暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第1話 世界の始まり

──ッッしゃああオメーラァ!!これが最後だビッと気合い入れろやァァァァ!!!

暴走師団聖華天(せいかてん)!!!地獄の底まで出発(デッパツ)だぁ!!!!

 

 5万人がアクセルを回しバイクを発進させる。5万台分のエンジン音と走行音は空に轟く雷鳴に負けないほどの爆音を鳴らし、巻き上げる砂塵は空を覆いつくす。

 壮観だ。その光景は黄金時代の聖華天が蘇ったようで懐かしさを覚える。

 

 聖華天初代総長である殺島飛露鬼(やじまひろき)、通称暴走族神(ゾクガミ)の号令の元、伝説の暴走族聖華天(せいかてん)は20年ぶりに復活を果たした。

 大人になって訪れる困難の日々に心折れ昔の黄金時代に戻る為、極道にとって不倶戴天の敵である忍者を挑発し誘い出し殺す為に日本の主要高速道路である帝都高を逆走し、多くの警官と一般市民を犠牲にして走り続けた。

 だが忍者はそれを許さなかった。忍者は聖華天の前に立ちふさがり暴走するメンバーを次々と殺害し、殺島飛露鬼も忍者との激闘の末敗れ死んだ。

 最後は今までの悪事の責任を取る為に地獄に向かい、聖華天のメンバーと共に地獄の道を走り出した。

 この暴走はいつ終わるのか?終点の先に何が待っているのか?それは分からない。

 殺島は地獄でもメンバーと走り続けられる幸運とこれが最後だという寂しさを感じていた。

 

◆殺島飛露鬼

 

 殺島飛露鬼は意識を覚醒させ体を勢いよく起こし、目を細め辺りを凝視する。ギター、ダンベル、勉強机、ファッション誌、学校の制服、サッカーボール。どれも見覚えのないものばかりだった。

 

「何だこの高校生(ガキ)みてえな部屋は?俺は忍者に()られて…」

 

 頭を手で押さえ独り言を呟きながら浮かび上がる記憶を振り返る。聖華天のメンバーと共に地獄の道を走り出した最中だった。だが気づけばガキ臭い部屋のベッドで寝ていた。

 

「おい、何だこれ!?非現実(ありえねえ)だろ」

 

 部屋をうろつきながら姿見に映った己を見て思わず目を見開く。人より老けず若々しく見えるが、それでも自身には分かる程度に老けていた。だが鏡に映る姿は高校生時代の容姿だった。

 

「今までは虚像(ゆめ)だった?なんてわけねえな」

 

 殺島は自嘲するように笑う。皆と帝都高を暴走した聖華天での黄金時代、極道に就職した社会人時代、出世して、結婚して、娘の花奈が産まれて、離婚して、花奈が死んで、退屈な大人の日々に押しつぶされて、極道(ボス)と出会って、20年振りに聖華天のメンバーと暴走して、忍者に殺された。

 あれは全て現実だ、夢なわけがない。じゃあ今のこれは何だ?

 

「えっと、殺島飛露鬼、16歳、若輩(ワケ)エ~!高校生で通っているのはN県N市のN県立S高校」

 

 突然脳内に生徒手帳の記憶が浮かび上がり、スクールバックから探し出し確認する。

 顔も同じ名前も同じ、だが生年月日が違う。書かれている年月は自分が高校生だった時の20年近く未来だ。

 それに通っている高校も違う。そもそもN県なんて抗争しに行ったぐらいで、数えるほどしか行ったことがない。

 

「この生徒手帳の殺島飛露鬼はN県立S高校の高校生(こうぼう)、そして俺は39歳で忍者に殺された」

 

 殺島は頭を掻きむしりながら状況を整理する。意識は39歳の殺島、身体はS高校生の殺島というところか。まさか輪廻転生でもしてこの高校生の殺島飛露鬼に意識が乗り移ったというのか?

