翌日 バルチスタ沖400km 総旗艦『日ノ本』 中央作戦室
「現在艦隊各艦はこの様に布陣しており、グラ・バルカス帝国艦隊を待ち構えております」
「潜水艦隊の状況は?」
「既に艦隊を捕捉、追尾中であります」
聨合艦隊の編成より一夜明け、艦隊は予てからの作戦通りに動き出していた。機動遊撃艦隊は半数ずつに別れ左右に100km間隔で布陣し、逆三角形を描く様に連合機動艦隊が布陣。さらにその後方250kmの位置に『日ノ本』を筆頭とした本隊が布陣している。潜水遊撃艦隊は潜水艦隊と潜水戦隊に別れ、艦隊は前衛突撃艦隊と共に機動遊撃艦隊の前方120kmの海域に進出し、通常の潜水艦のみで構成された潜水戦隊はグラ・バルカス帝国艦隊を追尾している。
「前衛の機動遊撃艦隊からは、攻撃許可の催促が来てます」
「そんなに?」
「かれこれもう10回以上」
「出させても良いんだけど、それじゃ面白くないからなぁ」
今回の海戦、どんなに素人の馬鹿が指揮をとっても勝てる。聨合艦隊とは全ての主力艦隊と潜水艦隊が、『日ノ本』という究極超戦艦の下に集って形成された艦隊。言い換えれば、大日本皇国海軍のほぼ全ての戦闘艦艇が1つの艦隊を成しているのだ。
一方のグラ・バルカス帝国艦隊は艦隊規模でも単艦性能でも劣っており、ミサイルの1発も落とせない。正直このままミサイル飽和攻撃で全艦薙ぎ払う事もできる。こんな具合に。
神谷「ミサイル全弾発射!」
シュボボボボボボボボボボ
ドッカーーーーーン
全⭐︎艦⭐︎撃⭐︎沈
ふざけているかの様に見えるかもしれないが、ホントにこれで戦闘を終わらせられるのだ。だがそれでは、折角引き連れてきたこの大艦隊の意味がない。
ならば、手間を掛けて嬲り殺しにするのが一番だ。軍隊を挙げて一兎を狩る者は居ないが、偶には軍隊どころか国家を挙げて一兎を狩ったって良いじゃない。
「長官、右翼の機動遊撃艦隊より入電。『我、敵偵察機を発見す!』です!!」
「よーし!一から百まで、全部向こうに送って貰え。無線傍受の上、ある程度位置が送られたら堕とせ」
「アイ・サー!」
完全に遊ばれている。だがそんな事は知る由もないリゲル型雷撃機の乗員達は、右翼機動遊撃艦隊の情報を無線で送る。
「俺達ツイてるな!」
「あぁ!だがコイツは多分、前衛の艦隊だ。本隊じゃない」
「にしても対空砲火一つ上がらないのは、妙ですね。護衛機がいる訳でもないし」
「奴ら思ってるより練度が低いのかもな!ははは!!」
機長の考え同意見なのか、3人揃って大爆笑であった。だが次の瞬間、リゲルは爆発。3人は死んだ事を認識する前に、バルチスタの海に散った。
「敵機、撃墜確認」
「よろしい。では航空参謀、艦載機を対艦装備で上げろ」
「アイ・サー!」
伊吹型12隻から、延べ700機のF8C震電IIと3機のE3鷲目が上がる。艦隊上空で編隊を組み、一度敵艦隊とは全く別の方向に飛び、敵機がまず到達できない高度まで上げてから敵艦隊を目指す。
一方のグラ・バルカス帝国艦隊側はアンタレス60機、シリウス型爆撃機140機、リゲル148機の編隊を繰り出して来た。
