♢3代目ラピス・ラズリーヌ
研究部門の施設に来るのは約3ヵ月ぐらいだろう。約3ヵ月間はオールド・ブルーから指示された仕事やお使いなどで常に動いていた。そしてここに来たのはプライベートで顔を出すわけではなく勿論仕事の為だ。
十字路を真っすぐ進み、角を右に曲がりその次を左に曲がり、すれ違った研究員に会釈をしながら進む。呪文を唱えて目の前の扉を開け、目の前に現れた黒い穴に飛び込む。
その先は床も壁も白色の無機質で彩りに欠けた部屋だった。その部屋の中で前方30メートル先にひときわ目立つ存在が居る。
黒髪のロングに白のメッシュ、下は赤色に白の一本線が入ったスカートで、上がへそ出しの赤色キャミソールの肩紐が片方のみで妙にテカテカしているレースクイーン風のコスチューム、そして黒色のバイクに跨りブオンブオンとエンジン音が響き、左手で波打った剣を肩に担いでいる。
魔法少女ゴッドスピード、彼女はオールド・ブルーの知り合いから鍛えてくれと預かった魔法少女だ。この研究部門の敷地の一部で他のラピス・ラズリーヌ候補生と一緒に訓練に励んでいる。
ゴッドスピードは来た当初に組手で完膚なきまでに倒したり、魔法少女との戦いの監視役を任され、突如乱入した袋井魔理華に負けた後に回収したりと、それなりに関わり合いがある魔法少女だ。
彼女を鍛えろという依頼は未だ継続中で、今日来たのは組手を通して成長具合を確認し指導する為だ。
「準備はいい」
「ああ」
ゴッドスピードは最低限の言葉で答える。以前魔法少女との戦いを見た時は大量のバイクを操作し数の利を生かして戦う戦闘法だった。だが今は乗っている1台のみ、事前に本番さながらの組手をすると言っているので、これがゴッドスピードの本気なのだろう。
以前に戦闘スタイルの変更を進言したが素直に従っている…わけではない。人の言う事を素直に聞くタイプではなく、試行錯誤の末にそうなったのだろう。
ラズリーヌは手を下げリラックスした状態で相手を見据える。ゴッドスピードを本格的に育成する気になった最中に、オールド・ブルーから任された仕事のせいで指導できなかった。さてこの数か月でどれぐらい成長しているのか。ゴッドスピードは右手でハンドルを握り視線が合う。これが組手開始の合図となる。
瞬間、ゴッドスピードの姿が肥大化する。違う大きくなったのではない、相手が近づき5メートル手前まで接近したのだ。
ラズリーヌは少しばかり驚きを覚える。魔法少女としても高水準の5感、何よりラピス・ラズリーヌの最大の長所である類まれな6感、直観力がある。これらがあれば大概の魔法少女の動きを察知できる。だがここまで接近を許した。
何かの魔法で感知が遅れたか?いや相手の魔法は魔法のバイクを作るだけ、それかバイクにそのような効果が備わっている?
