最強国家 大日本皇国召喚   作:鬼武者

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第六十九話聖像か魔像か

カバル死亡より16時間後 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 帝王府

「……よって、レイフォルにある最前線基地、バルクルスは敵の手に落ちました。

同行していたグラ・カバル皇太子殿下の消息は不明であり、現在調査中であります」

 

報告者は多分、今まで1番大量に汗をかいているだろう。もう背中とか腕とか脇とか足の裏とか、もうありとあらゆる場所から汗が吹き出し、滝の様に流れ落ちているのが分かる。

しかも会議室の空気は最悪で、帝王府長官カーツ、帝国三将を含む軍幹部、外務省長官、皇内省幹部というタダでさえ緊張する面子なのに、全員が全員、顔が阿修羅の様になっていて生きた心地がしないのだ。オマケに報告内容が「バルクルス基地が落ちて、ついでにカバルが行方不明です」という、帝国始まって以来の大事件なのだ。もう死にたくなるレベルの地獄である。

 

「何故だ!!何故軍部は守り切れなかったのだ!!異界の蛮族どもに負けるような帝国軍ではなかろう!!」

 

「職務怠慢であるぞ!!!!」

 

「この責任をどう取ってくれる!!!!」

 

皇内省の幹部達が軍部に食ってかかる。守って当たり前であり、攻撃を受けるなど言語道断、そして皇太子が捕虜となるなど、決してあってはならない事だった。

え?カバルを止められなかった点?そんな話、今の幹部連中の脳内には入ってない。自分達の保身しか考えてないのだ。

 

「最善を尽くすが、最前線はちょっとした物量で覆る可能性があり、危険であるためルートを考え直すようにと、こちらは何度も皇内省には申し入れておりましたが」

 

軍部とて攻撃を受けることは想定していなかった。

敵がバルクルスを狙っている程度の情報は仕入れていたし、何より次に来るのがバルクルス基地であるのは素人でも分かる事だったので、念の為に反対をしていたが皇内省がほぼ押し切る形で今回の訪問は決定したのだった。

 

「くっ!!しかし、蛮族がいくらまとめてかかって来ようが関係ないだろう!!軍部が警戒を怠ったからだ!!」

 

「殿下が、殿下が行方不明になったのだ!!なんという事だ!!なんという.......。最前線は危険であるという事は皇内省とて理解しているだろう!!ちょっとした物量差で落ちるのが最前線だ。何故お止め出来なかったかっ!!」

 

帝王府長官カーツの怒声に、止められなかった皇内省幹部、そして侵攻を許した軍幹部の顔が青くなる。帝王府は各省庁よりも遙かに格上。帝王直属の国家機関の前には、他の省庁とて子猫の様に震えるしかない。

そんな中、更に場を掻き乱す男が入ってきた。

 

「カバル兄は無事なのか!!!!」

 

「バイツ殿下!?」

 

グラ・バイツ。グラ・カバルの弟にして、王位継承権2位の男。カバルとは違い性格は沈着冷静な優等生タイプなのだが、どうやら自分の兄の事となった今回は珍しく取り乱しているらしい。

 

「カーツ!!どうなのだ、答えよ!!!!」

 

「は、ハッ!カバル皇太子殿下の消息は不明であり、目下調査中であります!!」

 

「死んではおらんのだな?」

 

バイツの言葉に、全員が口をつぐんだ。特に軍部は、仮に生きていたとしても生存している可能性が低いのを察していた。人は簡単に死ぬ。爆風で吹き飛ばされただけでも、運が悪ければポックリ死んでしまう物なのだ。仮に運良く生き残ったとしても、その後は捕虜になるのがオチだろう。脱出できたとしても、周囲の基地も軒並み占領されている現在では生還の可能性は低い。

とは言え、まだ死んだとは決まっていない。そんな報告はまだ上がってないのだから、難しい所である。

 

「お前達はどの様な策を立てている?」

 

「それについては私の方から、ご提案させて頂きます」

 

バイツの声に、手を挙げたのは外務省長官。

 

