◆殺島飛露鬼
午後の昼下がり、天気は雲が一切ない快晴で絶好の出かけ日よりだと、駅前広場は多くの人が行きかい賑わっていた。
殺島は路肩にバイクを止めたシートに座り煙草を吹かしながら辺りを見渡す。明らかに地元の駅前より人が多い。それにファッションもどこかあか抜けている。やはり都市部に近いだけある。今日は全国統一に向けての遠征として都市部に近いS県に足を運んでいた。
周りの人々を見ている最中通行人と一瞬目が合うと即座に視線を外し足早に歩いていく。他の通行人も遠巻きに殺島を一瞥したあとに足早に移動する。
今の殺島は特攻服を身に纏っていた。こんな場所で特攻服は明らかに異質であり物珍しさと関わりたくないという感情が一連の行動に現れている。だがそうではないと判断した。
皆が目線に物珍しさはない、全てが恐れだ、ここ一端を縄張りにしている暴走族、この後に抗争する
前もって調べていたので相手チームの評判は知っているつもりだったが、現地に向かわなければ分からない情報もある。
今日の夜に仏陀地獄の集会場に乗り込む。いつも通り傘下に下るように伝え、従わなければ抗争開始だ。相手は武闘派で名が知れているので従うことはあり得ないだろう。
事前にマップアプリで下調べていたが実際に見て知れる情報もある。夜までに一帯を見て回る下調べが正しいか確認するのが前乗りした目的だった。
とりあえず仏陀地獄の集会場付近に行ってから、相手を追撃するパターンと此方が逃げるパターンの走行ルートで走ってみるか。エンジンを吹かしながらスマホのマップアプリを開く。するとエンジン音に負けない声量で呼びかけられる。
「テメエ!誰の許可とってそれ着てんだ!」
金髪やそり込みを入れた明らかにガラが悪そうなガキ共がガンを飛ばしながら近づいてくる。その数は5人、どう見ても一般人ではない。ここらへんのヤンキーか仏陀地獄のメンバーか関係者だろう。
「ん?
「そうだよ!ここらで着ていいのは仏陀地獄だけだボケ!帝リベごっこなら他所でやれや!」
剃り込みが有無を言わさず殴りにかかる。そのパンチを躱すと同時に相手の手首を握り締める。
「随分とご挨拶だな。
「テメエ!どこのチームの者だ!?」
「
「
金髪がスマホを取り出し操作しながら周りに画面を見せる、他の者が画面とこちらを見比べる。地元では顔が知られているが初めて来た土地の不良に知られているとは思わなかった。
だが少し考えれば当然であるのに気づく。こちらも遠征チームの情報やリーダーの顔をSNSで調べたりする。であれば自分の顔もSNSに載っていても不思議ではない。
「おう。それでテメエらは仏陀地獄のメンバーか?」
「そうだよ!テメエは何の用で来た!?」
「
「んなわけねえだろ!
「いやいや
「分かったぜ!仏陀地獄に戦争仕掛けにきたんだろう!」
その言葉に不良共は納得して一斉に襲い掛かる。偵察だけなら特攻服ではなく私服でも着ていたのだが、どうせ夜には抗争するし着替えるのがめんどくさいと特攻服を着たのが裏目に出た。特攻服を着ているとどうしても不良や暴走族に絡まれる。
私服を着ていたら面倒くさいと逃げるが特攻服を着ている今はその選択肢はない。特攻服はチームの看板だ、看板を背負って逃げれば噂になり覇威燕無礼棲は腰抜けと噂されてしまう。
金髪が右腕を振りかぶる間に間合いを詰め顔面に拳をぶち込み、横にいた剃りこみの腹にサイドキックを叩き込む。一息で2人を倒しながら値踏みする。こいつ等が仏陀地獄でどれぐらいの強さか分からないが、最底辺だとしても覇威燕無礼棲の下より弱い。
「襲撃だ!駅前の広場に来い!」
不良の1人がスマホを持ちながら叫ぶ。近くに仲間がいるのか、来られると面倒なので速攻で倒して逃げる。頭で算段を立てるが瞬く間に崩れる。
後ろの牛丼屋から5人、右の量販店から10人がこちらに向かって走ってくる。地元の駅前と云えど来るのが早すぎる。駅前に集合予定で時間でも潰していたのか?
