暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第45話 ソーン・ウェイ

♢3代目ラピス・ラズリーヌ

 

 トレーニングルームには3代目ラズリーヌと男が正対し、オールドブルーと普通の魔法少女が端によって2人の様子を眺めていた。

 

「ねえ、変身しないの?」

 

 周りのラズリーヌ候補生がいなくオールドブルーと普通の魔法少女と男だけという状況からついくだけた口調で問いかける。

 噂では男でも魔法少女に変身できるケースもあるので、男と模擬戦闘をすると言われてっきりそうだと思っていた。だが男は一向に変身する気配はない。

 

「変身しねえよ。(このまま)で戦う」

 

 思わぬ言葉にオールドブルーに視線を向けてしまう。魔法少女と人間が戦えば戦いにならない、パトロンの息子が魔法少女好きで一度は戦いたいという要望に応える一種の接待か何かか?そんな事はするわけがないと分かっていながらも予想外な展開に普段では考えないような想像が浮かび上がる。

 

「これはテストなので、適度に避けて適度に攻撃するように」

 

 オールドブルーは困惑を無視するように指示を出す。適度とは相手を満足させるぐらいに攻撃を避け時には受け、攻撃は相手を満足させるように手加減しろという意味だろうか?

 困惑しているなか男が口に何か入れると目元に血管が浮き出たような赤い線ができていた。さらに懐からアンプルを取り出し首に刺した。

 

「はじめ」

 

 オールドブルーの合図と同時に男は2丁の拳銃を抜き打ちする。心臓と眉間に打ち込まれた弾丸を半身になって躱す。

 驚いた。抜き打ちの速度はどう考えても人間のそれではない、魔法少女の領域に入っている。そして弾丸の速度も一般的な銃弾の速度を遥かに凌いでいる。魔法が付与された武器、または魔法少女の魔法で作られたマジックアイテムの類だ。

 すかさず銃口から弾丸が次々と発射されサイドステップで躱していく。その弾丸数は一般のマシンガンのようだ、自動で撃っていると思ったが高速で引き金を引き、オートではなく手動で一発撃っている。これも人間では不可能な芸当だ。

 男は銃口を3代目ラズリーヌだけではなく左右上下様々に向ける。すると直線で襲い掛かってきた弾丸が上下前後左右から襲い掛かってくる。

 壁や床を使っての跳弾か、人間なら恐るべき技量だが魔法少女ならそこまで特筆する技量ではない。サイドステップに前後の動きを加え回避し、目が慣れてきたので次第にその動きの幅を徐々に小さくしていく。

 1つの弾丸が2メートル手前に迫る。するとその弾丸が空中で軌道を変え足元に向かう。今までの跳弾は壁や床を使った跳弾だがこれは違う。まるで見えない何かに当って軌道を変えたようだ、恐らくあの拳銃の魔法による効果か。

 右足を10センチほど下げて軌道変化した弾丸を回避する。後ろか向かってくる弾丸は首を曲げて回避すると再び顔に向かって軌道変化し襲い掛かる。これも身を屈めて躱す。

 向かってくる弾丸が空中で反射している。こちらの体に正確に向かってくるものもあるが、あらぬ方向に向かっていく弾もある。どういう魔法の効果で跳弾しているかは知らないが完璧にコントロールできているわけではない。

 3代目ラズリーヌは30秒ほど回避に徹する。空中で予測不可能な軌道で跳弾し襲い掛かる弾丸、中々に避けづらいがその場で回避するという条件付きだ。

 動きの幅を大きくしていく、的が絞り切れないのかこちらに向かってくる弾丸の数も減り、男も苛立たしい表情を見せる。

 少しずつギアを上げながらサイドステップで弾丸を躱し距離を詰め懐に入る。飛び道具使いが一般的には苦手な徒手空拳の間合い、さあどうする?

