海戦終結より10時間後 大日本皇国 統合参謀本部 防衛指令室
「第38レーダーサイトにて
第二次バルチスタ沖海戦が終結してから10時間が経ち、本土の統合参謀本部でもいつも通りの日常が繰り返される筈だった。だが、今日は大荒れになるらしい。
旧世界に於いては数日から1週間に1回の割合でロシアや中国辺りから、まるで定期便の如く領空侵犯をされていた事もあって、この地下指令室の取り分け防空担当の者は激務であった。だが転移後の世界は、ご承知の通り文明レベルが低すぎて航空機自体がレア物であり、皇国の周辺国は航空機を開発できる次元まで到達していなかった。その為、ここ最近は暇だったのだ。
無論、いつかのパーパルディア皇国が核ミサイルを飛ばしてきた事もある様に、いつ何時、何が起こるかは分からない以上、気が抜けないのは確かである。だが幸いな事に、これまで暇である事には変わりなかった。
「速力320ノットとなりますと.......」
「レシプロ機だろうな。正確な数は?」
「機数は.......およそ1300機!!!!!」
「1300!?」
これには室長も驚いた。明らかに迷い込んだとか威嚇行為とかではなく、明確なまでの攻撃意思を持った集団である。本来、この防衛指令室は暇でなくてはならない。ここは皇国本土に危機が迫った時に、防衛戦を指揮する為の場所なのだ。
これが単純な領空侵犯程度ならまだ良いのだが、今回は先述の通り99%の確率で攻撃しに来ている。となればここは今から戦場だ。
「目標は分かるか!?」
「現在の進路を進んだ場合、目標は東京ですッ!!!!到達まで2時間32分!!!!!」
「非常配置!!!!!直ちに本州防空に当たっている白鳳を差し向けろ!!!!近隣航空基地にスクランブル要請!!!!!特殊戦術打撃隊の各基地に連絡し、防空部隊を上げさせるのだ!!!!!提灯とストーンヘンジも使え!!!!!それから総理官邸に繋げろ!!!!!」
「了解!!!!」
次の瞬間、部屋の灯りが普段の白灯から緊急時を示す赤に変わった。それと同時に、部屋の中も慌ただしくなり無線やレーダー情報との睨めっこが始まる。
「首相官邸繋がりました」
「総理、防衛指令室の角丸であります」
『角丸准将、どうしたのですか?』
「はっ。先程、我が軍のレーダーサイトにてグラ・バルカス帝国と思われる国籍不明機の大編隊を探知しました。これを受け、斯く部隊が迎撃にあたる事をお知らせいたします。また総理におかれましては、当該編隊の目標と思われる首都圏一帯へのJアラートの発令を要請いたします」
この要請に一色としては、少しばかり承服し兼ねる。国民の生命が第一なのは分かっているが、そもそも首都は人が多過ぎる為、場合によってはパニックを起こして避難どころではなくなってしまう可能性がある。
またJアラートを発令すれば、首都圏の様々な流れがストップする事になる。特に皇国におけるJアラートは避難命令となるため、避難することが義務となる。罰則こそないが警察官、消防士などの人員には、強制的に避難させる事が職務規定にも記されている以上、首都が一時的に麻痺する可能性もある。これも出来ることなら避けたい。そして何より、そもそもここまで飛来する可能性が限りなく低いと神谷から聞いているので、わざわざ避難する必要があるのかとも思ってしまうのだ。
『それは本当に必要なのですか?』
「無論、高確率で首都圏上空に入る遥か前に、全て迎撃できるでしょう。しかし仮に入られた時が面倒です。単なる爆弾や機銃掃射で済むのならまだしも、グラ・バルカス帝国には原子爆弾を保有している可能性がありますので、仮にこちらを落とされでもすれば.......」
『首都圏壊滅は免れない、か。わかりました、直ちに関係各所に指示いたします。そちらはお願いします』
「首都上空には入れませんので、どうかご安心を」