「現状安否は不明ですので、捜索には全力を上げることでしょう。私はカバル皇太子殿下が、皇国によって捕らわれていた場合の提案をさせて頂きます。我々が即座にコンタクトを取り、殿下の引き渡しを命令致します。

仮にこれを断った場合は、軍による威嚇を行い、必ずや皇太子殿下を安全に保護いたします。これにも応じない場合は、海軍の総力をもって皇国に懲罰を行い、首都を灰に致します。

またもしも、殿下が死亡していたのが発覚した場合、首都を灰にして懲罰とします」

 

「いや、待て。仮にも我が祖国への攻撃に参加していたのだ。必ず、何か知っているか、手掛かりは分かるはずだ。直ちにムーへ軍と外交官を送るのだ。できるな?」

 

「殿下がお望みとあらば」

 

「我ら三大将にお任せを」

 

「カバル皇太子殿下の手掛かりは、必ず見つけて参ります」

 

グラ・バルカス帝国の方針は決まった。因みにこの前後では、主にレイフォル方面で外務省、軍部の幹部組の数十名が失神したりしていてちょっとした大惨事になっていたりする。

 

 

 

数日後 ムー西部 リュウセイ基地 会議室

「さてさて。このバルクルス基地他、FOBの同時攻撃によって当面のムーの安全保障は問題ないだろう。奴らが帝都大空襲よろしく、B29みたいなのを持ってきたりすれば話は変わるがな。となると次の戦闘は恐らく…」

 

『我々の庭、海ですな』

 

「やっぱりその結論になるよねぇ」

 

『山本も私も、同意見です』

 

グラ・バルカス本国で会議が行われた数日後、ムーの会議室でも皇国軍の今後の方針についてオンラインで会議を行っていた。参加メンバーは以下の通り。

 

・第一主力艦隊司令 山本五十八

・第二主力艦隊司令 沖田十蔵

・第三主力艦隊司令 麦内誠光

・第四主力艦隊司令 山田多聞

・第五主力艦隊司令 土方龍

・第六主力艦隊司令 山南修一

・第七主力艦隊司令 川中梨香子

・第八主力艦隊司令 東川電蔵

・潜水艦隊総司令 神楽坂武蔵

 

『であれば、神谷司令。私から一つ、提案が』

 

「神楽っちが発言とは珍しいな。で、どんな案なんだ?」

 

『ウチの潜水艦隊で、海域ごと封鎖してしまえばいいんじゃないかなーと』

 

神楽坂の意見は、かなり理に適っている。神楽坂が指揮する潜水艦隊に配置されているのは、お馴染み4桁の伊号潜水艦。全艦隊が明らかに、潜水艦以上の能力を持ったチート艦で編成されている。この潜水艦であれば、通商破壊どころか航路破壊や海域封鎖相当の事が可能であろう。だが、一つ問題があるのだ。

 

「確かに良い手だが.......」

 

『物量チーターには効かない、だろ?』

 

「そういう事」

 

そう、東川の言う通りなのだ。グラ・バルカス帝国の艦艇の技術レベル自体は第二次世界大戦相当であり、単艦性能であれば余裕で勝てる。だがこうも物量が多いと、流石に潜水艦隊だけで封鎖しきれない。一時封鎖できてもすぐに弾薬切れで撤退では、封鎖は困難を極める。

 

『なら、神谷長官には策がある感じですかな?』

 

「勿論だ山南司令。俺は全八主力艦隊を使用した、聨合艦隊での艦隊決戦を考えている」

 

この一言に全員が驚愕した。そしてそれと同時に、心が躍った。海軍軍人やってて良かったと、今まで1番感じていたのだ。

 

「皇国が参戦してからこっち、帝国は負けすぎた。そろそろ奴らも巻き返しの戦闘を望むだろう。陸で負けるとなれば、次の戦場は海だ。それにこれまで、奴等はこっちの主力艦隊の姿を見ていない。

奴らは物量でも、もしかしたら装備でも勝っていると思っているかもしれない。だが、我々の艦隊は練度、質、量に於いて世界最強だ。負けはしない」

 

