暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第47話 スモーキン・ヤジマ

♢3代目ラピス・ラズリーヌ

 

「そうですか」

 

 3代目ラピス・ラズリーヌは殺島からの言付けを伝えるとオールドブルーは机に両肘をつき指を絡ませながら納得したように呟く。どうやら言葉の意図を察したようだ。

 殺島の目的は魔法少女に勝ちころすことだろう。本人から目的は聞いていないがこの施設での訓練を見ればすぐに分かる。

 唯殺すだけならば戦闘訓練をする必要はない。人間の時を襲うか狙撃などの不意打ちで倒せばいい。恐らく殺島が魔法少女からの襲撃に対応する側であり、対応してから迎撃もしくは逃走する相手を殺す状況だろう。

 そして1対1の可能性が高い。普段の模擬戦闘は全て1対1を想定して実施している。まずは1対1が戦闘訓練の基本であるが、それでも対複数や1人を複数人で倒す訓練をラズリーヌ候補生はする。だが殺島やゴッドスピードは一切せずに1対1の戦闘訓練に専念している。

 そうなると殺島は対魔法少女の経験が圧倒的に足りない。模擬戦闘は所詮模擬である。一つのミスが死に繋がる緊張感、相手の魔法を分析し対応する力などは実践でしか養えない。それを日々の訓練で感じていたのだろう。

 

「それでどうするの師匠?」

「用意します」

 

 オールドブルーは平然と答える。殺していい相手を要望する殺島は間違いなく悪だ。そしてその犠牲者を用意しようとしているオールドブルーも悪だ。目的のために平然と他人を犠牲にする。

 反対はするつもりはないが気分のいいものではない。せめて犠牲者は無辜な魔法少女ではなく、死んで当然の魔法少女であって欲しい。

 

「誰を用意するの?弱すぎても意味ないし、強すぎても殺される。良い感じに苦戦する魔法少女を見つけるは難しいよ。それともいつでも助太刀できるように誰かをサポートに回す?」

「それは後で考えます。貴女にもサポート係を任せるかもしれませんので」

「分かりました。失礼します」

 

 3代目ラズリーヌは一礼して部屋から去る。魔法少女が魔法少女以外に倒されるという事例は珍しくはない。

 例えば魔法使い、身体能力は一般人と変わりないが、魔法少女の固有魔法に近い魔法を使える。よーいドンの1対1で戦えば魔法少女が勝つが、前もって魔法の準備をしておけば寧ろ魔法使いのほうが強い場合が多い。

 しかし殺島が魔法少女を倒すとなれば話は別だ。戦闘は正面切ってのものとなり純粋な戦闘力で負けたことになる。殺島は魔法使いの技術を使ったとしても分類は人間だ、もし人間に負ければ魔法少女史に残る大事件になるだろう。そんな歴史的場面を見てみたいという気持ちは僅かばかりはある。

 

◆殺島飛露鬼

 

 殺島は門をよじ登り敷地内に侵入し歩きながら魔法の拳銃で発砲する。弾丸は外灯や木々に当り跳弾し数十メートル先にある監視カメラを次々に破壊していく。

 3代目ラズリーヌに依頼してから3日後の午前2時、F県F市にある自然公園の中央広場に魔法少女が現れると知らされ現地に向かった。

 現時刻は0時、情報では2時と言われたがその時間に来るとは限らないので前乗りしていた。本気であれば朝一からずっと居るべきなのだが魔法少女は深夜帯に活動するそうなので、これぐらいで充分だと判断した。

 殺島はいつでも使える様にマジカルドーピング剤を手に握り神経を張り巡らせながら通路を進む。目元には血管が浮き出ている。すでにヘルズクーポンは摂取済みであり、周りは薄暗いが周囲の木々など葉まではっきり見える。

 魔法少女に目撃者を消そうと攻撃された際にヘルズクーポンだけでは殺されるが、マジカルドーピングを打てる時間はある。

 