ここからの一色の動きは早かった。内閣官房を経由して、消防庁に『航空攻撃情報』として伝達。首都一帯のスマホとテレビ、防災無線等に一斉送信し国民に事態を伝達する。
更に消防庁と国家公安委員会にも国民の避難誘導に、警視庁と消防庁の協力を要請した。これに加えて、遥か彼方にいる神谷にも連絡し、対応を協議する。
「本土に爆撃機が向かってる」
『あぁ。さっき、こっちにも第一報が入った』
「Jアラートの発表に加え、警察と消防に避難誘導の協力要請も出している。だがもし核だった場合、どういう対応を軍はとる?」
『仮に原爆だったとして投下されたと仮定しても、落ちた種類によってまた変わってくるから何とも言えん。だが初動は大宮の中央特殊武器防護隊と練馬の第一特殊武器防護隊が務めるだろうな。
ここの2つは50年とか40年以上前とは言えど、地下鉄サリン事件と東日本大震災の福間第一原発事故の、2つの実戦を経験した世界有数の対NBC兵器のプロフェッショナル達だ。コイツらが初動で動いて以降は状況にもよるが、通常の災害派遣と同じ様に支援に動くだろうな。尤も、放射能には弱いがな』
流石の皇国軍とて、目に見えない対NBC兵器戦は専門部隊でしか対抗できない。マスクを装着すれば、物にもよるがBC兵器はどうにか対応できる。だが放射能を発するN兵器は流石に、通常部隊では手に余る。
「分かった。原爆がない事を祈ろう。あぁ、そうだ。陛下は既にケース聖護*1に入られた」
『あぁ。流石に今回は大丈夫だろうが、既に原潜『八咫烏』*2が待機している。もしもの場合は、京都だな』
「お前の話の限りじゃ、そこまで行かないだろうがな。というかそうであって欲しい。こちらは俺なりにやるから、そっちは任せるぞ」
『あぁ』
取り敢えず軍事のプロたる神谷から、「多分だけど問題はない」という言質は取った。更に核爆弾が投下された際の対処も聞けた以上、今や不安は微塵もない。一色は執務室内のクローゼットから内閣のロゴが入った、水色の防災服に着替える。着替え終われば秘書を連れて、地下の危機管理センターへと降りて今後の対策を決めるべく会議に臨んだ。
同時刻 横田基地 ブリーフィングルーム
「集まったかね?落ち着いてくれ.......。静かにしてくれ!」
何事かと騒いでいたパイロット達は、司令の一言で即座に黙る。司令は少し咳払いをすると、状況を話し始める。
「ブリーフィングを始める。諸君らは転移以降、様々な場所で戦い抜いてきた。だが今回はいつもとも、転移前の日常とも、少々勝手が違う。先ほど、我が軍のレーダーサイトが、接近する所属不明機群を通報してきた。飛行速度から察して、恐らくレシプロ機、つまりグラ・バルカス帝国の可能性が高い」
ブリーフィングルームには青い日本地図の立体映像の上で、この所属不明機群の位置が赤く示される。所属不明機の予測進路も、同様に赤い矢印で示され、その行く先は東京を指していた。
「任務を伝える。諸君らには近隣航空隊と特殊戦術打撃隊と協同し、当該所属不明機の発見、捕捉、威嚇射撃を以って強制着陸せしめよ。もし敵から反撃を受けた場合、そのときには全兵器使用自由を宣言する。諸君、スクランブルだ!!」
パイロット達は椅子を蹴飛ばさん勢いでハンガーに走り出し、既に整備スタッフ達が準備していた愛機に滑り込む。今回は数が多い為、通常のミサイルではなく大型パイロンにマルチパイロンを搭載して、出来るだけ多くのミサイルを装備していた。
「スクランブルだ!早く空に上がれ!!」
『こちら管制塔!スカイボーイ隊は滑走路に向かえ!エンシェント隊テイクオフ、スカイキーパーは既に空に上がっている。リンクを確立せよ!スカイボーイ隊は離陸を急げ!』
管制塔からの指示で、戦闘機隊は順に滑走路に侵入。大空へと羽ばたいて行く。
『スカイボーイ2、離陸を許可する。離陸後はスカイキーパーにリンクし、指示に従え』
「スカイボーイ2、ウィルコ」
『スカイボーイ2、離陸!!サーベラス隊、滑走路侵入許可!!』
