暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第51話 デッドマンズ・ゴールデン・デイズ

出田武琉須(でだぶるす)

 

 SUFD、スーパー・アルティメット・ファイティング・ドリーム

 

 アメリカ拠点にした総合格闘技団体、規模や選手の質は数ある総合格闘技団体のトップであり、名誉と金と強者を求めて多くの格闘家が挑んでいく。そのSUFDだが過去にはアメリカ以外の国でも大会が開催され、日本大会も今日開催される。

 試合は他団体日本選手とSUFD選手との対抗戦やSUFDのトップランカー同士の対戦など、格闘技ファンにとっては全試合メインイベントといっても過言ではない対戦カードばかりだった。だがそれらのカードを差し置いて選ばれたのはこのカードだった

 

 SUFDヘビー級タイトルマッチ。

 

 格闘技において体重差は一般人が考えるより影響が大きく、一番重いヘビー級のチャンピオンが最も強いというのは関係者では共通認識であり、SUFDヘビー級王者が世界最強の男と言っても差支えはない。

 チャンピオンはボクダン・エンコ・グスタフ、40戦40勝という圧倒的な強さを誇る絶対王者である。そして挑戦者は出田武琉須。

 出田は覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の一時活動休止が決まってから翌日、ある格闘団体の門を叩いた。

 ブレイキングスルー、日本にある総合格闘団体の1つで、その知名度は一般層に知れ渡り日本で一番有名な団体である。

 暴走族女神と暴走族王がピンク髪と忍者の化け物を殺して暴走できるようにすると言った。その言葉を信じるが何もせず待っているだけにはいかない。何をすれば覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の力になれるか、考えた結果が格闘技だった。

 金があれば化け物を殺せる武器が買えるかもしれない。コネがあれば化け物を殺せる化け物を紹介してくれるかもしれない。その2つを手っ取り早く手に入れる方法はこれしかなかった。

 そして試合に勝ち続けた。極道技巧を習得した出田にとって、対戦相手の元ヤクザや喧嘩400戦無敗と宣う無頼者や引退した伝説の総合王者など雑魚だった。

 そしてCEO兼プロモーターである元格闘家夜田─出田が喧嘩でボコボコにして引退に追い込んだ─は敏腕だった。自身が運営している動画チャンネルに出演させ、出田を積極的にプロデュースした。その知名度は瞬く間に上がり。最終的にSUFDヘビー級王者に挑戦するまでに至った。

 

 出田は選手控室で試合が始まるまで待つ最中、大きなため息をつく。生活は劇的に変わった。手元には億単位の金が舞い込み、モデルや女優などがすり寄り、著名人や裏社会の実力者とも夜田を通してコネクションを得た。

 多くの人が羨むサクセスストーリー、だがそれらの生活は出田にとって虚無だった。超高級料理を食べても、パーティーに参加しても何一つ楽しくなく心が動かない。

 最近は過去を思い出す時間が多くなった。皆と暴走し喧嘩した日々、それらは最高に楽しくワクワクしまさに黄金体験だった。それと同時にあの日々を奪ったピンク髪と忍者への憎しみ、そして何もできない無力感が心を苛む。

 辛い、苦しい、今すぐにでも皆に声をかけて暴走したい。だがそれをすれば化け物に殺される。暴走族女神と暴走族王が化け物共を絶対に殺して、暴走できるようにしてくれると言った。

 ならば耐える。他のメンバーも信じ同じ苦しみに耐えている。ここで我慢できず暴走すれば、化け物共に見つかり殺されるどころか、連帯責任で皆殺しにされてもおかしくない。あの化け物共にはそれができる。

 

「出田選手、準備お願いします」

 