脳内で幾つもの仮説が浮かび上がるが即座に打ち消し相手に集中する。このままではバイクに轢かれるので躱す。重心を移動して右に移動しようとするのに反応するように、バイクの軌道が変化しこちらの正面を捉える。
今度は左に躱そうと重心を移動するが、先程同じように軌道を修正して正面を捉える。バイクとの距離が0になるまでの間コンマ数秒、右に行く、左に行く、右に行くと見せかけて左と回避しようとしたが、バイクの正面は常にこちらの正面を捉えていた。
最小限の動きで躱し側頭部や側面を攻撃しようと思ったが、欲をかけばバイクに轢かれる。ここは回避に専念するべきだとギリギリまで引き付け、右に横っ飛ぶ。
相手もこの動きに対応できず、バイクはこちらの正面を捉えていなくバイクに轢かれるのを回避、だが目の前に波打った刀身が迫っている。
バイクに轢かれまいと大きく躱し態勢を崩したところに剣での追撃の二段構え、それはラズリーヌの予想内であり、ブリッジのように身を捻りながら手を下から掬い上げるように動かし、剣を持っているゴッドスピードの左手に向けて手を伸ばす。
ラズリーヌの魔法は「気分を変えるキャンディーを作るよ」である。その気分を変えるキャンディーの原料は他者の感情である。例えば相手に触れて怒りの感情を抜き取りキャンディーにし、そのキャンディーを他者に与えて怒りの気分に変えるなど、そうやってキャンディーを与えて他者に喜怒哀楽を変化させる。
その応用で他者の記憶を抜き取る事も可能であり、戦闘においては相手に触れて記憶を抜き取る。そして記憶を抜き取られた相手は意識を失い即戦闘に陥ってしまう。
組手が始まる前は最初の新人のイメージが強く。テキトーにあしらうつもりだった。だが一瞬で接近するスピード、相手の動きを先回りするバイク操作技術と体捌き、もはや一人前の魔法少女である。であれば実戦と同じように戦う。手を抜いて戦えば後れを取る可能性が生じ、組手といえど負けたくはない。
ラズリーヌの手が剣を持つゴッドスピードの左手に迫れ、触れると確信した瞬間に手を思いっきり引いた。
その判断に感心する。剣の持ち手が壊されると思って防御を優先したか?であれば好判断だ。それとも勝敗が決してしまうと何かしら悪い予感がしたか?であれば感心より驚愕する。
直観力による思惑の看破はラズリーヌにとって必要不可欠な能力だが、ラズリーヌ候補生ではない者がここまでの直観力を発揮するなんて。
どちらか分からないが来た当初だったら間違いなくそのまま振り抜き、記憶を抜き取られ戦闘不能に陥っていた。
しっかり成長している。先輩気取りではないが、後輩の成長を見ると嬉しくなる。
◆◆◆
ラズリーヌは目の前にあるカップを手に取る。芳醇な香りが鼻腔を刺激し、口に運び紅茶を飲むと上品な味わいが広がる。これは結構高級品だろう。次にお茶請けのクッキーを手に取り食べる。これも高級品で甘さにジャンク感がない。
対面のオールド・ブルーもラズリーヌと同じように紅茶を飲みクッキーを食べる。ゴッドスピードとの組手が終わり、様子を報告しようと師匠の部屋に行くと、丁度仕事の休憩していたので、ご相伴にあずかっていた。
「ずいぶんと成長したね、ポテンシャルはあると思ったけど、ここまで伸びるとは思わなかった。もう立派な戦える魔法少女レベル」
ラズリーヌはあの後も組手を行い5本やって5本取ったが結構苦戦した。戦闘能力だけなら戦う魔法少女に引けを取らず、ラズリーヌ候補生ではないが候補生に恥じない。なにより戦い方にラズリーヌの匂いがしていた。
師匠はラズリーヌ候補生の第6感、直観力を養うように指導する。鍛え抜かれた直観力は相手の思惑を看破し、魔法的物理的罠を回避し生き残る可能性を上げる。
先の組手でも何故剣を振り抜こうとして止めたかと問うと、「ヤバイ気がした」と返答し、それとなくラズリーヌの魔法を知っているかと探りを入れたが、知っている様子は見られなかった。
