数時間後 総旗艦『日ノ本』 中央作戦室
「お、敵が動き出しました」
「進路は?」
「恐らく、第二艦隊を狙うようですね」
グラ・バルカス帝国先遣艦隊は、残存艦艇を集結させ皇国の第二艦隊、つまり連合機動艦隊を叩く戦術を選択したのだ。
「長官、直ちに機動遊撃艦隊を動かしましょう!迎撃に当たらせるんです!!」
「いや、それには及ばないよ少佐。通信士、直ちに第三艦隊にプランF、第二艦隊にプランLの発動を指示せよ」
「アイ・サー!」
だがこの敵の戦術、全て神谷の読み通りなのだ。それに合わせた行動プランも各艦隊司令に伝達しており、符号を使う事で指示を出せる様にしてある。
「長官、何故迎撃されないのですか?」
「おいばか!」
「止めなくて良い中佐。分からない事を知ろうとするのは、まあ悪い事じゃない。別に軍事機密云々でもないからな。
少佐の言う通り、迎撃はする。だがどうせなら、奴等には喜び勇んで連合機動艦隊に攻撃してもらった方が面白そうだろう?連合機動艦隊という最上級の餌に食い付かせ、餌に興奮している間にその後方から前衛突撃艦隊でぶちのめす。最高に面白いだろう?」
「え、エゲツない、ですね.......」
質問した少佐も、まさかここまで情け容赦のない作戦とは思ってなかったのだろう。引き攣った顔で表情筋をピクピクさせている。
「とは言え、編成はどの様な具合なんです?」
「それについては、張り付かせてる潜水艦の方から報告が上がってるぜ」
向上の質問に牛嶋が報告文をチラつかせながら答えた。潜水艦からの報告によると、水雷戦隊による夜戦を仕掛けるらしい。それを聞いた向上と加藤は口を揃えて言った。
「「よりにもよって、赤城型に仕掛けるか」」
「仕方ねーよ、だって向こうの空母の認識は、海上に於ける航空機の運用プラットフォームにすぎない。言っちまえば『海上移動型航空基地』だ。武装も対空砲のみ。昔の『赤城』とか『加賀』みたいに戦艦上がりなら主砲くらい付いてるかもしれないが、それでも所詮は副砲だった20cm単装砲相当だろうよ」
「まあまあ諸君、その行く末はじっくり見るとしよう。そう、彼らの最期の戦いをね。ふふふふふ.......」
「(中佐、あれって.......)」
「(完っっっっっっ璧に入っちゃいけないスイッチ入ったな、ありゃ)」
まさか全部お見通しだとは知る由もなく、先遣艦隊は進路を第二艦隊へと向ける。残っていた第一先遣艦隊と第四先遣艦隊が合流した結果、頭数だけは大兵力の大艦隊である。
「トレマイナー司令、艦隊再編成完了しました!」
「よし、これより敵艦隊への夜襲を仕掛ける。各艦、無線封鎖の上、第四警戒航行序列へ遷移せよ!!」
「ハッ!!」
前回の最後、そして先述の通り、トレマイナーは第一先遣艦隊の援護の元、水雷戦隊を主軸に編成された第四先遣艦隊をぶつける作戦だ。それを踏まえ、今回は第四先遣艦隊を前面に出した第四警戒航行序列を選択する。この陣形であれば発見後、即座に攻撃に移れる。
「専任参謀、敵艦隊の位置はどうか?」
「ハッ。恐らく敵艦隊の進路から見て、大体この辺り。我が艦隊から見て12時から2時の方角、大体100海里圏内かと」
「よし。空母と重巡より、偵察機を発艦させよ!照明弾も持っていけ」
「ハッ!航空参謀!!」
着々と攻撃の準備が進められるが、その全てが皇国軍に筒抜けであった。空からは衛星、海中からは潜水艦が追尾し、あらゆる動きが総旗艦『日ノ本』へとつぶさに上げられている。しかも動きは全て、東郷指揮システムによって全艦艇に共有されている。
更にそこから中央作戦室に収められたスーパーコンピューターとAIにより解析され、敵の次の一手の予測までしているのだ。これでは勝ち目がない。因みに解析ではどの様なことが行われているかというと、例えば通信なら暗号の解析、発光信号や手旗信号ならパターン解析を行い、向こうが使えば使うほど内容の解析ができる様になっている。戦場に於いて、この力は絶大なアドバンテージとなる。
「空母『マルカブ』より、偵察機発艦準備完了との報告!!直ちに発艦させるようです!!」
