暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第3話 ハイエンプレス・ゴー

出田武琉須(でだ ぶるす)

 

 人はこんなにもあっさりと堕ちるものなのか。出田は校舎裏の壁に背を預けタバコを咥えながら、過去を振り返っていた。

 

 出田の両親は3か月前に死んだ。それまでは至って健康だったが流行りのウイルスか何かで発症してから坂から転げ落ちるように容体が悪化して、1週間後に息を引き取った。

 その1週間はあまりの急展開に気持ちの整理がつかず、まるで現実ではないようだった。だが両親が死体に触れた冷たさが出田を現実に引き戻す。生前は温もりを感じたその体は冷えた鉄のように冷たかった。その瞬間両親の死を理解した。

 その晩はずっと泣いた。両親を失った悲しみ、今後の人生の不安、様々な悲しみや不安が襲い掛かり泣いても泣いても拭いきれなかった。葬式が終わり家に引きこもり始めてから一週間が経ち、重い体を引きずるように学校に向かった。

 出田は幼い頃から相撲をやっていた。元々体格も大きく、高校1年の現在では身長は190cmを超え、体重も100kg以上という恵まれた体もあって、相撲の名門校であるS高校に進学した。

 両親も将来は大相撲で関取になれればいいと応援してくれた。両親のために関取になりたい。何より相撲が好きで無心で稽古に打ち込めば両親を失った悲しみを忘れさせてくれる。その日から部活動に勤しんだ。

 1日稽古をサボれば取り戻すのに3日かかる。1週間休んだので取り返すのに約一ヶ月掛かる。出田は遅れを取り戻すために他の部員が心配になるほど稽古を積んだ。そして出田は相撲を失った。

 

 結果的には運が悪かったとしか言いようがなかった。

 イザコザに巻き込まれて、少しだけ力を入れて相手を押してしまい、周りに物が散乱していたせいで相手はバランスを崩して転倒し怪我をして、その相手が権力者の息子で学校側に大きく圧力をかけ、その結果停学と退部処分を下された。

 どれかの要因が1つでも欠けていれば相撲は取れていた。だが結果はもう相撲が取れなくなった。その日から出田の魂は死んだ。

 起きて、学校に行って、帰って、寝ての繰り返しの日々、今が何日なのかすらよく覚えていない。決められた行動をする生きる屍のようだ。だが辛さと退屈さは日に日に増していく。

 出田はタバコに火をつけてむせる。今タバコを吸っているのも繰り返しの日々のなかで、久しぶりに自分で決めた行動だ。別にタバコを吸いたいわけではないがここまで堕ちてしまったなら、不良にでもなってみるかという気まぐれでやっているにすぎない。

 

「よっ…! 調子(チョーシ)どうよ?出田」

 

 すると誰かが声をかけてきた。あれは確か同じ学年の殺島だ、調子がいいわけないだろう。出田は敵意を露わにするが友人に会うように手を上げ軽薄そうな笑みを浮かべながら近づき隣に座る。

 

「それは初心者(トーシロー)が吸わないほうがいい。もっと軽度(ヌル)いやつにしたほうがいいぞ」

「何で分かる?」

「吸い方とか火の付け方とか色々だ」

「お前は素人じゃないのか?」

「おう、かなりの玄人(ベテラン)だぜ」

 

 殺島はポケットから煙草とライターを取り出し吸い始める。その手つきは淀みなく馴れた動作だった。

 

「しかし良い(がたい)だな。身長いくつよ?」

「195」

巨大(でけ)え~。しかも骨太(ふて)え、良い体に生んでくれた両親に感謝(サンキュ)だな」

「ああ」

 

 出田は僅かに微笑む。親のことを思い出されるのは複雑だが、それでも親を褒めてくれたようで嬉しかった。それから暫く雑談をした。といっても殺島が一方的に喋っているだけだったが。

 クラスは違い詳しくは知らなかったが、今まで持っていたイメージとは随分と違っていた。美形で普通な奴、それが殺島に対するイメージだった。

 だが殺島には高校生にはない色気と懐の深さや危うさ等の何かを感じた。それらは出田にとって悪いものではなく、殺島に対して無意識に好感を抱いていた。

 

「ところで出田、暴走族(ゾク)やんねー?」

「暴走族?」

 

 出田は思わぬ単語にオウム返しする。暴走族なんて昔のもので今はとっくに無くなったのではないのか?

