暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第14話 はじけなベイビー

 

◆殺島飛露鬼

 

「改めて自己紹介だ。オレは殺島飛露鬼、こっちの友達(ダチ)の生島花奈で奥さんの従妹。お兄さん名前は?」

「室田昇一」

 

 家に着き三人で乾杯し酒を飲みながら男の名前を聞き出す。酒は断りを入れて譲り受け、花奈は有無を言わさずふんだくり、酒を飲まきゃ話なんて聞いてられねえという勢いで飲んでいる。

 

「とりあえず、奥さんが映っている写メとかあります?」

「ああ」

 

 昇一はスマホを操作して画面を見せる。そこには満面な笑顔を浮かべる室田つばめが映っていた。社交的で人懐っこい感じだ。荒れていた花奈─本人は認めないが─が絆されたのも分かる。

 そこから昇一はつばめについて話した。つばめの好きなところから始まり、出会いからなりそめなど多くを語り相槌を打ちながら聞く。一方花奈も「惚気なんて聞いてられるか」と言いながらも追加の酒を買いに退室したりしたが、話を聞いていた。

 これまでの話を聞いて昇一の人となりもボンヤリと分かってくる。社会のルールを守り常識的に生きてきた堅気であり、その中でも堅物と呼ばれるほど生真面目だ。

 

「本当に熱愛(ゾッコン)だったんだな」

「ああ、なのに……なのに……」

「オレも理解(わかる)ぜ。大切な人がさ居なくなってよ。辛くて悲しくて何もする気にならなかった」

 

 脳裏には在りし日の光景が再現される。娘の花奈が死に大人になれない自分に心底憎んだあの日から世界が変わった。何でも無かった大人の日々が酷く退屈で辛く、何年も酒を飲んで泣き続ける日々を過ごした。

 昇一は殺島の言葉に深く相槌を打つ。これは己の境遇と重ね合わしていると同時に心を開いている証拠だ。本題を切り出す。

 

「そんな時に暴走によって悲しみが癒された。なあ、一緒に暴走しねえか?このままじゃ奥さんを失った悲しみで押しつぶされちまう。そんなの奥さんだって悲しむんじゃねえか?別に暴走が全てを癒すと思わねえ。けどよ、どこかでガス抜きしねえと破裂(パンク)する」

「けどさ、暴走ってスピード制限無視したり、喧嘩するんだろう?」

「あたりめえだろうが!法定速度守る暴走族(ゾク)がどこにいんだよ!ボケが!」

 

 花奈は大声で否定する。酒が回っているのか若干呂律が回っていない。喧嘩はするしないは自由で、中藤等の大人たちは抗争に参加しない者もいる。だが暴走で法定速度を守ることはまず無い。

 

「昇一さんは強くて正しい大人だよ。奥さんが亡くなって悲しいのに大人の生活に耐えた。オレは耐えられなかった。心底尊敬(ガチリスペクト)だ。だがそれだとアンタが壊れちまう。大人の世界での正しい行動はアンタを守護(まも)らねえ。そして奥さんも守護(まも)ってくれなかった。正しい道から外れて一緒に好き勝手やろうぜ。それに奥さんも走り屋だったんだろう。暴走すれば理解(わかり)あえるかもしれねえぜ?」

 

 殺島は優し気な声で語り掛ける。花奈にとって昇一は室田つばめの忘れ形見のようなもので、救いたいと思っている。ならばそれに従うだけだ。それに個人的にも救いたい。

 生前は大人の日々という困難に耐えきれず、他者を踏みにじる手段でしか幸福を得られない者を肯定したかった。それは今でも変わらない。

 室田昇一はこのままでは壊れる。自殺か犯罪行為をするかどちらかだろう。そして世間は同情しながらも否定する。同じく大人の日々に折れた者として肯定し救いたかった。

 

「少し考えさせてくれ……」

「分かった。その気になったら連絡してくれ。帰るぞ」

「あん?」

 

 殺島は昇一のスマホに連絡先を登録し、酔いつぶれかけている花奈に肩を貸して部屋を出ていく。

 

「そもそもよ~。つばめが殺されたんなら、何が何でも犯人をぶっ殺すべきだろ」

 

 花奈は肩を借りながらうわ言のように呟く。愛している者が殺されたのならば全てを投げ打って復讐すべきだと言いたいのだろう。

 

「そう言うな。大人には色々としがらみが有って、好き勝手やれねえのさ。感情赴くままに行動するのは子供(ガキ)で昇一は大人の日々を選んだ。強い奴だ」

「それは脆弱(ショボ)さだろ」

「かもな」

 

 殺島は一瞬間を空けて同意した。

 

◆室田昇一

 

 国道近くにある薄汚れ誰も利用しない駐車場に暴走族で溢れていた。それを見て昇一は思わず息をのむ。学生時代において暴走族は減少していたらしく、つばめが現役時代も自分達も含め小さな走り屋のチームが2つや3つあったぐらいだと聞いている。そのチームの総数はよくて20人程度だろう。

