暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第52話 ファンタスティック・サーカス・イブ

◆生島花奈

 

 海風の匂いが鼻腔を刺激し、風が容赦なく顔にぶつかる。唯でさえ強い海風に遮蔽物が少ないせいでちょくに当り息がしづらく鬱陶しい。それでも悪い気がしない。魔法少女の冴えた感覚も悪くないが、人間の時の感覚がやはりしっくりくる。

 FSによって魔法少女になり、強くなるためにオールドブルーの場所でトレーニングしている間はずっと魔法少女に変身していた。その方が強くなるそうなので指示に従い、眠る必要が無いのでこの半年間は全ての時間をトレーニングに費やしたと言っても過言ではない。

 そして首都高暴走計画の日時が決まり覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)全員に召集をかけた翌日、特にやることもないのでオフ日になり、魔法少女でいる必要も無いので変身を解き人間に戻っていた。

 それから特にやる事がなくテレビを見たり昼飯や夕飯を食べたりした。飯は華乃がバイトしているところで食べようと思ったが何となくやめた。行くのは全てが終わってからにする。祝勝会として店に行き食べた方がさらに美味そうだ。

 夜20時ぐらいになるとヤジから大切な用事があるから第七倉庫に来いというメッセージが届いた。暴走前に済ましたいというからには余程大事な用事なのだろう。単車─壊された愛車と同じものを買い、魔法によって魔法のバイクにしている─に乗り、目的地に向かう。

 第七港湾倉庫、そこは生島花奈にとっても覇威燕無礼棲にとってもなじみ深い場所だった。空きスペースが多く人目につかないので暴走の出発地点をよくここにした。ヤジとリーダーを決める為のチキンレースもここでした。

 ヤジとガンマとデルタの4人で覇威燕無礼棲として初めて暴走したのもここだった。そして魔法少女2人に襲撃にあいおめおめと逃げた先もここだった。楽しい思い出も嫌な思い出も詰まっている。もし聖地を決めろと言われればここにするだろう。

 花奈は倉庫前にバイクを止める。すると一層強い海風が全体を打ち付ける。10月になり海風も冷たくなった。バイクに乗っている時は何も感じないが、何もせず待っているだけだとやけに冷たく感じる。

 どこか遮蔽物がある場所で海風をやり過ごそうかと思ったが、エンジンを切ってしまったので移動するのが面倒だと、そのまま海風を受けながらスマホをいじり時間を潰す。

 

 数秒後にはスマホをいじらず明日について考える。明日の首都高暴走はいくつかの狙いがある。1つは単純に暴走する。1つはカスタム極道車とヘルズクーポンというドーピング剤を使用し、邪魔する警察などを徹底的に潰し、今後暴走の邪魔をすれば壊滅的なダメージを受けると分からせ、2度と邪魔しないようにする。そして魔法少女の抹殺。

 魔法少女はこの世界には干渉せず、あの2人を殺せば魔法少女で邪魔する者はいないとヤジが言っていた。これであの2人を殺せば邪魔できる者はいない。

 魔法少女になって半年、やれる事はすべてやった。同じ魔法少女なら負けないという自信と、完膚なきまでに負けた体験と魔法少女の戦いに絶対はないという不安がせめぎ合う。

 5分後、聞きなれたバイクのエンジン音が聞こえてくる。こんな場所に来る人間は普通いない、ヤジと待ち合わせしているが、もしかして別の誰かかもしれないと警戒心を高めエンジン音が聞こえてくる方角に視線を向ける。十数秒後に乗り手の姿が見えると警戒心を解く。

 

「よっ、調子(チョーシ)どうよ」

 

 ヤジがいつも通り声を掛けてくる。翌日に首都高暴走が決行され、魔法少女2人に負ければ覇威燕無礼棲は潰されるどころか、死ぬかもしれないというのに随分とリラックスしている。その様子を見ると明日死ぬかもしれないと緊張しているのが少しだけバカバカしくなる。

 