 

「聞こえるぜ、悲しい、ツレエ、退屈だって声が、昔のオレだ」

 

  出田は驚きで体をビクっと震わせる。両親が死んで相撲を失って、悲しくて辛くて退屈。まさに今の心境そのものだ。

 

「聞いたぜ父親(おやじさん)母親(おふくろさん)が死んで、相撲部を退部したって?分かるぜその気持ち。オレも中学生(ちゅうぼう)の時に(かあ)ちゃんが死んでさ、悲しくてつらかった。でもバイクで暴走したら悲しさがスカッと晴れたんだよ」

 

 殺島はニカっと笑う。その笑みには不思議な説得力があった。

 

「出島にとっては相撲が一番なのかもしんねえ。でもバイクで暴走するのも中々にたまんねえぜ。相撲を失った穴を全て埋めれらんねえかもしれねえけど、結構埋めてくれるぜ」

「そうなのか?」

「そうそう。一度ぐらい体験(やって)みるもの悪くねえ、それに今なら単車を買ってやるよ」

「わかった。試しに参加してやる。だが入ると決めたわけではないからな」

 

 出田が首を縦に振ると殺島は嬉しそうに肩に手を回して喜ぶ。その笑顔に釣られたのか同じように笑みをこぼしていた。

 お互いの連絡先を交換し集合場所を教えてもらうとその後は放課後まで雑談しながら過ごし、家に帰った。

 

 相撲を辞めた後は暴走族か。出田は思わぬことになったと1人笑みをこぼす。

 殺島は相撲が一番なのかもしれないと肯定してくれた。こういう勧誘は熱が入りすぎるせいか、バイクで走るのが一番で他はダメと言ってしまう傾向があるが、相撲をリスペクトしてくれた。それは出田にとって嬉しかった。

 だがそれだけでは参加しなかった。バイクで走ることに現時点ではそこまで魅力を感じてない。参加したのは殺島が誘ってくれたからだ。

 

───オレと花奈が…いい暴走(ユメ)魅せてやるよ

 

 その言葉が強く心に刻みつけられていた。

 殺島、そして殺島がリーダーと認めた花奈と呼ばれる女性。その二人が見せてくれる夢、それは両親を失い相撲を失った悲しさや辛さや退屈さを晴らしてくれるかもしれない。出田は二人に救いを求めていた。

 

◆殺島飛露鬼 

 

 時刻は23時、普段なら誰も居ない第七港湾倉庫前だがそこには人が4人居た。

 

「アタシが生島花奈こと暴走族女神(ゾクメガミ)だ!よろしく!」

「オレが殺島飛露鬼こと暴走族王(ゾクキング)、よろしく」

 

 花奈と殺島は2人に向かって挨拶する。暴走族王(ゾクキング)というあだ名。自分で名乗ったがまだしっくりこない。まあそのうち馴れるだろう。

 一方2人は突然の名乗りに戸惑っている。いきなりあだ名を名乗られても困るだろう。花奈はそんなことを気にせず嬉しそうに名乗っていた。

 

「でこれが完間翔子(カンマショウコ)。完間だからガンマと呼ぶからな」

「まあいいよ、よろしく」

 

 ガンマは軽く会釈する。花奈からメンバーを1人スカウトしたと聞いていたが面と向かって会うのは初めてだ。

 身長は170cmぐらいでかなりの美人でスタイルも良い、黒髪の長い二つの三つ編みで大人しい感じでとても暴走族に参加しそうなタイプには見えない。だが辛さや退屈さを抱えている者特有の雰囲気があり、参加したのも納得できる。

 

「でオレがスカウトした出田」

「出田武琉須、よろしく」

「よろしくなデルタ!アタシが最高のユメを魅せてやる!」

 

 花奈は満面の笑みを浮かべながら出田の胸を叩く。参加してくれたことがよほど嬉しかったのだろう。しかし出田だからデルタか。出田も言葉の意味を理解したようで特に反論しなかった。

 

「言う通りやったらガンマが参加してくれた。サンキュウな」

 

 花奈は2人に気づかれないような小声で少し恥ずかしそうに言う。

 チームを作るにあたってメンバーが必要だ。殺島の人柄とカリスマがあればそれなりのメンバーが集まるだろう。だがそれでは殺島のチームになり、花奈は肩身が狭くなり自分のチームではなくなる。それでは意味がない。

 聖華天の総長時代や極道時代で培った経験や人との接し方などメンバーを集めるに必要な技術を花奈に伝えた。花奈は孤独な者で人との交流する機会が乏しかったので、メンバーを勧誘できるか不安だったが、早速効果があったようだ。

