◆殺島飛露鬼
目の前にある灰皿にはタバコの吸い殻が山盛りになっていた。部屋の中は煙草の匂いが充満し換気もしていないせいかどこかモヤがかかっている。
殺島はギリギリまで吸ったタバコを灰皿に入れて新しいタバコを取り出し火をつけ、口から吐き出された白煙をじっと見つめる。
聖華天は殺島を含め心が折れて解散した。だが花奈は絶対的な暴力の前にも折れず推定魔法少女を殺すと皆に誓い、解散ではなく活動休止となった。
今頃どうやって推定魔法少女を殺すか考えているだろう。そして殺島も同じ事に悩み解決策を絞り出していた。
排除する方法として最も可能性があるのは暗殺だろう。居場所を特定しライフルで狙撃、留守の間に爆弾を設置しての爆破などいくつかの方法がある。だがあの化け物に通用するかは分からない。
普通に狙撃を回避し爆破する前に逃げられる可能性もある。そもそも当たったとしてもダメージが無いかもしれない。ヘルズクーポンを使えば建物を爆破されても無事だったのだ、その可能性は高い。だとしたら人間の時にやる。
魔法少女だとしたらあの状態は人間が変身したものであれば24時間魔法少女の姿ではなくどこかで人間に戻るのでそこを狙い暗殺する。
これは魔法少女のアニメで得た知識を元に出した方法であり、実は生まれた時からあの強さで人間に変身した姿ではないという可能性もある。
そうだった場合は暗殺ではなく脅迫が有効だろう。家族や恋人や友人を人質にとり覇威燕無礼棲を邪魔をするなら殺すと脅せばいい。だが圧倒的な力を持つ魔法少女だ、どれだけ万全を喫してもその圧倒的な力で状況をひっくり返さられるかもしれない。
であれば暴力でどうしようも出来ない方法で動きを制限するしかない。美人局で対象に貢がせる。または連帯保証人になってもらう等して多額の借金を背負わせる。
それを盾にして借金の利息を止める。またはある程度減らすかチャラにするので暴走を見逃すと契約させる。
魔法少女は正義の味方でこの世界のルールで動く、違法な借金であれば暴力による無効化に正当性が出てしまうが、合法的に借金を背負わせれば明らかに騙されたとしても無理やり借金をなかった事にはできない。
これも魔法少女アニメを参考にした作戦で有り、極道のように法律を無視した暴力に寄り借金を無理やり帳消しにされたらどうしようもない。
あとは推定魔法少女の知り合いを社会的に抹殺できる動画をネット上にばら撒くといって脅迫する方法も有る。
借金であれば暴力によって借金を消してしまう場合もあるが、動画の場合なら危害を加えた瞬間にネットにばら撒くという時限式にすればいい。拡散されれば全てのデータをネットから消すのは不可能だ、いくら強くてもどうしようもない。
暗殺にせよ脅迫にせよ相手の正体を暴かなければ始まらない。メンバーに暴走させ、それを止めた推定魔法少女を尾行するという方法を真っ先に思いついたが、そうなると暴走したメンバーが殺される可能性がある。
そんなメンバーを捨て石にする方法は真っ先に花奈が反対するだろし個人的にもやりたくない。やるとしたら最終手段だ。調査方法についてはおいおい考える。
そして暗殺や脅迫が出来なかった場合は正面切って殺すしかない。仮に推定魔法少女1人対10万人でも100%負ける。それ程までの実力差なのだがそれを覆す方法を知っている。
圧倒的な強者である忍者を殺すために作られたヘルズクーポン、それを服用すれば圧倒的な身体能力と再生能力を得られる。通常はヘルズクーポン1枚を服用するのが一般的な使用方法だが、奥の手として2枚服用する方法がある。
2枚服用すれば爆発的に上がった身体能力がさらに上がり、忍者すら超えられるとヘルズクーポンの生みの親である破壊の八極道の孔富姐さんから聞いたことがある。
だが2枚服用すれば5分以内で死んでしまい、強靭な肉体と精神がないものが2枚服用した瞬間即死する。仮に2枚服用したらどうなるかと孔富姐さんに聞いたら即死するという答えが返ってきた。
可能性があるとすれば前世との違いだろう。あの時は39歳で肉体的には全盛期ではない。だが今の肉体年齢は18歳で数々の抗争を勝ち抜き鍛えられている。まさに肉体的には全盛期だ。