初めて組手した時はゴッドスピードのポテンシャルは感じたが、ラズリーヌ的育成方法ではなく魔王塾に入った方が強くなると思っていたが、実はこちらの育成方法が適していたようだ。
「あなたが評価するならそうなのでしょう。戦闘法を変えてから強くなりましたから、これも貴女の助言のおかげです」
「私が言わなくても師匠が助言したでしょう」
「そうですが、素直に言う事を聞くかどうかは別ですので、ゴッドスピードは貴女を認めているようですから言う事を聞いたのでしょう」
オールド・ブルーは優雅な動作で紅茶を飲む。魔法は「本質を見抜く目を持っているよ」だ。その魔法を使い相手の適性を見抜ける。バイクを多数操作するより、1つのバイクに専念する方が強いというのは分かっていたのだろう。
「まあ、人間の時の戦いを見ればどう見ても適正とは違う戦い方でしたので、もし見ていれば大半の人が進言するでしょう」
「そうなの?」
「彼女達が言う極道技巧、あの卓越したバイク運転技術は魔法少女なら誰でも出来ますが、人間にはまず不可能なものです。あれは驚きました」
師匠は僅かに口角を上げる。思わず笑みを浮かべるほど凄かったのか、その反応を見ると気になる。
「それで組手をして感想は?」
「速い、単純なスピードもそうだけど、アジリティとかクイックネスもある。触るのにもそれなりに苦労した。それに直観力もあるから、初見殺しを喰らいそうになってもあのバイクの機動力なら避けられると思う」
バイクに乗っているので最高速度は速いと思っていたが機動力も富んでいる。あれに攻撃を当てるには何とかして足を止めるか鈍らせるしかない。それか広域攻撃、それも生半可ではなく街1つ巻き込むぐらいでなければ、範囲外に離脱される。
脳内で知っている魔法少女の魔法でどうやって攻略するかシミュレートする。
「それで、どうするの?ゴッドスピードの用事が終わった後は正式にラズリーヌ候補生にすれば?」
「いいえ、手元に置いていてもメリットよりデメリットが大きいタイプです」
「そう、結構おもしれえ女なんだけど」
ラズリーヌは残念そうに呟く。跳ねっかえりで反抗的で何だか放っておけない、ラズリーヌ候補生にいないタイプで結構気に入っていた。
一見では分からないが師匠が言うからにはラズリーヌの素質がないのだろう。そして手元に置けない理由は何となく分かる。
他のラズリーヌ候補生は師匠の人心掌握術によって多かれ少なかれ好意を抱いている。だがゴッドスピードは好意を抱いていなく恐らく嫌っている。手駒の中には好意を抱いていない魔法少女もいるが、その魔法少女はビジネスライクに付き合える。
だがゴッドスピードはそれが出来ないタイプだ、何かしらの悪感情がいずれ足を引っ張る。
「やっぱり人間関係の問題?」
「そこは解消しました。来る前よりラズリーヌ候補生達と交流する必要に迫られましたが」
師匠はラズリーヌ達のコントロールを崩す可能性がある殺島を気にかけていた。魔法と人心掌握術と与えた恩による忠誠心によるコントロールを上回るカリスマ、そしてゴッドスピードも殺島と同様のカリスマを有している。
今日の組手終わりにそれとなく調査したが、比較的にオールドブルーを心酔していないラズリーヌ候補生達はゴッドスピードに好意を抱いている。だが仮にゴッドスピードがオールドブルーから離れて一緒に行動しようと言っても着いてこない程度だ。利益や打算で上手く縛り付けている。
そしてその利益や打算に天秤を傾けさせるために労力を割かれたのだろう。雰囲気からゴッドスピードへの印象の悪さがほんの僅かに漏れている。もっともラズリーヌの前だから漏らしているのであり、他の魔法少女なら絶対に漏らさない。
「そういえば、あの男、殺島だっけ?どこにいるの?」