 

「それであれは持ってきたか!?」

 

 花奈は先程の雰囲気とは一気に変わり目を輝かせて聞いてくる。殺島は無言で頷き持ってきたバッグから物を取り出して投げ渡した。それを受け取ってさらに目を輝かせる。

 特攻服、それは暴走族の正装のようなものだ。前に居たチームでも特攻服を着ていたが、自分で作ったチームの特攻服であれば格別だろう。

 白の特攻服で背中には覇威燕無礼棲と漢字で刺繍されており、他のスペースには『御意見無用』『天上天下唯我独尊』『国士無双』など漢字が刺繍されている。裏地は虎柄の生地が使われている。

 殺島は自分の特攻服を見つめる。聖華天時代と同じ裏地がヒョウ柄で白の特攻服、そして背中には覇威燕無礼棲の刺繍。もう聖華天ではないのだなと改めて実感していた。

 

「ガンマとデルタ、安心しろ、2人の分もあるからな」

 

 殺島はそれぞれに特攻服を渡す。デルタは相撲をイメージして覇威燕無礼棲の文字は相撲で使われている書体にしており、裏地も好きな力士をさり気なく聞き、化粧まわしと同じデザインにしてもらった。

 ガンマは好きな花は水仙という情報を花奈から聞いて裏地を水仙のデザインのイラストを入れた。

 

醜悪(ダセえ)と思ったら作り直すから、どうよ?」

「ハハッ。悪くない」

「いい」

 

 ガンマもデルタもデザインが気に入ったようで、満更でもないと言った表情をしている。4人は特攻服に着替え、一足早く着替え終わった殺島と花奈が今日の打ち合わせをする。

 

「今日はどうする?デルタとガンマのバイクは用意したけど、初心者(トーシロー)だし。オレ達と2人乗り(ニケツ)初心者(ヌル)コースにするか」

「ダメだ。それじゃあ走りの楽しさが味わえない。バイクは走ってなんぼだろ」

「たしかにそうだけどよ」

「アタシが教える。ガンマ!デルタ!こっち来い!」

 

 花奈は2人を呼ぶとバイクの乗り方を教え始めた。

 暴走族が律義に教習所に通うわけがなく、自転車の乗り方を覚えるように勝手に道路を走り覚えた。それでも時間はそれなりに掛かる。だがレクチャーは1時間程度で終わり、2人は普通に乗りこなしていた。

 聖華天のメンバーでもずぶの素人状態からここまで早く乗りこなせるものはいない。それは驚くべき結果だった。

 

驚嘆(ぱね)エなあの2人、あんな才能があるだなんて見抜けなかった。花奈は見抜いてたのか?」

「そうなのか?アタシも素人の状態から2時間ぐらいであれぐらい乗れたし、教える奴がいれば1時間ぐらいで覚えるだろ。まあ先生が優秀だしな」

 

 花奈は自信満々に胸を張る。教える人間が優れていれば習得時間も短縮できるだろう、それでも理屈が合わない。

 

「まあ1人で走っている間こういう日を想像して、素人に教える時の練習してたんだけどな」

 

 花奈は噛みしめるように呟く。その言葉を聞いて殺島はある仮説を立てる。

 

極道技巧(ごくどうスキル)

 

 殺島が居た世界では極道技巧と呼ばれる技術を持つ人間が居た。

 銃を構えた状態の相手より速く抜き打ちできる者、銃弾より速く居合切りができる者、パンチで護送車を吹き飛ばせる者、刀でパトカーを両断できる者、バット一本で人間の首を飛ばし、身体を数10メートル飛ばせる者。

 常識ではあり得ないことだが、極道技巧を持つ者は実行できる。そして殺島も極道技巧の持ち主である。これなら一応は理屈があう。

 

「この歳で極道スキルを習得してるだなんて本当に驚嘆(パネ)エな。」

 

 殺島は思わず呟く。花奈は仲間と出会えず孤独に耐えながら走り続けるなか、もし興味を持ったものがバイクの運転できないからチームに入らないという事態を避けるために、シミュレーションし続けた。それが極道技巧となった。改めて花奈の仲間と走りたいという情念を知ることになった。

 

「極道スキル、何だそりゃ?それにアタシは族であってヤクザじゃねえ」

「別に極道はヤクザだけじゃねえよ、極めた技術を持つ者は全員極道だ。暴走族女神の技巧、名づけるなら極道技巧『女神の神託(カミの教え)』だな」

「女神の神託、中々カッコイイな。暴走族王も何か技巧を持ってるのか?」

「まあな」

「見せてくれよ」

「そのうちな」

 