そして一時は折れたが花奈の言葉によって何としても推定魔法少女を殺すという断固たる決意が宿り精神面も充実している。可能性を賭けるとしたらこの点だ。
しかし実行するにもヘルズクーポンは手元に1枚しかない。ヘルズクーポンは様々な麻薬と漢方を絶妙なバランスでブレンドしたものと訊いている。あの世界的な名医の孔富姐さんが作り上げた名作、それをレシピ無しで作らなければない。
可能性があるとしたらヘルズクーポンを科学的に解析してレシピを作成だが、この世界の化学で出来るか分からず、出来たとしても今のコネクションで出来るとは思えない。
やはり正面切って倒すのは現実的ではない、推定魔法少女の正体を暴き交友関係を調査するのを主眼に置いて、出来る範囲で分析できる人間や組織に接触できるコネクションを作る。
大まかな方針は決まり花奈に報告しようとスマホをとった瞬間に花奈からメッセージが届いた。
◆生島花奈
23時30分Ⅿ市立第3小学校正門前、花奈はバイクのシートに座りながら煙草を吸う。足元には5本以上の吸い殻が散乱していた。
基本的に時間にはルーズだ、上手くいけば集合時間ピッタリに出発し着けばそれでよし、遅れても仕方がないと割り切ってスタンスを変えるつもりはなかった。しかし今は集合時間の30分前に着いていた。
今日の12時、スマホに一通のメールが来た。友達や知り合いとはメッセージアプリでやり取りしているのでメールは来ない。どうせ迷惑メールか商品の宣伝だろうと無視しようとしたが、画面に表示される件名が目に留まる。
──覇威燕無礼棲を壊滅に追い込んだ2人の倒し方を教えます。明日の0時にⅯ市立第3小学校の校庭に来てください。
覇威燕無礼棲が化け物2人に壊滅されたのはメンバーしか知らず、仮に誰かが喋ったとしても誰も信じないのでこの情報が広がることはない。
メッセージの送り主に対する警戒心が高まる。あまりにも怪しいので普段なら無視するが現状ではそうはいかない。
暴走する為にはあの2人を殺さなければならないが、どんなに頭を捻ってもアイディアが思いつかず、限りなくガセ情報でも飛びつき確かめる必要がある。
時間が過ぎいつも通り0時ピッタリに着くように出発しようと考えたが思い直す。仮に遅刻して来たら相手は怒って帰ってしまうかもしれない。どうせガセ情報でイタズラだと思いながらも本当だとして遅刻したせいで教えてもらえないとなると困る。
絶対に遅刻しないようにと時間30分前に着くように出発し丁度ピッタリ30分前に着いた。
待つのは嫌いだ。この30分でどれだけ楽しい事が出来ただろう。だからこそ楽しい事少しでも長くするために集合時間ギリギリに着ていた。
だが今は立場が違う。皆も遅れても仕方がないと許してくれたがそれは友達でチームのリーダーだからだ、だが今はそれが通用せず相手の方が立場は上で、こちらは機嫌を損ねないようにしなければならない。
花奈はタバコを吸いながらスマホをいじる。足元の吸い殻は8本になっていた。この吸った本数は待っているイライラもあるが日頃のストレスのせいだ。
暴走は人生において最高に楽しい遊びで生き甲斐だった。そして化け物2人に襲われて以降暴走はしていない。あの2人に最高の遊びと生き甲斐を奪われている。
それは予想を遥かに凌ぐ辛さと苦しみだ。気が付けばタバコを吸う本数が明らかに増えていた。
タバコはかっこいいから暴走族っぽいからという理由で吸っているだけで特別に好きではなく、いつでも止められると思っていた。だが今は無理だろう。タバコは精神安定剤として無くてはならない物と化していた。
しかしそれも限界が来る。タバコなんかじゃ暴走の代わりにはならない、いずれ我慢の限界が来て暴走するだろう。
覇威燕無礼棲を結成する前なら我慢できた。だがこの約1年半はあまりにも楽しかった。一度味わってしまったからには我慢なんてできない。
界隈ではクスリが流行っていて、知る限りメンバーでやっている奴はいないが、ヤジやデルタの学校ではやっている奴がいるらしい。
クスリが体に悪いのは知っている。なのに何でやるのかとバカにしていたが今は充分に分かる。暴走が花奈にとってのクスリだった。そしてメンバー達にとってもだ。
