♢スノーホワイト
スノーホワイトはいつもの集合場所である鉄塔の上で辺りを見渡す。無意識なのか右足で何度も軽く足踏みをしてカンカンと乾いた音が響く。
日本最大の暴走族ハイエンプレス、その本拠地がここN市だった。なぜか暴走などの迷惑行為を知らず存在を気にしていなかった。何かしらの魔法をかけられたのは間違いない。誰が何のために魔法をかけたのかを調べることは重要だが、最優先事項ではない。
これ以上の迷惑行為を阻止すべくファルに動向を探るように指示を出してすぐだった。謎のメールでハイエンプレスが全国統一記念として、N市周辺を出発地点にした暴走計画を立てているという情報が送られた。送り主はファルをもっても分からずガセネタの可能性があったが、ファルの調査で情報の信ぴょう性が高く事実であると判断する。
参加人数はおよそ10万人、その大人数が暴走行為をすればどれほどの被害が出るか分からない。さらに警察が止めようとすれば被害は拡大する。
そして最も恐ろしいのが放火だ、警察の目をひくために民家を放火するという邪悪な行為を常套手段とし、今回の暴走でも間違いなく実行する。そして実行日は今晩である。
まずは周囲地域を担当している魔法少女と連携して放火の阻止、魔法少女は縄張り意識が強く他者の介入を嫌う。魔法少女の慣習からして放火の阻止は過剰な介入と捉え、無干渉でいる可能性が高いので、実行犯の居場所だけ教えてもらい、こちらで捕まえる。
それだけなら此方が下手に出てお願すればいいのだが、近隣の担当の魔法少女が戦闘力だけを求め人助けや善行に無関心、あるいは悪党魔法少女であればスノーホワイト達だけで防がなければならない。そうなると最悪防げない可能性も出てくる。それだけ人海戦術による放火はやっかいである。
そして放火を防いだ後は2手に別れて暴走するハイエンプレスを潰す。その役割はスノーホワイトとリップルがする。N市が本拠地の暴走族の迷惑行為はN市担当魔法少女が始末するべきだ。
すぐに周辺魔法少女との調整をしなければならないのだが、リップルが直接話したい事があると呼びよせてこの場所に来ていた。
暫くするとリップルが近づいてくる。夜では無いので周囲の目も多く、周りに見つからないように鉄塔を駆け上がってくる。
「話って何?」
スノーホワイトは無意識に苛立ちをぶつけるような厳しい声色でリップルに問いかける。一方リップルの表情は弱弱しかった。
「ごめんスノーホワイト、ハイエンプレスの襲撃には参加できない」
「え?」
スノーホワイトはリップルのあまりにも予想外の言葉に口を開けて思わず呆けていた。
♢リップル
「なんで?ハイエンプレスは危険だよ、放置していたら多くの人に被害が及ぶ。今すぐにでも潰さないと」
スノーホワイトが驚きながらも懸命に説得しようと言葉をかける。その言葉はぐうの音も出ない程正しく、魔法少女であれば頷くしかできない。1年半前であれば2つ返事で頷く。それどころか独断専行して襲撃していた。だが今は違う。
「暴走するのは悪いのかな?みんなバイクで走りたくて仕方がなくて、それなのに警察が邪魔するから仕方がなく応戦して火の粉を振り払っているだけ、放火だって警察の目を逸らすために仕方がない」
スノーホワイトは狂人を見るような目で見つめる。こんな冷たくて敵意すら籠っている目を向けるのは初めてだ。それだけ狂った言動なのは分かっている。だがこれは本音がそれなりに入っている。
バイクに乗って花奈とのツーリングは最高に楽しい。法定速度を無視して危険運転などをして快楽を求めた。その結果誰かが被害を受けたかもしれない。そうだとしても仕方がないと驚くほど割り切れてしまう。それだけ暴走を優先してしまう。
初めてバイクに乗った日、日中帯のツーリングに満足できず夜にもツーリングしたいと花奈に要求した。そしてその日の夜、集合地点に集まり出発しようとした時に何者かが邪魔してきた。
邪魔した理由は花奈への復讐、女性の娘が花奈に轢かれたらしく恨み言をぶつけていた。普通の人間であれば女性を憐み、花奈を非難する。だがその悲痛な訴えを驚くほど冷めた心境で聞いていた。
それどころかツーリングの邪魔するのではないと怒りすら覚え、その結果女性を蹴っていた。そして怒りをぶつける様に女性にダメ押しして、雇われたゴロツキも必要以上に痛めつけた。
そしてツーリングが終わり酒盛りしていた時に花奈が轢かれた娘は暴走の邪魔をしたから轢いた。暴走の邪魔をするなと怒りをぶつけていた。そんな身勝手で狂った理屈に深く同意していた。
一般的な人が持つ倫理観が極端に薄れ暴走やバイクで走るのを優先してしまう異常な生物、そんな生物に自身はなってしまった。