 殺島の言葉に花奈は不満そうな態度を見せる。このスキルは見せる時はこのまま暴走を続ければいずれ披露することになる。その時に見せればよい。

 

「それより出発(デッパツ)の号令しようぜ、リーダー号令よろしく」

「おう」

 

 花奈はガンマとデルタを呼ぶと小さく咳払いして、息を吸い込む。大声で高らかに誇らしく満面の笑みを浮かべながら叫んだ。

 

 

「暴走族王!ガンマ!デルタ!これがチームの初陣だ!ビッと気合い入れろやァァァァ!!!覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)出発だ!(デッパツ)

 

 

◆ガンマ

 

 完間翔子は色々なことに鈍感だった。喜怒哀楽を感じられず感情も乏しかった。

 何をしても刺激を受けることがなく空虚だった。そんな日々を脱却するために刺激を求め色々な事を試し行きついたのが売春行為だった。

 性行為は刺激が多く金も稼げる。まさに一石二鳥だ。実際今までよりマシ程度の刺激があり、実入りも高校生にとって十分すぎるものだった。

 刺激を求めるなら別の事があったかもしれない。だが売春を選んだ。母親もだらしがない女でいつも家におらず男のところに行き、家に帰ったと思ったら男を連れてきた。カエルの子はカエルか、そう自嘲しながらも売春を行った。それから暫くして売春の帰り道に花奈と出会った

 

「お前昔のアタシみたいな目してんな。辛くて退屈で孤独が辛いって言ってる」

 

 辛い、退屈、孤独

 

 人とは違う感性を持っていて辛い。楽しさや刺激を感じられず退屈、自分の心境を理解してもらえず孤独だ。まさに今の心境だ。それを思い出さないように心の奥底に隠していた。だが目の前の女は即座に見抜いた。

 

「それだったら、暴走族やろうぜ!」

「暴走族って、あのバイクに乗って騒ぐ?」

「その暴走族だ!皆で暴走するのは楽しいぞきっと!これを知らないなんて人生の10割を損してるぞ!たぶん!」

 

 そう言うと女は暴走族の楽しさについて語り始めた。初対面の人間にいきなり好きな事を語り始める無遠慮さと無配慮さ、それに人生を10割損しているというのが頭が悪い。それではそれをしない全ての人間が人生を損しているではないか、そんなものは存在しない。

 さらに10割と言いながら、きっとや多分など実体験ではなく想像で話している。想像なのに何故そんな断言できる?

 そして頭の悪さは語彙にも出ており、スゲエなどヤベーなど小学生みたいだ。相手に興味を惹かせようとする話術が何一つない。ただ自分の気持ちを伝えるだけの子供みたいなプレゼンだ。

 だが何故か興味が惹かれる。自分の気持ちを伝えるだけの拙いプレゼンが鈍感な心を揺れ動かしている。ガンマは動揺を覚えると供に期待感を募らせていた。

 

「いいよ。試しで参加してあげる」

「マジか! サンキュな!アタシと殺島が…いいユメ魅せてやるよ 」

 

 すると女は嬉しさを隠す様子もなく抱き着いた。それが生島花奈との出会いだった。

 

 暴走族4人がN市内を駆け巡る。俱辺ヶ浜を周り北宿、中宿、城南地区と人が多い場所を爆走する。

 法定速度を優に超えるスピードで走り、信号を無視して周囲の車やバイクを急停止させ、歩行者を轢く寸前で躱し恐怖を味合わせ、意図的に大きなエンジン音を轟かせ周囲の喧騒を黙らせる。

 まさにフィクションで見た暴走族だ。それが現実に存在して、さらにその一員をやっているとは数か月前の自分は全く想像していないだろう。

 

 花奈と殺島が先導してガンマとデルタが後を付いて行く。一歩間違えれば事故になるスピードとコース取りだ。バイクに乗ってから1時間の人間が走るルートではない。だが不安も無い。

 花奈の背中はどのように走ればいいか教えてくれるようで、自分の思い通りにバイクが動きルートを辿っていく。素人がこんなに上手く操縦できるなんて、実はバイクを操縦する才能があるのかもしれない。

 

 ガンマは花奈と殺島の後ろに付いて行きながら暴走族について分析する。危険な走りをすることで命を意図的に脅かせ、その際に出る脳内物質による快感、威嚇行為で周囲の人間を慄く様子を見る優越感、この2つの要因が暴走族が楽しいという理由か。

