◆殺島飛露鬼
昼下がりの夏の日差しが容赦なく降り注ぎ平等に行きかう人々を苦しめる。唯でさえ暑いのに人口密度が多いのでさらに暑い気がする。その数は地元N市の繁華街である城南地区より多いだろう。
こんな暑いならクーラーが利いた室内で大人しくしていろと思うが、それで足を運びたいと思うほど価値があると周りの人間は思っているから来ている。
今いる場所は日本のポップカルチャーの発信地であり流行のファッションやグルメが集まる東京都原宿区竹下通りだ。
この喧騒と活気に懐かしさを覚える。一度目の人生では流行りの服を求めたり、エアマックスを買いに行ったりナンパしたりと1人であるいは仲間達と何度も足を運び多くの時間を過ごした。ある意味地元と呼べるような場所だ。そしてこの竹下通りも高校生時代とは店の種類も流行も違うが、活気や喧騒は変わりない。
殺島は前方10メートル先を歩いているデルタに意識を向ける。周りの人間より頭2つ分は抜けているのでこの人込みでもすぐに見つけやすい。そこからデルタの周りの人々に意識を向ける。
「あ~、左の金髪はダメだ、隣もダメだ。その茶髪のショートカットは半々ぐらいだな」
殺島を片手に行きかう同世代の女性を見定め独自の基準で判定した結果を伝える。その基準とはナンパに応じてくれるかである。デルタはその指示に従うように茶髪のショートカットの女性に声をかけた。
デルタは同じ高校の同級生で
デルタには人並みに彼女が欲しいという願いがある。しかし今までの人生で女性と関わる機会が無かったせいで上手く女性と接する事が出来ず、彼女がいたことはなかった。
ダチと女をナンパして遊ぶのは楽しく、前の人生でも散々やってきた。即答で頼みに応じ、城南地区など地元の繁華街に足を運んだ。
最初はデルタをフォローしながらもナンパを楽しんだ。デルタは義理堅く仲間想いで良い奴で一緒にバカやっていて楽しい。仮に自分が女なら放っておかない。そのうち成功するだろうと思っていた。だがその読みは外れていた。
ナンパに成功して女と遊んでも皆がデルタではなくこちらに話しかけてくる。最初は『流石ヤジだ』とデルタも笑っていたがやるたびに笑みが曇っていく。
流石にマズいと思い、自分は楽しまずデルタのフォローに徹した。いかにいい男であるかと多少なり話を盛りながらヨイショし、自分に意識が向かないように自らネガキャンしたりと手を尽くした。それでもデルタが彼女を作れなかった。
確かにデルタは女性にモテるタイプと訊かれればはっきりと首を縦に触れない。身長は190センチ越えで体重も100キロ越えで唯のデブではなく、相撲や喧嘩によって鍛え抜かれた身体だ、自分や
そして女との会話が何故かかみ合わない。仲間内では女でも問題なく話せるのだが、色恋を意識してしまうと空回りしてしまう。色々とアドバイスをしたが改善の見込みはない。
それでも今の要素を引いたとしてもモテない。これは世界7不思議にカウントしても問題なく、前世で余程女に嫌われたのか、神様にモテない呪いでも受けたのではないかと考えてしまうほどだった。
一方デルタは何一つ文句を言わないどころか付き合ってくれてサンキュウと礼を言ってくれる。自分だけ女に好かれやがってと文句の1つや2つ言っても仕方がないのに。その誠実さやが逆に胸を締め付けられる。どうにかしようと頭を悩ましていた際にデルタから声をかけられる。
「オレの魅力はここの田舎者どもには分からないんだ。きっとT都の女なら分かってくれる。だから竹下通りでナンパしようと思うから付き合ってくれよ。ギャル好きだし」
最初に否定の言葉が浮かび上がる。都会の女はナンパ慣れしているからレベルが高い、ナンパ慣れしていない地元の女すら成功できないのに無茶だ。
しかしその言葉を飲み込む。地元の女は一般的な線の細いイケメンを好む傾向があった。だが都会の女はそういう感じのイケメンに飽きて、逆にデルタのようなタイプを好む可能性があるのではないか?可能性は低いがワンチャンあるかもしれない。それに賭ける。
