暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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やっと魔法少女育成計画のキャラが出ます


第10話 エンカウント・チャラ・チャラ・マン

♢姫河小雪

 

 小雪は信号が赤から青に変わると道に浮かぶ水たまりや風向きによる雨粒の方向に気をつけながらいつもより少しだけ速く歩き始める。この後は駅前のチェーン店のカフェで友人のスミレと芳子と過ごす。

 中学3年になり卒業や高校受験という単語が少しずつ現実味を帯びていく。日が経つごとに本格的に高校受験の準備を始めなければならない、こうやって集まり放課後を過ごす時間は少しずつ減っていくだろう。こういう機会は大切にしたい。

 本来であれば今頃3人で過ごしている頃なのだが、今日は日直などの雑務の量が多く、急遽手伝いを頼まれたりと時間をかかりそうなので2人には先に行ってもらった。

 横断歩道を渡り数分程歩くと店に辿り着く。僅かに乱れた息を整える様に深呼吸をし、制服の腕やスカートについた雨粒をふき取り店に入る。

 小雪はレジカウンターに並びフラペチーノを購入し2階に向かう。この店はどこでも座れるが何回か足を運んでいると自然に座る席も決まってくる。2階の窓側が指定席である。

 2階に上がり指定席付近に視線を向ける。レジでの混雑具合で何となく想像できたが、今日は雨宿りついでに来店しているのかほぼ満員でぱっと見では分からない。

 窓側に近づきながら探すと同じ制服と見知った後ろ姿が見えた。

【挿絵表示】

スミレと芳子だ、今日は左側に座っているのか、近づこうとするが思わず止まる。右のウェーブがかかっているのがスミレで左のポニーテールが芳子だとしたら真ん中に座っているのは誰だ?

【挿絵表示】

 

 セミロングの無造作ヘアの黒髪に学ランを着ている。その姿からして男性だ。会話が盛り上がっているのか楽しそうに談笑している。どちらかの友人で偶然会ったのだろうか。

 小雪は様々な憶測を考えながらスミレの隣の席に荷物が置いてあるのを見つけ、恐らく席を取ってくれているのだと仮定し、席に近づくと遠慮がちに声をかける。

 

「あっ小雪、来たんだ」

 

 スミレは荷物を自分の足元に置いて席を空け、小雪はフラペチーノを載せたトレーを席において座る。

 

「紹介するね。この子が小雪」

「初めまして、姫河小雪です」

「オレはヤジマヒロキ、ヨロシク」

 

 矢島浩紀、谷島弘樹、聞こえた音声を漢字に変換しながら視線を向ける。ヤジマは屈託のない笑顔を浮かべながら挨拶する。容姿は整っており、制服の着崩しやシャツのデザインやネックレス、それに声色や仕草から社交性が高く、俗に言うチャラい寄りの陽キャと分類される人物だろう。個人的にはあまり関わり合いも無く、得意苦手かで訊かれれば苦手に分類されるタイプだ。

 

「それでヤジマさんとは誰か知り合いなの?」

「いや初対面、私達がナンパした」

「ナンパ!?」

 

 思わぬ答えに若干が裏返りながらオウム返しをしてしまう。自分達にはナンパとは縁遠い単語だと思っていた。ナンパされるだけでも予想外の事態で僅かばかり動揺するのに、スミレ達がナンパするとはあまりにも予想外だった。

 

「いや、小雪を待ってるのにナンパするのはどうかと思ったよ。でもスミが『これだけのイケメンはナンパしないのは失礼』とか言って声かけるんだもん」

「よっちゃんだって一緒に声かけたじゃん」

「それはアンタが一人じゃ怖いから一緒にってせがむから」

「でも結構ノリノリだったじゃん」

 

 2人は姦しく当時の状況を説明する。2人はノリが悪い方ではないが、逆ナンするような大胆な性格ではない。なんで声をかけたと尋ねると「青春の1ページを刻もうかなって」と本気かふざけているのか分からない答えが返ってきた。

 

「オレも用事まで暇だからどうすっかなって考えてたら、そしたら可憐(キュート)な年下の2人組に声かけられてさ。『これだけの美人にナンパされて断るのは失礼』って即受諾(そくレス)よ。それに初々しいからナンパすんの処女(はじめて)って分かったし、男として処女(はじめて)を頂くなんて名誉(ステータス)すぎる」

 

 ヤジマはスミレや芳子と同じようにふざけながら当時の様子と心境を説明する。スミレが「初めてを頂く」なんてエロいと茶化しながら3人で笑い合う。僅かな時間ながら随分と打ち解けているようだ。