『全く、訓練生の頃からお前のやる事は想像の範疇を越えるな』

 

「何度も麦内長官と山本教官には、尻拭いをしてもらってましたからねぇ」

 

『もう10年は経つというのに、階級や経験だけあがってそこだけは変わっておらんな』

 

「いや、年々酷くなってますからある意味変わってますよ」

 

この一言に全員が笑った。因みに訓練生時代にやらかした事は「暇だったから」という理由で特殊部隊に乱入してみたり、毎回毎回謎理論の抗議をしてくる集団に罠とかを仕掛けて撃退したり、普通に訓練してて訓練機材を破壊しまくったりと、中々にぶっ飛んでいた。因みにこの頃のあだ名は『破壊大帝』とか『神谷・デストロイヤー・浩三』である。

他の教官と示し合わせて試験でこの名前で挑んだ事があり、全員で国防大学の学長から怒られた事もある。尚、成績はトップだったので、学長も怒るに怒れない部分もあって相当悶々としてたらしい。

 

「あ、そうそう。この艦隊決戦に向けて、各艦隊の所属艦艇には統一カラーを付けたい。第一主力艦隊は『紅白』、第二主力艦隊は『紺碧』、第三主力艦隊は『雄黄』、第四主力艦隊は『翠緑』、第五主力艦隊は『紫紺』、第六主力艦隊は『黒鳶』、第七主力艦隊は『白金』、第八主力艦隊は『真紅』のストライプを艦橋部分に入れて欲しい。」

 

『アグレッサー、という事でしょうか?』

 

「梨香子ちゃん大正解。いやー、この間、新しい広報ビデオの視聴してた時に、飛行教導群のアグレッサーを見てさ、なんかこういうのしたら目立つし、敵を威圧できるんじゃねと思ってな」

 

このアグレッサー塗装は、何も目立たせるだけではない。アグレッサー塗装をする事によって、より艦隊の知名度を上げる事ができると考えたからでもある。各主力艦隊は、国内では割と名が知られている。だが全国民が知っているかと言えば、その限りではない。

だがもしここに『色』という明確な違いがあれば、どんなに軍事に疎くても色で艦隊が判別できる。更に国外に対しても同様に色が象徴として機能し、港に寄港すればその国の国民へのアピールにもなるし、戦場に出れば味方を鼓舞することもできる。

本来であれば軍事兵器は、地形や戦闘する領域にあった塗装するべきだろう。迷彩柄がその最たる例だ。だが現代の戦闘は、有視界での目視圏内で戦闘というのは発生しない。基本はレーダーを使って、お互い水平線の彼方から攻撃しあう。今更、ちょっと派手にしたって問題はない。

会議はこの後も少し続き、更に簡単な行動指針の共有を行って終了した。

 

「はーい、会議しゅうりょー!」

 

「長官、会議は終わっても仕事が増えてますよ」

 

「はひ?」

 

「これ、見てください」

 

いつの間にか居た向上が差し出してきたタブレットには、人工衛星からの写真が映っていた。そこには大和型、いや。恐らくグレードアトラスター級と思われる、巨大戦艦の姿があった。

 

「完璧に動いてるな。でも護衛が一個水雷戦隊相当となると、攻撃が目的じゃないな.......」

 

「先程、この艦隊を捕捉した第三潜水艦隊が、目視にて戦時外交旗を掲げていた事を確認しました。航路から見て、恐らくこのムーへと向かっているかと」

 

「戦時外交旗は確か、緊急時に交戦国への外交官の派遣に使われる艦艇に掲げられるんだっけ?なんかあったのか?」

 

「さぁ?」

 

この時、まだ大日本皇国側はグラ・カバルという皇太子を殺していた事に、誰1人として気付いてなかった。当の神谷も含め、上級将校程度にしか考えてなかったのである。

だが何はともあれ、外交となれば神谷ではなく川山の出番。念には念を入れて、川山にも連絡を入れた。

 

『うげっ、そっちに行ったのかよ』

 

「え、なに?お前もしかして…」

 