「続けて重巡『エルナト』『アルキオネ』も水偵発艦準備完了との事。あっ、たった今カタパルトから射出されました!」
漆黒の空に航空機達が羽ばたく。生憎の暗闇かつ、ライトの類いは全て消している以上、音しか聞こえない。だがその音だけでも、とても頼もしいと感じられる物だった。
そしてその頼もしい偵察機達は、コイツらも捉えていた。
「敵艦隊より航空機が発艦した。恐らく偵察機だろう。艦隊に報告」
かれこれずっと第一先遣艦隊をストーキングしていた『伊934』である。本来真っ暗闇で音も拾えない潜望鏡では、航空機を発見するなんて不可能だろう。だがそれはグラ・バルカス帝国の潜水艦なら、である。皇国海軍や現代の各潜水艦の潜望鏡は電子式、簡単に言えばビデオカメラで撮った映像なのだ。つまりここに暗視装置、所謂ナイトビジョンやサーマルを仕込む事ができる。となれば、暗闇だろうが嵐の中だろうが関係ない。
この情報は数分後には全ての作戦艦艇に知れ渡り、この報告を受けた第二艦隊は艦隊の分離を決断。駆逐艦、重巡、空母を後方に下げ、艦隊は潜水艦と16隻の赤城型要塞超空母のみにしたのだ。その姿はすぐに偵察機に見つかってしまう。
「機長、アレ!!」
「敵空母だ.......。16隻と少ないし護衛もいないが、好都合だ。おい、すぐに無線だ!!」
「はい!!こちら偵察機1号!敵空母16隻を発見した!!方位2-8-3、距離80海里!!」
発見の報を受けたトレマイナーは空母を最低限の護衛と共に分離させ、いよいよ敵艦隊への突撃を敢行するべく動き出す。他の偵察機をまだいるであろう敵艦隊に向かわせ、数機をたった今発見した艦隊付近に張り付かせる。頃合いを見て、照明弾を投下させるのだ。
数時間の時が過ぎ時刻は02:00を回った頃、遂に先遣艦隊は敵艦隊を射程に収めた。さあ、戦闘開始だという時に、トレマイナー達が全く予想していなかった事態が起こる。
「照明弾、撃て」
なんと赤城型全艦が、一斉に自身の真上に照明弾を撃ち上げたのだ。数百万カンデラの光に照らされた艦隊は、まるで太陽が差しているかのように明るく、周りが真っ暗闇の夜である以上、とても目立った。
「て、敵艦、自身を照明弾で照らしています!」
「構うな!水雷戦隊突撃せよ!!!!」
即座にトレマイナーはそう命じた。これに呼応しレオ級とスコルピウス級を主軸とした水雷戦隊が速力を生かして突撃し、そのすぐ後ろを後詰めと言わんばかりにキャニス・メジャー級とキャニス・ミナー級が突撃。さらにその後方からは残りの軽巡、重巡、戦艦の各艦が援護射撃を敢行。最強の布陣である。
「夜戦だ夜戦だ!!!!」
「艦長、張り切ってますね!!!!」
「折角のスコルピウス級の初陣だ。どうせなら、勝ち星をやりてぇじゃーねぇか」
スコルピウス級駆逐艦は、他のこれまでの駆逐艦とは一線を画す駆逐艦だ。スコルピウス級は最新鋭のボイラーを搭載しており、最高速度40ノットを叩き出す。これに加えて六連装の魚雷発射管を三箇所に搭載しており、高速を活かした水雷奇襲が可能となっている。言うなれば、グラ・バルカス帝国版島風であろう。
だがこのスコルピウス級、まだ実戦を経験した事がない。旧世界ユグドでは一応実戦を経験しているが、それはあくまで敵の輸送艦潰し。こういう艦隊決戦に於ける水雷戦闘というのは、まだどの艦も経験した事がないのだ。だがそれは艦の話であって、乗組員の方は逆に百戦錬磨の精鋭やこの道何十年の古参兵がゴロゴロいる。練度に不足はない。だが今回ばかりは、相手が悪過ぎた。
「奴ら突っ込んでくるなー」
「我々は空母です。彼らの常識では武装と言えば、個艦防空用の対空火器。脅威になる兵装と言えば、精々が高角砲です。こっちが対艦用の武装をしているなんて、これっぽっちも思考の中にはありませんでしょうや」
「だろうな。では、格の違いというのを教育するとしようか。乗組員諸君!何故我が空母の艦型に『要塞超空母』の名が付くのか、その真髄を奴等に示してやるとしようではないか!!!!
