暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第22話 ファニー・ビーチ

♢細波華乃

 

 近づくごとに塩の匂いが強まり観光客たちがはしゃぐ声が大きくなってくる。花奈もそれを感じたのか興奮が抑えきれないと徐々に早足になっていく。

 

「お~、海だ!」

 

 小学生のように叫ぶと全速力で砂浜に向かって走っていく。華乃も慌ててその後を追った。

 宿泊券を貰った日の夜、花奈と夕食を食べながら旅行の大まかなプランを話し合った。あの性格からして着いてからやる事を決めればいいと言うのは予想でき、それで楽しければいいがグダグダになるパターンも充分に考えられる。

 ガチガチにタイムスケジュールを組まなくてはいいが、どこに何が有って時間が余ったらどこに行くかぐらいは決めたほうがいい。

 まずはネットでS県A市の観光スポットを調べどこに行きたいか花奈に訊く。すると全ての観光スポットを却下して海に行きたいと提案してくる。

 日本は海に面していない都道府県は少なくN県も海に面して、S県A市まで行ってまで海で遊ばなくてはいいのではと思い口にする。それでも花奈は海に行きたいと主張する。

 ネットで調べ行先を提示したが正直どこも特段に行きたいという場所もない。であれば海でも同じで、この旅行は花奈主導で行先を決めてもいいかと了承した。

 

 華乃は花奈の後を追いながら周囲の様子に気を向ける。海に行くとならば当然水着を着る。そして生まれてこのかた海で遊んだことがなかったので当然水着は持っていない。

 正確に言えば体育の授業に使う学校指定のスクール水着は持っているが、プライベートで着るのは恥ずかしい。そして水着は当然ながら露出面積が多くなり人に肌を見せるという行為は好きではない。

魔法少女リップルのコスチュームは忍者風だがスカートは超ミニと呼べるぐらいに丈は短く、上はマフラーとアームカバーとビキニというそれこそ水着のような格好である。

 だがこのコスチュームは着たいから着ているのではない。元は魔法少女育成計画というソシャゲにおいての自分のアバターの恰好が魔法少女のコスチュームになっただけで、そのアバターもそれが一番強いからであって断じて趣味ではない。

 水着は出来る限り露出度が少ない黒のワンピースにした。下の丈も学校のスカートより長いぐらいで、腹も胸元も見えず二の腕が見えているぐらいでこれは許容範囲だ。

 そして花奈は海に勢いよく飛び込み押し寄せる小さな波に向かって正拳突きや蹴りを放っている。水着はビキニタイプで、喧嘩で体を動かしているせいなのか余分な脂肪が無い女性受けが良いプロポーションをしている。

 あとよく見て見ると腹部に痣や内出血の跡が見られる、私服の時に太腿や二の腕らへんに同じような痣は見たことがある。相当の頻度で喧嘩しているのだろう。暫くすると飽きたのか花奈がこちらに戻ってくる。

 

「とりあえず邪魔だし、これからやるか」

 

 花奈は右手に持っている小さなスイカを掲げる。

 

「棒は?割るのに必要でしょ」

「別にいいだろ、チョップとか瓦割りのパンチとか足を振り下ろしで割れるだろ」

 

 花奈は当然のことのように言う。確かにそうかもしれないがそれは平時の時だ。グルグル回りフラフラの状態であれば力が入らず割れない。しかし売店に棒が売っているとは思えないのでとりあえず棒なしでやることにした。ルールは制限時間1分で1回でスイカを割れなかったら終了、どちらかがスイカを割るまでやり続ける。

 最初は華乃がやることになり、詳しいやり方は分からないので20メートルぐらいのところにスイカを置き、スタート地点で30秒間ぐらい回転して目を瞑って始める。

 途端に車酔いの時以上の吐き気が襲い思わず膝をつきそうになる。立つのがままならないほど三半規管が狂うのか、このまま酔いが治まるのを待とうとするが「何ひよってんだ!とりあえず歩け」と花奈のヤジのような指示が飛び、挑発に乗るように歩く。

 

「どこ歩いてんだ!左に10メートル!残り50秒」

 

 花奈から半笑いで指示が飛ぶ、真っすぐ歩いていたつもりだったがそんなにズレているのか、指示通り左に軌道修正するが明らかに千鳥足になり膝をついてしまう。すると前方から笑い声が聞こえてくる。

 相当に無様な姿なのだろう。こんだけ三半規管が狂っていれば仕方がない、だがあんなに笑われるのは妙にムカつく。少しでも安定するように足幅を広げ大股でこれだと少しだけ脚がふら付かない、あとは指示に従いひたすら進んでいく。ふらつきや吐き気は意地で耐える

 

「残り5秒、目の前だ、振り下ろせ」

 

 ついにスイカの元に辿り着く。あとは割るだけだ、チョップやパンチだと威力が足りなくて割れないかもしれない、ここは足を使って踏み割る。右足をゆっくりと上げ充分な溜めを作って振り下ろす。