 園内にある地図を頼りに中央広場を目指す。あと数時間後に命のやり取りをする。絶対に殺したいというわけではないので、形勢が危うくなったら逃げるつもりだ。だがそれすら許されず死ぬかもしれない。

 今の殺島の恰好は特攻服に額に有刺鉄線を巻いている。これは気合いを入れる時の恰好で、この世界に来てからは初めてである。

 魔法少女と命がけで戦うのは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)が暴走する為に必要だ。あの忍者風の魔法少女かセーラー服風のピンク髪の魔法少女のどちらかと戦う。理想は不意打ちや暗殺だが厳しい。

 生前に帝都高速で忍者をおびき寄せたように、悪事を働いて魔法少女達をおびき出す。そうなれば騒ぎを治めようと魔法少女に殺島と花奈の元に駆け付けるだろう。だとすれば正面切った1対1になる。

 徒歩で数分程歩くと中央広場が見えてくる。中央に大きな噴水が有りその周りにはベンチが置かれている。自然公園の広場というからには芝生だと思ったが地面はアスファルトだった。

 殺島は中央広場にいかずそこから数十メートル離れた草むらで息を潜める。今の状態であればこの距離でも人が来れば視認できる。あとは魔法少女に見つからないように祈るだけだ。

 それから2時間後、まず1人の女性が来た。オレンジ髪で青のアオザイを着ている。その恰好や容姿から見て間違いなく魔法少女だろう。そして10分後にもう1人女性が来る。

 左右に縛って垂らした髪型には綺麗なグラデーションがかかっている。手袋は七色に輝き、服装は派手派手しく露出度も高い。頭の上には天使の輪っかのような7色の光輪が浮かび、背中にもそれを一回りしたような光輪を背負っている。どう見ても魔法少女だ。そして魔法少女は一言二言を交わし戦闘が始まった。

 鉄球のようなものや虹が瞬く間に広場は破壊していく。遠く離れて見ているおかげかマジカルドーピングを摂取していなくとも辛うじて見える。

 殺島は無意識に拳を握りしめる。これが本気の魔法少女の戦い、あの時に戦った忍者風の魔法少女は大分手加減していたのが今になって分かった。

 戦いは数分で終わる。天使のような魔法少女が発した虹がアオザイの魔法少女の体を貫き、次々と虹が現れ貫き切り裂いていく。アオザイの魔法少女の変身は解かれ血だらけの20代女性が現れた。

 

「さて、いくか」

 

 殺島は深く息を吐いた後に懐に入れていたマジカルドーピング剤を注入する。心臓が激しく脈打つ。見える世界が一気に変わる。茂みから出て虹の魔法少女に向き合う。

 

「恨みはないが殺す」

 

 殺島は魔法の拳銃を抜き発砲した。

 

♢レイン・ポゥ

 

 レイン・ポゥは清く正しい魔法少女とはかけ離れた魔法少女である。贈収賄、情報漏洩、横流し、その他の悪事を働いた悪徳魔法少女を殺し収入を得ていた。殺す相手は悪徳魔法少女であるが、それ以外にも人間の目撃者なども殺した。

 今日も依頼主からの依頼でアオザイの魔法少女を殺した。仕事が終わり帰宅しようとしたら男が現れる。その男は特攻服を着ていた。

 何故この場に居るのかという疑問より運が悪い間抜けだと思った。目撃者は問答無用で殺す。目の前にはアオザイの魔法少女の死体が転がっているので確実に実行犯だと思われる。躊躇は無い、依頼主の力で目撃者を1人や2人殺しても揉み消せるし、良心の呵責はない。

 

「恨みはないが殺す」

 

 あまりに予想外の言葉に動きが止まる。逃げるどころか殺すと言った。目の前の男は懐に居る妖精でパートナーのトコが言っていた魔法使いではない、どう見ても人間だ。無力で脆弱な。

