◆ゴッドスピード
ゴッドスピードは特攻服をはためかせ鉄塔の上から河川敷を見下ろす。都内の河川敷を埋め尽くす黒塗りのSUV、鳴り響くエンジンの重低音、一見夜の闇に紛れて見えないが一万数千台が確かに存在し壮観ですらある。
そして河川敷に居る覇威燕無礼棲メンバーの姿だ、皆が再会を喜び、これからする暴走に胸を膨らませている。期待と興奮は過去最高のものになっている。それは見て、いや見なくても感じられる。また皆と暴走できる。目の前に広がる景色を見て胸が込み上げ、思わず涙ぐむ。
本当なら全員と顔を合わせ喜びを分かち合いたいがそうはいかない。この暴走ではメンバーを4つの部隊に分けて、それぞれの場所から一斉にスタートする。部隊を率いるのはガンマ、デルタ、ヤジ、そしてゴッドスピードである。
ゴッドスピードは鉄塔から飛び降りると、進路上にある民家の屋根を飛び石代わりにして河川敷に向かう。近づくごとに皆の喜びや熱が大きくなっていく。
「半年ぶりだな、おい!今まで何してた!?」
「
「それじゃあ
「それドスに棒をくっつけただけじゃねえか!」
「よう、頼りにしてるぜ!」
ゴッドスピードは楽しげに話しているメンバー2人に話しかけるとメンバーは姿勢を正しゴッドスピードの方を向く。目の周りには血管が浮き出たような赤い線が出ている。これはヘルズクーポンという麻薬を使っている証だ。
「
「俺もです!何度も夢の中で暴走して!それが
「
「はい、ところで
「それは暴走が楽しみ過ぎてな、それで前とは別人に見えるんだろ」
「
「
話を切り上げメンバー2人と別れる。今ゴッドスピードに変身しているので顔つきは生島花奈とは別人である。テキトーに言い訳したがすぐに納得してくれた。
それでいい、顔が変わっているぐらいで気にしているようではダメだ、暴走が楽しみすぎてそんなどうでもいい事は気づかないぐらいでないと。
そしてメンバーが特攻服について言ったが、これは市販の物ではない、魔法少女の動きに普通の服では耐え切れず壊れる。しかしこれは魔法で作られた特注品である。暴走するからには特攻服を着たいと要望し、FS経由で作ってもらった。今は赤白のレースクイーン風の上に特攻服を着ている
それから目に付くメンバーに片っ端から声をかける。皆が暴走を心から楽しみにしてテンションMAXになっている。
ヘルズクーポンは麻薬だ、ヤジ曰く市販の麻薬のような依存性はないそうだが、麻薬であるのには変わりない。しかし皆の興奮は麻薬の作用でなく、純粋に暴走したいという欲求でこうなっていると確信している。
この後はヤジが号令をかけ、次にゴッドスピードが号令をかけて暴走を開始する。ゴッドスピードはスマホを手に取る。そこにはヤジの姿があった。
◆殺島飛露鬼
殺島は河川敷に並ぶ極道車を眺める。この場所に約1万数千台、合計5万台、合計費用は兆単位かかった。当然今まで得た収入は全て吹き飛んだ。我ながらよく用意できたものだ。
そして覇威燕無礼棲を眺めながら、有刺鉄線を手に取り鉢巻のように巻く、その姿は茨の冠のようで宗教の神のようだと聖華天のメンバーに言われたことがある。
この世界で覇威燕無礼棲のメンバーとして暴走する際はしていない。今は副リーダーの
だが今回は有刺鉄線を巻く、今日の暴走は覇威燕無礼棲、そして花奈の行く末が掛かっている。ここで魔法少女を殺す。今気合い入れなくていつ気合いを入れる。
有刺鉄線が皮膚を割くと同時に過去の記憶が蘇る。忍者を殺すためにかつての率いた暴走族聖華天の生き残りに招集をかけ帝都高速を暴走し、忍者に敗れて死んだ。
そして目の前にいる覇威燕無礼棲のメンバーと聖華天のメンバーの雰囲気がダブる。聖華天は20年、覇威燕無礼棲は半年、期間は違えど圧倒的な暴力により暴走を出来ない状況に追い込まれた。その間は当人達にとって辛く退屈な現実に耐えてきた。
忍者と戦った際にかつての聖華天のメンバー総勢5万人が集まった。しかし心境は複雑だった。
20年の間かつての黄金時代に囚われ、再び暴走すると言われれば20年で築き育んだものを捨てて駆けつけた。過去にした暴走は犯罪行為であり、逮捕されれば今後の人生に重大な悪影響が出ると分かっていながら。
それだけ20年の月日は辛かったのだろう。僅かでもその辛さや退屈さを暴走で癒せたのは嬉しく思う。