やっている奴らにはクスリが最高に楽しくて辛い現実を忘れさせてくれる。メンバーも暴走が最高に楽しくて辛い現実を忘れさせてくれる。
皆は花奈よりジャンキーではないので我慢できるかもしれないが、耐える日々は辛く苦しいはずだ。それに耐えきれず暴走を決行すれば今度は殺されるかもしれない。どちらも不幸だ。なんとしても化け物2人を殺し暴走が出来るようにしなければならない。
正門に着いてから15分後、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてくる。ヤジのバイクの音だ、どうせガセだが念のために呼んでおいた。話が嘘か本当かの判断や交渉の上手さはヤジの方が上だ。
「遅えぞ!」
最悪遅刻してもいいので0時集合と伝え、15分前に来たので何一つ悪くないのだが、イライラして思わず八つ当たりしてしまう。
「ワリいな。待たせちまった」
ヤジは足元に視線を向けた後にいつもの人懐っこい笑顔を見せて謝る。悪くないのに謝らせてしまい申し訳なさとそんな自分がムカつく。
「ヤジは調子どうだ?暴走できないけど大丈夫か?」
「まあ
ヤジは肩を竦めながらタバコを取り出し吸う。察しの通り人生で最悪の日々が続いている。
「よし、揃ったし入るか、もしかしてアタシより前に校庭に来てるかもしれねえ、それだったら待たなくてすむ」
2人で正門を乗り越えて数10メートルほど歩き校庭の入り口に差し掛かると中心らへんに人影が見える。イタズラと思ったが本当に来ていたのか、もしかして本当なのかと期待を抱くが直接話してから騙すパターンもあるので気を引き締める。
スマホのライトをつけて人影に向ける。茶髪でジャージ姿のそばかす顔の女だ、ヤジに視線も向けると同じように姿を現すとは思っていなかったようで、驚きながらもすぐに表情を引き締めている。
相手の5メートル手前まで近づいて止まる。よく見ると顔は美人だ、そして雰囲気はこちらを騙そうとする意志は感じられず、抗争相手のように喧嘩を売る感じではない。そこら辺にいるパンピーなのだが、第六感が警戒するように囁く。
「メッセージを送ったのはお前か?」
「ええ」
「それでどうやったら殺せる?」
相手の情報も世間話も要らない。訊きたいのは化け物2人を殺せる方法を知っているかそうでないかだ。
「まず覇威燕無礼棲を壊滅に追い込んだのは魔法少女です」
「
質問に答えろと言おうとしたがヤジの声で遮られる。その表情と声はひどく動揺していた。その間に茶髪は話を続ける。
「魔法少女は人知を超えた力を持っています。それは2人も充分に理解しているでしょう」
「ああ、充分に
頭の中でやられた時の映像が浮かび上がる。刀が砕かれ一瞬で気絶させた圧倒的な身体能力、そして怒りと悔しさと悲しさがごっちゃになった嫌な記憶も同時に蘇り、唇を噛みしめる。
「そして2人には魔法少女になる才能が有る」
「なら早くならせろ」
無駄な会話を挟まず用件だけを伝える。感情を見せると相手に主導権を握られるとヤジから言われたのを思い出し、平静を装い強気な態度を見せるが内心では動揺していた。
本当に化け物と同じになれるのか?だとしたら再び暴走できる。あいつらに負けたのはその魔法少女ではなかったからだ、同じ魔法少女になれば絶対に負けない。
「ではなってもらいましょう」
茶髪はスマホのようなものを翳すと視界がまばゆい光につつまれる。最初に気付いたのは視界の変化だった。辺りの光源はスマホの光ぐらいで薄暗いはずなのに周りがやけにくっきり見えるし遠くもはっきり見える。
そして体の内側からエネルギーと呼べるような力が物凄い量で内蔵されている気がする。今なら何でもやれそうだ。
「
ヤジは目を見開き口を開けこちらを指さす。こんな驚いたヤジの顔を見たのは出会ってから初めてだ。思わず自分の様子を確認すると服装が変わっている。
短パンにTシャツだったのだが下は赤色に白の一本線が入ったスカートで、上がへそ出しの赤色キャミソールの肩紐が片方しかない感じで妙にテカテカしている。
すると茶髪が何かを投げたので反射的に受け取るとそれは手鏡だった。それを使って姿を映すとそこには黒のロングヘアーに白のメッシュが入ったレースクイーン風の女がいた。
この女は誰だ?
