暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第12話 ヤンキーヤンキー

◆生島花奈

 

「そういえば暴走族(ゾク)関係以外で友達存在(ダチいん)の?」

 

 ファミレスのドリンクバーで覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の今後について話し合いをしている最中にヤジが何気なく問いかける。

 

「いる。1人だけ」

真実(マジ)か、花奈は非友好的(コミュしょう)だから暴走族(ゾク)関係以外は友達(ダチ)いないと思った」

 

 ヤジが心底驚きながらニヤニヤと笑みを浮かべながら呟く。今すぐにでも殴りたくなるがグッと堪える。

 確かにその通りだ。ヤジと出会い覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)を作るまでは誰とも趣味も気も合わず友達はいなかった。辛うじて該当するのがつばめ等の燕無礼棲(エンプレス)のメンバーぐらいだった。過去形で有り今ではシャバ過ぎて友達とは思っていない。

 そして今も覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)以外のメンバーとは仲良くしようとは思わないし、相手も仲よくしようとは思わない。例外はあいつだけだ。

 

「それいつ頃からだ?」

「出会ったのは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)結成前ぐらいか」

「どんな奴だ?」

「変な奴だよ。何かと構ったり駄弁ろうぜって呼びつけたり押しかけたり」

「そいつは傾奇者(へん)だ。今じゃマシだが、あの頃は鋭角(ギラギラ)してたし、誰も近寄らねえ」

「だよな」

 

 花奈は自虐的に笑う。改めて思い返すと本当に荒れていた。そんな自分に声をかけ続けるなんて本当に傾奇者だ。

 

「よかったら、初遭遇(ファーストコンタクト)を訊かせてくれよ」

 

 ヤジは興味津々という目つきでこちらを見つめる。普段なら何となく気恥ずかしくて話さない。だが今は話してもいいかなと思っていた。

 

「ああ、いいぞ。あれは秋ごろだな」

 

 

◆◆◆

 

 花奈は不機嫌の極致だった。燕無礼棲(エンプレス)が自然消滅したことに激怒し、高校に入ったらそれ以上のチームを作ると決意しながらも誰一人メンバーにならず、1人で走っても全く楽しくない。

 それでも多少マシかとバイクで走り、残りの苛つきは喧嘩で発散していた。それでも僅かにガス抜きが出来ているに過ぎなかった。

 そして一カ月前に室田つばめが死んだ。燕無礼棲(エンプレス)のリーダーであり従妹だった。誰かに襲われお腹の中の赤ちゃんも死んだ。結婚するからとチームを抜け自分の子供すら守れないカスだ。

 交流を断っている親からも葬式の日時を教えられたが行かなかった。行けばありとあらゆる文句を言ってしまうのは明らかだ。行かないのがつばめに対する最大限の礼だ。

 

 花奈は学校をふけて当てもなくN市をバイクで走り回っていた。気が向くままに走っていると住宅地の外れの方につき一軒の洋食店があった。外観からして個人経営だろう。丁度腹が空いていたので店に入る。

 中もテーブル席が5個程度で1席は茶髪のそばかす女が座っている明らかにチェーン店より小さい。店員も同世代の女だけで、厨房も恐らく1人だろう。

 最奥のテーブルに座りメニュー表を確認する。ハンバーグやカレーライスなど気取った感じの料理は無く、大体は千円以下と中々に良心的な値段だ。財布には千円しかなかったので不味ければ恫喝による値切りを考えていたがやらずにすむ。

 とりあえずハンバーグとライスを頼み10分程度で料理が運ばれ口に運ぶ。

 

 美味い。

 

 最近は碌な飯を食べていないというのを差し引いても美味い。今までの中で一番美味いハンバーグだ。すぐに食べたいという欲求を抑えゆっくりと食べ味を楽しむ。

 すると入り口から騒がしい声が聞こえてくる。振り向くと大学生らしき男2名が入ってくる。耳障りな声で普段ならうるせえと威嚇するところだが、気分が良いので特に何もしない。

 ハンバーグを楽しむなか男たちは相変わらずうるさかった。ハンバーグで抑えていた不機嫌さが次第に大きくなるのを感じる。

 

「あれ……ダサくね?」

 

 ふと耳に聞こえてくる単語と人をバカにした気配、これは完全に侮辱している。残っていたハンバーグを口に放り込み急いで食べ胃に流し込み、ハンバーグを載せていた皿をノールックで後ろに投げつけた。