それからナンパに向けての準備を始め、まずはファッション方向性を決めた。今までは流行に乗っかった服だったが、ヤンキー風のファッションを勧めた。
N県ではもちろん都心でもトレンドではなくダサいと評価される。だが下手に迎合するより逆張りではないが、特化した方がいいだろう。何よりヤンキー風のほうが似合うしデルタの魅力が引き立つ。他にも準備を進め週末を利用して2人で竹下通りに遠征する。
当日の作戦としてはデルタのフォローをしようと2人でナンパすれば二の舞になるのは確実だ、そこでデルタと距離をとりながら好みのタイプとナンパに応じてくれそうな女をインカムを通して指示、そしてデルタに持たした録音機器で相手との会話を聞き、必要に応じてアドバイスを送る。
結果は散々だった。声をかけると女たちはデルタを一瞥すると無言で足早に去っていく。やはりヤンキーを押し出したファッションは失策だった。敢えて好む女を期待したが誰もいない。原宿でこの方向性は間違っていた。むしろ新宿の歌舞伎町とかそっちの方面に行った方が同じようなタイプがいて、好む女性がいるかもしれない。
デルタに作戦失敗の詫びと歌舞伎町に行くのを提案しようとインカムに口に近づけようとするとデルタに1人の女性が近づいてくる。
学校指定風の半袖のシャツに首元には大き目なリボン。全体的に派手目で化粧もしっかりしアイシャドウは薄っすら紫で口紅もしている。髪の毛も編み込んだり盛ったりと複雑な形をしている。ヤクザ時代に歌舞伎町でこんな感じの髪型のキャバ嬢に逆ナンされた事があったと過去の記憶が蘇る。
顔もキレイでデルタのタイプの女だ、もし彼女になれたらデルタは喜ぶだろうなと思いながらナンパに応じてくれるか審査する。
『すっごい体~、格闘家?もしかしてプロレスラー~?』
その前に女はデルタに声をかけながら親し気に腕を触ってきた。思わぬ事態にデルタは露骨に動揺し、殺島も思考が停止する。
デルタにビビっている様子もなく寧ろ好意よりの反応だ、これは逆ナンされている。やはりデルタのようなタイプを好む変わり者、いや真の男を好む慧眼の持ち主が居たのだ。しかもナンパに応じるではなく逆ナンしてきた。これは千載一遇のチャンスだ。
「ヤジ、どうなってんだ?」
「
思わず興奮気味で答えるが、即座にクールダウンしアドバイスを送る。あの感じだと強さに欲情するタイプだ。デルタは指示通りに太腿を触らせ、屈みながら胸板や首を触らせる。その度に「固い~太い~」と喜んでいる。反応は上々だ。
『凄いね~喧嘩とかマジ強そう』
『ああ、チームじゃ一番強いぜ」
『チームって暴走族なの?』
『ああ』
『そうなんだ~。今流行ってるもんね。あのマンガ』
『帝都リベンジャーズ』
『それ』
イヤホン越しから聞こえる会話に耳を傾ける。暴走族に入っていると言った時は引かれると思って心配したが、引くどころか興味を持ち評価が上がった感じだ。
「あの話しろ。前にボコボコにしたっていう格闘家の」
『最近だと夜田を
『えっ?夜田って格闘家の?事故って欠場してるけど、うそ?』
ギャル風の女は目を見開きデルタを指さす。喧嘩2000戦勝という触れ込みでデビューした格闘家夜田は宝島組系列のヤクザが運営している格闘団体タイマンのヘビー級絶対王者である。
何時ぞやにN県で試合をした夜にN市の城南地区で豪遊し、酒の勢いで宝島組が経営しているホストをボコボコにして、ムシャクシャが収まらなかったのか偶然居合わした
その話を聞いてドル箱をおしゃかにしたのはマズいと即座に謝罪しに行ったが、キレられるどころか、最近調子乗っていたのでシメてくれて助かったと逆に褒められた。
「その話をすると長話になるから、どっかで座りながら喋ろうと誘え」
『詳しい話訊きたいか?』
『ききたい!ききたい!』
『だったら、え~、そこの店で何か飲みながら座って話すわ』
デルタは近くにあったタピオカ系の飲み物を出す喫茶店を指差す。ギャル風の女は頷きデルタを先導するように店に向かっていく。
とりあえず第一段階はクリアした。今のところ好感度は高いが何が起きて評価が下がるか分からない。最大限フォローしてこの女をデルタの彼女にしてみせる。2人の後をつけるように入店し、10数メートル程離れた席に座りギャル風の女に気取られないように動向を見守る。
