暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第48話 死線を潜れ

◆ゴッドスピード

 

 ゴッドスピードはバイクを法定速度無視のスピードで坂道を走らせ黒髪が風で靡く。進むごとに街灯も球切れしているものが増え始め辺りは薄暗くなっていき、路面も目に見えて荒れ始め、タイヤからハンドルに伝わる振動だけでも充分に分かる。暴走で全国を回ったが、こういう道があるところは大抵寂れている。案の定シャッターが閉まり閉店と書かれたボロ紙が風ではためいている。

 暫く進むと大きな門が現れる。横の標識は文字が擦り切れて読めないが何かの工場だったようだ。南京錠を引きちぎり門を開き堂々と侵入する。普通なら門を飛び越えて侵入するのだが、気持ちが高ぶっているせいか南京錠を引きちぎるという荒っぽい方法で侵入していた。

 周りには詰所や工場のような施設が点在し、全て窓などが割れ建物がひび割れている。こういった場所は浮浪者や半グレなどが居るというのが相場なのだが、魔法少女の5感では感じられない。元々居ないのか人払いしたのか、正直どちらでもいい。

 ゴッドスピードは敷地に入ってからはバイクを徐行運転と呼べるスピードで運転し、消していたエンジン音をあえて鳴らす。

 暫く進み敷地の中央付近の開けた場所に待ち人はいた。一言で言えば白かった。服は着物のようなもので白一色だった。長い髪を手でいじっているが髪色はババアの白髪とは別種の白さだった。まつ毛も白く、皮膚もアメリカ人とは別種の白さ、顔色が悪い病人の皮膚のような白さだ。

 

「貴女が依頼主で?」

「違げえけど、そんなもんだ。依頼内容は知ってるよな?」

「はい、貴女と戦う。生死は問わない」

「そうか、じゃあ死合(やろ)うか!」

 

 ゴッドスピードが開戦の合図といわんばかりに叫ぶと同時に、背後から大量のバイクが白の魔法少女に向かって猛然と突進してきた。

 

 オールドブルーの預かりになり日々戦闘訓練を積んでいる最中ある指示を受けた。指定された場所に行き魔法少女と戦ってこい。殺しても構わない。

 鉄砲玉扱いか、こちらはお前らの手助けをする義理はないと断ろうとしたが、3代目ラズリーヌから説明を受ける。

 お前は魔法少女との実戦経験はない。ここでの模擬訓練とは全くの別物であり、一度は体験しておいた方が目的の魔法少女を倒すのにも役に立つ。

 言い分には一理あった。チームのメンバーにも格闘技経験はあるが喧嘩の経験が無いという者には、とりあえず喧嘩しろと言っておく。それほどまでに格闘技の試合と喧嘩は違う。それと同じようなものだろう。オールドブルーに利用されている感があってムカつくがその提案に乗ることにした。

 

 後ろから来るバイクに乗っている者は誰も居ない。これはゴッドスピードの魔法で作られたバイクである。固有魔法である「魔法の単車を作れるよ」これはバイクを魔法の単車に変化させるだけの魔法ではなく、あらゆる物質を魔法の単車に変化させられる。

 単車の性能は物質によって変化する。バイクであればその性能を十全に発揮でき、車や自転車などよりバイクに近ければ近い程性能は増し、物質の相性次第ではぜんまいオモチャ程度の強度とスピードしか出ない。そして変化させた単車はゴッドスピードによって遠隔操作できる。

 今回の戦闘は格闘技の試合のようによーいドンで始まる。だが戦う前にいくらでも事前準備は可能でありそれを利用した。

 事前に100台ほど魔法の単車を作りこの場に運んでいた。普通の実戦でここまでの準備はできないが、ピンクと忍者の魔法少女と戦う際での想定では大量の魔法のバイクを用意できる。これは本番を想定しての実戦である。

 ゴッドスピードは後ろのバイクに合わせるようにバイクを発進させ白の魔法少女に突撃すると同時にバイクの風防がバイク全体を覆うように展開していく。

 その強度は対戦車ライフルでも傷1つ付けられず、オールドブルーのところで訓練をしているラズリーヌ候補生が殴打しても同様であった。

 