 地獄に行った人間は刑を受けてから転生できるという話だが、ただ地獄を暴走しているだけで刑に服したというなら、閻魔は随分と甘いようだ。

 殺島は徐に枕元にあったスマホを手に取りネットを立ち上げる。この世界では聖華天はどうなっている?数十年前のチームでもかなり規模を誇っており、検索エンジンで検索すれば何かしらヒットするはずだ。文字を打ち込み上から順に調べていく。だが暴走族の聖華天の情報は何一つなかった。

 

非現実(ありえねえ)え~」

 

 ベッドに横になり天井を仰ぐ。元の世界で聖華天についての情報が出ないということはあり得なかった。検索エンジンを運営している企業が情報を消したということも考えられるが、何のためにと考えると可能性は低い。だとしたらこの世界は死ぬ前に居た世界に似た別の世界ということになる。

 そして暫く検索していると、この高校生の過去の記憶が浮かび上がってくる。中学生の頃母親が死亡して、親戚などは特に引き取らず今は一人暮らし。幸い遺産はそれなりにあるようで、大学に進学できるぐらいの金はあるそうだ。

 

「これからどうするよ」

 

 殺島は呟く。自分が知る世界と似た別の世界に転生した。それで何をすればいい?死ぬ前には花奈と面会したい、忍者を殺したい、暴走したい。何かしらの目標があった。だが今は何一つない。

 学校でも行くか。この世界の殺島は高校生だ。折角だから懐かしついでに学校に通うのも悪くないかもしれない。

 しかし前の世界では碌に学校に行かなかったのに、積極的に学校に行こうとしている。その心境の変化が可笑しかった。

 制服を着て家を出る。だが制服があまりにも趣味が合わないので制服を着崩し、派手目なシャツを着た。

 

◆◆◆

 

 N市の北宿、通りには商店街があるが街燈はついておらず、大半の店が閉まっている。俗にいうシャッター街であり、その陰気と人が寄り付かないという立地条件から密会場所に指定されたり、アウトサイダーな人間がたまり場にしたりと、治安の悪さは繁華街と双璧と化している。

 殺島はその通りを当てもなく歩き、タバコを吸いながらぼそりと呟いた。

 

虚無(しゃば)い」

 

 学校に来てから授業をふけることなく受けて、前の殺島が所属しているサッカー部の練習に勤しんだ。これが一般的な高校生の生活なのだろう、1日体験した結果、絶望的に性が合わないということが分かった。

 無知だった高校生の時と違い、ヤクザとして働き社会経験を積んで多少なり授業を理解でき、楽しめるかもしれないと思ったが、何一つ理解できず楽しめない。後半の授業はずっと寝ていた。

 サッカーも喧嘩では散々頭を蹴ったので何とかなると思ったが、全然上手くいかず上級生や指導者から散々罵倒された。聖華天時代だったら頭をサッカーボール代わりに蹴っていたが、睨んでビビらす程度にしておいた。

 1日を通して自分は根っからのヤクザであり不良であり、世間から理解されないはみ出し者であることを改めて理解した。

 

暴走族(チーム)でも作るか」

 

 聖華天のようなチームを作り暴走し黄金時代を過ごす。アイディアを口に出してみたものも打ち消した。

 今でも暴走するのは好きだ。高速道路を車で飛ばせばすっきりする。だが聖華天の時の楽しさはあの時だったから楽しかったのだ。アルファもシグマもオメガも居ない。チームのメンバーも居ない。

 そして今の精神年齢は39歳だ、精神も10代に戻れるわけではなく、今仮にチームを作って暴走しても心の底から楽しめない。

 

「ったく。こんなんだったら地獄に居させてくれよ」

 

 恨み言を放ちながら通りを歩く。ひょんな事から第二の人生を得てしまった。それならば前とは違い普通の人生を歩もうと思ったが、真っ当な道を歩けないことを理解した。

 前と同じように極道になろうとも思わない。誰かを愛して共に生きることも考えたがそれも却下だ、元妻のノリカは花奈が好きだった母親だ。

 ずっと仲良くしてねという花奈との約束は守れなかった。せめてものケジメとして再婚しないのが約束を破ってしまった花奈への償いだろう。

 第二の人生でやりたいことが一切ない。何より一旦は悪事へのケジメを取るために地獄に落ちたのだ、こんなところで人生を楽しんではいけない。

 この体の持ち主の高校生の殺島には悪いが、自殺でもして地獄に戻ったほうがいいのかもしれない。

 