身長は変わりないがスタイルは出るところは出て、引っ込むところは引っ込むというメリハリのある体だ。それに顔も美形でモデル顔負けだ。
数秒後に鏡に映る女の正体に気付く。これは魔法少女とやらに変身した自身だ。あまりの変化に一瞬誰だか分からなかった。
「
思わぬ変身に驚き見とれてしまったが気持ちを切り替え尋ねる。いくら美人になっても強くなければ意味が無い。
「それは確かめてみれば分かります」
茶髪は無表情で呟き試すようにとりあえず軽くパンチを放つ。力加減としてはダチ同士でじゃれ合っている時に当てるパンチぐらいの軽さだった。だが拳は風を切りヒュッと音が鳴り威力は変身前の全力パンチを上回っている。
思わぬ速さと威力に思わず拳を見つめ、確かめるようにその場で全力のパンチやキックを放つ。パンチは先程より遥かに大きな風切り音を鳴らす。普通の人間に直撃すれば確実に顔面は陥没、それどころか腕が顔面と後頭部を貫通しそうだ。
キックも風圧で校庭の砂利が大量に舞う。これも当たれば骨が折れるどころか足がもげる。垂直跳びをすれば軽く3メートルは飛び、走ってみれば50メートルぐらいを2秒ぐらいで走れた。
「
花奈はヤジに言われた事を忘れ心のままに喜びを口にする。正直どこか諦めていた。どうやってもあの2人には勝てない。それで暴走をやりたいから虚勢を張って殺すと皆に宣言した。その後も日に日に大きくなる諦めに心を奮い立たせ抗い、その心がこの胡散臭い誘いに応じて力を手に入れた。
嬉しさのあまりヤジに抱き着こうとしたが思いとどまる。今のテンションで抱き着けば肋骨や腕の骨をバキバキに折ってしまい最悪死ぬ。
「さらに魔法少女には固有魔法、不思議な力が使えます。貴女の場合だと『すごい単車を作れるよ』です」
茶髪は興味深い事を言う。この身体能力に加えて不思議な力が使えるらしい、すごい単車を作れるそうだ。何がどう凄いのかというより、どうやって作るのかという疑問に思いながら正門前に置いていた単車に触り、すごい単車になれと念じる。
見た目特に変わっていない、まさか騙したのかと怒りながら愛車のシートに座り確信する。自分の中にある凄いエネルギーそれが愛車にもある。愛車はすごい単車になっている。
アクセルを回し発進させると同時に正門を飛び越える。バイクがジャンプするという常識ではありえない動きを見せるがこんなのは些細なものだ。
校庭中を走り回り性能を確かめる。時速数百キロを出しもその場でピタリと止まるブレーキング、停止状態から50メートルを1秒未満で走り抜ける加速とスピード、ほぼ減速せずに90°曲がれるコーナリング性能、何から何まで凄すぎる。最高の性能だと思っていた愛車が三輪車に思えてくる。
さらに凄いのはバイクで壁を路面のように垂直に駆け上がり、そのまま壁を水平に走るという重力を無視した走りも出来た。
「魔法少女
ヤジの肩を掴み怪我しない程度に揺する。どんな事だって出来そうな無敵のパワー、これは暴走とタメを張るぐらいに楽しい。是非とも体験してもらいたい。
茶髪に視線を送ると意思を汲み取ったのか、スマホのようなものをヤジに向けると同時に光に包まれる。現れたのは金髪のロングウェーブヘア―に頭に茨の冠をつけた女、なれると言っていたが男のヤジが女になるのを見ると妙な気分だ。容姿も身長は150cmぐらいに縮み、顔も美人──中学1年ぐらいのガキぐらい──だ。人間の時と大分ギャップがある。
ヤジは同じようにパンチやキックを放ち身体能力を確かめる。魔法少女になって動体視力も上がっているせいか普通に見えるが、風切り音で人間が撃てる打撃ではないというのは分かる。
どうだ楽しいだろう。笑みを浮かべるヤジの表情を思い浮かべるが意外にも表情は険しく、何度かパンチを打つたびに自分の拳を見つめ何か煮え切らない顔をしている。楽しくないのか?