 男はこちらに銃口を向け発砲する瞬間に左右の裏拳で拳銃を弾き銃弾は明後日の方向に向かう、そしてがら空きになった腹部に打撃─今までの身体能力から判断して死なない程度─を当てる、殺島は右足を上げ膝でガードし鈍い音ともに後ろに吹き飛ぶ。

 咄嗟に脚を上げると同時に膝のとんがった部分で受け拳を砕こうとしたか、だが人間の膝で砕かれる魔法少女の拳ではなく、逆に相手の膝が砕けた。

 骨が砕ける感触でダメージ具合を計りながら後ろに半歩下がる。目の前に2つの弾丸が交差する。外した弾丸を跳弾させたか。

 男は吹き飛びながら体勢を立て直し大きくバックステップをしながら発砲する。この動きと折れたはずなのに正常な膝の形状、短時間で傷が治っている。ある意味魔法少女以上の回復力である。

 3代目ラズリーヌは跳弾すらしない弾丸を回避し再び徒手空拳の間合いに入る。今度はどれぐらいのレベルの攻撃が防ぎ躱せるか判定するかのように徐々にスピードと威力を上げていく。

 数秒は回避しながら跳弾を交えた攻撃をしてきたが、次第に回避と防御だけになり攻撃を貰う回数が増えていく。

 

「それまで」

 

 オールドブルーの掛け声で攻撃を止め殺島は膝をつき血反吐を吐く。

 

「やっぱり半端()ねえな」

 

 男は見上げながら呟く。その言葉と表情は絶望ではなく微かな希望や手ごたえを抱いているようだった。そして倒れ込む。

 普通の魔法少女はいつも間にか居た他の魔法少女を引き連れて男に駆け寄り何らかの処置を施していた。

 

 

♢オールドブルー

 

 この施設には魔法少女を研究するラボやトレーニングルーム以外にも様々な設備がある。その1つはこの休憩室兼娯楽施設である。中は数台のテーブルに自動販売機にテレビに本棚、本棚には魔法少女関連の書籍や収まり、テレビで魔法少女アニメや魔王塾の模擬演習の映像も見られる。他にもトランプは特注品で普通の遊びをしながらラズリーヌに必要な直感を養える。

 三代目ラズリーヌが自動販売機からコーヒーが入った紙コップをオールドブルー、FS、目を覚ましたゴッドスピードの前に置いていく。

 

「では、まずはラズリーヌ、ゴッドスピードと組手をしてみて感想は?」

「魔法少女になってから日が浅いですよね?」

「そうです」

「だとしたら素質がありますしポテンシャルは有ります。現時点では戦えない魔法少女相手なら勝てますが、戦える魔法少女相手には厳しいです。勝つとしたら不意打ちですかね」

 

 ラズリーヌはこちらの意図を汲み取った評価を下し、ゴッドスピードは不服そうに睨みつける。FSから交換条件で頼みをきくから、ゴッドスピードを出来るだけ短時間で単純な戦闘力を上げてくれと頼まれた。

 オールドブルーの教育で育った2代目ラズリーヌや3代目ラズリーヌは間違いなく強者だ、だがそのアプローチは最強の戦闘集団と呼ばれる魔王塾の魔法少女や監査部門や他の強者とも異なり、単純な強さを得るのにそれなりの時間が必要になってくる。

 それであれば魔王塾に入れたほうが効率的なのだが、折角の協力者を失うのは惜しいので黙っておく。

 

「ちなみに魔法は?」

「すごい単車を作れるよです」

「単純な物理系の魔法か、そこまで反則感はないし今の状態じゃ厳しいですね」

「あ!?何アタシの魔法侮辱(ディス)ってんだテメエ!」

「そして単車ってことはバイクか、それだったらバイクに乗っている状態での戦闘法を磨いた方がいいか」

 

 ゴッドスピードが意見に文句を言うのに構わず三代目ラズリーヌは率直な意見を述べていく。その意見は概ね正しい。魔法少女の魔法は思い込みと過大解釈によっていくらでも強くなれるが、ゴッドスピードの魔法は珍しくもなく単純だ。だがもし極めたら恐ろしい魔法になるだろう。

 そしてゴッドスピードは人間の時にバイクを駆使した極道技巧で戦っていた。見立てでは魔法少女でも普通の徒手空拳よりバイクに乗りながら戦ったほうが強いのは本質を見抜いて分かっている。

 

「そして殺島はどうでした?」

「その前に、あの男は誰というより何なんです?明らかに人間を超越して魔法少女の領域に入ってます」

「マジカルドーピングの力です。私達は人間でありながら魔法少女に勝つ方法を研究しております」

 