航空隊が現場空域へ向かっている頃、遥か洋上に居を構える特殊戦術打撃隊の基地も、防空の先発を担う『白鳳』の離陸を行っていた。
「スクランブル!これより『白鳳V』の打ち上げに入る」
「了解。マスドライバー、起動」
「『白鳳V』、エンジン始動」
後部に搭載された6機のサブプロペラと、2機の巨大な二重反転メインプロペラが始動し回転を始める。一定の回転数まで上がると、管制塔内にブザーが鳴り響いた。
「『白鳳V』エンジン正常、ミッションデータ、インストール完了。発射準備完了」
「マスドライバー、電磁加速カタパルトレール準備良し。電圧安定」
「最終カウントダウン開始」
模試水が自席の如何にもな赤いボタンを押すと、男声の機械音声がカウントダウンを始める。
『これよりカウントダウンを開始します。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』
「リフトオフ!!」
マスドライバーのレールに無数の小さな稲妻が発生し、蒼白く光ると『白鳳V』が一気に加速していく。
「1、2、3。マスドライバー加速中。リフトオフ、今」
10秒と経たないうちにマスドライバーから『白鳳V』が射出され、青空へと白い巨鳥は消えていく。
「続けて空中母艦『白鯨II』及び支援プラットフォーム『黒鮫III』『黒鯨IV』、射出位置へ!!」
『白鳳』と『鳳凰』はマスドライバーで一気に射出するのに対し、『白鯨』『黒鯨』は『白鯨』が空母である以上、マスドライバーで上げると中に収めている機体が衝撃で壊れたりひっくり返ったりする。その為、この2機種は洋上から緩やかに加速させて飛ばすのだ。
「機関長、エンジンに火を入れてくれ」
「アイ・サー。エンジン始動、動力接続!」
機関長がコンソールを操作してエンジンに火を入れると、普通のジェットエンジンとは比較にならない爆音を響かせ始める。特にこの2機種のエンジンは、直径がボーイング747、所謂ジャンボジェットの胴体と同等クラスという超巨大エンジンである。しかもそれを『白鯨』なら24基搭載しているのだから、それはもう凄い音である。因みに『黒鯨』なら12基である。
「メインエンジン、コンタクト。出力安定」
「射出レール、固定確認」
「ロケットモーター正常!」
「第二空中空母艦隊、全艦出撃せよ!!!!」
艦長の号令が降るやいなや、側面の離水用ロケットモーターに火が灯り、同時に射出レールにも通電が始まり、船体が加速していく。
「『白鯨II』離水!!!!」
航空隊、空中母機『白鳳』、空中空母艦隊と大空に上がった。だが、防衛要員はこれだけに留まらない。
「提灯に火を灯せ」
「了解!98〜103番砲、起動!!」
提灯とは、無論お祭りとかでよく見るあの提灯ではない。超大口径レールガンの他、無人戦闘機、50口径510mm四連装砲、各種ミサイルと機関砲群を装備した、移動要塞とでも言うべき兵器である。
大口径レールガンは完全に対空、もしくは対宇宙に特化しているが、その威力は化け物である。射程は半径500km、東京から京都の手前までは届く。これが日本の周囲をグルリと囲むように、300個が配備されている。尚、無人の完全自律型である。
「FCSオンライン。戦術リンク構築及び、情報共有を開始。全システム、オールグリーン!」
「メインコンピューター、阿僧祇5000正常に稼働。現在、全タスクを消化…いえ、完了しました。砲撃、いつでも行けます」
提灯には1秒間に5000阿僧祇回の計算が行えるコンピューターを搭載しており、敵の進路予測、気象状態、周辺環境による砲撃への影響、最適な砲撃タイミング等々、様々な計算を同時並行かつ数秒で完了させられる。
「敵予測進路は変わらずか?」
「はい」
「では、長野と秋田のストーンヘンジを使う。砲撃指示を出せ!!」
「ハッ!」