 

「ねえ、ヤジマ君は彼女とかいるの?」

「どう思う?」

「いっぱい居そう。それで淫らな夜を過ごしてさ」

「スミ、おっさ~ん、案外一途に思っている女性が居るってパターンだよ」

 

 2人は話の流れでヤジマの恋愛事情について踏み込んでいく。小雪はその会話の輪に入らずに気取られないように殺島の様子を観察していた。

 遊び人っぽいと思っていたがここまでチャラいとは思っていなかった。この軽薄な男が友人達に何かをするかもしれないと注意を払っていた。

 

「それでどうなの?教えてよ」

 

 スミレの言葉に芳子も答えを求めるように殺島に視線を向け、ヤジマはニヤつきながら沈黙する。それが緊張感を煽っているのか2人は固唾を飲んで見守っている。

 

「答えは黙秘(シークレット)だぜ」

 

 殺島は唇に立てた人差し指をつけるジェスチャーをしながら答え、その言葉に2人は肩透かしを受けたと云わんばかりに『え~』と落胆の声をあげた。

 

「でも彼女になってくれるなら恋の魔法(チャーム)をかけてやるよ」

 

 殺島は淀みのない動作で親指と人差し指でスミレの顎を掴み上向かせ唇にキスをした。あまりにも予想外の行動に誰も反応できなかった。そして流れるような動作で芳子にもする。それから一拍おいて芳子とスミレは頬に手を当てて顔を紅潮させながら、他の客に迷惑になるレベルでキャーキャーと騒ぐ。

 それから一拍遅れて小雪は立ち上がりヤジマを睨みつける。初対面の相手にキスするだなんて何て男だ、余りの出来事に2人は動揺し穢されたことに悲しんでいるだろうと視線を2人に向ける。2人だが動揺は見えるがまるで殺島が言う魔法をかけられたかのようにトロンとした目で熱を帯びた視線を送っていた。

 何故いきなりキスしてきた相手に悪い感情を抱かず、浮ついた表情を見せるのだろう。自分では考えられない心理だ。

 そして再び殺島に視線を向ける。確かに容姿は整っている。ある程度の行動は赦されるという傾向は多少あり、2人もイケメンなら抱き着かれてもいいかなと雑談で言っていた記憶もある。だが初対面の相手にキスして嫌がられないほどの絶世の美男子かと言われると疑問符がつく。

 

「姫河にも恋の魔法(チャーム)をかけてやろうか?」

 

 殺島は視線に気づいたのか小雪に向けて投げキッスする。それに返答するように小雪の視線は厳しくなる。

 

「ダメだよ。小雪の純潔は奪わせません~」

「ファーストキスは砂浜でキレイな夕日を背に初恋の人とするんだから」

 

 芳子はヤジマの間に入り、スミレは大げさな動作で小雪を守るように抱き着く。殺島はそれを見てワリいと爽やかな笑顔で詫びを入れた。

 

「殺島君って学年は?」

高校2年(こーに)

「やっぱり高校生か、そういえばタメ語で話しちゃった」

対等語(タメご)無問題(かまわね)

「でも制服着てるから高校生に見えるけど、着てなかったら高校生に見えないって」

露見(バレ)たか。実は40代のおっさん」

「だったら若すぎでしょ」

「でもひょっとするかも、私ぐらいの恋愛マスターなら分かるんだよね。こう大人の色気?的なやつが高校生離れしてるもん」

「誰が恋愛マスターだって?スミは彼氏居ない歴=年齢なのに」

「マジで非現実(ありえねえ)。何ならオレがスミレの初物(はじめて)になりてえぐらいだぜ」

「本当に~?本気にしちゃうよ」

「だったら私にも立候補してよ」

 

 殺島の言葉にスミレ達は黄色い声を出しながら姦しく騒ぐ一方、小雪はすっかり冷めたアップルパイを食べながら2人の様子を冷ややかな視線とも言える瞳で見つめる。ナンパという今までにない非日常的なイベントに完全に舞い上がっている。

 今の2人は正常な判断能力を失っている。仮に怪しげな壺を買わされたりマルチ商法に引っかかっても不思議ではなく、それを実行しそうなうさん臭さがヤジマにはある。

 今すぐにでも友人達を引き連れてこの場から離れたいところだが、2人はナンパという非日常を少なからず楽しんでいるので水は差したくない。

 静観しつつヤジマが何か皆の害になりそうなことをしそうになったら口を挟む。スタンスを決め会話に入ることなく3人の様子を静観する。

 殺島は聞き上手で基本的にスミレと芳子が喋り、程よいリアクションと相槌で気分良く喋らせ、そして会話が途切れそうになると自分で話題を振り会話を途切れさせない。

 2人は楽しそうに喋り今までに見られなかった新しい一面が次々と見えてくる。そして会話の外にいる小雪も皆の会話を聞いているだけで楽しかった。

 そして静観しているうちにヤジマに対する評価を改める。話術もそうだが不思議と人を惹きつける華やかさがあるような気がした。

 

