◆
「ヤジ!忍者とピンク髪の魔法少女をぶっ殺す方法だが良い事思いついたんだよ!」
休憩室に居たラズリーヌ候補生達が一斉に視線を向ける。目の前にいるゴッドスピード改め花奈はそれらの視線を気にすることなく駆け寄り目を輝かせながら殺島を見つめる。どこぞの魔法少女と戦って負けたそうだが、意外にひきずっていない。
勿論悔しいだろうが、それ以上にあの2人を殺す妙案を思いついた嬉しさが勝っているのだろう。
「ゴッドスピード、そういう話はここでするな。万が一あの魔法少女の
殺島は花奈の耳元で呟く。花奈も言葉の意味を理解したのか黙って頷き2人して休憩室を出るとトレーニングスペースに向かい、そこの隅で身を寄せ合うようにして話の続きを始める。
「まず2人をおびき出す為に皆で暴走する。一度
「その可能性は高いな」
殺島は頷く。騒ぎを起こして呼び寄せるというのは前世で忍者を呼び寄せた方法だ、来る可能性は高い。花奈は来る理由としては不良の理屈だが殺島は魔法少女の理屈で来ると判断する。
あの2人は世間に害を与える存在を見逃せないという理由で
「それで場所は首都高だ」
「首都高?」
思わず聞き返す。首都高とは前世での帝都高、つまり首都圏にある日本最大の高速道路だ、てっきり地元で暴走すると思っていた。
「なんで首都高なんだ?」
「そりゃ日本で一番交通量が多い場所で暴走すれば楽しい」
「それだけか?」
「まさか!首都高で暴走すれば当然
花奈は興奮気味に語る。以前の暴走でも警察を蹴散らしてきたが完全な勝利ではなく、数人のメンバーが捕まっており花奈も心苦しく思っていた。
それを防ぐために大暴れし、警察にこちらに手を出すのは無駄であり被害が甚大になると分からせる。それならば暴走行為を無視し、他の犯罪を防ぐために行動した方が日本国民の利益と安全を守れると妥協させるつもりだ。
「お前が魔法少女の力で暴れるのか?」
「それもある。だが皆で暴れるんだよ!アタシの魔法で作る単車に乗って!」
「皆って10万人の魔法のバイクを作るのか、
「ああ、アタシの魔法は一度作れば魔法少女の変身を解いても元には戻られねえ、いまのところあの
花奈はガキのような笑みを浮かべながらテンションが上がっていく。花奈の魔法は「魔法のバイクを作れるよ」だ。何度か乗ったが魔法のバイクの性能は凄まじく。F1の車並みのスピードが出せて、ブレーキング性能や操作性も桁違いだ。
さらに風防を車体全体に覆うことが可能─花奈は戦闘時以外はそんなのダセえと言ってやらない─で外部からの衝撃や落車事故から乗り手を守ってくれる。
前世で改造した極道車で暴走しパトカーや護送車すら吹き飛ばしたが魔法の単車はそれ以上だ、戦車すら吹き飛ばせるだろう。もし実行されれば日本の警察では絶対に止められない。首都高は地獄絵図と化す。
「それに魔法少女が
花奈は悔しそうに呟く。以前の暴走で暴走族の魂であるバイクはスクラップにされ心に深い傷を負った。
計画では個人で買ったバイクに魔法をかけるのか、魔法をかけたバイクを配布するのか分からないが一度乗ればそのバイクは愛車になる。魔法のバイクと化せば愛車は守れる。
そして一度は見逃されたが、今度の暴走で二度目はないと殺されてしまう可能性は充分にある。だとすれば魔法のバイクの耐久力と機動力なら花奈と殺島が魔法少女の元に向かうまで逃げられ生存率が高まる。
「あとヤジが使っているドーピング、ヘルズクーポンだっけ?あれも皆の分用意してくれよ。バイクで邪魔する
殺島は内心で舌打ちをする。出来る限り花奈が居るところで使ってはいなかったがどこで存在を知った。
ヘルズクーポンを服用すれば普通の人間では太刀打ちできない。騒ぎを起こせばマスコミが押し寄せるだろう。そこでヘルズクーポンで強化された人間の圧倒的な暴力が目撃されれば視聴者は畏怖し、直接相手する警察も絶望し取り締まろうとする気概が無くなる可能性はある。
だがヘルズクーポンはどう考えても体に悪い、何かしらの反動によって体の害になる可能性がある。使用しないに越したことはない。
「どうよ!?この作戦!?」
「
「全然《まったく》、これからヤジと一緒に準備しようと思ってたところだ」
「だったら少し待ってくれねえか」
「ああ?さっき
「ワリい、どうしても