 その人間が魔法少女を殺すと言った。ヤンキー漫画に影響され過ぎたバカなのだろう。仕事中でなければ腹を抱えて大笑いしていた。

 レイン・ポゥの魔法は「実体を持つ虹の橋を作り出せるよ」である。一見メルヘンチックな魔法に思えるが、この虹の橋は魔法少女の攻撃でも壊れない強度と剃刀の切れ味を併せ持つ。無音で空間から現れる暗殺者の剣であり、魔法少女による大抵の物理攻撃なら耐えてくれる盾だ。この虹で何人もの魔法少女を殺してきた。

 レイン・ポゥは魔法を発動する。目撃者は殺す、それは条件反射に近かった。だが虹で男を切り裂くより速く。弾丸が迫っていた

 目の前に迫る銃弾を見て咄嗟に虹を男ではなく自分の頭から足元に縦に発生させ盾のようにする。

 男は懐から拳銃を抜き発砲した。そのスピードはどう考えても人間のそれではなく魔法少女レベルだ。

 もし魔法少女であれば抜いた動きも見え、虹での防御ではなく銃口の向けられる前に動いていた。それよりも発砲される前に殺していた。人間が魔法少女レベルで動けるなんて想像できるわけがない。完全に不意を突かれた。

 弾丸は虹の盾に当る直前に横のV字の軌道を描いて盾を躱し、左右の側頭部、脇腹、太腿に向かう。

 この弾丸の動きにまたしても反応が遅れる。無意識に人間が持っているので普通の拳銃だと思い込んでしまった。

 咄嗟に体を全力でのけ反らせる。右の側頭部に来た弾丸は額を抉り横一文字を作り、左の側頭部にきた弾丸は左の頬を抉り、左右脇腹に向かった弾丸は腹の肉を一部抉り、太腿に向かった弾丸は直撃、激痛と衝撃で尻もちをついてしまう。

 頬と脇腹の傷は問題ない、額の傷は血によって視界が遮られるが何とかなる。だが脚の傷はマズい、飛び道具使いに機動力を失えば的になる。

 

◆殺島飛露鬼

 

 6発の弾丸は全弾命中、うち4発は掠り傷だが2発は両足を打ち抜いた。飛び道具使いとしては圧倒的なスピードで動かれるのが厄介だ。スピードで的が絞れず接近戦に持ち込まれるのが模擬戦闘でやられるパターンだ。

 殺島は訓練と模擬戦闘によって魔法の拳銃の特性をより理解し、一定だった弾丸の威力の強弱をつけられるようになる。

 魔法の拳銃による跳弾は殺島が物質に当てればどのように反射するか見極め、その物質に当れば跳弾しろと指定している。そして跳弾は跳ねかえる回数が増えれば増える程難易度は上がり精度が落ちる。また弾丸のスピードと威力が上がれば物質の指定が難しくなり、難易度が上がり精度が下がる。

 ラズリーヌ候補生や3代目ラズリーヌとの模擬戦闘で人間が魔法少女並みの動きを見せれば、大概が不意を突かれると理解した。

 初見では相手の魔法少女は実力を見極められず初手はとれる。そこで一気にダメージを与えて主導権を握る。それが対魔法少女の基本戦術であり、逆にダメージを与えられなければ形勢は不利になる。

 初手で最大力の発砲だが躱される可能性はある。いくらスピードが速くても直線的な動きだと比較的に躱しやすいと皆も言っていた。

 ならば跳弾で軌道を変化させるべきだろう。回数は2回、避けたらその先に跳弾させる、盾のようなものを出現させれば横V字に跳弾させる。結果相手が出した虹のような盾を避け弾丸を命中させられた。

 殺島は間髪容れずに弾丸を発射する。帝都高速で戦った忍者も脚を潰せたが腕の力で移動するという人外の技で攪乱され敗因となった。相手は魔法少女、忍者より強い相手に対して攻撃を緩めない。