 FSが人当たりの良い態度で疑問に答え、3代目ラズリーヌは『今のドーピングは進んでるな』感心しながら呟く。

 オールドブルーはマジカルドーピングについては少しばかり知っていた。しかし効果時間は数十秒ほどで副作用も大きく、治療の為に専門機関で1カ月は入院すると聞く。だが模擬戦闘では1分はドーピングの効果が持っていた知らぬ間に大分進歩したようだ。

 

「あとあの拳銃は誰かの魔法で作られたマジックアイテムですか?」

「はい、伝手を辿って入手しました。『魔法の拳銃で戦うよ』という魔法です。弾丸を任意の物体で反射できます」

「それは魔法少女じゃなくても使えるみたいですね」

「はい、別の魔法少女が拳銃に魔力を込めればそれが弾になります。魔力が切れると弾が無くなります」

 

 今度もFSが質問に答える。魔法によって拳銃の効果は大よそ分かっていたが今の説明で確信を得た。先の模擬戦での何もない空間での跳弾、あれは空気中の埃や分子などに当って軌道を変えたのだ。

 魔法少女の目でも埃や大気に漂う分子を判別するのは難しい。それをドーピングされているどいえ人間が実行した。本人の資質かドーピングの効果は分からないが大したものだ。

 

「それで評価ですね。確かに驚きの力ですが魔法少女を倒せるかと訊かれるとゴッドスピードより厳しいです。空中での跳弾は多少避けづらいですが精度が全体的に甘いです。それに途中の動きの幅を大きくすると反応出来ていません。戦う魔法少女はもっと速いです」

「なるほど、まだまだドーピングの研究が必要なようです」

 

 FSの声に落胆はない。伸びしろが有ると信じているのか、ドーピングに上の段階があるのか。

 

「おい、センパイくんよ!表出ろや!今度は魔法使って()るぞ!」

「さっきボコボコにやられて疲れすぎて気絶したでしょ。まだ分からない?」

「うるせえ!魔法を侮辱(ディス)られたんだぞ。面子の問題だこら!」

 

 ラズリーヌがウンザリした表情をしながらこちらを見てくる。相手してやれという意味で頷くと深くため息をつきながら部屋を出て行った。

 

♢3代目ラズリーヌ

 

 トレーニングルームの中央で新人は大の字になって倒れ、魔法で強化されたバイクは数メートル先で横倒しになっている。

 戦闘力という意味では魔法を使ったほうが格段に強い。魔法で作られた乗り物の最高速度は速いが小回りは効かない傾向にある、しかしこのバイクは小回りも効いて俊敏性ならそこそこの戦う魔法少女レベルはある。

 それにバイクとの連携攻撃も成りたてにしては中々で、バイクで攻撃し当たればよし、避けられても体勢を崩しシートに乗りながらの蹴りや拳で追撃という戦闘スタイルも堂に入っている。

 

「ねえ、貴女名前は?」

「生島花奈……」

「違う違う、魔法少女の名前、本名答えるって……」

 

 新人を見下ろしながら尋ねると意外な答えに思わず吹き出す。新人は疲れすぎて声が出せない代わりに睨みつけてくるが、抑えきれず笑い続ける。なんて危機管理の無さだ、もし敵だったら名前で素性を調べ人間の時に不意打ちされてしまう。

 

「で名前は?」

「ゴッドスピード」

 

 自ら神と名乗るか、随分な自信家のようだが現時点では名前負けしている。

 

「ゴッドスピードは魔法少女嫌い?」

「嫌いっていうよりムカつく。人間の時に実現可能(でき)れば済むけど、実現不可能(でき)ねえから魔法少女になってる」

 

 魔法少女好きが魔法少女になれるわけではないが、ここまで嫌うというより興味が無いのは珍しい、完全に目的を達成する手段と考えている。

 

「ゴッドスピードは格闘技やってないね、我流で喧嘩ばっかりしてた不良でしょ。舐められたり見下されたりするのが大嫌い。魔法少女になったのは倒したい魔法少女がいる」

超能力者(エスパー)かよ」

 

 ゴッドスピードは目を丸くしながら呟く。不良というのは戦い方を見れば分かるし、性格の部分は態度や言動で分かる。そして不良がこんなに真面目に訓練するのは倒したい相手が居るからだ。