ゴッドスピード繋がりで殺島について思い出す。カリスマは同等として狡猾さや頭脳が備わり、人をコントロールする才能はゴッドスピードより上だ。本気でラズリーヌ候補生達を引き抜こうとすれば何人かは引き抜かれる。
そして人間で魔法少女を倒そうと企んでいる異端の者、ゴッドスピードより弱く、本来なら猛特訓でもしているべきなのだが、その姿は見られなかった。
「彼は所用で出かけています。最近は忙しいようでしばしば留守にしています」
「それでいいのかな、目的は魔法少女を倒すことでしょ。一回倒したからやる気なくなったのかな?訓練しないと」
「一応は外でも出来るトレーニングメニューは与えています。やる気があればやっているでしょう」
「そう、というよりあの2人は誰を倒したいの?師匠はあの茶髪の……FSから聞いていない?」
「聞いてません。こちらとしては手駒ではなく損失が無い魔法少女がターゲットだと分かっているので、それで充分です」
師匠は平然と喋る。倒したいと言っているがあの2人はターゲットの魔法少女を殺すつもりだ。それでも止めず自分の利になるからと手助けする。
魔法少女の世界は殺伐としている。魔法少女の中には魔法の国が設立した部署があり、師匠は研究部門の上役になった。
そこまでの地位に登る為に権謀術数で失墜させ、汚れ仕事担当の魔法少女に暴力を行使させたりしただろう。他にも部署同士の権力争いもある。常にどこかしらで権力争いや暴力沙汰が起こっている。これが魔法少女の実情だ。
どうしようもない業界であると改めて実感し、その気分の悪さを紛らわすように菓子に手を伸ばす。
◆
惨状と呼ぶに相応しい光景だった。外観は豪邸と呼べるものだが、プールは赤く染まり何人もの死体が浮かんでいる。正門から玄関までの道にも死体が散乱している。
家の中も同様だった。絵画や壺などの美術品は手榴弾や銃弾によって無惨に破壊され、死体が散乱している。
殺島は引き金を引くと相手の頭が爆ぜて絨毯が赤く染まる。道中で殺したのはメキシコ最大マフィア構成員で、今撃ち殺した相手はメキシコマフィアのトップだ。
ヘブンズクーポン生産可能と報せを受けて早速販路開拓に取り掛かり、国内は宝島組系列の販路を利用した。ヘブンズクーポンの効果の高さも相まって売り上げは以前の数十倍を叩きだした。
しかしFSや宝島組に分けた取り分ではとても改造極道車5万台を生産できる資金には足りなかった。そうなると需要の拡大のために海外の販路を乗っとる。つまり世界中のマフィアから販路を奪うために抗争をしかける必要がある。
当然宝島組は手を貸さない。武力や人数では相手が海外の組織が上であり潰される。だとすれば殺島がやらなければならない。
武力に関してはヘルズクーポンやマジカルドーピングがあるので不可能ではない。だが潰す為の現地での情報収集や潰した後の事務処理が問題だ。これは殺島ではできない。どうするかと頭を悩ましているところに手を貸したのがFSだった。
FSは各国の入国手続きや情報収集を一手に担っていくれ、殺島は抗争に専念できた。本音を言えば抗争に参加してくれれば楽だったのだが、そうすると監査部門に目をつけられるそうなので拒否された。
殺島はこの数か月間戦い続けた。以前ガムテがメキシコマフィアを潰した遠足の話を聞いたが、あれは
そうなるとヘルズクーポンだけでは厳しいのでマジカルドーピングも使用した。ただ通常のマジカルドーピングでは戦力過多なのは勿論、副作用が強すぎるので効果も弱いが副作用も弱い特別製のものを使用した。それでも副作用は出るのでFSの治療チームに現地で治療してもらったり、ゲートという瞬間移動装置を使い別の場所で治療してもらったりした。
ヘルズクーポンとマジカルドーピングを使用したが決して楽な戦いではなく。下手したら死にかけた場面が数度あった。しかしそのお陰で以前に比べて強くなった。
花奈のような魔法少女と違い人間時の強さが増せば、その分だけヘルズクーポンとマジカルドーピング使用時状態の強さが増す。