 突如目の前に虹が現れる。あの盾に使った虹と同じである。咄嗟に躱すが二の腕が斬られ魔法によって作られた特注の特攻服が赤で滲む。人間であれば腕が動かせなくなる裂傷だがドーピングとクーポンで増幅した治癒力で即座に元通りになる。耐久力は上がっているがあっさり斬られた。相当の切れ味で直撃すれば首や腕はあっさり切断される。

 殺島は左に移動しながら弾丸を撃ちこむ。飛び道具使い相手なら的を絞らせないように動きながら打つ、飛び道具を使うラズリーヌ候補生との記憶を思い出し、規則的にならようにランダムに動く、上から弧を描いて降りてくる1枚目の虹をバックステップ、横からくる2枚目の虹を屈み回避しながら発砲、脚を切断しに来る3枚目虹は弾丸で弾く、前後からくる4枚目と5枚目の横っ飛びで回避し転がりながら発砲する。

 空中から現れる虹は何とか避けられる。魔法少女と戦えている。あとはマジカルドーピングの効果が切れるまでに倒す。

 殺島は5感と体をフル稼働させ攻撃を回避し、弾丸を撃ちこみ跳弾させていく。

 

 

♢レイン・ポウ

 

 右から迫る弾丸に対して縦に虹を作る。弾丸は当る直前に右に移動し背後に向かう。咄嗟に振り返って虹を作り背後から迫る弾丸を作り出し防ぐ、相手の左右に虹を作り出すが右の虹は外れ左の虹は回避され、内心で舌打ちする。

 形勢は依然不利だ、機動力を削がれたことで弾丸を回避できず虹による防御で防ぐのが多くなる。そして防ごうにも弾丸が上から前から後ろから左右からと、物理法則を無視した軌道をえがきながら襲い掛かってくる。

 それだけなら容易く対処できるのだが、弾丸は見えない壁にぶつかったように軌道を変えていき、縦の虹を作れば横に移動、横に虹を作れば上に移動して掻い潜ってくる。そうなると虹の数を増やし面積を増やし防御範囲を広げる必要がある。

 さらに額に負った傷から血が滴り落ち顔は血で染まり視界を滲ませる、虹は視界から外れれば消えてしまう。つまり血で視界が塞がれば虹も消えてしまう。そうならないように血を拭うが、その余分な動作で虹を作る時間を削られ、さらに守勢に回る。

 そうなると攻撃に回す虹を減らさなければならず、滲んだ視界のせいで攻撃の精度が落ち、相手の攻撃の手を緩めさせられない。完全に後手に回っている。

 

「トコ!脚の怪我を治して!せめて額の血を止めて」

「無理だって、そんな道具ない」

 

 懐に入れている妖精のトコにダメ元で頼むが当然のように持っていないと言われる。可能性が低い希望に縋ってしまった。そんな暇があるなら打開策でも考えるべきだ。相当に弱気になっている。

 この状況をどう打開する?相手の弾切れは期待しない。マジックアイテムは制限なく使えるものがあり、そういう類のものであるという前提で動く。作戦に楽観的な希望を入れない方がいい。

 あとは傷の回復だ、脚は銃弾で打ち抜かれすぐには回復しない、だが額の傷は出血が激しいが額の肉を抉られただけで軽症の部類だ、そういえば出血はアドレナリンを分泌することで止まると漫画で読んだ気がする。

 そしてアドレナリンは怒ると分泌される。魔法少女の回復力とアドレナリンで止めるしかない。視界さえ晴れれば充分に戦える。

 レイン・ポウは的を絞らせないようにしていた移動を止めその場で寝転がる。虹は視界から外れた瞬間に崩れてしまう。視界におさまり続ければ虹は消えない。寝転がりアスファルトを盾にして背後からの攻撃を防ぎ、視界を広くして防御に専念する。

 弾丸が上から雨のように降り注ぐが虹で弾き返す。跳弾は虹の盾を躱すのには有効だが、虹を突き破る貫通力はない。

 いくら仰向けになっても全てを視界におさめられず頭上は死角になる。相手もバカではないので跳弾で頭上を攻撃してくる。それは首を逸らして死角を消して虹を作り防ぐ、そうなると他の虹は消えるが即座に新しい虹を作る。

