暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第18話 制裁(しめ)るしかない

◆殺島飛露鬼

 

「デルタは相撲やってた。そこらへんの話題はねえか?」

「確かあの話題の相撲ドラマ見てたらしいっす」

「聖域か、あれはデルタと一緒に一気見した」

『ゆなっち、聖域って相撲ドラマの話をするっす。大丈夫っす。絶対に話しが弾むっす』

 

 米田はゆなっちに指示を送り、ゆなっちも指示通り聖域の話をする。するとデルタは共通の話題を振ってくれたのが嬉しいのか饒舌に喋る。

 

「良い感じっすね。ヤジっちもデルタっちも暴走族なんっすか?」

「おう」

「それって楽しいっすか?」

絶頂(たま)んねえぜ、良かったらやるか?」

「そうっすか、でも忙しいから無理っす」

「残念だ、『デルタ、腕の傷みせてあの時の抗争の話をしろ』」

 

 デルタは思い出しながら語り始める。あの抗争はデルタが大暴れしてエピソードトークとしては良い。喋りは上手くはないがインカム越しにゆなっちが楽しんでいるのが分かる。

 

「スゲっすね。バイクにブチかまして吹き飛ばしたって。漫画みたいっす」

(ちょく)で話せば分かるぜ、デルタから発せられる強さの説得力は半端()ねえ。分かる奴には分かる」

「ヤジっちが言うならそうなんっすね。ヤジっちは武勇伝とか無いっすか?」

「オレじゃないけど。デルタとガンマと花奈の4人で1つのチームを潰したとかはあるが」

「なんか面白そうっすね。聞かせて欲しいっす」

 

 米田とは互いの友人の情報交換から始まり、それを参考に会話の話題を提供した。あまりにもピンポイントな指示を出すのでデルタは怪しみ、ゆなっちも同様だったようだ。だがその指示は効果的で、今では完全に信頼し疑っていない。きっとお互いが手ごたえを感じているだろう。

 良い雰囲気だ、このままいけば最悪でも互いの連絡先を交換、良ければこのままカップル成立しても不思議ではない程意気投合している。完全に勝ち戦だ。

 それは米田も感じているようで、油断というわけではないが今は指示を出しながら雑談に興じる余裕すらある。明るく人懐っこく、相手の話にも過剰と言える程リアクションを取り話しやすくする聞き上手でもある。話していて楽しく好きなタイプだ、きっとモテるのだろうな。

 

「どこ高の出身?」

「今は通ってねえっす。中退っす」

真実(マジ)か。だったらそれは私服(コスプレ)だな」

「言われてみればそうっすね。高校に行ってないのに制服着てたらコスプレっす」

貧困(きんけつ)か?それとも悪事(わるさ)でもしたのか?」

「違えっす。やりたい事があって、学校に行く時間がねえっす」

感嘆(すげえ)な」

 

 やりたい事があるから辞める。僅かな時間だが友人が多く学校に行くのは楽しくないわけというのは分かる。それに高校中退というのは一般人にとっては不利になる。それでも辞めるという判断を下した思いっきりの良さと行動力は感心する。

 

「あっ二人とも出るみたいっす。追うっすよ」

了解(りょ)だ」

 

 米田は飲みかけのタピオカミルクティーを勢いよく飲み干し、殺島も同じように飲みかけを勢いよく飲み干した後に2人の後をつけた。

 

☆米田瑠璃

 

 2人はクレープを片手に竹下通りからキャットストリートに向かいながら、個人経営のアパレルショップに入り冷やかしたりしている。もう手助けは必要ないだろうと思いながらも念のためにと2人の会話を聞きながら尾行する。

 

「良い雰囲気っす、これはカップル成立っすね」

「だなと言いたいところだが、最後まで油断できねえ、デルタにとっては一生に一度のレベルのチャンスだ」

「そうっすね。気合い入れるっす」

 

 瑠璃は自分の頬をパンパンと叩く。ゆなっちにとってもこれほど条件が合う男性はそうそう出会えないだろう。友人としては何とても結ばれて欲しい。

 

「それにしてもゆなっちが逆ナンしてくれたのもそうだが、米田と会えてよかったぜ、会えなかったら2人はこんなに良い感じにならなかった。心底感謝(マジサンキュ)な」

 

