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特攻服を着た暴走族300名がバイクに乗って国道を走る。その光景は大名行列のさながらでその珍しく異様な光景に抜き去られた者は一斉に視線を向け、暴走族は「何見てんだ!」「見世物じゃねえぞ」と威嚇する。
殺島はその集団の先頭を走りながらシートから伝わる振動に僅かな不快感を覚えながら景色を楽しむ。季節は秋になり視界に広がる山々が赤や黄色に色づいている。ここら辺は地元のN市より栄えていなく道路も舗装されていないが遮蔽物になるビルもないので、景色を存分に楽しめる。
メンバー達も目の目に広がる景色に楽しみ中にはスマホを取り出し写真を撮ろうとしている者もいる。まるで遠足かなにかのようだ、これからしようとする事に対して些か緊張感が欠いているような気がするが、緊張でガチガチになるよりマシだ。
それに関連してか同時期に全国的に暴走族が爆発的に増え、N県内で多くのチームが発足し若者達も入団し、N県内の暴走族人口は去年の数十倍ぐらいに膨れ上がった。
そうなると自然にチーム同士での抗争が起こり、
そしてデルタの彼女のイザコザが切っ掛けとなりT都でも有数のチームだった百鬼夜行と抗争になり、N県でかつて抗争した
抗争を仕掛けてくるチームを返り討ちにしていくなか、花奈は新たな目標を掲げた。全国制覇、日本全国の暴走族や走り屋を統一するというこの世界の暴走族の歴史でどのチームも成し遂げていない偉業である。全てを統一し様々なチームを一同に集め何万人単位の暴走族や走り屋と暴走する。それが花奈の新しい夢となる。
統一といっても負けたチームは
それからは夏休みを利用し様々な場所に遠征し抗争を仕掛けていき、多くのチームを傘下に収め、規模としては日本でも有数のチームになっていく
夏休みが終わり2学期に入って頻度は落ちても遠征していき、今週も2手に分かれて遠征している。チームの半数を花奈とガンマが率いているグループ、そして1割程度を率いた殺島のチーム、残りは喧嘩したくないメンバーと本拠地が襲撃されるのに備えているデルタ達がいる。
この抗争遠征の予定としては隣接する3つの県の主要チームに抗争をしかける。相手の戦力についても今ではソーシャルメディアで宣伝などしてある程度把握できる。それどころかソーシャルメディアでメンバーを募集している。スマホがなくポケベルしかなかった聖華天時代では考えられない。
300名というメンバーは抗争を挑むチームより人数は少ないが問題はない。日々の抗争で気が付いたがハイエンプレスのメンバーは他のチームのメンバーより強い。一般的なメンバーだったら1人で3人ぐらいは倒せる。
特に殺島を含め、花奈、デルタ、ガンマ、皆から四天王と呼ばれるメンバーはもっと強い。自分なら極道技巧を使わなければ一般メンバーなら20対1、幹部クラスなら3対1、極道技巧ありなら倍以上だ。
花奈達も同じようなもので、花奈の極道技巧
ガンマの極道技巧
デルタの極道技巧仁王の如し。動きは単純な相撲の立ち合いからのブチかましだが、威力が尋常でなくバイクと正面衝突しても弾き飛ばす。前世での同僚だった破壊の八極道の夢澤組長は腕力で人の首を引き千切れるらしいがデルタもその気になればできるかもしれない。
正直この世界で極道技巧を使える人間は殺島1人だけだと思っていた。
実は前の世界の人間と比べ身体能力や技能が高く他にもゴロゴロ居るのではと思ったが、そういうわけでもなくスポーツ選手も聖華天のメンバーだったオメガほどの身体能力があるわけでもない。暴走族達も
極道技巧が使える3人、そしてこの世界では比較的に強いメンバー、皆の共通点として自分に近しいという点がある。これは果たして偶然なのだろうか?
「
メンバーの1人が標識を指差し叫ぶ。考え事をしているといつの間に着いていた。道なりに走りながら適度に広い跡地に侵入し打ち合わせをする。
「随分寂れてるけど、どんなチームがいるんですか?」
「確か「羅武雷斧」とかいうチームだ」
「どれくらい居るんですか?」
「正確な人数は分かんねけど30人ぐらいだ、オレはやらねえ。
このB市に寄ったのはついでだ。目的の県の主要チームが拠点にしている市の進路上であり、初参加のメンバーのデビュー戦に丁度良かったからである。
「喧嘩なんて気合いと根性だ」
「押忍!頑張ります!」
喧嘩経験者が初参加のメンバーを励ます。人数差もあり万が一負けても大丈夫という精神的余裕がある。初陣の舞台には最適だ。
「それでその羅武雷斧がどこに居るか分かりますか?」
「いや、分かんねえ。ここら辺走ってればあっちからちょっかい掛けてくるだろう。走り回りながらそれっぽい奴に聞き込みだな」
「了解です!