「それにハイエンプレスにはトップスピードの夫さんがいる。暴走行為でトップスピードを失った悲しみを癒した。もしハイエンプレスが消滅したら立ち直れないかもしれない。そしてハイエンプレスのリーダーは生島花奈、私の友達だ、花奈は暴走できない辛さに耐えながら懸命に耐えて必死に頑張ってチームをここまで大きくした。友達が大切にしているモノを奪えない」
スノーホワイトはハイエンプレスを解体しようとしている。存在を認めず今後一切暴走させないように徹底的に潰すつもりだ。
花奈はハイエンプレスを何より大切にしている。メンバーと一緒に暴走するのを心から楽しみ生き甲斐にしている。そしてトップスピードの夫も同じだ。友人と友人が愛した男性が大切にしているものを奪いたくない。
「リップル、本気で言っているの?」
スノーホワイトは驚愕と悲しみを帯びた目でリップルを見つめる。魔法少女狩りで感情を表に出さないと魔法少女界隈では評判のスノーホワイト、リップルの前ではそんなことはないが、付き合い始めてからの当初より感情を見せなくなった。だが今は当初以上に感情を見せている。
「リップル、ハイエンプレスがやることはメアリがやったこと以上の被害を出す。あの時は止めようとしたのは何で?」
「それは……」
罪のない人を見捨てたら魔法少女ではなくなってしまうから、少しでもかつて憧れた魔法少女になりたかったから。当時の心境が鮮明に浮かび上がる。
「私は魔法少女じゃない!清く正しくなくて花奈達と同じ自分の欲求を最優先にする異常者だ。花奈達の気持ちも理解できるし、友達を傷つけたくないって欲求を優先する。だから手伝えない」
リップルは迷いを打ち払うように叫ぶ。友達を、トップスピードの友達を愛した男性を悲しませたくない。内から湧き上がる欲望をそのまま口に出す。
「だったら何で魔法少女に変身してここに居るの?何で今までパトロールして人助けしたの?リップルは魔法少女だよ」
スノーホワイトは包み込むように両手を握る。その温もりから魔法少女としての想いとスノーホワイトの想いが伝わってくる。
スノーホワイトも悪党魔法少女を捕まえるという魔法少女狩りという生き方を選んだ。それは暴力を伴う描いた理想の魔法少女とは違っている。
かつてはスノーホワイトに憧れていた。けれど現実の過酷さに理想とはかけ離れた生き方を選び、少しでも理想に近づこうとする姿に憧れている。そんなスノーホワイトの為になりたいと魔法少女として偉くなろうと尽力していた。
そしてスノーホワイトはまだリップルは魔法少女であると肯定してくれる。答えは最初から決まっていたのだ。
花奈の味方になるなら言う通り魔法少女をやめて傍観すべきだった。それか倒して邪魔するのを阻止すべきだった。だがそれすらせずに手伝えないと伝えるだけだった。
花奈の気持ちは痛い程理解できる。だがやりたい事は社会にとっては害であり悪事だ。
そして欲求を満たそうとすればいずれ大きな力に潰される。それこそ今魔法少女のスノーホワイトが潰そうとしているように。
人間が魔法少女には決して勝てない。殺されはしないがいずれ暴走したいという気持ちは暴力によって折られる。今のスノーホワイトはそれをする覚悟がある。
だとしたら友達として魔法少女として何ができるか?少しでも傷つけず暴走を辞めさせる。そして少しでも暴走の代わりになるように支える。
「そうだった。私は魔法少女だ。魔法少女としてハイエンプレスを止める」
リップルは自身に言い聞かせるように呟く。その言葉にスノーホワイトは安堵の表情を浮かべている。もしかすると魔法少女を辞めるかもしれないと不安に思っていたのかもしれない。だとしたら申し訳ないことをした。
「それでどんな手筈になってるの?」
「近隣の魔法少女に放火犯を見つけてもらって2人で捕まえる。その後に二手に分かれて集まっているハイエンプレスを私とリップルで叩く」
「分かった。あと潰す時にやって欲しいことがある。それをやれば効果的に心が折れると思う」
◆ガンマ
最初は傘下のチーム同士でいざこざでも起こしていると思った。だが聞こえてくる声は相手を威嚇している声だったが、相手に舐められないようにというより何かに恐れる自分を何とか奮い立たせようとする声だった。これは何かが違うと直感が訴えかけると同時に声がする方向に駆けていた。
「乗れガンマ!」
走っていると後ろから花奈の声が聞こえてくる。振り向くとバイクに乗っている花奈が声に従いバイクの後ろに乗る。大よそだが声のする方向は数百メートル先、バイクで行く方が数秒ほど速いぐらいで走っても大して変わらない。だとしたら走るはずだが花奈はバイクに乗った。
その数秒が惜しい程早く行かなければマズいのか、あるいはバイクに乗っていなければ対処できない何かと判断したのか、花奈の極道技巧はバイクに乗っていなければ使えない。