 踵に伝わるのは柔らかい感触ではない砂浜の固い感触だ、その瞬間に前方から大きな笑い声が聞こえてくる。

 

「ははは!いや~見事に外したな!あんな自信満々にやっておいて」

 

 花奈は腹を抑えながら喋る。しっかり割れるようにしないように勢いよく振り下ろしたが妙に恥ずかしくなってきた。

 

「そんな余裕を見せられるのは今の内だから」

「楽勝だよ。なんならハンデつけてやるよ」

 

 花奈は鼻で笑いながらスタート地点について回転する。数秒後にハンデの意味を理解する。自分の時は結構な全力で回ったが若干緩めていた。だが花奈はフルパワーで回転していた。

 30秒が経過しスタートの声をかけそれと同時に膝をつく。すぐに立ち上がるが見事な千鳥足で20メートルぐらいよろけ無様に転び海面に頭を突っ込む。

 

「どこいってんの」

 

 思わず吹き出しおちょくるように声をかける。まるでコントのようによろけてこけた。体験者としてはそうなるのは分かるのだが、余りにも見事なよろけぶりで笑ってしまう。

 花奈も「うるせ~!」と言いながら起き上がり歩き始めるが、再びこけて海面に頭を突っ込み。その姿を見て吹き出す。結局スイカの元に辿り着けず制限時間を過ぎる。

 

「楽勝じゃなかったの?」

「クソが、想像以上に酔う。次は華乃の番だ」

 

 そこから泥仕合だった。回転速度は花奈が基準になり、少しだけ回転速度を緩めた時は花奈から物言いが入りやり直しにさせられた。

 そうなるとまともに歩くのも困難になり、お互い千鳥足になって無様にこけ続け失敗を重ねていく。

 

「ねえ、これやめない?」

 

 互いに5回目の失敗をした時に提案する。何となく意地を張ってやり続けたが折角の旅行なのに何でこんなに辛い思いをしなければならない。もっと別な遊びをしたほうが楽しいし有意義だ、すると花奈は意外にもあっさりと了承する。意地でも成功するまでやり続けると言うと思ったが、余程きつかったのだろう。お互いその場で座り込む。

 

「華乃が最初で成功してればこんなキツイ思いしなくてすんだ。全力で回らなかったのを見逃してやったのに」

「うるさい、だったら見逃してよ」

「いやだよ、アタシが全力(ガチ)で回って失敗してるのに、華乃が手を抜いて回って成功したら不機嫌(いら)つく」

「その結果がこの泥仕合か」

 

 なんて不毛な時間を過ごしたのだろうと可笑しくなり同時に笑った。

 

 それからは体を休めながら砂山崩しをしたり、浮き輪で海を漂いながらダラダラと過ごしたりした。砂山崩しは子供の遊びかと思ったが、意外に奥深く勝った時の花奈の勝ち誇った顔がムカついたので結構真剣にやった。

 途中で何人かの男がナンパをしにきたが華乃の舌打ちと花奈の睨みで蜘蛛の子を散らすように追い払った。

 

「ちょっと来い」

 

 飲み物の買い出しに行っていた花奈が返ってくるとこちらの手首を掴み強引に引きずるように移動する。しばらく歩くと立ち止まり指さす。そこにはバレーコートが設営されていた。浜辺でやるとしたらビーチバレーか。

 

「あれやろうぜ。飛び込み参加OKだってよ」

「パス、1人で参加してきて」

 

 バレーボールは体育の授業でやったことがあるぐらいでビーチバレーは未経験だ。それは花奈も同じだろう。いや下手したら体育の授業ですらやったことがない素人かもしれない。いくら飛び込み参加がOKでも一方的な試合になって冷やかしになるだけだ、それに恥をかきたくない。

 

「2人1組なんだよ。それに知らねえ奴とやりたくねえ」

 

 花奈は不満そうに言う。確かに見知らぬ人とやりたくはない気持ちは分かる。それに暴走族のリーダーだが意外と人見知りで気が合う人じゃないと上手くいかず、ペアになったとしてもお互い気まずくなり嫌な思いをさせてしまう。

 

「飯奢るからやろうぜ」

 

 花奈はしつこく食い下がる。そんなにビーチバレーに興味を持っていたのは意外だった。

 

「3回分、それで手を打つ」

「分かったよ」

 

 一瞬悩みながらも了承する。旅の恥は掻き捨てというし無様に負けても我慢しよう。そして今回は花奈が行きたいというので海に来たので、とことん花奈がやりたい事に付き合おう。

 

「ところでこの遊びルールってどんなんだ?」

 

 華乃はその言葉に盛大にため息をついた。

 

──

 

「では、中田&朝日組対細波&生島組の試合を始めます」

 