 しかし今は集まっている人数は200人を超えている。つばめが引退してから数年でここまで増えたのか。しかも全員特攻服で相当気合い入っている。

 

 昇一は熟考の末に誘いに応じることにした。走ればつばめの気持ちがわかるかもしれない、それが参加する決め手だった。

 バイクで走る楽しさが分からずつばめとは何回か軽く喧嘩し結局はお互い納得しなかった。これで妻の言い分が理解できるかもしれない。そして走りを通し妻を感じ悲しみを癒したかった。

 

「おうオッサン、何の用だ?」

 

 すると遠巻きに見ていた昇一の元に1人の金髪暴走族が近寄り威圧的に声をかけてくる。

 

「今日は走るんだろう。それに参加しに来た」

 

 すると暴走族の威圧的な態度は軟化し友好的な態度になっていた。

 

「なんだ体験暴走か、特攻服着てないもんな。それで誰に誘われた?」

「殺島飛露鬼と生島花奈」

暴走族女神(ゾクメガミ)暴走族王(ゾクキング)直々か」

 

 暴走族女神(ゾクメガミ)暴走族王(ゾクキング)、殺島と生島の事だろうか?メガミにキングとは大層なあだ名だ。

 

「出発までまだだから暇でも潰してくれ」

「変に思わないのか?」

 

 昇一は思わず問いかける。暴走族は10代が所属するものであるとフィクションや一昔前のドキュメンタリーを見てイメージしていた。20代半ばの自分は10代から見ればおっさんだ。若者は大人をコミュニティーから排除するものだが、素振りどころか不快感すら見せていない。

 

暴走族女神(ゾクメガミ)の方針でジジイだろうがババアだろうが走りたい奴は入っていいし、実際にいるからなオッサンは、ほれそこの集まり。話聞いてくれば」

 

 金髪暴走族は指さす方向を見ると明らかに10代でない男性3名が特攻服を着て談笑していた。本当にいるのか。誘いにのった自分が言うのは何だが、いい大人が暴走族をして恥ずかしくないのか?

 時間まで有るようなので出来るだけ近い年代の者と居た方が過ごしやすいだろうとそのグループに声をかけた。

 

「おお、体験暴走ですか」

「はい」

「中藤と申します。ぜひ楽しんでください。それで覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)に入ってくれれば幸いです」

 

 男性達と言葉を交わす。正直暴走族に参加する大人なんぞヤンキー崩れだと思っていたが、そうではなくまるで腰が低く声色も落ち着き、仕事で外部の打ち合わせをする業者のようにちゃんとしている。

 そして雑談をするが全員定職に努めている社会人だった。猶更理解出来ない、思わずどういう経緯で入ったかを尋ねる。

 

暴走族女神(ゾクメガミ)が走っている姿に魅了されました。元々暴走族に憧れていたので一度きりの人生だし後悔はしたくないっと思って入りました」

「俺も仕事とかが色々辛くてね。一種の気分転換かな。暴走するとスッキリして明日も頑張るぞってなるんですよ」

「私もそんな感じです。覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)で走れない生活なんて耐えられないですよ」

 

 皆が思い思いに入団のきっかけや楽しさを語る。何気なく語っているが其々に自分と同じような苦労や苦しみを抱えているのが分かった。そしてそれはバイクで皆と走る事で癒され解消された。

 もしかしたらこの苦しみも解消してくれるかもしれない。昇一の心に僅かな希望が芽生える。

 

「ところで、その単車いいですね。元々バイクに乗ってたんですか」

「いえ、車の免許は持ってますがバイクは」

「初めての単車でこれを選ぶとは中々」

「ありがとうございます。これは妻が乗っていたバイクと同じ車種です」

 

 中藤の言葉に思わずにやける。まるでつばめのセンスが褒められたようで嬉しい。殺島に参加すると伝えるとバイクを持っていなければこちらで用意すると提案したが断った。

 乗るならつばめが乗っていたバイクで走りたい。それからつばめの友人達に乗っていた車種を聞き、殺島も協力してくれたお陰で入手できた。

 

「そうですか、よかったら奥さんと一緒にきてくださいよ」

「そうですね」

 

 もし一緒に暴走族として走るぞと誘ったらどんな反応をするだろうか、やっと理解できたかと嬉しそうに誘い乗るか、犯罪だからやめとけと堅物のように注意するのか、その答えは永遠に分からない。

 

「おい集まったか!」

 

 すると駐車場入り口付近から呼びかけられるとメンバーは雑談を止め一斉に振り向く。そこには殺島と生島が居た。

 2人とも以前に会った時とは雰囲気が違っていた。殺島の人の好さは滲み出ながらも組織のトップに立つ者としての威厳のようなものが有った。

 生島も殺島のような威厳に威圧感が加わった感じがある。だが体中から今すぐにでも走りたいという高揚感が迸っている。それは純粋無垢な少女のようだ。

 

