暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第23話 ファイティング・ナイト

◆生島花奈

 

 視線を右に向けると真っ暗な海と浜辺で花火をしている集団がチラホラ見える。それぞれが騒いでいるが昼間の観光客たちの騒めきと比べたら大分静かだ。

 昼の海は楽しかった。スイカ割りはお互いフラフラになって結局は割れずじまいという無駄な時間だったが、華乃と一緒にチームの皆と一緒にやるようなバカをやれてよかった。こういう体験が案外将来の思い出になるはずだ。

 それから2人で何かしたいと思っていたところにビーチボール大会がやっていた。ビーチボールに一切の興味はなく2人でできれば何でもよかった。そしてやってみると結構楽しかった。

 最初は素人でも明らかに舐めていると分かる程の手抜きだったのでブチ切れると相手も全力を出してきた。試合は負けたが手抜きで勝たれるより何倍もマシだ。

ビーチバレーは拳を交えないがボールを通してお互いの意地をぶつけ合う感じが好きで、もし機会が有ればもう一度ぐらいやってもいいと思う程だ。

 昼は充分に遊んだので夜は仕事をしなければならない。S県A市に来たのは遊びと下見が目的だ。明日の夜には覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のメンバーと一緒にこの場所に乗り込む。地元のチームがすんなり傘下に入れば問題無いが、そうならなければ抗争に発展する。

 そこで一帯を調査し相手がどのように逃げてどのように動くかをシミュレートしておく、そうすればより確実な勝利が得られる。まあヤジの受け売りではあるが。

 花奈の調査は単純だった。ネットのマップで主要の道路を調べ現地で走りながら暴走し甲斐がある道を選び走り、あとは何となく目に付いたわき道に入る等である。当人も名目上調査だが知らない一帯を走るという遊びのようなもので、現に後ろに華乃を乗せてツーリングしていた。

 

「ホテルの飯って何時までだ?」

「たしか21時まで」

「じゃあそれまでに帰らねえとな」

 

 時刻を見ると20時ぐらい、戻る時間を考えればあと30分ぐらいか、折角ホテルに泊まっているのだから豪勢な食事にありつきたい。調査が終わらなければ飯を食べ華乃が寝た後に部屋を抜け出して深夜に走ればいい。

 5分程テキトーに走っているとバックミラーに特攻服を着た男が映る。地元の暴走族か族車を乗っている余所者を見かけたからにはちょっかいを出してくるだろう。どんな感じか実地調査といくか、スピードを少しだけ落として接触しやすいようにする。

 だが地元の暴走族はこちらを見て明らかに認識しているが威嚇すらせず十字路を左折した。

 

「しっかり捕まれ」

 

 後ろにいる華乃に警告して真っすぐ進んだ十字路をUターンして暴走族を追跡する。チラリと表情が見えたがあれはこちらにビビっているわけではなく、余所者にかまっている暇がないという感じの表情だった、それに妙に殺気立っている。これはどこかと揉めているな。

 暫く地元の暴走族を尾行する。サイドミラーに映っているはずだが依然としてこちらを無視するように走っていく。

 

「もしかして飯食えねえかも」

「何で?」

「前を走っているあいつの居るチームは恐らく抗争か何かをしていて、急いで向かっているんだろう。勘違いだったり暴走族(ゾク)同士だったらちらっと見て帰るけど、昼に石井が絡まれていたBKとかいう半グレ共だったら乱入する。心配すんな喧嘩には巻き込まねえ、近場で下ろすから隠れてくれ」

 

 華乃の喧嘩強さは大まかには分かっているつもりで、恐らく覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の中で上から数えたほうが早いレベルだ。喧嘩に乱入しても簡単にやられないだろう。メンバーであれば一緒に乗り込むが部外者を巻き込むわけにはいかない。

 

「いいよ、私もやる」

真実(マジ)かよ!?」

 

 思わず後ろを振り向いてしまう。一緒に喧嘩できれば楽しいだろうなとは思っていたが、そういうのは卒業したと言っていたので諦めていた。

 

