暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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ご無沙汰しております。
ある程度書き溜めたので投稿を再開します


第5話 ヘルズクーポン・モンスター

◆殺島飛露鬼

 

 日は完全に落ちその代わりにネオンの光が辺りを照らし、サラリーマンやホストや大学生などが通りを歩き活気に満ちている。

 城南地区はN市最大の歓楽街である。確かに賑わっているが所詮は田舎の歓楽街だ。規模も小さく東京の歓楽街のように洗練された感じはない、荒っぽく猥雑でどことなく90年代の歌舞伎町を思い出す。

 だがその一昔前の空気は懐かしく、長沢組での新人時代に抗争に駆り出された記憶を思い出す。聖華天時代でも他のチームや警察と散々戦ったがそれでも危ない場面は何度もあった。

 そうだ抗争だ。今からN県最大の広域指定暴力団の宝島会に乗り込む。しかもたった一人で素手だ。普通に考えたら自殺行為の何物でもない、だが今手元にはヘルズクーポンがある。これさえあればヤクザを襲撃するなど子供の使いだ。

 ヘルズクーポンを使わずとも万全な武装して挑めば出来なくも無いが、死ぬ可能性のほうが大きい。まだ死にたくはないので3枚のうちの1つを使わせてもらう。それにこっちを使った方がその後の強請りがしやすくなる。

 殺島はコートを翻しながら歓楽街の奥に進んでいくとキャバクラやスナックやホスト店が立ち並び、通りを歩く年齢層も大学生や学生などの若年層はいなくなり年齢層があがっていく。

 その中で高校生の殺島は目立っていた。だが全く人目を気にすることなく歩き、その堂々な姿と滲み出る高校生離れした雰囲気は歓楽街に溶け込み、誰も気に留めることはなかった。

 殺島は突如歩みを止めて見上げ視線の先には廃ビルがある。窓にはテナント募集中の入り紙が張ってある。一見売り出された雑居ビルに見えるが、20年間極道として培った感覚がここに宝島会の事務所が有るのを見破っていた。

 

「さて、襲撃(カチコミ)かけるか」

 

 ヘルズクーポンを舌の上に乗せる。すると目の辺りの血管が一気に浮き出て、体中に力が漲り気分が高揚する。その高揚感に心地よさを覚えながら扉から堂々と侵入する。そこには明らかに堅気ではない人間が4人ほどいた。

 

「何だガキ! 死にたくなきゃさっさと……ウギャーッ!」

 

 殺島は肩を掴んできたヤクザの腕を文字通り握りつぶした。握りつぶされた手はボトリと床に落ち、手を失った腕から噴水のように血が噴き出す。そして即座に首元に手刀を叩き込みヤクザは叫び声を止め絶命した。

 一瞬の出来事に残りのヤクザ達の脳は処理許容量を超えているのかフリーズしている。その隙に即座に近寄りヤクザ2人を殺害し、残りの1人の首を掴み吊るし上げる。

 

「よう、親分(くみちょう)はいるか?」

「最上階に……」

 

 答えた瞬間首をへし折り死体の懐を弄る。中には短刀の他にトカレフを忍び込ませていた。見るからに末端の構成員でも銃を持っているとは思った以上に大きい組織なのかもしれない。個人的にはリボルバーのほうが好きなのだが仕方ない。

 殺島は短刀とトカレフを取り、他の3人の懐も漁り短刀とトカレフを取って懐に仕舞った。

 

「銃を使えば児戯(ヌルゲー)なんだけどな、まあ宣伝(プレゼン)の為には仕方ねえ」

 

 殺島は手に着いた血を振り払って階段を上った。

 

◆坂田末吉

 

 坂田末吉は宝島会の構成員である。だがそれ以前は宝島会が台頭する前にN市を支配していた鉄輪会の構成員だった。

 元々新興勢力である宝島会が縄張りを狙っていたが何とか侵攻を防いでいた。だがある日を境に侵攻され、あっという間に乗っ取られた。

 鉄輪会には1人の用心棒が居た。ビキニにミニスカートの痴女みたいな恰好をした金髪のロングヘアーの女、そのプロポーションとルックスはそこらへんの芸能人がゴミに見えるようなマブい女で、もし寝られるなら死んでも構わないと思わせるほど魅力的だった。

 その女は容姿だけはなかった。一度だけ戦っているところを見たことある。あり得ない動きで抗争しているヤクザの組員を肉塊にしていく。それは今まで培ってきた常識を粉々に粉砕した。その女によって鉄輪会は守られていたといってもいい。