角丸の指示が、今度は秋田県と長野県に飛ぶ。ストーンヘンジは九州、四国、北海道に1つずつ。本州には3つ建設されている。今回はその内の2つ、長野県と秋田県に建設されたストーンヘンジが火を吹くのだ。
因みにストーンヘンジは略称であり、正式には『120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲システム』という。なんか声に出して読みたくはなるが、長い。とにかく長い。という訳で、誰が言ったか『ストーンヘンジ』が略称どころか半分正式名称化している。
『これより120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲の砲撃を開始する!!総員、準備に掛かれッ!!!!!』
「く、訓練じゃないのか!?」
「おいおい敵が攻めてくるのか?」
「野郎共!!命令通りに動け!!!!それに、ここにあるのはアンチ飛行目標兵器たる、ストーンヘンジだ!!!!隕石だって堕とせるこの大砲が、高々普通の航空機如きにどうこう出来るものか!!!!!」
班長の言葉で、少しばかり浮き足立っていた兵士達が落ち着きを取り戻し、自らの任務に取り掛かる。
「ターンテーブル、起動。各砲、所定位置へ」
「敵速320ノット、方位93°、仰角56°」
「月華弾、装填」
各地で防衛準備が行われてる中、東京でも最後の悪あがき用の兵器が準備される。東京を始め、皇国の重要地域、例えば工場地帯や政令指定都市、経済的中心地といった場所には、必ず皇国の兵器ドームが建設されている。この兵器ドームには超高高度防衛ミサイル『富士』に前線防空ミサイルシステム『桜島』を合わせて簡易化したシステムが収められており、防空最後の砦として機能する。
このシステムはまず各地のレーダーや衛星の情報を分析し、最大の射程を誇る『富士』や他の長距離、中距離、短距離、連装20mmバルカン砲の順に攻撃する手筈になっている。因みに場所によっては武装が一部オミットされている事や、沿岸部には48式地対艦ミサイルを装備していたりする場合もあったりする。
数十分後 グラ・バルカス帝国攻撃隊 指揮官機
「航法士、後どのくらいだ?」
「ハッ。後、およそ1時間ほどで東京上空です」
「何でも皇国は、木造建築が多いと聞く。よく燃えるだろうな」
「どうせなら焼夷弾でも積んでくるべきでしたかね?」
「いや。流石に政府施設は、しっかりとコンクリートとかレンガとかで作られているそうだ。流石に爆弾の方が良いだろうよ」
帝国軍の最優先破壊目標は、東京そのものではなく、正確には東京に点在する主要な政府施設である。例えば国会議事堂、首相官邸、各省庁の庁舎ビルといった政治の中枢部に、消防庁、警視庁、警察庁の様な執行機関の施設、はたまた統合参謀本部といった軍事的中心施設。そして無論、恐れ多いは言えど、皇国の主たる天皇陛下の住う皇居も攻撃対象に入っている。
因みに念の為に言っておくが、何処かのパーパルディア皇国よろしく適当な情報で適当に決めた物ではない。しっかり皇国国内や周辺国に入り込んでいるスパイや情報提供者から得た情報を用いて立案したプランである。
「敵編隊、射程内に入りました」
「迎撃開始ッ!!!!」
「提灯、攻撃始め!!!!」
初撃を加えたのは提灯であった。超大口径レールガンから放たれた月華弾は、先頭集団を薙ぎ払う様に起爆。指揮官機を含め、たったの1射で250機近くが撃墜された。
『なんだぁ!?!?』
『球体の炎.......だと.......』
『全機、とにかく間を取れ!!!!あんな面攻撃に編隊組んで突入するのは自殺行為だ!!!!!』
誰が言ったのかは分からなかったが、パイロット達は即座に従った。命令系統とか指揮継承権だのはもう、全部まとめて先頭で吹き飛んだ。となれば今は、自分達が取るべき最良のものを独自に決断し実行する他ない。
「だ、大丈夫ですよね先輩!!!!」