 ヤジっちはこちらを向きながら礼を言う。思わぬ偶然で出会い雑談しながら交流した。ゆなっちをサポートするという目的だが、ついつい雑談に熱が入り目的が疎かになりそうになったのがしばしばあった。

 ヤジっちの話はオモシロく、聞き上手でもあるので話していて楽しい。もし学校が一緒だったらよく駄弁ったり、遊びに行ったりしていたかもしれない。

 2人はキャットストリートを散策すると近場のカラオケ店に向かう。当然こちらも向かい、店員に怪しまれながらも2人の隣の部屋に入った。

 

「そっちは聞こえるっすか?」

「問題ない。そっちは?」

「バッチリっす。むしろ耳がキーンとなりそうっす」

 

 ゆなっちがつけている集音器は普通の会話が聞こえる程に性能がいいので、歌われたら音量のせいで聴覚が変になりそうだ。

 2人が歌い始め、一応は会話のフォローができるようにと歌わずに雑談しながら様子を聞いていた。

 

「これ流行ってるあの曲っすね。でも似てねえっす」

「デルタもモテようとして流行の曲とか習得(おぼえ)てんだ。けれど地声が低いから流行の曲とは合わねえんだ。それにそんな好きじゃねえみたいだし」

「モテようとするのも大変っすね。あたしなんてカラオケ来ても好き勝手歌ってるっすよ。ヤジっちはどうっすか?周りに気を遣うタイプっすか?」

「ナンパしたり逆ナンされた時は流行の曲を歌う。知らない曲歌われると場が消沈(しらけ)るからな。前にキューティーヒーラーの曲を歌いたかったら歌ったらドン引きされた」

「キューティー好きなんっすか!?」

「ああ、心底愛好家(ガチファン)だぜ」

 

 ヤジっちは恥ずかしげもなく言う。こういうチャラい系の男子がキューティー好きだとは思わなかった。本当に意外だ。

 そこからキューティーヒーラートークとなり、ゆなっちとデルタっちの会話に耳を傾けながら、ヤジっちと各シリーズのOPを歌ったりデュエットしたりする。時間は瞬く間に過ぎていく。すると耳に入ってきた2人の会話から店から出ると知り、サビの途中で歌うのを止めて慌てて部屋から出た。

 

「ゆなっちをサポートするのが役目だから仕方ねえっすけど、最後まで歌いたかったっす」

「それな、オレもあの曲は好きだから歌い切りたかったぜ、デルタの野郎」

「デルタっちを責めるのはひどくねえっすか」

 

 ヤジっちは確かにと笑みを浮かべながら頷く。だが気持ちは分かる。せめてあと1分出るのが遅ければ1番は歌いきれた。

 

「この後はどうするんっすかね?」

 

 時刻は23時を回っていた。都心であれば夜中でも遊べる場所はあるが少なくなる。そしてゆなっちは制服を着ているのでさらに限られる。

 

「このままお開きかもな」

「じゃあ、ヤジっちともお別れっすね。今日は楽しかったっす」

同意(こっち)もだ。T都に行く用事があれば遊ぼうぜ、連絡先教えてくれ」

「いいっすよ」

 

 お互いにスマホを取り出し連絡先を交換する。相手はN県出身でそれなりに遠いが、師匠から課せられる課題の一環で色々な場所に行かされるので案外会えるかもしれない。

 するとヤジっちはスマホからデルタっちの方に視線を移す。釣られるようにスマホから前方に視線を移すと明らかにガラの悪そうな男たちが詰め寄っていた。

 

『おい、デカブツ!誰の女に手出してんだ!』

『その人は百鬼夜行の天草さんの女だぞ!ボケ!』

『さっさと離れんかいカス!』

 

 その様子に行き各人々達は関わりたくないとばかりに露骨に目線を逸らし足早に立ち去っていく

 

「百鬼夜行?」

「ここら辺の有力チームの1つだ。会話の流れからして天草は百鬼夜行の顔役か何かで、ゆなっちは天草の彼女(スケ)っぽいな」

 

 そうだったのか、だが彼氏が居るのに逆ナンしていたということになる。その天草に不満でも有ったのか?

