♢3代目ラピス・ラズリーヌ
「やっぱりキューティーは
「好きっすねキューティー」
「当然だろ。寧ろ何で皆
「サブスクというより、キューティー自体見てねえっす。大半は卒業したっす」
「
「大変っすね。それより知ってるっすか?キューティーとかの魔法少女って実はモデルいるらしいっすよ」
「
「知らないっす。アニメ化している魔法少女は有名人だろうし、広報部門とかの役職に就いているんじゃないっすか、だとしたら広報部門に就職して偉くなるとか」
「その広報部門ってのはどうやって
「魔法少女として評価されればなれるんじゃないっすか」
「やっぱり魔法少女になるべきだったか」
「え?殺島くんって魔法少女になれるっすか?」
「ああ、才能があるみてえで、実際なれたぜ」
殺島は休憩室で青髪金魚風の魔法少女、ランユウィと雑談に興じている。ゴッドスピードがオールドブルー預かりでこの施設でラズリーヌ候補生とトレーニングに励んでいる。それは殺島も同様だった。
部外者、しかも非魔法少女がこの施設で生活するとは思いもしなかった。機密保持の面などで普通ではあり得ないが、FSから2人を預かることがオールドブルーにとって余程メリットになるのだろう。
しかし非魔法少女、しかも男性という殺島の存在はこの集団にとって極めて異質な存在だ、排他される可能性が高く、居心地が悪いだろう。依頼主から預かった人物の環境を改善する義理はないが、オールドブルーから何とかしろと無茶ぶりされる可能性もある。
3代目として他の候補生に尊敬されていれば、3代目の座を奪われたと敵対心も抱かれている。比較的に友好的な候補生に色々と便宜を図ってもらい過ごしやすいようにする。まるで小学校の先生のようだ。だがその心配は杞憂だった。
殺島は数週間でこの集団に完全に馴染んでいた。馴染むどころか集団の中心と言っても過言ではない。殺島の周りには絶えず人がいて笑顔が絶えず和やかな雰囲気を作っている。周りに居る魔法少女も社交的な者から人見知りな者まで様々だ。
パッと見だの印象だが個人差はあるにせよ、全てのラズリーヌ候補生は殺島を嫌っていない。全ての人間に好かれる者はいない。だがそれに限りなく近い位置に居る。
確かに顔は良いし、気さくで会話もウィットに富んでいる。現にラズリーヌも嫌いではない。それでもここまで好かれているのは不思議である。人に好かれる性質、いやそういう類の魔法を使っていると言われても納得してしまうほどだ。
それはゴッドスピードも同様だった。ゴッドスピードも殺島と離れた場所で集団の中心になって騒いでいる。
話し上手でなく隠し切れないヤンキー気質、殺島と比べれば万人しないタイプ、それでも周りには常に人がいて賑やかだ。殺島は広く浅く好かれているがゴッドスピードは深く狭く、特に反骨心がありヤンキー気質な者と仲が良く、出会って数日なのに親友みたいに付き合っているラズリーヌ候補生もいる。
ゴッドスピードは姉御肌であるが妹分で目が離せないという印象だ。グループの中心として周りを引っ張っているが、時々イジられている姿を見ている。かくいうラズリーヌも組手で負けて悔しがる姿を見て、ついからかってしまうから気持ちは理解できる。
2人は俗に言うカリスマという類の人間だ。オールドブルーは本質を知れる魔法と思考力と話術で人を魅了し心酔させる。だが2人は意識せず雰囲気で魅了し心酔させる。
オールドブルーはメリットがあるからこそ2人を受け入れたのだろうが懸念がある。この集団はオールドブルーが中心だ。
中にはオールドブルーを嫌っている者もいるが、基本的に皆オールドブルーにある程度の好意を抱き、中には神のように心酔している者もいる。だがそれが少しずつ崩れている。
殺島と話しているラズリーヌ候補生のランユウィ、彼女は典型的なオールドブルー心酔者でオールドブルーを中心に行動している。だがオールドブルーで占めている心を殺島が少しずつ浸食している。今までオールドブルー以外に心開いている仲間はいなかった。
2人に集まった候補生達が派閥となってこの集団は割れるかもしれない。ラズリーヌですら気づいているのであれば当然オールドブルーも気づいている。まあ何とかするだろう。
「ラズリーヌ君!