 そして鉄輪会崩壊の原因もその女が原因だった。ある日を境に武器の入手を強要してきた。ドラグノフ、トカレフ、AK、KSVアンチマテリアルライフル。他にも様々な武器を欲しがった。それを買えば組の財政は一気に傾き、宝島会の侵攻の切っ掛けを作ることは分かっていた。だが断ると言う選択肢は存在しなかった。

 

 断れば確実に殺される。あの女がその気になれば鉄輪会を皆殺しにするなど造作もないことは分かっていた。たとえ財政は傾いてもあの女に迎撃してもらえばいい。そう考えて武器を買い与えた。だが女はいつぞや中宿であったテロ事件以降ぱったりと姿を現さなくなった。その後は吸収合併され、若頭だったが平構成員に降格させられた。

 

「何だあの化け物は!ありえねえ!グワーッ!」

「クソ!マシンガン持ってこい!ギャアーッ!」

「そんなもんねえよ!助けてくれ母ちゃん!」

 

 今目の前に映る光景はかつて用心棒の女が見せたものと同じだった。未成年のガキが人間ではあり得ない動きで銃弾避け、ドス一本で体を引き裂き首を切り飛ばし血の海を作り上げる。武器は銃とドスの違いはあるにせよ。その圧倒的戦闘力は同じだった。

 

親分(くみちょう)に伝えろ! 今すぐここに来い!でねえと宝島会構成員全殺しだ!」

 

 ガキは血で体を真っ赤に染めながら叫ぶ。このガキは本気だ。組長が来なければ本気で潰す気だし、潰す力もある。生き残りの構成員もそれを感じ取っており、若頭が急いで組長に報告しに行った。

 それから何秒経ったか、分からない。その間生き残りたちは恐怖のあまり逃げることすらできず、まるで檻の中で虎と一緒に居るような気分だった。それから暫くして組長と若頭が降りてきた。

 

「別の場所でお話したいんで、送迎(エスコート)お願いします」

「ついてこい」

 

 ガキの発言に組長と若頭は頷き階段を下がっていき、ガキもその後を付いて行く。

 助かったのか?生き残りたちは極度の緊張感からの解放と必死といえる状況から生還した安堵で、その場に崩れ落ちた。

 

◆殺島飛露鬼

 

「ワガママ聞いてくれて有難(あざ)っす」

 

 殺島はソファーに座り込み組長に礼を述べる。虎の毛皮の絨毯、紛い物ではない本物の高級品だ、黒檀の机に黒革のソファー、これも高級品だ。それなりの規模のヤクザの組長だけあってそれなりに金を持っている。

 

「お前何者だ?」

 

 組長は肘で台形を作りながら静かな口調で尋ねる。だが視線は一般人が見れば恐怖で失禁するほどの殺気が籠っている。組長の隣に立つ若頭も負けず劣らず視線に殺気が籠っている。

 

「一応高校生(コーボー)っス」

 

 殺島はその殺気を意に介することなく平然と答える。極道時代でも本部長として同等の殺気は数えきれないぐらい浴びてきた。

 

「色々聞きてえが、とりあえず何であんなことした?」

「そりゃあ、強請(おねだ)り前の下準備ですよ」

 

 殺島は当たり前の事を聞くなと言わんばかりに答えて、タバコを吸う。若頭は一瞬懐に手を入れかけるが動きを止め、1つ深呼吸する。自分たちの武力を示して交渉を有利に持っていく、ヤクザの常套手段だ。

 

「それで何が欲しい?」

「まずはとりあえず2つ、拳銃(リボルバー)とか日本刀(ぽんとう)とかの武器の調達、現金(ゲンナマ)あとは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)っていう族のメンバーを組に勧誘するとかヤクザの世界に関わらせない、この2つお願いします」

 

 組長は顎に手を当て思考している。族への不干渉は可能だが、武器の調達や現金の提供については首を縦に振りたくはないだろう。ヤクザが恐喝(ガジ)られるというのも屈辱だが、問題なのは財政にどれだけ影響が与えられるかだ、要求によっては財政が相当傾く。だが断れば暴力によって潰される。選択肢は1つしかない。

 

「組長さんの悩み分かるぜ~。ただオレとしては何もせずに貰うつもりはない、稼業(シノギ)の提案をさせてもらう」

 