主砲砲撃戦!!目標、接近中の敵水雷戦隊!!!!!」
「アイ・サー!主砲回頭90°!!仰角そのまま!!弾種、榴弾!!!!」
「主砲回頭90、仰角まま、弾種榴弾」
「発射準備、良し!!!!」
「撃てぇ!!!!!!」
そう。彼らが相手取っているのは、空母は空母でも赤城型要塞超空母である。大日本皇国海軍が世界に誇る海上移動航空要塞であり、主砲にかの戦艦大和と同じサイズの45口径460mm連装砲を採用した、言うなれば『空母戦艦』である。そんな艦に掛かれば、装甲の脆弱な駆逐艦なんぞ敵にならない。
「敵空母発砲!!明らかに戦艦クラスの砲です!!!!」
「んなバカな事、あるわけないだろうが!!!!」
見張りの報告に『スコルピウス』の艦長がそう怒鳴ったのと同タイミングで、右側に巨大な水柱が上がった。『スコルピウス』も右に左に上へ下へ揺れまくり、何かに掴まってどうにか耐えれるかどうかという経験した事のない揺れを体験する。ついでに水飛沫がスコールのように降り注ぎ、前も一瞬マトモに見えなくなってしまった。
飛沫がやみ着弾した方を見てみると、いた筈の僚艦10隻がゴッソリ消えている。その周りにいた艦も、転覆していたり船体のどこかが抉られている。
「な、なんだ今の攻撃はッ!?!?!?」
「今の攻撃、空母からの物です!!!!」
「アホか!!!!空母がこんな攻撃してくる訳がないだろう!?!?!?こんな芸当できるのは戦艦だ!!それもただの戦艦じゃねぇ!!!!グレードアトラスター級の46cm砲クラスだ!!!!!」
「そんな事言われても、どう見ても今の砲撃は空母から......」
見張り員の話を遮るかのように、また揺れが『スコルピウス』を襲う。今度は前衛を走っていた軽巡が狙われているらしく、凄まじい連射速度で正確に砲弾を命中させている。あんな砲撃、どんなに訓練したって到達できる次元ではない。
「こうなりゃ魚雷戦だ!!!!右魚雷戦!!敵空母の予測進路に、こっちの魚雷を叩き込んだやらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「よしきた艦長!魚雷戦よーい!!魚雷戦よーい!!」
水雷長が伝声管で魚雷員に指示を出す。だがまずは、照準を定めなくてはならない。固定式の双眼鏡を覗き、狙いを定めていく、
「右魚雷戦。発射雷数18、散布角35〜47度。2度ずつで発射」
『了解。右魚雷戦、発射雷数18、散布角35度から2度ずつ』
この発射角であれば、確実に1本は当たる。何せ相手は図体がデカく、小回りは効かない。さらに言えば全長もあるので、当たりやすい的ではある。
『発射、用意良し!』
「放てぇ!!」
シュポンという気の抜けるような音と共に、18本の魚雷が空母目掛けて突進していく。その雷跡は『信濃』へと向かい、18本中7本が立て続けに命中。巨大な水柱が上がる。