 だがそれらはガンマが試した事だ。今まで命を危険に晒した事も有ったし、暴力で恐怖を与え優越感を感じようとした事もあった。しかしそれらは心を動かさなかった。だが今は心が動き楽しいとすら思っている。理屈が合わない。

 

「オラオラ! 退け退け! 覇威燕無礼棲のお通りだ!」

 

 花奈はエンジン音に負けないような大声をあげながら走る。本当に楽しそうだ。こんなに楽しそうな人間は見たことない。花奈に影響を受けて楽しいと思っているのか?

 並走するデルタを見ると偶然目が合う。デルタも同様の感情を抱いているのがすぐに分かった。

 先頭を走っていた花奈と殺島が突如ブレーキを踏みUターンし道路脇のコンビニに向かって行き、バイクを止めると駐車スペースにたむろしている大学生らしき男性4人に向かって全力で走っていき跳び蹴りをかました。殺島も足裏を押し出すような蹴りで大学生を蹴り飛ばす。突然の凶行に大学生は反応できず瞬く間に倒されていた。

 

「ガンマ! デルタ! やっちまえよ!」

 

 花奈と殺島は男2人を羽交い絞めにしながら指示を出す。

 この男性に暴行を加える理由は何一つない。だが暴走行為で犯罪行為を重ねているせいでタガが外れたのか、今更暴行行為しても些細な事のように思えてきた。

 するとデルタは男の胸に張り手を放ち、羽交い絞めしていた殺島と一緒に吹っ飛んだ。それを見て花奈は大笑いしている。

 ガンマも釣られるように笑うと全力で男の頬にビンタをかました。花奈は痛そ~と他人事のような感想を呟きながら満足げな表情を浮かべ、男を投げ捨てるとバイクに向かって走り出し発進する。殺島とデルタとガンマもバイクに向かって走り出した。

 

◆生島花奈

 

「くぅ~! やっぱり暴走は最高だな!」

 

 花奈達は出発地点の第七港湾倉庫前に戻り、車座に座りながら買ってきた酒やたばこを嗜む。

 大音量でエンジンを吹かし三連ホーンを鳴らし、道交法を無視して人が居ようが居まいが関係なく好き勝手走り、喧嘩する。これが暴走族だ、燕無礼棲みたいなシャバいチームとは違う!

 

「ガンマ! デルタ! どうよ暴走は?」

 

 花奈はガンマの肩に腕を回しながら顔を覗き込むよ。

 

「正直、楽しくないし心が動かされないと思った。でも何か楽しかった。これからよろしく生島、いや暴走族女神」

「おう! よろしくなガンマ!」

 

 花奈は拳を突き出しガンマに拳を合わせるように顎で促し、拳を合わせる。リーダーらしく冷静を装っているが嬉しさを隠しきれていなかった。

 

「デルタはどうよ?」

 

 デルタの方を振り向くと話が振られるのを予想していたのか、気持ちを整理するように息を深く吸い込み喋り始める。

 

「オレも気まぐれ来ただけだった。ルールを無視して人を殴る。昔の俺なら楽しめなかったけど、今日は楽しかった。これなら悲しみと辛さが紛れそうだ。これからも良いユメ魅させてくれよ。暴走族女神、暴走族王」

 

 デルタは両手の拳を突き出す。花奈と殺島は応じるように拳を合わせた。

 

「そういえば何で大学生っぽいのに喧嘩売った?」

 

 デルタが徐に花奈に質問を投げかける。ガンマも疑問に思っていたようで花奈の方を振り向くように姿勢を変え答えを待つ。

 

「ああ、あの野郎たちがアタシ達を見て笑ったから」

 

 あれは明らかに自分達をバカにして笑っていた。笑われるとは舐められるということだ。舐められたらシメるのが暴走族だ。それに笑われたのを見られたらさらに舐められる。シメる以外選択肢は無い。

 だがガンマとデルタは今一つ理解していないようだ。まあ、暴走族初心者には分からないかもしれない。次第に分かるだろう。

 

「殺島……じゃなくて暴走族王も見えていたの?」

「まあな、舐められた、ムカつく、ヤキ入れる。これが暴走族だ。暴走族女神はすぐに気づいたのは流石だ」

 