「それでヤジのこゆ……スゲエ能力は何だ?」
「えっと「皆を笑顔にできるよ」です」
茶髪の言葉に思わず大きなため息をつく。もっと派手でカッコイイ能力ならヤジも楽しくなると思うが、こんなショボい能力では楽しくない。
「残念だなヤジ、こんな……クックック……こんな、
花奈は大笑いし笑い声が周囲に響き渡る。あまりにもショボすぎるせいかツボに入ってしまった。ヤジは満足げな表情を浮かべるがその顔も無性に可笑しくて笑ってしまう。
しかし唐突に気分が萎える。確かにショボいがここまで笑うことでもない、それにヤジの表情のどこがオモシロいのだ?突然の異変に思わず首をかしげる。
「これが「皆を笑顔にできるよ」の効果ですか」
「良い能力だ」
2人のやり取りをきいて今の出来事を理解する。魔法によってあんなに笑ってしまったのか。しかし笑いはしないがやはりショボい、これだったら「凄い単車を作れるよ」のほうが凄い。
「能力は外れだな。まあこの身体能力があれば2人も殺せるだろ、これで殺ろうぜ!」
「ワリい、オレは魔法少女にならねえ」
ヤジは呟くと魔法少女から人間に戻った。
◆殺島飛露鬼
「
先程まで無邪気な笑顔を見せていた花奈の表情驚きと怒りに満ち、こめかみに血管が浮き出だしながら胸倉をつかむ。服越しに掴む力で人間離れしているのが分かる。改めて魔法少女になったのだと実感する。
「覇威燕無礼棲で暴走する気あんのか?」
「ある」
「だったら分かるだろ!人間じゃ
花奈は目を血走らせ唾を飛ばしながら大声で吐き捨てる。殺島は顔にかかった唾をふき取らず冷静な口調で語る。
「オレが魔法少女になっても2人をぶっ殺せねえ」
「何でそう思うんだよ!?」
「
花奈は手を放し何か言おうとするが必死に堪えている。花奈も直感で動くタイプなのでどう考えても間違っていると分かっているが完全に否定できずにいる。
魔法少女になった瞬間に違和感があった。そして体を動かすごとに違和感は大きくなり疑惑が確信に変わっていく。
理由は分からない、だが魔法少女になっても2人は殺せない。仮に魔法少女になって戦えばある程度追い詰められるが倒せない。2人が100だとしたら殺島は99、どうやっても超えられない壁が存在する。これは極道として暴走族としての直感だった。
「じゃあどうやって2人を殺すんだよ!」
花奈は苛立ちをぶつける様に地面を思いっきり踏みつける。轟音が轟き地面には足跡がくっきりと刻み込まれる。
その疑問は至極当然だ。魔法少女2人は人間には決して殺せず可能性はあるのは魔法少女になって同じ土俵に立つしかない。幼稚園児でも分かる理屈だ。
「なあアンタ、魔法少女は何人いるんだ?花奈だけじゃねえだろ」
「詳しい数は知りませんが、それなりに居ると思います」
殺島に話を振られた茶髪は一瞬間を開けながら答える。それは予想通りの答えだった。あの2人と茶髪は魔法少女、そして茶髪は才能があるものを魔法少女にできる。そうであれば魔法少女の数は1桁台ではないだろう。それなりと詳しくは分からないが3桁はいる筈だ
「だったらメチャクチャ強くなれる
花奈の「物凄い単車を作れるよ」そして魔法少女になって使えた「皆を笑わせるよ」の魔法、それらは常識ではあり得ない力、まさに何でもありだ。それであれば人間が魔法少女を殺せる力を与えられる魔法が有ってもおかしくない。
これは前世の経験が無ければ思いつかない発想だった。かつて忍者という圧倒的な強者がいた。その力は魔法少女程ではないが人知を超え極道を次々と殺し、その力の差は羆とネズミほどはある。だがヘルズクーポンによって忍者に迫りついに殺した。