「俺も聞きてぇよ!!だが今は、とにかく間隔をあける。そうでもなきゃ、俺達はまとめて死ぬ。あの炎の球体で焼き尽くされる!!」
今回爆撃に参加している部隊は軒並み、本国でも選りすぐりのエリート。特にグティーマウン型爆撃機を配備する、超重爆撃連隊の連中の判断は素早かった。
「超重爆撃連隊全機、最高高度まで上昇!!我に続け!!!!」
グティーマウン型爆撃機とは、グラ・バルカス帝国の生み出した戦略爆撃機であり、旧海軍の富嶽に似ている。この爆撃機は未だグラ・バルカス帝国では前人未到の高度1万2,000mでの巡航を可能にした機体であり、敵の防空網を悠々と突破し目標を爆撃せしめる機体なのだ。
とは言え設計的にはかなり無茶をしており、エンジンはよく故障するわ、そもそもエンジン出力で無理矢理飛ばしているものだから機体はフラつくし、お陰で離陸は良いとして着陸が超絶難しかったりと、結構な欠陥を抱えた機体でもある。
「敵機、2隊に別れました。
「提灯、ストーンヘンジ、弾種変更。個別目標迎撃へ」
「了解」
ストーンヘンジも提灯も、その巨大さ故に再装填にはとにかく時間がかかる。提灯なら次弾装填と電力チャージ完了までには1分掛かる。一応、コンデンサーを使えば短縮できるが、今回は使わずに行くので次の射撃までは1分のインターバルが発生する。
「高度1万2,000!水平飛行に移ります!!」
「よし、全機このまま首都を目指す。最大推力で行け!!!」
超重爆撃連隊は下の爆撃機連合を置いて、首都に先行する道を選んだ。だが、その動きは全て皇国には筒抜けである。
「目標群アルファ、高度1万2,000mにて巡航中」
「ストーンヘンジ、攻撃始め」
「カウント5、4、3、2、1。発射!!」
ソニックブームを伴って、時雨弾がマッハ23という超高速を持って超重爆撃連隊に襲い掛かる。編隊の前方で炸裂し、周囲にミサイルをばら撒いて次々に血祭りに上げていく。特に砲弾そのものの直径がデカいので、内包されているミサイルの数は艦艇のソレとは比べ物にもならない。
『助けてくれ!!死にたくねぇ!!!!』
『何が起きた!?!?』
『おーい!!50機は落ちたぞ!!!!』
『落ち着け!!!編隊を開けろ!!!!!』
流石に一撃で数十機が堕ちる戦場は、百戦錬磨だったグラ・バルカス帝国軍とて経験したことがなかった。お陰で精鋭の筈の超重爆撃連隊の皆様も、このザマである。
だがしかし、まだまだ歓迎の式典は終わらない。まだ言ってしまえば、開会の言葉程度。ようやくスタートしたに過ぎない。次にやってきたのは、コイツらである。
『こちら臨時指揮官機。前方雲の中、何か見える。警戒せよ!!』
爆撃機連合の方に、次なる刺客が迫っていた。目の前には真っ白で綺麗な雲が浮かんでおり、その中に何かを見つけたのだ。
『何だあれは.......』
『何かの影か?』
先頭のパイロット達は、その雲の中に注目した。何か分からないが、確かに何かの影が見える。次の瞬間、彼らの目には見たこともない物が飛び込んできた。
真っ白な機体の、全翼機。巨大な二重反転プロペラを8つ搭載した、巨大な怪鳥とすら言える機体である。それが3機もいた。
『何かを落としています!!』
『爆弾か?』
『分からない。だが爆弾にしては平たくないか?』
知っての通り『白鳳』の翼下には、多数のUAVを抱えることができる。このUAVは『白鳳』から投下されると、機体を180°反転させてから敵に襲い掛かる。相対するパイロット達としては、結構トラウマになる光景である。
『敵機来襲!!!!』
『戦闘機隊、我に続け!!!!』
『うっしゃぁ!!!!あのデカブツを落とすぞ!!!!』
この時代の爆撃機には、防護機銃が至る所に搭載されている。例え当たらずとも、弾幕を張ればパイロットは怯み撃墜出来ずとも妨害する事はできる。
「おい野郎共、撃ちまくれ!!!!」
「おう!!」
ドカカカカカカカカカカ!!!!