 相手に虹を打ち破る手段はなく防御に専念すれば攻撃を防げる。あとは出血を止めるだけだ、こんな目にあわせた相手への怒り、散々イジメ虐げた姉への怒り。思い出したくない記憶を掘り起こし怒りのボルテージをためる。

 仰向けになり攻撃を防ぎながら腕で額の血を拭っていく。時間が出血量は減っていき、ついに血が止まる。

 レイン・ポウは反撃のために立ち上がろうとした瞬間に背中に焼きごてをされたような熱を感じ視界が赤に染まる。額の血が止まったのに何故だ?

 コンマ数秒後にその原因を理解する。口から吐き出た血が顔にかかったのだ、その瞬間レイン・ポウの意識が途絶えた。

 

◆殺島飛露鬼

 

時間一杯(ギリギリ)だな」

 

 殺島はその場に崩れ落ち大の字になる。危なかった。拳銃は注ぎ込まれた魔力を使って弾丸を作っており、大量の弾丸を発射したことで魔力が尽きかけていた。そしてマジカルクーポンの効果時間も迫っていた。紙一重の勝利だ、この奥の手が決まらなければ確実に死んでいた。

 殺島の魔法極道技巧(マジカルごくどうスキル)絶頂時間狂弾舞踏会(ハイタイムピストルディスコ)、それは大気に漂っている分子を反射させ跳弾させる妙技、そして殺島のマジカルアイテムは任意で物質を指定する。それによって鉄に当てて跳弾させるも豆腐に当てて跳弾させるのも可能である。

 そして決め手になったのは魔法極道技巧(マジカルごくどうスキル)深く潜れ。

 殺島は路面に弾丸を撃ちこんだ。普通の弾丸であれば路面に弾かれるがマジカルアイテムの威力を最大限にすれば弾丸は弾かれる事なくドリルのように削りながら路面の中を突き進む。

 ある程度進んだところで跳弾させた弾丸は路面から地上に出る。相手には地面から弾丸が突如上がって襲い掛かるように思えるだろう。

 これは1回かぎりの奇襲技であり、相手に悟られないように地面を使った跳弾は一発も撃たないでおくなど工夫をしていた。

 相手はこちらを一切見ずに虹の盾で弾丸を防ぐことに専念したがこれが結果的に功を奏した。もし普通に戦えば地面に打ち込まれた弾丸を見て下から襲い掛かる跳弾に気付いた可能性もあった。

 殺島は立ち上がり周りを見る。マジカルドーピングはヘルズクーポンを使用時とは比べ物にならないほどの反動があり、適切な処置を施さなれば死ぬと言われている。

 最初に使用した時も時間切れと同時に血反吐を吐いてぶっ倒れ三日間は寝込んだ。これでもまだマシなほうで、マジカルドーピングを使用した者が後遺症なく正常に戻るには専門機関で適切な治療歩施しても最低でも一カ月は入院するそうだ。

 魔法少女の戦闘に勝利すればオールドブルーの使いが回収して本拠地まで送り届けくれる段取りになっている。

 殺島の中で不安が募る。マジカルドーピングが切れるまで30秒もない、適切な処置を施されず放置されれば確実に死ぬ。

 すると誰かが高速でやってくる。この動きは魔法少女だ、青髪で金魚風の魔法少女がやってくる。確かランユウィという名の魔法少女だ。

 

「ワリい、最速(ちょっぱや)で運んでくれ」

「了解っす」

 

 ランユウィは頷くと殺島を肩に担ぎ移動し、公衆トイレに向かうと個室に入る。すると何故か視界に映るのは便器でなく、オールドブルーのところ施設の風景でFSが雇った医療チームが駆け寄ってくる。その姿を見た瞬間に殺島は気絶した。

 

