◆殺島飛露鬼
殺島と即座に声が聞こえる方向に駆ける。声は相手を威嚇している声だったが、相手に舐められないようにというより何かに恐れる自分を何とか奮い立たせようとする声だった。何かが起こっている。
殺島は懸命に走るが判断ミスに気付く。殺島は特攻服に大量のリボルバーをつけている。いわば数キロの重りをつけて走っているようなものだった。スピードは遅く何より疲れる。離れた場所に止めていたバイクに向かえばよかった。
「何が起こってる?」
「わからねえよ
走りながら周りのメンバーに状況を尋ねるが答えは帰ってこない。皆も何が起こっているか分からないようで、その場で留まっている者もいる。中には襲撃かと騒ぎながら騒動の場所に向かう者もいる。
数十秒ほど走り騒動を起こしている人物を目撃する。最初に浮かんだ単語は忍者だった。赤いマフラーにくのいちが着るような服を着ていた。黒色の長髪を手裏剣の形をした髪留めのようなものに結ったヘアースタイルもますますそれっぽい。
そして左目は切り傷のようなもので塞がれて左腕も無い。何とも凄味がある姿だ、極道でもこれほど威圧的な姿をしている者はいなかった。
まさかこの世界にも忍者が居るのか?聖華天の5万人が殺されたあの日の忍者達、帝都高速で暴走した時と戦った忍者、その時の記憶がフラッシュバックし足が止まりかける。
しかし喝を入れて足を動かす。ここで逃げたら花奈が愛した覇威燕無礼棲のメンバーは全員殺される。対抗できるのは贔屓目抜きでヘルズクーポンを持つ殺島だけだ。
女忍者はメンバーを倒していく。そう倒すだ殺すのではない。これを見て女忍者は前世の忍者ではないと断定する。忍者だったら殺しているはず。
だが倒すといっても持っていたバットをへし折り、ナイフを指と指の間で捕まえてはグニャリと曲げるなど力を誇示しメンバーを恐怖で慄かしてから気絶させている。あれは二度と歯向かわないようにさせる戦い方だ。一見すると手心を加えて優しいと思うが決してそうではない。
周辺にはスクラップにされたバイクが転がっている。バイクは暴走族の魂だ、少し傷をつけられただけでも一般人だろうが警察だろうが容赦なくボコボコにするほど大切なもの、もはや相棒や家族といえるものだ。
それを意図的に破壊して暴走族の魂を破壊し尊厳を踏みにじろうとしている。肉体的ダメージはないが、精神的ダメージは計り知れなくエグイ。どうやら相手はそれなりに暴走族の生態に詳しいようだ。
そしてバッドをへし折りナイフを曲げる膂力、忍者ではないが忍者並の身体能力だ、これは推定魔法少女なのか?