「てめえ!喧嘩売ってんのか!?」

「売ってんだよ!?こいよダボ!」

 

 シャッターと体がぶつかる音と怒声が響き振り向く。男2人が女にメンチを切って凄んでいる。女は160cmぐらいのポニーテール。それなりに屈強な男に凄まれているのに全く怯んでおらず、逆に噛み殺さんとばかりに睨み返している。

 男が女の襟を掴んで殴りかかった瞬間足を振り上げた。金的だ、しかも一切躊躇がない。男は膝から崩れ落ち泡を吹いている。

 もう一人が男の容体に注意が向いた瞬間膝への蹴り、関節を押し込むように蹴る危険な蹴り方だ。膝が破壊される鈍い男が響き、崩れ落ちたところを顔面にサッカーボールキック。これも本物のサッカーボールを蹴るように躊躇がない。

 

「クソ!これじゃねえ!これじゃねえんだよ!バイクで暴走してえ!」

 

 女は天に向かって叫ぶ。声を聞いた瞬間全身に電流のような衝撃が走る。

 この声には聞き覚えがある。世間から爪弾きにされ、世間の誰から理解されない“孤独な者”の声だ。

 何よりこの女の声から娘の花奈の面影を感じた。生前の声質とは違うはずなのに。

 

驚嘆()ねえ~」

 

 殺島は動揺を隠すようにニヤついた笑みを浮かべ拍手をしながら興味本位で女に近づく。

 そこでも衝撃を受ける。親であれば娘が成長し将来どのような姿になるかは予想できる。目の前の女の姿はその予想図から外れていた。だが妙な類似性を感じる。

 一方そのニヤけた笑みが気に入らないのか女は殺気を漲らせ間合いに入った瞬間問答無用で金的蹴りを放つ。殺島は動揺で一瞬反応が遅れたが、生前の暴走族と極道で培われた反射が攻撃を防いだ。

 

早漏(はや)るなよお嬢さん。暴走(はしり)てえってのはどういう意味だ?」

「うっせえ!」

「そこらへんの暴走族(ゾク)に入らねえの?」

「ここら辺には小さなチームが有ったけどもうねえよ!それどころか暴走族は絶滅寸前だ。ダセエだってよ」

 

 女が悔しそうに呟くのを見ながらこの世界の暴走族事情を推理する。

 殺島が10代だった頃は暴走族の全盛期だった。そこら辺にチームがあり毎週のように喧嘩していた。だが時が経つにつれ若者の価値観が変化していき、暴走族の数は減少していった。この世界でもそういう流れか。

 いまあげた理由は表向きだが事実は違う。当時日本最大の規模の暴走族聖華天のメンバー10万人のうち5万人が忍者によって殺され文字通り半殺しにされた。その1件で聖華天は解散に追い込まれ、他の暴走族も死を恐れ規模を縮小していった。

 

1人(ピン)で走れば?」

「1人じゃあつまらねえんだよ!わかってねえな」

「だよな」

 

 殺島は予想通りの答えに思わず笑みをこぼす。1人でスピードを求めて走ることに満足できるタイプもいる。だが目の前の女は違う。同じ価値観を持つ者達とつるみ一緒に暴走することで満足できるタイプだ。殺島も聖華天のメンバーもそうだった。

 

「俺は殺島飛露鬼、一応高校一年生(こういち)だ。嬢ちゃん名前は?」

 

 殺島は怪我している男の血で道に名前を書き始める。

 この女からは姿は全く違うのに娘の花奈の面影を感じていた。そして同類の匂いがした。辛い現実が押し寄せて、何とか乗り切ろうとして何か楽しい事をしようとしても一般人が楽しめる事では楽しめない。爪弾き者だ。

 

「はっ。スゲエ漢字だな。親は何考えて名前つけたんだ」

(いけてる)だろ」

「確かに。うちの親と違って良い親だ」

 