 男の叫び声と皿が割れた音が聞こえ振り向くと1人が顔面を押さえて蹲っていた。皿が当ったのを確認し、椅子から立ち上がり後ろに向かって走る。

 もう1人が反射的に振り向き立ち上がる。そこに顔面に飛び膝をかます。頭の中で膝が直撃する映像が浮かび上がる。だが膝は直撃せず男は後ろに倒れこんでいた。

 テーブルに着地しながら状況を確認する。男の隣に女の店員がいる。女が男を引っ張って攻撃を回避したのを瞬時に判断する。

 男をボコすのを邪魔する女も敵だ

 

 攻撃対象を男から女に変えテーブルから跳躍し跳び膝をかますが、両腕を掲げ頭部をガードされる。そのまま着地と同時に水面蹴りで足を払うが跳躍されこれも回避される。だが攻撃はこれで終わりではない。水面蹴りの勢いをさらに増しバックスピンキックを繰り出す。狙いは金的、金的は男の弱点だがちんこがなくとも女にとっても急所になる。それは数々の喧嘩で知っている。

 だがこれもガードされる。一般人ならこれで決まっている。相手の力量を感心するより防がれた苛立ちが頭を駆け巡る。

 すると女は顎に向けて右のハイキックを繰り出す。この反撃は予想外だ。しかもキレが良くまともに当たれば只では済まない。ガード、バックステップ、様々な選択肢が浮かび上がる。

 ここはより攻撃的にいく。膝を曲げダッキングの回避を試みる。蹴りが掠り頭頂部に痛みが走るがギリギリで避け、そのままがら空きの軸足に組み付いて相手を倒し素早く馬乗りになる。

 そこから拳を振り下ろすのではなく、拳を握り小指の側面を叩きつけるように振り下ろす。こっちのほうが拳を傷めず力が入るような気がして、馬乗りになった際にはこの方法で攻撃している。

 相手は懸命に腕を掲げ防御する。大概の者は反射的に腕を掲げ防御するが、ガード越しに殴られる衝撃と恐怖で思わず目を瞑り、ガードが疎かになりその隙間を潜って殴り倒すのがいつものパターンだ。だがこの女は目をしっかり開けてガードしていた。恐怖ではなく敵意や抗う気持ちが溢れた目だ、気に入らない。

 花奈の攻撃の苛烈さは増しガード越しに何度も鉄槌を叩きつけるがガードは崩れない。本来ならば女にしか目がいかないはずだが、ふと視線を上に向けると周囲には誰もいなかった。

 

「逃げたなアイツら!」

 

 花奈は立ちあがると出口に向かって駆けていく。元はバカにした男2人をボコろうとしたのだ。女にかまっている暇はない。茶髪のそばかすに介抱されている女を見ながら店を出ると近くに止めていたバイクに乗り出発した。

 

◆◆◆

 

「ところで、花奈を侮辱(ディス)った奴は」

「ああ、見つけてボコボコにした後は全裸の写真撮るついでに現住所を記録して、警察(イヌ)通報(タレ)こんだらネット上に晒すって脅した」

苛烈(えっぎ)~」

「それはそうだろ」

「ところで友達(ダチ)の話は?」

早漏(はやんな)、これからだよ」

 

 話の腰を折るヤジを諫めながら話を続ける。

 

「これで足りるかな」

 

 花奈は店前でバイクを降りて財布にある千円札を数える。昨日行った店は大当たりだった。毎日でも行きたいが、昨日は不可抗力で暴れてしまい店に迷惑をかけてしまいついでに食い逃げもしていた。他の店なら二度と行かなければいいだけだが、今回はそうはいかない。

 今日は昨日の料理の代金以外に投げた皿代と迷惑料をあの2名から徴収しておいた。相場は分からないが大丈夫だろう。

 店に入ると昨日の女店員と店長らしき男が信じられないと言った表情で見つめていた。

 

「どのような御用でしょうか?」

「昨日の飯代払ってなかったから払いに来た。あと皿代と迷惑料とかもこれぐらいで足りるだろう」

 

 財布から札を抜き出し店長に渡す、女店員は邪魔したので謝る必要はない。これでチャラだろう。意気揚々と昨日と同じ席につきメニュー表を広げる。昨日はハンバーグだったから今日はカレーにでもするか、メニューを吟味するなか視界に映る店長に視線を向け呟く。

