暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第26話 talkin'bout magical girl

結家美祢(むすびやみね)

 

 結家美祢はロッカーにある掃除用具の数を確認し、教室を改めて見渡し汚れている箇所や机がしっかりと並んでいるかを確認する。特に問題はない。

 授業が終わりクラスの其々の班が指定された場所に向かい掃除する。美祢達の班の担当は教室の掃除だった。何事も起こらず順調に掃除していたのだが、男子が掃除の最中にピンポン玉を発見し野球をやり始めた。

 男子は活発で押しが強い性格で、班の女子は大人しい性格だった。女子達もちゃんと掃除したほうがいいと注意しようとしていたが、男子の押しの強さに声をかけられずにいた。場の空気は女子達が男子達の分まで掃除しなければならない空気になっていた。

 そこで美祢が男子達に真面目に掃除しろと注意した。男子達は注意を無視して野球を続けるが、「先生にこの事を報告する」と告げると、渋々と言った様子を一切隠さない表情を浮かべながら掃除し、帰り際にいい子ぶりっこと小学生みたいな文句を言われた。

 

 美祢は損得勘定で動く。今回も注意して男子達の好感度を下げるより、学級委員長として不真面目な生徒を注意しないことが教師たちに伝わることによる信頼度と評価の減少、そして女子達の好感度と信頼度を上げる方がメリットがあると考え選んだにすぎない。

 美祢達が通う波山中学校は私立で受験に合格して入学したからにはそれなりに精神的に大人だと思っていたが、掃除を真面目にせずピンポン玉で野球を興じるような子供がいるなんて。本当に受験を通ったのかどうか疑いたくなる。

 それに最近は帝都リベンジャーズという漫画が流行っているようで男子はこっそりと週刊雑誌を教室に持ち込んで回し読みしている。内容も暴走族が出てくるようで、「カッケエ―」とか「オレもチームに入る」などの声が耳に入ってくる。

 暴走族はルールを無視し喧嘩で人を傷つける不良だ。何故そんなものに憧れる?魔法少女達のように魔法を使いながら世のため人のために行動するほうが何倍も素敵でかっこいい。

 そういえば母親が昨日の夕食の際に買い物をしていると暴走族が走り回り危うく轢かれそうになったと愚痴を溢していた。やはり暴走族は他人に迷惑をかける存在だ、警察には早急に捕まえて欲しいが当てにできないかもしれない。

 最近は警察の不祥事が多発している。勿論警察全員が汚職に手を染めているわけではなく、日夜市民の平和を守るために働いている警察官もいるのは分かっている。だがどうしても信頼度が下がっている。

 

 美祢は思考を切り替え机の中に教科書が無いのを確認し、カバンの中に教科書が全部入っているのを確認し教室を出る。この後は各クラスの学級委員が集まっての会議が有る。そして男子達が遊んでいたせいで掃除が長引き集合時間を過ぎている。

 理由が有っても遅刻は遅刻だ。各クラスの委員や担当の教師からの評価は僅かに下がる。心の中で男子達に愚痴を溢しながら教室に向かう。

 

 会議は何事もなく終了する。学級委員に自ら立候補、あるいは強引に選ばれたとしても学級委員としての責任感からか、真面目に話し合いに参加してくれたのでスムーズに進んだ。

 時刻は16時半、家に帰ったら家事の手伝いをして、その後は授業の復習と予習をして時間が余れば魔法少女アニメのDVDでも見るか。

 今日の予定を考えながら下駄箱から外履きを取り出し、部活動に励む生徒を横目にしながら校庭を抜け正門に向かう。すると路肩にバイクを止め、手すりを椅子代わりにして座っている男が居た。

 

 無造作ヘアーでたれ眉にたれ目、高校生か大学生だろうか、美祢の美的感覚では美形に属する容姿。顔は良いがファッションは不良というかヤンキー風で趣味に合わないし近寄りたくない。バイクも明らかに暴走族が乗るようなバイクだ。誰か兄弟もしくは恋人でも待っているのか、それとも誰かを呼び出そうとしているのか。

