暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第15話 ファン・サタデー

◆細波華乃

 

「お先失礼します。お疲れさまでした」

 

 華乃は店長に挨拶して店を出ると店先に止めていた自転車に細い路地を走る。時刻は22時前後、都心ならともかくN市であれば行きかう人はほとんど居なく、街灯も最低限道を照らす程度だ。不審者やひったくりにとっては絶好の場所だろうなと想像しながらペダルを漕ぐ。

 しばらく走ると公園が見えてくる。最低限の遊具とベンチが1つある小さな公園だ。その入り口付近には公園には相応しくないバイク、いわゆる族車と呼ばれる類のものが止まっていた。そしてベンチには黒髪ポニーテールの少女が脚を開きどかっと座っていた。

 生島花奈、最近知り合った魔法少女関係以外の知人、いや友人である。

 

「おう、お疲れ」

 

 花奈はこちらに気付き真ん中から左に寄って1人分のスペースを作り、そのスペースに座る。

 

「はい、余りもの」

「サンキュー」

 

 華乃はバッグからタッパーを取り出すと花奈はうれしそうに受け取る。バイト先では時々保存がきかない食材が余った場合は賄として従業員にふるまってくれる。

 その場で食べる者もいれば華乃のようにタッパーなどに入れて家で食べる者もいる。そして余りものが出そうなときは花奈に連絡する。

 花奈はバイト先の料理にハマり、すっかり常連になっている。それでも賄が貰えると連絡すれば即座に駆けつける程だ。それから即解散ではなくベンチに座りながら軽く駄弁るというのがパターン化されている。こちらはバイト先での話や学校の話題などを話し、花奈はバイクや暴走族の話題が多い。

 花奈はここら辺を拠点にしている暴走族「ハイエンプレス」というチームに所属し、しかも創設者のようだ。最初は聞いておどろいた。

 今どき暴走族なんてと思ったが、最近は帝都リベンジャーズというヤンキー漫画―読んでいて結構好き─が爆発的に流行り暴走族が増えているらしい。そして帝都リベンジャーズが連載される前に結成されたようだ。

 暴走族はスピード制限を破ったり喧嘩したりするのだろう、花奈も例にもれず喧嘩を度々してその話を時々する。魔法少女としては止めるべきかと考えたこともあるが、華乃も暴力を行使してきた側の人間なので強く言えず、何より何故か悪い事だとは思えなかった。多少のヤンチャは青春のⅠページで花奈自身も楽しんでいるので何も言っていない。友人でパートナーの魔法少女スノーホワイトも特に介入していないので黙認している。

 

「そういえば前に話した20代の人はどう?」

「ああ、昇一か、楽しそうに走ってる。どうした急に?」

「いや、暴走族って10代のイメージだし、20代が入るのは珍しいなって」

「うちは走りたい奴は誰でも来いだから、じじいだろうがばばあだろうが関係ねえ、今はいないけど50代のオッサンとかは居るぞ」

「そうなんだ」

 

 華乃は気の無さそうな返事をしながら心の中で安堵する。室田昇一は室田つばめ、トップスピードの夫だ。室田昇一については魔法少女選抜試験が終わった後も動向を見守っていた。実家の住所はトップスピードが持っていた母子手帳で確認している。

 一時期はトップスピードを失った悲しさに押しつぶされ相当参っていた。辛うじて日常生活は送っていたが覇気がなく、飲酒の量も増えている。そのうち仕事を辞め酒浸りの生活を送るかもしれない。トップスピードの友人としてどうにかしたかったが、どうすればいいのか分からず見守るしかできなかった。

 もっと強ければ、メアリを倒した後に気を緩めなければトップスピードは死ななかった。様々な後悔が脳裏に過り唇を噛みしめる。

 だがある日を境にトップスピードの夫は徐々に覇気を取り戻す。ある日外出する際に尾行すると特攻服を着た者が集まる集会場に集まり、そのなかに花奈もいた。

 トップスピードの夫は何かしらの出来事があって花奈が所属しているチーム「ハイエンプレス」に入った。そしてハイエンプレスで走る事で生きる活力を取り戻す。

 花奈が作ったチームがトップスピードの夫を救った。奇妙な縁を感じるとともに花奈に対して感謝していた。

 