 

「ぼーっと突っ立ってんなよ」

 

 メニューが決まっていなくても厨房で準備することがあるだろう。それなのに突っ立ってるんなて舐めてんのか、料理が美味くなければボコるところだ。だが店長は一向に厨房に行かないどころか睨みつける。花奈の中で不機嫌さのボルテージが急上昇する。

 

「店長、この娘は私の友達で実は若い人達が私に向かって酷い悪口を言うから怒ったんです。許してあげてください。いや~昨日は私のために怒ってくれてありがとう」

 

 すると女店員が視界を遮るように割って入りやたら親し気に話しかけてくる。何言ってんだこいつ?侮辱されたのはこっちだ。とち狂ったか?すると女店員は店長に気付かれないように小声で話しかける。

 

「話を合わせて、でないと料理食べられない」

 

 よく分からないが料理を食べられないのはダメだ。とりあえず女店員の話に合わせよう。軽く頷いて意思表示する。

 

「そうなの、でも昨日本気で殴ったり蹴ったりしてなかった?」

「それは……、あれです。私とこの娘格闘技が好きで、いつもあんな感じでじゃれ合ってるんですよ。ね」

「ああ……いつもあんな感じ」

 

 話の流れに合わせてテキトーに受け答えする。すると店長は疑いの目線を向けながら渋々といった様子で厨房に戻っていく。

 

「なんで庇った?」

「あいつなら同じことしそうだから」

「は?」

「あと料理食べたら顔貸して」

「昨日の復讐(リベンジ)か?」

「ただの雑談、断ったらさっきのは嘘だって言うから。自分のところの従業員が赤の他人に暴行されたなんて知ったら、出禁確実だから」

「……分かったよ」

 

 それから料理を食べ終え店先の路肩に座り込んでいると暫くして女店員が缶コーヒーを手に持ちながらやってきた。

 

「私は細波華乃、名前は?」

「……」

「高校2年だけど、アンタは?」

「……」

「たぶん同世代だよね、学校は楽しい?」

「……」

「友達いる?家族とうまくやってる?」

 

 細波は親し気に話しかけるがガン無視を決める。顔を貸せと言われたので付き合っているが喋る義理はない。それに馴れ馴れしい態度がつばめを思い出して余計に腹立つ。

 

「ここの料理気に入ったのならまた来な。こっそりサービスしてあげる」

 

 細波はやれやれといった具合にため息をつくと一声かけて店に戻っていった。

 

◆◆◆

 

「それから、店に行くごとに話しかけやがって、店長に怒られても話かけやがんの」

「そいつは情熱的(アグレッシブ)だ」

「それからヤジと会って覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)が出来た頃かな。機嫌よかったのか連絡先教えたら、やたらメッセージ送ってきやがる。それにオモシロイ漫画教えてやるとか古本屋に連れてかれたり、店の賄いを恵んでやるから来いとか、新メニューの試食させてやるから来いとか呼び出したりとかこっちの都合なんて関係なく振り回しやがる」

「でも悪くはないんだろ」

「まあな」

 

 思わず頬を掻きながら肯定する。最初は本当に鬱陶しい奴だったが、今ではすっかり絆され友人と思ってしまっている。

 

「それでその友達の店どこだ?皆で行こうぜ」

「嫌だよ。店が混むだろ。程よく空いているから待たずに食べられるのがいいんだから」

姑息(ずっち)~、教えろよ」

「嫌だね。自分で探せ」

 

 ヤジが何度も教えてとせがむが邪険に扱う。人気店になって行列待ちになったらすぐに食べられないし、味が落ちるかもしれない。何より閑散とした店内で華乃と駄弁るのが好きだ。客が多く来たら出来なくなる。

 

♢細波華乃

 

 細波華乃はバイト先近くの公園につくとベンチに腰掛け思わずため息をつく。疲れが溜まっているのかと分析する。

 1人暮らしで親からの援助を断っているので普通の高校生よりバイトしなければならない。只でさえ疲れるのに1週間前に1学期の中間テストがあった。

 卒業後は大学に進学せず就職するつもりだが、やりたい事が見つかり奨学金で通うかもしれないので成績は上げるに越したことは無いとそれなりに勉強して、努力相応の結果を出せた。正直バイトとテスト勉強の日々は堪えた。