「司令、先遣艦より入電。『艦隊より2時の方向、敵機348機を探知』とのこと」
「対空戦闘用意だ。ただし、長距離の信長は使うな。家康と砲熕兵器のみで対応せよ」
「アイ・サー。では、迎撃はオートではなくマニュアルですね?」
「その通りだ」
「アイ・サー。迎撃管制、マニュアルにて行う!」
「アイ・サー、迎撃管制、
本来であればレーダーで探知した敵を、そのまま半自動で迎撃するのが皇国流である。だが流石に今回は敵も多い上に空母も多く含まれる事から、なるべく無駄弾は撃ちたくないのだ。いざという時に「ミサイルがありませーん!」では、如何な皇国艦艇と言えど駆逐艦なら沈む可能性が一気に上がる。え、戦艦ならどうかって?多分普通に耐える。
右翼機動遊撃艦隊が迎撃準備を整える一方、先遣艦である浦風型の『未来』には、目視でも敵が確認できるほどの位置にまで迫っていた。
「右30°に航跡視認!」
「軽巡洋艦級か?恐らく先遣艦だろう。だが、我が帝国のレーダーピケット艦的役目なら面倒だな。ハットン、ハットン聞こえるか?」
『こちらハットン。なんです隊長?』
「お前の隊であの軽巡を沈めろ。雷撃隊からも8機ばかり出張って貰う」
『お安い御用ですぜ。でも帰ったら、酒の1杯でも奢ってくださいよ!』
ハットン隊の4機のシリウスと、雷撃隊からリゲル8機、戦闘機隊から4機が本隊から分離し『未来』へと向かう。
「ハットン隊、俺に続け!高度3,000まで上昇!!」
「雷撃隊、これより雷撃針路に着く。高度50まで降下!」
どちらの航空隊も一糸乱れぬ飛行で攻撃位置に着く。それを見ていた攻撃隊の指揮官は、部下の成長に感慨深い物があった。
「ハットンの野郎、腕を上げてますね」
「アイツはウチの隊のエースだ。でもな、最初の頃は空母への着艦が下手で下手で。トンボ釣りを5回しでかして、着艦位置が悪くて整備兵にドヤされる事もあったんだぞ」
「あのー、そこは今でも余り成長してないんじゃ.......」
「あー.......」
考えてみれば、前回の訓練で危うく海に落ちかけていた。というか何なら降りた後に、本人が甲板から滑って海に落ちていた。まあ普通に飛ばす分には隊内随一の名パイロットなので、多分問題ないだろう。着艦の方は
『全機、突入進路確保!
「たかが1門の砲で、なにができる!!」
暫くして、攻撃隊による『未来』への攻撃が始まった。雷撃隊の隊長による盛大なフラグ建設が、攻撃開始の合図。
『未来』の名を冠するイージス艦にそのセリフは、ある意味「この戦いが終わったら結婚するんだ」以上のフラグだ。
「右対空戦闘、CIC指示が目標。撃ちー方ー始めぇ」
「トラックナンバー、2628。主砲、撃ちー方始め」
「撃ちー方ー始めぇ!」
砲術手の水兵が、机の下に引っ掛けてある主砲のトリガーを抜き取り、引き金を引く。
ドン!
主砲から放たれた砲弾は機体の中心線に命中し、起爆。爆風と衝撃波で機体は翼がもがれて、そのままバランスを崩し海面に突っ込む。パイロットも眼球の他、色々飛び出しちゃいけない物を飛び出させながら燃え尽きた。
ドン!ドン!
