◆生島花奈
バイクを走らせ門を通過し敷地内に入る。こういったところは駐輪場にバイクを停めて徒歩で移動するものだと思っていたがバイクで移動できるのは便利だ。
辺りを見ると一面に墓石があり改めて墓場に来ているのだと実感する。来る前は辛気臭い場所だと思っていた。
だが快晴の空と春の陽気に、周りは木々に囲まれ車道の脇には桜がびっしりと植えられ、水色緑ピンクとカラフルで辛気臭さを感じさせない。
すると風が吹くと桜の花びらが舞うと一枚の花びらが額にくっつく。もし花見するならここがいいかもしれない。
とりあえず走っていると園内地図を見つけたので後ろを走るヤジに止まれとハンドサインを送りバイクを停めて、場所が書かれている紙と園内地図を見比べる。
「50区画だから、あと3ブロック先だな」
ヤジの言葉に従い3ブロックほど移動し50区画と書かれた標識の前にバイクを停めてシートの中に入れていたビニール袋を取り出し徒歩で区画内に入る。
墓場というのは砂利の上に墓石が置いてあると思っていたが、この墓地は芝生の上に墓石が置いてある。今日の天気だったら墓石さえ気にしなければピクニックでも出来そうだ
紙に書かれているのは区画と縦列横列の真ん中らへんという大雑把な位置だけなので、ヤジと手分けして墓石を探す。
田中、鈴木、佐藤、中々見つからない。しかし墓石をこうやって見るのは初めてで、名前の横に何歳で死んだかが墓石に刻まれているとは知らなかった。
長く生きた奴もいればわずか1歳で死んだ子供もいて、かわいそうな奴だと憐れみ人生の不条理さを感じてしまう。
すると目に室田という文字が飛び込んでくる。同じ苗字かもしれないと名前を確認すると室田つばめ享年19歳と刻まれていた。
「ヤジ、あったぞこっちだ」
別の場所を探しているヤジに声をかけて手招きをして、ヤジが来たのを見計らって墓石に目線を合わせるように芝生の上に胡坐で座り、墓前にコンビニで買ってきたチューハイを取り出し供え話しかける。
「よう、こうして会うのはいつぶりだ?」
3月に入り
これは時代に恵まれたというわけではない、質は当時の暴走族を知らないので何度も言えないが、量だけでいえばハイエンプレスだけでも全盛期の数を超え、他にもこちらが確認していない暴走族がいる可能性もあるので間違いなく今が全盛の時代だ。
約1年半前は誰一人仲間いなかったが今では10万人の仲間がいる。1年半前の自分にこうなると言ったとしたら『そんな事あるわけねえだろ!ふざけてんのか!』と殴られている。
本当に出来すぎている。もしかして夢を見ているだけではないかと思ってしまう程だ。だがこれはゴールではない。もっと暴走して楽しみたい。
暴走しまくれば覇威燕無礼棲の姿は日本だけではなく世界に広がる。そうなれば日本のスポーツ選手が本場に行くように日本が暴走の本場となり、暴走したいという奴が世界各国から集まってくる。
そしたら覇威燕無礼棲アメリカ支部やヨーロッパ支部が出来て、日本のメンバーが世界支部のメンバーと合流して現地で走る。さながらワールドツアーだ。
そんな夢は膨らんでいたが当面のやる事は全国統一記念暴走だ。覇威燕無礼棲と傘下の暴走族を地元のN市に集めて暴走する。
10万人が集まるとなれば織豊連合と一緒に走った約8万人を超える過去最大規模になる。きっと元日の富士五湖暴走以上に楽しいはずだ。
それからは各チームの希望に合わせて日程を決める。こちらが日程を決めて強制参加でもいいが出来るだけ希望を叶えて気持ちよく楽しく暴走させたい。日程調整は面倒でかったるい作業だったが全員が楽しく暴走する為には我慢し調整した。