平常運転(いつもどおり)だよ。そっちは」

「同じだ」

「それで、何の用で招集(よびだし)た」

「覇威燕無礼棲の今後についてだ。色々と指導(レクチャー)やら伝達(ひきつぎ)しとく必要がある」

 

 ヤジはシートを開けて紙束を取り出し渡す。パラパラとめくると文字ばかりで軽く眩暈がする。

 

「こんなもん見せるな、アタシは無教養(バカ)だから読めねよ」

「安心しろ、オレが指導(レクチャー)してやる」

「それでこれはなんだ?」

「覇威燕無礼棲を運営するにあたっての収支報告や、この後の運営について書いてある指示書だ。とりあえずこのページ見て見ろ」

 

 ヤジが指定したページを開く、よく見て見ると結構分かりやすく書かれ、何とか理解出来そうだ。そのページには主な収入について書かれている。

 

「お前、株で稼いでたんじゃねえの!?」

 

 花奈は思わず声をあげる。勧誘の際にバイクを持っていない者の為にバイクの購入、またメンバーのバイクの維持費は覇威燕無礼棲で支払い、それはヤジが株の取引きで儲けた金で払っていると思っていた。

 だが紙の収入源には麻薬取引やヤクザへのアドバイス料と書かれていた。

 

「違げえ、この地域とか宝島組って極道(ヤクザ)が仕切ってるが、その収入(あがり)の一部を指導(アドバイス)料として貰ってる。今振り込め詐欺とか流行(はや)ってだろ。

あれは元々の詐欺をオレの指導(アドバイス)改良(カスタム)したやつだ」

真実(マジ)かよ」

 

 ニュースは見ないが振り込め詐欺が流行って相当稼いでいるのは知っていたが、ヤジのアイディアだったなんて思わなかった。

 

「気づいてなかったのかよ、極道車を買う金は麻薬の収入って話したから気づいていたと思ったが、案外鈍感(にぶ)いのな」

「うるせえ、それより何で最初(はな)から真実(ほんとうのこと)話さなかった」

「いや、超嫌悪(ドンびき)するかなって」

「するか馬鹿」

 

 思わずヤジに肩パンを入れる。より多くの仲間を得て楽しく暴走するためには金が必要なのは分かる。それを他人からむしり取るのは仕方がなく必要経費だ、方法など何でもいい、皆の為にやったことなのに嫌うバカは自分を含め覇威燕無礼棲の中には誰も居ない。

 

「それでこれからだが、ヘブンズクーポンの収入(あがり)の一部が入る仕組みになってる。これで運営費は賄える。もし払わない奴が居たら、リストにあるやつらのところに襲撃(カチコミ)して払わせろ」

 

 ヤジが別のページを開きリストを見せる。その中には外国人も居て海外まで行くのは面倒だとぼやくと、魔法のゲートですぐに現地に行け、案内人もいて同行するそうだ。

 

面倒(ダリ)いよ。お前がやればいいじゃん」

「明日死ぬかもしれねえからな」

 

 ヤジは神妙な顔で話す。明日は魔法少女と戦い死ぬ可能性がある。一見飄々としているが死を覚悟し恐怖を押し殺していたのだろう。

 

「そうだよな。それに近いうちに死ぬんだもんな」

 

 その言葉にヤジの目が見開くのがはっきりと見えた。

 

◆殺島飛露鬼

 

「おい、冗談(ジョーク)がキツイぜ」

オールドブルー(ババア)先輩(3代目ラズリーヌ)に鍛えられた直観力(ちから)愚弄(なめる)なよ、お前の体はマジカルドーピングで崩壊(ボロボロ)だ。魔法少女に勝っても近いうちに死ぬ、だから内情を教え引継ぎをしようとした。だろ?」

 