続くリゲルもVT信管で機体の正面で爆発し、爆風と衝撃波で機体を錐揉みに撃墜する。
「トラックナンバー2628から、2630、撃墜!」
「新たな目標、210度!」
砲塔が左側から接近するリゲルの方向へと旋回し、左翼の編隊に照準を指向させる。そして照準が整った瞬間…
ドン!ガシャコン ドン!ガシャコン ドン!ガシャコン
続け様に3機、一気に撃墜していく。上空から様子を見ていたハットン隊も、全員が戦慄した。
「隊長ッ!雷撃隊が!!」
「ッ!?」
一方的にやられた雷撃隊の復讐の為か、2番機が『未来』へ急降下を開始。爆撃態勢に移る。
「2番機!ま、待て!!」
「トラックナンバー2642、さらに接近!」
「家康発射始めぇ!サルボー!!」
今度は主砲ではなく、艦後部甲板に搭載された発射筒から短距離艦対空ミサイル家康が発射。2番機へ襲い掛かる。
「くっ.......うっ.......」
突入角度70〜80度という深い角度から来る重力加速とGで苦しく視野が狭まるが、2番機のパイロットは自機に襲い掛かる何かを確かに見た。「ぶつかる」と思った時には、自機に命中し機体が燃え上がった。
「2番機!!うおぉっ!!!!2番機!!な、何が起こっている!?!?」
2番機の爆炎と残骸の中にハットン機は突っ込む。だが周りは黒煙で、何も見えない。だが数秒で煙は晴れ、またさっきと同じ明るい空と青い海が見えた。
「デビット、ダメージはないか!?」
「大丈夫です隊長!銃座も身体も、ピンピンしてます!!」
「よし!うぉ!」
だがホッとする間も無く、またさっきのロケットが飛んできた。咄嗟に翼を少し振って、どうにか回避できた。ロケットの航跡を見るために振り返ると、ロケットはそのまま後ろにいる3番機、4番機を目指して飛んでいくのが見えた。
「ッ!?」
それに気付いた3番機が右上方に回避する為に、機体を右斜め上に傾ける。
「振り切れぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
だがロケットは3番機の腹に命中し、爆発。4番機は逆に降下してスピードを稼ぎ回避しようとするが、ロケットは余裕で追い付く。どうにか回避しようと機体を傾けた瞬間に命中し、機体は爆散。
更に2発のロケットが飛んできて、残っていた雷撃機にも襲い掛かった。1機は左主翼をもがれて、もう1機は回避しようと垂直上昇したところに、正面からロケットが突き刺さって爆散した。
(貧弱な武装だと?このハリネズミめ!!コイツは通常の攻撃じゃ沈められん!!)
「デビット。ケイン神王国との戦いじゃ、何度もお前に助けられたよな?」
「光栄です!」
「脱出しろ」
「えっ、どうしてですか!?」
「前を見ろ」
デビットが前を見ると、機体左前方から黒い液体が吹き出していた。エンジンオイルである。
「オイル漏れだ。油圧が下がってる。残念だが、
「隊長は、どうするんです!?まさかッ!!」
「心配するな。まだ死ぬつもりはない。だがコイツは、まだ奥の手を隠し持っている。奴の情報を持ち帰ることが、帝国が私に与えた、使命なのだ!」
ハットンがそこまで言うと、デビットも安心したのか脱出の為にパラシュートを準備した。そして準備を終えると、風防を開ける。
「隊長!先に行きます!!」
「おーう!後でな!!」
デビットはシリウスから訓練通りの姿勢で外に飛び出す。数秒後、真っ白なパラシュートが開いた。一方のハットン機は『未来』へと突っ込む。
「距離1,500!オッケー、センターに捉えた!!500kgの火の玉を、食らいやがれぇ!!!!」
ハットン機は機体中央部の500kg爆弾を切り離す。だがそれと同タイミングで、『未来』艦橋下に搭載されたCIWSの52式六銃身20mmバルカン砲が自動的に作動。爆弾を破壊する。
「各科、受け持ちの区画のチェックを行え!!」
「各部異常無し!!」
「ッ!?敵機直上!急降下!!!!」
ハットンの攻撃は終わらない。今度は機体を艦にぶつけるべく、操縦桿を倒しっぱなしにしたのだ。
「突入角度80°!経験のない角度で俺は、まだ、正気だ!!この化け物め.......。お前の呻きを、聞かせてみろ!!!!!!」
そう言いながら、ハットンは機関銃の発射レバーを引く。7.7mmの豆鉄砲が、艦橋付近に命中。軽快な金属音が鳴り響く。
「面舵いっぱーい!!右停止、左一杯急げぇ!!見張り員退避、衝撃に備えぇ!!!!」
「面舵いっぱーい!!右停止、左一杯急げッ!!見張り員退避!!!!」