 殺島は空を仰ぎながらタバコの煙を吐く。同じ考えなのもそうだが、褒められたのは少しだけ嬉しい。

 しばらく駄弁った後は自然と流れ解散になり、花奈と殺島がガンマとデルタを後ろに乗せて近くまで運ぶ。デルタやガンマはバイクを乗り始めてから1日目の素人だ。さすがに自分や殺島ならともかく飲酒運転はまだ危ない。2人を送ると花奈と殺島は並走しながら帰路に向かう。

 

「ガンマとデルタが入ってよかったな」

「当然だろ! 暴走は楽しいんだから入るに決まっている!」

 

 花奈は大声で胸を張って答える。今の言葉は虚勢だった。本当は入ってくれるかどうか不安で仕方がなく、思わず本音をこぼしそうになったがグッと堪える。

 殺島は信頼できる仲間であり、弱音を吐ける数少ない相手だ。だが暴走族は見栄を張る生き物だ。ここで弱気を見せるなんてダサい真似はできない。

 

「じゃあな」

「おう」

 

 分かれ道で花奈と殺島は左右に分かれて走り出す。花奈は殺島が視界から消えたのを確認し大声で叫ぶ。

 

「楽しかった~! 暴走最高!」

 

 誰も居ない道路に花奈の声が木霊する。ずっと想像していた皆での暴走、その楽しさは想像より遥かに楽しかった。

 同じ考えのものが集まって行動するのがこんなに楽しいだなんて、これこそが長年求めてものだ。もっともっと仲間を集めて暴走する。そうすれば楽しみは何倍にもなるはずだ。今日の暴走の幸福感を何度も思い出しながら家路に向かった。

 

◆殺島飛露鬼

 

明瞭(もろバレ)だな」

 

 殺島は花奈の様子を思い出しながら笑みをこぼす。デルタとガンマがチームに入ってくれるか不安だった。それでもリーダーとしての見栄で強気な姿を見せていた。暴走族という人種を知り尽くしている殺島にとって花奈の心境を理解するのは容易いことだった。それぬきにしても花奈の感情を分かりやすかった。

 ガンマとデルタがチームに入るかどうか、それは殺島にとってもどちらに転ぶかは分からなかった。だが結果的に2人は入ってくれた。

 この結果は花奈の力が大きかった。花奈は人の心を惹きつけるカリスマのようなものがある。純粋に暴走を楽しむ姿が2人を魅了し入団を後押しした。自分ではこうはならなかったかもしれない。

 4人だけの規模の小ささ、精神年齢は39歳、正直に言えば心の底からは暴走は楽しめないと思っていた。だが今日の暴走で黄金時代の高揚感と楽しさを感じていた。きっと花奈のおかげだろう。

 花奈、殺島、ガンマ、デルタ。奇しくも聖華天の創設メンバーと同じ人数だ。今日の暴走は初めての暴走を思い出せた。

 聖華天は構成員10万人の組織になった。今の時代の流れを考えればそこまでの人数は集まらないだろう。

 だが花奈というカリスマが居ればそれなりの人数が集まるかもしれない。大人数での暴走、抗争相手や警察達との激突。黄金時代を思い出し殺島は年甲斐もなく高揚感を覚えていた。

 

◆◆◆

 

「ねえねえ、昨日暴走族が出たらしいよ」

 

バスの中で3人の女子中学生のうち1人が思い出したように喋り始める。

 

「暴走族ってブンブンブブン!って数字言うやつ」

「懐かしい~。ってそれはバラエティのやつ。あんな感じの格好してパラリラパラリラーって音鳴らしながらバイクで走るんだよ」

「それの何が楽しいの?」

「わからん。でも昔はやばかったって親が言ってた。ここも治安悪くなったな~魔法少女がいれば安心なんだけど」

「スミはまだそんなこと言ってんの。例のまとめサイトでも少なくなってるんでしょ」

「魔法少女は居るって、ねえ小雪」

「魔法少女は……いるよ」

 

 小雪と呼ばれたショートカットの少女は若干重苦しさをはらんだ声で答える。2人はいつもと違う様子に首をかしげる。答えは同じなのだが声色や表情は浮ついたというか夢見る少女という感じなのだが、今の様子は少し悲痛さすらある。一方小雪は2人の心配をよそに真剣な顔で車窓の景色を見つめる。

 するとバスが急停止し小雪は吊革に捕まっていたが左に体勢を崩し倒し、隣に居た乗客に当ってしまう。

 

「すみません」

 

 小雪は茶髪でそばかすの女性に謝罪し、女性は気にしないでと軽く会釈した。

 

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