 女は小さく笑う。常に不機嫌でイラついた姿を見せていたなかで初めて見せた笑顔だった。殺島と同じように血で名前を書き始め名乗る。

 

生島花奈(いくしまはな)同じ高校一年生だ。ダセえ名前だよ」

 

 その名前を見た瞬間殺島の心臓の鼓動が跳ね上がる。

 

──花奈──

 

 その名前は愛する娘と同じ名前だった。花奈を幸せにするためなら何だってできたし、何だって差し出せた。だが死なせてしまった。

 あの時妻ともっと上手くやっていれば、あの時親権を何が何でも守っていれば、指を全部詰めて全財産を手放してでも極道から足抜けしていれば。

 様々な後悔が常に押し寄せていた。それらの感情は最後の暴走の最中でも纏わりついていた。

 もし花奈が生きていたらこれぐらいの年頃か。

 

 花奈はこれから訪れる幸せな未来を得ることができず、幼年で死なせてしまった。今からしようとすることは完全な自己満足だ。悪い事だと分かっているし、生前と同じように多くの人を踏みにじり、死んだらさらなる地獄が待っているだろう。

 だが同じ孤独を抱え、娘の面影を残し同じ名前の少女を放っておくことができず、自分と同じつらさを抱える少女を肯定してやりたかった。

 もし娘が同じ孤独を抱えていたら隣に立ち肯定する、例え世界中を敵に回しても何だってする。それが親だ。

 何で第二の人生を得たのか今分かった。

 

「なあ花奈。俺達で暴走族(ゾク)やんねえか?」

 

 

◆生島花奈

 

 生島花奈は全てがつまらなく満たされていなかった。

 スポーツ、テレビゲーム、音楽、恋愛。幼少期から中学生までの少年少女が何らかしら夢中になれるものに何一つ心が躍らない。それがイラつきに代り周囲への反抗になった。

 同級生、親、先生、周りの全てに反抗した。反抗には暴力が伴い多くの人を傷つけた。そんなことをすれば同級生には疎まれ、先生には目を付けられ、両親達は娘がこんな風になったのはお前のせいだとお互いを罵り合う。

 自業自得といえど最悪な環境だった。花奈は一般的な少年少女の道から明らかに逸脱し、俗にいう不良と呼ばれる存在になった。

 仲間がいれば共感され行動を共にすることで、満たされ癒されたかもしれない。だが不幸にも花奈の周りには不良と呼ばれる存在は誰一人おらず、ますます満たされなくなった。

 

 中学一年の時のある日、従妹の存在を聞きつけた。

 室田つばめ、三歳年上で自分と同じように不良と呼ばれる存在らしい。こいつなら自分を理解してくれ、楽しい何かを教えてくれるかもしれない。そんな僅かな期待を抱きながら自転車に飛び乗りN県に向かった。

 名前しか聞いておらず、通行人や警官に道を尋ねまくってやっと家を突き止める。明け方に出たはずだったのだが、着いたのは22時を過ぎていた。訪問するには非常識な時間だが関係ないといわんばかりにインターホンを押した。

 数秒後扉の向こうからドタドタと走る音が聞こえ扉が開く。長髪の不機嫌そうな高校生ぐらいの女、目つきの鋭さと悪さですぐに分かった。これが室田つばめだ。

 

「おい、アンタが室田つばめか!」

 

 開口一番喧嘩腰で尋ね睨みつける。反抗的な日々で身についてしまった習性だ。その態度に室田つばめは明らかに不機嫌な態度を見せていた。

 

「あっ!?だったらどうなんだ」

 

 つばめも同じように睨みつけ額を付け合う。次の瞬間足を振り上げつばめの足を力いっぱい踏みつけた。

 一目見た時から気に入らなかった。あれは満たされた日々を楽しんでいる者の目だ。そういう人間は大嫌いで理不尽な暴力を振るってきた。

 つばめは悲鳴を上げ反射的に足を触ろうと屈む。その頭を掴み膝蹴りをかます、これでぶちのめすはずだった。つばめは膝蹴りをガードしていた。

 