 花奈はこちらをじっと見つめ問いかける。当たりだ。マジカルドーピングとヘルズクーポンの同時服用は未知の分野だった。

 定期的に行われる組手兼効果テストの度に調整を繰り返した。そして麻薬売買の販路拡大のためにカルテルやマフィアの襲撃の際にもマジカルドーピングとヘルズクーポンの同時服用をする。ヘルズクーポンだけでは単独でマフィアやカルテルを壊滅させるのは不可能だった。

 さらにチャンポンはせずともトレーニングで度々ヘルズクーポンを使用した。チャンポン時の感覚に馴れる為には日々の訓練が必要であり、訓練の為にヘルズクーポンを服用する必要があった

 マジカルドーピングとヘルズクーポンの同時服用は勿論、ヘルズクーポン単品の使用ですら体に重大な悪影響を及ぼす。それを考慮してFSが体を治す魔法少女や薬物の毒素を抜く魔法少女を用意していたが、それでも体を蝕み続けた。恐らく寿命は一カ月以内だろう。感覚で何となく分かる。

 そして魔法少女は強い、虹使いの魔法少女に勝ったがあれは不意打ち込みで実力が反映したとはいえない。今回は仕掛ける側ではなく悪事をして魔法少女を呼び出し迎え撃つ側だ、不意打ち喰らって何もできず死ぬ可能性もある。なので死んでもいいように引き継ごうとしたが見透かされていた。

 

謝罪(あやまら)ねえぞ。みんなの為に魔法少女じゃなく暴走族として魔法少女を殺すって決めてここまできたんだろ」

 

 花奈の言葉は非情に聞こえるかもしれない。だが隠された心と仕草で違うというのは分かる。奥歯を噛みしめ力いっぱい拳を握り締めているその姿は耐えていると雄弁に語っている。以前の花奈であれば近々死ぬことに悲しみ、何故そんな寿命を縮めてまで戦おうとしたのかと怒っていた。

 だが魔法少女ではなく暴走族として戦う方が覇威燕無礼棲の為になるという選択を尊重している。そしてこの選択を否定すれば殺島の覚悟と決意を侮辱すると悟った。なので耐えている。本当に成長した。死んだ娘の成長を見たようで目頭が熱くなる。

 死なないでくれと泣きつかれるのも嬉しくある。しかし選択を尊重してくれる方が、リーダーの部下としても友達としても何倍も嬉しく、絶対に魔法少女を殺すという決意と覚悟が漲る。

 

「どれぐらい生存(もつ)んだ?」

「恐らく一カ月」

「だったら首都高暴走やった後は死ぬまで毎日暴走(はし)するぞ。笑いながら死ねるようにな!」

「最高だ、派手な生前葬(フェス)にしてくれよな」

 

 花奈の言葉に対して同じような調子で返す。一度死んだ身だ、今の人生がアディショナルタイムでボーナスタイムだ、いつ死んでもおかしくない。それを大切な親友や仲間達のために命を使え、魔法少女に勝てば残りの時間まで仲間達が全力で楽しませてくれ楽しめる。

 これ以上のあがりはない。その日々を想像し思わず笑みをこぼしていた。

 

◆◆◆

 

 世界は赤く染め上がり熱気が肌を刺激し、周りには人は誰も居なく建物が燃えた時に生じる嫌な匂いがたちこめる。

 次第に黒煙が充満し意識が曖昧になっていく。避難しようにも戦闘で負った傷で両手両足は満足に動かせない。あと1分もしないうちに一酸化中毒で死ぬだろう。これで常人より遥かに長く生きた人生が終わる。後悔はない、最後に極上の作品を紡ぎ結末を見届けた。

 薄れゆく意識のなか何が巨大化しながら迫ってくる。瓦礫か何かが落ちてきたのだろう。大きさは5メートル以上だ、この状態では何も抵抗できず圧死する。押しつぶされる数秒の間に今まで紡いだ作品を思い出す。どれもこれも素晴らしい作品だった。

 突如迫っていた瓦礫が破裂する。何が起こったか探ろうと辺りを見渡すと1人の女性が居た。

 

「大丈夫?生きてる?」

 