「面舵いっぱーい!!!!!!」
艦長の号令は即座に艦橋の航海長が復唱し、水兵達が命令を実行する。操舵員は右に舵を切って、機関員は右スクリューを停止させ、代わりに左スクリューの出力を全開にさせる。
この頃には無人となったハットン機。これが幸いして『未来』の動きについていけず衝突コースから外れた上に、20mmバルカン砲の弾幕でズタボロになり爆発四散。『未来』の被害は艦橋のガラスが割れて、ついでに艦橋上部に穴が空いた程度で済んだのであった。
この間にも攻撃隊本隊は尚も前進し、遂に対空迎撃ラインに突入した。ここから攻撃隊にとっての悪夢が始まる。
「全艦、対空戦闘用意。主砲砲撃戦、弾種、時雨」
「対空戦闘よーい!」
「主砲砲撃戦、方位128、仰角最大。弾種、時雨弾」
「諸元合致しました」
「撃ち方ー始め!」
「撃てぇ!!!!!」
伊吹型12隻、合計36発の時雨弾が敵編隊目掛けて飛んで行く。460mm時雨弾には10発の小型ミサイルが内蔵されており、合計で360発のミサイルが襲い掛かる。だがその特性上、実は誘導性は余り高くないので1発ずつ個別目標に向かわせると命中率が結構低くなってしまう。そこでミサイル2発で1つの目標を追いかけるように設定されており、実質は最大でも180個の目標にしか当たらないのだ。
「ハットン隊はどうなったんですかね?」
「今頃、一足先に母艦に帰ってるだろうよ。こっちも早いとこ帰りたいもんだ」
既に攻撃が始まっているなんて知る由もない攻撃隊は、尚も艦隊目指して飛ぶ。だが次の瞬間、遥か前方で何かがキラリと光ったのが見えた。
「今何か光っ」
気付いた時にはもう遅い。先頭を飛んでいた攻撃隊、165機が撃墜されたのだ。
『敵襲!!』
『クソッ!!敵は一体どこから攻撃しやがった!?!?』
『太陽からか!?ちくしょ、全く見えなかったぞ!!!!』
『戦闘機隊、増槽を投下!!攻撃隊を守り抜け!!!!』
『今の一撃で先頭がほとんど吹き飛んだぞ!!』
攻撃隊は謎の攻撃に混乱し、編隊も疎になる。まさかこの攻撃がたった一斉射で齎された被害だとは、誰も思わなかった。一応グラ・バルカス帝国海軍にも三式弾の様な、対空戦闘用の主砲弾というのは存在する。だがそれはあくまで、もっと至近距離からの砲撃でないと対空戦闘では意味をなさない。
というか何なら至近距離から撃っても、グレートアトラスター級の主砲でないと余り効果がない。基本的に主砲を用いた対空戦は、低空の目標に対して、海面に砲弾を撃ち込んで巨大な水柱を形成し、そこに突っ込ませるか回避して高度を上げたところを対空砲でバリバリとやるのが基本戦法である。故に水上艦艇からの砲撃だとは、誰も夢にも思わなかったのだ。
「初段命中。第二射、砲撃用意」
「待て。40秒。先の砲撃より40秒待ったのち、第二射を撃て。あ、いや、1分後には摩耶型の射程範囲だったな?」
「ハッ。その通りでありますが」
「では摩耶型と同時に撃つ。弾種そのまま、照準任せる」
「アイ・サー!」
伊吹型も大和型も、その巨大な砲弾の割には超高速で装填可能なのだ。例えば海上自衛隊を筆頭に、西側諸国の主砲として採用されているオート・メラーラ社の127mm砲を例に挙げてみよう。こんごう型に採用されてるタイプであれば毎分45発、同社の76mm砲ならタイプにもよるが毎分80〜120発である。見て分かる通り、結構な高レートだ。だがあくまでこれは、使う砲弾が比較的小さいという理由がある。小さければ、それは勿論軽い。故に動かしやすい。どの位の大きさかと言うと、127mm弾でも頑張れば両手で抱えられる位だ。何なら運べる位の重さでもある。
所が戦艦の砲弾ともなれば、そうもいかない。大きさは大人1人分で、重量は物にもよるとは言えど普通に1t超え。持ち運ぶなんて、まず不可能だ。だから本来なら装填速度も遅くなるし、というか昔の大和型でも毎分1〜2発が限度だった。ところがどっこい、伊吹型も大和型も毎分20発である。勿論砲塔ではなく1門で。大体3秒で装填が終わるのだ。因みに熱田型なら毎分15発、日ノ本型なら毎分10発である。
「敵編隊、摩耶型の射程圏内に入りました!」
「第二射、撃て!」
「撃てぇ!!!!」
第二射の砲弾数は更に多い。摩耶型23隻かけることの6門。これに伊吹型の砲門も合わせて、合計で174発。ミサイル数もその分跳ね上がり、この一撃で攻撃機隊は全機撃墜された。