 どちらにせよ推定暴走族が待ち構えているのはよくない。先生に報せた方がいいか一瞬迷ったのち、先生に報せて評価を上げるメリットより、めんどくささと関わって面倒になるデメリットが大きいので、目線を合わせないように足早に通り過ぎようとする。

 

「ようお嬢さん、ちょっといいか?」

 

 だが暴走族からこちらに関わってきた。声をかけられ思わず上ずって返事してしまう。こういう人種とは無縁の人生だった。もしかして唐突な暴力が襲い掛かるかもしれないという恐怖が纏わりつく。

 

「そんな恐慌(ビビ)んないでくれよ。お嬢さんには何もしねえ、少し訊きたいことが有るだけだ。時間を取らせねえしすぐ終わる」

 

 暴走族は不安を見透かしたように笑顔を浮かべ優し気な声で話しかける。それだけ見れば気さくで美形の年上の男性だ、僅かばかり警戒心がとける。

 

「この学校に芝原って女が居るらしいけど知ってる?」

 

 美祢の脳内で即座に姿が浮かび上がる。クラスは違うが同級生である意味この学校で最も有名な生徒だ。私立に入る生徒は大抵大人しいが芝原海は問題児として知られている。

 有名なのはそれだけではなく、とんでもない身体能力で素人ながら陸上の何かの競技の県記録を更新したとか、ヤクザをボコボコにしたなど噂されている。ヤクザの件は嘘だろうが県記録については本当だろう。

 知っていると声に出そうとしたが慌てて止める。芝原海は問題児だ、そして推定暴走族が声をかけてきた。例えば芝原海が暴走族とイザコザを起して仲間が報復するために探しており調査のために声をかけてきた。だとしたら素直に答えてよいのだろうか?

 答えれば仲間を集め芝原海が襲われるかもしれない。仮にそうなったとして自業自得なら仕方がないですむが、逆恨みだったら後味が悪い。

 さらに何かのドラマで見たように暴走族が学校に襲撃するかもしれない。だが嘘をついたとバレたら芝原海を襲うついでに自分も襲われるかもしれない。事実を話す方が得か嘘をついた方が得か、脳内で即時に計算する。

 

「ちなみに、どんな要件ですか?」

「ああ、少し前かなここらへん走ったらバイクのエンジンが壊れて途方に暮れてたら、芝原海って女の子が一緒にバイクを運んでくれてよ。すげえ腕力(パワー)だったぜ、もし通りかかっていなかったらどうなってたか。帰り際に礼は言ったんだが改めて謝礼(ワビ)したくてよ」

 

 推定暴走族から話される訳は予想とは異なるものだった。だが嘘をついて情報をゲットして改めて襲うかもしれない。先程の質問は世間話の範囲だがこれ以上質問すれば怪しまれる。もう猶予は残されていない。事実を話すか嘘をつくか決めなければならない。

 すると音が流れる。一瞬バッグに仕舞っているスマホ─校則では持ち込みは禁止されている─を確認し、自分のではないと確認し音が聞こえた方に意識を向ける。どうやら推定暴走族のスマホから流れたようだ、そして着信音はマジカルデイジーのOP曲ハローデイジーのメロディーだった。

 暴走族が魔法少女アニメを見るのか?あまりのギャップに推定暴走族を凝視してしまう。一方推定暴走族は手を上げて悪いとサインを出して電話に出る。要件は大したことではないようで30秒程度で終わった。

 

「悪い、会話の腰折って」

「マジカルデイジーが好きなんですか?」

 

 美祢は遅いと分かっていながらも思わず口を押える。暴走族が何故魔法少女アニメを見て、着信音にするまでハマったのか魔法少女好きとして気になり思わず質問してしまった。

 相手は推定暴走族だ、『好きで悪いかよ』と小突かれるかもしれない。殴られるイメージを思い浮かべ反射的に体が硬直する。

 

「おっ、分かるのか」

 

 だが推定暴走族は小突くどころか気づいたのが嬉しいのか声が弾んでいた。

 