殺島は頭を90°まで下げる。花奈の作戦は確かに有効だ、魔法のバイクに乗りヘルズクーポンを服用したメンバーが暴れる。生前に行った作戦と同じで忍者が邪魔しなければ日本犯罪史上最大の被害を出していた。
今回も忍者の代わりに魔法少女が現れるが殺島と花奈で絶対にぶっ殺して誰も邪魔されず暴走できる世界を作る。
だがこの作戦には欠点がある。皆の健康についての懸念もあるが、このままでは花奈が幸せになれない可能性が極めて高い。幸せを得る為にはやり方と勝ち方が重要だ。
「んだよ。わかったから
花奈は戸惑いながら殺島の提案を了承する。殺島は礼を言うとスマホを取り出し電話をかけた。相手はFSである。
「もしもし、殺島だ。今大丈夫か?ちと訊きたい事があって」
「ええ、大丈夫ですが」
「魔法少女は
ラズリーヌやラズリーヌ候補生との雑談で魔法少女業界について大まかな情報を得た。魔法少女には魔法少女を仕事にして給料を得ているサラリー魔法少女とそれ以外の魔法少女に分類される。
大半の魔法少女は後者で推奨されている小さな人助けを日夜行っている。そしてサラリー魔法少女には2種類居る。どこの組織に所属していないフリーランスと組織に所属している魔法少女である。
組織には外交部門や広報部門などがあるが、その中に監査部門というものがある。端的にいえば警察のようなもので、魔法少女が悪事を働いていないか調査し逮捕する。
「大まかに3つですね。故意の違反行為をすれば更生専門の魔法少女の下に送り込まれて再訓練、次に行為自体が悪質、または更生が望めない場合は魔法少女の記憶を全て消去されて、人間として社会に放逐されます。最後に行為自体が極めて悪質、社会に出たら害悪となる元魔法少女、拾われて魔法少女になったら危険な魔法少女は封印刑です」
「封印刑っていうのが最も重い刑罰か、その封印刑っていうのはどんな感じだ?」
「詳しくは知りませんが、相当にキツイらしいです。ある意味死刑の方がマシだと思うぐらいに」
「ちなみに過去に封印刑になった魔法少女はどんな
「森の音楽家クラムベリーという魔法少女は才能ある一般人を魔法少女にしてはバトルロワイヤルをさせていたそうで、死んだ人数は3桁はいくそうです。結局死にましたが生きていたら間違いなく封印刑でしょう。あとはピティ・フレデリカという魔法少女はバス事故に見せかけ魔法少女候補生を殺害、そのレベルの余罪を本にしたら図書館ほどになると言われていました」
殺島は内心で舌打ちする。極道でもそれぐらいの悪事を働く奴はゴロゴロいるので驚きはしないがよりによって魔法少女がそれをするのか。
「なるほど、魔法少女が魔法少女を1人殺した場合はどれぐらいの刑罰になる?」
「封印刑はないですね。再訓練か魔法少女資格はく奪でしょう」
殺島は答えを聞いて考え込む。花奈がやろうとしている作戦を実行すれば死者は4ケタ、下手したら5ケタいくだろう。実行犯ではないにせよ、実行できる道具を魔法によって作ったと分かれば解釈次第によって大量殺人犯と認識され封印刑に処される可能性もある。
花奈には今後も幸せな人生を送って欲しい。仮に忍者とピンク髪の魔法少女を殺し、暴走できる環境を作ったとしても監査部門に捕まってしまえば意味が無い。
魔法少女の警察的存在であれば相応の強さと組織力を持っている。2人だけではどうやって勝てない。
「なあFS、オレの世界にあったヘブンズクーポンって知ってるか?」
「ええ、ベストセラー麻薬ですから」
「そしてヘルズクーポンはヘブンズの改悪版、つまり元はヘブンズだ」
「そうなんですね」
「知り合いの魔法少女でコピーしたヘルズからヘブンズを作れる魔法少女はいねえか?」
殺島はFSの話を聞き花奈の作戦を実行させてはならないと分かった。だが花奈の要望は出来る限り応えたい。妥協案として魔法のバイクではなく改造した極道車で代用する。
前世での暴走で使用した改造極道車は忍者には破壊されたが、それ以外だったらパトカーだろうが護送車だろうが弾き飛ばし、戦車で砲撃しないかぎり破壊できないと思わせる程の性能だった。警察相手にはそれで充分だ。それに魔法が関わっていない犯罪に魔法少女が出張る事はない。そうであれば世界はもっと平和になっている
極道車は魔法少女対策としては心持たずメンバーに被害が出るかもしれないが、暴走時に目撃したら即時撤退を周知し、花奈と殺島は魔法のバイクに乗ってすぐに駆け付けられるようにするなど対策をとる。