ハットン隊の全滅、そしてこの攻撃隊の全滅はハットン隊と共に護衛として残っていたアンタレスのパイロットによって艦隊に報告される。
同時刻 第三先遣艦隊 空母『ワインバーグ』
『こちら第一次攻撃隊!こちら第一次攻撃隊!第339戦闘飛行隊、第6小隊1番機より『ワインバーグ』へ!!』
「こちら『ワインバーグ』。どうした?」
『第一次攻撃隊は、大日本皇国艦隊接敵前に迎撃に遭遇したと思われる!部隊は本小隊以外は全滅!第二次攻撃隊を要請します!!第二次攻撃を!!』
第三先遣艦隊の旗艦『ワインバーグ』に飛び込んで来た報告に、司令以下幕僚達は戦慄した。全機合わせて308機の大編隊の内、304機やられたのだ。無理もない。
「司令、どうなさいますか?」
「.......第二次攻撃隊を上げる。第6小隊は直ちに帰還させよ」
「イェッサー!」
この時、司令も第6小隊のパイロットも、皇国の迎撃戦法が航空機ではなく遥か彼方からの砲撃による物だと知っていれば、第二次攻撃隊発艦という判断は下されなかっただろう。だが彼らはそれを知らなかったのだ。第6小隊だって、攻撃隊本隊の大半が撃墜された後に現場に到着し、海面に浮かぶ残骸からそう判断したにすぎない。
「『ワインバーグ』より任務中の攻撃隊へ。全機、帰還せよ。繰り返す。本艦は、第二次攻撃を準備中。こちら空母『ワインバーグ』。第一次攻撃隊は、帰還せよ。第二次攻撃隊は現在、発艦準備中」
もしかしたら生き残りがいるかもしれない他の第一次攻撃隊へも届く様、『ワインバーグ』から全機帰還の命令が無線で伝達される。この無線が届いたのは第6小隊しか居なかったのだが、それ以外に聞き耳を立てる者がいた。第一次攻撃隊発艦と同時に飛び立った、攻撃隊の支援についている鷲目である。
「懲りないねぇ」
「だがその方がこちらもやり甲斐がある。それは、あっちも同じじゃないのかい?」
鷲目の電測員が顎で編隊を組む震電IIを指す。第二次攻撃隊を飛ばしてくれる位、骨のある連中の方がこちらも攻撃しがいがある。
「こちらビッグボーイ!攻撃隊へ。敵さん、性懲りも無く第二次攻撃隊を飛ばそうとしている。その前に叩いてくれ!敵の編成は空母3、戦艦1、重巡6、軽巡10、駆逐60!」
正確な第三先遣艦隊の編成はペガスス級3、オリオン級2、タウルス級4、アマテル級2、アルドラ級8、レオ級2、エクレウス級12、キャニス・ミナー級48である。因みに他の先遣艦隊の陣容は以下の通り。
第一先遣艦隊
・ヘルクレス級4
・ペガスス級2
・タウルス級14
・アマテル級4
・レオ級20
・アルドラ級6
・キャニス・ミナー級31
第二先遣艦隊
・オリオン級2
・ペガスス級7
・アマテル級6
・レオ級4
・アルドラ級14
・キャニス・ミナー級20
・エクレウス級20
第四先遣艦隊
・オリオン級1
・タウルス級7
・レオ級60
・キャニス・メジャー級68
・エクレウス級10
・キャニス・ミナー級80
・スコルピウス級286
役割としては第一先遣艦隊が本隊、第二先遣艦隊が主力機動艦隊、第三が予備の機動艦隊、第四先遣艦隊が水雷戦隊を中心とした切込み隊、と言った所である。
『了解したビッグボーイ!野郎共、仕事の時間だ!!』
震電IIには今回、先述の通りASM4海山が満載されている。各機6発、700機なので4200発。この内、ミサイルを放ったのは100機で、それも2発ずつだった。なので計200発の海山が第三先遣艦隊目掛けて飛ぶ。
第三先遣艦隊はこの事に気付くことは無い。それもその筈。この海山はステルス性能が高い上に、ECMも装備している。オマケに速力はマッハ8を叩き出す、極超音速空対艦ミサイルなのだ。これだけの速度とステルス性能を持ってすれば、レーダーは勿論のこと肉眼ですら捉えられない。
「司令。報告が遅れましたが、第二次攻撃隊発艦準備完了まで後6分です」
「そうか。ありがとう、艦長」
「.......司令。司令は第一次攻撃隊の壊滅について、どうお考えですか?」
艦長はずっと疑問に思っていた事を投げ掛けた。明確な答えは期待してないが、もしかしたら何か新たな視点が見つかるかもしれない。そんな藁にもすがる思いで質問すると、司令は神妙な面持ちで語り出した。
「これは艦隊司令級にしか明かされてない情報なのだがね、カイザル将軍が言うには皇国の戦闘能力は我々の遥か先を行っているそうだ」
「と言いますと?」
「今回の様な防空であれば、直掩機による防空を除けば、我々のセオリーは敵が有視界に入ってからだ。高角砲と対空砲で弾幕を張るね?