 スタッフが声をかけ準備を始める。夜田やスタッフは絶対に勝てると出田を過剰に励まし興奮している。

 自分が世界王者になるのがそんなに興奮することなのだろうか、その様子を内心で冷めた目で見ながら、励ましの声に応じる。

 そして控室を出て花道を歩きながら金網に囲まれたリングに向かう。日本最大規模のスタジアムは観客で埋め尽くされている。皆が絶対王者を破り出田が王者になる光景を見たいと声援を送る。その光景にスタッフたちはさらに興奮するが心は冷めていく。

 さっさと対戦相手を倒し名声と金を得る。それが夢の続きに繋がると信じ虚無の日々に耐える。

 リングに上がりリングアナウンサーが選手紹介を行う。最初に出田の紹介を行い、次に王者の紹介を行う。王者を紹介している間、退屈さを紛らわすように暴走の日々を思い出していた。王者の選手紹介が終わりお互いのコーナーにつく試合開始の合図を待つ。

 

「スマホを渡せ!」

 

 出田はスタッフに向けて大声で叫び、スタッフは動揺しながらもスマホを渡す。その行為にレフェリーは慌てて止めようとするが睨みつける。レフェリーは怯み無意識に後ずさりしていた。

 スマホから着信音が聞こえた。その着信音は暴走族王か暴走族女神の電話だけに鳴るものだ。この半年間2人からの電話はなかった。きっと化け物を殺すために活動し、電話する暇すらないと思っていた。

 まさか!?スタッフがスマホを手渡す間の僅かな時間に、心臓は期待で信じられない程鼓動する。

 

「よう、(オレ)だぜ」

「押忍、暴走族王(ゾクキング)!デルタです!」

「久しぶりだな、調子(チョーシ)どうよ?」

普通(まあまあ)……じゃねえな、暴走できねえせいで、毎日が退屈で虚無《しゃば》くて……」

理解(わか)るぜ、でもそれも終焉(おわ)りだ。明後日の夜、首都高に集合だ」

「まさか!?」

「ああ、覇威燕無礼棲暴走決行だ、そこで化け物を殺す」

 

 その言葉を聞き涙が留めなく溢れる。夢じゃない、やっと暴走が出来る。この虚無の日々から解放され黄金時代が訪れる。

 

「おい!試合始めるぞ!」

 

 電話を切りスマホをスタッフに渡すとレフェリーが目の前に立っており声をかける。そして直後に試合開始のゴングが鳴る。腰を落とし両手を地面につけて相手に向かって突進した。

 

 極道技巧「仁王の如し」

 

 それは相撲のブチかましだが、抗争の日々で鍛え抜かれヤジの言う極道技巧に昇華した。

 頭が相手の胸部に当る。その体は勢いよく吹き飛び金網を突き破りリングから数十メートル後方迄吹き飛んだ。

 デルタは相手を一瞥することなく全力で走りリングを後にする。一方会場は壮絶な光景に試合開始までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 

完間翔子(かんましょうこ)

 

「ねえ、あの雑誌見た?」

「見た。完間凄いよね。私はレズじゃないけどさ、あれは綺麗すぎて憧れを通り越して付き合いと思うもん」

 

 仕事終わり、完間の耳に竹下通りを散策する女子高校生の声が入る。あの女子高校生とって考えられる最大の賛辞だろう。だがその心には何一つ響かない。

 それは赤の他人の言葉だからではない。誰が称賛しようと心は揺れ動かない。揺れ動くとしたら暴走だけだ。

 完間は覇威燕無礼棲の行動が休止になった翌日、かつてスカウトから貰った名刺の連絡先に電話した。休止に追い込んだ化け物を倒すために必要なのは金と権力、それはデルタと同じ答えだった。デルタはそれらを得る為に格闘技の道に進んだ。完間はモデルの道を選んだ。

 モデルになってから数か月でカリスマモデルと呼ばれる地位までに上り詰めた。容姿には自信もあったが、大きな理由としては極道技巧だろう。

 

 極道技巧『絶対主役(惚れるな危険)

 

