暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第42話 ノット・スーサイド・モーニング

◆殺島飛露鬼

 

 N市にある第七港湾倉庫前、ここはいつしか覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のたまり場になっている。本来なら10万人での暴走を終えた後に反省会やら感想会という名目で色々と語り合う予定でそこでは誰もが笑顔なはずだった。

 だが今は誰一人笑顔ではない。ある者は嗚咽を漏らしある者は怒りで唇を嚙みしめているが誰もが下を俯いている。通りかかった者はお通夜会場かと言ってしまう程空気は重々しく沈んでいる。

 気絶から醒めた後に見た光景は生涯忘れないだろう。ゴミ山のように積み上げられたバイク、バイクは暴走族にとっての命、それがここまで破壊された。

 メンバー達も徐々に気絶から醒めるとこの光景を見て叫び泣き崩れ呆然としている。ゴミ山の積み上げられたバイクを見て絶望するメンバー達、何とも心が抉られる光景だ。最初の人生を含めベスト3に入る程の悔しくて悲しくてムカつく光景である。

 それから十数分間は気絶から醒めた誰もが呆然自失としていた。するとパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 

「まだ起きてない奴は起こせ!撤退だ!各チームは地元に帰れ!」

 

 恐らく警察がここにやってきて逮捕しにくるだろう。最初はそこら辺に転がっている凶器の残骸から凶器準備集合罪で逮捕しそこから余罪を加えていく。そうなればブタ箱行きだ。

 普段なら難なく撃退できるが今は心をバキバキに折られ歯向かう気力がなく、為す術も無く捕まる。

 そこからは脇目も振らず走った。覇威燕無礼棲のメンバーを逃すのに精いっぱいで他の傘下のチームを気遣う余裕すらなかった。そこからは第七港湾倉庫前で落ち合う手筈で各々がバラバラに逃げた。

 そして無事に逃げおおせて第七港湾倉庫前に着くと自分達ではなく花奈達のグループも居た。

 春先ながら冷たい海風が吹きつけ体を冷やす。海風すら敗者に容赦ない。気分を紛らわそうと懐からタバコを取り出し火をつける。口の中で広がる好みの味が記憶を呼び起こす。

 聖華天が忍者によって文字通り半殺しされた時もこうだった。何とか逃げおおせて同じタバコを吸っていた。

 

「オレ達は片目片腕の女忍者に襲撃(かち)こまれてデルタとオレが打倒(のさ)れて、気がついたら5万人が打倒(のさ)れてバイクが全部廃車(スクラップ)にされた。気がついたら警察(イヌ)が来てたから逃走(にげ)てここにきた。そっちは?」

 

 花奈達のグループのメンバーは信じられないと息をのんでいるが同時に納得している様子だった。

 

「私達もピンク色のセーラー服の女に襲撃(かち)こまれて暴走族女神(ゾクメガミ)と私が打倒(のさ)れて、あとはそっちと同じ」

 

 ガンマが苦々しい顔を浮かべながら顛末を語る。いつもなら代表して花奈が話すのだが、今は生気を失った表情で地面を見ている。何よりも愛したチームが壊滅され、皆のバイクをゴミにされた。悔しさと悲しさと申し訳なさが交じり合い何もする気が起きないだろう。気持ちは痛い程分かる。

 

「私の極道技巧も一切通用しなかったし、暴走族女神(ゾクメガミ)女神の夢は止められない(インシブル・チャリオット)(バイト)も全く通用しなかった」

「俺もだ「仁王の如し」でも一ミリも女忍者を動かせなかった。その後は相撲勝負になったが新弟子みたいに投げられまくって打倒(のさ)れた。まるで小学生と横綱が戦ってたみたいだ」

「しかも女忍者は鉄パイプを飴細工みたいにグニャグニャにしやがった。ゴリラでも出来ねえよ」

「こっちのピンク髪のセーラー服はナイフをセンベイみたいにパキパキ折りやがった」

「あれは極道技巧とかそういう問題じゃない、生物として根本的に違う。ねずみと熊、いやアリと象ぐらいに差が有った」

 