『それがムー外務省と大使館経由で、こっちにまあ平たく言うと「要件があるからレイフォルまで来い」っていう、出頭命令がこっちに来たのよ。まあ、そんな命令に従う義理なんざ無いから「知るかコノヤロー。要件があるなら、テメェらが来やがれ」って返事したんだよ』

 

この川山の返答を、神谷は「うわー.......」という顔をしながら聞いていた。別に川山に対して、そう思った訳ではない。ビックリする位までの傲慢さ、皇国との戦争、皇国をバカにする物言い、プライドがクソ高い、出頭命令。かつて、同じ事を仕出かしていた国がこの世界に存在していた。パーパルディア皇国とかいう、クソ国家の事である。

この国家がどうなったかは、もうこの作品を読み続けている読者諸氏に今更語る必要はないだろう。だがもしかしたら、この作品を初めて目にした読者もいるかもしれないので、簡単に解説しよう。パーパルディア皇国全土の主要都市全てを破壊し尽くし、首都に核兵器もどきと戦略爆撃、それから砲撃を持って瓦礫の山とし、ついでにレミールとルディアスもしっかり殺したのである。

まあ見ての通り、ロクな最期ではない。だが今のグラ・バルカス帝国は、どういう訳かパーパルディア皇国の足跡をなぞるかの様に行動しているのだ。

 

「取り敢えず、お前こっちに来てくんない?」

 

『相手の意図がわからないなら、俺が出るしかないだろ?現地で落ち合おう』

 

 

 

翌々日 ムー近海 戦艦『グレードアトラスター』 甲板

「間もなくムーへ上陸か.......」

 

今回、大日本皇国との交渉にはダラスが臨むこととなった。皇族信仰の権化である彼からしてみれば、皇太子殿下の消息をお調べする事はこの上ない大仕事であるらしく、かなり気合が入っている。

 

「ダラスくん、準備はいいかね?」

 

「大丈夫です、パルゲール事務次官殿」

 

しかも今回は帝国本土の外務省よりパルゲール事務次官が同行しており、万全の準備をしてきている。因みに事務次官と聞くと『次官』とあるし、何だか立場低そうなイメージを抱くかもしれない。だが事務次官とは国家公務員に於ける最高職であり、官僚の階級としてもトップに君臨する階級である。現実の日本に於いては事務次官の年収=警察庁、金融庁、消費者庁の長官の年収である。

暫くすると『グレードアトラスター』は停船し、それを見計らったかのようにムーの小型船が姿を現す。簡潔に内容を告げると、偶然にも(・・・・)皇国本国の特別な外務省職員が居たらしく、その者との会談が決定した。

 

 

「やはり、50年以上は遅れているな」

 

ダラスとパルゲール、それからお付きの数名は船を乗り継いでムーの首都、オタハイトへと入った。ダラスは大日本皇国大使館へ向かう車窓から外を見た。幸せそうに歩く人々、帝国に比べてのんびりと時間が流れているようにも思える。

 

「まるで戦争をしている事を忘れているようだね。全く、虫唾が入る」

 

「パルゲール殿、何が何でもコイツらの腑抜けた笑顔を恐怖に変えてやりましょう」

 

「あぁ。私も君と同意見だよ。だがまずは、殿下の安否を確認しなくてはな」

 

やがて車は大使館の前で止まり、ダラスとパルゲールの2人だけが会談場所へと通された。会談場所には既に、川山が1人で待ち構えている。

2人が部屋に入るや否や、部屋で少しくつろいでいた川山を見てダラスの顔色がサッと変わった。

 

「お、お前は!!!!!!」

 

「ど、どうしたのだダラスくん!」

 

「人を化け物の様に言わないでください。私は普通の、生きた人間ですよ」

 

まさかのご挨拶に、川山もジト目でダラスを見る。だがダラスからしてみれば、川山含め三英傑は疫病神なのだ。こうもなる。

 

「パルゲール殿、奴は、奴は!神谷浩三に並ぶ、三英傑の1人です!!」

 

「何だと!?!?」

 