 自分に課題を設けたが分かったのは不良だというぐらいで精神面は組手だけでは分からなかった。師匠なら魔法抜きでももう少し見抜いたのだろう、それにしてもこんな簡単な分析でエスパーだなんて単純だ。

 

「センパイくん名前は?」

「ラピス・ラズリーヌ」

「明日はここにいるのか?」

「どうだろ?オールドブルー次第かな」

「居るんだったら明日も猛特訓(かわいが)ってくれよ。一番強い奴と戦うのが強くなる近道だろ」

 

 少し見誤っていた。強さも分からない跳ねっかえりだと思っていたが、強さを把握しながらあえて挑んだのか。

 

「いいよ、可愛がってあげる」

 

 ラズリーヌは悪戯っぽい笑みを浮かべながら了承する。組手と短いやり取りで分かったことがある。ゴッドスピードは倒したい相手が居ると言ったが復讐とかの後ろ向きな理由ではない。

 やりたい事の為に倒す。そしてその倒した後でやりたい事というのは何か分からないが、楽しくてやりたくて堪らない事なのは分かる。

 そんな熱中するものは今までなく、それを持っているゴッドスピードが眩しくて手伝いたいとほんの少しだけ思っていた。

 

 

♢オールドブルー

 

「貴女は何をしようとしているのですか?」

 

 オールドブルーは若干冷めかけたインスタントコーヒーを一口飲み、対面にいるFSに向けて問いかける。

 

「依頼者の願いを叶えようとしているだけです」

「そしてマジックアイテムを与えマジカルドーピングによる強化ですか。でしたら魔法少女に変身したほうが簡単に強くなれます」

「殺島が魔法少女になったら相手の魔法少女を倒せないと言ったので」

 

 FSはコーヒーを口につけ、ほんの僅かに顔を顰めた後に一気に飲み干す。今日の模擬戦闘を見て殺島の意見は正しいと分かった。生島花奈改めゴッドスピードとラズリーヌの組手を見たがそのポテンシャルはかなりのものだ。 

 しっかり育てれば魔法抜きの白兵戦であれば魔法少女の中でも上位だろう。そして殺島も魔法少女の才能が有りポテンシャルは同等であるが、ゴッドスピードよりは強くなれない。

 彼は無意識に他人の肉体を常人より強靭にさせ、倫理観を欠如させる種族暴走族だ、その種族暴走族と魔法少女の相性は悪く、才能が有っても最大迄生かせない。魔法によって本質を見極めそう判断する。

 

「その判断は正しいでしょう」

「貴女のお墨付きを貰えれば安心です」

 

 FSは若干誇張した動作で胸をなでおろす。安心しているのは確かだ、しかし魔法少女にならない選択が絶対に正しくなくては困るというわけではなく、ダメでもそれはそれでいいという感じだ。

 

「それで可能性はあると思いますか?」

 

 FSは少しばかり身を乗り出しながら尋ねる。オールドブルーはコーヒーを一口つける。さらに温くなっている。これ以上時間が経つとさらにぬるくなり不味くなっているコーヒーを飲み干し、二呼吸ほど時間を空けて答える。

 

「その倒そうとしている魔法少女次第です。身体能力についてはあれが最大値でなければ戦う魔法少女に属する相手にでも何とかなるでしょう。マジックアイテムでの攻撃もあれ以外にも応用ができます。そしてマジカルドーピングですが、可能であれば筋力より動体視力や反射速度を上げるように調整したほうがいいです。近接戦闘は捨て射撃に特化させたほうが勝てる確率は上がります」

 

 近くにあったメモ用紙にマジックアイテムで可能な攻撃方法を記していく。FSはメモ用紙を受け取り頭を下げる。

 

「こちらも手が空けば殺島とゴッドスピードを指導しますが、やる事が多く頻繁にはできません」

「充分です。此方にかまかけ本業が疎かになっては申し訳が立ちません。あと事後承諾で申し訳ありませんが、治療用の魔法少女を呼びました。手続きをお願いします」

「分かりました」

 

 マジカルドーピングは魔法使いが魔法少女並みの身体能力を得るために使う薬物だ、効果時間は短く反動が凄まじいと聞いている。そして毒となる成分を抜かないと命の危険があり、それには魔法についての専門機関で治療を受けなければならないとも聞いている。