 すると腕に蚊が止まっていた。最近は暖かくなったといえど季節外れだと思いながらも血を吸われたら痒くて不快なので叩く。だが蚊は叩き潰される前に腕から離れていく。

 これが魔法少女なら叩き潰せるどころか痒くすらならないのに、それ以前に蚊が魔法少女の血を吸ったらどうなるのだろうかと他愛もない事を考えていた。

 

 数年前、華乃が住んでいるN市で魔法少女選抜試験が実施された。内容は1週間ごとに人助けをして得られるキャンディを争うという平和的な物だった。だが最下位は死亡し運営側が人助けではなくキャンディの奪い合いを推奨するルールに変更し、壮絶なデスゲームになった。結果16人居た魔法少女は2人になった。

 その生き残りがスノーホワイトとリップル、リップルは細波華乃が魔法少女に変身した姿である。

 

「うっす。待たせたな」

「遅い、蚊に刺された」

「叩けよ。鈍重(すっとろ)すぎ」

 

 花奈はタンクトップとショートパンツという部屋着のような格好でやってくるや否や軽口を叩く。

 

「はい、今日は結構余ったみたい」

「あざっす」

 

 花奈に店の賄と廃棄品をつめたタッパーを渡すと嬉しそうに受け取る。どうやら家庭環境が複雑らしく、手切れ金のように親から金を渡され一人暮らしをしているようで、時々廃棄品などをたかってくる。バイトしろと小言を言うが忙しくてバイトしている暇はないと事あるごとに断っていた。

 嬉しそうにタッパーを物色する花奈の様子を見て顔がほころぶ。随分と心開いてくれるようになったものだ。

 花奈と初めて出会った時の印象は。常に苛立ち殺気立ち攻撃的、まるで尖ったナイフのようだ。そしてかつて友人が自分を評した感想と同じだった。

 華乃は魔法少女選抜試験が始まる前は荒れていた。常に苛立っているせいか舌打ちを繰り返し、人間関係を「鬱陶しい」「面倒くさい」と拒絶していた。それは同じ魔法少女であるトップスピードによって少しずつ改善していった。

 自分の教育係として行動を共にした魔法少女、最初は馴れ馴れしく付きまというざったい奴だった。だが今では相手はどう思っていたが分からないが友達だったと思っている。その友達も死んだ。

 あと半年は生きたい、お腹にいる赤ちゃんと幸せに生きたいと願いながら殺され、母子ともども死んだ。今でも当時の光景が蘇り自分の無力さに腸煮えくりかえる。

 

 しかしあれだけ尖っていれば誰も近寄らないだろうな。友達は居ないだろうし、家族からもあの凶暴性ゆえに交流を絶たれているかもしれない。親との交流は自分から断っているが想像通りなら少し前までの自分と同じ境遇だ。あんな生き方をしていたら最悪捕まり、捕まらなくても満たされず生きにくいだろう。

 気が付けば花奈に付き纏い世話を焼いて構っていた。それはかつての友人のトップスピードのようだった。自分はトップスピードのお陰で少しだけまともになった。

 だったら今度は自分の番なのかもしれない。根気良く接した結果なのか、花奈も少しずつ心を開き今では友人と呼べる距離感になっている

 

 暫く他愛のない雑談をするが気温が熱く数分ぐらいで互いに今日はお開きと家路に着く。花奈との距離は縮まった。だが以前のキレたナイフと称した攻撃性は衰えるどころか磨きがかかっている気がする。

 例えば2人で古本屋で立ち読みしている時にすれ違った女性を突然殴りつけた。その暴行は苛烈で止めなければ下手したら死んでもおかしくないほどだった。殴った理由は未だに分らないが、どんな理由が有ってもあそこまでの暴力を振るう理由にならないし、出来ない。あれは人間が別種族に向ける残虐さや共感性の無さ、まるで普通の人間にあるストッパーが壊れているようだ。

 正直トップスピードに出会いマトモになった経験がなければ距離を取っている異常性だ。どうやら他にも友人がいるようなので離れても問題ないかもしれない。だが離れたら取り返しのつかなくなってしまうという漠然とした予感があった。

 自分がストッパーになって花奈を止めなければならない。そして友人として妙に放っておけない。胸中にはそんな感情が満ちていた。

 

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