 その言葉に全員が頷く。この場に居る全員が女忍者とピンク髪のセーラー服にのされた。

 それは一瞬だったかもしれないが、四天王と呼ばれる花奈達を倒し、釘バットなどの得物を破壊してから倒すというパフォーマンスを見せてから倒されたので強さは骨の髄までしみ込まされた。

 

「そして問題がこれ、暴走族女神(ゾクメガミ)の傍に置いてあった」

 

 ガンマが顔を引きつらせながら手に持っていたものを見せる。それは書置きのようなもので「もし暴走行為をしたらこの程度で済まさない」と書かれていた。

 

「こっちにもあった」

 

 殺島も皆に見えるように書置きを見せる。これは気絶から醒めたら傍に置いてあったものだ。内容もガンマが手に持っていたものと同じだ。

 

「暴走は本当に楽しい、これからもずっとやりたい。でも死にたくない……」

 

 ガンマは涙を流しながら呟く。死というのは絶対に起こると分かっていながらも現実離れした出来事だと誰もが思っている。

 だが抗いようのない暴力を体験しその張本人が次はこの程度で済まさないと意思表示をした。次に暴走したら殺す、誰もがそう解釈し簡単に起こると理解する。

 命より大切な物がある人間なんてごく少数だ、聖華天のメンバーも忍者の暴力によって暴走という最大の娯楽を手放して第2の人生を歩んだ。

 無意識に暴走以上に満たされる事はなく困難に押しつぶされる人生が待ち受けていると分かりながらも生にしがみついた。

 

「ここが潮時か」

 

 思わずポロリと呟いてしまう。花奈の為に、チームの為にずっと暴走させてやりたかったが忍者以上にヤバイのに目をつけられたらどうしようもない。

 仮に自分だけが暴走しようといっても誰もついていかない。誰もが女忍者とピンク髪のセーラー服の暴力に心が折られた。皆も口に出さないが覇威燕無礼棲解散を受け入れている。

 生きているだけで聖華天に比べてマシだ、これからは暴走という眩しすぎる黄金体験に囚われながら大人になって訪れる困難に心が折られ辛い日々を送るかもしれない。

 そうはならないように出来る限りフォーローしよう。暴走に逃げないぐらいに楽しい事や大人の困難に折れない心を養ってもらい、聖華天のメンバーのように20年後に暴走を決行しようといっても誰一人招集に応じないほど満たされた人生を送らせる。

 特に花奈は心配だ、誰よりも暴走を愛し焦がれ飢えていた。それを失えば生きる意味を失い廃人、最悪自殺しかねない。そうならないように暴走の代わりになるものになるものを探そう。

 もしそれがオレだと言われれば喜んで人生を添い遂げる。恋愛対象として見られず娘の花奈に誓った元妻以外を愛さないという約束を破ることになるが、あの娘は優しいから許してくれるだろう。

 

「まだだ!覇威燕無礼棲は終わってねえ!」

 

 場の空気をぶち壊すように花奈が声を張り上げる。

 

◆生島花奈

 

 目が覚めた時に見た光景は地獄だった。スクラップにされたバイク積み重ねられたゴミの山、そこにはガンマの、昇一の、皆の、そして自分の愛車が無造作に積まれていた。

 バイクは暴走族にとって娘や息子であり命だ、その目には自分や皆の息子や娘が虐殺され積み上げられた悲惨な光景として映っていた。

 

「ああああ!!!!!」

 

 憎い!皆が楽しみにしていた暴走を!大切な愛車を!チームの誇りを奪い踏みにじったピンク髪のセーラー服が憎い!それ以上に何も守れなかった弱い自分が憎い!

