暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第30話 デビリッシュ・ウーマン

 

♢メピス・フェレス

 

 佐山楓子改め魔法少女メピス・フェレスは非常に不機嫌である。

 昼過ぎまでは最高の気分だった。血沸き肉躍るような喧嘩を生で見られた。相手の想いを受け止めるようにノーガードの打ち合いで難波の兄貴に勝った特攻服改め殺島、その喧嘩ぶりは理想そのものだった。

 そんな相手と喧嘩も出来た。結果はワンパンで沈んだが殺島は決してガキと舐めずに全力で喧嘩してくれた。でなければ気絶するようなパンチを打たない。

 意識を取り戻したさいに殺島に問い詰め己の見解を伝えると大体そうだと答える。舐められるという行為が嫌いなメピスにとって最高の対応だった。

 殺島は暫くの間難波兄達と雑談をして用事があると去っていく。異性としては分からないが不良として殺島に一目ぼれする。殺島のような不良になりたいという想いが芽生えていた。

 そして雑談の際に覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)という他県の暴走族であり、今夜地元の暴走族チーム仏陀地獄と交渉、交渉が決裂すれば抗争をすると言っていた。そうなれば今夜また殺島の喧嘩が見られるかもしれない。

 ならばと難波に仏陀地獄の本拠地に行って殺島の喧嘩を見ようと誘った。だが殺島に貰ったダメージが重く、難波の兄貴からマジで危ない奴らで何をされるか分からないから止めろと難波に一緒に止められた。

 もし魔法少女ではない佐山楓子なら難波の兄貴の忠告に従っただろう。パンチのダメージは今日中には抜けないだろうし、暴走族相手に勝てる自信はない。

 だが魔法少女メピス・フェレスなら別である。難波兄弟と別れると即座に変身する。変身すれば人間のダメージは全くなく、仏陀地獄全員と戦っても数秒でミンチにできる力を持っているので問題ない。

 早速向かおうにも仏陀地獄の本拠地を知らないが見つけられる。やり方は単純で魔法少女の人間を遥かに超えた5感を駆使し、多数の暴走族が向かっている地点を探して向かえばいい。

 街の中で一番高いオフィスビルの屋上に移動し辺りを探索する。すると特攻服を着たいくつかのグループがある方向に移動している。早速同じ方向に移動すると次々と暴走族が集まり廃園した遊園地に入っていく。

 ここが仏陀地獄の本拠地か、ならば後は殺島が所属する覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)が来るのを待つだけだ。周囲にある木々を見渡し一番高そうな気のてっぺんによじ登り視界を確認する。この高さと魔法少女の視力なら園内の様子を見渡せる。

 さあ殺島はどんな喧嘩を見せて楽しませてくれる。ヤンキー漫画のようなシーンを見られると胸を躍らせていた。だが結果は見事に裏切られる。

 

 殺島はヤンキー漫画の主人公のように次々と倒した。だがそれは己の拳と脚ではなく拳銃によるものだった。そうじゃねえだろと叫びたくなるのを必死に抑えながら殺島を睨みつける。

 確かに相手も拳銃を持っていたがそれでも使って欲しくはなかった。

 拳銃を使う味方キャラは居ない。大概は主人公と敵がタイマンしているところに別の卑怯な敵が主人公を撃つなどして水を差すなど、外道の卑怯者が使う悪のアイテムだ。あんな清々しい喧嘩をする殺島には決して使って欲しくない。

 メピスの胸中に落胆に染まる。マジでガッカリだ、こんな奴に惚れてしまった自分の目を心底呪う。

 だが気が付けば殺島を探し、1人になったところで接触していた。基本的に魔法少女の存在は隠さなければならず一般人と接触するなんてもっての他である。だがメピスは敢えてそのルールを破った。

 難波の兄貴と繰り広げた喧嘩は素晴らしかった。あんな喧嘩ができるならば、もしかしたら己の言葉で心を入れ替えるかもしれない。是非ともメピスが惚れた殺島であり続けて欲しいと願っていた。

 ならば早速魔法を使おうとするが思いとどまる。メピスの魔法は「甘い言葉で堕落させちゃうよ」である。精神に作用する魔法で拳銃を使わないようにと堕落させれば瞬く間に心変わりする。しかしそれではダメだ。魔法でそうなっても意味がない。殺島が認めた一人のヤンキーとして心変わりさせる。

 

「おい…」

 