相手のスピードを考えると、この場にいる3人をぶちのめしてバイクで逃げるより速く他の奴らがくる。こうなったら全員ぶちのめす。
そこからは来た不良を迎え撃つ。幸い最初に倒した奴らと似たり寄ったりの強さだったので倒すのは時間の問題だった。すると不良の数人が殺島ではなくバイクに向かっていく。それを見て殺島は目の色を変える。こいつらは勝てないと判断して嫌がらせに切り替えた。
バイクは暴走族のアイデンティティである存在、自分で整備し改造し多くの時間をともにする。その存在は家族で有り相棒になっていく。
殺島も覇威燕無礼棲を結成してからバイクを購入し乗り回し自分好みに改造していく。その過程で聖華天時代の愛車と同等の愛着を持ち始めていた。殺島にとって最も嫌な行為は仲間が傷つけられる。その次はバイクに何かされることだった。
同じ暴走族だからこそ分かる効果的な嫌がらせだ。何とか阻止しようと周りの者をぶちのめし阻止しようとするが、他の者達は示し合せたように足止めにかかる。これでは間に合わない。脳裏に愛車が傷つき破壊される映像が浮かび上がる。
「ぐわ!」
何者かがバイクに向かった暴走族2人に駆けつけると同時に顔面にドロップキックをかまし、暴走族2人は派手に吹き飛ぶ。殺島は思わず謎の男に視線を向ける。
黒髪のオールバックに犬のロゴがついたヤンキー風のスウェットを着ている。その男はすぐに起き上がり服に着いた汚れを落とすと、こちらに向かい暴走族を一撃で倒す。その威力に思わずひゅ~と口笛を吹く。どうやら加勢してくれるようだ。
それからは黒髪のオールバックと一緒に残りの暴走族を叩きのめした。
「助太刀
「ワリい、タバコ吸わねえんだ」
感謝の意味を込めてタバコを差し出すが黒髪はすまなさそうに笑みを浮かべながら拒否する。
「オレは殺島飛露鬼、アンタは?ここら辺の人間か?」
「難波
殺島は市竹という単語から情報を引き出す。確かこの地域で仏陀地獄と争っている高校だ。
「なんで助けてくれた?」
「喧嘩はタイマンが基本だろ。それなのにフクロにやってるのがムカついたから、まあ助太刀する必要もなかったみてえだけどな」
「ああ」
「それにあいつ等殺島じゃなくてバイクに向かって行った。それでピンときた。あいつらバイクを壊そうとしてるって。俺にもバイク乗ってる友達がいてよ。すっげえバイクを大切にしてさ。アンタのバイクも友達と同じぐらい大切にしているように見えて、もし友達が同じことされたらガチで悲しむと思って」
難波は屈託のない笑顔を見せながら語る。その理由は意外なものだった。仏陀地獄だから助太刀したと思っていたが多勢に無勢だからという理由なのは意外だった。
さらにバイクを傷つけようとしたからというのはもっと意外だった。そしてバイクを大切にしているのを分かってくれたのは少し嬉しい。
多勢に無勢だから、大切な物を傷つけられそうだから喧嘩する。まるでヤンキー漫画の主人公のようだ、その言葉に偽りはない。例えヤクザが相手でも助太刀し、少数側が仏陀地獄だったとしても助けるだろう。実に気持ちが良い男だ。
「ところでよ。1つ頼みがあるんだが、いいか?」
「何だ?」
「俺とタイマン張ってくれねえか?」
「理由は?」
「理由なんているか?強そうな奴がいれば喧嘩して勝ちたいだろ。まあ嫌ならいい、無理やり喧嘩する趣味はねえ」
「