 つばめを大切なものを守れなかったシャバ僧と罵ったが、自分も何一つ変わらないじゃないか!強烈な自己嫌悪に陥りその後は覚えていない。気が付けばいつもの場所に居た。

 皆が悲しんでいる姿に自己嫌悪が深くなる。何がリーダーだ、ごめんヤジ、ごめんガンマ、ごめんデルタ、ごめん皆。朧げな意識だが会話が聞こえてくる。

 

──暴走は本当に楽しい、これからもずっとやりたい。でも死にたくない……

 

 傍に置かれていた紙は見た。暴走したら間違いなく全員殺される。あのピンク髪のセーラー服はそれができるのは充分に分からされた。自殺に巻き込むわけにはいかない。

 

──潮時だ

 

 ヤジが言ったのか、これ以上暴走できないなら解散するしかない。まさに潮時だ、暴走を諦め受け入れようとした。だがもう1人の自分といえる意志が強烈に拒絶し気が付けば叫んでいた。

 皆がこちらを見る。ガンマもデルタも目の光を失い死んだような目でこちらを見ている。ヤジですら無理だと目で語り掛けている。

 

「お前ら!答えろ!暴走したいか!したくないか!どっちだ!?」

 

 誰も質問に答えないので、目を伏せるメンバー達の髪を掴み強引に顔を上げさせ目を合わせる。誰もが何か言いたそうに口をモゴモゴしているが答えない。

 

「走りたい……」

「走りてえ……」

 

 今にも搔き消えそうな2つの声が聞こえる。その声の主はデルタとガンマだ。

 

「もっと暴走してえ、こんな楽しい事やめたくねえよ!暴走がなくなったら何を楽しみに生きていけば分からねえよ」

「日本が暴走族の本場になって、世界中から暴走したいって外国人が集まって皆で暴走したり、覇威燕無礼棲の皆で世界中を巡って暴走する。花奈のアホみたいに規格(スケール)がデカい夢を実現したい!」

 

 ガンマとデルタが思いの丈をぶちまけるように大声を出す。しかしその大声と勢いはあっという間に小さくなる。

 

「でも死にたくない。死にたくないよ……」

「あれは怪物なんて生易しいもんじゃねえ。それが2人もだ。覇威燕無礼棲が10倍になっても絶対(ぜってえ)勝てねえ」

 

 デルタとガンマは涙を流し、メンバーも釣られるように涙を流し弱音を吐く。走りたいでも死ぬのが怖くて走れない。それが悲しくて悔しい。それがこの涙だ。

 

「アタシは言ったよな!暴走するのがつまらなくて抜けるのは許す!でも暴走したいのに他の理由で抜けるのは許さないって!だったらアタシがぶっ殺してやる!女忍者もピンク髪のセーラー服も!だから皆で暴走するぞ!離脱(やめる)なんて絶対(ぜってえ)許せない」

 

 つばめは大切な赤ちゃんを守れずに死んだ。花奈は大切なチームを守れず皆を失意のどん底に沈めた。同じだと思っていたが違う。

 

 まだ生きている。まだやり直せる。まだ取り返せる。

 

 ここで諦めたらあれ程嫌っていたつばめと同じになってしまう!大切な物を絶対に守り抜く。絶対に奪わせない。

 

「花奈も分かってるよね。あれには絶対勝てない、暴走は二度と出来ない」

「うるせー!!!何があっても絶対にアタシが殺してやる!皆で暴走するんだ!」

 

 何の根拠も説得力もない唯の願望、そんな言葉に誰も賛同してくれない。皆もガキが駄々をこねているのを見ているような冷たい目線を向けている。

 そんなのは分かっている。それでも殺して暴走ができると思わなければ全てが終わる。

 暴走が無くなれば皆は楽しみや生きがいを無くす。何より暴走できなくなるのが嫌なのだ。暴走するなら命だって賭けられる。暴走は自分の全てだ。

 

「アタシじゃねえ、オレ達だ。あの女忍者とピンク髪のセーラー服はオレ達が殺してやる」

 

 花奈の必死の叫びを遮るようにヤジが賛同した。

 

◆殺島飛露鬼

 

 今回も前の人生と同じになると思っていた。だが花奈は許さなかった。

 走りたくなくなったという理由以外でのチームを抜けるのは認めない。それがルールだった。その為には金がないというなら金銭援助をして、誰かに脅されているというなら脅している奴をボコボコにした。

 暴走したいのに女忍者とピンク髪のセーラー服に脅されてできない。そんなのは花奈が許すわけが無い。

 花奈だって力の違いを痛感しているはずだ、それでも今にも折れそうな心を必死に支え立ち向かおうとしている。支えているのは暴走に対する情熱と執着だ。

 聖華天には暴走の為なら命を失ってもいいと思う程情熱と執着を持っている者はいなかった。もし花奈が聖華天のメンバーだったら解散に異を唱え暴走の障害になる忍者を生涯探し続ける。そして見つけて殺される。