 相手を仕草や動きによって男を魅了し動きを制限するという技巧である。喧嘩では極道技巧で動きを止めている間に自作のチェーンを改良した蛇腹剣で相手を切り刻む。この戦法で多くの相手を倒し、覇威燕無礼棲四天王と呼ばれるまでに至った。

 そして応用で出版社の重役に極道技巧を使い仕事を貰い続けた。メディアへの露出が多ければ周りは勝手に人気だと思い込み、カリスマモデルと囃し立てる。

 そうなれば表と裏の権力者がすり寄ってくる。カリスマモデルを侍らしたい、あるいは寝たい、トロフィー代わりにしようとする男はゴロゴロ寄ってくる。

 見知らぬ男と寝るのに戸惑いも苦痛もない、覇威燕無礼棲に入る前は刺激を求めてパパ活もやっていた。

 そのお陰でそれなりのコネクションを持ち、一般人より色々と詳しくなった。そのコネクションを生かして化け物2人を探して不意打ちでもしようと考えたが、見つからなかった。

 

 モデルとして日々はひどく退屈だった。その退屈さは覇威燕無礼棲に入る前以上だ。あの時は楽しさを知らなかった。だが暴走の楽しさを知り失ったことでより退屈さが辛くなる。

 モデルは覇威燕無礼棲の為の仕事であるという義務感と使命感で、辛うじて乗り切っている。

 金と名声を手に入れた。一般的には人生の成功者で幸せだと思うだろうが、全く幸せではない。それはデルタも同じで、暴走の為に頑張ろうとよく慰め合い励まし合った。

 デルタが居なければ退屈さに耐えきれず、この仕事はやっていないだろう。

 

 活動が休止になってから半年が経つ。花奈やヤジとは連絡を取っていない。

 もしかして化け物を殺すのを諦めているのではないか、一瞬そんな考えが過るが即座に否定する。花奈は誰より暴走を愛し焦がれている。そんな奴が諦める筈がない。今も化け物共を殺すために活動しているはずだ。

 スマホを見てスケジュールを確認する。2時間後には動画撮影、その後はどこぞのヤクザの組長との会食だ。

 この日々がいつまで続く?ゴールが分からないマラソンを走っているような日々、恐らく1年は持たない。

 

 頼む花奈、この日々を捨てさせ暴走させてくれ。

 

 するとスマホから着信音が流れる。この音は花奈からの電話だ、花奈について考えていた直後に今まで連絡が来なかった相手から来る。何か運命的なものを感じる。

 

「よっ、女神(アタシ)だ」

「押忍、暴走族女神(ゾクメガミ)、丁度暴走族女神について考えてた。元気にしてた?」

「ああ、化け物共を殺すためにずっと修行(きたえ)てた。そっちは何してた?」

「モデル、こう見えても神偶像(カリスマモデル)って言われてる。どうせ知らないだろうけど」

「ああ、知らねえ。そして神偶像(カリスマモデル)は今すぐやめろ。明日から覇威燕無礼棲四天王ガンマだ」

「え?」

 

 その言葉の意味はまさか?期待で心臓が大きく高鳴る。

 

「明後日首都高に集合。暴走決行だ」

「やっとか……長すぎ」

 

 暴走族女神は最速で化け物共を殺せるようになったのだろう。本来なら感謝すべきなのだが思わず文句を言ってしまった。それほどまでに暴走したかった。一方暴走族女神は文句に対して言い返さず「悪い」と素直に謝っていた。己の身勝手さが少し恥ずかしい。

 

「じゃあ、明後日」

「ああ、明後日な」

 

 電話を切ると急いで駅に向かう。恐らく笑っている。この笑みは今までの作った笑みではない。本心からの笑みだ。

 これ以降カリスマモデル完間翔子は二度と表舞台に姿を現さなかった。

 

◆室田昇一

 