殺島は二つ返事で了承する。強い奴と喧嘩して勝ちたい、実に不良らしい思考だ。喧嘩で一番になりたいという気持ちは無いが理解はできる。単車を守ってくれた礼として喧嘩につき合うのも悪くはない。
「そうこなくっちゃ」
「じゃあ今ここでやるのか?」
「いや、これだけ暴れれば警察が来るだろうし邪魔されたくねえ。喧嘩するのにうってつけの場所がある。歩きだと少し遠いからニケツして連れてってくれ」
「喧嘩する相手とニケツかよ」
殺島はシートに乗り後ろを親指で後ろを差す。これから喧嘩する相手に後ろを見せる。不意打ちされるかもしれない、走っている最中に何かをされるかもしれない、そう考えれば応じないし、相手もそう考えて提案しない。しかし難波は一切考慮せず提案してきた。本当に面白い男だ。
「その前に、おい俊樹!先帰ってろ!」
難波は後ろを振り向き声をかける。その視線の先には坊主頭の小学校高学年ぐらいの男がいた。
「やだ!俺も着いていく」
「何言ってんだ。さっさと帰れ」
「兄貴の喧嘩見てえよ」
「見世物じゃねえし遊びじゃねえ!帰れ!」
難波は弟に声を荒げる。その声色と迫力は小学生はもちろん普通の高校生でもビビり立ち去るものだ、だが弟は怯まずこちらに近づきながら喋る。
「オレはタメの女に負けた。もう負けねえように一番強い兄貴の喧嘩を見て学びてえんだ!」
難波の弟は切実に訴える。その言葉には並々ならぬ決意が感じられる。中々に気合が入っている小僧だ。きっと花奈が好きなタイプだ。すると難波がこちらに視線を向け無言で問いかける。
「こっちは
「ワリいな。それに1人で帰られねえ場合もあるしな」
難波は意味ありげに呟く。喧嘩には勝つがダメージが酷かったか時は弟にタクシーでも呼ばせて帰るという意味だ、自分が絶対に勝つという自信と喧嘩の高揚感に浮かれず、自分と相手の実力を見極め接戦になると判断する冷静さが窺える。
「じゃあ、行くか。
「おう、でも3ケツは違反だろ。やっぱり降りろ」
「今更そんなこと言うなよ兄貴」
「気にするな。
「だったら警察が来なそうな裏通りを案内するよ」
こうして難波兄弟を乗せてバイクを走らせる。気分は喧嘩というより仲間達とタンデムしているような気分だ。
◆佐山楓子
楓子は吹きつける風に心地よさを感じながら河川敷を自転車で移動する。バイクならもっと吹きつける風が強く心地良いのだろうなと想像しながら自宅に向かってペダルを漕ぐ。
バイクは是が非でも欲しいのだが貯金を含めても買えない。そもそもバイクを買える金を持っていれば、こうして漫画を買うために自転車を使って古本屋巡りなんぞしない。
であれば誰かのお古でも貰えればいいのだが、そんな譲り受けるコネもない。可能性があれば難波のコネだろう。難波の兄貴は界隈でも有数の不良校である市竹の顔役らしい、でも貰えるとしたら難波の次だろう。
「ん?あれは?」
楓子は前方の土手に目を凝らすとそこには難波がいた。声をかけようとしたが他の2名を見て思いとどまる。1人はヤンキー風ファッションの男、難波が話しかけている様子から見て難波の兄貴か、そしてもう1人は特攻服を着た男で難波の兄貴と同年代だろう。
背中には「覇威燕無礼棲」と書かれている。漢字が読めないが一帯を縄張りにしている仏陀地獄ではない。
すると難波が難波兄貴から離れて、難波兄貴と特攻服がお互いに構えを取る。これはもしかするとタイマンの喧嘩か?河川敷で喧嘩なんてヤンキー漫画みたいだ、それに難波から兄貴はメチャクチャ強いと聞いている。一度生で見てみたいと思っていたところだ。