おそらく抗争によって生死をかけた実戦経験を積めたからだろう。オールドブルーの所で訓練と模擬戦闘するより強くなれた。やはり実戦が人を強くする。
「お疲れ様です。これで主要の販路は確保できましたね。あとの事後処理はやっておきますので、帰って生島に顔を見せては?」
するとFSが後ろから声を掛けてタオルを渡し、殺島は手に取って返り血で濡れた顔を拭く。FSは抗争の度にこちらの様子を見守っている。
「なあ、なんでここまで
殺島は率直な疑問をぶつける。麻薬の生成工場の調整や世界中の卸先への交渉など膨大な労力がかかる。殺島がやった事といえばヘブンズクーポンの元になるヘルズクーポンの提供と販路奪取の武力担当を担ったぐらいだ。交渉で麻薬による利益の取り分を4:6にしたが、普通に考えれば取り分は2:8ぐらいだ。
FSもそれぐらい理解できる頭はもっているはずだが、何故か4:6で了承した。それでなければ改造極道車5万台は生産できなかった。
そして事後処理の手際があまりにも良すぎる。そもそもヘルズクーポンからヘブンズクーポンを作成するというアイディアも殺島が唐突に思いついたものだ。FSがヘルズの元はヘブンズと知っていれば納得だが、あの様子を見る限り知ってはおらず準備する時間はない。
「それは金の為です。知っていますか?各部門に所属している魔法少女や1流と呼ばれるフリーランスなどのサラリー魔法少女以外は基本的に貧困にあえいでいます。魔法少女であり続ける為にはプライベートを犠牲にして魔法少女活動をします。結果社会で生きていくために必要な知識や技術を得られず、職に就いても魔法少女活動に時間が割かれるので、それ相応の職にしか就けません。それを嫌って魔法少女を辞めようとする人もいます。若い時に辞めればやり直しが効きますから」
「随分と
「ですのでそういった人たちを雇用という形で資金援助して魔法少女を辞めないで欲しいのです。どんな時にどんな魔法が役に立つか分かりませんから」
FSは意味ありげに笑う。魔法少女の魔法は多種にわたる。どんな敵にも勝てる最強の魔法が全てを賄えるわけではなく、この状況にしか使えないというピーキーな魔法が使える場合もある。
そういった選択肢を増やすのが狙いだろう。ヘルズクーポンを複製した魔法少女やマジカルドーピングを使った時に治療する魔法少女もその類だ。
「では事後処理があるので失礼します」
一礼するとその場から立ち去り、その後ろ姿を見送りながら煙草を取り出し、火をつける。言い分は筋が通っている。仮にある魔法少女が各部門との引き抜き合戦になればものを言うのは資金力だろう。さらに魔法を秘匿するためにフリーランスとして仕事をするなと条件を出すとしても契約金を上乗せする必要もある。
だとしたら猶更金は必要であり取り分を要求する必要がある。相手の暴力を恐れる場合は正当な取り分より比率を下げる場合もあるが、殺島とFSでは単純な強さや人脈による戦力の多寡を比べれば殺島が弱者だ。取り分も2:8ではなく、1:9、0.5:9.5の比率にしろと言われても従わざるを得ない。
そしてFSに借りを作り過ぎている。オールド・ブルーに紹介、マジカルドーピングの準備、ヘブンズクーポンの作成、麻薬販売販路の整備、オールド・ブルーへの紹介とマジカルドーピングの準備は実験の一環だろう。
マジカルドーピングの効果測定や、どれぐらい鍛えてマジカルドーピングとヘルズクーポンを服用すれば、人間が魔法少女を倒せるか試している。これも一応は筋が通りギブ&テイクの関係に見えるがそうは思えない。借りを作り過ぎれば思わぬところ徴収され不利益を被る。
他にも殺島には引っかていた。どうも都合が良すぎる。花奈を魔法少女になったのもFSのメッセージが届いたのが切っ掛けだ。もしコンタクトを取らなければ未だに魔法少女になる方法を知らず、暴走するための糸口を見つけらなかった。