 部屋は踏みどころがないぐらいゴミで散乱し異臭が漂っていた。部屋の主である室田昇一は万年床の布団から起き上がり冷蔵庫に向かう。その最中に空き缶を踏み足の裏を切る。しかしそれに気づかないように歩き、冷蔵庫の中からビールをとり飲み干す。

 人生において大切なモノを2つ失った。1つは妻である室田つばめ、もう1つは暴走だった。

 覇威燕無礼棲の活動が休止し、暴走族王と暴走族女神が憎き化け物共を倒すと信じ、暴走せず待ち続けることを決意する。だが予想を遥かに超えて辛かった。

 活動休止から3か月が経過して懲戒免職になり仕事を辞めた。暴走できない辛さや苦しみや怒りが業務に支障をきたし、つばめが失ってから出来ていた最低限の業務すらできなくなっていた。

 それからは家にこもり酒を飲み続ける生活を続けている。皆は暴走できない生活に耐えている。大人として頑張らなければと心を奮い立たせるが無理だった。

 つばめを失った悲しみは暴走が癒してくれた。だがそれすら失い、今は心につばめと暴走を失ったという2つの大きな穴が開いている。

 仕事に就かず飲んだくれた生活を続けていれば貯蓄はなくなり死ぬ。

 そうであれば自殺と変わらないので、今死のうが後に死のうが変わらないと自殺を試みたことがあったが、その度に暴走族王と暴走族女神が暴走させてくれると思いとどまっていた。だがそれも限界に近かった。

 

 昇一はスマホを取り出しあるページを開く、そこは麻薬の売買を取り扱っているサイトで、SNSで偶然見つけた。

 暴走族王からメンバーに対してある麻薬には絶対に手を出すなとメッセージが送られた。それが今画面に表示されているヘブンズクーポンである。わざわざ忠告するからには相当ヤバイものなのは分かる。

 だが画面を押し注文しようとする指を止めらない。レビューに書いてあるが今までの麻薬とは比べ物にならないほどで、人生で最も幸せな光景が見られたり理想とする体験ができるらしい。その分体にも悪く死ぬ確率も高くなる。

 このまま暴走も出来ず死ぬなら、幸せな光景を見て体験してから死にたい。ヘルズクーポンでどんな幻覚を見させてくれるだろか、きっと覇威燕無礼棲のメンバーにつばめが加わって暴走する光景だろう。つばめと花奈が喧嘩しないか心配だ、でも暴走に参加するなら花奈も許すはずだ。脳内で理想の光景を思い描きながら購入ボタンを押す。

 その指はスマホから流れる着信音を聞いて止まる。もはや電話をかけるような人は周りにはいない、だが何となく気になりスマホを手に取る。画面には暴走族女神と文字が書かれていた。

 

「よっ、女神(アタシ)だ」

暴走族女神(ゾクメガミ)!暴走はいつ出来るんだ!?」

催促(せかす)な、明後日の夜首都高に集合、そこで暴走するぞ」

「本当か!?本当に暴走するのか!?」

「ああ、真実(マジ)だ」

 

 その言葉にむせび泣き崩れ落ちる。やっと暴走できる。この苦しさと退屈さから解放される。ヘブンズクーポンなんて必要ない、自分が生み出す幻覚より、暴走族女神や暴走族王が作り出す暴走のほうが素晴らしい夢を見せてくれるに決まっている。

 それから数分間嬉しさのあまり子供のように泣き続ける。その間暴走族女神《ゾクメガミ》は待続けていた。

 

冷静(クール)になったか?」

「ああ」

「しかし激感涙(ギャンなき)するなんて、そんなに暴走したかったのかよ」

「暴走できなくて、辛くて悲しくて、今流行っているヘブンズクーポンに手を出そうとしちまった」

「馬鹿!暴走族王が絶対に服用(やる)なってメッセージ送ったろ」

「ああ、本当に申し訳ない」

 