「急にどうした?」

「半グレって犯罪者集団だから。どうせならボコボコにして警察に突き出したほうが世の中のためかなって」

正義の味方(スーパーヒーロー)ってか、まあいいや」

 

 理由はどうあれ華乃と一緒に喧嘩が出来るなら何でもいい。高揚感で前に居る暴走族を抜かないように心を落ち着かせながら運転を続ける。

 数分程走ると国道からわき道に入り坂を登っていく、それにつれてどんどん人気が少なくなってくる。そして前方には廃墟になった建物と男たちの声が聞こえ、さらに進むと特攻服を着た男達とガラの悪い男たちが争っている姿を確認する。パッと見では暴走族側のほうの人数が少ない。

 

「おい、お前のチームが戦っている奴らはBKとかいう半グレか?」

「たぶん、見たことがある奴がいる」

 

 前を走っていた暴走族の横に並び質問する。男は驚き事故りそうになるがハンドルを抑え強引に態勢を立て直させ再度質問すると答えた。

 

「このまま突っ込んで何人か轢いた後に減速するからバイクから降りてやれ!後ろにいると極道技巧(ごくどうスキル)ができねえ」

「極道技巧?」

真剣超絶(マジやべえ)技だ!やられそうになったら援護(サポート)してやるから安心しろ」

「わかった」

 

 そのまま前に居る暴走族を追い抜いて集団に突っ込み、挨拶がてら半グレ達を数人ほど轢く。

 

「アタシ達はBKとかいう半グレを潰しに来た!」

 

 まずは暴走族達の敵ではないと意思表示しておく、これで別の暴走族が襲撃しにきたと思われ三つ巴と勘違いされたら自分はともかく華乃を庇いきれない。

 そのままUターンしながら減速して華乃を後ろから下ろし再度BKの構成員に突っ込む。相手は轢かれたくないと右に逃げようとするがハンドルを右にきり追尾する。

 雑魚ならこれで轢ける。マシな奴なら避けるが横っ飛びのように避けようとして態勢が崩れるので、その隙を見てシートに立ちサイドキックで側頭部を打ち抜き、続けざまに近くにいた半グレの頭をラリアットのように蹴り抜く。

すぐさまハンドルを手に取りながら華乃を探し見つける。大柄の男と向き合い、初手で鳩尾にトウキックをぶち込み、屈んだところにハイキックで顎を打ち抜くと男は膝から崩れ落ちる。すると後ろから別の男が襲い掛かるがバックキックで悶絶させる。

 

「やるじゃねえか」

 

 落ちていた鉄パイプを拾って華乃の蹴りで悶絶した男の頭をゴルフのようにフルスイングしてトドメを刺す。初めて会った時にちょっとした喧嘩で強さは知っていたが、今の的確に急所を打ち抜く正確さと威力は予想以上だ。

 それからは華乃の周囲でいつでもフォローできるようにしながら喧嘩をしていく。所詮は半グレで獲物は持っているが実力は大したことなく。50人ほどぶちのめした後にリーダーらしい奴が逃げようとしたので、そいつを捕まえてヤキを入れ二度とちょっかいを出さないように分からせた。

 

「誰だが知らねえが心底感謝(マジあざ)っす」

 

 昼に助けた石井ともう1人が礼を言ってきた。石井の様子と男の雰囲気からしてこいつがリーダーだろう。

 

「気にすんな。暴走族の単車を壊そうとする外道(カス)打倒(ぶちのめ)しとかねえと。それとワリいな」

 

 周りを見ると半グレ達に破壊されたバイクの前で蹲っている奴らがチラホラ見える。もう少し早く来ていれば被害が抑えられたと思うと悔しい。

 

「修理代はこいつらから徴収(ふんだくれ)ばいい。強盗(たたき)恐喝(がじり)で稼いでるだろうしな」

 