 白の魔法少女まで残り数メートルと迫ったところで、目の前が白一色に染まり何かにぶち当たる。だが魔法の単車のスピードは並の魔法少女のダッシュより遥かに速く衝撃も大きい。

 白の何かをぶち破るがその先に白の魔法少女はいない、即座に首を振って周りを確認する。右10メートルらへんにいる。右に曲がって突撃しようかと考えるがやめる。そこには遠隔操作のバイクが突っ込んできているので轢き殺せる。その瞬間を見届ける前に視界が再び白に染まった。

 ゴッドスピードは咄嗟に乗っているバイクおよび遠隔操作バイクを前進させる。先程と同じように白い何かから脱出するつもりだが突如バイクの挙動が鈍くなる。

 これは誰かに後ろからバイクを引っ張られているというより、上から巨大な手のひらで押しつぶされている感覚に近い。

 だがこの魔法の単車はそんな簡単に止められない。さらにアクセルを回しスピードを上げ、白い何かから脱出し勢いそのままに進み、勢い余って施設の壁をぶち壊して100メートルほど距離を取ってからターンを決め後ろを向く。

 

「なるほど、あれがあいつの魔法か」

 

 目の前には高さ数10メートル、横50メートル以上の白い壁がそびえたっていた。そして白い壁にはバイクに人が乗ったシルエットのような跡がついている。まるで昔見たアニメで猫が吹っ飛んで壁をぶち抜き、そのシルエットが壁をくり抜いて跡になっているみたいだ。

 この白い壁はN市出身にはある意味おなじみのもの、雪だ。最初はぶつかる前に雪を出現させ目くらましに加えて突撃の勢いを殺した。そして手応えからして普通の雪と比べ固い、いや衝撃吸収能力が高い。

 そして2回目は同じように雪を前方に発生させ勢いを殺している間に上から大量の雪を下ろした。昔雪下ろしの最中に上から雪が降りて埋まりそうになったが似たような感覚だった。風防シールドが無ければ生き埋めにされていたかもしれない。

 ゴッドスピードは次の一手を考える。同じように突進すれば雪の壁によって威力を殺され躱される。ならば上、雪の壁を超える高さまで上りそこから突撃する。魔法のバイクは走るだけではない、人間が膝を曲げるように勢いを溜め飛ぶことができる。

 だがその狙いを見透かしたかのように上から雪の塊が降り注ぐ。当たれば動きが鈍りその間にさらに雪が降り注ぎ生き埋めにされる。

 ゴッドスピードは咄嗟にバイクを急発進させ回避するが、雪は容赦なく降り注ぎ、目の前には雪の壁が迫ってくる。その壁を避ける様に減速ゼロの右90°ターンを決め直進、50メートル進んだら再び右90°ターン、100メートル進み90°ターンとその判断で曲がり落ちてくる雪を回避する。

 このままでは雪によってどんどん動きが制限され、最終的に生き埋めにされてしまう。その前に直接攻撃しようにもそびえたつ雪の壁のせいでどこにいるか分からない。こうなると打つ手がない。だがそれはバイクが1台の場合だ。

 

 ゴッドスピードは魔法の単車100台をフルスロットルで動かす。相手の雪ではバイクの勢いを止められない。であれば手当たり次第に動かして相手を轢き殺す。

 バイクは自動操縦ではなく遠隔操作である。バイクを視認していなければ精密な操作はできないが大雑把な操作はできる。全速力で100メートル走り、その場でUターンして右斜めに向かって全速力で100メートル走る。それを轢くまで繰り返す。

 正確に100メートルは走らせられないが大体でいい。感覚でバイク同士がぶつからないように操作しなければならないが、トレーニングによってできる。

 ゴッドスピードはランダムに逃げながらバイクを遠隔操作し続ける。相手が逃げない限りいずれは当たるはずだ。

 時間にして数十秒ほど経過した時だった。雪が降り注がなくなり、周りにあった雪は消えていた。辺りを見渡すと白い着物を真っ赤に染め上げた白い魔法少女が横たわっているのを発見する。恐らく戦闘不能だろうが念のために遠隔操作バイクで踏みつぶしておく。