「そういえば暇な時は何してんだ?」

「図書館行ったり借りた本を読んだり、漫画とか立ち読みしてる。基本的にお金がかからない方法で暇つぶしてる」

 

 華乃は親元を離れ独り暮らしをしている。学費は払ってもらっているが生活費は全てバイト代で何とかしている。さらに今後は出費が予想されるので一般的な高校生のように何かを買ったりどこかに遊びに行く金銭的余裕はない。

 スノーホワイトはフレデリカの一件を経てより積極的に活動するようになった。悪事を働いている魔法少女がいれば出向き捕まえる。人間世界で多くの人が苦しめられるもめ事があれば介入し解決する。

 魔法少女を管理している魔法の国では街の人助けレベルの善行は推奨されるが、大きな揉め事を解決するなど影響が大きく、普通の人間では出来ない善行はしないように言われ。極端な事を言えば魔法を使った美化活動すらしないように言われる。

 そして魔法少女の世界では魔法少女が犯罪行為を働いた際に調査逮捕する監査部という部門が存在する。

 スノーホワイトがしている行為は魔法の国からは疎まれ、監査部からしては越権行為、人間の世界で言えば警察を差し置いて個人が勝手に犯罪者を捕まえているようなものだ。

 当然魔法の国からも監査部からも良い顔はされない。つまり目をつけられ調子に乗っていると言われ、出る杭と表現される状態だ。

 今のところは何とかうまくいっている。だが1つでも失敗すればそれ見た事かと周りからは非難され、行動が制限される可能性がある。そうさせない為には後ろ盾を作り守ってもらうか、自らが後ろ盾になるかの2択である

 

 そのためには人脈が必要であり、人脈を作るには様々な場所に足を運び多くの人と交流する必要がある。それをするには先立つもの、金が必要だ。

 移動するにしても交通費はかかり、魔法少女の寄り合いに参加するにしても会費が必要で、個人的に交流を図るにしても何処かで遊んだり何かを食べたりするかもしれない。

 交通費は魔法少女に変身して走れば交通機関を使う必要はないが、そんな事をすれば他の魔法少女の担当地域を通ることになり挑発行為と見なされ、魔法少女の力を営利目的で使用したと魔法の国からの評価は下がる。トータルで考えればマイナスだ。

 

困窮(カツカツ)なんだな、じゃあチームで暴走(はし)ろうぜ」

 

 花奈は今までの話の流れを無視するように笑顔を見せながら勧誘する。花奈と出会い仲良くなり始めてから暫くしてチームに入らないかと勧誘された。暴走族には興味がなくバイクで走るのにも興味も無いので断った。それでも諦めずに思い出したかのように勧誘してくる。

 

「話聞いてた?生活するのにギリギリなのに、バイクを買うお金とかもないし、買ってもガソリン代とか駐車場代とか維持費がかかるでしょ」

「心配すんな。バイクは勿論、ガソリン代とかバイクに関する金はこっちが払ってやるから」

「花奈が?」

 

 華乃は予想外の答えに思わず声が上ずる。花奈も1人暮らしで知っている限りでバイトもしていなく、親からバイクなどを買い与えられるほど多額の援助を貰っていない。まさかカツアゲでそこまで稼いでいるのか?

 

「ヤジだよ。株か何かでスゲエ稼いでるんだとよ。チームでもヤジの金でバイクを買ってもらった奴は結構いるぞ。だからやろうぜ」

 

 ヤジとは度々話題に出る人物で、花奈と一緒にハイエンプレス結成時の創立メンバーらしい。しかし株で何人ものメンバーにバイクを買い与えられるとは相当に稼いでいる、それは本当であればの話であり、恐らく親が裕福なのだろう。しかし思わぬ理由で逃げ道の1つが塞がれた。だがまだ逃げ道はある。

 

「でも免許持ってないから運転できないし」

「そんなのアタシが教えてやるよ。アタシが教えれば1時間あれば一般人(パンピー)のベテランドライバーレベルになれる」

 

 花奈は自信満々に言い切る。それは話を盛り過ぎだろう、自転車でも未経験者が1時間程度で乗れるようになるなんて聞いたことがない。詳しくは知らないがバイクもそれなりに練習と時間が必要なはずだ。でなければバイクの教習所はいらない。