花奈は自分の意志で選択していると思っているかもしれないがどうも誘導されている気がする。都合の良い話には絶対に裏がある。極道時代に数多くの人生を破滅させた経験から得た教訓だ、楽して利益を得ようとした瞬間が破滅の一歩だ。
FSは善人でなく手のひらで踊らされている可能性がある。利用されていることに不満はない。暴走する為にはこの選択しか道はなかったので感謝すらしている。だが悪人は骨の髄まで搾り取ろうとする。踊りながら目的を邪魔されず、花奈達が搾取され捨てられないように目を光らせ自衛する必要がある。
◆ゴッドスピード
ゴッドスピードは誰も居ないトレーニングルームで1人バイクを操作する。目の前にはラズリーヌの姿がはっきりと浮かび上がっていた。想像のラズリーヌはバイクの突撃を右に躱し、顔に触れようと手を伸ばす。その手を全力でのけ反り回避する。
組手では触られた瞬間に意識を失い、気が付けば喉元に手刀を突き立てた姿が飛び込み、それが5回続いた。実戦なら意識を失っていた間にトドメを刺されている。つまり5回殺されている。
怒りで一瞬想像のラズリーヌの姿が乱れるが、すぐに乱れがおさまる。触れたら即死、とんでもない魔法だ、対抗策は1つ、相手に触られる前に攻撃し、相手に気付かれる前に殺す。もっと速く、もっと素早く。ゴッドスピードはスピード追及に没頭する。
30分後、バイクから降りてその場に大の字になって倒れこむ。結局想像のラズリーヌを倒す前に触られた。
花の魔法少女に負けてから魔法の単車の性能を生かした戦いから、極道技巧を生かした戦いに変えたがこちらの方が明らかに合っていた。
そのお陰で明らかに強くなった実感があり、来た当初は全ての魔法少女との喧嘩で負けたが、今では魔法有りでの組手では半分以上勝てる。
それでもラズリーヌには勝てない。あれは別格だ、相手が魔法を使わず素手ゴロで戦っても負ける。負けるつもりで戦ってはいない。しかし認めたくないが強くなったからこそ相手との実力差をより出来てしまう。
自分の弱さが心の中を見たて胸糞悪くなったので、バイクに乗っていた時の楽しさを思い出す。やはりバイクは良い。喧嘩の最中でも風をきる感覚や尻から伝わる振動など全てが高揚させ心を満たす。
だがそれは最高ではない。本当に最高なのは皆で暴走することだ。これは暴走できない不満を紛らわしているだけである。
それでもマシなほうだ、強くなるという言い訳でバイクを乗り回せている。だが皆は忠実に指示を守り、バイクに乗らない、乗っていたとしても法定速度を守りフラストレーションを溜めている。
「あ~あ、暴走してえな」
「するか、暴走」
ゴッドスピードは勢いよくネックスプリングで起き上がり、声の主を見つめる。声をかけたのはヤジだった。
「ヤジ、戻ってきたのか!?」
ヤジはゴッドスピードが立案した暴走計画を実行するために動き回っていた。本来ならリーダーとして暴走の為に動き回るべきなのだが、魔法少女を殺すのが必須であり、強くなるのがなによりの仕事だと説得された。実際に
当初考えていた暴走の計画としては
当然警察が邪魔しにくるので徹底的に打ちのめす。その騒ぎを聞きつけたピンクと忍者の魔法少女を返り討ちにする。
魔法少女を倒すと同時に
だがヤジが異を唱えた。乗り物は魔法のバイクではマズい、魔法少女には監査部門という警察みたいなのがいるので、魔法の単車に乗れば魔法を使った犯罪者としてメンバーを逮捕、最悪消すつもりだと言ってきた。
監査部門とかいう警察に目をつけられるのは構わない、返り討ちにするし、逮捕され最悪消されたとしても暴走の為なら悔いも恨みもない。だが皆が被害にあうのは勘弁だ、それに魔法少女では無いので対抗できない。
そこで皆が乗るのは魔法のバイクでなく、極道車にしようと提案してきた。極道車であればトラックや護送車でも正面衝突しても吹き飛ばし壊れないほど強く頑丈らしい。