女忍者について推察している間にデルタが約10メートル手前で両手をついて身を屈めている。あれはデルタの極道技巧「仁王の如し」だ。単純に言えば相撲の立ち合いからのブチかましなのだが、デルタの心技体が極道技巧までに昇華させた。
その威力は普通の人間が喰らえば紙切れのように吹き飛び、バイクを吹き飛ばし、車との正面衝突とも互角だった。
だが通用しない。ヘルズクーポンを使っていればワンチャンあるかもしれないが素面では忍者クラスの推定魔法少女には通用しない。
案の定デルタの極道技巧「仁王の如し」は女忍者に平然と受け止められ一ミリも体を動かせなかった。表情は見えないがデルタは驚愕しているのがありありと見える。
すると女忍者はデルタを引き剥がすと足を肩幅まで広げると右足を天高くあげ振り下ろす。四股、相撲の代表的な動作だ。
「デルタ!」
殺島は思わず叫ぶ。女忍者はデルタが相撲を得意にしていると判断し挑発の意味で四股を踏んだ。そして挑発に乗ったデルタと相撲をして如何ともしがたい実力差を見せつけ心を折るつもりだ。
殺島が女忍者に辿り着く間、イメージした光景が忠実に再現された。女忍者の挑発に乗ったデルタは相撲を挑む。何度も投げ飛ばされ地に塗れる。白かった特攻服が茶色に汚れていく。
それはデルタと相撲の話になった時にきいた入門したての相撲取りが先輩の相撲取りに何回もぶん投げられ力の差を思い知らされるというのを思い出す。そしてリボルバーの射程距離についた時にはデルタはすでに気絶させられ地に伏していた。
「
「デルタさんが……」
周りにいたメンバーが信じられないと弱弱しい声で呟く。辞めたといえどデルタにとって相撲は誇りであることは多くのメンバーが知っていた。そのデルタが相撲で挑まれたからにはデルタがタイマンで挑むべきであり手出しはできない。これが普通の喧嘩だったら加勢していた。
そして覇威燕無礼棲素手最強の男の土俵である相撲で負けたという事実はメンバーを失意のどん底に落とした。
「お前ら下がってろ、こいつはオレが
デルタと女忍者を囲っていたメンバーは殺島の数十メートル先まで下がっていく。先程の状態で戦えばリボルバーの流れ弾がメンバーに当ってしまう。
「
殺島はリボルバーを取り出しながら話しかける。実際には効果てきめんで多くのメンバーが絶望に沈み込んでいる。
「だがやり方が気に入らねえ。魔法少女のやり方じゃねえな、お前はこの
メンバーの士気高揚のために強い言葉を吐く。その言葉に希望を抱いたのか後ろから
殺島は推察を隅に追いやり忍者を睨みつける。勝つ自信は全く無いが、勝たなければ覇威燕無礼棲は潰される。そして視線を忍者から地に伏しているデルタに移す。
デルタは相撲を辞めたが相撲を愛していた。常に力士にリスペクトを払い今でも相撲のトレーニングを欠かしていない。その相撲でデルタを虚仮にした。
もし女忍者の立場で覇威燕無礼棲に怒りを抱いていたなら同じ方法をとる。分かっているが気に入らない。
仮に女忍者が魔法少女だとする。だとしたらこんな方法はとらない。キューティーヒーラーであればあり得ないが人間と戦うとしたら瞬殺してくれる。こんな大切なものを踏みにじるような戦いは絶対にしない。
花奈が愛しメンバーが愛する覇威燕無礼棲を潰そうとしているだけでキレているが、魔法少女らしからぬ仕打ちも加わり、この世界に来てから最もキレていた。最早推定魔法少女に対する恐れはこれっぽっちもない。
「折角だから
少しでも勝つ可能性をあげるためにベストの状態にしておきたい。普通なら応じるわけが無いがデルタを相撲で倒すという戦いかたをする女忍者なら応じる可能性はある。
女忍者はこちらをじっと見つめる。それを同意と見なしメンバーに指示を出し自分達を囲むようにバイクを設置させ、直径40メートルの円形の即席リングを作り、メンバー達を50メートル程度まで離れさせ、即席リングのなかでお互いの間20メートルの距離で対峙する。
「じゃあ、はじ……」
殺島は最後まで言い終えずに銃口を女忍者に向ける。口入れたヘルズクーポンはバイクを移動させている間に摂取済みだ。女忍者は銃口から外れるように右に動きながら背後を取ろうとする。
ヘルズクーポンは摂取すればネズミでも熊を倒せるほど身体能力をあげる。それでも忍者の動きを捉えきれず破れた。