 もしバイクを用意していない突発的な戦闘であれば負けていただろう。この作戦はバイクを元に変化させた魔法の単車が大量になければ成立しない。

 しかし勝ちは勝ちだ。この魔法少女がどれぐらいのレベルか分からないが弱くは無いだろう。そんな魔法少女に勝てた。これでピンクの魔法少女と忍者の魔法少女に勝てるはずだ。

 勝ったら連絡しろと言われていたので、風防のシールドを解除し借りている電話を取り出そうとした瞬間肌がチリチリとひりつき悪寒が走る。

 ゴッドスピードは脳が考え指令を下す前に反射でバイクをフルスロットルでバックさせる。そのコンマ数秒後、その場所にはクレーターのような破壊跡が出来ていた。

 

「おっ、この不意打ちを躱すなんて少しはやるねえ。少し遊んでくれよ」

 

 舞っている埃から見えるシルエットからして何となく女なのは分かる。そして頭の上に何かを乗せている。魔法少女は結構奇抜なファッションの奴が多いらしい、そして上から降りてきてこの破壊跡を作れるのは魔法少女しかいない。

 埃が晴れていくと姿が見えてくる。全体的に毒々しい色のドレス風の服に、果物の断面図のような瞳、そして頭の上に花を生やし、そこからツタが生えその先にもよく分からない花を咲かしていた。

 何者かは分からないが喧嘩を売っているのは分かる。ダメージもないし体力にも余裕はある。実戦経験は多ければ多い方がいい。依頼を受けてきた魔法少女かそうでないかなんてどうでもいい。

 売られたら買う。ゴッドスピードは魔法少女である前に不良であり暴走族だ。

 

「いいぜ、お前が死ぬまで遊戯(あそんで)やるよ」

「やる気だな、いいね、それぐらい元気じゃなきゃバトルし甲斐がねえ」

 

 花の魔法少女は獰猛に笑った。

 

 

◆袋井魔梨華

 

 戦闘狂、バトルジャンキー、人格破綻者、魔法少女袋井魔梨華を評する単語は数多くある。現に人格形成や魔法少女らしさを一切無視して強さだけを求める集団魔王塾という集団があるが、その魔王塾においてもその粗雑さや乱暴さで忌み嫌われている。

 今日はとある用事─魔法少女と戦う荒事─を済まし人気が無い雑木林を突っ切り帰路についているところだった。

 最初に感じたのは音だった。それは工事などの音ではなく何かが破壊される音、その音の先に視線を向けると数キロ先で2人の魔法少女が戦っていた。

 普通の魔法少女であれば厄介事に関わりたくない、あるいは理由は分からないが争いを止めようと考える。だが魔梨華は違う。争いに突っ込み1対1の戦いから三つ巴の戦いにしようとしていた。

 だが到着前に魔法少女のうち1人が倒されていた。それでもやることは変わらない、三つ巴の戦いからタイマンに変わるだけだ。

 

 赤いレースクイーンのバイクが一気に後退する。その言動や雰囲気からして襲い掛かると思ったが随分と慎重だ。

 その直後に無人のバイクが3台後ろから突っ込んでくる。バイクは無人で速度も何キロ出ているかは知らないがどう考えても普通のバイクではない。魔法で作られたか改造されたバイクだ。

 魔梨華は振り向かずサイドステップで1台を躱し、ジャンプで1台を躱し、ジャンプしてきたバイクを蹴り飛ばし、その反動で地面に着地する。

 固い、全体がジェラルミン盾のような素材で覆われているのである程度予想していたが想像以上に固い。かつて南米で戦った戦車より体積は小さいはずだが重く硬さも上だ。その硬さと重さにF1カー以上のスピードが乗る。スピードが乗った状態での体当たりはそれなりの威力だろう。

 そして蹴り飛ばしたバイクは横転せず、吹き飛ばされながら車体を制御しタイヤから地面に着地する。横転したまま動けなくなればと思ったが、そんな都合の良いことは起きない。