それからはルートや各チームの振り分けなどの暴走の準備をしているなか、つばめの夫の昇一と一緒にファミレスで飯を食っていたある日、ぽろりともらした。
──そろそろ彼岸だし、つばめの墓参りに行くかな。
昇一は思わず口を抑えた。つばめを嫌っていると知っているので気を遣ってできる限り話題にしなかった。
「おい、つばめの墓の場所を教えろ」
口に出した言葉に自身も驚いていた。何を言っているんだ?勝手に
昇一としても元メンバーであり従妹でもある花奈に弔って欲しかったのだろう。昇一は大切な仲間で家族だ、出来る限りは喜ばせたい。仲間の為に個人的感情を押し殺すのもリーダーの役割だという言い訳を思い浮かべた。
最初は一緒に行くかと誘われたが断った。ふとした拍子でキレて文句を言いまくり墓に唾を吐く可能性がある。それをやれば昇一は深く傷つけてしまうと考えるぐらいに理性は有る。
かといって1人でいけばキレれば自分自身を止められない。なのでヤジに帯同してもらうように頼んだ。ヤジならストッパーになるだろうし、やってしまっても見なかった事にしてくれる。それならば昇一が知ることは無い。
「アタシは今じゃ総勢約10万人の暴走族の
嬉しかったこと、楽しかったこと、自慢したいこと、つばめの墓前に喋りたいことを話し続ける。今のところ驚くほど怒りが湧いてこない。
あいつがやったことは決して許されるはずがないのに。話しかけながら理由を考え答えが思い浮かぶ。きっと今が楽しいからだ。
今は人生で最高に楽しく充実している。そうなると精神的に余裕が出てきて過去を赦そうと思えてくるのかもしれない。そして今が楽しいと過去の辛い記憶が薄れてしまう、それも全て暴走のおかげだ。
暴走する奴には2種類いる。楽しいから暴走する奴と辛いことから逃げ出し忘れたい奴だ。
2番目の理由で暴走する奴は意外に多い。デルタは相撲が出来なくなった辛さを忘れるために、昇一はつばめを失った悲しみを癒す為に、ヤジも最初は母親を失った悲しみを紛らわせるために暴走していたと言っていた。
花奈は楽しいから暴走していると思っていた。だが今振り返ると数パーセントぐらいは2番目の理由で走っていた。
では何から逃げ出し忘れたかったか?つばめが燕無礼棲を辞めたこと、解散したこと、誰一人仲間が居なかったこと、そしてつばめが死んだこと。
そうだった。つばめが好きなのだ。だから自分を置いて燕無礼棲を辞めたことにキレて、その代わりに昇一と結婚して、生まれるはずだった赤ちゃんと守れず死ぬという情けなさにキレているのだ。
その後も言葉が途絶えることなく話し続ける。内容はメンバーの話になりチームに入ったメンバーが、いや家族がどれだけイカしているかを存分に自慢した。
「それでこれが
つばめに対する本心に気付き素直になったのか本音がこぼれる。覇威燕無礼棲と傘下のチームは全員家族と思っている。家族内でもランク付けはしたくないがヤジは特別で真っ暗だった世界に光を照らしてくれた恩人だ。
偶に花奈とヤジが男女の仲であるという噂をされるがそんなヌルイ関係ではない。まぶしいくらい分かり合った親友、マブダチだ。それは恋人より凄い。
「おいヤジ!折角だから挨拶しろよ」
花奈は照れ隠しのように後ろで距離をとり見守っていたヤジに声をかける。ヤジは仕方がないとばかりに花奈のとなりに胡坐で座る。
「よう、オレは
「な!?」