♢ランユウィ

 

「では、失礼します」

 

 ランユウィは緊張で声が上ずらないように注意しながら挨拶した後、深々と一礼して部屋を去っていく。そして深く息を吐いた。

 オールドブルーと一対一で会話するのは久しぶりだった。緊張と不安と喜びで魔法少女の状態でありながらも心臓が高鳴っていた。

 今回オールドブルーから与えられた任務は殺島の回収及び戦闘の様子を録画、そしてランユウィから見た戦いの感想を伝えるものだった。

 どう言えばオールドブルーが喜び評価が上がるか、頭をフル回転させながら言葉を浮かべ、長すぎないように取捨選択しながら伝える。夢中だったので何を言ったのかはっきり覚えていない。表情からして明らかな失敗はしていない、そう思いたい。

 ランユウィは部屋を出て自室に戻る。その間に考えていたのはオールドブルーではなく、殺島のことだった。

 殺島は魔法少女でも魔法使いでもない唯の男性、そんな人間がなぜこの施設に居るのか不思議であったが、特に意識するつもりも干渉するつもりはなかった。だが気が付けば意識し始め、トレーニングに付き合ったりもしていた。

 明るくて気さくで社交的で誰とも仲良くできる。その性格は2代目ラズリーヌを思い出させる。

 魔法少女になって何者かになりたいと思っていた。それはオールドブルーから後継者と認められた魔法少女ラピス・ラズリーヌ、それを目指したがなれなかった。

 2代目ラズリーヌは何者だった。少しでも近づけるように口癖を真似して振る舞いを真似していた。だが殺島は唯の人間だ、2代目ラズリーヌとは違い何者になれない。それ以前に死ぬと思っていた。

 オールドブルーからの任務を聞いて耳を疑った。唯の人間が魔法少女には絶対に勝てない。唯の自殺行為だ。好きか嫌いかと訊かれれば好きと答えるぐらいには殺島を気に入っている。殺されそうになったら余裕があれば助けてもいいぐらいには。だがオールドブルーは明言していないが、言葉の節々に助けに行くなと伝えていた。

 オールドブルーには逆らえない。せめて相手の魔法少女が慈悲をかけて生き延びるのを祈りながら戦いの様子を見ていた。

 そして殺島は相手の魔法少女に勝った。見た限りでは相手の魔法少女は戦える魔法少女に分類できる。決して弱くはない。その瞬間ランユウィの中で殺島は2代目ラズリーヌと同じ何者になった存在になった。

 明日は殺島の元に行って色々訊いてみよう。あの戦いは勝てるという確信はあったのか、一か八かの戦いだったのか。もしかして殺島との模擬訓練が勝利に結びついたのかもしれない。そうだとすれば礼を言われるかもしれない。そんなに礼を言われたいのか、なんで?ランユウィはその理由を考え気づく。

 何者かになりたかったのはオールドブルーに認められたかったからだ。そして殺島に認められたいと思い始めている。

 思わぬ心境の変化に歩みが止まる。それなりに好意はあったがそれ程までの存在になっていたのか!?

 動揺を抑えようと深呼吸しようとした瞬間、ランユウィの意識は途絶えた。

 

 

♢オールドブルー

 

「はい、やってきたよ」

 

 3代目ラズリーヌが目の前の机に青色のキャンディーを置く。オールドブルーはそれを手に取り口に入れる。その瞬間ランユウィの殺島に対する感情が伝わってくる。

 

「お疲れ様です」

 

 三代目ラズリーヌが質問する前に礼を言い会話を打ち切る。相手も心意を察したようで何も訊かず部屋から出ていく。

 オールドブルーはランユウィに撮ってもらった殺島対魔法少女の映像を視聴する。ランユウィの言葉通りそれなりに強い魔法少女だ。間違いなく戦う魔法少女に分類できる。その相手に殺島が勝った。驚きはするが同時にある程度納得できる結果でもあった。