 左右からバイクが猛然と突っ込んでくるが魔梨華は両手を伸ばしバイクを受け止め、足元のコンクリートがひび割れる。

 魔王塾という集団は戦闘狂の集まり故にその戦闘力は魔法少女の平均より高い、その魔王塾においても腕力で魔梨華を上回るものは殆どいない。

 戦車より重くて硬いといってもあくまでも普通の戦車だ、魔法少女のなかには普通の戦車より遥かに性能が高い魔法の戦車と相撲が取れる魔法少女もいる。

 バイクを止めている間に前後からバイクがせまる。バイクから手を放し最小限の動きで前と後ろからくるバイクを躱す。だがバイクは動いた方向に軌道修正し向かってくる。最小限の動きからサイドステップで回避する。

 高速で動く者はそのスピードのせいで方向転換できないパターンもあるが、このバイクはそれなりに相手の動きに合わせて方向転換でき、それなりに大きいアクションで躱さなければならないようだ。

 魔梨華は一足飛びで50メートル近い距離を跳躍する。目標地点は赤いレースクイーン、バイクが2台なら止めて勢いを殺してから本体をぶちのめせるが、これだけ多いとその暇はない。遠隔バイクも相手の動きに合わせて追撃するなど避けるのが少し面倒だ、ならば遠隔バイクに構わず本体を叩く。

 跳躍により赤いレースクイーンとの距離が近づくが即座に遠のいていく。相手が近づくスピード以上のスピードで遠のいている。相手は接近されたくないようだ。

 であれば接近してぶちめす。着地からクラウチングスタートの姿勢をとり全速力で駆ける。踏み出した足がコンクリートを抉り宙に舞う。

 魔梨華は腕力だけではなく身体能力全般でも魔王塾でも屈指だ、その魔梨華の全速力でも相手との距離は縮まらない。追い掛けている間に前方から別のバイクが迫ってくる。スプリントの速度を緩め回避する。その間に相手との距離が開く。

 相手の機動力はこちらより上、このまま近づこうと追い掛けても相手の機動力と遠隔バイクの攻撃を考えれば追いつかない。

 ならば遠距離攻撃、魔梨華はお辞儀のように頭を下げ、頭頂部の花弁を相手に向ける。そこから眩いばかりの光が発生する。

 『頭に魔法の花を咲かせるよ』その魔法は頭頂部に咲く魔法の花に応じて様々な力が使える。今頭頂部に咲いている花は雛菊、その力はレーザービームである。

 魔梨華の正面にある建物は直径10メートルほどの円形に綺麗に抉られ、その破壊跡は工場地帯を突き抜け後ろの雑木林までに及んでいた。

 ビームは魔梨華の魔法でも上位の威力で大半の魔法で作られた盾や防御を突破できる。遠隔バイクを蹴り飛ばした感触でビームであれば突き破れると判断した。

 ビームの破壊跡から右数十メートル、赤いレースクイーンはバイクを止め、魔梨華をじっと見つめていた。

 ビームを避けたか、光線だけあって技のスピードは速い、頭頂部を向けた瞬間に予感したのか、ビームを視認してから避けたのか、どちらか分からないが中々の判断の速さと反射神経とバイクの性能だ。

 そして赤いレースクイーンはこちらを見ている。その表情は驚きや恐怖が2割、闘争心が8割ぐらい、この技の威力を見て心が折れた魔法少女もいたが目の前の敵は萎えるどころか、闘争心を漲らせている。

 

「いいね、そうこなくちゃ」

 

 魔梨華は散って落ちる頭上の雛菊の花弁を見ながら嬉しそうに呟く。

 

 それからは鬼ごっこが続く。魔梨華がひたすら相手に近づこうとするが、相手の移動スピードは魔梨華を上回り、遠隔バイクの攻撃が移動スピードを削いでいく。距離は一向に縮まらず、2人は工場跡地を抜け雑木林まで移動していた。

 相手に焦りはない、こちらが疲弊し動きが鈍るまでひたすら安全圏を確保しながら遠隔バイクをけしかける。まるで狩りだ。確かに合理的な作戦だが何となく赤いレースクイーンらしくない、あの表情から雰囲気からして直接戦うのが好きなタイプに思える。

 魔梨華は前後上下左右から迫る遠隔バイクを回避しながら思案する。まず雑木林への移動に成功できた。工場跡地は周りに建物が少なく二次元的な移動が多い、だが雑木林であれば木を登るなどして三次元的な移動ができ回避しやすくバイクも動きにくい。