思わず声が出てしまう。確かに今しがた好きだった反動で憎んでいるのはある程度認めたが、他人に言われるのはハズいしムカつく。
「きっと
ヤジはつばめと会っていない。本心ではない言葉からヤジなりにつばめという人間を想像してイカした暴走族と認めた。誇れつばめ、お前は最高の暴走族に認められた。
「よしヤジ、花見がてら
「
コンビニで買ってきた残りの缶ビールをヤジに渡した後に缶チューハイを取り出し口につける。
それから1時間程酒を飲みながらハイエンプレスでの抗争と暴走の日々を語った。2人で話しているがつばめの姿がありありと浮かび上がる。
酒を飲んでいるが他の奴はともかくつばめなら何も言わないだろう。法律上飲酒運転が禁止されているのはド下手くそが事故ったり事故で他人を傷つけないようにするためだ。
どれだけ酒を飲んでだとしても百歩譲って、事故は回避できなくても事故を起こすなんてあり得ず、ヤジも運転技術は劣るが事故を起こす程下手ではない。なので問題ない。そう言ったらならいいかとつばめも納得するだろう。
「そろそろ帰るか、じゃあなつばめ!明日はN市で覇威燕無礼棲が全員集合して暴走する。この時期は幽霊がこっちに来るんだって?なら見に来いよ!アタシ達が最高に楽しんでる姿を見て怨霊になっても知らねえけどな!」
「怨霊って、昇一が居たら殴られるぞ」
ヤジはため息まじりで注意するが花奈は挨拶がてらと墓石をぽんぽんと叩く。約10万人がそれぞれ楽しみ、その感情が互いを刺激し膨れ上がる。最高に楽しいに決まっている。
つばめも元暴走族だったのであれば生き返って暴走したいと思うだろう。生前の悔しそうな顔が目に浮かぶ。
そういえば未練がましく燕無礼棲のメンバーの連絡先を残していた。
折角だから他の覇威燕無礼棲のメンバーも誘ってみるか、きっと楽しい暴走を見たりやったりすれば入るかもしれない。昨日までならボコボコにして追い出すが、今だったら入れてやってもいい。
──チッ
後ろから舌打ちが聞こえた。舌打ちは敵対の意志、良い気分が台無しだ。反射的に凄みながら振り返り睨みつける。
背後には2人の女がいた。1人はショートカットで同世代、舌打ちをしたのはコイツじゃない、そしてパンピーだが少なくともこちらにはビビっていない。こんな感じの女は大体ビビるのだが、普段なら根性あるなと思うが今はムカつく。そして女はこちらを見ずにヤジの方を見てひどく驚いている。そしてもう1人はよく知った女だった。
「花奈」
後ろにいたのは華乃だった。誰かの墓参りだろうか?N市には何個か墓があり、しかもだだ広いこの墓地で出会うとは中々の偶然だ。一方華乃は偶然会った以上に驚いている。
「おう、華乃!奇遇だな」
「その墓の人とは知り合い?」
「まあな。まさか華乃もか?」
指を差すと首を縦に振る。まさか華乃がつばめと知り合いだなんて。
「よっ」
「殺島くん」
そしてショートカットの女はヤジの知り合いらしい。お互いの知り合いがばったり会う。これは相当の偶然だ。こんなに偶然が重なるなんて何か有るのではないかという考えが頭を過った。
♢細波華乃
華乃はスマホのメモと地図を頼りに目的地に向かう。今日は快晴で通路の脇に咲いている桜をより鮮やかにする。
いつもであれば桜は咲いていないのだが、今年は記録的な暖冬だった影響か桜はすでに咲いている。今は春のお彼岸でスノーホワイトと一緒に墓参りに来ていた。
今来ている墓地はN市最大の市営墓地で華乃の友人だった室田つばめ、魔法少女トップスピード、スノーホワイトの友人だった岸部颯太、魔法少女ラ・ピュセル、鳩田亜子、魔法少女ハードゴア・アリスが眠っている。