「一応
「了解です」
殺島の指示にメンバー達は返事をし、エンジンを鳴り響かせハイエンプレスの旗を掲げながら散らばっていく。特攻服を着た奴が自分のチームの旗を振り回しながら縄張りを走るなんて完全に喧嘩を売っている。普通の暴走族なら有無を言わさず襲ってくる。それを切っ掛けに喧嘩すればいい。
「さてと、観光がてら
殺島はエンジンを入れて出発する。相手を挑発するような走りはメンバーがするだろう。それは任せて風光明媚で牧歌的な田舎の景色を楽しみながらのんびり走る。今日はそんな気分だ。
──
山特有の冷たい空気が殺島の体を叩きつける。その冷気に意を介さずコーナーに向けて車体と体を傾ける。チームのメンバーと分かれた後B市を探索した。皆は主要道路などを走っているのでこちらは人が来なそうな田舎道を中心に走る。
見えるのは山か畑か田とそこで働く農家だけだ。前の世界では無縁でこの世界で暮らしてから時々みるぐらいで、ここまで自然に囲まれた道を走るのは初めてだ。あまりの長閑さで今は抗争を仕掛けるために遠征していると忘れてしまいそうだ。
当てもなく走っていると峠を見つけ、ここら辺を拠点にしている走り屋でもいるかと頂上まで上るが結局走り屋はいなかった。そして帰るがてら峠を攻めていた。
「久しぶりにやったが、
殺島は山道を下り切るとポツリと呟く。スピードを求めるのはそれなりに楽しく気持ち良いが、やはり皆と高速道路などを暴走する方が気持ちいいし楽しい。まあ誰か一緒にレースすればもう少し楽しかったかもしれない。
ふと振り向きながら自慢げに勝ち誇る花奈の顔が浮かび上がる。花奈は暴走や抗争がてらに峠に乗り込み、そこの走り屋とレースをして打ち負かし、コースレコードを打ち立てていく。花奈いわく
花奈はバイクで走るのは好きだがスピードを求める走り屋ではなく、毎晩地元の峠を走るなど熱心に練習したりはしない。それでも初めて走るコースで地元の走り屋を打ち負かすのは才能としかいえない。レースの道を選べば歴史に名を残すかもしれない、ただ本人にその気は全く無いが。すると懐のスマホが鳴る。
「よう、どうした?」
「A班ですが、「羅武雷斧」の奴らと接触できませんでした」
「B班も同じです」
「C班も同じです」
「こっちも
グループ通話で成果を確認する。余程の事がなければ見つかるように走らせた。それでも発見もしくは接触できないとなると、余程の臆病者か「羅武雷斧」というチームは存在しないのか、解散したのか。
「どうします?このまま走りながら探しますか?」
「いや、時間の無駄だ、最初に集まった場所に戻ってくれ。この県の主要チームを傘下に収めれば勝手に傘下に入るだろう。此処に来たのも
「了解です」
通話終了をタップしスマホを懐に仕舞う。無駄骨だったか、だが田舎の景色を楽しめたから良しとするか。意識を羅武雷斧から目標の1つのチームに切り替え、どうやって抗争に勝利するかの算段を考え始める。
念のためにと通っていない道を走りながら最初に集まった場所に向かう。暫くすると個人経営の小さなバイク屋が目に入り、左折して店に向かう。
バイク屋なら羅武雷斧のバイクを修理している、または店の従業員が知り合いだったり友達だったりする可能性はある。一応は訊いておいたほうがいい。
中に入ると鉄と油の匂いが届く。良い匂いだ、オフならバイクでも物色したいどころだが、そんな暇はない。店内には2人がいて一斉にこちらに視線を向ける。
1人は20代前半位の男でこの店の店員だろう。バイクを修理している。もう1人は高校生ぐらいの男が床に座っている。ヤンキー風のファッションで頭に剃りこみを入れ、右手はギブスをはめて腕をつっている。
「いらっしゃいませ」
「あんた、羅武雷斧のリーダーだよな?」
店員の挨拶を無視して反り込みに話しかける。こいつは暴走族だ、ファッションや髪型もそうだが何より雰囲気がそれだ。そして集団を束ねる不良だというのも分かる。剃りこみは特攻服を見てこちらにメンチを切ってきた。
「オレはN県
剃りこみの目つきが一層鋭くなる。あえて軽い口調で話し挑発しているがしっかりと意図は伝わっている。だがふとした瞬間何かを思い出し方のように睨むのをやめ目を伏せる。
「これだけ挑発して喧嘩売らなかったんなら、
「好きにしろ。羅武雷斧は解散した。誰が縄張りにしようが関係ねえ」
「
殺島は踵を返し手を振りながら出入り口に向かうが、店を出ようとする直前に止まる。
「最後に訊くが、解散したのは皆が走りたくなくなったからか?それとも何かしらの理由で走りたくても走れなくなったからか?」
「皆飽きたんだよ」
「
殺島は剃りこみに近づくと座り込み目を見つめ、剃りこみは思わず目線を逸らす。
「でたらめ言ってんじゃねえ!暴走族なんてダセえって辞めたんだよ!」
「このバイクあんたのだろ?