 今も死ぬと分かっていても化け物2人を呼び出すために暴走して殺される。そんな事は絶対にさせない。

 生島花奈は娘の花奈ではない、それでも2度と花奈を失いたくない。それにこの人生は花奈がやりたい事をサポートすると決めたではないか、ならば忍者以上に強い推定魔法少女だって殺してやる。いや刺し違えても殺す。

 

「ヤジ!」

 

 花奈は今にも泣きそうな顔でこちらを見る。誰も同調してくれなくて淋しかったのだろう。こういうところはまだガキだ。花奈の肩に手を回しながら皆に語り掛ける。

 

「といっても現時点では殺すのは不可能(むりゲー)だ。だからハイエンプレスは休止だ」

「ヤジ!解散は許さねえって言ってんだろ!」

「解散じゃなくて休止だ、オレと暴走族女神(ゾクメガミ)が化け物2人をぶっ殺す方法を見つけ出すまでは暴走行為禁止、皆は潜伏(もぐ)ってもらう。それが何時まで続くか分からねえ。1年後かもしれないし、10年後になるかもしれないし、一生かもしれねえ」

「アタシとヤジが死んでも殺す。だから諦めないで暴走できる日が来るって信じて暴走欲を溜め込んでくれ」

 

 花奈がメンバー達に虚勢を張らず頼み込む。仮に推定魔法少女を殺せて暴走ができる環境になってもメンバーが集まらなければ意味がない。

 そして自分のように暴走が全てではないと感じている。だからこそリーダーとしての力強い姿を見せるのすら忘れて懇願している。

 

「オレと暴走族女神(ゾクメガミ)は人生をかけて化け物達を殺す。それでも殺せないかもしれない。だからお前らの助力(たすけ)が必要だ。少しでもいいからどうやって化け物を殺せるか考えて、どんな下らない事でも思いつたら連絡してくれ。全員で化け物共を殺すんだ」

 

 殺島は深々と頭を下げ花奈も同じように頭を下げる。藁でも掴むではないがどんだけ小さな力でも必要だ。

 

「分かった。オレも潜伏(もぐ)って鍛えに鍛えまくってやる。そしたらあの化け物みたいになってるかもな」

 

 デルタが笑い話のような軽い口調で喋りながら殺島と花奈の肩に手を置く。その手は熱く力強い。

 

「暴走欲なら問題ない。何年だって何十年だって溜め続ける。私達は暴走したい狂人(イカレ)共だから、ねえ皆!」

 

 ガンマが皆に問いかけるとオウと力強い返事が返ってくる。その反応に花奈の表情はあからさまに明るくなる。

 

「いくら化け物でもトラックで轢き殺せば死ぬだろ」

「それかタンクローリーだろ、轢いた時に爆破して炎上させれば死ぬって」

「それか毒殺とか、飯屋に来た時に毒入れて殺すんだよ」

 

 それから皆で朝までどうやって推定魔法少女を殺すか語り合う。その様子はまるで遊びの計画を立てているようで、襲撃されて失意のどん底に居たのが嘘のようだった。話し合いは夜明けまで続き、朝日に照らされる花奈の顔はやけに眩しかった。

 そして翌日、覇威燕無礼棲は正式に活動休止を傘下のチームに通達する。推定魔法少女の書置きの内容を伝えたらすぐに了承してくれた。そして暴走族王と暴走族女神が必ず2人を殺して暴走できるようにする。だから力を貸してくれというメッセージを送ると即座に返事が届いた。

 

◆???

 

 茶髪でそばかすの少女はオブジェと化したバイクの山を必死に撤去している業者の姿を眺めながら昨日の出来事を振り返る。

 予定通りに進行しているが少しでも展開が違っていたら終わっていた。生島花奈の反骨心や暴走に対する情熱や執着には感謝だ。

 そろそろ直接介入する頃合いだ、遅くても早くてもダメだ、タイミングを見極めなければ。

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