 赤髪でおさげの女性、容姿は若々しく少女と呼んだ方が適切だった。格好はフリルが入ったドレスで日曜の朝に放送している女児アニメに出てくるキャラのようだった。

 赤髪の少女は容体を確認すると担ぎ上げ崩れゆく建物を文字通り駆け上がる。その身体能力は忍者すら上回っていた。

 

「うわ~、これは酷い」

 

 少女は屋上に上がると、手当てをしながら夜の黒を染め上げる様に赤く燃え上がる街並みを見て呟く。声色は軽かったがもどかしさや憤りのようなものが籠っていた。

 

「何でこんな状況になってるの?事故?」

「テロだ、東京では様々なテロが起こってこうなった。当分の間東京は首都として機能しない。人も万単位で死んだろう。ところであんたは何者だ?どう見ても普通の人間ではない。魔法少女か?」

「すごい、当たり」

 

 少女は目を丸くして答える。恰好が女児アニメのキャラに似ているからと試しに言ってみたが当っていたようだ。

 

「東京の様子を知らないということは異世界から来たのか?この様子は世界中に知られているので、日本語を喋れて知らない人はほぼいない」

「それも当たり。しかし魔法少女って答えに辿り着くなんて随分と想像力豊かなんだね。それともエスパー?」

 

 少女は愉快そうに話しかける。フィクションを作る側なのでこのような超常的な出来事への許容量はあるつもりだが、本当に異世界があることに大いに驚いていた。

 

「この様子だと病院はパンクしてるだろうね、アナタの容体だけど手足は怪我しているけど命に別状はないから、しばらく我慢してね。痛み止めあげるから」

 

 自称魔法少女はポケットから何かを取り出しの口に放り込む。口内に安っぽい甘みが広がる。

 

「これから救助活動か?」

「一応魔法少女だからね、これを見て元の世界に戻っても夢見が悪いし」

 

 少女はごく普通の会話のテンションで話す。人助けをすることに対する使命感や優越感や気恥ずかしさがない。人助けを日常生活の一部にまで昇華した者の言葉、物語の主役になれる程素晴らしい魔法少女だ。

 突如意識を失う。自称魔法少女はその様子に驚き心肺停止を確認すると心臓マッサージを行う。10分経過し自称魔法少女は悲しそうに唇を噛みしめると体を抱きかかえ、屋上から降りる。

 

◆FS

 

「随分と懐かしい夢をみたものだ」

 

 起き上がると同時に呟く。それなりに昔の出来事だが人生において重要な出来事だったので夢として記憶していても不思議ではない。

 時計を見ると0時を回っていた。仮眠を取るつもりで布団に入ったがしっかり寝てしまった。この状態ではしばらく眠れないので眠気がくるまでの暇つぶしとノートPCの電源を入れ、立ち上がるまでの間に魔法少女に変身する。こちらのほうが色々と捗る。

 PCメモ帳アプリを立ち上げ、マジカルフォンを見ながら最終確認する。相手方の用事も調整し仕込みも済んだ。予定通りの場所に居て予定通りに動いてくれるはず。もし予定通りに動かなくても些細なトラブルだ、大筋への影響はない。

 最終確認を終えるとワードを立ち上げ、書き上げた文の誤字脱字や推敲を始める。明日には最高の物語が紡がれる。そう思うと心臓の高鳴りが止まらず顔もにやけてしまう。

 

 FSは殺島と同じ世界の住人であり、同じように極道技巧を体得していた。

 

 極道技巧「輪廻転生(ショウ・マスト・ゴウ・オン)

 

 生命活動を終わらせると同時に己の精神を他人に寄生し乗っ取る。これがFSの極道技巧である。彼はこの極道技巧を使い、何人もの精神に寄生し乗っ取り移り変わってきた。初めて極道技巧を使ったのは江戸時代であり、その年齢は370歳を超えている。

 忍者と極道の物語の結末を見届け満足し本当に死ぬつもりだった。これ以上の物語は作れないと思えるほどの自信作だった。だが死に際で魔法少女が現れたことでその決意は揺らぐ。