「上等だガキ!」

 

 そこからはよく覚えていなかった。相手をぶちのめす為にありとあらゆる攻撃を繰り出し、つばめも応戦した。

 お互い叫び声と威嚇の声を張り上げ喧嘩し、騒ぎを聞きつけたのか、隣の家の高校生やら社会人らしき男が出てきて、どうにかして喧嘩は収まった。

 

「貴女が佐和子の娘だったのね」

 

 つばめの母親らしき女が飲み物を出しながらマジマジと見つめる。佐和子とは母親の名前で、電話で相談を受けておりその際に自分の存在を知っていたらしい。喧嘩を止められ強引に家に連れこみ、周囲に身内の問題だから警察に連絡しないでと頼み込んでいた。そのせいか警察は未だに来ていない。

 

「それで何しに来たんだよ?喧嘩ならちゃんとした場所でやるぞ」

 

 つばめは頬杖をつきながら睨みつける。敵意が漲っており今すぐにでも二回戦を始めそうな気配だ。それに応じて始めてもいいが、本題がある。目が気に入らなかったので喧嘩を売ったが聞きたい事があったのだ。

 

「おい!お前今は楽しいか!?」

 

 あまりに端的な言葉につばめは首を傾げる。暫くして質問の意味を理解したようで答え始める。

 

「ああ、楽しいね」

「何が楽しいんだよ!」

「チームの皆とバイクで走ることだよ」

 

 チームの皆で走るというと暴走族みたいなものか、昔は多く居たようだが、今では少なくなっており地元でも見たことがない。詰まらないからやる奴が少なくなったのだろう。そんなのが楽しいわけがないと鼻で笑った。

 その態度が気に入らなかったのか、一瞬怒って目を開くが直ぐにバカにしたように笑う。

 

「可哀そうな奴だな。あれの楽しさが分からないなんて。風の爽快感!タイムを縮めた時の達成感!皆で走る一体感!走りの楽しさを知らないなんて人生の8割は損してるぞ!」

 

 つばめは嬉々として語り始める。いつもなら問答無用でぶちのめすところだが、あまりにも楽しそうなその姿に僅かに興味を持った。

 

「そんなに楽しいのか?」

「おう!楽しいぞ。そうだこの後チームで走るから一緒に来るか?後ろに乗っけてやるよ」

 

 興味を持ったのが嬉しかったのか走るのに誘ってきた。つい先ほどまで喧嘩した相手を誘うなんて馬鹿か頭お花畑かは分からないが、花奈なら絶対にしない行為である。どうせ何をしても退屈なのだ。退屈に退屈を重ねても一緒だろうと誘いに応じた。

 

 つばめのバイクの後ろに乗って移動する。10分程度走ると潰れたコンビニみたいな場所に4人ほど特攻服を着た女バイク乗りがいた。

 それぞれつばめと同じように特攻服の背中に「燕無礼棲(エンプレス)」と刻まれた刺繍を施している。そいつらはつばめに気が付くと手を挙げて声をかける。

 

「つばめ、何だそのガキは?それにその傷はどうした」

「親戚のガキ、それでこいつにやられた」

「てめえ!つばめに何してくれてんだ!」

「落ち着け、あたしも結構良いの入れたし、おあいこだ。流石にガキをボコるのはダセえ」

 

 詰め寄ってきたメンバーをつばめが宥める。実際言う通りにクリーンヒットをいくつかもらい、口は切れて血が出ているし、脇腹も痛く軽く内出血している。だがボコられるほど負けているつもりはない。この走りが終わったら改めて喧嘩するかと考える。

 

「それで何で連れてきた?」

「こいつが走りなんて詰まらねえっていうから、いかに楽しいかを教え込んでやろうってさ」

 

 メンバーたちはその言葉に怒る憐れむなど、つばめと同じような反応を見せる。そして同じように満たされた日々を楽しんでいる目だった。

 

「じゃあ、どびっきりな走りをしてやんねえとな」

「それより大丈夫か?ビビッて気絶するんじゃねえの?」

 