周りのメンバーは花奈と自分の姿を見ると活気づき声がする方向に走っていく。だがその活気は現場に辿り着いた瞬間に嘘のように消える。
この騒動を起こしているのは一人の少女だった。ぱっと見で同世代か少し下ぐらいか、ピンクのショートカットでセーラー服の白色にした感じの服を着ている。顔は整っていてモデルでもやっていけるほど美人だ。だが無表情で愛嬌は無い。
その美少女が棒の先端に包丁をつけたような武器を持っている。セーラー服美少女が持つには物騒だが不思議とマッチしている。
皆の活気を消したのはその容姿ではない、その起こした行動にだ。セーラー服は襲い掛かる暴走族に瞬く間に近づいたと思ったら暴走族は崩れ落ちている。速すぎて何をしたか分からないが明らかに人間業ではない。何らかの極道技巧を使っているのか?よく分からないがヤバすぎる。
ガンマが感じた危機感や恐怖は周りのメンバーも同様に感じていた。花奈も背中しか見られないが同じような感情を抱いているのは分かる。こんな花奈は初めてだ。
だが次の瞬間にそれらの感情は消え失せた。セーラー服は刃物を振るう。正確には動きは見えなかったが起こった出来事で察する。周りに置いてあったバイクが細切れになりチームのフラッグがビリビリに破かれていた。
「何してんだてめえ!!!!!!」
腹の底から叫ぶ。この瞬間人生で最もブチ切れた瞬間だった。
ガンマは感情に乏しかった。喜怒哀楽が小さく何をしても満たされなかった。刺激を求めて性行為を伴うパパ活をしたが楽しくも気持ちよくも無かった。そんな時に花奈に誘われて
暴走は本当に楽しかった。生まれて初めて心から楽しいという行為に出会えた。そして暴走に欠かせないものはバイクである。バイクが無ければ暴走は出来ない。
愛車は
暴走前には洗車しピカピカにし、無理な運転をして事故りバイクを半壊してしまった時は気づけば目から涙が出ていた。
愛車は自分にとって掛け替えのないもの、云わば息子か娘のようなものになっていた。それは他のメンバーも同様だろう。その息子か娘がセーラー服によって無惨に破壊された。
「ぶっ殺してやるよ!!!!!!」
目の前にいた花奈が同じように腹の底から叫び殺意をぶつけている。他のメンバーも同様に叫び殺意をぶつける。
ガンマはバイクから飛び降りると目を血走らせながらセーラー服に向かって駆け寄る。花奈の
花奈がアクセル全開でセーラー服をひき殺しにいく。セーラー服とお互いの距離は20メートル程度、ガンマの武器はチェーンを研ぎ澄ましたもので蛇腹剣と呼ばれる刃物で間合いは槍や薙刀より広いがバイクの方が速い。だから花奈のアシストをする。
ガンマの極道技巧
まずは技巧を使い自分の存在をアピールしセーラー服の意識を向かせる。するとセーラー服はこちらに視線を向けたので視線を合わせる。
そこからは視線誘導や息遣いや仕草によって背後から襲い掛かってくる者がいるように錯覚させる。これが極道技巧
気を逸らされた瞬間に花奈がひき殺す。万が一気づいても花奈のバイクを辛うじて躱すのが精一杯だ、そこから花奈の極道技巧で殺す。
セーラー服は背後を振り返るどころか一切意識を向けず花奈に視線を向ける。極道技巧が全く効いていない。
花奈はバイクでセーラー服に突っ込みセーラー服は動こうとすらせず、両手で持っていた武器を右手に持ち空いた左手を前にかざしバイクを受け止める。
普通なら腕がグシャグシャになり撥ね飛ばされるはず、だが撥ね飛ばされるどころか体はピクリとも動いていない。人間離れしたデルタですら腰を落として両手を使わなければ受け止められない。本当に人間か?
だが花奈はそれすらも予想していたのかシートから立ち上がり前方に跳び背中に背負っていた2本の刀を振り下ろす。これは花奈がバイクを止められる化け物用に考案した極道技巧
通常は跳び膝で顎を蹴り抜くと同時に頭頂部に肘を振り下ろす。だが今回は肘ではなく刀だ。いくら化け物でもバイクの正面衝突を受け止めれば動きが鈍るはずだ。これは決まる。脳内でセーラー服が血飛沫を上げて倒れる姿が浮かび上がる。
だが現実は違った。花奈が振り下ろした刀はセーラー服に届く前に砕け散り、無様に着地し勢いそのまま前方にゴロゴロと転がり止まってからはピクリとも動かない。
あり得ない!?絶対に決まった筈なのに!?何が起こった!?
ガンマの脳内では疑問符と動揺で埋め尽くされる。そして気が付けばセーラー服が接近し意識が途絶える。
ハイエンプレス4強の2人が瞬殺された。何て強さだどう考えても人間じゃない。なぜこうなったのか分からない。だがどこで何をしたのか分からないが、化け物の逆鱗に触れてしまったらしい。