相手が全力を出すまでもないと舐めているのか、数々の抗争を経て全盛期と変わらない状態で摂取したからなのか分からないが動きを捉えられる。銃口を左に動かしながら眉間や心臓に向けて左のリボルバーで弾丸を6発撃ちこみ、右のリボルバーも6発撃ち込む。
女忍者が当然のように左にサイドステップを踏んで躱す。ある意味予定通りだ、進行方向の先に地面に転がっていたバイクの残骸を使った跳弾が女忍者の顔面に向かう。これも躱すがのけ反ったので態勢が崩れ動きが止まる。
その僅かな時間で空になったリボルバーは女忍者に向けて放り投げ即座に次のリボルバーを抜き取る。この場所が高速道路であれば路面に弾丸をぶち込んで破片を宙に舞わしての極道技
だがここには河川敷で下は地面なので破片が無い。さきほども偶然にバイクの残骸があったので下からの跳弾ができたが常にできるわけではない。
ならば使い終わったリボルバーを利用する。女忍者にリボルバーを投げたが当てるつもりはない。右上空と左の足元付近に投げておいた。リボルバーであれば跳弾は可能であり女忍者の周りに投げることで三次元の軌道での銃撃が可能だ。
投げたリボルバーに向かって3発ずつ打ち込むために引き金を引く。女忍者はその場から動こうとするが左右後ろ斜めから襲い掛かる弾丸を身をよじって回避する。この弾丸は最初に撃った弾丸が囲んでいたバイクに跳ね返ってきたものだ。バイクを周りに設置したのはリングを作るのではなく跳弾できる素材のためだ。
その回避した時間で本人に向かって3発、跳弾で襲い掛かるように3発、投げたリボルバーにそれぞれ3発ずつ弾丸を撃ちこむ。体に向かった弾丸を回避するが即座に上下から弾丸が襲い掛かる。上の弾の一発は脳天に向かい残りの2発は右2メートル、左2メートルに外れた場所に向かう。下の弾も一発は右太ももに向かい、残りの2発は上の弾丸と同じように外れる。
全発急所に当てる必要はない、何発かは避けられたように周りに着弾するようにしておく、そうすれば避けるスペースを削れる。
女忍者はこの攻撃も身を屈ませ半身になってギリギリで躱す。そして同じように撃ち尽くしたリボルバーを周りに投げる。
勝つには短期決戦しかない。持っているリボルバーは16丁で弾丸は96発、この96発で息の根を止めなければ負ける。他の破壊の八極道ならともかく殺島ではクーポンで強化されても素手で勝てるわけがない。
ゼロコンマ数秒でも速く懐から抜き取り弾丸を撃ち、ゼロコンマ数秒でも速くリボルバーを相手に投げ、ゼロコンマ数秒でも速く相手の動きと跳弾の軌道と動きを予測する。96発を打ち終わる時間までに全ての力を振り絞る。
8丁のリボルバーを使い切ったがダメージを与えられていない。だが前後上下左右から襲い掛かる弾丸に女忍者は大きく動けずその場で回避しつづける。その動きはダンスを踊っているようだ、忍者も負けはしたがこの状態になって弾丸が当った。だが女忍者には当たる予感がしない。
殺島は右のリボルバーを6発発射する。弾丸は忍者に当らず囲っていたバイクに当る。その瞬間バイクは爆発し、女忍者の背後が赤く染め上がると同時に破片が散乱し一部が背中に襲い掛かる。
それと同時に右のリボルバーを忍者に向かって投げる、左のリボルバーの狙いを定め破片に向かって発射し、即座に抜いた右のリボルバーを全弾撃ち尽くし、破片に跳弾させ忍者を狙う。跳弾した12発の弾丸が忍者に向かう。
空のリボルバーを使った狂弾舞踏会では当らないのであれば、さらに回避困難な攻撃をするしかない。
周囲を囲っていたバイクの燃料タンクに弾丸を撃ちこみ、タンクの中で弾丸同士をぶつけて火花を起して爆発させる。さらに飛んでくる破片に跳弾させて忍者に攻撃する。破片と銃弾の同時攻撃である。避けにくさは今までの比ではない。
高速で飛んでくる破片を跳弾させるのは宙に舞っている破片を跳弾させるより難しい。ヘルズクーポンを使用していても前世で忍者と戦った状態の殺島では不可能だった。
前世での経験と現世での経験、さらに前世では39歳だったが、今は18歳で肉体的全盛期、これらの要因で過去の殺島では不可能だった狂弾舞踏会を実現させる。
この攻撃はしたくはなかった。失敗する可能性もあるが、暴走族が暴走族の魂であるバイクを自らの手で破壊する。それは仲間の肉親をこの手で殺害するのと同じ意味である。