 

「あっ!?疑ってんだろう」

 

 花奈は華乃の疑念を感じたのか顔を近づけ睨みつける。華乃は苦笑いを浮かべながら否定する。

 

「疑ってない、仮に乗れたとしても免許持ってないから捕まるし」

「大丈夫だって、警察(イヌ)が来ても逃してやるから」

「イヌ?犬でも襲い掛かるの?」

「警察だよ」

「警察ね、いやそういう問題じゃない」

 

 花奈は反論しようと腕を組み考え込む。華乃は金銭的な問題や倫理的な問題で拒否する。しかし以前は単純に興味がないと断っていた。

 花奈は会うたびにチームで走る楽しさを語る。話は拙いが情景や花奈の高揚感や楽しさは不思議と伝わり、少しずつ興味を持ち始めていた。もし金銭面や免許の問題をクリアしていればバイクで走ってもいいかな程度には心が動かされていた。

 

「じゃあ、2人乗りならどう?それだったらつき合ってあげる」

本当(マジ)か!」

 

 沈んでいた花奈の表情が一気に明るくなる。余程嬉しかったのだろう、華乃も釣られて笑みを浮かべる。

 

「これだったら無免許で捕まらないし、一応はバイクに乗るってことになるし」

「じゃあそれで、よし今から行くぞ!」

「それは無理、明日はバイト休みだし明日ね。時間はどうする?」

「それは深夜だろ、それ以外はスピード出せねえからな」

「深夜って何時?」

「2時ぐらいといいたいけど、明日も学校行くだろうから11時にしてやる」

「じゃあそれで、集合場所はここにする?」

「特別にアタシが拾ってやるよ。家の住所教えろ」

「ちょっと待って」

 

 華乃はスマホを取り出す。流石に家の住所を教えるのは気が引けるので近所のコンビニの住所を調べ、そこを集合地点にしようと提案するとあっさり了承した。

 

「じゃあな、ぶっちすんなよ!」

「しないって、トラブルに巻き込まれて来られないとかナシだから」

 

 花奈は声を弾ませながら別れを告げ去っていく。明日はバイトも無ければ他の用事もない、古本屋で立ち読みでもするか、図書館でテキトーに本を読んで過ごそうと思っていた。花奈とツーリングするのも金がかからないので変わらない。

 もしかしたらバイク好きの魔法少女がいるかもしれない、今後の会話の話題になるかもしれないので体験しておくのも悪くない。

 花奈とツーリングするのは純粋な興味と打算に加えてご褒美という面もあった。トップスピードの夫を立ち直らせてくれた。それに対するお礼でも有った。

 するとバックから振動音が聞こえる。中には魔法少女用の端末が入っていて、この振動がしたということは魔法少女から連絡があったということだ。

 アポイントを取っているあの魔法少女か、それとも戦闘訓練につき合ったあの魔法少女か、端末を取り出し送り主を見るとスノーホワイトと表示されていた。内容は明日一緒にパトロールをしないかという誘いだった。

 

 スノーホワイトとは時々一緒にパトロールをして近況報告をしたりしている。「ごめん、約束があるから行けない」と打ち込み送信する。魔法少女基本的な活動は担当地域での人助けだ、頻度は個人によって変わるがやらなければ魔法少女に相応しくないと魔法少女の力を失う場合もある。

 スノーホワイトは遠出をしない限りは毎日パトロールをして人助けをする模範的な魔法少女である。だが他人に求めるわけでもなく、仕方がないと許してくれるだろう。

 自転車に乗り出発しようとペダルに脚をかけるがふと止まる。花奈は暴走族でバリバリのヤンキーだ、明日はドライブだけで済めばいいが、喧嘩を売ったり売られたりするかもしれない。そして困った声を聞き喧嘩の仲裁に駆けつけるスノーホワイトと遭遇してしまう。

 スノーホワイトとは姫河小雪として何回か顔を合わしているので顔は知られている。パトロールもせずトラブルの現場にいたとなると気まずい。

 明日は花奈が何かしませんように、もしくはスノーホワイトが気づきませんように。そう願いながらペダルを漕ぎ始めた。

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