 メンバー達はケタケタと嗤う。舐めやがって、そんなバイク程度でビビるわけないだろう。とりあえず走りに付き合って、終わった後にクソ詰まらなかったと言ってボコる。

 

「よし、今日の警察は?」

「何か事件があって結構駆り出されているっぽい。今日は安全だ」

 

 つばめ達は集まって何か相談している。数分で終わり其々がバイクに乗りエンジンを吹かし出発準備を始める。

 

「どうする?お試しシャバ僧コースにしてやろうか?」

「ふざけるな!いつもと同じスピードで走れ!」

「上等!泣き叫んでもスピード緩めねえからな!」

 

 つばめは挑発に応じるように軽くウィリーさせて出発した。

 

 走りはまさに未知の体験だった。

 全ての景色をあっと言う間に置き去りにするスピード感、つばめが風よけになっていても十二分に感じられる風の勢い、あと数センチ操作を誤ればクラッシュするぐらいコーナーを攻めた時の恐怖とスリル。全てが新鮮だった。

 

「ほらよ。飲め」

 

 つばめが缶ジュースを投げてきたので花奈は受け取り、遠慮なく飲む。チームは走り続け明将山と呼ばれる山頂付近に着き、自販機前でたむろっていた。

 

「やるじゃねえか。オレの後ろに乗って叫び声一つあげなかったなんて、そうはいねえぞ」

「当然だ。あんなのそこら辺のジェットコースターみたいなもんだ」

 

 花奈は胸を張って威張る。だが本音を言えば死の危険を感じて、何回か声を上げようとしてしまったが意地で恐怖をねじ伏せていた。

 

「それでどうだった?」

「…少しはマシだったな」

 

 つばめは期待の眼差しで顔を覗き込みながら聞くので、そっぽを向いて答える。

 少しはマシというのは花奈にとって最大限の賛辞だった。バイクでの走りは今までの退屈さを埋め楽しさを与えてくれる可能性を感じていた。

 つばめはニヤニヤと笑みを浮かべ見つめながら、懐から携帯電話を取り出す。

 

「お前の連絡先教えろ」

「は?何でだよ」

「次に走る時の日時を教えてやるよ。来るか来ないかはお前の自由だ」

「勝手にしろ」

 

 花奈はスマホを取り出し、お互いの連絡先を交換した。電話帳に「スピードバカ」と登録する。実家以外で初めて登録された連絡先だった。

 

 それからチームの走りに毎回参加した。道路を疾走する。すると日々の退屈さが少しまぎれ、心もウキウキしていた。

 チームにも馴染み妹のように可愛がられており、居心地も悪くは無かった。

 本当ならバイクに乗って参加したかったが何故か免許を持ってない奴はバイクに乗るなという決まりがあった。スピード違反はするのに妙なところでマジメだった。

 だがバイクを持っていたとしてもメンバーのバイクはカスタムされまくっており、普通のバイクではとても追いつけないので、渋々つばめや他のメンバーの後ろで我慢した。

 

「なあ、何で警察の無線傍受したり、他のチームと日程調整したりするんだ?」

 

 ある日花奈は何気なく質問を投げかける。チームは無線を傍受し逐一警察の動向を伺っている。そしてN市にはスピードが出しやすいコースがあり、そこは一番人気のスポットであり、日にちによって走る順番が決まっている。

 その質問につばめは半笑いで答えた。

 

「そりゃ、ネズミ捕りされたくねえからな、それにオレ達が好き勝手走ったら、他のチームが走れねえだろう。不良だけどルールが有るんだよ」

 

 花奈はその答えに全く納得いかなかった。何で好きな事をするのに警察の動向を伺って逮捕するのを恐れビクビクとやらなければいけないのだ。それに走りたいコースがあれば好きに走ればいいではないか、他人の事情など知った事ではない。

 

 その時からつばめ達との価値観の違いを覚え始めていた。それに疎外感もあった。

 このチームはつばめ達のものだ。馴染んでいるが消して乗り越えられない一線のようなものを感じており、本当の仲間ではなかった。

 それでも花奈はチームの走りに参加した。価値観の違いや疎外感は有るものも、何だかんだで一番マシで退屈を凌げるのがここだった。だがそれはずっと続きはしなかった。

 