バイクを失った辛さは理解している。あとでヤキをいくらでも入れてもいい。それでも女忍者を殺す方法はこれしかない。
「は?」
思わず声が漏らしてしまう。12発の弾丸は急所と脚部に向かい、ショットガンの弾丸のようにバイクの破片が向かっている。弾丸が当らないにせよ、破片の一部は当たるはずだった。
女忍者は左右にステップを刻んだのは辛うじて見えた。そして悠然とこちらを見つめる。その体は傷一つもついていない。
ありえない。今のは生涯でベストの狂弾舞踏会だった。それにあの広範囲の破片、忍者ですら躱せない。それを意とも容易く回避した。
余りの出来事に殺島の攻撃の手が止まる。それを女忍者は見逃さず一瞬で間合いを詰める。その動き速すぎて黒色の風のように見えた。その瞬間腹部に痛みが走り意識が遠のく。
即座に悟る。デルタと同じように遊ばれていたのだ。本当なら即座に間合いを詰められたのにその場で避け続け勝てると希望を抱かせた。
僅かでも勝てると思っていたのが間違いだった。やはり推定魔法少女は忍者より強い、忍者に負けた者が勝てる道理はない。
そしてこれは警告だ、圧倒的な力を見せつけ次に暴走すれば痛めつけるという意思表示、これから花奈のところに向かい残りの5万人ものされる。せめて花奈が相手の神経を逆撫でしないで穏便にのされるのを祈るのみだ。
覇威燕無礼棲はここで終わる。皆の大切なものを守り切れなかった無念さを抱きながら意識を失った。
♢スノーホワイト
河川敷に停車しているバイクを回収してはルーラで切り分け積み重ねていく。エンジンの部分を切ってしまうとガソリンが漏れてしまい、最悪引火してしまうのでエンジン部分は切らないように注意する。リップルが言うには暴走行為を止めるにはバイクを破壊するのが効果的らしい。
5万台のバイクを積み重ねると山は1つだけではおさまらず、何個ものバイクの山が出来上がり。そして気絶し地を這っている暴走族達を見下ろす。
これで暴走による被害が抑えられた。安堵すると同時に後悔が過る。N市の暴走でも同じ手段を取っていたのだろう。自分が探知できていれば人々の命や財産を守れたのに。それと同時に暴走族への不快感に僅かに顔を顰める。
暴走族の集合場所であるA川の河川敷に向い無力化を開始した。リップルから出来る限り傷つけないようにお願いされ、相手の得物を破壊するなど人間離れした力を誇示するように指示され、そうすれば相手は恐怖し暴走する気にならないと言われた。
暴力を辞さなくなったが出来る限りは行使したくないので、そのお願いと指示はありがたかった。
そして襲撃の際には釘バットや鉄パイプや刀やメリケンサックなどを一つずつ奪い取りへし折ったり原型を留めない程曲げたりした後に気絶させ、目に付くバイクを破壊していく。
暫くすると眼鏡をかけた少女とバイクに乗ったポニーテールが向かってきた。周りから『ガンマさんとゾクメガミの四天王がやられたら困る』という声が聞こえてきた。彼女達は暴走族の中でかなりの強さのようだ。
眼鏡の少女がこちらを見ると何かをした。『後ろに注意を向けてくれないと困る』という声からするに後ろに注意を向けているのだろうが全く効かない。
そしてバイクに乗った少女がノーブレーキで突っ込んでくる。確実に殺す気だ、どんな倫理観をしているのだ?リップルに言われたように力を誇示するようにバイクを片手で受け止める。
するとバイクの少女はシートから飛び上がる背中に背負っていた刀を躊躇なく振り下ろす。片手で持っていたルーラで突いて刀を粉々にしてすれ違い際に気絶させ、眼鏡の少女を気絶させる。
これで最強クラスの2人を無力化した。戦意喪失すると思ったら全くそんな事なく立ち向かってきた。
「俺達が何したってんだよ!」
「何でこんな非道えことできるんだよ!」
「人の心がねえのか!」
(バイクが破壊されて困る)
(暴走できなくて困る)
(ハイエンプレスが潰されると困る)
口にする言葉や困った声が苛立たせる。暴走によってどれだけの人が苦しみ悲しんでいるのか知らないのか、いざ自分達が被害に遭えば被害者面している。
「貴方たちがする暴走行為のせいでどれだけの被害が出て、どれだけの人が苦しんでいると思うんですか」
「知らねえよ!俺達は暴走だけが救いなんだよ!