 魔梨華の予想通りバイクは避けやすくなった。だが多少であり遠隔バイクは木を登りジャンプするなどして三次元的な動きにも対応している。

 そして魔梨華の魔法の花を再び咲かせるのには時間がかかり、水と土と太陽があれば魔法の花を咲かせる時間が短縮できる。雑木林であれば土と地中や木に含まれる僅かな水分で2つの条件が満たされる。工場跡地で戦うのに比べれば大分楽だ。

 もし日中であれば太陽の光という魔法の花を咲かせるのに最も必要な要素を満たし、向日葵の花、雛菊より広範囲で高威力の『向日葵砲(ソーラーキャノン)』で焼き殺せたのだが、この状態では向日葵の花を咲かせようとすれば相当時間がかかる。

 

向日葵の花が咲くのを待つか、別の方法で倒すか?

 

鉄線のキンポウゲ(クレチマス)

 

 魔梨華の頭上に紫色の花が咲き丸鋸のように回転する。鉄線のキンポウゲ《クレチマス》は咲かせる花の中でもトップクラスの硬度を誇る。それは盾としても優秀だが回転する花弁は鉾にもなる。

 

「おら!」

 

 遠隔バイクを避けながら側面にヘッドバッドのように頭を叩きつけギャリギャリという音ともに火花が散る。遠隔バイクはヘッドバッドの衝撃で吹き飛び、魔梨華は追いすがる。狙いは鉄線のキンポウゲ(クレチマス)で生じた風防の亀裂箇所、硬い物体でも亀裂が入れば脆くなる。

 亀裂箇所に向かって拳を叩きこみ風防に大きな穴を開け、そこから前輪に手を伸ばしタイヤを引き裂きホイールを破壊する。前輪が破壊されれば魔法のバイクでも動けない。

 破壊された魔法のバイクはウイリーで魔梨華に突っ込む。前輪がなくても後輪だけで動けるのは予想通りだった。

 迫りくるバイクを回避しながらウイリーするバイクに近づき受け止め、動きを止めたバイクの後輪に蹴りを放ち破壊する。

 この遠隔バイクの風防は全面を覆っているように見えるが、タイヤから下の部分はそうではない。ひっくり返すかウイリー状態であれば剥き出しの部分は存在し破壊できる。

「スクラップ1台!あと何台だ!?全部廃棄処分してやるよ!」

 

 魔梨華は相手を見据えながら歯を剥き出しにして挑発的に笑う。相手が近づいてこない、こちらも距離を詰められない。ならば遠隔バイクを全て破壊し近づくようにする。それが魔梨華のとった方法だった。

 もし遠隔バイクを全て破壊したとして、相手が逃げたとしたらそれまでだ。相手を拘束する術はない。相手が挑めばよし、逃げられれば仕方がないと割り切る。

 

◆ゴッドスピード

 

 ゴッドスピードは動揺を抑え込みながら移動し遠隔バイクを操作する。風防を絶対無敵の盾、ラズリーヌ候補生達との模擬戦で自信を深めていた。

 弱点が有るとすれば風防で覆われていない下の部分、そこを突かれないようにどんな状況でも相手にその部分を晒さないように注意した。

 花の魔法少女との戦いでも細心の注意を払った。しかし力技で風防を破壊され前輪と後輪も破壊された。魔法の単車は自己再生できず、前輪と後輪がなければ魔法の単車でも走行不可能だ。脳内で敗北の予感が過る。

 ゴッドスピードはその想像を打ち消す。魔法少女は思う力が重要だと教わった。それは喧嘩でも同じだ、絶対に勝つという意志が勝利を呼び込む。もっと素早く、もっと速くバイクを操作して花の魔法少女を轢き殺す。バイクの操作に意識を集中する。

 遠隔バイクを前後左右から突っ込ませる。タイムラグゼロの同時攻撃、花の魔法少女は前方にダッシュしバイクにタックルしながら受け止め、回転する花びらでヘッドバッドをかます。