 自己嫌悪で声が沈む。暴走できない苦しさはメンバー誰もが抱えているはず、それでも必死に耐えている。それなのに暴走族王と暴走族女神を信じ切れず薬物に逃げようとした。覇威燕無礼棲の一員として恥ずかしい。

 

「まあ、服用(やっ)てないならいい。それより明後日はつばめの遺品を持ってきてくれ」

「まて、明後日暴走するのはまさか……」

「そうだ、つばめに暴走の楽しさと素晴らしさ、そして暴走したいって気持ちが化け物すら倒すってことを見せつけたい。そして昇一が楽しんでいる姿を見てもらいたい」

 

 再び涙が零れる。苦しさのあまりに妻の命日それすら忘れていたのに、喧嘩別れした暴走族女神(ゾクメガミ)はしっかり覚え弔おうとしていた。つばめをそこまで愛していたことが嬉しくて堪らなかった。

 

「ああ、絶対に持っていく。そして思いっきり楽しんでやる」

「それじゃ、明後日な」

 

 電話をきり己の頬を叩き気合いを入れる。明後日は最高に気合を入れて臨む。まずは酒を抜いて身なりを整える。ふらつく足取りで浴室に向かった。

 

 

◆中藤

 

 中藤は息を止め奥歯を噛みしめながらペンを動かす。本来ならば自然体に呼吸して絵を描くのが体に負担がかからないのだが、ラストスパートの時はつい息を止めて描いてしまう。もはや癖になっている。

 そろそろ息が苦しくなるというところでペンを止めて息を吸い込みながら、紙を手に取り出来栄えを確かめる。これで映画の入場特典のイラスト全種を描き終えた。あとはスキャナーで編集部に送ればタスクは終了である。

 覇威燕無礼棲が活動休止後でも近藤の生活は特に変わらなかった。ひたすら帝都リベンジャーを描き続ける。それだけだった。

 休止の間も帝都リベンジャーズの人気は上がり続けた。アニメ化、ドラマ化、舞台化など次々とメディア展開し、単行本の総売り上げもこのままいけば歴代トップ10に迫るとも言われている。

 ここまでの盛況ぶりは中藤にとってある意味納得していた。帝都リベンジャーズは心血を注ぎこんで描いている。面白くないわけがない。

 その情熱の源は覇威燕無礼棲が活動休止になる前は、金を稼ぎたい、描きたい、自分が面白いものを認めてもらいたい。そのような感情が交じり合ったものだった。

 だが今は違う。今は覇威燕無礼棲をより大きくする。その一点のみである。

 

 暴走族女神と暴走族王が覇威燕無礼棲の活動休止を宣言した時に考えたのは、自分には何が出来るかだった。

 暴走できない苦しみに耐える。忍者とピンク髪の化け物を殺す方法を考える。所在を見つけ暗殺、親族を人質に取って脅す。

 方法は様々だが活動再開を宣言してくれると信じ、覇威燕無礼棲の為にやれる事をやろうとしている。自分には何が出来るか、それは決まっている。漫画を描くことだ。

 

 全国の少年少女(ワルガキよびぐん)が読んで暴走族(カッケェー)と思って暴走族になる作品にしてくれ。日本全国で暴走族(ワルガキ)が暴走する。それは暴走族女神の夢なんだ!中藤にしかできない!頼む!暴走族女神に夢を魅せてくれ!