思わず眩暈がした。本当にそう思っているなら最早人間ではない。倫理観が根底から異なる異形だ。困った声でバイクが大切な物なのは分かり破壊するのに申し訳なさを感じていた。だが今は自責の念は一切なく壊せる。暴走族という人種は一刻も早く滅ぶべきだ。
最後に魔法の袋から書置きを取り出し、ガンマとゾクメガミと呼ばれた少女の上に置いた。
「リップル、こっちは終わったよ」
リップルに電話をかける。その声色は無意識に苛立っていた。一方リップルもこちらも終わったと悲しそうに告げ、N市の鉄塔で合流しようと告げ電話を切りこの場を去った。
♢リップル
リップルは舌打ちを繰り返しながらN市の鉄塔に向かう。暴走族ハイエンプレス、それは世間から見たら極悪集団であり滅ぶべき存在だ。それでも花奈にとっては大切なモノだ。それを魔法少女として破壊した。
二手に分かれて襲撃するという計画を聞いた時には密かに祈った、どちらかの場所に花奈がいる。出来れば花奈がいる地点にいきたくない。
そしてスノーホワイトに出来る限り暴走族を傷つけないように、そして単車を徹底的に破壊しろと伝えた。
単車は暴走族にとって子供であり相棒であると花奈から教えてもらった。その単車が無惨に破壊された残骸を見れば怒りより己の無力さに絶望し心が折れる。ある意味肉体を傷つけるより残酷だ。
現場に向かい花奈が居ないかをチェックしながら、人間離れした暴力で相手の得物を破壊し力を示し暴走族を無力化していく。
皆が恐れる事立ち向かっていく。実力差を理解できないほど馬鹿かと思ったが違う。自分や友の単車を壊された怒り、それか暴走するために実力差を理解しながらも立ち向かっている。
その気持ちは理解できる。同じ立場であれば自分の為に、友達である花奈のために走るのを邪魔しようとする存在に立ち向かう。
すると相撲のように身を屈めている男が居た。周りの反応からしてこの男が最強なのだろう。最強の男が無様にやられれば周りの心は折れる。デルタと呼ばれる相手には相撲で挑み如何ともしがたい力の差を見せつけ無力化した。
次はゾクキングと呼ばれる男が挑んできた。周りの反応から見てこの男がこの場のトップなのだろう、これを倒せば全員の心が折れる。そしてどこかで見た顔だが思い出せない。
男はこちらの意図を見透かしながら1対1を提案してきた。断る理由がないので了承するとゾクキングは僅かに嫌悪感を見せながら言い放つ。
『魔法少女のやり方じゃねえ』
感情を見せないように無表情を作る。この男は魔法少女を知っているのかという動揺も表に出そうだったが何とか抑え込む。
誰かが大切にしているモノを破壊し踏みにじる。それは理想とする魔法少女ではない。だが殺さずに暴走族を解体するにはこの方法しかない。
そしてゾクキングと呼ばれる男との戦いは実力差を見せつけて倒した。真剣にやっていなかったといえど、こちらの動きに合わせて銃口を合わせてきたのは明らかに人間離れしていた。それに跳弾の銃撃も人間離れし、破片と跳弾の攻撃は少しヒヤヒヤした。
もし破片と銃弾が魔法少女の魔法レベルの速度であれば避けられなかっただろう。だが普通の爆発した破片と銃弾の速度であれば避けるのは難しくない。