店員が修理しているバイク、壊れていない部位に目を向ければ設備が行き届いているのはすぐに分かる。それに店に入る前に男がバイクに向けていた視線、その視線にはバイクに対する愛情のような感情と、壊してしまった申し訳なさが感じ取れた。
「うちのリーダーの方針でよ。走るのに飽きて辞めるのは仕方がねえが、それ以外の理由で暴走族を辞めるのは
出来るだけ優し気な声で語り掛ける。花奈は
聖華天のメンバーの大半は満足せずに暴走族を止めた。それは何かしらの悔いとなり心を縛る。20年ぶりの招集に応じたのも満足していなかったという面が少なからずある。同じような人間は1人でも少なくしたい。
剃りこみは殺島の言葉を聞くと唇を噛み逡巡した様子を見せる。それが数秒続いた後意を決したように息を吸い込む。
「誰にも言うなよ?」
「ああ、
「羅武雷斧の皆は走りに飽きたわけじゃねえ。ふと現れたあいつに『もう二度走るな』と分からされた。もし走ったら今度は何されるか分からねえ。それが怖くて俺含めて皆やめた」
「あいつって事は
「ああ」
「羅武雷斧は総勢何人だ?」
「50人だ、アイツは化け物だ。この腕を見てみろよ、腕を握られて折られたんだぜ。それにあのバイクもアイツに放り投げられて壊さられた。人間じゃねえよ」
剃りこみはその当時の記憶を思い出したのか冷や汗を流し震えで歯をカチカチと鳴らす。50人を1人で倒し、握っただけで骨をへし折り、単車を腕力で放り投げる。事実なら確かに普通の人間の域を超えている。
「はは、情けねえよな。本当は走りてえのにアイツにビビってイモ引いている。クソが!俺達が何したってんだよ!」
ヤンキー風の男は行き場のない怒りをぶつけるように左手で床を何度も殴る。男の叫び声と打擲音が店内に響き渡る。
「そいつが居なきゃ走るか?」
「ああ、当たり前だろ!」
「だったら俺に任せろ。この
自分の胸を叩き宣言する。花奈は全ての暴走族を同志だと思っている。それと同時に暴走を妨げる全てを憎んでいる。もし花奈がこの場に居たら同じ言葉を言うだろう。
暴走族にとって暴走は『夢』だ。日々の辛さや退屈を全て吹っ飛ばす夢の世界、それを奪う者は警察だろうが誰だろうが許さない。
「今からぶっ殺しに行くから、そいつの特徴を教えてくれ」
「いや、気持ちはありがてえが、やっぱりいい」
「オレだってたった4人で200人のチームの本拠地に乗り込んで潰したことが有るんだぜ。実力は
武勇伝を聞かせるが尻込みしている。羅武雷斧のリーダーは一度は託そうとしたが気が変わったのか断ろうとしている。これは実力を疑っているわけでもなく、身の安全を心配しているわけでもない。別の要素のせいで言いたくないのだ。
「まさか、
その言葉に剃りこみの体がビクリと震える。正解だ、暴走族はメンツを重んじる。これがデルタのような巨漢にやられたらカッコがつくが、明らかに中学生と分かるようなチビにやられれば恥ずかしくてとても他人に言えない。
「腕握っただけで骨をへし折るような化け物だろ。
リーダーはこちらに視線を向ける。説得が利いている。あと一押しだ。
「オレは勿論
剃りこみはその言葉を信用してくれたのかポツポツとそいつの特徴を語り始めた。それは想像以上に衝撃的だった。
「そいつは明るめの髪でポニーテルの中学、いや下手したら小学の女のガキだ」