そしてパルゲールも、漸く理解が追い付いた。あの捕虜奪還をやってのけた、神谷浩三・修羅の言っていた『三英傑』。その1人だとなれば、パルゲールでも目の前の男の重要性や危険性をすぐに理解できる。

 

「あのー、取り敢えず座りませんか?まさか私の顔を見るためだけに、態々ここまで来た訳ではないでしょう?」

 

「あ、あぁ。そうだな.......」

 

「.......」

 

川山の今の言動、これで話の主導権をまずは握れた。こういう場ではまず先に話し出した方が有利なのだ。主導権を握れば、今後の話をコントロールしやすい。

 

「.......先ほどは取り乱してしまい、申し訳なかった。グラ・バルカス帝国外務省、事務次官のパルゲールだ。官僚の事実上のトップ、と考えて貰いたい」

 

「大日本皇国外務省、特別外交官。川山慎太郎です。そちらのダラス外交官の言う通り、私は三英傑の1人でもあります。して、今回は一体どのようなご用件で?」

 

「単刀直入に聞こう。貴国、大日本皇国は我が国の皇太子であられる、グラ・カバル殿下を拉致しているのではないのか?」

 

「.......拉致とはまた、突拍子も無い話ですね。少なくとも私はその様な報告を受けておりませんが、よく知る者に話を聞きましょう」

 

という訳で、隣の部屋で待機していた神谷が呼び出される。ダラスは神谷の顔を見るや否や顔を青くするが、神谷の方はそん事には気づかずに堂々と川山の隣に座る。

 

「で、何だっけ?お宅の皇太子をウチが拉致したんだっけ?」

 

「あぁ。そんな作戦、実行していたのか?」

 

「してねぇよ。そりゃまあやろうと思えば皇太子だろうが皇帝だろうが、拉致も暗殺も出来なくは無いだろう。だけどなぁ、旨みねーもん。やる意味ないのにする訳ないでしょ」

 

「.......参考までに、その理由をお聞かせ願おうか」

 

「まず第一に国民性だ。帝国の国民は皇帝と皇族に、それはそれは並々ならぬ畏敬の念を持っている。国民が愛する存在を暗殺でもしてみれば「皇国を倒せー」「皇国は悪だー」という世論になって、戦争が悪化して面倒臭い。

第二に意味がない。仮に皇太子が国民から人気が高ければ、一つ目同様の事が起きる。よほどのクズで国民からも嫌われていたとしても、所詮は皇太子。次期国王ってだけで、国民への実害が無い以上は殺しても意味がない。

第三に誘拐するメリットがない。誘拐して、その後どうする?立てこもり犯でもないのに、そっちに身代金を要求するのか?まさか。誘拐しましたで終わったら、する意味ないでしょ?」

 

勿論、ICIBとJMIBの工作員はグラ・バルカス帝国本国にも潜入している。そのため、1人2人の要人を殺す位できる。だがそれをやるメリットが無い上に、わざわざ手間暇かけてやり遂げた工作員の潜入をそんな無意味な事で失いたくない。例え成功しようと失敗しようと、今後の工作員潜入に悪影響も及ぼすだろう。となれば、そんな変な真似はする必要がない。

 

「貴様、先程から聞いていれば何だその態度は!?!?!?仮にもグラ・バルカス帝国という、この世界の主人たる国家の使者を相手にしているのだぞ!!!!!」

 

「バゴスだがタコスだか覚えてねぇけど、テメェにだけは言われたく無い。そもそも俺は外交官じゃないし、アンタらの国と俺達の国は戦争中。こっちはそっちの用事にわざわざ答えてやってる立場である事を忘れるな。

別にアンタらの皇太子の生き死には、俺達には関係ない。ここで油売ってる暇があるなら、アンタらが草の根分けてでも探した方がよっぽどマシだろ」

 

「君、余り我々を舐めるなよ?我が国にかかれば、貴様らの国を滅ぼすなど容易い事だ!!!!!」

 