 魔法少女という全く知らなかった未知の存在、そして魔法少女が存在する未知の世界、この魔法少女は異世界から来た。

 恐らく片道切符ではなく元の世界に帰るはずだ。そこであれば忍者と極道以上の物語を紡げるかもしれない。その欲求が抑えきれず自らを助けてくれた赤髪の魔法少女に極道技巧を使った。

 

 魔法少女という超常的存在に極道技巧が通用するか?結論からいえば通じなかった。だが魔法少女は人間が変身した姿であり、人間に戻っている間に徐々に乗っ取り最終的には相手の自我は完全に消し去り、完全に乗っ取ることに成功した。

 そこから物語を作る為の準備を始めた。必要なのは魅力的な登場人物の探索と筋書き通り相手を動かせる力、それを得る為に必要なのは財力と人脈と権力だ。

 魔法少女を統括する組織に媚びへつらい評価を上げ、イベントなどに積極的に参加しコネと人脈を作った。これらのノウハウは約370年かけて培い、この世界でも充分に通用した。そして力があり比較的に自由に動ける立場を確保した。

 それからは幾つもの物語を作り上げた。魔法少女と魔法少女、魔法少女と一般人、様々な組み合わせを試し新鮮だったが出来は最後の忍者と極道に比べると劣っていた。

 それでも魔法少女という素材に可能性を感じ、よりよい物語を作ろうと有用な魔法を持つ魔法少女を見つけては極道技巧で体の乗っ取りを繰り返していた。

 その度に名前を変えてきた。魔法少女の名前変更というのは面倒な手続きが多いのだが、名前は自己を定義するうえに重要であり、乗っ取った魔法少女の名前だと定義があやふやになるどころか、意識を奪い返されかねない。

 

 ZB、バズイン、嘗て名乗っていた名は全てペンネームをもじったものだ。今のFSも狐屠をFOX SLAYと英訳して頭文字を繋げたという単純なものだ。

 

 この世界に来てからは50年が経過し、多くの物語を紡ぎあげた。それでも創作意欲は一向に衰えず、次なる物語の登場人物を見つける為に情報収集している最中1人の魔法少女に目をつける。

 

 スノーホワイト。

 

 森の音楽家クラムベリーが行った死の選抜試験の生き残り、調べてみるとその試験で友人や慕ってくれた魔法少女を失ったと知る。

 そして自分の無力さに打ちひしがれながらも二度と失わないように、理想の魔法少女に近づけるようにと訓練している。これは良い登場人物になると動向を伺っている最中その人物に出会った。

 

 殺島飛露鬼。

 

 かつて脚本として手掛けたF☆プリンセスの登場人物ヤンキラーのモデル、街の嫌われ者のドブネズミ達に神と崇められた敵幹部、主人公達に負けて尚圧倒的なカリスマと仲間への深い愛を持ったキャラクターであるヤンキラー、お気に入りで忍者と極道の登場人物の1人だ。

 その殺島と同じ姿形と名前の男がいた。暫く観察してあの世界に居た殺島であると確信する。

 あの世界で間違いなく死んだ殺島がどうしてこの世界に居る。疑問に思いもしたが魔法が存在する世界であれば、異世界転生や転移しても不思議ではないと納得する。そして殺島はかつての娘と同じ名前の少女、生島花奈と出会い暴走族を作ろうとしていた。

 この出会いを偶然と片付けることもできる。だがそうではない、これは必然でありこの2人とスノーホワイトを加えれば何か新しい物語を作れるかもしれない。

 それからはスノーホワイトと殺島を観察し周りの人間についても調べ、1つのプロットが浮かび上がった。スノーホワイトと殺島がお互いの正体を知らずに交流を深め、魔法少女と暴走族として対立する。スノーホワイトの気質や信念からして対立は避けられない。そして2人は魔法少女として対決する。