楓子は全速力で立ち漕ぎし適当な場所に自転車を止めて土手に腰を下ろし観戦する。さあ心が熱くなるような喧嘩を見せてくれ。
2人はそれぞれ上を脱ぎ捨てると無造作に近づき間合いに入った瞬間に右のハイキックをかます。ド派手なファーストコンタクトに楓子は思わず「おぉ」と感嘆の声をあげる。一方兄貴と特攻服は左手で互いの蹴りを防御し、左手を見ながらニヤリと笑う。
漫画で言うなら心の声で「やるな」という吹き出しが出ているだろう。そのやり取りに楓子のテンションはさらに上がる。
挨拶は終わったとばかりに2人は踏み込み互いに向けて攻撃する。パンチやキックの速さや重さは遠目から見ても充分に伝わってくる。難波の兄貴は難波が自慢するだけはあり市竹の顔役なだけはある。そして特攻服もかなりの強さだ。
喧嘩が開始してから10分ぐらいが経過する。最初は形勢は互角だったが徐々に特攻服に傾いてくる。特攻服の攻撃が当たり兄貴の攻撃が当らなくなっている。
これは兄貴の負けか、難波も敗北の気配を察したのか必死に声援を送り、兄貴がその声援に応えるように吠える。それに特攻服は構わないとばかりに顔面に叩き込む。あれは会心の一撃だ、脳裏に兄貴が大の字になる姿が浮かび上がるが予想に反し倒れるどころかパンチを食らいながら殴り返していた。
特攻服は驚いた様子を見せながら再び殴り、兄貴は殴られながら殴り返す。
蹴られれば喰らいながら蹴り返す。攻撃が当らなければ相手の攻撃が喰らいながら殴ればいい、攻撃が当った瞬間は防御が疎かになりやすいから確かに当たる。分類すればカウンターなのだろうがあまりにも不格好すぎる、まさに肉を切らして骨を断つだ。楓子は無意識に両手を握り締める。
「こいや殺島!」
兄貴が己を鼓舞するように吠え特攻服は一瞬たじろぐ。攻撃したら同等の攻撃を貰ってしまう。それはちょっとした恐怖だ、それにあれだけ攻撃を当てたのに倒れるどころか相打ちのようなカウンターをしてくるとは何て根性だ、もはやゾンビだ。
その躊躇を見て今度は兄貴から仕掛けパンチが顔面に突き刺さる。だが特攻服は兄貴と同じように殴られながら殴る。
兄貴と同じ戦法をとりやがった。喧嘩上手でスマートな印象を特攻服に持っていたがこんな不格好な戦いをするとは思わなかった。楓子は思わず立ち上がり声を挙げた。
その後はお互い防御せずに攻撃を受け、攻撃を返す。攻撃10割で全弾フルスイング、それはスケールが違うにせよ難波とやった理想の喧嘩だった。
そんなノーガードの打ち合いが十数発続けられ決着が訪れる。特攻服の右フックに兄貴は崩れ落ちて5秒10秒経っても立ち上がらない。難波は兄貴に駆け寄りひたすら声をかける。一方特攻服は勝利を確信したのか脱ぎ捨てた上着を拾おうと歩き始める。
「待てや!今度はオレが相手だ!」
その声に特攻服は足を止め楓子も思わず駆け寄る。無理だ、難波が勝てるわけが無い。特攻服は一瞬驚いた顔を見せるが兄貴と喧嘩していた時と同じような真剣な表情を浮かべ構える。
それを見て難波は叫びながら走り前方に跳躍しながら全体重を乗せて特攻服を殴る。その拳は特攻服の頬に突き刺さり難波は勢いそのままに地面に倒れこんだ。難波は倒れたまま後ろ振り向く、そこにはピンピンしている特攻服が見下ろしていた。
難波の顔は恐怖で歪む。これからどうなるか理解してしまったのだろう。それでも恐怖を押し殺し立ち上がり構えを取る。