 殺島は組長の思考を読むようにやさしげな声で語り掛け、組長たちは思わぬ提案に警戒心を募らせる

 

「とりあえず、そっちの組員(しゃてい)何人か貸してくれねえか、あとは麻薬(クスリ)を何割か」

「何するつもりなんだ?」

「だから稼業(シノギ)ですよ。上納金をたんまり献上します。それに麻薬(クスリ)を上手く捌けなくて困ってんだろ。それも捌いてやる」

 

 組長と若頭の肩が僅かに動く。恐らく図星だろう、麻薬は売れればいい稼ぎになるが捌くのが難しい。

 

「組員は貸してやる。ただ麻薬はダメだ。そんな重要な物の売買を外部のガキに任せられるか」

「まあ当然の判断だ。とりあえず稼いでから色々と嘆願(おねがい)しますよ。とりあえずメモに書いてあるもの用意よろしく」

 

 殺島は懐から紙きれを取り出すとテーブルの上に置いて離席する。その様子を組長と若頭は黙って見送った。

 

◆◆◆

 

「ふ~、とりあえずは何とかなりそうだ」

 

 殺島は浴槽に漬かりながら呟く。警察に対抗するためには武器や情報が必要になる。他の者の武器は金属バットなどでも充分だが、己の極道技巧を生かす為には拳銃が必要不可欠であり、入手できるのは裏社会の極道である。

 情報だが前世に所属していた組では警察内部に密偵を送り込むなど、敵対しているからこそ警察について詳しいという側面もあり、宝島組もそれ相応に詳しいと踏んでいた。警察の情報も警察関係者の妻や娘を篭絡し入手するという手もあるが、こっちのほうが手っ取り早い。

 そのために必要だったのが飴と鞭、暴力と金である。ヘルズクーポンを使い圧倒的な暴力を見せる。本来なら銃を使えば極道技巧でもっと楽に殲滅できたが今回は敢えて馴れていない短刀を使って戦った。

 銃は強力な武器だ。これなら単独で組を襲撃しても何とかできる可能性はある。だが短刀で銃を持ったヤクザを殲滅するのは化け物か忍者でなければ無理だ。短刀を使うことでより自身を強力な存在であると植え付けさせる。

 だが暴力というデメリットだけでは反抗される可能性がある。圧倒的な武力があれば問題ないがヘルズクーポンは残り2枚しかなく、素の状態では何十人の極道は殺せない。だがメリットさえあれば相手は従う。それが金である。

 

キムラマニュアル

 

 極道の収入を爆発的に上げた伝説的なメゾットである。このマニュアルによっていくつもの組の経営危機を脱しさせた。かく言う殺島も前世では組の本部長であり、キムラマニュアルに基づいて活動し内容も頭に叩き込んである。

 マニュアルに記されているのは詐欺全般に投資や密輸のやり方など犯罪行為による金の儲け方、特に振り込め詐欺のやり方はサルでもわかると評されるほど簡単にかみ砕いた内容になっており、どんな低能なヤクザでも出来る。何より効率の良い麻薬の流通の仕方も記されている。

 前世での一昔前はクラブやディスコで売買するというのが主だった方法だが、風俗営業法により取り締まりが厳しくなりできなくなった。

 そこでSNSや匿名性が高い通信アプリを使用して、売人がフードデリバリーや宅配便を装って公園や自宅に麻薬を届けるという仕組みである。これによって警察は迂闊に職質できず、かつ気軽に誰でも麻薬を買える。それによって大学生や主婦や会社員などが主要顧客になり、売り上げは爆発的に上がった。

 ニュースやネットでこの世界の犯罪事情を調べたが、前世よりは発達しておらずキムラマニュアルは革新的と呼べる内容である。

 

 キムラマニュアルを使ってまずは振り込め詐欺で民衆から金を巻き上げ、信頼と実績を積み上げ麻薬の取り扱いに参加し、キムラメゾットで麻薬を捌く。上手くいけば宝島組は巨万の富を得る。そしてアイディア料として1割程度もらう。1割でもチームを運営するのには充分だ。ヤクザも潤いチームも潤う。まさにWin―Winである。

 

「真面目に労働(はたらく)か」

 

 殺島の呟きが浴槽に響く。いくらキムラマニュアルがあると云えど一から組織を運営するのは相当な苦労があるだろう。だが気持ちは萎えず勤労意欲に湧いている。それは娘の花奈を幸せにしようとガムシャラに働いた前世でのかつての心境と同じだった。

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