 そしてスノーホワイトの友人であるリップルと生島花奈、2人は室田つばめ、魔法少女トップスピードでつながっている。2人も同じように出会い交流を深め、互いが室田つばめと知り合いであると知る。

 リップルは生島花奈の正体を知る。彼女は暴走族側の人間だ、そして生島花奈には殺島並みのカリスマを有している。

 交流を通して惹かれるだろう。魔法少女として生島花奈と対立するか、それとも暴走族としてスノーホワイトと対立するか、どちらでも面白い。

 

 これが紡ぐべき物語、題するなら暴走族と魔法少女だ。

 

 それからは4人を観察し調べながらプロットを練り直し、満足できるものに仕上がったら物語を紡ぎ始める。

 最初にすべきことはスノーホワイトとリップルの認識をいじることだ。より劇的にするには殺島と生島の正体ばれは遅らせるべきだ。スノーホワイトの魔法『困っている人の声が聞こえるよ』であれば殺島が暴走族に入っているのはすぐに露見する。

 暴走族というのは元の世界に居た聖華天レベルの暴走族で、こちらの世界から見れば異質の残虐性と犯罪を起こす。

 普通であればそんな極悪集団にならないのだが、殺島とそれに影響された花奈の存在によって、仲間達は種族暴走族に変化してしまう。長年脚本家として物語を紡ぎあげた経験から分かる。

 そんな暴走族をスノーホワイトが見過ごすわけがない。そして殺島の性格からしてバレたら困ると思ってしまう。リップルも花奈の口から暴走族に所属していると耳にし、ニュースなどを通して作り上げた暴走族の悪事を知ってしまう。

 本来ならば洗脳めいたことはせずに自然な感じに作りたいが、こちらのほうが面白そうなので優先する。

 この世界に来てから何人かの魔法少女の体に乗り換え、今の魔法少女の魔法は『判断があやふやになるよ』というものである。この魔法を使い暴走行為および暴走族が働く悪事は悪いという判断をあやふやにする。

 魔法を2人に使った後は4人の動向を見守り、機が窺って出会わせる。殺島とスノーホワイト、リップルと花奈は縁があれば仲良くなる気質だ、その縁をこちらで作る。少し行動を誘導して殺島にスノーホワイトの友人をナンパさせ、花奈にリップルが働いている店に向かわせる。物語として面白そうだからと言って魔法無理やり仲良くさせても面白くない。

 思惑通り4人は仲良くなっていく。スノーホワイトは独自で悪党魔法少女を捕まえ魔法少女狩りとして恐れられるようになり、殺島達が作り上げた暴走族ハイエンプレスは順調に勢力を拡大させていき、2人とも楽しそうに暴走族をやっている。

 

 順調に物語が進むなか、少しだけトラブルが発生した。オールドブルーが殺島と生島に目をつけたのか接触し始めた。

 2人はずば抜けた魔法少女の才能がある。スカウトして陣営に加えようとしても不思議ではない。いずれは魔法少女になってもらう予定で、2人がスノーホワイト達に対抗できるように鍛えてもらう人物の候補でもあった。それはハイエンプレスがスノーホワイト達に潰された後の話でまだ早い。

 魔法少女の友人から購入した存在を消すシール─1つ数千万円─を使いながら尾行し交渉する。相手のほうが遥かに強く。その気になれば数秒で殺されるほどの実力差があった。

 ここで極秘に調べていた人造魔法少女計画について口にし、全てのコネと力を持って支援すると提案する。この話題は相手にとってのトップシークレット、1つ間違えれば口封じとして殺される可能もある危険な賭けだった。

 だがオールドブルーは下手に殺すと時限式で秘密を露見される可能性と援助のメリットを考慮して提案をのんでくれた。

 

 ハイエンプレスが全国統一し、記念暴走をN市周辺で行う計画を立て始める。ここらで起承転結の転に移るかと4人を鉢合わせるタイミングを計っていると、トップスピードの墓で4人は初めて一堂に会する。これは仕組んだものではなく正真正銘の偶然である。

