暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第32話 しらべる・はなす・たずねる

殺島飛露鬼(やじまひろき)

 

 N市最大の繁華街城南地区、そこは平日の夜ながら賑わっており、初めて訪れた時よりも活気も怪しさも危なさも増しているような気がした。

 あの後は流れ解散となり花奈は1人で帰った。今頃1人でバイクをかっ飛ばしているはずだ。確定ではないが昇一の奥さんがS県で遭遇した女と同種だとする。それなのに襲われて死んだとなれば納得できないのも分かる。

 昇一も話ついでに奥さんについての話をして花奈の憎しみや誤解を解こうとして家に招いたが、結果的に思いをこじらせさせてしまい申し訳ないと謝っていた。

 もし殺られるとしたら変身を解いた時か同種に殺られたか、後者だとしたらN市で超常的存在同士の抗争があったことになる。

 そんな考え事をしながらN県最大規模の宝島組の事務所入り口に入る。若い衆は一瞬警戒し凄むが近くにいた顔役がへりくだると同じようにへりくだる。顔役に組長が居るか聞くと居ると言ったので2人きりで話したいと告げ案内と人払いさせる。

 

「どーも組長さん、調子どうっすか?」

「おおヤジ!よく来たな!」

 

 組長室に入ると組長が友好的に出迎える。宝島組に莫大な利益をもたらした功労者として厚遇されている

 

「いや~ヤジの指示通りにしたらクスリが売れる売れる!オレオレ詐欺もいいが、やっぱりシノギはクスリだな!」

 

 組長はガッハッハと豪快に笑う。生前のボスである輝村極道が考案したキムラマニュアルを駆使してオレオレ詐欺を中心に金を稼ぎ、その実績を評価され麻薬の売買に関わりさらに金を稼いだ。

 

「それで今日はどうした?いつもの金は渡したよな」

「いや~、必要以上の金は不必要(いらねえ)って貯蓄(プール)してたっすよね。それを使ってやってもらいたい事があるんですよ」

「おう、何でも聞くぜ」

「どうやら世の中にはオレなんてカスみたいに思えるような非実在(ありえねえ)ぐらい強い化け物がいるみたいで、調べるか知り合いだったら紹介してもらいたいんですよ」

 

 組長はつばを飲み込み分かりやすい程にビビる。以前にヘルズクーポンを使って宝島組を襲撃して分からせた。そのオレがカスと思えるほどの化け物と言われとんでもない化け物を想像したのだろう。

 

「あれ?法螺話(うそまつ)って言わねえんですか?」

 

 普通なら頭イカれた戯言だと罵りはしないが、上客の機嫌を損ねてはならないと『冗談キツイ』と笑い話にすると思っていたが、組長はトラウマを思い出したかのように苦々しい表情を浮かべていた。

 

「他のヤクザなら笑い飛ばすが、元鉄輪会の人間は絶対に信じる話だ」

「心当たりが?」

「心当たりも何も当事者だからな」

 

 組長の口からゆっくりと語られる。旧鉄輪会には1人の用心棒が居た。ビキニにミニスカートの痴女みたいな恰好をした金髪のロングヘアーの女、そのプロポーションとルックスはそこらへんの芸能人がゴミに見えるようなマブい女、そしてあり得ないほど、それこそ殺島がカスに思える程強く、その強さで鉄輪会を屈服させ好き勝手したそうだ。

 

「貴重な話有難(あざっ)っす」

「礼には及ばねえ、成果が出るか分からねえが他の化け物が居るかも調べておく、だが何故大金使ってまで調べる?」

「自衛です。知らない間に化け物の虎の尾を踏んで皆が全殺しされたら泣くに泣けねえ」

「そうだな。化け物には逆らわないほうがいい。いくらヤジでも天地がひっくり返っても勝てねえ」

「肝に銘じておきます」

 

 殺島は頭を下げ組長室から退出する。S県であった女、昇一の奥さんの魔女、鉄輪会の用心棒だったガンマン風の女、皆が美人で超越した身体能力や空を飛ぶなど人間を超越した力を持っている。

 これで決まりだ、化け物は実在し一人だけではない、そうなると魔法少女まとめサイトの目撃情報に有った白い制服の魔法少女と片目片腕の黒い魔法少女も同種かもしれない、しかもN市近辺で目撃されている。もろに地元だ。