「はい、私も見ていましたから。因みにどういった切っ掛けで見たんですか」

「まずはキューティーシリーズにハマって、友達(ダチ)からキューティーシリーズより魔法少女的なものが好きなんじゃないかって、マジカルデイジーを勧められた。マジで名作だ。ヤクザは潰すけど、バトル要素が少なくて日常のトラブルを解決する延長線上っていうのかな。バトル要素が少なくてスケールが小さい細やかな日常の話が続くけど、こっちが好きだわ」

 

 美祢は思わず目を見開く。魔法少女アニメの本質は魔法を使った戦闘ではない。魔法を使って周りの人を助ける細やかな人助けを通して人々と交流し成長していく姿を楽しむものだ。

 明確に言葉に出ていないが、そういった面を楽しんでいる。男性であればバトルなどの派手な面に目が行きそうだがこの人は分かっている。

 

「でしたら次はひよこちゃんやリッカーベルを見るのをお勧めします。作画や演出に時代を感じますが、魔法少女アニメの本質的面白さはマジカルデイジーに引けを取りません」

「そうか、助言感謝(アドバイスあざ)っす」

 

 推定暴走族は芝居がかった動作と声で礼を言い思わず笑みをこぼす。それから少しばかり魔法少女アニメトークをする。主にこちらが話し推定暴走族が聞き役になっていた。

 

「あっ、すみません。芝原の件でしたね。この学校の生徒ですよ」

 

 美祢は唐突に芝原海について話す。魔法少女トークに夢中になり推定暴走族の本題に応えるのをすっかり忘れていた。

 魔法少女アニメ好きに悪い人はいない、助けられたというのは本当だろう。そもそも暴走族ではなく、暴走族であったとしても致し方がない理由があるはずだ。

 

真実(マジ)か、それで芝原は学校に残ってる?」

「ちょっと分からないです」

「連絡先とか知ってる?」

「親しくないので知らないです」

「じゃあ画像とかある?待ち伏せする」

「それもないですね」

「だったらこれ贈呈(わた)してくれね?お礼と待っている場所が書いてるから」

 

 すると推定暴走族はバイクのシートから封筒を取り出す。表に芝原海様へと書かれており、字はお世辞にもキレイとは言えない。

 

「分かりました。渡しておきます」

有難(あざ)っす。じゃあ頼んだぜ」

 

 推定暴走族はそう言うとバイクを発進させ去っていく。そして受け取った封筒を透かして何が書かれているか見ようとしたが止める。内容は気になるところだがプライバシーの侵害だ。

 美祢は折れないように封筒を教科書に挟み家路に向かった。

 

◆殺島飛露鬼

 

 

 羅武雷斧のリーダーから話を聞いた後にメンバーに先に遠征先に向かってくれと連絡した。メンバーと一緒に羅武雷斧を潰したガキを探せば楽だろうがそうなれば詳細を話さなければならず、リーダーと絶対に話さないという約束を破ってしまう。

 最初に抗争するチームの人数と覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の人数ならこちらが多いので自分抜きでも何とかなるはずだ。

 その晩は羅武雷斧のリーダーの家に泊めてもらい、翌日からガキの捜索を開始した。手始めにB市にある小中学校を巡り聞き込みをする。服はリーダーの私服を借りた。流石に特攻服で聞き込みをすれば警戒され話を聞けない。

 朝方に何校が巡るが成果が無く、昼頃に少しだけ治安が悪いと噂される中学校に勝手に入り校舎裏にいくと授業をサボって煙草を吹かしているヤンキーがいたので会話の輪に入った。

 最初はガン飛ばしてきたが、N県の者だがB市で一番強いゴリラみたいな女のガキが居るらしく喧嘩吹っ掛けるから何か知らないかと嘘をつくと、警戒心を解き目を輝かせながら話を聞いてくれた。やはりヤンキーだけあって他県から喧嘩を挑みに来たという心意気を買ってくれたようだ。