パルゲールが怒鳴った。だが怒鳴られた所で、こちらにはダメージがない。それより「滅ぼすなど容易い」とかいう、かなり聞き捨てならない発言が聞こえた。今度は川山がそこに噛み付く。

 

「我が国を滅ぼす?たかだか110年前の枯れた技術で、よくもまぁそこまで威張り散らかせられる物だ。そちらは他国の人間を野蛮人だの蛮族だのと言っている様ですが、礼儀を払わず、外交の場で恫喝。我々からしてみれば、そちらも十分蛮族ですよ?」

 

「貴様、その発言の意味を分かっているのか?我々を侮辱する言動、それをそのまま私が報告すれば貴様らの命運は決まる。分かるか?貴様らの命運は今、我らの掌の上なのだ。私が帝国の意思決定を左右できると知れ。

その様な言動を受けた以上、東京は灰燼に帰すだろう」

 

「なんだ、どうやって攻撃するつもりだ?海か?空か?まあ別に何でもいいが、結果は分かりきっている。我々の軍事力を舐めない方がいい。我々の兵器群は、アンタらの骨董品兵器より遥かに強い。そうだな、例えるならアンタらの軍隊は新聞紙丸めた刀と折り紙の兜を装備した子供であり、我々は最新鋭の装備を持った最精鋭の歴戦の猛者。その戦闘の勝敗は火を見るより明らかだろう?

アンタらが言った言葉、そのまんま返すぜ。我々と事を構え、もしその矛先を天皇陛下の住まう東京に向けた時、我々はお前達を滅ぼすまで進撃し続ける。首都アグラは灰塵どころか、その灰の最後の一片までも殲滅させる。覚悟しておけ」

 

パルゲールもダラスも何かまた怒鳴りそうだったが、神谷の殺気と川山の無言の圧に負けて早急に部屋を出ていった。残された2人は、どうしたものかと話し合う。

 

「なぁ、本当にその皇太子を暗殺してないんだよな?」

 

「あぁ。今ここで暗殺や誘拐しても、マジで旨みがない。というかまず、その皇太子殿下を俺は存じ上げん」

 

と言いつつ、神谷は素早くデータベースから検索して、工作員が送ってきた皇族の写真から探していた。そこでようやく、神谷は気付いた。あの刀で斬り殺した高級将校は、件の皇太子殿下だったのだと。

 

「.......」

 

「どうした?」

 

「.......なぁ、例のグラ・カバル皇太子。俺が殺してたわ」

 

「え、ごめん。もっかい言ってくれる?」

 

「グラ・カバル皇太子殿下殺害の犯人、俺でした」

 

「はあぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

大使館がプリンやゼリーの如く、上下左右に震えた。ついでに窓もビリビリと揺れている。その声量は、最早音波兵器である。

 

「えぇ!?いや、なんで!?!?なに、本当に暗殺しちゃったのか!?!?」

 

「違う違う。この間のFOB同時攻撃作戦、あの時にバルクルス基地で皇太子と遭遇したんだ」

 

「分かってて殺したのか!?」

 

「な訳あるか!服装が妙に豪華だったから、今言われてみれば皇太子だと分からなくもないが、あの時は単に将軍クラスの将校だと思ってたんだ。しかもその皇太子が斬りかかってきて、そのままザクッと」

 

経緯を聞いた川山は、完全に頭を抱えた。今のグラ・バルカス帝国にとって三英傑、取り分け『神谷浩三』はダラスやシエリアの反応を見る限りかなりの禁句。そんな状況で「アンタらの皇太子殺したのは、神谷浩三です」という話が流れれば、帝国国内は大荒れだろう。

 

「.......なぁ浩三。これ、どうするんだ?火消し無理ゲーじゃん。仮に今のうちにこっそり燃やしたとしても、バレた時が大変だ」

 

「ならさ、もういっそ燃料投下してやれば良いんじゃね?」

 

「は?」

 

「この戦争、俺達の夢としてはかなり好都合だ。いつか健太郎が言ってただろ?「皇国をこの世界のリーダーにしたい」と。今、世界は疲弊している。これまで最強と言われた神聖ミリシアル帝国は敗退し、今やグラ・バルカス帝国を止める術はない。