「やったぞ!命中命中!!!!」
「よおぉぉし!!!!」
「いいねぇお前ら!!フォゥ!!!!」
艦橋は歓喜に包まれる。「一矢報いてやったぞ!」「味方の仇だ!」と言わんばかりだ。だが当の『信濃』はと言うと…
「敵魚雷、本艦右舷に被雷。雷数8発。されど浸水その他は認められず!各部正常!」
「飛行科整備員、衝撃による軽傷者2名発生。されど戦闘に支障、なし!」
「フッ、たかだか8本の魚雷如きで被害を受けていては『要塞』の名が廃るわ!!よーし、お返しだ!撃ち返してやれ!!!!」
まさかのノーダメージ。しかも負傷者2名も、所詮単なる打撲で翌日とか翌々日には治るような怪我である。精々、今日の風呂は沁みる位のダメージだ。
「て、敵空母健在.......。一切ダメージが通って.......ない.......」
「は?いやいや、8本!!8本だぞ!?!?ノーダメな訳がある.......か.......よ.......」
「そんな馬鹿な.......。動いてる、動いてるぞ!!」
『スコルピウス』の乗組員達は信じられなかった。61cmの魚雷8本を食らって無事な艦は、まず殆ど存在し得ない。戦艦でも撃沈せしめる。にも関わらず、目の前の空母は堂々と航行している。しかも破口は全く確認できない。こんな事、あってたまるものか。
今回ばかりは相手が悪過ぎたのだ。赤城型は空母でありながら大和型以上の防御力を有する。魚雷は同じ場所に数回ぶつける位の芸当をしなくては、装甲を貫徹する事は不可能なのだ。しかも仮に装甲を貫徹できたとしても、二重、三重、四重に構えた装甲水密区画が立ちはだかる。魚雷で沈めるのは、事実上不可能と言っていい。それこそ100本の魚雷でも、どうにか出来るかどうか微妙な所である。
「魚雷再装填!!急げッ!!!!」
水雷長の怒号が伝声管を通して、魚雷室に響く。魚雷員達がすぐに動き出すも、次の瞬間には『スコルピウス』は460mm砲弾に貫かれ轟沈したのであった。
この惨状を見ていたトレマイナーは、自分の選択が見事なまでに悉く外れた事を理解してしまった。しかもここからの逆転、まず無理である。だがそれでも、やるしかない。
「支援砲撃を続けよ!!奴らとて所詮は空母!!!!砲火力ではこちらに分がある!!!!!!」
そんな訳ない。あの事前情報によれば、確か目の前の空母の砲は460mm連装砲であった筈。そんな主砲、グレードアトラスター級でもないとマトモにやり合う事はできない。だがそうであったとしても、戦闘がここまで来てしまった現状では無闇に「撤退」とは言えない。言ってしまえば現場が大混乱し、全員仲良く共倒れであろう。それは避けたい。
(頼む!倒せなくていい!!せめて、せめて向こうを怯ませられるダメージを与えさせてくれ!!!!)