「ところで、フラッシュ……じゃなかった、キューティーヒーラーってアニメ知ってるか?」

 

 ヤジマは会話が途切れた合間を縫って話題を振り、思わぬ単語に僅かに体が反応する。魔法少女アニメであり大好きなキューティーヒーラー、その作品がヤジマの口から出るとは思わなかった。そして場の空気が若干変わる。

 スミレも芳子もアニメが好きというわけではない。世間で流行しているアニメなら見ている可能性はあるが、キューティーヒーラーは世間で流行していない。そんなアニメの話題を振っても話は広がらないのは目に見えている。今まで場を盛り上げる事に徹していた殺島にしては明らかなミスである。

 

「あ~懐かしい。小さい頃は見てたよ」

「急にどうしたの?」

 

 スミレは当然のように質問する。その声色や視線から落胆の色が見られる。キューティーヒーラーは一般には低年齢向けの女児アニメだ。そんなアニメを男子高校生が話題にすれば敬遠されるのは当然である。

 かつて岸部颯太も世間体を保ち如何にして見つからないように楽しむかに苦労したかを語っていたのを思い出し、在りし日の記憶が蘇り胸がチクりと痛んだ。

 

「いや、オレの大切な人が真剣夢中(ガチはま)りしててよ。ハ……あの娘が何に(ゾッコン)んで何に夢中(ハマ)ったのかを知りてえから、今度は真剣(ガチ)で見てみようかなってな」

 

 ヤジマは懐かしみ、そして淋しそうに語る。その表情と雰囲気は高校生とは思えない年月の深みを感じていた。そして今まではどこか仮面をかぶり本音を隠していた印象が有ったが、この日最も本音をさらけ出した瞬間のような気がした。

 

「そうなんだ……だったら小雪が詳しいよ」

「そうそう。魔法少女が好きでさ、去年の秋ごろまであった魔法少女育成計画ってソシャゲもやってたし、魔法少女が居るって都市伝説が流行した時に真っ先に信じてたくらいだからさ」

 

 芳子達は今まで会話の輪に外れていた小雪に突如話題を振り視線を向け、ヤジマも釣られるように視線を向ける。この場に居る者の視線は全て小雪に向けられていた。

 小雪はこの後の展開を考える。友人達には魔法少女モノが好きだというのは知られているのでしらばっくれるのは無理だ。であればどれだけ話すかだが全力で紹介し良さを伝えれば時間もさることながら友人達もひいてしまい、今後の関係に影響が出るかもしれない。

 

「キューティーシリーズなら最初のキューティーヒーラーを見ればいいと思います。それで気に入れば他のシリーズを見ればいいと思います。何だかんだ無印がベースになっているから無印がおもしろければ他も楽しめるはずです」

「シリーズってことはそのキューティーヒーラーだけじゃねえの?」

「はい、キューティーヒーラーギャラクシーとかフラッシュとか、10作以上はあります」

「1シリーズ何話?」

「1年だから52話です」

大長編(サーガ)だな」

 

 ヤジマは視聴にかかる時間を計算したのかその時間数に思わず天を仰ぐ。

 

「でもシリーズごとに繋がりが有るわけじゃないので一から順に見なくても、ネットとかであらすじとか興味を引いたキャラクターとかが出ている作品を見るのもありだと思います」

「なるほど」

 

 ヤジマは興味深そうに相槌を打つとスマホを取り出し操作し始める。取り敢えず当たり障りのない紹介だったと思う。

 小雪は友人達の反応を確かめるように見渡すと殺島と同じようにスマホを取り出し、『そういえばこんなキャラいた』『え?そんな結末だったっけ』とキューティーヒーラーについて調べながら昔を懐かしむように思い出話に花を咲かせる。小雪も話の輪に入り熱が入りすぎないようにしながらお喋りを楽しんだ。

 

「じゃあねヤジマ君」

「ああ、誘ってくれたらいつでも参上(くる)からよ」

 

 芳子達は手を振りヤジマも応える様に手を上げながら自分達とは逆方向に歩いていく。あれから小一時間ぐらい喋ると場の空気が頃合いだという流れになり解散する。

 