 サイトの情報を信じれば人助けをする善良な魔法少女だ、忍者のように悪を殺すとうスタンスになるかもしれない。

 覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)はバリバリの悪だ。活動資金も反社会的な方法で堅気から搾取している。ある者はマグロ船に行き、ある者はソープに沈み、ある者はクスリで身を滅ぼし破滅している。自己責任で言い逃れ出来るかもしれないがヤクザがいなければそうはならなかった。

 そして覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)自体も暴走ために民家を放火し、進路上にいる邪魔者を轢いたりしている。花奈は何とも思わないがこれらが世間の価値観から考えて悪事だなと分かるぐらいの倫理観はある。

 

 その超常的存在が壊滅に動くかもしれない。やられない方法は2つでまずは活動を縮小する。家も放火せずに少人数で暴走すれば見逃されるかもしれない。

 だが花奈は絶対に満足しない、そもそも止めろと言っても当人が悪事だとはこれっぽっちも思っていないので言っても聞かない。

 他には超常的存在と同じ存在になる。それならば圧倒的な暴力に対抗できるが方法が分からない。偶然出会ってどうなればそうなれるかと聞ければベストだがそんな都合の良い事は起こらない。結局は細心の注意を払いながら日々を過ごすしかない、あとは相手次第だ。

 するとスマホから着信音が鳴る。まさか超常的存在からと考えビクりと体を震わす。だが画面を見て一笑する。

 

「ようオレだ。ああ暇だ、今から行くわ」

 

 殺島は小走りでバイクの元に向かう。デルタからでこれから話題の相撲ドラマの続編を一挙見しないかという誘いだった。超常的存在から脅しの電話がきたと想像してしまったが、いくら何でもビビりすぎだ。

 ドラマは興味ないが友達と見るとならば別だ、友達と遊ぶならば何しても楽しい。とりあえず酒とつまみでも買うか、あの面子なら未成年だからと断らないだろう。友人達を思い出し何が好きかと考えながらバイクに乗った。

 

♢ファル

 

 キューティーヒーラーを代表として魔法少女にはその活動を助けるマスコットがいる。妖精だったり小動物だったりと多種にわたる。そしてマスコットはフィクションだけではなく現実に存在する。

 ファルは電子妖精と呼ばれるマスコットだ、以前はキークという魔法少女に仕えていたがスノーホワイトの手によって捕まり、今はスノーホワイトのマスコットとして活動している。

 スノーホワイトは魔法少女業界では魔法少女狩りと呼ばれ、魔法少女が悪事をすれば自ら捕まえに出向く。その噂は広まりスノーホワイトが持つ魔法の端末にメールで情報提供されることもある。中には本当の情報提供もあるが大半やガセ情報や知り合いがやられた恨みとしておびき寄せる嘘情報である。

 以前は真偽を確かめる術がなく、メールで何度もやり取りしたり現地に直接出向いたりとして労力を割いていた。だがファルがいればメールなどの発信者の特定や情報の精査の精度が格段に増し、労力は格段に減った。

 すると一件のメールが届く。内容は悪事をしている魔法少女が居るので捕まえて欲しい。詳細は今日の夜に現地で話すという内容だった。即座に発信者の特定や情報を精査し信憑性があると分かったので、自らが潜む魔法の端末を振動させ報せる。

 スノーホワイトは一旦道の端に寄るとスクールバッグから魔法の端末を取り出し画面を見る。その表情は無表情に近く人間の姫川小雪でなく、魔法少女狩りと恐れられるスノーホワイトのものだった。

 するとノック音が聞こえてくる。スノーホワイトの前方には駅前のチェーン店のカフェがあり、店のガラスの壁からノックをしたようだ。ノックをしたのは高校生ぐらいの男性だった。スノーホワイトは無表情から普通の女子高校生らしい表情に戻す。

 

「よう小雪、奇遇だな」

「そうだね。誰かと待ち合わせ?」

「そうだったんだが、用事があるってドタキャンしてよ。このまま1人で茶を飲食(しば)くのもな、もし時間があって暇なら茶でも飲食(しば)かねえか?」

 