 するとガラの悪い男達の1人がいきなり殴りかかってきた。その拳はデルタっちの横っ面に直撃する。だがデルタっちは平然としており男に突っ張りを放つ。すると男は5メートル程吹き飛ばされ大の字になった。

 その様子にガラの悪い男たちは一瞬動きが止まるが、1秒後に罵声を浴びせながら襲い掛かる。デルタっちは避けるのがめんどくさいとばかりに攻撃を受けながら軽く手を払い、次々となぎ倒し大の字の男を4つほど作る。

 

「うわっ、スゲエっすね」

「だろ、デルタにとっちゃこんな雑魚(サンシタ)なら一瞬だよ」

 

 ヤジっちが気持ち自慢げに喋る。軽く攻撃しただけで人を吹き飛ばす膂力、中々に人間離れしている。バイクと正面衝突して吹き飛ばしたと言っていたが本当かもしれないと思わす説得力がある。

 

警察(イヌ)に見つかると面倒だ。逃げるぞ」

 

 デルタっちは周囲を見てからゆなっちの手を引いてこの場から離脱する。ヤジっちと一緒に走りながら後を追う。

 

『この後どうする?』

『よかったらアタシの家に来る?今日誰も居ないんだ』

 

 その言葉にデルタっちは思わず足を止め目を見開きながらゆなっちを見る。その動きに連動するようにヤジっちと視線が合う。

 

「こりゃお開きだな」

「そうっすね」

 

 ヤジっちは『頑張れよ』と一言告げてイヤホンとインカムを外し、同じようにイヤホンとインカムを外し、右往左往するデルタっちを尻目に別れた。

 

◆デルタ

 

「今日の暴走も最高だったよな!」

「マフラー買い換えたんだけど、音が違えよ!音が!」

 

 第七港湾倉庫一帯、周囲はいつの間にか覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の集会場となり。辺りにバイクのエンジン音と笑い声が響き渡る。今日も最高の暴走だった。これが人生最後の思い出になっても後悔はない。デルタは目に焼き付けるように皆の様子を眺めた。

 竹下通りにナンパをしにいったあの日、ゆなに逆ナンされ一夜をともにして男女の関係になった。初めて出来た彼女がメチャクチャタイプのルックスという今までの不遇をチャラにしてもお釣りが出る程だ。そしてルックスだけでもなく性格も好みだった。

 ヤジのように女にウケる話術もネタもない。それでも自分の話に満面の笑みと笑い声で応えてくれる。スマホで話をしているが笑い声を聞いただけで分かる程だ。ここ数日はまさに幸せの絶頂だった。だがそれは長くは続かなかった。

 

 ある日ゆなから画像が届く。それは顔を腫れ上がらしたゆなの画像だった。それを見た瞬間スマホを握りつぶしていた。

 ゆなは東京の暴走族『百鬼夜行』の顔役である天草の彼女だった。そしてゆなが逆ナンしてた事に激怒し暴力を振るった。さらに逆ナンされたデルタも自分を虚仮にしたとして詫びを入れに来い、出なければさらにひどい目に遭わせるというメッセージが届く。

 これは詫びを入れて終わるという問題ではない。恐らくは制裁という名のリンチにあうだろう。そして相手の規模は3000人以上と言われている。

 己は贔屓目無しに強い、それでも3000人超を相手に勝てる程人間離れはしていない。数の暴力に敗れ恐らくは重体、最悪死ぬかもしれない。それ程までに百鬼夜行は凶暴であるという噂はN県にすら届いている。

 仮に出向いたとしてもゆなは解放されず、天草の自尊心と独占欲を満たすために彼女という立場に束縛され続け、日常的な暴力にあうだろう。ゆなを見捨てれば5体満足で居られる。だがそのような選択肢はない。

 初めて出来た彼女が苦しんでいる。それだけで勝ち目のない戦いでも充分に挑む理由になる。負けはしても絶対に天草は道連れにする。その背中から身がすくむような怒気と悲壮な決意が滲み出ていた。

 

「よう、調子どうよ」

 

 肩を叩かれ後ろを振り向くとヤジと花奈がいて、ヤジいつものように人懐っこい笑顔を見せ、花奈はガキのような満面の笑みを見せる。

 

「暴走族王、暴走族女神。今日も最高でした」

「本当か?それにしては悲壮面(しけたつら)してんぞ。なあ暴走族王(ゾクキング)?」

「ああ、とても彼女がいる奴の(つら)じゃねえな」

 