「弾幕最高!!!!」
「コリがほぐれるぜ!!!」
「ヒャッハーー!!!!!」
先述の通り、弾幕を貼り続ければ被弾せずとも怯みはする。だがそれは、有人機の場合である。UAVであるMQ8飛燕には、そもそも人間の有する恐れの感情は存在しない。
「この弾幕を物ともしないのか!!」
「ヤバい後ろに付かれた!!!!」
「振り切るぞ!!!!」
オマケにジェット機な上に小型機で小回りが効くので、巨大で鈍重な爆撃機では振り切る事は不可能である。
「後ろに回り込む!!」
『はい!!!』
「よくも爆撃隊をやりやが——」
例え戦闘機であっても、背後に着けば他の飛燕が後ろから襲い掛かる。UAV同士は常に情報を戦術データリンクでやり取りしている関係上、連携プレイの技術は人間をも凌ぐ事も多々ある。特に新人のルーキーパイロットや、こういうUAVに不慣れのパイロットであれば鴨である。逆にエースやベテランは、枠に囚われずに行動できるのでUAVを完封する事もできる。
『隊長、爆撃隊が!!!!』
『後ろを振り返るな!!!我々はあの巨大機を惹きつけ、爆撃隊を前進させるのだ!!!!!!』
一部のアンタレス改には、小型ロケット弾が翼下パイロンに装備されている。本来なら対軽装甲目標に使うべきだが、こういう超大型機相手にはお誂え向きといえるだろう。
とは言え、目の前の『白鳳』は胴体中央部のレクテナを破壊するのが、航空機なら唯一の破壊方法である。そんな芸当は
「よーい、撃て!!」
一斉に放たれるロケット弾。だがそれを感知した『白鳳』は、直ちにAPSを作動。電磁バリアを展開してロケット弾を無力化し、ついでに回避の間に合わなかった一部の戦闘機も墜とした。
『何だ今のは!!!!』
『クソッ!6番機、8番機、15番機もやられた!!!!』
『バリアかクソッ!!!!』
『SFの技術だろ!!!!何でそんなのがあるんだよ!!!!!!』
流石にAPSには対応できないらしい。だがAPSとて万能ではない。『白鳳』のAPSは言うなれば第一世代であり、内部の攻撃も無力化してしまう。つまり『日ノ本』がやっていた様に、APSで攻撃を防ぎながら一方的に攻撃というのは出来ないのだ。
『バリアが剥がれるぞ!!!!』
しかも持続性はあまり無い為、すぐに剥がれてしまう。だが、そうだとしても常にこっちのターンだ。
「よし、突っ込め!!!!」
『隊長に続けぇ!!!!』
そう言って突っ込んでくるが、『白鳳』の機体下部にはTLSとパルスレーザーがある。こちらの弾幕で全て破砕するのみだ。
爆撃機連合は『白鳳』との会敵から、僅か20分で全滅。生き残りはいなかった。さて、残る超重爆撃連隊も末路は似た様な物ではあるが、一応彼らの最期を見届けよう。
「レーダーコンタクト。敵影、射程に入りました」
「分かった。だがどうやら、彼らが先にやるらしい。まずは彼らに、だ」
超重爆撃連隊の上空、高度5万mに陣取った機動空中要塞『鳳凰』が動き出す。下方の敵編隊に向け、攻撃を始めた。
「エネルギーチャージ完了」
「敵編隊中心部に照準、固定しました」
「撃ち方、始め!!!」