何時ぞやの会話でそれを知るといつしか春と秋のお彼岸とお盆には一緒に墓参りに行くようになった。
まずは入り口から近いラ・ピュセルとハードゴア・アリスの墓からお参りする。ラ・ピュセルとは一度か二度直接会ったぐらい、アリスにいたっては直接の面識もない。関係ほぼ無い魔法少女だが墓前で手を合わせる。
N市での魔法少女選抜試験に参加した魔法少女はクラムベリーの犠牲者─グズのカラミティ・メアリと積極的に殺しまわりトップスピードを殺したスイムスイムを除く─だ。
それに2人の魔法少女としての善良性はスノーホワイトから聞いており、追悼する気持ちはある。死後の冥福、そしてスノーホワイトがピンチの時に助けて欲しいと祈った。
手を合わせた後はスノーホワイトから距離をとり様子を見守る。2人きりで話したいことも有るのでそばに居たら邪魔になると思っての判断だ。話している時の表情は自然体で和やかだった。
2人の墓参りを終えるとトップスピードの墓に向かう。見覚えのある景色がちらほら見え始め道は合っていると確信を持ち始めた矢先に声が聞こえる。
誰かが騒いでいるような声だ。関係者が怒りや憎しみをぶつける骨肉の争いをするよりマシだが、死者が静かに眠っている場所で騒ぐのは感心しない。
どこのバカだと辺りを見渡すと声がする方向に小さな2つの人影が見える。あの距離から聞こえるとなるとかなりの声量だ。
「ちょっと注意してくる」
スノーホワイトに一声かけてから人影のほうに向かう。魔法少女に変身していたら注意する。人間だったら舌打ちをして我関せずと無視しただろうが、魔法少女として活動しているせいか少しでも魔法少女らしいことをしようと思うようになった。
するとスノーホワイトも一緒に行くとついてくる。こういう輩は絡んでくる可能性もある細波華乃はそれなりに荒事には自信があるが、スノーホワイトは問題無くても姫河小雪はそうではない。
魔法少女と人間は違い過ぎるので魔法少女の戦闘力は人間時にはフィードバックされない。それでも正しい魔法少女として人間の時でも同じように行動する。その心掛けは感心する。
人影に向かっていくがそれと同時にトップスピードの墓に近づいていっている。まさかトップスピードの関係者か?その疑念は近づくごとに確信に変わる。
トップスピードの墓の前には男女2人が座り込んでいた。バカ騒ぎするというより女性が1人で話していた。
トップスピードの墓の前で何騒いでいるんだ。思わず舌打ちが出る。人前ではしないようにと心がけていたが咄嗟に出た。
すると女性が凄んだ声を出しながら振り返る。気に障ったようだがそれは考慮していない。むしろこちらの方がムカついている。
そしてムカついた女性を見てムカつきは驚きに変わる。その相手は花奈だった。さらに花奈の連れはスノーホワイトと知り合いのようでさらに驚いた。
◆殺島飛露鬼
あの黒髪ロングの女は花奈が暴走族関係で唯一の友達と言っていた細波華乃だ、聞いていた容姿と花奈の反応ですぐに分かった。そして此処で小雪と会うのも驚きだ。
「
花奈を強引に立たせ一緒に頭を下げる。非常識なのは分かっているが花奈としては弔っているので特に何もしなかった。だが友人が現れれば非常識だと思われ心証が悪くなるので言い訳を言いながら謝っておく。
そして花奈の首に腕を回しながら強引に移動する。花奈は騒ぐが暴れるが無視して近くの灰皿が置いてあるスペースに向かう。
「おい、何で頭下げさせる!