そしてゾクキングの目から光が失せる。あの攻撃が奥の手であったのだろう。あとは間合いを詰め気絶させた。
最強の2人を倒して心が折れたと思ったら暴走族は攻撃を仕掛けてきた。刀や釘バットを振りながら恨み言を叫ぶ。
「俺達がこんな仕打ちを受けるほど酷いことしたかよ!?」
「
「チームに入って初めて
自分の快楽や欲望の為に他者を傷つけ社会に迷惑をかけ、極めて利己的な生き方をする。それが暴走族である。まさに異常者であるがあと少しで同じ存在になっていた。
同情はする。けれど魔法少女として野放しにはできない。彼らがこれから訪れる絶望と苦悩に心痛みながら無力化していく。
「これからは別の事を楽しんで」
リップルは憐み祈るように無力化した暴走族にむけて呟く。するとスノーホワイトから連絡が入り、無力化に成功したという報告を受け鉄塔で落ち合う約束を取り付ける。
「お疲れリップル」
「お疲れ……」
N市の鉄塔上でスノーホワイトと合流する。スノーホワイトは労いの言葉をかけてくれるがぶっきらぼうに答える。正直気分はひどく落ち込んでいて、スノーホワイトに気を回す余裕がない。スノーホワイトも雰囲気か魔法で察したのか沈んだ顔をしている。
「スノーホワイト、花奈はいなかった?昨日トップスピードの墓であった女、ハイエンプレスのリーダー」
「分からない」
「じゃあゾクメガミとか呼ばれる女は?」
「その人はいた」
スノーホワイトの言葉に唇を噛みしめる。きっとハイエンプレスのリーダーなんて何かの間違いだ。あり得ないと思いながらも縋るような思いで問いかけた。だがスノーホワイトの言葉で確定した。花奈はハイエンプレスのメンバーで、大切にしているモノをこの手で壊した。
「どんなんだった?」
質問に対してスノーホワイトは言いよどむ。お願いだから答えてと強めに言うと恐る恐る口を開く。
「バイクに乗って私を轢き殺そうとした。バイクを止めたけどシートから飛び乗って上から刀を振り下ろした。あれは完全に殺す気だった。悪党魔法少女みたいに躊躇なかった」
魔法少女の中にはクラムベリーやカラミティメアリやフレデリカのように倫理観が壊れた魔法少女はいる。それは魔法少女だけだと思っていた。しかし人間でありながらそこまで躊躇がなく人が殺せるのか。信じられないと思うと同時に納得もする。
花奈にとってチームと暴走は生き甲斐だ。それを奪おうとする者がいれば躊躇なく命を奪うだろう。程度は違えどバイクで走りたいからと暴力を行使した経験から心情を理解できる。
魔法少女の圧倒的な力で屈服させ、次に暴走したら命はないと書置きで脅しておいた。これで暴走族の心は完全に折れチームは解散するだろう。命を捨ててまで暴走行為をしようとする者はいない。これで花奈は生き甲斐を失った。
リップルが花奈の生き甲斐になれるとは思えない。だが懸命にサポートし暴走の代わりになれる何かを一緒に見つけ出し悲しみを癒す。それは魔法少女としての善行であり、友達としての行いだ。
「私も出来る限り手伝うから」
スノーホワイトが心配そうに言葉をかける。困った声から心境を察したか。
「ありがとう」
リップルは僅かに笑みを浮かべながら礼を言った。