 対戦相手と試合前の握手を交わす。花奈は睨みつけ必要以上に手を握ろうとしたので止めておく。恐らく大学生ぐらいで日焼けして動きやすいスポーティーな水着を着ていて明らかに経験者な雰囲気を醸し出している。こちらは花奈はともかく華乃はワンピースタイプの水着で明らかにビーチバレーをする格好ではなく素人だとすぐに分かる。

ギャラリーの話だと界隈では有名らしく優勝候補らしい。そんな相手と飛び入りの素人チームを当てるなと運営に対して内心で舌打ちする。

 試合が始まりサーブは相手側のチームである。最近は体育の授業でも疲れるからと全力を出してなかった。だが同じようにすると花奈はガチギレするので全力でやろう。

中田がサーブを打つ。ジャンプサーブではなくフローターサーブ、それは体育の授業で運動が苦手な生徒がサーブミスしないようにとコートに入れるだけに全神経を注いだサーブのように遅かった。

 素人組相手に本気を出せばサーブだけで試合が終わってしまう。試合を成立させるために、相手にもラリーを楽しんでもらうための配慮だろう。冷やかしみたいな素人組に楽しんでもらおうと気遣うなんて出来た人だ。

 花奈は目を見開きながら試合前に教えたレシーブでこちらに向かってボールをあげ、それをネット付近にトスし、花奈がボールに向かってダッシュしスパイクを打つ。ボールは物凄いスピードで相手のコートに叩き込まれる。

 

真剣(ガチ)で来いや!」

 

 花奈は中指を突き立てながら相手に向かって一喝する。その行動とスパイクの威力に相手もギャラリーも静まりかえる。

 相手にとっては思い遣りだが花奈にとっては舐めている行為であり怒りを募らせてしまう。花奈は舐められるのをこの世で最も嫌う。

 華乃も内心でガッツポーズする。花奈に影響されてしまったのか、相手の気遣いを理解しながらも舐めるなと怒りを募らせていた。

 そこから相手は全力でプレイした。優勝候補の経験者と素人では地力が違い過ぎた。こちらも必死でボールを拾い、懸命にボールを打ち込んだが15対10で負けた。

 

「チクショウ!負けた!」

「仕方ない、相手は経験者で優勝候補だし」

「バイクか喧嘩だったら絶対(ゼッテー)勝つのに!今からやるぞ華乃!」

「やめろ」

 

 立ちあがり目を血走らせながら辺りを見渡す花奈を強引に座らせる。不良同士の喧嘩なら見逃すが、勝負に負けての八つ当たりの喧嘩を売らせるわけにはいかない。すると先程試合した中田と朝日がこちらに近づいてくる。花奈が立ち上がろうとするのを再び抑える。

 

「お疲れ様、どうぞ」

 

 中田と朝日は持っていた缶ジュースを渡す。花奈も相手の友好的な態度に怒りが少し収まったようだ。

 

「ごめんね。最初は手を抜いて」

「いえ、一方的な試合にならないようにして、素人達にある程度楽しんでもらおうとしたんですよね。こいつは怒りますが普通の人は喜びます」

「ありがとう。ところで2人はバレー素人だと思うけど何かスポーツとかやってる?」

「いえ、やってないですが」

「本当に!?2人ともボールの反応速度とか守備範囲とか跳躍力とかスパイクの強さとか素人離れしていて全国レベル、とくに貴女は下手したらビーチバレーの世界トップレベル並かもしれない」

 

 中田は花奈に手を向けながら話を振る。確かに花奈の身体能力の高さは何となく分かっていたが世界トップレベルはいくら何でも言い過ぎだろう。

 それに全国レベルといったがこれはもっと言い過ぎだ。体力テストでも常に全力を出していないが全国レベルの身体能力は無いのは分かっている。

 

「2人とも本気でビーチバレーやらない?貴方達だったら日本一、もしかしたら世界一になれるかも」

 

 中田と朝日が期待を込めた視線を向ける。決してお世辞ではなく本気で言っている。

 

「世界一か、悪くねえけどやりたくてもっと楽しい事があってそんな暇はねえ」

「私もやらなきゃいけない事があるので、ビーチバレーする暇はなくて」

 

 2人の申し出を丁重に断る。花奈は暴走族としての活動で華乃は魔法少女としての活動がある。日常の魔法少女の活動もそうだがスノーホワイトのバックアップや後ろ盾になるためにやらなければいけないと事が多い。

 中田達は「そっか」と残念そうに呟くとその場から去っていく。

 

「華乃もやるじゃん、アタシにはおよばねえけど日本一にはなれるレベルだって、まあ初めてやり合った時から分かってたけどな」

 

 花奈は自分のことのように嬉しそうに語る。だが華乃は未だに信じられなかった。トレーニングは特にやっていない。魔法少女になると身体能力が向上するのだろうか、今度スノーホワイトに訊いてみよう。

 そしてビーチバレー大会は中田&朝日組の優勝で終わり、結果的に一番接戦だったのは華乃と花奈のペアだった。

 

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