 ヤンキーの中に同じ小学校だった者が居て、そのガキは芝原という名前で中一と教えてくれた。小学校時代に喧嘩した際にボコボコにされたらしく、相手の強さと逸話を語ってくれたがやはり小学生、いや高校生だとしても高校生離れと呼べるほどの身体能力だ。そしてヤンキーが後輩に連絡を取り私立の波山中学校に進学したと知りそこに向かった。

 だが着いたのは16時半で部活動をしてない生徒は帰ってしまっている。理想は下校時間で手当たり次第に聞き見つけたかったが、仕方がないとダメ元で正門前に待ち伏せして最初に通った女子生徒に聞いたらビンゴだった。

 本人に会えなかったが手紙を渡すことに成功した。あの女子生徒がちゃんと渡してくれるのを祈るしかない。

 

 殺島は波山中学校からヤンキーの家に向かう。リーダーは犯人を見つけるまで泊めてやると申し出てくれた。

 

「よう、ただいま」

「おう、それでどうだった。誰か分かったのか?」

「芝原っていう名前の中一の女だ。波山中学に通ってるらしい」

「ガキだと思ってたがマジで中一かよ。ゴリラの生まれ変わりなんじゃねえの」

「それで、(つら)はこれか?」

 

 殺島はリーダーにスマホを見せる。地元中学校のヤンキーに聞いた際に芝原と同級生だった後輩に卒アルの写真を送ってくれと頼み、丁度今しがた画像が送られた。

 

「ああ、間違いねえ」

(つら)だけ見るととても潰した奴には見えねえが」

 

 画面に映る少女は活発そうだがとても暴走族50人を叩きのめし、完全に心を折るような戦闘力を持っているとは思えない。

 

「とりあえず手紙渡してもらえる手筈だし、喧嘩するには最適って教えてもらった場所に来いって書いておいた。それで来なかったら明後日の朝方は張り込んで見つけるか」

「すまねえ殺島クン俺達の為に、でもあれには勝てねえよ」

「心配すんなって、それより羅武雷斧のメンバーに連絡してくれよ。その場できっちり謝罪(わび)入れさせるから」

 

 心配そうな顔を浮かべるリーダーの肩に手を置いて笑顔を見せる。何も心配する必要はない、今後はどうやって暴走しようか想像しワクワクしていればいい。

 その晩はお互いのチームについて語り合い夜を明かす。実に楽しい時間だった。

 

♢結家美祢

 

「委員長も意外だよね~」

 

 下駄箱で外履きから上履きに履き替えている最中だった。声をかけてきたのはクラスで中心的人物の女子だった。

 

「何が?」

「昨日の放課後正門前で暴走族と喋ってたでしょ。それも結構堂々と、委員長なら関わらないと思ってたから」

 

 女子の言葉を聞いて思い出す。推定暴走族と喋ったが見られていたのか。見られた場合にマイナスイメージを持たれると思ったが、度胸があるとプラスのイメージを持ってくれたようだ。

 

「しかもイケメンだったし、連絡先聞いた?」

「いや」

「流石にそこまで肉食系じゃないか、それで何の話してたの?」

「人を探してたみたいです」

「誰探してたの?」

「同じ学年の芝原さんです」

「あの娘か」

 

 女子は僅かに眉を顰める。問題児と名高い芝原と学校関係者以外の者が関わるなんて碌な事ではないと想像しているのだろう。

 女子との会話を切り上げ自分の教室ではなく隣の教室に向かい中を窺う。頼み事は出来るだけ早く済ませたい。

 教室の後方にポニーテールでどこか制服の着こなしがだらしない女子がいる。記憶が正しければあれが芝原だ。

 

「芝原さん、ちょっといい?」

 

 教室の外から大き目な声で呼びかける。芝原は視線を向けるとこちらに向かって歩き始めた。

 

「何の用?」

「これを芝原さんに渡してくれと頼まれて」

 

 バッグに入っている教科書から封筒を取り出し渡す。芝原は訝しみながら封筒を手に取るが途端に笑顔を浮かべる。それは獰猛と呼べるようなものだった。

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