雑談していたゴッドスピードと視線が合うとそのまま睨みつけながらこちらに向かってくる。その様子に一緒に雑談していた候補生達が『やれやれ』など『倒して4代目に襲名だ』と囃し立てる。
「今日こそひき肉にしてやんよ!」
「何か毎回同じ事言ってない?」
「っせ!いいから付き合え!」
ラズリーヌは煽るように大きなため息をつき、ゴッドスピードは漫画のように青筋を立てながら睨みつける。オールドブルーに指導するように指示されているので誘わなくてもこちらから誘うのだが。
今日はどうやって指導してやるか、大股で歩くゴッドスピードの後ろについていきながらトレーニング室に向かった。
◆殺島飛露鬼
殺島は少し青みがかった壁と床の空間の中心に移動するとその場で深呼吸をしながら指や腕の筋肉を伸ばし、手をダラリと下げた自然体の状態で佇む。すると飛来物が殺島に迫る。
殺島は懐に仕舞っていた魔法の拳銃2丁を即座に抜き弾丸を撃ち、飛来物は粉々に砕ける。即座に右斜めに発射される飛来物に標準を定め弾丸を撃ちこむ。
直接向かってくる物や通り過ぎるように向かう飛来物を直接、あるいは壁や床を使った跳弾で打ち抜いていく。暫くすると飛来物は来なくなり、それを確認すると殺島は青色の空間から出ていく。
人間時の身体能力と魔力×ヘルズクーポンの効果×マジカルドーピングの効果、これがドーピング時における戦闘力の計算式であるとFSから聞かされた。
そしてマジカルドーピングとヘルズクーポンは効果の差があれど、同じドーピングであるが性質は若干異なる。マジカルドーピングは魔力量によって効果が違ってくる。改良によって効果を高めるが、基本的に魔力量は先天的なもので訓練によって強まるものではないそうだ。
一方ヘルズクーポンは本人の身体能力や技量によって戦闘力が変わる。ごく普通の人間と鍛えた格闘家がヘルズクーポンを摂取して戦えば、単純な身体能力と技術がある格闘家が上である。つまり鍛えただけ強くなれる。
今更鍛えて強さを上乗せしても誤差であるかもしれないが、やれる事はやるべきだとオールドブルーが作成したトレーニングをこなす。周辺視野、反射神経、洞察力、狙撃力、魔法の拳銃を使った戦法に必要な要素を徹底的に鍛えていく。
殺島は前世でも現世でもトレーニングをしたことがない。極道技巧は必死にトレーニングして体得したものではなく、元々の才能と実戦によって鍛え抜いた結果身に着けた技である。正直スポーツマンのようにトレーニングするのは柄ではなく、現に辛さで逃げ出したくなるが花奈の為にと思うと耐えられた。
指定されたメニューをこなし最後の仕上げに入る。キューティーを見た後にトレーニングを開始して現時刻は17時を回っていた。我ながらよくやっていると感心しながら周りを見渡す。
「よっ、今
「あっ、暇っすよ」
「少しオレの
「いいっすよ」
近くにいたランユウィに声をかけると快く了承してくれた。今いるトレーニングルームから別のトレーニングルームに移動する。
中は白色の壁と床だけしかない殺風景な部屋だが3代目ラピス・ラズリーヌがパネルを操作すると大量の石片が出現し宙に浮き始めた。
「
「いつでもどうぞ」
殺島は30メートルほど距離をとるとヘルズクーポンを口に入れ魔法の銃を構え発砲する。弾丸は周囲の石片に当り跳弾し上下左右前後から襲い掛かる。
ランユウィは後ろから頭部目掛けてくる弾丸を屈んで躱し、左から脚部にくる弾丸を半身になりながら足を動かし躱し、360°から来る弾丸を次々と躱していく。
石片がどのような角度で跳弾してくれるかコンマ数秒でも早く把握し相手の動きを予測し弾丸を撃ちこむ。左に大きくサイドステップしようとしているので弾丸を左側に反射させてスペースを削る。一気に詰め寄ろうとしているので前方に弾丸を集中させる。
魔法少女相手では狂弾舞踏会でも工夫が必要だ、単発ではなく檻を作るイメージで相手の動きを制限して、檻の中で躍らせながら徐々に狭めていきダメージを与える。
相手は回避に専念させ弾丸の檻で釘付けにしていく。だが2発の弾丸が意図しない場所に向かうとランユウィは即座に間合いを詰める。
近寄らせないように弾丸を撃ちこむが不規則な動きを捉えきられず懐に入られ、右の正拳が顔面に当る直前で拳は止まった。
「
「強い魔法少女だとこれぐらいはしてくるっすよ。まだやるっすか?」
「
殺島は同じように30メートルほど離れ、ランユウィの周りに先ほどと同じように石片が浮遊する。ヘルズクーポンを摂取していても魔法少女には絶対に勝てない。
普通であれば1秒で殺されていただろうが、今のランユウィはトレーニングルームの機能を使って能力をギリギリまで落としている。本来の動きではないにせよ魔法少女の動きに馴れるという意味では有意義な訓練である。
本来であれば素の状態で模擬戦闘をしたかったのだが、この設備ではそこまで力を落とすのは不可能で、仕方がなくヘルズクーポンを使用している。ストックはFSが用意してくれたので気兼ねなく使用できる。
「付き合ってくれて
「いいっすよ。こっちも飛び道具を避ける練習になるっすから」
トレーニングに付き合ってくれたランユウィに礼を言ってその場で大の字になって寝そべる。クーポンの効果が切れて一気に疲労が襲い掛かる。
この後は飯を食って風呂入って寝たいところだがそうはいかない。食事を摂ったら夜のトレーニングが始まる。疲労も施設の設備を使ってすぐに回復できる。何とか動けるまで体力を回復しておぼつかない足取りでトレーニングルームに出る。
「よっ、お疲れさん。今日の花奈はどうだった?」
「まあまあかな」
花奈を肩で担いでいる3代目ラズリーヌに挨拶する。花奈も殺島と同じようにオールドブルーが作成したトレーニングメニューをこなし鍛えている。そして最後には3代目ラズリーヌと模擬戦闘をする。
模擬戦闘では仮想空間のようなものでダメージはないが疲労はある。そして花奈は疲労で気絶するまで戦いを挑み、3代目ラズリーヌに運ばれるのが恒例になっている。
「今日こそ
「それ3代目ラズリーヌが新人に負けるわけにはいかないって、でも前より強くなってる。今回もほ~んの少しヒヤりとさせられた」
3代目ラズリーヌは花奈の頭をペシペシと叩く。花奈はハイエンプレスのリーダーで時にはイジられるが基本的に敬われる側だ。だが3代目には完全に生意気な後輩扱いされている。だが本人はそこまで嫌っていないようだ。
「そういえば、今日オールドブルーはここに
「いや、外出していて明後日には戻ってくるとか言っていた気がするけど」
「だったら1つ
「いいけど、何?」
「殺していい魔法少女を用意してくれ」