だが皇国は違う。こっちは帝国の侵攻を止めるどころか、そのまま息の根を止めることだって造作もない。なら、この優位を活かさない手はない。既に取りつつある軍事的イニシアティブをより盤石な物とし、戦後国際社会でミリシアルと同格レベルの物に駆け上がる。その為にはこの戦争、長引いて貰う必要がある。他国民が何億何兆死のうと、構うことはない」

 

神谷の言動は明らかに倫理観としてはアウトだし、なにより人としてどう考えてもヤバい言動だろう。だが、国とはこういう物なのだ。あくまで合理的に、他国より自国を優先させる物なのだ。利用できる物は何でも利用し、使える物は何でも使う。他国民が危険に晒されても、被害に遭っても関係ない。そういう物だ。

 

「だが軍事だけでは.......」

 

「経済も潤う。戦争とは一部の業界では、文字通りの金のなる木さ。燃料弾薬、食料、医薬品、兵器、その他諸々etc。戦争は金になる。それに戦争で徹底的に破壊し、された後、神谷グループを始めとした企業が復興支援を行い、そのまま利権を貰う。

しかと復興支援とあらば、他国は皇国に恩ができる。その恩は外交でのカードにもなるし、復興支援という実績は政治的にも大きい筈だ。軍事、経済、政治、外交。全ての面でイニシアティブを取れる筈だ」

 

「確かにそれなら、良い手かもしれない。だがやはり、まずは健太郎に相談だ」

 

「あ、その辺は大丈夫。ほれ」

 

『全部聞いてまーす。イェイ』

 

そう。ここまでの会話、全部神谷が電話で送っていたのだ。というか何なら、神谷は一色から「出来れば良い感じにイニシアティブ取って、戦後に国際社会に踊り出たいんだけど、できる?」と依頼されてたりする。その為、元よりこの意見には大賛成だったのだ。

 

「まあ健太郎も良いなら、そのスタンスで行くか。で、浩三。どうやって燃料投下するんだ?」

 

「簡単だ。アイツらに皇太子殿下の死体をデリバリーする」

 

『ピザかよ』

 

「確かに燃料になるわそれ」

 

という訳で神谷は、すぐにリュウセイ基地に帰還。そのまま部隊を率いてバルクルス基地にまで進出し、そこでカバルの遺体を回収。仕込み(・・・)が完了次第、バルクルス基地を出発した。

 

 

 

翌日 レイフォル 管制塔

「カバル殿下、大丈夫なんですかね?」

 

「仮にも次代の皇帝であられるのだ。きっと生きておいでさ」

 

「チーフ!国籍不明機をレーダーで探知!!」

 

「なに!?」

 

この日、レイフォルにはAVC1突空5機とF8A震電II8機が飛来した。グラ・バルカス帝国側は、直ちに戦闘機をスクランブルさせる。だがその直後、神谷の乗る突空が無線を入れた。

 

『こちらは大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥である。我々に敵対の意思はない。飛行場まで誘導されたい』

 

「チーフ、どうしますか?」

 

「すぐに司令部に連絡する!少し待ってろ!!」

 

そこから小一時間、軍の司令部では幹部達が雁首揃えて協議し、取り敢えず空軍基地に降りてもらう事にした。勿論基地内は、陸軍部隊が厳戒態勢を敷いている。

 

「配置急げ!!」

 

「何をしてくるか分からないぞ!気を引き締めろ!!」

 

「対戦車砲、準備急げ!!」

 

部隊の迎撃準備が終わると、飛行場に突空が降り立つ。帝国が大砲やら銃やらを向けているのと同じように、突空も装備している機関砲群を敵に指向させ、何かあれば即座に応戦できるようにしている。一触即発、火花ひとつで大爆発だ。

 

「大日本皇国統合軍総司令長官、神谷浩三元帥である!!この件の担当者、もしくはこの中の最高階級者と話がしたい!!!!」

 

「私が担当者だ、神谷元帥」

 