トレマイナーはそう念じ続けた。だが現実は非常な物で、新たな刺客がやってきてしまった。それも後方から、よりにもよって彼らが。
「これより、敵艦隊に突撃を敢行する。全艦突撃隊系!!!!!」
「アイ・サー!全艦突撃隊形。誘導赤外線、照射開始!」
旧大日本帝国海軍の誇る、切り込み番長の水雷戦隊の血を引く正統な後継者。突撃戦隊が後方からやってきてしまったのだ。なんだかんだでこの艦隊、殆ど本編で活躍してないので忘れていた読者も多いのではないだろうか?殆ど活躍してなかったからと侮る事なかれ。コイツら、かーなーりヤバい。
突撃戦隊とは『現代版水雷戦隊』なのは、まあ語るべくもないだろう。水雷戦隊の主武装が魚雷だったのに対し、突撃戦隊ではミサイルになっている。だが変わったのはそこだけではない。速力は70ノット以上を叩き出す快速艦であり、主砲は速射性に長け、機動性自体も極超音速ミサイルを避けることができ、装甲は戦艦クラスの主砲を使わないと撃沈はまず不可能という、頭の可笑しい性能を持っている。具体的にどうなるかは、この後の戦闘を見てもらいたい。
「突撃隊系、構築完了!!」
「突撃!!!!」
この号令が掛かれば、突撃戦隊は止まる事を知らない。敵を求め、敵が殲滅されるまで、彼らは狩り続ける。阿武隈型を先頭に、最高速力で艦隊に迫る。どの突撃戦隊も士気はすごいのだが、この部隊だけは特に凄かった。
「殴り込みだ!切り込みだ!カチコミだ!討ち入りだ!ただひたすらに敵を殲滅し、我ら『華の二突戦』の武勲を稼ぐのだッ!!!!!」
第二突撃戦隊。通称『華の二突戦』である。かつての大日本帝国海軍に存在した、水雷戦隊の精鋭達。第二水雷戦隊の血を引く突撃戦隊の華形であり、最精鋭の部隊でもある。
旗艦も態々『神通』にしており、更にもう1隻随伴する阿武隈型の艦名は『矢矧』と来ている辺り、完全に二水戦の生まれ変わりである。
「戦艦他、重巡、軽巡、駆逐艦多数発見!!!!」
「前部ミサイル発射管、開放!!撃てぇ!!!!!」
「サルボー!!!!」
まずは一番槍として『神通』の三連装近距離艦対艦ミサイル発射機から、3発の対艦ミサイル虎徹が発射される。ミサイルは最外縁部にいたエクレウス級3隻にそれぞれ命中し、他戦隊も最外縁部の駆逐艦を攻撃。そのまま高速を持って、敵艦隊の陣形内に侵入。四方八方に砲弾をばら撒く。
「て、敵水雷戦隊が陣形内に侵入!!外縁部の駆逐艦と軽巡に、相当数の被害が出ています!!!!」
「直ちに迎撃せよ!!!!」
「了解!!!!」
グラ・バルカス側もすぐに砲塔を旋回させるが、ここで問題が起きた。突撃戦隊はそのまま水雷戦隊の方へ突っ込んで行ってしまい、もし撃てば友軍の水雷戦隊ごと攻撃する事になってしまう。皇国海軍であれば火器管制レーダーFCSによる自動照準を用い、さらにIFFの敵味方識別を併用する事で誤射の確率は限りなく下げられる。だがグラ・バルカス帝国海軍の測距儀で測定した諸元をもとに砲を撃つアナログ式の砲撃では、まず間違いなく水雷戦隊にも被害が出るだろう。
オマケに今、水雷戦隊は目の前の空母からの砲撃に晒されている。ここに友軍であるコチラの砲撃で更に追い込んでしまっては、混乱はピークに達し隊列は瓦解。機能不全を起こして、そのままなし崩し的に殲滅される。ならばここは、水雷戦隊の退避が完了するまでは砲撃しないのが一番だろう。
「はっ!やっぱり奴らとて、友軍巻き込んで盛大に砲撃戦はしきらないか!!!!」
「ですな司令!ならこのまま、水雷戦隊を食い散らしましょうや!!!!!」
「おう!!撃って撃って撃ちまくれ!!!!!」
突撃戦隊が水雷戦隊の方に突撃していったのは、彼らを人質にし敵の攻撃を止めるためなのだ。幾ら装甲が厚くとも、あれだけの大艦隊で主砲クラスの弾幕を張られては、至近弾で転覆の可能性がある。
「クソォ!!!早く倒さんか!!!!!」