だが彼らの場合、視界に入るよりも前に迎撃できるそうだ。ロケット兵器というのを、君も一度は聞いたこと位あるだろう?あれの進化系が駆逐艦に至るまで、大量に装備されているという話だ。恐らく第一次攻撃隊は.......」
「ロケットにやられた、と?」
「あぁ。少なくとも私はそう仮説を立てた。だから今度は数を多くし、なるべく編隊も広めに取って、限界ギリギリの高高度から攻める様に指示を出してある。これでやれれば良いんだが.......」
艦隊司令の考えた戦法は、逆の超低高度の飛行こそが正解である。艦隊司令の中ではロケット、もといミサイルに誘導性能は無いか皆無に等しいと思い込んでいたのだ。対空噴進砲のイメージが最も近いだろう。対空噴進砲は簡単に言えば、ロケット弾をばら撒いて弾幕を張る兵器。故に低高度は危ないと、そう考えていたのだ。まさかロケット弾1発1発に誘導性能があり、撃てばほぼ百発百中だとは思ってなかったのである。
というかそもそも、この時代の技術レベルでは高性能な誘導機能を有したロケットを作るには、巨大なビルと同等のサイズ。それを飛ばす様なエンジンは、現在に至るまで開発されてない。余談ではあるがアポロ11号の打ち上げに用いられた管制室なんかのコンピューターは、今のスマホよりもスペックが低かった。「ロケットが進路を変えて、機体を追いかけ回す」なんて発想、生まれるはずもない。
「成功する事を祈りましょう」
艦長が艦隊司令にそう言った瞬間だった。艦が噴火の様な轟音と共に激しく揺れ、右舷側に巨大な爆炎が上がったのが見えた。
「うっ!ぐおぉぉぉぉぉ!?!?!?」
「ぬぅ!?ぅぅん?」
艦長と司令は揃って、ASM4命中の衝撃で椅子から転げ落ちた。そればかりではない。他の艦橋にいた水兵達も、感じたことの無い揺れで立っていられず転けたり、角に頭を強打したり、監視員に至っては転落した者までいた。
(甲板にはまだ、魚雷や爆弾を抱えた機が!!)