 同じ手は通用しない。壊すのに意識を向けている間に背後から轢き殺す。相手まで1メートルというところでヘッドバッドをやめジャンプする。

 轢き殺そうとスピードを速めたせいでブレーキが間に合わない。単車同士が衝突しヘッドバッドを喰らっていたほうのバイクの風防が粉々に砕け前方部分はグチャグチャになる。誘われた。

 相手の誘いに乗ってしまった怒りが体中に駆け巡るが強引に抑え込む。遠隔操作は繊細な作業だ、性格に合っていないが風防という無敵な盾を生かすにはこれがベストだと信じ、この戦法を磨いた。だが力押しで破られそうになっている。

 相手を殺すために遠隔操作に全神経を集中させる。だが攻撃は当たらず、単車は次々と破壊されていく。30分程経過したころには全て破壊されていた。

 

「これで全部か?」

 

 数百メートル先にいる花の魔法少女は破壊した前輪を指で回しながら挑発の言葉をこちらに向けて投げかける。花の魔法少女は白の魔法少女と比べ明らかに格上だ。身のこなしも相当で頭の花で風防を破壊できる破壊力、それにレーザービームも同等、いやそれ以上の破壊力がある。

 相手の雰囲気と殺気、相手を殺すことを何とも思っていない、こちら側の魔法少女だ。明確に死が迫っている。

 目的は花の魔法少女ではない、ピンクと忍者の魔法少女だ、あの2人が花の魔法少女より強いとは限らない。ここで命をかける必要はない、逃げるのが賢い、相手はこちらより遅い。全力でバイクを走らせれば逃げられる。

 

「そうじゃねえだろ!」

 

 ゴッドスピードは力いっぱい叫ぶ。相手が強いから逃げる。目的じゃないから逃げる。そんなの普通な奴が考える事だ。不良であれば、暴走族であればそんな賢い生き方はしない。売られた喧嘩は買う。絶対に勝つと思って戦う。魔法少女ゴッドスピードであると同時に覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)リーダー生島花奈だ。そんなダサいことはできない。

 視線を花の魔法少女に向ける。視線が合い相手は「そうこなくちゃ」と呟き満足げに笑う。

 その笑みを見た瞬間にアクセルを全開にして突っ込む。地面は抉れ、進路上にある木々は全てなぎ倒していく。

 相手まで5メートル、予想外のスピードに驚き態勢を整えていない。遠隔操作の単車を基準にしているようだが、本来の性能はそんなものではない。遠隔操作をやめて乗っている単車に意識を向ければ性能は跳ねあがる。

 相手は右に跳ぶ。その動きを察知しハンドルをきり追尾する。魔法の単車の性能と乗り手の力があれば、魔法少女の身体能力で大きく跳んでも追尾できる。

 追尾されるのを察知し右足でブレーキをかける。それも見えている、軌道修正して相手の正面に当るように調整する。

 ハンドル越しに衝撃が伝わり、相手はキリモミ回転しながら横に吹き飛ぶ。直撃していない、当たる直前で横に躱され左腕を挟まれた。

 

「威勢の割にはしょぼい魔法で興ざめだったが、今の悪くない、そっちのほうが良いしアンタらしい」

 

 花の魔法少女は木に張り付き左腕を動かしながら嬉しそうに歯を見せている。

 

薔薇の十字斧!(ローゼンクロイツ)!」

 

 相手は頭頂部を向けながらこちらに飛び込んでくる。頭の上の花は斧のような形になり、先ほどの丸鋸の花のように回っている。似たような感じだが、あの花を出したとことは紫の花より攻撃力は上だろう。

 ゴッドスピードは円を描くようにして相手の側面を取る。ゼロからの急加速で相手を惑わす。すると花の少女はこちらを向き頭頂部を見せながら腰を落とす。あの花を盾にして受け止めるつもりだ。

 バイクは花の魔法少女1メートル手前で右斜めにスライド移動する。この単車の唯速くてよく曲がるだけではない。ハンドルを切らずとも曲がれる。スライドしながら前輪を支点にしてコンパスのようにしてバイクを回す。狙いは無防備な背後。

 車体の横が当る直前、花の魔法少女は振り向きながら腕を十字にして防御する、身体は吹き飛んでいき。体を制御しながらバク宙し着地する。また防がれた。だがノーダメージではない。