「無理です艦長!!奴ら速すぎて、こっちの砲旋回が追いつかねぇ!!!!」
「いや、待ってください艦長!奴ら、敵空母の方へ突っ込んでいきますよ!!」
監視員がそう叫んだ。今や味方の水雷戦隊は、あの高速艦によって大半が沈みかけている。だがそれでもやはり、母数が多いのでまだ組織的抵抗は出来る。そんな中、奴らが敵空母へと突っ込んでいくという情報が入ったのだ。なら、そのまま突っ込んで貰おう。
「砲撃を敵高速艦の艦尾に集中!!!!敵をそのまま、敵空母に衝突させてやれ!!!!」
「了解!!!!」
水雷戦隊各艦は突撃戦隊の後方、そして左右に砲撃を集中させ進路を固定させた。そしてそのまま、赤城型と衝突が回避不可能な位置まで誘導することに成功する。
「やった、やったぞ!!これでもう、絶対避けられないぞ!!!!」
「アイツら舵が壊れてたのに突っ込んできたのか?」
「バカだなぁ!!」
船というのはそうそう曲がれないし、車みたいにブレーキ踏めばすぐ止まれる訳でもない。だがそれは、普通の船ならの話だ。突撃艦は最初から『高速・高機動』を念頭に開発された高性能艦。曲がれる。
「ここだな。全艦面舵!!反転180°!!!!」
突撃戦隊各艦は左舷前部スラスターと右舷後部スラスターを全開にして、船体を180°回転させ進路を切り替えた。そしてまた、水雷戦隊へと突っ込んでいく。この反転戦法、これこそが突撃戦隊の上等戦術なのだ。
突撃戦隊というのは先頭と最後尾は突撃重装巡洋艦、真ん中は突撃高速駆逐艦が配置される。先頭は『船頭』、真ん中は『狩り方衆』、最後尾は『後追い』とも呼ばれている。この戦隊はまず敵艦に突っ込んで攻撃を加え高速を保ったまま敵艦を抜け、その後反転させ船頭と後追いをそのまま入れ替えて、また突撃していく。
「な、なんだ今の動きは!?!?」
「反転、しただと.......」
「無理だ。あんな艦、沈められるわけがない!!」
彼らがそう言うのも無理はない。だが例えそうであっても、そこはプロの軍人達。砲撃は続けている。だが突撃艦の装甲の前には、全くの無力なのだ。
しかも突撃戦隊に続けて、後方の艦隊には彼らが更に襲い掛かる。帝国海軍時代からの最古参にして、今尚戦艦という艦艇の代名詞として不動の人気を誇る戦艦。大和型前衛武装戦艦64隻がやってきたのだ。
「主砲砲撃戦、目標敵戦艦。撃ち方始めぇ!!!」
「撃てぇ!!!!!」
耳をつんざく轟音と共に、いきなり全艦による一斉射撃が始まった。500発以上の510mm砲弾による弾幕、まず当たれば大体の艦艇は致命傷だろう。実際多数の駆逐艦が真っ二つに船体が折れて、そのまま轟沈していっている。
「司令!!トレマイナー司令!!!!これはもう戦いとは言えません、撤退のご指示を!!!!!!」
「.......あぁ。撤退だ」
役目は充分果たせた、とは言えない。だがあれほどいた艦隊は、最早見る影もない。大半が沈むか、或いは燃えるかの二択。運良く生き残った艦も、あくまでどうにかこうにか浮かんでるだけで今沈んだところで不思議はない。ここから、どれだけの将兵が生き残れるだろうか。
そんな事を考えていると、艦が激しく揺れて急激に左へと傾き始めた。
「な、何か!?」
「敵弾、本艦左舷に2発命中!!!!行く足、下がります!!!!」
『こちら機械室!!浸水が始まった!!!!すぐに応急班を!!!!!』
『こちら左舷防空指揮所!!第2、第3高角砲大破!!第4〜第9対空機銃大破!!負傷者多数!!!!至急応急隊来られたし!!!!!』
『こちら第6副砲!!砲塔内、全滅!!!!』
伝声管を通じて、艦内各所の被害が挙げられていく。すぐにダメージコントロールの為に応急班を動かし、負傷者救助の為に医療班を向かわせる。だが続々と被害報告が上がってきており、指示も人も追い付かない。
しかもそんな事はお構いなしに、更に砲弾が飛んでくる。運悪く第3主砲の砲塔へ命中し、砲塔は大爆発。さらに艦内の混乱は増していく。