それを見て特攻服は満足げな表情を浮かべると同時に殴る。難波の体は宙に舞い人間はこんな風に吹き飛ぶのかと、どうでもいい事を浮かべながら難波の元に駆け寄る。
「おい、難波!しっかりしろ!」
難波の頬をペシペシと叩くが反応がない、完全にのされている。まさにワンパンKOだ。
「嬢ちゃんは何者だ?」
特攻服は不思議そうに尋ねる。相手からしたら全く予想外の人物が乱入してきたのだから当然の反応だ。そして楓子は特攻服に視線を向けて拳を構える。
「まさか喧嘩するってのか?やめておいた方がいい、
「ダチがぶちのめされてイモ引く奴がいるかよ!」
「そうか」
殺島は難波に向けたような真剣な表情を浮かべ構える。それは今まで喧嘩した誰よりも威圧感があり怖く、難波が吹き飛ばされる映像が再生される。難波はこいつ相手に立ち向かったのか、スゲエ根性だと内心で褒める。
「アタシは市川第5小学校5年、佐山楓子だ。アンタは?」
「覇威燕無礼棲副リーダー、殺島飛露鬼。こいよ楓子」
殺島の手招きに応じるように楓子は全力で走りだし勢いそのままに飛び膝蹴りを顎に叩き込む。膝が直撃するが殺島は微動だにしなかった。そして地面につくと同時に殺島の拳が迫り意識が途絶えた。
◆殺島飛露鬼
「おい
難波との喧嘩を終え、仏陀地獄の集会場に向かうために覇威燕無礼棲のメンバーと合流した矢先に花奈に尋ねられた。
「喧嘩だよ」
「もちろん勝ったよな?」
「
「当然だろ、覇威燕無礼棲の看板背負って負けるのは許されねえ、それにしても結構やられたな、強かったかのか?」
「今まででベスト10には入るな。それに良い喧嘩だった。あんな気持ち良い喧嘩は久しぶりだ」
顎に手でさすりながら笑みを浮かべて答える。強敵だった。パンチを食らうたびに意識が飛びそうになり、攻撃を受ける度に殴り返す根性には驚いた。今でも頭がクラクラする。
本来の喧嘩スタイルならここまでダメージを受けずにすむのだが、難波の熱に当てられノーガードの殴り合いに興じてしまった。無駄にダメージを負ってしまったが実に気持ち良い喧嘩だった。こんな喧嘩は久しぶりだ。
そして難波の弟と佐山楓子、本来なら女子供を殴る趣味は無いが、兄や友達のために恐怖を押し殺し挑む姿は立派な不良だった。
そんな相手をなあなあに対応するのは失礼であり、1人の不良として喧嘩を買い倒した。流石に全力で殴らなかったが小学生を相手にするにはやり過ぎなぐらいな力で殴った。あれは将来立派な不良になるだろう。
「よし全員揃ったな。いつも通りにするつもりだが、抗争になるのは確実だ。気合い入れろ!」
「押忍!」
花奈の言葉にメンバー達のテンションは一気に上がる。相手である仏陀地獄はS県を傘下に収めているメンバーの数も質も今まで相手したなかで屈指と言われ、底辺の質は上でも油断できない。それでも花奈の言葉や仕草の1つ1つが恐怖心を拭い去らせ、絶対無敵の感覚を植え付ける。
覇威燕無礼棲は地元で暴走するかのように国道を走り仏陀地獄の根城に向かう。そこは廃園になった遊園地で数年経っても一向に新しい建物が建設されないのをいいことに、勝手に居座っているそうだ。
数十分ほど走り辺りの木々が目に付くようになってから暫くして目的地にたどり着き園内に入場する。辺りにはメリーゴーランドなどのかつての遊具があり、碌に整備されてないせいで馬の塗装が剥がれるなど完全に劣化し、当然ライトアップなどされておらず、不気味な雰囲気を醸し出している。