艦長の脳裏によぎったのは、甲板で暖機運転を行なっていた第二次攻撃隊の航空機だった。魚雷も爆弾もしっかり満載状態で装備している上に、燃料もタンクにたんまり積んでいる。誘爆すればひとたまりも無いのだ。
実際、今の甲板は地獄そのものだった。爆風に煽られてバランスを崩した機体が隣の機体に衝突して爆発し、その腹に抱えた爆弾や魚雷に誘爆して甲板上で連鎖的に爆発。何なら先頭にいた戦闘機は爆風に煽られて、機首から甲板に突き刺さり、そのまま格納庫区画まで貫通して爆発している。
「ハァ!ハァ!ちく、しょ」
「消火急げ!!」
「消火ぁ!!消火ぁ!!!!」
「ダメだ、とても手が付けられん!!うわぉ!!!」
甲板はどうにか生き残ったパイロットが逃げ惑い、消火班が懸命にホースで放水するも、1つ消し終える前に10倍近くの爆炎が別の所から巻き上がり、もう焼け石にスポイトで熱湯を数滴垂らすような物だった。
「司令、お怪我は!?」
「私なら大丈夫だ。被害を、報告せよ!」
暫くして伝令の水兵が上がってきて、司令に被害を報告し出す。だがその被害は、想定以上の物だった。
「機械室は浸水。機関、停止!飛行甲板及び、弾薬庫にて誘爆多発!消火不能です!!負傷者の集計も、混乱を極めております!」
「本艦の他、艦隊所属艦は全て爆炎をあげており駆逐艦と軽巡に至っては全艦轟沈!!重巡と戦艦も傾斜が酷く、混乱の極みであります!!!!」
「破口からの浸水、拡大中です!!排水ポンプも機械室の浸水により稼働しません!!現在、艦傾斜角11°!復旧は、絶望的!!持って……30分です!!」
司令は艦橋の端まで歩き、その縁を優しく子供をあやすかの様に撫でた。「もはや、ここまでか.......」と呟くとすぐに艦長達に向き直り、力強く命じた。
「総員、退艦!!!!艦長、退艦の指揮を頼む!」
「イェッサー!!」
すぐに艦長は艦の比較的被害が少なかった、内火艇格納スペースに走り指示を飛ばす。
「総員離艦!!ボートを下ろせ!乗り切れん奴は海に飛び込め!!負傷者が優先だ!!」
「イェッサー!艦長も退艦を!」
「生存者の退艦を確認したら私も飛び込む!!私よりも司令を早く!」
「ハッ!」
次の瞬間、またしても艦が大きく揺れた。恐らく、上の機体がまた誘爆か何かで爆発したのだろう。咄嗟に艦長は手すりを掴んだ。顔を上げると、世界がスローモーションに見える錯覚に陥った。目の前を水兵が海に向かって落ちていくのが見える。それを目で追って下に向けると、海は血で赤く染まっていた。それだけではない。水兵達の死体が浮いていたのだ。眼球が飛び出した者、腕が千切れて泣き喚く者、両足を吹き飛ばされて仲間の水兵が必死で声をかけ続けられている者、顔を水面につけて動かない者、ガラスが顔中に突き刺さっている者、最早頭の側頭部ぐらいしか水面に浮かんでいない者と、まさに地獄絵図としか言い様が無かった。
「我々は一体、どんな国と戦っているのだ.......」
艦長がそう呟いた瞬間、再び艦全体が激しく揺れた。それもさっきのとは比にならない、最初の攻撃命中時の時の様な大きな揺れであった。床が急速に傾き、手すりに捕まって立っているのがやっとだった。見れば中心のあたりで、巨大な火柱が上がり艦が沈んでいくのが見えた。次の瞬間、床が直角になり、立ってられなくなって艦長は落ちていった。
同時刻 駆逐艦『未来』 CIC
「.......敵艦隊の反応、消えました」
「すぐに総旗艦に報告しろ」
「アイ・サー!」
第三先遣艦隊の全滅は、すぐに『日ノ本』に座乗する神谷の元に届けられた。神谷は中央作戦室に投影されている敵味方両艦隊の情報を見ながら、次の戦略を考える。
「長官、次の動きはどうなさいますか?」
幕僚の1人、航空参謀の加藤忠道少将が聞いてくる。因みに神谷の幕僚にはこの他、主席参謀の牛嶋穣中将、『日ノ本』の艦長である宗谷悠真大佐、安定の副官兼秘書兼陸上作戦参謀の向上六郎大佐がいる。
「ジョー、なんか良い案ないか?」
「本職としましては、前に加藤から聞いた作戦を推したいですな」
「どんな作戦だ?」
「あー、なんか牛嶋さんが勝手に作戦言ってるだけで、別にそんな大層な物じゃないですよ?ただこの艦隊、機動部隊なので早いとこ叩きたいなと。それで叩くなら第一潜水艦隊が近くに居ますから、ここの艦載機と砲撃でロングレンジから叩けば意表も付けて良いんじゃないかなーっと」
悪くない作戦である。この作戦は直ちに採用され、艦隊に伝達。次なる作戦に移る。バルチスタ沖での戦いは、まだ始まったばかりだ。