そう言って出てきたのは、外交官のシエリアだった。これなら多分、話を分かってくれるだろう。

 

「確か、シエリアとか言ったかな?アンタなら話を分かってくれそうだ。今回俺がここまでの大所帯を連れて来たのは、今アンタらが1番欲しいものを持ってきたからだ」

 

「1番欲しいものだと?」

 

「あぁ。おい!」

 

神谷が合図すると突空の中から甲冑ではなく、儀礼用の正装を着た兵士が2人出てきて、タラップの両脇に立つ。そしてそのすぐ後、今度は同じ様に正装の兵士6人がグラ・バルカス帝国の国旗に包まれた棺を担いで出てきた。

出てきた瞬間、両脇の兵士は手に持っていた三八式歩兵銃を空へ向かって4発放つ。最初は周りを取り囲む全員が2人を撃とうとするが、すぐにそれが弔銃だと知ると撃つことは無かった。

 

「.......まさか」

 

「グラ・バルカス帝国皇太子、グラ・カバル殿下のご遺体だ。彼はバルクルス基地を巡る戦闘の際、俺と俺の率いる部隊と遭遇。剣を抜き、俺に臆することなく戦いを挑み、1人の戦士として、私が殺した。これはその時の服と、儀礼用の剣だ」

 

そう言いながら、神谷は血染めの軍服と剣を渡す。その瞬間、一斉に周りの兵士達が儀礼服姿の兵士達に攻撃を開始した。

 

「皇太子殿下を殺した者に鉄槌を下せ!!!!」

 

「あっちゃー、やっぱりこうなったか」

 

だが神谷も儀礼服姿の兵士も、全く動じない。儀礼服であれば防弾性能が無く致命傷を避けられないだろうが、今回は機動甲冑の上に儀礼服を着てるし、顔もメットの上にマスクを着けている。たかだか小銃弾では殺せない。

それに何故、突空を態々5機も連れてきている?残りの機体には完全武装の白亜衆の精鋭達が乗り込んでいるのだ。

 

「撤収を援護せよ!!!!」

 

「装甲歩兵前へ!!」

 

「俺達の後ろに隠れろ!!!!」

 

これに呼応して、護衛戦闘機隊も戦闘を開始。一瞬の内に基地内は戦場となった。だが例によって、火力で遥かに勝る白亜衆が敵を圧倒し、5分もしない内に飛行場から撤収。そのまま海を目指す。

 

「護衛戦闘機隊はこのまま基地へ帰還。我々は気にするな」

 

『ウィルコ。ご武運を、長官』

 

ここで護衛戦闘機隊とは別れ、5機は編隊を組んで海のある方へ進む。途中、アンタレスからの妨害を受けるが、突空の装甲には20mm弾も役に立たない。

 

「まもなく予定ポイントです」

 

「さぁ、アイツら驚くぞ」

 

次の瞬間、洋上に巨大な戦艦が浮上した。究極超戦艦『日ノ本』である。本来の予定では遺体を引き渡して、そのまま基地に帰るつもりだった。だが交渉が決裂した場合、威嚇の意味も込めて『日ノ本』で帰還する事にしていたのである。

 

「なんだあの戦艦は!?!?」

 

『わかりません!!』

 

『なんてデカいんだ.......。あ、おい見ろ!!』

 

『輸送機が戦艦に向かっている.......』

 

「あれは皇国の戦艦か!!こちら追撃隊!近海に超巨大戦艦出現!!至急、攻撃隊をあげてくれ!!」

 

追撃の戦闘機隊が基地に無線を送り、すぐに基地から応援部隊が発進する。だが攻撃隊が離陸してる間に手早く突空を収容し、ついでに周囲の戦闘機を迎撃して『日ノ本』は海へと潜った。

攻撃隊が現場海域に到達した頃には、もうアンタレスの残骸しかなかったという。ともあれ、グラ・カバルの遺体はどうにか帝国に引き渡す事ができた。そして帝国はこれを受け、この戦争でも五本指に入る負け戦を行う事になるのである。

 

 

 

 

 

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