「いや~、中々に楽しかったね」

「確かに、聞き上手のイケメンと話すのがこんなに楽しいとは思わなかったわ。ホストにハマる人の気持ちが分かった気がする」

「なんたってスミレはファーストキスが奪われた記念日だからね。今の気持ちはどう?」

「別に~私ぐらいの恋愛マスターにとってキスなんて挨拶程度よ。それにファーストキスじゃないし」

「そうなの?誰にファーストキス奪われたの?聞かせてよ」

「しょうがないな~」

 

 スミレの話を聞いている芳子の後ろを歩きながら小雪は今日の出来事を振り返る。友人が男子高校生をナンパするという衝撃的な出来事が起きたが普通にお喋りしただけで特に何もなく終わった。

 

「よし連絡先ゲットしたし、週末ぐらい遊びに誘っちゃおうかな」

「おお~スミ肉食系」

「来年は女子高校生だからね。女子高校生に甘んじて受け身じゃねあっという間に卒業だよ。彼氏をゲットするためには積極的に動かないと」

「今からヤジマ君と付き合えばいいじゃん」

「無理でしょ。あれは競争率が高すぎるっていうか、誰かいるでしょ」

「じゃあ何で遊びに誘うの?」

「だって楽しそうだし、誰かいい人紹介してもらおうかなって」

「そういえば小雪は連絡先交換しなかったの?」

「うん」

「ダメだぞ小雪、私達も来年は高校生なんだから積極的に動かないと」

「確かに、スミじゃないけど受け身だと彼氏できずにあっという間に卒業とかもあり得るし」

 

 3人はスミレのファーストキスの話題から再び殺島に話題を移す。恐らく殺島と友人達は恋愛関係にはならない。殺島にとっても友人達とは遊びであり、皆もそれを何となく理解している。仮に連絡を取ってどこかで遊ぶとしても彼女になるために交流を深めているのではなく、それこそホスト遊びのような感覚だろう。

 

「じゃあ、また明日」

「またね」

 

 小雪たちは別れの挨拶を交わし其々の家路についた。

 

 

 深夜のN市、セーラー服風のコスチュームを着たピンク髪の少女が住宅の屋根を飛び石代わりに街を移動する。その動きは明らかに人間離れしており、もしその様子を目撃した人が居たとしてもあまりの速さに目の錯覚だろうと思ってしまうほどの速度だった。

 その少女は屋根からある民家の2階に一足飛びで移動し中に入る。そしてピンク髪の少女の姿が突如変わり姫河小雪の姿に戻る。

 

 姫河小雪には友人にも両親にも秘密にしている事がある。かつてN市で話題を呼んだ魔法少女達の1人、魔法少女スノーホワイトである。ある日魔法少女にならないかとスカウトされ、魔法少女に変身できる力を授かった。

 魔法少女は常人とは比較にならないほどの身体能力と魔法を授かる。その代価として人助けなどの善行をすることを推奨される。推奨であり強制ではないが、善行をしなければ魔法少女の力を剥奪され、ほぼ強制と言っていい。

 そしてスノーホワイトは今日もN市を巡回し、この時間まで道路に寝転がっている酔っ払いを自宅まで運ぶなどの人助けをしていた。

 

 今日はトラブルが連続して起こりそれに対処していたら帰るのが遅れてしまった。小雪は明日の登校に備え急いで寝間着に着替え就寝の準備を整える。そして何気なくスマホを手に取ると画面に見知らぬアイコンのメッセージが表示され、そのアイコンの横には殺島という文字が書かれていた。

 殺島なんて物騒な苗字だ、そんな知り合いなんて居ない。迷惑メールの類か?開いてウィルスでもばら撒かれたら怖い。普段なら開かず消去するのだが、今日は消去せずメッセージを確認した。

 

「急にメッセージ送って悪い、今日出会った殺島だ。連絡先はスミレから教えてもらった。帰ってからキューティーヒーラーを見たんだが、ガチでオモシレえ!!!恐らくこのまま見るつもりだが、今の時点でも色々と語りてえって欲がパンパンで、見終わった後には破裂してるは絶対!!!それで色々と語りてえから明後日の放課後に昨日の店で俺の語りに付き合ってくれねえか?」

 

 小雪の中で殺島の姿が浮かび上がる。殺島と書いてヤジマと読むのか。だが今日は殺島と連絡先を交換していない。芳子かスミレが連絡先を教えたのだろうか?そして殺島から直接連絡が来たのも驚いたが、内容はもっと驚いた。

 思わず首をひねる。あまりにも予想外の行動とお願いにどうしようかと悩んでいた。

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