「オレはつばめを弔おうとしているのは
「そういうもんか」
花奈は顎に指を添えて考え込む。不良は頭を下げるのは何よりも嫌い自分が悪いと思っても下げない。悪くなければ尚更だ、今回も悪くないと反発するところだが引いた。
それだけ細波を思い遣り嫌われたくないと思ったのだろう。想像以上に大切な友人らしい。
「まあ一服して
殺島は懐からタバコを取り出し口に咥え火をつける。花奈のタバコを咥え火をつけると深く吸い込み2人同時に煙を吐く。
「あれが細波華乃か、
「手出すなよ。
「そういうならしねえ。
花奈はそのシーンを想像したのかケラケラと笑う。細波が狼狽している場面か、こちらが舌を噛み切られそうになる醜態のどちらかは分からない。
「それであのショートカットとはどういう知り合いだ」
「
「何だそりゃ」
「キューティーヒーラーとかだよ」
「あ~あの女のガキが出てるアニメ、オタク仲間か」
花奈は興味なさげに関係をまとめる。花奈にもキューティーヒーラーを布教したが全く興味を示さず、口には出さないが下に見ているふしがある。きっと小雪の評価は下になっている。
「しかし華乃もそうだが、アイツもつばめの知り合いらしいな」
今は細波がつばめの墓前にしゃがみながら話しかけ小雪が邪魔にならないようにと距離を取って見守っている。
細波が話しかける前は小雪が話しかけていた。時間は短く2つ3つ何かを話したぐらいだろう。一方細波はそれなりの時間を話している。つばめとの関係は細波の方が深いようだ。
「どうやら終わったみたいだな」
細波が立ち上がったので吸いかけの煙草を灰皿に入れ、近くの自販機で飲み物を買ってから2人の元に向かい、花奈もギリギリまで煙草を吸ってから向かう。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ベンチに座っている小雪と細波にジュースを渡す。お互い話したいことがあるのは分かるので近くのベンチで話すことになり、お茶がてらジュースを渡す。
そして自分用と花奈様にミネラルウォーターを買った。酔いはしないがアルコールは少し回っているので素面に近い状態にしておいたほうがいい。
ベンチは二人掛けなので殺島達は2人に正対するように地面に座り込む。すると小雪と珍しいものを見たかのように目を僅かに見開く。それが気に入らなかったのか花奈は小雪にガンを飛ばす。
何がおかしいのかと不思議に思ったがすぐに気づいた。殺島と花奈は腕をだらっと下げ尻を地面につけないで座り込む。世間で言うヤンキー座りをしていた。
仲間と外で喋る時は皆がこの姿勢で珍しくもなんともないが、パンピー寄りの小雪の友人や知人にはヤンキー座りする人間はいないのだろう。
「じゃあ改めて自己紹介だ、オレは殺島飛露鬼、四月から
「悪かったな華乃、つばめは騒がしいのが好きだったから、別に嫌がらせするつもりはなかった」
花奈の謝罪に細波は気にしていないけど、周りは起こるから気をつけろと軽く注意する。悪気はなかったのは伝わったようだ。
「細波華乃です。一応はフリーターです」
「姫河小雪です。来年から高校生です」
2人がそれぞれ自己紹介する。細波は何となくタメかと思っていたが年上だったのか、そして小雪の高校生という言葉に花奈が反応しこちらを向く。
大人になれば3学年差は大したことは無いがこの年代にとって隔たりがあり、余程の事が無い限り関わらない。そんな年下とつるんでいたのに驚いたのだろう。
そして花奈の目線は小雪に視線に向ける。小雪はこの年代にある隙と言えるような緩さが驚くほど少なく、現に花奈に対してビビっていない。小雪のような感じの少女なら大抵は花奈にビビる。花奈もそれを無意識に感じ取り評価と警戒度を上げているはずだ。
「とりあえず華乃とお前とつばめの関係は何だ?」
「去年ぐらいの秋ぐらいまであったソシャゲのフレンド、一緒に協力プレイしたりするうちに仲良くなって、リアルでも会うようになって遊んだりした」
「私も同じで細波より親しくはなかったですが、チャットで悩みごとにアドバイスしてもらったりと親切にしてもらいました」
花奈はあいつがソシャゲかと呟きながら話の真偽を確かめるように考え込む。話を聞く限りつばめはソシャゲをしない感じで、小雪との雑談でソシャゲをしていると聞いたことも無いので意外な関係だ。
まあ花奈と疎遠になった後にソシャゲをやるようになり、小雪も話の流れで話さなかっただけで今でもソシャゲをやるぐらいゲームが好きなのかもしれない。
「殺島君と生島さんとはどんな関係なの?」
「バイク仲間で時々一緒に走っている」
小雪の質問に答えたが間違ってはいないが正解でもない。暴走族の仲間と答えるのが正解だ。だが敢えて答えなかった。
小雪は魔法少女アニメが好きでその清さと正しさを好んでいる。そんな少女が自分達の欲望のために多くの人々を踏みにじっている暴走族であると答えたらどうなる?