 勝負を決めたのは殺島の不意打ち気味の攻撃、そのダメージでアドバンテージを得て押し切った。だが不意打ちが成功したのはある意味必然だった。

 虹の魔法少女はそこそこのベテランだろう。ベテランの魔法少女は決して油断しない。明らかに弱い魔法少女でも魔法次第によって強い魔法少女を倒せる可能性があるからだ、

 そして魔法使い相手にも油断しない。身体能力では大きく劣るが、入念に準備した魔法使いには魔法少女は勝てない可能性が高い。魔法使いと対峙した場合は入念に準備しているという前提で動く。そして一目で魔法使いであるかは分かる。

 

 だが人間は明確に弱い。一目で魔法使いではないと分かり、どんなに鍛えても戦えない魔法少女にすら勝てない。それは魔法少女歴が長ければ長い程実感する。その人間が魔法少女の動きで攻撃されれば大半の魔法少女が不意を突かれる。

 それに不意を突かれた理由はもう1つある。殺島が初めて来て3代目ラズリーヌと模擬戦をした時にある違和感があった。

 魔法少女が戦う際に起こりが生じる。それは武術的な体の挙動による起こりではなく、別の独特なものだ。正確に判明していないが魔法少女が動く際に生じる魔力的なものと仮定している。

 オールドブルーを始めその教えを受けた者達はその魔力的な起こりを勘によって察知し動きを読む。そして他の魔法少女も意図的にせよ無意識にせよ同じように魔力的な起こりを読んでいる

 一方殺島は人間だ、マジカルドーピングは魔法的な要素が含まれているだろうが、魔力的な起こりが出る程魔力を内包していない。故に勘で動きを察知しにくい。

 魔法少女並みに動きながら魔力的な起こりが無い。これでは不意打ちを喰らっても不思議ではない。

 殺島はまだまだ戦える魔法少女と正面切って戦えるほどではない。だが訓練によって強くなれば魔力的な起こりが起きないという特徴は大きなアドバンテージになる。

 暗殺者として魔法少女の天敵になれる可能性がある。他にも魔法少女や魔法使いが入れない場所でも侵入し、魔法少女並みの力で暴れるなど利用方法は多い。

 マジカルドーピングの研究が進めば殺島のような人間を大量に作れる可能性がある。そして殺島以外はその域に達しない場合は殺島を囲っておく。いれば色々と役に立ちそうだ。ランユウィの報告を受けるまではそう思っていた。

 

 魔法によって一つの懸念が浮かび上がり、それを確認するために3代目にラズリーヌにランユウィの記憶を抜いてもらった。

 

 殺島の人を惹きつける魅力、カリスマは予想以上だった。魔法と人心掌握術によってラズリーヌ候補生をコントロールしてきたが、殺島によってコントロールできなくなってきている。ランユウィのオールドブルーへの心酔が殺島に傾いているのが何よりの証拠だ。

 魔法少女と魔法使い以外での魔法少女打倒。これは間違いなく歴史的出来事で偉業と言って差し支えない。もしこの事実がラズリーヌ候補生に知れ渡れば誰もが一目置く、それどころか英雄として尊敬し心酔するかもしれない。

 この事実を知っているのは殺島とランユウィと3代目ラズリーヌだけだ、この3人に箝口令をしけば隠ぺいできる。だが3代目はともかく殺島とランユウィは無意識の態度で露見するかもしれない。箝口令を無視してランユウィが他の候補生に伝えるかもしれない。三代目が抜き取った記憶を見ればその可能性は充分にあった。

 そしてランユウィの魔法は役に立つ。いざという時の為にオールドブルーに心酔してもらわなければならない。いくらカリスマがあっても魔法少女打倒という偉業がなければ心酔しない。

 当初はメリットがあると考えて殺島を引き取った。だが天秤の傾きは徐々に平行に近づきつつある。もしデメリットに天秤が傾いたら始末する必要がある。思った以上に慎重に天秤を見極める必要がありそうだ。

 

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