 這いつくばっている半グレのリーダーの腹を蹴る。単車は修理できても単車を守り切れなかった悲しみや悔しさは決して癒えず忘れられない。無駄に暴走族を悲しませた半グレは決して許されない事をした。

 

「それじゃあな……、そうだ、明日の夜ぐらいにアタシが率いている覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)ってチームがまた来る。傘下に入れば今まで通り暴走してくれていい、まあ招集には応じてもらうが、それに断るなら抗争だ」

「いや、傘下に入る。アンタたちが居なきゃこの喧嘩は負けてたし、石井も助けられた。恩人に楯突くほど不義理じゃねえ」

「そうか、じゃあ明日一緒に暴走しようぜ。どっちみちS県の暴走族のところに行くから」

了解(りょ)だ」

 

 2人は握手のように拳を突き合わした。

 

 

♢細波華乃

 

「ふう~、快感(とぶ)~」

 

 花奈は緩み切った声を出しながら湯舟に浸かる。華乃も同じように浸かるが攻撃を受けた箇所が沁みて思わず顔を引き攣らせる。よく見れば花奈の体にも先程の喧嘩で負った打撲跡などがあるのだが痛くないのか?

 華乃は体をのけ反らして夜空を見上げる。確かに沁みるが同時に痛みと疲れが取れていくような気がする。そして誰も居ない浴槽をプールのように泳ぎ回る花奈を見る。

 初めて出会ってから半年以上は経過し本気の喧嘩を見たのは初めてだが、あそこまで人間離れしているとは思わなかった。ウイリーで前輪を顔面にぶつける。前輪を支点にして後輪をコンパスのように振り回す。バイクがあんな自由自在に動くとは思わなかった。素人でも分かる。あれは異常な挙動であり、あんな操作が出来るのは花奈だけであると。

 鉄の塊を振り回しているようなもので当たれば一撃でやられる。相手にとって恐怖でしかない。仮にバイクの攻撃を避けても今度は花奈自身が攻撃してくる。

 シート立ちながら蹴りを放つのは当然で、ハンドルの上に立ちながら蹴りを放ち、バイクから飛んで相手に飛び蹴りを放ち、顔面を踏み台にしてバイクに飛び乗るという映画のような動きを見せる。異常なまでの身体能力だ。

 このバイク操作能力と身体能力を合わせた技が花奈のいう極道技巧だろう。超凄い技と言っていたが、そんな言葉では足りないぐらい程の技である。

 

「それにしても楽しかったな。また一緒に喧嘩しようぜ」

「やだ、殴られたところが痛い。もう二度とやんない」

「こことか?」

 

 花奈が泳ぎながら近づき殴られた箇所を軽く小突く。電流が走るような痛みが走り思わずパンチを放ってしまうが軽く避けられる。その反応が面白かったのか次々と攻撃を受けた箇所を的確に小突いていく。

 

 BKとかいう半グレ集団、一般的に悪党であり世間にとって害でしかない。それでも暴行していい理由にならない。平時なら花奈を止める。あるいは喧嘩に参加せず警察を呼んでいた。だが熱に浮かされたように喧嘩に参加してしまった。

 少し前までは暴力で我を押し通していた。そんな自分が嫌だったはずなのに今は不思議と嫌悪感はなく、少なからず楽しいとすら思っていた。

 恐らく1人ではこんな感情は抱かなった。きっと花奈と一緒だったからだ、一緒に行動し半グレを倒すという同じ目標を達成した充実感、そして花奈の喧嘩には華があった。

 まるで帝都リベンジャーズの登場人物の喧嘩を見ているような高揚感、また身近で見て見たいとすら思っていた。

喧嘩をして楽しいと思うなんて普通ではなく嫌悪する側の人間なはずなのに、少しずつそちらに傾いている。

 それは魔法少女の考え方ではないのにすぐに考えを改めるべきと言い聞かせる。それと同時に別によくないかと何かが囁き、花奈と一緒に喧嘩した時の高揚感や楽しさを思い出し反芻した。

 

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