この世界で作れるかどうかなどの問題は置いておいて最大の問題は費用だ。極道《きわみ》に費用額を尋ねた際に改造極道車3万台に対して兆単位いくと言っていた。仮に1兆円だとしたら1台約3300万円になる。改めてとんでもない額である。
とても強盗や詐欺でどうにかなる額ではなく、そうなると麻薬しかない。麻薬は莫大な利益を生む。
そしてヘブンズクーポンは今流通している麻薬が粗悪品に思える程高性能で依存性も高い。世に出回れば全ての麻薬は駆逐されるだろう。その利益を全て独占すれば兆単位の金を確保できる。というよりこれしか方法はない。
「心当たりはあります」
「だったらやらねえか?うまくいけば兆単位を軽く稼げる。監査部門に見つかるのが嫌だったら、荒事や販路開拓はオレに任せればいい。
もしFSが了承しなければ極道車は作れない。そうなると花奈は魔法のバイクを作ろうとするだろう。花奈がやりたいという気持ちもあるが皆のためにという想いもある。
暴走を禁止させている申し訳なさから、皆が暴走できないフラストレーションを発散させたいと誰よりも花奈が思っている。最悪封印刑になってもかまわないと言いかねない。
「わかりました。やりましょう」
「
「ヘブンズ作りはこちらでやっておきます」
「おう、こっちで
殺島は電話を切ると安堵のため息をつく。誘いに乗ってくれてよかった。これで最低限の問題はクリアした。
しかし問題は山積みだ。販路作りは宝島組を上手く使えば国内はなんとかなる。問題は海外だ、海外の客を確保しなければとても兆単位を稼げない。そうなるとメキシコのカルテルや各国のマフィアが持っている麻薬の販路を奪い取られなければならない。
確かガムテが遠足という名目でメキシコのカルテルを潰したと話していたな、今度は自分でやる番か、それに改造極道車を作る生産ラインを確保する必要がある。
「こんなことになるんだったら
殺島は思わず愚痴を溢す。だが悪い気分ではない。花奈のためにハイエンプレスの為に行動する。その充実感は前世で娘の花奈のためにと借金の催促で追い込み一家心中させた日々を思い出す。
◆ニコ
ニコは焼肉を口に入れながらメッセージアプリを開く。やはり高級店だけあって美味い。舌が肥えている自負はないが、チェーン店との違いは分かる。本当なら人間として食べたかったが、依頼主のFSか魔法少女に変身して来いと言われたので魔法少女に変身している。
空腹は最大のスパイスというがその通りである。魔法少女は空腹を感じない、今の状態の食事は人がコーヒーなどを飲むようなものだろう。喉は乾いていないが味を楽しむために飲む。
暫くすると茶髪のそばかす女性が入店する。FSだ、魔法少女と知らなければ判別できないほど目立たず溶け込んでいる。
「今日は何をコピーすれば?」
対面に座った直後に問いかける。FSは世間話を好まないのは知っている。すると懐から何かを取り出し目の前に置いた。それは変哲の無い紙切れ、普通の人ならそう見えるだろう。だが魔法少女の5感がろくでもないものだと判別する。
それでも構わず数枚ほどコピーする。どんな怪しいものでも危険そうなものでもFSの依頼なら安心だ。
ニコは魔法の国から認められた魔法少女ではない。俗に言う野良魔法少女である。魔法少女になった際に正式な魔法少女になろうとしたが、FSが得にならず他の魔法少女に利用されて捨てられると言われ、それに従った。
ニコの魔法は有用であり、誰もが一度は欲しがる魔法の代表格といえる。だが使い方と使う相手を間違えればトラブルに巻き込まれる。
魔法を使って収入を得るにはコネが必要だ、この相手ならトラブルに巻き込まれず安心して魔法を使える依頼主の元で仕事をする。それが最も重要である。
そういった意味ではFSは最適だ、金払いも良く、今のように公共の場で魔法を使っても見つかったりスカウトされたことはない。
最近はFSからの仕事が多く、浪費しなければ一生暮らせるぐらいの収入を貰っている。そしてコネも太く、金があるだけでは実現できない願いも実現してくれる。理想的な取引相手だ。
FSはコピーした紙きれを受け取るとトイレに向かい扉の前でUターンして戻ってくる。魔法少女は用を足さないのでトイレではない、そして渡した紙切れが無くなっている。