 何で仏陀地獄との喧嘩で拳銃なんて使った?と問いかける前に殺島は懐から銃を抜き発砲した。その動きは人間にして速かったが魔法少女からしてはあまりにもすっとろかった。 

 通常であれば発砲する前に取り押さえられたが、銃口が地面に向いていてこちらを狙っていないのは分かったので見逃す。威嚇射撃か何かだろう。銃弾は予想通りにアスファルトに当り破片が宙に舞っていた。

 殺島は続けざまに拳銃を撃つ。それらも銃口はこちらに向いておらず、左右の壁やアスファルトや近くの街灯に打ち込まれる。仏陀地獄のメンバー相手には正確に射撃していたがマグレだったのか、だが弾丸は舞っていたアスファルトの破片に当ると跳弾でこちらに向かってくる。それだけではない、左右の壁や街灯に打ち込まれた弾丸も跳弾でこちらに向かってくる。

 銃口と引き金の動きを見て避けるというのは漫画などであるパターンだ、それならば人間でも避けられると思わせる説得力があるが跳弾で襲い掛かる弾丸を避けるのは人間では絶対に不可能だ。

 だが魔法少女なら難しくはない、身を屈め左右にステップを踏みながら弾丸を躱しながら間合いを詰め殺島が持っている拳銃を掴む。

 

「また拳銃に頼りやがって……」

 

 救えないクズだなと言おうとしたが思いとどまる。殺島の顔面は青くなり汗が噴き出ている。そして目は諦めの色に染まっていた。

 これは死を覚悟した者の目だ、そして体の様子を見て1つの仮説を立てる。殺島は魔法少女と人間にはどうしようもない程の戦力差が有るのを察知していた。

 そして拳銃を使ったことに不機嫌になりその感情を抑えないまま姿を現した。それを殺気と勘違いし足掻いても殺されると理解しながらも抵抗した。それが一連の行動なのかもしれない。

 

「まて勘違いするな。別に殺そうと思っていない」

 

 ホールドアップをしながら敵意が無いと精一杯の笑顔を見せる。

 

真実(マジ)か?」

「マジだよ。だから拳銃を放せ」

 

 その言葉を信じたのか殺島は大きくため息をつき力なく座り込む。相当にストレスが掛かっていたのだろう。少しだけ悪い事をした。

 

「こんなところで拳銃ぶっ放したら人が来る。色々と話したいから場所を変えるぞ」

 

 殺島の了承を得ずに右手で首根っこを掴み、近くの街灯を駆け上がり、そこから周りの電柱を飛び石にして民家の屋根つたいで移動し、30秒ほど移動して誰も来ない寂れた神社の境内で殺島の首から手を放し地べたに座り込み、殺島もそれに倣うように胡坐で座る

 

「ここなら誰もこないだろ、何で仏陀地獄との喧嘩で拳銃なんて使った?」

出歯亀(ぬすみみ)してたのか?」

「バッチリな。喧嘩で拳銃を使うなんてカスがやる事だ。お前も暴走族に入っている不良なら拳で喧嘩しろよ」

 

 メピスは苛立ちを抑えながら出来るだけ柔らかい声色で問いかける。気を抜けば拳銃を使うという卑劣な真似を思い出しキレそうだ。

 

「相手も拳銃を持っていたからな。メンバーが撃たれる前に撃たなねえと、なりふり構ってらんねえ」

「まあ確かにな。でもそれ以外の奴らにも撃ってただろ。角材や鉄パイプぐらいなら素手で何とかしろよ。別に昼間の喧嘩みたいに受けてから反撃しろとは言わねえから」

「昼間の喧嘩も見てたのかよ。もしかして信者(ファン)か?何ならサインとか記念写真(チェキ)撮ってやろうか?」

「はっ、いらねえよ」

 

 殺島の軽口を鼻で笑う。不良ならば圧倒的に強いと分かった相手でもこれぐらい舐めた口をきくべきだ。ビクビク顔色を窺いながら喋るなんてダサい真似はしてもらいたくない。

 

「とにかくだ。あたしが言いたいのは喧嘩に拳銃を使うなって事、喧嘩で拳銃を使うなんてゲスがやる事だ。ムカついてしょうがない」

「もしオレがまた拳銃(チャカ)を使って喧嘩したらどうする?」

「シメる」

 

 メピスは地面に向かって軽く拳を振るう。衝撃音と共に土埃が舞い地面には拳の跡がくっきりと作られていた。

 本当なら言葉で説得したいが言う事をきかないなら暴力で従わせる。ある意味不良的だ。殺島はそれを見て観念したと云わんばかりに手を上げる。

 