まず降り注ぐはレールガンによる砲撃の雨。続けてTLSによる、レーザーの雨である。流石に高度5万mともなれば迎撃するどころか、肉眼で捉える事すらできない。
「編隊中央部、次々に攻撃されている!!!!」
『回避しろ!!!!』
『あぁダメだ!!!!68番機が堕ちる!!!!』
「クソッ、エーロリエの野郎!!!!」
既に三分の一がやられたが、それでも彼らは前に進む。首都の東京を燃やし、死んでいった仲間達への焼香とするために。だがそれを許してくれる程、皇国も優しくは無い。
「戦闘機隊、突撃せよ」
超重爆撃連隊の後方に布陣した本土航空隊と、空中空母艦隊の艦載機が攻撃を始める。しかも今回は皇国のセオリーたる、アウトレンジからのミサイル攻撃だ。彼らは何が起きたか分かる前に、撃墜されていく。
「よ、4、5番エンジン被弾!!!!6番も停止!!!!」
「い、いかん爆発するぅ!!!!」
『3番機がやられたぞ!!!』
『何処からの攻撃だ!?!?』
ミサイルは機体からの発射直後は煙とかの航跡が見えるが、一定のラインを超えると煙は目立たなくなる。故に彼らからしてみれば、何の前触れもなくいきなり爆発した様な物なのだ。
「エンジン被弾!!!!」
「消火器だ消火器持って来い!!!!」
「ダメだ隔壁ごと吹っ飛んでる!!!!脱出し」
爆撃隊の末路は、まるでなぶり殺しであった。エンジンが吹っ飛んで、そのエンジンのついてる主翼も吹き飛び、そのまま燃料に引火して機体ごと爆発する機体。胴体に命中し、爆弾が誘爆して中から爆発する機体。翼の付け根に辺り、片翼が折れて錐揉み状態に陥る機体。その死に様はそれぞれだったが、どれも悲惨であった。
「うおぉ!!!!」
「あぁぁぁぁ———-」
「尻尾がちぎれた!!!!」
「アナーリルが吸い出された!!!!」
「バランスが取れない!!!!」
「うおぉぉぉ!!!!!」
「操縦不能!!操縦不能!!」
「ダメだ堕ちる!!!!」
「助けてくれぇぇぇぇ!!!!!」
殆どの爆撃機がやられた時、空中空母艦隊が現れる。巨大な、まるで空のマンタの様な見た目に生き残ったパイロット達は恐るどころか、瞬時に仇だと勘付き襲い掛かる。
「行くぞ!!!!仲間の怨み、思いしれ!!!!!」
「こっちは掃射機型なんだよ!!!!」
「死ぬ気で行くぞ!!!!!」
幸か不幸か、生き残っていた機体で多かったのは編隊の最外縁部に配置されていた、掃射機型のグティーマウンだった。この掃射機型は爆弾の代わりに無数の57mm機関砲を装備しており、爆弾の代わりに機関砲弾の雨を降らせる。空中空母艦隊には爆弾よりも効果があるというか、攻撃がしやすいだろう。
「敵機、向かってきます」
「迎撃しろ」
だが、それが叶う事はない。
「突っ込——」
残る数十機は、全て空中空母艦隊の展開した弾幕の前に沈んだ。何せ『黒鯨』に至っては速射砲、機関砲の数だけで言えば熱田型にも匹敵する。それだけの弾幕を前にすれば、例え超重爆撃機と言えど機体が持たない。
この日、首都への爆撃を敢行した爆撃機編隊は護衛機諸共、全機撃墜という形で幕を下ろした。