 それから2人を中心に今日の暴走ルートや注意事項を伝達する。もっと無軌道に走るものだと思っていたが意外にしっかりしているようだ。昇一は中藤が一緒にいる隊に編成され出発する。

 それからは其々思い思いに走った。エンジンを過剰に吹かし騒音を鳴り響かせるもの、限界までスピードを出す者、曲乗りをする者、やり方は様々だが全員が心の底から楽しんでいるのがヒシヒシと伝わってくる。場の高揚感にあてられたのかウィリーを披露すると周囲から歓声が飛んだ。

 

 実は数日前まではバイクに乗った経験がない素人だった。本番までに練習した方がいいかと殺島に尋ねると『コーチからレクチャーを受ければ大丈夫』とメッセージと集合場所と日時が送られ、そこにいると生島花奈がいた。

 そこからバイクの講習が始まった。講習と云えど簡単な操作方法を口頭で教えられ後は生島が並走しながらバイクを乗り続け、正味1時間ぐらいで終わった。

 これでバイクに乗れるようになれば教習所は商売あがったりだと皮肉を思い浮かべていた。すると生島は見透かしたかのように「アタシの教えは完璧でパンピーレベルなら乗りこなせる。それに今ならウイリーぐらいできるからやってみろ」と言ってきた。

 ウイリーは高等技術であるとイメージがあり無理だと断ったが、やらなきゃボコボコにすると言われたので仕方がなく実践してみるとあっさりできた。驚くさまを見て生島は渾身のドヤ顔を見せていた。

 

 信号無視、スピード違反、一時不停止無視、今日だけで免許停止になるぐらいの違反を犯したが罪悪感は無かった。少し前までの自分なら考えられない。皆がやっているので罪悪感が薄れたか?

 もしかしたら欠片ぐらいは罪悪感を抱いていたかもしれない。だが皆で走る楽しさや高揚感が圧倒的に上回り感じなかったかもしれない。

 これがつばめの感じていた楽しさなのか、この楽しさを理解できないと否定した以前の自分は何て愚かだったのだろう。今度墓参りして謝罪しよう。

 

◆生島花奈

 

「それでどうすんだ?チームに入るのか?入られねのか?」

 

 今日の暴走は何のトラブルもなく終了し、目的地に着いた後は現地解散でそれぞれ帰っていく。その中で集団に紛れる昇一のもとに近づき話しかける。

 

「入るよ」

「うちは走りたい奴は誰だって拒まねえ。ただ本当に走りてえのか?つばめが走ってたから走ろうじゃねえ。お前が走りたいかどうかだ」

 

 ハンドルから手を放し昇一の心臓を叩く。このチームは喧嘩したいからと入るメンバーも居るが全く走りたくないというわけではなく、喧嘩が第一だが走りたい気持ちもある。

 覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のメンバーは多かれ少なかれ走りたいという気持ちを持っている。もしつばめを思い出す為だけに利用しようとするなら入らせない。

 

「今日は今まで感じていた辛さを忘れられた。そして楽しくてつばめを忘れていた……」

「何悪い事みたいに言ってんだ!殺すぞ!」

 

 さっきより強めに心臓を叩き昇一はせき込みバイクの操作が乱れる。走るのが楽しかったでいいだろう。何故負い目を感じている。

 

「あと今日の走りは稚拙(ショボ)いぞ。そのバイクに乗るんだったらもう少し乗り込んでマシな走りをしろよ」

 

 花奈は背中を叩き昇一に声をかけた後は別のメンバーに近づき声をかける。多くのメンバーとコミュニケーションをとるのはリーダーの役目だ。

 メンバーに話しかけながら昇一について考える。あいつが乗っていたバイクはつばめが乗っていた単車だ。最初は自分への当てつけかと思いぶっ壊してやろうかと思ったが、奴の気持ちを考え辛うじて堪える。

 唯でさえ気に入らなかったが走りはもっと気に入らなかった。素人という面を差し引いても酷い。あれではあのバイクに乗っていたつばめをバカに……。違うあのバイクは名車だ、その名車に対して失礼すぎる。

 そして昇一は今日つばめを忘れたと言った。これはつばめとの思い出よりアタシが作り上げた覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)との走りが楽しかったという事だ。つまりつばめに勝った何よりの証だ。

 ざまあみろ!これからもっと走りの楽しさを叩きこんで、お前なんて全く思い出せないようにしてやる!

 

「あの世で悔しがれつばめ!」

 

 気が付けば大声で叫び周りにいたメンバーは気でも狂ったかと訝しみの視線を向ける。何となく恥ずかしくなり「何見てんだ」とガンを飛ばし誤魔化した。

 

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