間違いなく忌み嫌い「暴走族が魔法少女アニメを見ないで、穢れる」と文句の1つや2つは言われる。
この約1年で魔法少女アニメと視聴し小雪と語る日々は楽しかった。出来るのであればこの日々を失いたくない。そんな感情が暴走族であると言わなかった。
花奈に真意を知られれば『堂々と名乗れ』とヤキを入れられる。自分の幸福のために平気で噓をつく。やはり自分は暴走族であり極道だ。
「それで花奈と殺島さんはト……室田さんとどういう関係なの?」
「オレは
殺島は返答してから花奈に向ける。花奈は頭を掻きながら数秒間程黙ってから口を開く。
「アタシとつばめは、つばめの母親が姉でアタシの
「従妹」
「それ、そして
花奈はぽつりと喋る。以前なら従妹で話を終わらせたが今はエンプレスでの話も加えた。それは過去の汚点ではなく、友人に知られてもいいぐらいにしっかりとした思い出に変わった証だ。
「そうなんだ、ねえ、室田さんのこと教えてくれない。昔はヤンチャしてたらしいけど、会った時には卒業したって言ってたから」
「ああ、いいぜ。あれは中一の時だっけか、他県の走り屋が集まる峠に行った時だ」
花奈は細波の要望に快く応じ話し始める。相変わらず説明が必要な言葉でも共通認識のように話を進めたり、本題から脱線したりと話し方が下手で要所要所フォローして細波達が伝わるようにする。
チームをなめた奴を全裸にして吊るしたなどヤンチャエピソードを話す。笑い話のつもりで話したみたいだが、細波と小雪は驚き若干引いていた。
これぐらいなら暴走族同士であれば天気の話レベルの軽い話だが、改めて自分達と一般人達との価値観の違いを理解する。ちょっとしたカルチャーギャップだ。
しかし以前ならつばめの話をしろと頼まれたら口にもしたくないと拒否するか、メチャクチャにディスリまくるだろう。完全に己の感情と折り合いをつけている。その成長はマブダチとしては嬉しい。
「それで華乃と一緒にいた時つばめはどんな感じだった?
話が一段落すると今度は花奈が細波に質問し、細波が答える。いつもお節介を焼き、会うたびに作ってきた料理をお裾分けしてきて結構美味しかった。ツーリングした時に死にそうな想いをしたなどの思い出話を語った。
花奈はその度に『あいつが料理!?しかも
細波の印象としては社交的ではなく他人を拒絶するタイプ、友達が少なそうだと思った。それでもつばめとの思い出を話す時は驚くほど表情が柔らかくなる。相当に仲が良く大切な人だったのだろう。
そして話の流れで細波にとってつばめはどんな存在かと言う話題になり、じっくり考えこんだ後に語り始める。
「私も室田さんほどじゃないけどヤンチャというか、中学までは花奈風に言うならナメた奴は音を上げるまでボコボコにしてたから友達が居なくて、友達作れなかったから高校入ってからも友達が居なかった。そんな時に室田さんと会った。初めて会った時はバカっぽいって思った」
バカっぽいという言葉は一般的に悪口だが、細波にとってある種の誉め言葉のようなものであると声色と雰囲気で教えてくれる。一方花奈も特に気にすることなく『まあバカだからな』と自分を棚に上げながら何度も頷く。
「馴れ馴れしく構ってきて、ウザいって邪険にしてたけど構わずベタベタしてきて私の領域にドカドカと入り込んでくる。それが悪くないなって思い始めた。そして室田さんが亡くなって初めての友達が死んだって気づいた」
細波は唇を噛みしめ手を力いっぱい握る。これは怒りか後悔か?例えばつばめを止めなかったのが死の遠因になった。事実は分からないが本人は自分のせいで死んだと思っているかもしれない。
「そして失ってから気づいた。室田さんは優しくて勇敢で正しい人だった。私にとって大切な友達」