 

 帝都リベンジャーズの人気とは対照的に今の暴走族業界は下火だ。ニュースやネットで調べた限りではこれといった暴走行為は実行されていない。それは覇威燕無礼棲が活動休止しているのが少なからず影響している。

 巷ではハイエンプレスが何かに屈したという噂が流れている。その相手は警察だったり、ヤクザだったり、海外のマフィアだったりと様々だが、ある意味正解だった。

 国内最大の暴走族が屈したとなれば自分達も何者かに屈し酷い目にあうと、他の暴走族や暴走族に憧れている者達も臆し暴走行為をしていない。そうなれば暴走族の数は減ってしまう。

 そうならないためにも暴走族への憧れさせ続ける必要がある。それが帝都リベンジャーズだ。読者を魅了し多くの人に読んでもらい、暴走族はカッコよいと思い続けてもらう。 

 そして化け物達を倒し活動再開した際には、多くの予備軍が覇威燕無礼棲に入り暴走族は繁栄する。それが暴走族女神、暴走族王、中藤の夢だった。

 

 するとスマホから着信音が流れる。鳴っているのは私用のスマホだ、電話番号を知っている者は両親か友人か覇威燕無礼棲のメンバー、また大人組のメンバーだろう。

 覇威燕無礼棲は10代だけではなく30代40代のメンバーも居り、中年は大人組という括りでグループを組み、暴走時も一緒になって走っている。そして時折暴走できない苦しみを紛らわすように大人組で集まって飲んでいる。

 皆の近況や愚痴を聞くことで暴走できない辛さと悲しみを共有し、お互いに支え合っている。皆の頑張りを見れば帝都リベンジャーズを描く熱がさらに燃え上がる。これも飲みの誘いだろうと予想し電話をとるが予想は見事に外れた。

 

「よう、暴走族王(オレ)だぜ」

「押忍!暴走族王(ゾクキング)!ご無沙汰してます!」

 

 思わず立ち上がり直立不動の姿勢を取る。あまりにも予想外の相手で完全に不意打ちを喰らった。

 

「久しぶりだな、調子(チョーシ)どうよ?」

「相変わらずだ」

「そうか?何か漫画が激売却(ゲキうれ)しているらしいし、映画もするんだろ。忙しいだろ」

「仕事量は増えているが問題ねえ。やる気最高潮(マックス)だ。少年少女(ワルガキよびぐん)を暴走族(カッケェー)と思ってもらって、覇威燕無礼棲に入ってもらわねえと」

 

 かつて暴走族王に言われた言葉を引用して返事する。暴走族王は嬉しそうにフッと息を零す。

 

「ところで締め切りとか大丈夫か?」

「締め切り?常に追われているけどな」

「だったら休載(おと)せ。明後日夜、首都高で暴走するぞ」

「おい、まさか?」

「ああ、活動再開だ」

「よっしゃ!」

 

 中藤は力の限り叫ぶ。覇威燕無礼棲の為に漫画を描いているので、悲しさが紛れているから皆と比べマシ、そう自分に言い聞かせていた。本当は辛くて堪らなかった。

 やっと訪れた黄金時代、それを奪った化け物達が憎くて堪らなかった。机の引き出しには皆から聞いた情報を元に描いた化け物が、暴走族女神と暴走族王に殺される漫画がいくつもあった。

 

「じゃあ作者は取材の為に休載しますだ」

読者(ファン)達にはワリいがな」

「知ってるか?取材の為に休載って、実は取材なんかしてなくて原稿落としただけなんだぜ」

真実(マジ)か」

「でもオレは本当に取材だ。10万人の暴走を体験しない不良(ヤンキー)漫画家いるかよ!」

「いいね、漫画家の鑑だ。じゃあ明後日の夜な」

「おう、明後日の夜」

 

 中藤は電話を切ると即座に仕事用電話を手に取る。

 

「もしもし!次の原稿は作者取材の為落とす!」

 

 

◆◆◆

 

真実(マジ)かよ、デルタくん……!?

暴走族女神(ゾクメガミ)が……!!

暴走族王(ゾクキング)から連絡が来たのか!?

幻想(ゆめ)じゃねえよな……!?

還って来る!俺達の黄金体験(おうごん)が還って来る!

 

 神と王の言葉は耐え忍び潜み続けていたメンバーに瞬く間に伝わる。覇威燕無礼棲総勢10万人、全てが首都高に向かう決意を固めた。

 

 

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