人間のままでヘルズクーポン以上のドーピングで強化すれば100を超えられる。これが殺島にとって魔法少女を殺せる唯一の可能性だった。
殺島の言葉に茶髪は目を点にして見つめる。今まで丁寧という仮面で感情を隠している印象を持っていたが、初めて素の感情を見せたような気がした。
◆生島花奈
花奈は頭が良くないという自覚がある。それでも覇威燕無礼棲が暴走する為には魔法少女になって魔法少女2人を殺す以外の方法はないと思っていた。
ヤジも当然のように魔法少女になると思っていたが別の方法を選ぼうとしている。魔法少女に1つあるスゲエ力を使って魔法少女を殺そうとしている。
それを聞いた途端に無性に惨めになった。ヤジは暴走族として魔法少女を殺そうとしている。
一方こちらはどうだ?魔法少女の力にワクワクしてしまい成れて良かったと思ってしまった。皆にとって大切な暴走を奪ったクズと同じになって喜んでいる。
そんなクズと同じになり魔法少女2人を殺して暴走できるようになっても皆は喜ぶのか?
恥ずかしさと情けなさで思わず視線をヤジから地面に向けてしまう。するとヤジがこちらに近づき肩に手を回す。
「お前は正しい。オレがお前だったら魔法少女になって2人を殺して暴走する。逆にお前が俺だったら魔法少女では2人に勝てないって気づいている。オレの選択は可能性があるだけで魔法少女を殺せる可能性は限りなく低い。そうなったら魔法少女になる。勝てなくてもそれなりに
恥ずかしさも惨めさも完全に見透かされ思わず苦笑してしまう。これでは認めてしまっているようなものだ、暴走族として弱音なんて絶対に見せたくないのだが特別だ。
普通の親はこんな風に悩みとかも分かっているものかもしれない、何故かヤジがマブダチではなく父親みたいだと思ってしまった。
「バカが、負けるつもりで喧嘩するな」
「そうだな、
花奈の照れ隠しの軽口にヤジはおどける様に答えた。暫くじゃれていると茶髪が見計らったように声をかける
「それでは生島さんの魔法少女ネームはどうしますか?」
「なんだそれ?」
「芸名みたいなものです。魔法少女の時に人間の本名を名乗るわけにもいきませんし、あると便利ですから」
「ふ~ん、ちなみにお前のは?」
「FS」
「そんな名前だったのか、ちなみに意味は?」
「芸名をもじったものです」
「ゴッドスピードだ」
花奈は即答する。こういうのは長々と考えるより直感で考えた方がいい。暴走族女神だからゴッド、暴走族だから速さのスピード、合わせてゴッドスピード、口にしてみるとしっくりときてこれしかないと思う名前だ。
「わかりました。ではゴッドスピードは|明日からある場所に行ってトレーニングをしてもらいます。殺島は魔法少女と戦うためのアイテムを用意するのに暫く時間がかかるので待機で、用意できましたら連絡を入れます」
「
「残念ながら知りません。それに相手は魔法少女のベテランです。魔法少女になってから数時間の者が勝てる道理はありません」
FSは無感情に答えるがその態度が花奈の神経を逆撫でする。この身体能力と魔法の単車があればどんな敵だってぶっ殺せるに決まっている。
舐めてるのか?舐められ見下される事を最も嫌う暴走族の習性が怒りのボルテージを一気に上げる。
「では体験してみますか」
考えを読んだかのように提案してくる。怯えも恐怖は一切ない、絶対に勝てると思っている強者の余裕が有る。怒りのボルテージは最高潮に達した。
「上等だ!」
「では場所を移しましょう。色々と騒ぎましたしここで戦えば騒ぎになりますから、ついてきてください」
FSは校舎裏に向かって走り始める。ヤジを脇に抱え魔法で強化した単車に乗って後を追う。
──