皆に魔法のバイクに乗せようと思った理由の1つとして警察を徹底的に打ちのめすと武器になるからだ。魔法のバイクなら戦車と正面衝突しても吹き飛ばせ無傷だ、だが話を聞く限りでは極道車でも充分役割を果たせる。
もう1つはメンバーの安全面だ、魔法のバイクは前面に風防のシールドを覆えて、花の魔法少女には破壊されたが、魔法少女でも生半可な攻撃では破られない。
ピンクと忍者がどれほど強いか知らないが、普通のバイクで暴走するより襲撃され死なない可能性は遥かに高い。ヤジの言う通り監査部とかいうのが襲わなくてもピンクと忍者が二度目はないと襲うつもりだ。
そう主張すると、メンバーにはピンクと忍者を見つけた場合は即座に逃げるのを徹底させればいいと提案してきた。もし逃げても襲い掛かってきたらどうすると言うが、絶対に追撃してこないと自信ありげに言ってきたので納得する。
「ほれ、
ヤジから渡された物を受け取る。中身はチョコレートで早速包装用紙と箱を破き食べる。魔法少女は腹が空かないので飯は食べ甲斐がないが、おやつであれば人間と同じように楽しめる。
極道車を用意するにはとんでもない金が必要なようで、その金を稼ぐために麻薬を作っていた。しかもとびっきりヤバイ物だそうで、以前メンバー全員にこれから出回る麻薬には絶対に手を出すなというメッセージが送られてきた。
ヤジは知られたくなったみたいだが別に何とも思わない。一般人が何万人破滅しようが
「
「ああ」
そして麻薬を作っても稼げるわけではなく、市場を独占する必要があるらしく同じく麻薬を売っているマフィア邪魔だそうだ。度々出かけては各国のマフィアを潰し土産を渡し、まだ出かけていた。魔法少女に近い強さを持つヤジなら難しくは無いだろう。
極道は売春や人身売買などの犯罪行為をする最低のクズ共の集まりだ。ヤジの麻薬売買は覇威燕無礼棲の暴走の為に仕方がないが、奴らは遊びたいとか美味い物食べたいとかしょうもなくどうしようもない理由の為に他人を食い物にしている。それを潰しているのであれば間接的に覇威燕無礼棲は警察より人々の役に立っている。
「それで暴走できるってどういう意味だ」
「
「
思わず涙が零れ落ちる。待ち焦がれていた暴走がついにできる。やっと夢の続きが見られる。ピンク髪と忍者に覇威燕無礼棲が活動休止に追い込まれてから今日までは辛くて退屈だった。
この場所にきてからそれなりに仲が良い魔法少女もできた。だがあいつらは暴走族ではない、暴走の楽しさを理解できない者と心が通じ合うことはない。戦闘訓練も暴走する為に強くならなければならないので、仕方がなくやっていただけだ。やる気はあるが全く楽しかった。
きっとみんなも同じ気持ちだろう。この辛い日々からやっと解放され皆と同じ夢を見られる。
「決行日はどうする?明日でも
「明日!……って言いたいが明後日でいいか」
「
「明後日はつばめの命日なんだよ……」
ゴッドスピードは申し訳なさそうに呟く。我慢を強いられている皆のために1秒でも早く暴走すべきだ。それがリーダー
つばめの命日で暴走族がどれだけ素晴らしいか知らしめたい。皆の姿をみせてどれだけ楽しいのか思い知らせたい。魔法少女を殺し暴走することでどれだけ強いのか分からせたい。
別に命日だからといってつばめのオバケがこの世界にくるわけではない、それでもやりたい。これは完全に個人のわがままだ。
「
ヤジはポンと肩に手を置く。こちらの心情はお見通しか、本当に最高の副リーダーで親友だ。
「じゃあ、皆に
「暴走できるのはヤジのお陰だ
皆が喜ぶ声を聞きたいと思っている。それでもヤジがこの暴走計画実現の功労者だ。それでもヤジは役を譲ろうとする。しばらく譲り合いが続き、結果2人で皆に報せるということで落ち着いた。
2人はスマホを手に取り電話をかける。
「よう、
「よう、