 男はガラス越しに喋りかけ、スノーホワイトは魔法の端末を見ながら考え込む。この後はそのまま帰るだけで、呼び出しの場所も魔法少女の足なら30分で着き、交通機関を使えば1時間もあれば着く。

 一応は時間があり暇ではある。もっとも当人にその気があればの話だが。するとスノーホワイトは店の中に入っていった。まだマスコットとなってから月日は経っていないが意外だった。男性であるし世間で言うチャラいタイプなので断ると予想していた。そもそもクラスメイトではないしこのタイプの友人がいるのが驚きだ。

 

「どうした?なんか怖い顔してたぞ」

「そんな顔はしてないと思うな」

 

 男は人差し指で両眉を上げ誇張した表情を作り、スノーホワイトは半笑いで否定する。そのやり取りで知り合いではなく友達ぐらいの仲の良さが分かる。

 

「それで何か悩みごとか?」

「お母さんから私が帰って食べようとしたお菓子を食べたってメールが送られて」

「それは小雪も激怒(げきおこ)だな」

 

 スノーホワイトは淀みなく嘘をつき男も軽い口調で相槌をうつ。

 

「それで今週のキューティーみたか?」

 

 そこから今放送しているキューティーシリーズについての会話が始まる。スノーホワイトとどのような繋がりかと思っていたが魔法少女アニメ繋がりか、どのように知り合ったか知らないがこれならば多少は納得できる。

 それにしても魔法少女アニメを見るとは中々見どころがある。もしくは縁が無さそうなタイプをファンにするキューティーシリーズの素晴らしさか。以前の主人であるキークはマニアと呼べるような愛好家であり、その影響を受けてファルも愛好家と呼べるファンだった。

 キューティートークは30分ぐらい続き、その後は友人と見た相撲ドラマが面白かったなど、友人のオモシロエピソード等の話題で10分ぐらい話していた。

 

「なあ小雪、もし魔法少女になったら何するよ?」

 

 男はふと話題を変えスノーホワイトに問いかける。どんなコスチュームでどんな魔法を使って何をするか?魔法少女アニメ愛好家なら一度は考える話題だ。しかし魔法少女である当人に聞いている状況は多少面白みがある。

 

「そうだな、迷い猫を探したり、空に飛んだ風船をとってあげたり、迷子の子供を親御さんの元に届けたり、困っている人を助けたいな」

 

 スノーホワイトは柔らかい笑顔を浮かべながら答える。その言葉には嘘偽りはなく本心で有り実際にやっている行動だ。

 そして悪い魔法少女を捕まえるとは言わなかった。魔法少女狩りの行動はスノーホワイトが理想とする魔法少女としてやっている。だが是が非でもやりたい行動ではないということだ。

 

「らしいな。魔法少女の小雪がアニメ化しても今の時代じゃあ視聴率は取れねえ」

「そうだね」

「まあ、オレは見るけどな。そして円盤(ブルーレイ)複数買いだ」

 

 男の軽口にスノーホワイトは笑みをこぼす。男は知らないがマジカルデイジーやひよこちゃんや今のキューティーシリーズに出てくる魔法少女は実在する魔法少女である。

 ファルの価値観ではスノーホワイトはアニメ化するに相応しい魔法少女である。願わくはアニメ化されてその精神性や信念が評価されてほしい。

 

「そうだ、小雪がもし魔法少女になったら名前何するよ?」

「う~ん、そうだな」

 

 スノーホワイトは悩まし気な声を出す。流石にスノーホワイトと名乗るわけにはいかない、であれば知り合いの魔法少女の名前を名乗ればいいと思うが何故か躊躇していた。

 

「それだったら殺島君が考えてよ」

「オレが?」

「こういうのは他人に決めてもらったほうがいい場合もあるし」

「そういうもんか、じゃあキューティープリンセス」

「流石にキューティーシリーズを名乗るのは烏滸がましいというか、さらに自分から姫を名乗るのも」

「確かに、愛好家(ファン)だったら逆に名乗れねえな。だとすると……」

 

 殺島は机に人差し指をトントンと叩きながら考え込む。魔法少女アニメファンだとしたら過去の魔法少女アニメの名前と似た傾向にするだろう。幼児向けならひよこちゃん系統の名前、少し年齢層を上げればリッカーベルやマジカルデイジー系統か。

 