森林地帯の一部、辺りにある木々は軒並みへし折られ散乱している。その中心地でゴッドスピードは大の字に倒れていた。
「
「
心配そうに見下ろすヤジに向かって吐き捨てる。起き上がろうとするが全身に痛みが走り断念し再び寝そべる。
喧嘩で負けたのはいつ以来だろう?しかもここまでの完敗は人生初かもしれない。魔法少女の身体能力と魔法を全部使った。それでもFSに攻撃は全く当らずサンドバッグのように殴られ蹴られ、何か所も骨折してる。
「見事に
「ああ、あれであの2人より魔法少女として
完膚なきまでに負けていっそ清々しい……わけはない。あの2人の前にFSにお礼参りする。絶対にだ。
「とりあえずアイツの言う通り
「ああ。
ボロクソにされたが悲観はしていない。魔法少女になったばかりという事は赤ちゃんみたいなものだ。人も成長すれば赤ちゃんの何十倍強くなる。つまり今より数十倍強くなれる。
「待ってろよ魔法少女共!強くなって
花奈は上空にある満月に向かって誓いを立てるように叫んだ。
◆FS
「もしもし、近々魔法少女1人をそちらに送りますので、お願いします」
FSは魔法の端末を懐にしまい公園のベンチに深く腰掛ける。人事部ではないので正確には分からないが、ゴッドスピードの戦闘力は魔法少女の平均より大分上だ、今回は経験の差で勝てたがちゃんとしたトレーニングを積めば勝てないだろう。
マッチアップの相手は武闘派レベルの魔法少女なのでそれぐらい強くなければ困る。戦いは心情面を重視するが一瞬で戦いが終わっては面白くはない。接戦の方が盛り上がる。
「そして、クックックック」
FSは口に手を当て笑う。当初の予定では殺島も魔法少女になる予定だった。魔法少女になることでエモーショナルになり物語が盛り上がると思っていた。だが殺島は魔法少女にならず人間のままで魔法少女と戦うことを選んだ。
改めて考えるとそちらのほうがオモシロいし登場人物の解釈としては正しい気がする。キャラが勝手に動くという脚本家もいるがまさにそれだ。
しかし魔法少女になるという筋書きで準備をしていたので予定が狂った。とりあえず殺島の要望に応えられるアイテムの当てはあるが入手するために苦労するだろう。
これからは色々と忙しくなりそうだがこれは嬉しい忙しさだ。理想の物語を紡ぐために寸暇は惜しまない。
この物語は最高傑作だと思っていた前作を超えるかもしれない。さあどんな物語をみせてくれる『暴走族と魔法少女』
♢細波華乃
華乃は徐に枕横にあるスマホを手に取り画面を見る。花奈にメッセージを送ったがメッセージは既読にならない。
ハイエンプレスを潰した翌日、1日中逡巡していた。ハイエンプレスが潰され絶望の淵にいる花奈を友人として支えたい。だがどんな言葉をかければいいのか全く分からない。そしてメッセージだけではなく直接会って励ましたりするつもりだが、どんな顔をして会えばいいか分からない。
そして自らが絶望に追い込んだ友人の顔を見て罪悪感に耐えられるだろうか?そんなことを考えていたら1日が過ぎていた。
翌日、このままでは埒が明かないと朝方に『話したいからいつものコンビニ来て』とメッセージを送って、深夜になっても既読はついていない。
これぐらいの期間まで既読がつかないことは珍しくない。だが言い様のない不安を感じている。
──明日花奈の家に行くから住所教えて
新しいメッセージを送る。華乃の家に花奈が行くのはあったが、華乃が花奈の家に行くことはなかったので住所も知らない。数年の付き合いになるがまだまだ知らないことばかりだと改めて実感する。
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