細波は話し過ぎたと照れ隠しのようにジュースの残りを飲み干す。それなりに本心をさらけ出したのだろう。小雪は少し驚いた様子で見ている。一方花奈の表情は何故か険しくなっていた。
「つばめは
花奈は地面に唾を吐きながら忌々しく呟く。その言葉に和やかだった場の空気が一気に剣呑なものになり、小雪は細波に視線を向け本人は『違うそれは……』と言いよどむ。花奈は周りの様子を気にすることなく言葉を続ける。
「それに昇一も悲しませ
花奈は怒りをぶつけるように喚き散らす。今日は怒りや憎しみを見せていなかった。花奈なりに気持ちの折り合いをつけたと思ったが勘違いだった。
これ以上は細波をブチ切れさせる。止めようとしたがそれより先に細波が花奈の襟首をつかみ見下ろし睨みつけていた。
「あいつはそんなんじゃない。お腹の赤ん坊のために足掻いて足掻いて足掻きぬいて生きようとした。あの時も私に付き合わず逃げれば良かった。それでも正しい事をした。トップスピードを侮辱するのは許さない」
細波は花奈とは対照的に静かに言う。明確な怒りと敵意のようなものが言葉に込められその念の大きさは花奈に負けていない。そして発せられる迫力と圧は凄まじく、この世界で会ったどの暴走族よりも上かもしれない。
花奈も一瞬気圧されるが10万人の暴走族を率いるトップだ、簡単に吞まれない。額を相手に額にくっつける程顔を近づけ睨みつける。
「でも大切なものを守れずに死んだ。捨てられた奴にとっては弱さだ。アタシはどんな事があっても覇威燕無礼棲を、大切な物を守り抜く。
先程とは一変し細波のように静かにかつドスが利いた声で喋る。その迫力と圧に今度は細波が気圧されていた。
「ヤジ帰るぞ」
花奈は細波の手を振りほどき立ち上がるとバイクを停めている方向に踵を返す。これ以上一緒にいれば喧嘩になると判断したのだろう。あいつなりの細波への配慮とつばめの墓前で喧嘩しないという良心だと思いたい。
殺島は2人に頭を下げ口パクで悪いと喋り花奈の後を追った。
♢姫河小雪
リップルがあそこまで感情を露わにしたのを初めて見た。だが気持ちは分かる。トップスピードの最後は魔法の国が調べたレポートとリップルの話を聞いてある程度知っている。
トップスピードはリップルと協力して無差別テロをしていたカラミティ・メアリを倒したが、スイムスイムの不意打ちを受け命を落とした。
リップルの言う通りお腹の子供と生きる為には逃げればよかった。それでも人々を守るために戦った。まさに清く正しい魔法少女だ。その行為を否定し貶されれば怒るのは当然だ。
「ごめんスノーホワイト、勝手にキレて場の空気を悪くして」
「リップルは悪くない。私もそうちゃんやアリスをあんな風に言われれば怒る」
「ありがとう」
リップルは礼を言った後頭を冷やすと言って距離をとりながら歩き、小雪はその数メートル後方をついていく。リップルから独り言と舌打ちが聞こえてくる。これは生島の暴言に対する怒りや苛立ち、そして理解してもらえない悲しさと不可解さが綯交ぜになった感情がさせている。
生島がトップスピードとの思い出を語る時は好意に近い感情が滲み出ていた。あれは嘘偽りのない感情でリップルも分かっていた。しかし突然罵倒した。
もしスノーホワイトに変身していれば困った心の声を通じて本心や心境の変化を察知できたかもしれないが、人間の姫河小雪では心情を理解できるほどの洞察力はない。
墓地の正門を抜けて最寄りのバス停に着き、次のバスが来るまでベンチに座らず立ちながら待つ。まだ話しかけづらい空気なのでスマホでもいじろうと取り出した。
──本日の未明から早朝に富士山付近で暴走族による初日の出走りと呼ばれる暴走行為が行われ、警官を含め死傷者100名を超える事件が起きました。