「ヴァージンスノーなんてどうだ?」

 

 殺島は妙案を思いついたといった具合に意気揚々とした声を出す。このネーミングセンスは魔法少女アニメというより本物の魔法少女がつけるネーミングセンスに近い。

 

「穢れなき白、小雪なら見返りも求めず純粋な善意で困っている人を助ける魔法少女になる。ひよこちゃんみたいな感じだ、でもこゆきちゃんとかだと流行外(うけない)。だから少し今風に寄せた。どうよ?」

 

 余程自信があったのか身を乗り出しながら答えを求める。ヴァージンスノーの意味は純白、スノーホワイトは白らしい白、偶然にもスノーホワイトと名前が被り意味合いも似ている。

 スノーホワイトは一瞬顔を歪めたがすぐに笑顔を見せて「それは良くいいすぎだよ。名前負けしちゃう」と恐縮している。

 ヴァージンスノーに込められた意味はスノーホワイトにとっては皮肉に聞こえただろう。ファルはそう思っていないがスノーホワイトは自身を理想の為に暴力を行使する穢れた魔法少女と思っている。

 

「じゃあ殺島君はどんな魔法少女になりたい」

「おいおい、オレは男だぜ。仮に魔法の力を得ても魔法使いだろ」

「じゃあ、男性でも魔法少女になれるとして」

「いや、それでもオレは……、そうだな、魔法少女になったらキューティーみたいに戦わなくていいな」

 

 殺島は話題を打ち切ろうとするが気が変わったのか話題に乗っかる。日々の活動でちょっとした人助けをしたいと理想としては古典派の魔法少女になりたいようだ。

 

「そうなると名前か、次は小雪が決めてくれ」

 

 今度はスノーホワイトが悩む。性格からして他人の名前を使う訳にはいかないと思うだろう、これは暫く悩みそうだ。だが意外にもすぐに名前がでた。

 

「ラフメイカーとかどうかな?」

「由来は?」

「何回か偶然殺島君を見かけたことがあるんだけど、皆笑って凄く楽しそうだった。私と違って社交的だし皆に好かれている。きっと魔法少女になっても助ける人を皆笑顔にするんだろうなって、だからラフメイカー」

 

 スノーホワイトは少しだけ恥ずかしそうに由来を話す。その言葉に殺島は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたがすぐさま人懐っこい笑顔で塗り替える。

 

「良い名前だ。オレも魔法少女になったらそう名乗るか、小雪も魔法少女になったらオレが考えた名前を名乗ってくれよ。名前負けしてねえって」

「考えておく」

「どうせそんな事は起きないって思ってんな?もしかして魔法少女になれるかもしれねえ。そうだ、ここだけの話だが本当(ガチ)に魔法少女は居るかもしれないぜ」

 

 殺島は身を乗り出すようにスノーホワイトに近づき、秘密の話をするかのような声量で話しかけ、スノーホワイトも応じる様に近づく。

 普通の男子高校生は魔法少女になれるかもなんて一般的にはあり得ない話をしない。だとすれば本人なりに何かしらの確証があるとファルは予想する。

 

「実在したら嬉しいなと思うけど流石に居ないんじゃないかな」

 

 スノーホワイトは相手を傷つけないような声色と表情で諭す。それはごく自然な反応で目も前にいる相手が魔法少女だとは男も夢にも思わないだろう。一方男の方もその反応は想定通りと話を続ける。

 

「以前にS県で会った美人の目撃情報、もしくは何か人間離れした身体能力をもつなど超常的存在を知っているかってメッセージ送ったのを覚えているか?」

「うん、急にどうしたんだろうって思った?」

「それで独自の調査で分かったんだが、オレが会った美人と以前にこの街で話題になった魔法少女の存在と特徴が似てるんだよ」

「何それ?」

「知らねえの?このサイトに色々と書き込まれてる」

 

 殺島は自分のスマホをスノーホワイトに見せる。そこにはかつてN市の魔法少女についてのまとめサイトが表示されていた。最多で16人の魔法少女が居た時は目撃情報などで盛り上がっていたが、今ではすっかり寂れている。

 それでもスノーホワイトは魔法少女として人助けをしているので目撃情報については時々書き込まれている。正体がバレる可能性があるので人助けをするなともいえず見過ごしている。