 

「今のよかったぞ!あと少しで脊髄イクところだった!もっと楽しませろ」

「ああ!死ぬほど楽しませてやるよ!」

 

 ゴッドスピードは間髪容れず突っ込んでいく。遠隔バイクでは全く通用しなかった攻撃があと少しで当たる。このまま攻め続け息の根を止める。

 直進しながらバイクを左右にスライド移動させる。到達するスピードは遅れるが相手を惑わせられる。

 残り2メートル、相手は体を右に傾けるがこれはフェイント、そのまま進む。残り1メートル、左に跳んだので追尾する。当たる直前で相手の右の回し蹴りで単車の側面を叩き軌道を逸らさられる。

 だが単車を即時に制御して回し蹴りの勢いを利用しながら、単車をコンパスのように左回転させる。相手は残った左足で跳ぶと風防に足の裏をつけ膝で勢いを殺し、屈伸運動を利用して跳ぶ。

 コンマ数秒タイミングを間違えれば膝が壊れている。こんな芸当できるのは3代目ラズリーヌぐらいだ、やはり花の魔法少女は相当だ。

 ゴッドスピードは思わず笑みを浮かべる。この魔法少女を殺せばさらに強くなり、ピンクと忍者の魔法少女を殺せるという確信を抱く。これがヤジの言っていたブレイクスルーというやつか。

 急発進、急停止、急旋回、バイクの性能と己の全てを使い轢き殺そうとする。超高速で動いているせいで視界が高速で流れ、花の魔法少女と周りの木々がぼんやりとしか捉えられない。そして脳がシェイクされるようで吐きそうだ。

 頼りになるのはハンドルから伝わる感触のみ、致命傷ではないが少し削っている。あとは相手がやられるかこちらが耐え切れなくなるかの我慢比べだ。

 

臭悪な腐り花(ラフレシア)

 

 強烈なくさい匂いが臭ってくる。その瞬間我慢していた吐き気が一気に押し寄せ意識を失った。

 

◆袋井魔梨華

 

 バイクのハンドルを握り締めながら嘔吐し白目を向いている赤いレースクイーンを見下ろす。

 中々に強かった、バイクに乗った状態の俊敏性や速さは魔王塾でも上位レベルだ、致命傷は受けなかったがそれなりに良いのを貰ってしまった。

 相手の素早さは厄介で風防を破壊する攻撃は中々当たらない。であれば直接的な攻撃ではなく、広範囲攻撃を仕掛ければいい。

 魔梨華の頭上には今までの花より数倍大きな花が咲いていた。その花の効果は刺激臭、唯の刺激臭ではなく、開けた場所でも近くで嗅げば昏倒、遠くても嘔吐してまともに行動できなくなる。あのバイクの風防は攻撃を防げても密封性はなく、匂いを遮断できない。

 

「あ~あ、使いたくなかったんだけどな」

 

 魔梨華はバツの悪そうな顔をしながら辺りを見渡す。魔法少女が昏倒するレベルの刺激臭であれば当然環境にはよくない。周りの木々は枯れ始めている。

 木をなぎ倒すぐらいであれば断面から再生し死滅しないが、刺激臭だと木そのものが死滅してしまう。植物を扱う魔法を使っているせいか、魔王塾の問題児と思えない程植物に対しては優しい。

 しかしこの花を使わなければ負ける確率は増えていた。それほどまでの相手だった。しかも魔法少女の新人だ。魔法少女歴は浅く、実戦経験も一度や二度だろう。長年魔法少女をやっていると何となく分かる。

 

 さてどうするか?これは命のやり取りで相手も殺す気できていた。殺されても文句は言えない、理不尽にトラブルにあい死んでしまう。魔法少女の世界とはそういうものだ。

 だが魔法少女のひよっこがここまでやった。であれば経験と実戦を積めばさらに強くなり面白い戦いができるかもしれない。

 

「生きてたらまたやろうぜ」

 

 気を失っている赤いレースクイーンに声をかけてその場を立ち去る。ラフレシアは致死性は高くないが死ぬときは死ぬ。あとは相手の生命力と運次第だ。死ねばそれまで、生きていれば縁があればまた相まみえるだろう。