「よし倒した!かっちゃん!みっくん!見てた!こんなに上手いんだよ!今度はゼリウスを倒すよ!しかも1人で!」
男性サラリーマンが意味不明の言葉を発しながらフォークで人を刺し、周りから悲鳴があがる。その男はこの世で最大の幸福を味わっているかのように極上で歪な笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます!よろしくお願いしますセンパイ!」
「やった!これで全国だ!俺がチームを全国に導いたぞ!」
「ありがとー!みんなありがとー!」
大学生風の女性がアイドルのように周りに手を振り、20代ぐらいの男性は近くの人に抱き着くなど、何人かの客達が殺傷沙汰が起こっているにも構わず奇行に及んでいる。奇行に及んでいる者は全員最初のサラリーマンのような表情を浮かべていた。FSはその様子を一瞥すると出口に向かっていき、慌てて後についていく。
「次はさっきの大量にコピーするんですか?」
店を出たFSに問いかける。詳細は分からないがコピーした紙きれがあの騒動に関係している。もし大量に必要になるなら大型注文になる。あの黒い紙をある程度コピーしてから依頼はない。結構散財したのでここらへんで実入りの良い臨時収入が欲しい。
「いや、ある程度はコピーしてもらいますが、大量には要りません。別件で大量にコピーしてもらうので安心してください」
FSはこちらの考えを見透かしたように質問に答える。別件で依頼するというかにはするだろう。こういう時に嘘をついたことはない。
「じゃあ、また」
今日の用はこれで終わりだろう。FSに別れの挨拶をして近場のコンビニに向かい、トイレに入って変身を解除する。
近々依頼される依頼料で何をして買おうか、依頼料を皮算用しながらトイレを出てコンビニスイーツを物色する。
◆FS
成果は上々だ、焼き肉屋で奇行に及んだ者達の様子を思い出し、胸をなでおろす。
FSは客達にニコにコピーしてもらった紙を飲み物に混入した。混入した物は麻薬、かつて殺島の世界で殺島の世界で爆発的にヒットした麻薬、ヘブンズクーポンである。
ヘブンズクーポンはFSが一から作ったわけではない。殺島がドーピングで使用しているヘルズクーポンの元はヘブンズクーポンで、そこに薬物や漢方などを加えたものである。もし追加した薬物や漢方を除外すればヘルズはヘブンズになる。それならばFSのコネを使えば作成可能である。
ヘルズからヘブンズを作るには大きく分けて3工程、まずはヘルズクーポンの成分分析、これは「どんな味でも分かるよ」の魔法を持つ魔法少女に成分表を作ってもらった。
次にどの成分を抜けばヘルズからヘブンズになるかの把握と成分表の作成、これは「正解が分かるよ」の魔法を持つ魔法少女にやってもらった。
この魔法は望む答えが分かるのだが、選択肢の中から選ばなければならず、どの成分をどれぐらいの量を抜くかなど選択肢ごとに違う。そしてヘルズからどの成分を抜けばヘブンズになるという答えは1万択に及ぶ。これでも少ない方らしく、もし正確な成分表が無ければ選択肢は1億に及ぶと言っていた。
そしてニコに作ってもらった1万枚のヘルズクーポンを任意の物質を抽出できる魔法少女に渡し、1万枚の異なった成分を抜いたヘルズクーポンを作ってもらった。あとは自分の体やそこら辺から拉致した一般人を使って、全てを試し正解を探しだす。そして念のためにニコにコピーを作ってもらいあの場で性能を確かめた。
ヘブンズクーポンはこの世界に流通している麻薬より遥かに大きい快楽をもたらすが、その特徴として人生において最も幸せな経験、体験したかった幸せ、これから体験する幸せを体験したり見えたりする。
ある者は人生において結婚式が最高の瞬間だと語り、その者は結婚する1年前にヘブンズクーポンを摂取した時は結婚式の映像が見えたと語っていた。
これでヘブンズクーポンと成分表を手に入れた。ニコに大量コピーを作ってもらい売り捌きたいが、万が一魔法で作ったと監査部門にバレればニコは魔法少女の力を失う。よくても所属の魔法少女になり魔法を悪用できなくなる。
幸運にも作るのは難しいが材料自体は安価で手に入り大量生産可能だ、出来る限り魔法の国に見つかる行動は避けるべきである。
良質な物語を紡ぐ為には演者の要望に最大に応える。そのために多少の苦労は厭わない。