張り出せ。他の基地に応援を頼み、ここに派遣してもらおう。ところで、殿下は?」
「今は部屋で待機して頂いております。流石にこの状況で外に出られては作業の邪魔にもなりますし、何より殿下御自身の身も危険ですから」
副司令の的確な判断に感謝しつつ、今自分のすべき事を兎に角考える。少なくとも、このバルクルス基地は戦力を喪失している。ここまで徹底的にボコボコにしたとなると、恐らく敵が第二次攻撃を仕掛けてくるとしたら陸路による攻撃だろう。
「.......消火と負傷者の収容が終わり次第、武器弾薬を掻き集めろ。恐らく敵は地上から攻め込んでくる筈だ」
「了解しました。手空きの兵を編成し、即席の戦闘部隊を作成します」
副司令は直ちに手空きの兵を集めて、武器弾薬を掻き集める用に指示を出す。どうにか戦える位には装備を掻き集め、何なら航空機や対空砲の残骸から使える物を無理矢理持って来ている。ある程度なら倒せるだろう。
そして爆撃から約30分後、彼らが来てしまった。
『方位1-9-0!!敵機多数接近!!!!』
さっき彗星IIがやって来たのと全く同じ方向から、多数の航空機がやって来た。それも真っ白な機体が何機もいる。
『!?敵機に真っ白な機体と、角羽馬エンブレムを確認!!神谷戦闘団、白亜衆と思われます!!!!』
「奴ら、空挺降下を仕掛けるつもりか!?!?」
顔を真っ青にするガオグゲルとは裏腹に、接近する輸送機、AVC1突空の中に居た神谷は不適な笑みを浮かべるとこう呟いた。
「ここからは、こっちのターンだ。グラ・バルカス帝国」