「致し方ないか。総員、退艦せよ」
トレマイナーは静かに、だがハッキリとそう命じた。トレマイナーは艦橋にいる部下達を一瞥すると、不動の姿勢で敬礼した。
「諸君!ここまでありがとう、良くやってくれた。さぁ、君達の航海はまだ終わってないぞ!!」
「し、司令!司令はどうされるのですか!?!?」
「そりゃ、私はこれだけの被害を齎した張本人だ。責任を取らなくちゃならん。だが、お前達は私について来ただけ。死ぬ必要はない。もし私と運命を共にしたいというのなら、それは犬死にだ。お前達は私の
トレマイナーにこう言われては、流石に「私達もお供します!」とは言えない。乗組員達はトレマイナーに返礼すると、そのまま退艦するべく走り出した。
「行ったか。なら私も、役目を果たすとしよう」
トレマイナーは傾斜し、未だ爆発音が響き焦げ臭い臭いが立ち込める艦内を歩き出す。向かった先は電信室だ。電源を入れ『グレードアトラスター』にいる、カイザルを呼び出す。
『私だトレマイナー』
「カイザル司令。申し訳ありません、どうやらダメだったみたいです」
『そうか!よく頑張った!!お前も早く脱出するんだ!!!!』
カイザルの言葉にトレマイナーは自嘲気味に笑った。そんな事、出来るはずがない。
「司令。俺はね、兵士を大勢殺してしまった。いくら作戦の為、お国の為といえど、若いのも古参も大勢死なせた。今や生き残ってるのも少ない。この『ラス・アルゲティ』が浮かんでいるのも、半ば奇跡に近い。にも関わらず、俺だけ生き残る訳にはいかんでしょう?」
『その責任は私が負うべきものだ!!だから!!!!!!』
「いいんだよ、俺は。カイザルさん、俺はアンタに命を預けた。その結末がこれなら、こう言う結末なら、俺は納得できる。今までお世話になりました。さようなら、我が最高の上官。さらば!!!!!」
そう言うと、トレマイナーは無線を銃で破壊した。今度はそのまま、右舷の高角砲へと向かう。
「流石に主砲は無理でも、コイツなら俺一人でどうにか動かせる。さぁ、もうひと暴れだ」
トレマイナー自身、艦長になる前は砲術科の人間だった。なんの因果か、この『ラス・アルゲティ』はかつて士官として初めて乗り込み、初めて砲を撃った思い出の戦艦でもある。そのせいか不思議と恐怖はなく、逆に冷静でいられた。
「良かった、俯角を全開で取ればどうにか狙える。砲弾装填、良し。照準、良し。発射!!!!」
トレマイナーは発射トリガーを引く。発射された砲弾は突撃駆逐艦『夕立』の近くに命中し、大体10m程手前に水柱があがる。
「どうやら、あの戦艦は生きているようだな」
「えぇ。やりますか?」
「無論だ。主砲、撃て」
「アイ・サー。主砲砲撃戦、目標、敵戦艦。撃ち方始め!!」
『夕立』の第二主砲塔が回転し、12.7cm高角砲を狙って砲弾を撃つ。砲弾は直撃こそしなかったものの、その下の機銃群に命中。衝撃でトレマイナーも後ろへと吹っ飛ばされてしまった。
「ガッ.......」
後頭部を強く打ち付け朦朧とする意識の中、トレマイナーの脳裏には初めて乗り込んだ時のことが蘇ってきた。初めて見た『ラス・アルゲティ』の威容に震えた事、主砲を撃った時の感動、仲間と共に上官からケツをバットでシバかれた事、色々である。
(こういう結末なら、まあ、悪くはないな。『ラス・アルゲティ』よ、ありが.......とう.......)
この夜、先遣艦隊は全滅した。生き残った艦は重巡1、軽巡2、駆逐艦12と少ない。それ以外の艦は燃えるか沈むか、或いは海を彷徨っている。
この情報は直ちに残る二艦隊にも送られ、彼らもまた反攻の準備に入る。だが一方の神谷は、この報せを聞くと中央作戦室で黒い笑みを浮かべた。
「次はどうでる?俺を楽しましてみろよ、グ帝共!!」
バルチスタ沖海戦はまだまだ続く。この戦いがどのような結末を辿るかは、まだ誰にも分からない。