──上司が暴走族の走るルート上に家が有ったみたいで騒音のせいで息子さんがノイローゼ、上司がたまらず文句言いに行ったら病院送りにされて今でも入院してるってさ
──暴走の準備として警察の目をひきつけるために放火したけどバレたら困る
──今や暴走族は社会問題になっています
突如脳内に情報が溢れかえる。なんだこの記憶はまるで知らない。突然の出来事と情報量に思わずその場に座り込む。数秒後には収まったので呼吸を整えながら、押し寄せた情報を少しずつ整理する。
突然大量の情報は全て暴走族に関係する事柄だった。それらの情報はニュースや公共機関で移動中での乗客の世間話、そして魔法で聴いた困った声だ。
暴走族は今や大きな社会問題になっている。深夜に国道などを走行し大音量のエンジン音やラッパ音による騒音、スピードオーバー、蛇行運転、はたは逆走などの危険運転。それらにより人々の健康は害され、交通の妨げや危険運転による交通事故を引き起こす。
そして暴走族においての最大グループはハイエンプレスと呼ばれる集団で本拠地は地元N市だ。その特徴して暴走行為を円滑に実行するために放火をして警察の目と人手を割かせる。何て邪悪な行為だ。己の欲望のためにここまでやるだなんて本当に人間か?
さらにハイエンプレスは圧倒的な数を誇り、暴走行為を止めようとする警察や機動隊を次々と打ち倒し屍の山を築いてく。もはや警察ですらハイエンプレスを止めらないそうだ。
こんな危険な集団が日本に居るとは驚きを隠せない。このままでは不幸な人々が増え続ける。本来であれば魔法少女として介入して解体に追い込むはずだ。
なのに何故
まるで悪事ではなくどうでもいい情報であると処理していたようだ。考えられる可能性は魔法だ。何らかの魔法により暴走族についての記憶を消されたり認知できなくさせられた。
「ファル、レーダーの感度を最大限にして魔法少女が居るか確認して」
小雪はバッグから電子妖精のファルが入っているマジカルフォンを取り出す。ファルの機能として魔法少女の存在を感知できるレーダーが備わっている。ファルは突然の指示に慌てながらもレーダーを起動した。
「範囲外に魔法少女反応なしだぽん」
魔法少女は範囲外にいない。範囲外から魔法を発動あるいは解除した。それか範囲内で発動あるいは解除してからファルがレーダーを使う間に範囲外に移動した。
発動したらいつ頃からか?そして何故今解除した?魔法をかけたとしたら暴走族を知られたくないからであり、暴走族関係者だろうが解除しては意味がない。
小雪は推察を進めるがリップルの事を思い出す。すると同じようにしゃがみ込んでいた。傍に駆け寄り耳打ちする
「魔法をかけられたか解除された。もしかしてリップルも?」
「急に色々と思い出した……」
「もしかして暴走族ハイエンプレスについて?」
「そう……」
リップルは魔法の影響か少し混乱しているようだ、情報を整理するように「花奈、そこまでだったの」「いや、でも」と独り言をつぶやいている。
ターゲットは自分とリップルだった。相手の目的は何なのだ?まるで皆目見当がつかない。しかしこの出来事で今後の優先順位が一気に変わった。
◆???
少女は茶髪を靡かせて悠々とバス停を過ぎていき、聞き耳を立てながら後ろに居るスノーホワイトとリップルの様子を確認する。
やはり持つべきは友人か、こんな便利な魔法を持ちながら魔法の国に認知されていない野良魔法少女だなんて本当にありがたい。
入念な準備の結果、事は順調に運んでいる。このまま予想通りに進んでも良いし、思わぬ結末になってもいい。彼らなら最高傑作だった前作に匹敵する物語を紡いでくれるだろう。
ここからは起承転結の転だ、さあどうなる暴走族と魔法少女。