 

♢三代目ラズリーヌ

 

「酷い匂い」

 

 三代目ラズリーヌは鼻を抑えながら昏倒しているゴッドスピードの様子を確かめる。自力で期間困難だった場合は回収しての帰還がオールドブルーからの任務だった。

 前回同様ランユウィが担当すべきなのだが、外せない仕事がありかつ暇であった3代目ラズリーヌに任される。暇なのもあるがゴッドスピードが他の魔法少女とどう戦うが興味があるので任務を受け、指定された場所に先回りしてゴッドスピードの戦いを見守っていた。

 戦いはゴッドスピードの勝利で終わる。殺島が戦った虹の魔法少女よりかは劣るが、それなりの魔法少女だった。

 その相手に事前の仕込みをしていたが魔法少女のひよっこが勝利した。それなりに気をかけて指導していたので、この成果は指導者が優秀だったなと少しだけ自画自賛していた。

 するとこちらに近づいてくる魔法少女を感知する。ゴッドスピードはまだ余裕があるので、実戦経験を積むという意味で戦ってもいいかもしれないと見逃す。だが現れた相手を見て状況は一変する。

 

 袋井魔梨華、戦闘集団魔王塾においても上位に入る実力者、どう考えても荷が勝ちすぎている。助けるのであれば即座に割って入るべきだが、そうなると袋井魔梨華と接触する事になる。自分の魔法であれば事を治められるが負けて死ぬ可能性もある。そうでなくても相手に逃げられ魔法がバレる可能性もある。

 保身とオールドブルー陣営の損得を考え、そのまま手を出さず戦いを戦況を見守る。恐らく死ぬだろうがそこまでまして助ける義理はない。死んだら仕事の次いでで近くに寄ったら墓参りぐらいしてやろう。

 そして戦いは結果袋井魔梨華が勝ったがゴッドスピードは生き残った。

 

「運が良かったね」

 

 顔を顰めながら吐瀉物が付着している口元に指を入れ、回復薬を流し込む。どんな強い魔法少女でも油断や運の悪さで死ぬ。それがこの業界だ。ある意味強さと同等に運の良さも必要になる。圧倒的強者、しかも殺人を厭わない袋井魔梨華と戦って生き残った。それこそが強運の証である。

 オールドブルーは殺島同様にゴッドスピードを目障りに思っていた。自身のコントロールを乱す異物、FSから依頼されているからにはそれなりに鍛える必要があるが、アクシデントで死んでFSから何かしらのメリットが享受できなくても、それはそれで良いと思っているほどに。

 任務の説明でも積極的に助けなくていいとは暗に言っていた。もし白の魔法少女との戦いに介入したら命令違反だろう。だが袋井魔梨華というイレギュラーとの戦い、そして相手は完全に離脱し存在が露見する心配はない。ここで見殺しにすればFS側から責任を追及されれば言い訳できないだろう。

 そうなればオールドブルーが不利益を被る。そこまでして見殺しにする必要はないと現場判断を下した。これらの理由は建前だ、私情を言えば気に入っているから助けた。それだけである。

 

 後輩、いや教え子に対する情のようなものだろうか、もし他のラズリーヌ候補生が同じ状況にいても助けてはいないだろう。知らぬ間に情を抱いてしまう。これがゴッドスピードや殺島が持っているカリスマというやつだろう。確かにオールドブルーが厄介に感じている気持ちがわかる。

 

 ゴッドスピードを担ぎあげ全速力で移動しながら魔梨華との戦いを振り返る。

バイクの風防の耐久力はなかなか、だがトップクラスに破壊力を持つ魔法には通用せず、遠隔操作バイクもダメージを与えられなかった。

 だが後半の自分でバイクを操作して戦った時はそれなりに通用していた。あの刺激臭の花さえなければもう少しダメージを与えられただろう。これからはバイクの遠隔操作攻撃は止めさせ、バイクを自ら操作し戦う技術一本に絞ってを伸ばした方がいい。

 情が湧いて助けたのも何かの縁だ、本腰を入れて鍛えてみるか。人を育てるのは案外楽しいのかもしれない。

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