 ヤジと花奈は見定めるようにでこちらを見つめる。精一杯の笑みを見せたつもりだが一瞬でバレてしまったようだ。

 

「悩みがあるなら聞くぞ」

 

 花奈は右肩に手を置きこちらを見上げる。その目はいつもの遊びを楽しむガキのような目ではなく真剣みを帯びていた。

 

「オレも聞くぜ」

 

 ヤジも左肩に手を置きながら耳元でボソリと呟く。その目は人懐っこさが薄れ真剣みを帯びていた。

 決心が揺らぐ、この件は誰にも話さないつもりだった。話せば覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)と百鬼夜行の抗争になる。覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)は200人程度、相手は3000人以上、花奈、ヤジ、ガンマと人間離れした強さを持つ者もいるが限度がある。確実に負ける。自分の問題で大切な仲間を巻き込みたくない。

 

「デルタ、アタシは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のメンバーの全員を家族と思ってる。家族が苦しんでいるなら助けるのが家族だ。どんな事でも解決してやる」

「どんな事はいいすぎだろ。頭脳労働は絶対無理(ムリゲー)だ」

「それは暴走族王に任せる。それ以外はアタシがやる」

 

 2人はいつのようなやり取りをかわす。この2人ならもしかしたら助けてくれるかもしれない。そんな思いが瞬く間に広がっていく。

 

暴走族女神(ゾクメガミ)暴走族王(ゾクキング)、実は……」

 

 気が付けば事の詳細を2人に話していた。すると2人の表情がみるみるうちに紅潮していく。これは怒りによるものだ。

 

「全員注目!」

 

 花奈が周囲の雑談やエンジン音を掻き消すような大声をあげる。メンバー全員が一斉に花奈の方を向く。

 

「デルタの彼女にT都の百鬼夜行とかいう暴走族が手を出した!メンバーの家族は全員の家族!メンバーの彼氏彼女は全員の彼氏彼女!自分の彼氏彼女に手を出されたら制裁(シメ)るよな!今からT都行って百鬼夜行に襲撃(カチコミ)するぞ!」

 

 突如の宣言に皆は戸惑い騒めく。無理もない、五分五分ぐらいなら自分でも喜んで戦いに行くだろう。だが戦力差1対10以上、これでは自殺しにいくようなものだ。

 花奈は思わぬ反応に顔を紅潮させる。一方ヤジは冷静に皆の様子を窺うと花奈に耳打ちする。すると花奈は思いついたようにスマホを取り出し、ヤジもスマホを取り出す。

 

「もしもし、犬吠埼、アタシだ」

「よう、(オレ)だ、今大丈夫か猿渡」

 

 2人が出した名前を聞いてざわつく。犬吠埼と猿渡、2人ともN県統一の際に抗争したチームであり、犬吠埼は那我雄華王(ナガオカキング)、猿渡は朱鷺殺(トキサツ)のトップだった男達だ。

 

「うちのメンバーの彼女に百鬼夜行ってチームが手を出した。今から制裁(しめる)から手を貸してくれ」

「百鬼夜行ってチームがうちのメンバーの彼女に手を出した。今から抗争しにいくから来てくれねえか?N県の暴走族(ゾク)の力をT都の奴にみせつけようぜ」

 

 一応は傘下に入っているがかつての敵だ。助力に応じるのだろうか?花奈とヤジは話を続けメンバーは2人の様子を固唾を飲んで見守る。

 

「よし、犬吠埼達が来てくれるぞ!」

朱鷺殺(トキサツ)が参戦だ!」

 

 その言葉に皆は声を挙げる。2つのチームの強さは抗争したメンバー達が知っている。那我雄華王(ナガオカキング)は200人、朱鷺殺(トキサツ)は150人、人数的には不利なのは変わりないが、充分に勝算がある戦いになった。

 かつての敵すら即座に参戦してくれる。それは抗争を通してヤジと花奈に惚れ込んだからだ、これがハイエンプレス両巨頭の魅力である。

 

「よし!今から出発(デッパツ)だ!」

 

 花奈の掛け声に皆が一斉に歓声をあげる。ハイエンプレス200人は第七港湾倉庫を出発する。暫くして那我雄華王(ナガオカキング)朱鷺殺(トキサツ)と合流し、その際に景気づけに近くの民家を燃やした。

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