 殺島の様子を見ればドーピングの反動が確実にあるのは見て取れる。すぐにでも専門機関で治療を受けるべきだがそうはいかない。

 魔法使いの存在は世間に秘匿され、魔法を使いも魔法が世間に知られないように細心の注意を払う。もしマジカルドーピングを使用した一般人がいれば大問題となり流通先を特定され渡した相手は破滅する。FSも譲られたか買い取った相手に配慮して専門機関に行かせられず、次善として治療できる魔法少女を雇ったのだろう。

 

「それではまた」

 

 FSは一礼して休憩室から去っていく。オールドブルーがゴッドスピードや殺島を受け入れ指導している理由は人造魔法少女計画の援助を受ける以外にも理由があった。

 人造魔法少女計画の目的は魔法の国に手綱を握られていない力を手に入れ、魔法少女の大本である魔法の国を打倒するのが目的だった。

 殺島のマジカルドーピングによる強化による魔法少女を打倒、もし実現できれば魔法の国と関りが無い力の一例となる。

 だが私見では人造魔法少女計画のほうが可能性はあり、マジカルドーピングによる強化に力を注ぐわけにはいかない。だがこちらの手を回すことなくFSが研究を進め、実験データやマジカルドーピングの流通ルートなど全てを提供する約束をとりつけた。

 成功すれば二本柱として研究をすすめ、失敗してもこちらは労力をほぼ払っていない、どちらにしても損はない。

 一方FSの狙いが分からない。マジカルドーピングも魔法使いは基本的に魔法少女を嫌っており、手に入れるのも一苦労だろう。

 それにあのマジックアイテムも殺島に合ったものだ。魔法少女の魔法により作られたマジックアイテムは簡単に入手できるものではない。コネや財力または殺して奪い取る暴力が必要だ。どちらにしても労力が大きい。

 では何のために?魔法の国に手綱が握られていない力を手に入れて魔法の国打倒が目的とは思えない。恐らく個人的な目的だろう。理由はどうあれWIN―WINであるのには変わらない。可能な限り利用する。

 オールドブルーは席を立ち紙コップにインスタントコーヒーを注ぐ。やはり注ぎたては暖かくて良い。

 

♢姫河小雪

 

 日曜日の夕刻、小雪は机に向かい教科書をめくりノートに書き込んでいく。小雪の通っている学校はそれなりの進学校だ、唯でさえ授業についていくのが大変なのに加え、魔法少女活動で定期的に授業を遅刻及び欠席するので猶更である。

 なので魔法少女活動及び友人達と過ごしていない時は基本的に授業の予習復習している。その結果何とか留年せずに進級できている。

 来年は3年になり進学するのであれば大学受験が待っている。受験に合格するにせよ指定校推薦を受けるにせよ一層勉強に励まなければならない。

 一時的に指示を受けた─非常に不本意だが─ピティ・フレデリカは魔法少女活動をするためなら名前を書けば合格する高校に通うなど、私生活を犠牲にして魔法少女活動に励めと指導された。

 もちろんそんなつもりはない。その教えに反するように進学もそれなりに学力が必要な高校にし、大学受験してもいいように、魔法少女としてのトレーニング時間を削って勉強している。

 

 今日のノルマを終えた小雪は教材の横に置いていたスマホを手に取る。今日はキューティーシリーズの放送日だ、昔であれば今のテレビに陣取って目を輝かせながら視聴していたのだが、高校生である今は親の目などが気になり、サブスクに加入してスマホで視聴している。

 そして視聴した後には殺島から今日の放送についてのメッセージが送られ感想を語り合うのが日課になっている。だが現時点で殺島からメッセージが届かない。

 殺島は基本的にリアルタイム視聴、どうしても出来なくても何とか時間を作り、遅くても昼過ぎぐらいには視聴しメッセージを送ってくる。そして今は夕方、これはある意味異常事態だ。

 小雪は安否確認の意味を込めて今日は話の感想を殺島に送る。いつもは殺島がメッセージを送り小雪が返信するという流れだが、初めてその流れを変えた。

 メッセージを送って1分が経過するが一向に既読がつかない。もしかして何かしらのトラブルに巻き込まれたのか?一抹の不安を覚えながらもこれ以上は何もできないと気持ちを切り替え、教科書をスクールバッグに仕舞うと魔法少女に変身しトレーニングを始めた。

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