 リップルと花奈がトップスピードの話題で喧嘩となり別れていく。このタイミングがベストだと判断し、かけていた魔法解除を試みる。

 魔法をかける時はすんなりできたが、今はファルという電子妖精がスノーホワイトのマスコットとしている。そのマスコットはレーダーを備え、魔法少女が接近すれば反応しバレてしまうのでオールドブルーの時に使用した存在を消すシールを使い接近し魔法を解除した。これで2人はハイエンプレスが今までしてきた悪事を悪事として認識し思い出す。

 その後はスノーホワイトとリップルがハイエンプレスを襲撃する。その際にリップルは大いに葛藤していた。花奈と友人として交流したことで着実に種族暴走族になり、一時は魔法少女の職務を放棄しようとしていた。結果スノーホワイトに説得され魔法少女としてハイエンプレスを襲撃した。

 どちらになっても良かったがあの揺れ動く心情は実に素晴らしかった。登場人物が葛藤する姿が見る者の心を揺れ動かす。

 そしてハイエンプレスは壊滅、魔法少女の力にメンバーが心折れるなか、花奈は反骨心と暴走に対する欲望と執着で心を支えスノーホワイトとリップルを殺して暴走すると宣言し、花奈の意志を尊重するように殺島は魔法少女殺害を決意する。

 予想以上にメンバーは落ち込み花奈まで折れてしまうかと心配だった。もし花奈が折れたらこの物語はここで終わり、あとはオールドブルーにスカウトされ魔法少女として使われる人生が待っていた。

 

 何とか筋書き通りに進み、花奈のスマホに魔法少女を殺せる方法があると伝え、2人がやってくる。2人を魔法少女にしてオールドブルーの元で鍛え、いずれ殺島とスノーホワイト、花奈とリップルが殺し合う。その筋書きがはっきりと脳内でうかんでいた。だが殺島は魔法少女になるのを拒否した。

 殺島は魔法少女ではなく、ドーピングと武器によって魔法少女を殺す。かつての輝村極道がとった手法、極道、いや暴走族として魔法少女を殺すことを選んだ。

 今思えばこちらのほうが殺島らしく、暴走族と魔法少女というタイトルでありながら、魔法少女対魔法少女2つだとタイトル詐欺だ。それに暴走族と魔法少女の異なる種族が戦うから面白い。

 だがあの時はまるで想定していなく面を食らったのをはっきり覚えている。これが俗にいうキャラ勝手に動くというやつか、久しぶりの体験でワクワクはさらに高まった。

 

 それから急いで暴走族として魔法少女を倒せる方法を調べる。その際に魔法使いが使うマジカルドーピングを知り、マジカルドーピングとヘルズクーポンを併用すれば可能性があると判断し準備を始めた。

 ドーピングとクーポンを併用するためには大量のクーポンが必要なので、殺島からクーポンを借りて、知り合い魔法少女のニコに複製─全財産の1割程度の依頼料を払った─してもらう。

 何度も実験を繰り返し、ドーピングやクーポンの毒素を抜く魔法少女や治療する魔法少女も雇い万全を期す。その結果ドーピングとクーポン併用の効果は当初より上がり、殺島もまだ副作用で死んでいない。

 あとは殺島の要請でヘブンズクーポンを作成し売り捌き、その収益で極道車5万台を生産した。狙いは前の世界で行った帝都高速での大暴走だろう。

 ニコの魔法であれば簡単に増産できるが、複製した極道車は魔法の痕跡が残り、魔法犯罪として首謀者の花奈は監査部に捕まり、ニコも捕まる。殺島としては花奈が逮捕されるのは避けたく、FSも有用な魔法少女が捕まるのも避けたかった。

 こうして準備は整った。あとは4人がどのように思い決意し戦うかで物語の結末が決まる。願わくば忍者と極道以上の作品を作り上げて欲しい。あの4人にはその可能性が十分にある。

 

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