了解(りょ)だ。喧嘩には拳銃(チャカ)は使わない。だが相手が拳銃(チャカ)を使ってきた場合、あとは警察(イヌ)が相手の場合は使わせてもらうぜ」

「イヌ?イヌころを撃つのかよ。最低すぎるだろ」

「分かんねえか?イヌは警察だよ」

 

 なんだ警察の事か、紛らわしい言い方をする。メピスは疑問が解消した同時に今の提案について考える。まあ流石に拳銃を持っている相手に素手で戦えと言うのは厳しすぎるだろう。 

 そして警察だが魔法少女は基本的に善行を積むように言われており、正義の味方の象徴である警察を倒すための武器を使うのを認めるのは魔法少女的にどうなのか?

まあ警察はヤンキー漫画的には不良たちの自由を妨げる悪役だ、魔法少女であっても性根はヤンキー側で不良だ。警察がやられても心が痛まない。

 

「その2つは認める。それ以外は絶対に使うなよ!使ったらマジでシメるからな!」

 

 メピスは用事は済んだとばかりに境内から跳び去る。あの様子を見る限り言う事を守るだろう。殺島は初めて不良として憧れた存在だ、帝都リベンジャーズのセリフで喧嘩は魂を磨く場であるというセリフがあった。

 まさにその通りだ。しょうもない喧嘩もあるが難波との喧嘩や殺島との喧嘩で魂を磨いたという実感がある。そしてそれは素手でやる場合だ。拳銃を使えば魂が磨かれないどころかくすむ。憧れの魂はどこまでも輝いて欲しい。

 

◆殺島飛露鬼

 

本当(マジ)でいやがった。非現実(ありえね)ぇ」

 

 殺島は髪の毛を掻きむしりながら忌々しく吐き捨てる。覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)を結成してからある懸念があった。それは忍者の存在だった。

 悪事をすると圧倒的な暴力で粛清していく処刑人であり暴走族と極道の怨敵、真っ先に調べ今のところは存在を確認できない。だが今の自分は一般人と大して変わらず、一般人レベルにしか調べられず、もっと裏社会に深く潜って調べれば忍者の存在が確認できるかもしれない。

 そして忍者がいなくても同等の力を存在が居るかもしれない。死んだ人間が別の世界で第二の人生を生きているのだ。何が起きても不思議ではない。それこそキューティーヒーラーが実在して悪党を成敗しても驚きはしない。その懸念は見事に当たってしまった。

 黒髪の美女は忍者レベルにヤバイ。最初に遭遇し目を見た時にどうやっても勝てず死ぬのを実感させられた。ヘルズクーポンがあればワンチャンあったかもしれないが、最近は気が緩みヘルズクーポンを所持し忘れた。

 まだ花奈の夢を叶えていないのに死ぬわけにはいかないと狂弾舞踏会(ピストルディスコ)で攻撃したが、あっさり躱された。その後は殺す気はないと口にしながら神社に連れてかれ、喧嘩で拳銃を使用するなと念を押される。

 こちらには拒否権はなかった。探りの意味で言いつけを無視したらと言ったらシメると言われ、最悪死なないかもしれないが拳銃を握られない体になるかもしれない。

 もしかして拳銃を使っても見つからないかもしれないが、見つかった時のリスクを考えると分が悪い。もう二度と警察と拳銃を持っている相手以外には拳銃を使用しないだろう。

 とりあえず化け物が居る土地から離れようと立ち上がるがふらつき尻もちをつく。相手なりに友好的に接したつもりだろう。だが生殺与奪が握られている相手と会話するのは相当に心に負荷を与える。

 あの時は相手が好感を抱くだろうとあえてタメ語を使ったが、使った際は気に入らないと気まぐれで殺された可能性もある。正直生きた心地がしなかった。

 

「さてどうするよ」

 

 殺島は思わず独り言をつぶやく。忍者のような化け物がいるのは分かった。問題は何人居て、こちらの害になるかだ。

 もし忍者のように暴走行為が許せないというスタンスならお手上げだ。正直ヘルズクーポンを使っても勝てる自信はない。自分は殺され覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のメンバーは処刑される。

 しかし今までの様子を見る限り特に干渉しないようでそれだけが救いだ。だがいつ方針を変更するか分からない。

 花奈の理想を叶えるという第二の人生の目標、今までは順調に進んでいたが突如大きな暗雲が立ち込めたような気がしていた

 

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