 

「そうなんだ、ちなみに超常的存在と魔法少女の関連性は?」

「それは秘密(シークレット)だ、もしかして魔法少女の関係者が聞き耳を立てるかもしれねえ。ひよこちゃんでも有っただろう。聞かれたら魔法少女についての記憶が消されるかも」

 

 殺島は軽い口調でスノーホワイトの問いをはぐらかす。中々に勘が鋭い、魔法少女に助けられた程度なら問題無いが、魔法少女について知ってしまったら記憶は消される。

 

「それで殺島君は魔法少女は居ると思う?」

非実在(いねえ)だろうな。それでも折角なら魔法少女が居ないと思うより、居るかもって思っている方が愛好家(ファン)としては楽しいだろ」

 

「確かにそうかも、じゃあもし魔法少女になる方法が分かったらこっそり教えてね」

快諾(いい)ぜ」

 

 スノーホワイトは本気か冗談か分からないニュアンスで頼み、殺島もスノーホワイトの調子に乗っかるようなノリで答えた。

 

♢細波華乃

 

 夜の海岸線にエンジン音が轟く、今日は潮風が強いのか花奈の髪がいつもより靡いている。今日は久しぶりに花奈の後ろに乗りドライブしている。そして何回か一緒に走っているせいだろうか乗り心地で何となく分かる、今日の花奈は機嫌が悪い。

 いつもは楽しいからドライブしているが今日はイライラを解消するためにドライブしているといった感じだ。

 暫く海岸線を走っていると突如バイクを停止し路肩に止めるとガードレールに腰を掛けながら海岸を見つめる。相手の意図は読めないが華乃も倣うように隣に座る。

 

「なあ華乃、もしとんでもねえ力を手に入れたら何でもできるよな?」

「とんでもないって力って?」

「それは銃弾を避けられたり空を飛べたりとか、ともかく人間を超越(ぶっちぎ)った力だよ」

 

 華乃は花奈の質問の意図を推理するが今までにない話題で全く理解できない。そして花奈が口にした存在はまるで魔法少女だ。

 

「何でもってわけじゃないんじゃない。聞く限りだとその力は身体能力はとんでもないけど、頭が良くなるわけじゃないし、お金を稼ぐ才能があるわけでもないし」

「でも喧嘩だったら負けないよな?」

「まあ銃弾を避けられれば余程のことがないかぎり負けないはず、それに空を飛べればピンチになっても逃げればいいし」

「だったら何で死んだ!」

 

 花奈はあらん限りの声で叫ぶ。その大声に華乃は驚き思わずガードレールから転げ落ちそうになる。突然大声を出すな、鼓膜が破れるところだったぞ。抗議しようとするが花奈の横顔をみて飲み込む。

 

「なんで死んだ!そんな力持って死んだなんて、どれだけヘマしたんだよ!カスすぎるだろ!大切な人も守れず、大切な人を悲しませて!」

 

 花奈は華乃の存在を無視するように叫び続ける。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。それから花奈の罵倒は延々と続く、平時なら思わず注意するところだが今は止める気にはならなかった。

 

「なあ華乃、教えてくれ!あいつは何で死んだ!?」

 

 花奈は華乃の両肩を掴み問い詰める。その瞳は今まで最も弱弱しかった。今日の目的はこの問いをするためだろう。何と答えればいいのだろうか?花奈が納得するような答えを必死に模索する。

 

「その人が死んだとしたら同じぐらい強い奴にやられたんじゃないの?それにその人はきっと足掻いた。大切な人を守るために、大切な人を悲しませないために、足掻いて足掻いて……」

 

 花奈のいうあいつはいつの間にかトップスピードに変換されていた。お腹の赤ちゃんを産むために、夫を悲しませないために、あの理不尽なデスゲームを生き残ろうと懸命に足掻いた。

 そしてカラミティメアリやスイムスイムのように生き残るために他者を殺そうとは決してしなかった。最後まで魔法少女として清く正しかった。

 

「そうか、足掻いたのか、いや……それでも……」

 

 花奈はぶつぶつと呟く。自分の言葉が響いたのか?それでも納得していないようだ、あとは自身が折り合いをつける問題だ。

 海は相変わらず荒れている。それは花奈の心情を現しているようだった。

 

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