それから暫く進み園内の真ん中にある広場で仏陀地獄の総長を含め幹部たちが待ち構えていた。
「おう、N県のド田舎からはるばるご苦労」
「前置きはいい。こっちが提示する条件は1つ。仏陀地獄は覇威燕無礼棲の傘下に入れ、傘下に入れって言っても地元では今まで通り走って良い。その代わり招集をかければ何が何でも来い。これだけだ。YESかNOどっちだ?」
「YESと言うと思ったか?」
その言葉に園内に潜んでいた仏陀地獄のメンバーが雄叫びをあげながら襲い掛かる。ぱっと見でも500や600じゃきかない、4000、いや5000は居るかもしれない。
予想以上にメンバーを集めているようだ、交渉の場を作ると見せかけてホームグランドで覇威燕無礼棲を潰しに来た。こちらの人数はおよそ1000人、だが誰一人負けるイメージは持っていない。
「だろうと思ったぜ。やるぞ!」
その言葉にメンバーのテンションは一気に最高潮になる。こうして覇威燕無礼棲と仏陀地獄の抗争が始まった。
抗争は人数差がありながらも覇威燕無礼棲が優勢だった。花奈とガンマとデルタの四天王3人が極道技巧を駆使し、末端メンバーや幹部クラスを次々となぎ倒していく。
そして相手はヤクザか半グレか入手した拳銃などを武装していたが、殺島の極道技巧
抗争開始から1時間を過ぎて花奈が相手の総長を半殺しにして戦いは覇威燕無礼棲の勝利で終わる。
◆◆◆
「今頃楽しんでるんだろうな」
殺島は遠くから聞こえるエンジン音に耳を澄ましながら側道を走る。抗争に勝利した後はその場所で勝利祝いとして暴走するのが覇威燕無礼棲の習わしになっている。だが殺島はそれに参加せずに1人家路に向かっていた。
昼頃に難波と喧嘩したダメージが予想以上に尾を引いていた。これでは祝勝の暴走で事故るかもしれない。そうなれば興ざめである。それを説明すると花奈は「仕方がねえ奴」だと欠席を認めてくれた。
これでS県は手中に収めた。あとは態勢を整えてこの国最大都市であるT都に乗り込み日本でも屈指のチーム達にに挑む。正直不安はない。自分を含めて極道技巧を使える者が4人もいる。それに元々のメンバーも平均より大分強いので何とかなるだろう。
この後の展望を考えてながら側道に入る。仏陀地獄の本拠地に向かう時は大集団なので国道を通ったが1人であれば通れるので大幅なショートカットしながら、N県に向かう国道に入れる。
辺りは住宅街で国道付近に比べると驚くほど静かだ。暫く進むと車道に人が仁王立ちしていた。まるで逃げる様子がない、避けるのが癪なのでそのまま進む。このまま進めば間違いなく轢かれるので道を譲るだろう。
近づくごとに仁王立ちしている人物の詳細が分かってくる。黒のロングヘアーに黒の服を着ており、詳しくは分からないがゴシックロリータ的な服装だ。背中には蝙蝠のような羽をつけ、頭には白いヤギの面をつけている。
まるで何かの仮装パーティーに出席した帰りのような格好だった。何より驚いたのがその容姿だ。見事に整っておりモデル顔負け─前の人生を含めてもベスト5に入る─美女だ。
その美女との距離が10メートルに迫ると突如バイクが止まった。ブレーキは踏んでいない。では何故だ?
その原因は単純だった。美女がバイクを正面から受け止め動きを強引に止めていた。動きがまるで見えなかった。腕力もそうだが動きの速さが人間離れしており脳裏にかつての怨敵である忍者の姿が浮かび上がる。
「おい、面かせや」