 チームのメンバーが高校を卒業して燕無礼棲は解散した。つばめ達は全員同級生で後輩達は入ってこなく自然消滅という流れになった。

 花奈は憤慨した。バイクで走るのは楽しかったのだろう?ならばずっと走ればいい!だがメンバー達は大学生だからとか、別の場所に進学するとか、就職するとか、結婚するとか、理由を付けて走るのをやめた。

 一回だけ結婚したつばめの家に行って説得しようとした。走るのが楽しいのに何故やめる。一緒に走ろうと説得した。

 だがつばめはもう卒業だと半笑いを浮かべた。その顔を見た瞬間顔面を殴りつけた。だがつばめは反撃してこなかった。チームに居た時のつばめなら殴り返したはずだ。もうあの時のつばめはここには居ない、居るのは丸くなったつまらない人間だ。

 もういい!ならば作る!同じ価値観を共有した本当の仲間たちで作り上げたチームを!このN市で作り、楽しそうに走る姿を悔しがれ!

 

 中学卒業後、親達から手切れ金代わりの金を貰いN市の高校に通いながら一人暮らしを始めた。

 自分と同じ方法でしか退屈を凌ぎ楽しめない孤独な奴らは必ず居る。そう信じメンバーを集めに勤しんだ。だが誰一人同類は見つけられなかった。

 花奈の心はイラつき荒んでいく。退屈さを紛らわそうと1人バイクに乗り走った。騒音を鳴らし邪魔する奴は全てなぎ倒す。燕無礼棲のようにコソコソと走らず、己の存在を主張するような走り。だが気分は一向に晴れなかった。

 この世界に誰一人理解者がいないのか、そう諦めた時に殺島飛露鬼が現れた。

 

◆殺島飛露鬼

 

「なあ花奈。俺達で暴走族(ゾク)やんねー?」

 

 殺島の誘いに目を点にして動きを止めていた。よほど不意をつかれたのだろう。数秒後我に返り疑いの目を向けながら問いかけてくる。

 

「暴走族?アタシが言う暴走族はただ単車転がして、スピード出してるだけで満足して、警察に捕まるのを怖がって逃げ回るシャバイ奴の集まりじゃねえ!好き勝手走って、他人の事なんて気にしないで、警察だろうが邪魔する奴はなぎ倒していく暴走族だ!」

 

 殺島はその答えに嬉しさと悲しさを綯交ぜにした表情を浮かべる。ただ走るだけなんて暴走族ではない。

 他人を踏みにじろうが関係なく己の幸福を追求し、何者にも走りを邪魔されず縛られず邪魔する者は蹴散らし、自分の存在を主張する。

 それが暴走族だ、自身と同じ考えであることは嬉しくもあった。だが同時に悲しくもある。

 普通の生活にでは退屈を凌げず楽しみを見いだせず。暴走という他人を踏みにじる方法でしか幸福感を感じられない。

 異常な孤独な者、それが聖華天であり、殺島飛露鬼であり、生島花奈だ。

 親だった立場なら娘の花奈には自分と同じにはなって欲しくはないと願う。だが生島花奈はそうはならなかった。

 このまま放っておけば生島花奈は退屈で孤独な人生を歩み続ける。中学生の頃に唯一の肉親である母親が死んだ時に聖華天を作らなければ、空虚で退屈な人生を歩んでいただろう。考えたくも無いし歩ませたくはない。

 花奈の為に悪の道を進み孤独な者の味方になる、いや自分の為にもう一度悪の道を進む。

 

「当たり前だろ。それが暴走族(ゾク)だ」

「だよな!だよな!」

 

 花奈は目を輝かせ賛同する。あの目は同類に会えた歓喜の目だ。その笑顔に殺島は娘の花奈の生前の笑顔を思い出し、涙を滲ませ見えないように拭った。

 




ふと思いついたので書きました。
正直見切り発車で何も考えていないに等しい状態ですので、更新の感覚は長くなると思います
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