『それでダチがボコボコにされたの見てカチンときて突っ込んで、勢いそのままにブチかました。相手は数メートルは吹っ飛んだな』
デルタはあの日の出来事をギャル風の女に喋る。大概の奴は自分を強く見せようと話を盛るのだが、デルタは真面目なので盛りはせずあるがままに喋る。
『そうなんだ~』
だが起きた出来事が余りにも現実離れしているので、結果話を盛っているように聞こえてしまう。今のデルタは極道技巧を身に着け、素手で生首を引き千切れるといわれる夢澤組長とまではいかないが、体当たりで交通事故レベルの衝撃を与えられるぐらい人間離れしている。
一連の話は真実なのだがギャル風の女はそう信じていないのだろう。相槌に興味の色が薄れ表情も疑いの色が濃くなっている。
『デルタ、オレに電話しろ。目撃者と偽って話す』
「疑ってるな?だったら助けた奴に電話してやるよ」
デルタはスマホを取り出し電話をかける。それを見て席を立ちトイレの個室に駆け込んだ。
「もしもし」
「おおデルタか、どうした?」
「格闘家の夜田を倒した話してんだけど、信じてくれねえんだ。お前から話してくれよ」|
「そいつに電話変わってくれ」
デルタに伝えると数秒後にギャル風の女が電話に出た。もしもしという声だけでも疑っているのが伝わってくる。
「どうも、殺島です。アンタはデルタさんが夜田を
「正直信じらないというか」
「気持ちは分かる。でも
ギャル風の女にまるでその場で居合わせたように語る。
切りの良いところで話を終わらせ電話を切りトイレから出て2人の様子を盗み見る。ギャル風の女の表情を見る限り信じてくれたようだ。とりあえず一安心だ。
元の席に戻ろうとすると自分の席には女が座っていた。制服風の半袖シャツを着ている。全体的に派手目で化粧もしっかりしている。アイシャドウは薄っすら青く口紅もしている。髪の毛もエビ茶色で編み込んだり盛ったりと複雑な形をしている。服装からしてデルタと喋っているギャル風の女と同じ高校か?席を間違えて覚えているかとあたりを見渡したがやはり間違っていない。
「よう、席間違えてねえか?」
「お兄さん、ゆなっちのストーカーっすか?」
女は質問に答えず、疑いの眼差しを向けな後ろ指でデルタと喋っているギャル風の女をさしながら逆に質問してきた。確かにデルタをフォローするために後をつけて店に入り、ゆなっちと呼ぶ女を見ていた。それがストーカーと誤解された可能性がある。
「
目の前の女にインカムを見せながら説明する。いらぬ誤解を招いて邪魔されたくない、ここは正直に話して納得してもらうのがベストだ。
「マジっすか!?こっちもっす。ゆなっちの逆ナンが上手くいくように相手との会話聞いてフォローしてるっす」
女は驚きながら自分のインカムを見せる。どうやら自分と同じように友人のナンパがうまくいくようにフォローしていたようだ、そうなると同じようにデルタの後をつけ店に入ったことになる。特に注意していなかったが全く気付かなかった。
「それで友達のゆなっち的にはデルタは
「タイプっすね。ゆなっちは強い男が欲しいって最近ずっと逆ナンしるんっすよ。ここじゃ探すところが悪いと思ったんっすけど、まさか見つかるだなんて。それでデルタっちの話ってマジっすか?盛ってるとかじゃなくて」
「
「マジっすか、スゲエっすね。それでデルタっち的にゆなっちはタイプなんっすか?」
「
「いや~ゆなっちにも春が来たっすね。ところで名前はなんて言うんっすか?」
「オレか?殺島だ」
「ヤジっち協力してくれねえっすか?デルタっちと友達なら興味ある話題とか、好感度が上がる動作とか知ってるっすよね。それをあたしがゆなっちに指示すれば好感度爆上がりっす」
「
「了解っす。愛のキューピット同盟成立っす」
「よろしくな、えっと……」
「米田瑠璃っす」
米田はこちらの手を取りブンブンと手を振る。逆ナンされたと思えば今度は友人という情報源と接触で来た。今日のデルタは相当についている。