だが本心で言えば暴走は過去の思い出として楽しむ程度で、今の生活や家族があるので行けないと来て欲しくなかった。そんな辛い人生をメンバーに送ってもらいたくなかった。
招集をかけても誰一人来なく、その光景を見て『しょうがねえ』と安堵感と僅かな寂しさを覚えながら1人で帝都高速を暴走してもよかった。
そしてメンバー10万人が集まった。前もって魔法少女に殺されるかもしれないと通達したのにだ。それ程までに今の現実が退屈で辛く暴走で癒されたいのだろう。
この世界では花奈の為に行動すると心に決めた。ならば心の底から喜ぶ、例え魔法少女に殺されようとも、いやさせない、誰一人犠牲を出さず暴走を完遂する。それを花奈が望むから。
気が付くと出発時間が迫っていた。手筈では殺島が号令をかけ、最後に花奈が号令をかけ出発する予定になっている。殺島は空いた中央のスペースに向かって歩き始める。皆が暴走族王コールで出迎える。暴走族神としての悲しみを抑え込み、暴走族女神に仕える暴走族王として振る舞い、皆の興奮を煽る。
極道車の上に登ると皆が一斉にスマホを向ける。動画で他のメンバーに映像を送っている。殺島は人差し指を口にあてる。すると今までの喧騒が嘘のように静まりかえる。
「半年前、
殺島は語気と声量を強めると予想通りメンバー達から歓声をあげる。その興奮が冷めないうちに言葉を紡ぐ。
「そして皆も諦めなかった。ある者は独自で化け物2人を殺して暴走する手段を模索した。ある者は普通通りの生活をしながら機会を待った。ある者は暴走ができない退屈さと辛さで心身が
深々と頭を下げて号令を終える。ガンマとデルタは力を求め能力を駆使し表舞台に出て名声と金を得た。中藤は漫画を通して暴走族に憧れを抱かせ、昇一は辛さに耐えられず堕落しかけ、ヘブンズクーポンに手を出す一歩手前までいった。一般的にはガンマやデルタや中藤が評価されるだろう。だが優劣をつけるつもりは一切ない。
人にはそれぞれの地獄がある。その地獄を耐え抜きこの場に駆けつけ、花奈を喜ばせてくれた。それは殺島1人では決してできない。
「次は
ヤジは花奈に電話をかけ発破をかける。10万人を従えるリーダーとしてどのような言葉をかけ皆の士気を高揚させテンションを上げるのか、密かに楽しみであった。
◆ゴッドスピード
ヤジの奴ハードルを上げやがって、花奈はニヤけながら電話をきる。良い号令だった。聞いているだけでテンションが上がり、魔法少女を絶対に殺すという断固たる決意がより強固になる。そしてヤジが焚きつけた熱をさらに上げる。それがリーダー暴走族女神の役目だ。
「今夜、アタシ達は
ゴッドスピードが体験した辛さと退屈さを思い出し、皆が体験した辛さと退屈さを想像する。皆よく耐えて頑張った。
そしてこれからする暴走の楽しさを想像する。半年間の辛さと退屈さはこのためにあった。辛く退屈であればあるほど反動で暴走が楽しくなる。きっと今日の暴走以上に楽しい暴走は二度と無いかもしれない。
「暴走族女神!でもあの化け物共に勝てるんですか!?化け物に殺されるのは怖え、けど暴走できない日々がもっと辛え!だったら暴走してから殺されたほうが……」
メンバーの1人が涙を流しながら訴えかけ、周りもその言葉を聞き熱が冷えていく。普段であれば暴走族女神を信じらねえのかと言った奴はボコボコにされるだろうが、誰も何も言わない。
あの魔法少女と対峙したメンバーは骨の髄まで分からされて勝つイメージが全く湧かない。
暴走すれば死ぬ、それでも死より暴走できない辛さが勝り、この地獄の日々が続くなら皆と一緒に暴走して最高に楽しんだ後に魔法少女に殺されようと考えた。それは多かれ少なかれメンバー達にあった。
「心配するな!あの化け物共は
思いの丈を全てぶつけ叫ぶ。この半年間は魔法少女を殺すために全てを捧げ強くなった。もうあんな光景は作り出さない。皆の為に、自分自身の為に絶対に殺す。
そして夢に描いていた計画を皆に打ち明ける。世界中のワルガキを覇威燕無礼棲のメンバーにして、全てを引き連れて暴走する。
誰もが想像したことのない夢、それは絶対に実現できるとゴッドスピードは微塵も疑っていなかった。
「だから心配するな!そんな事気にせず今日を楽しめ!暴走しろ!
号令が終わると皆が割れんばかりの暴走族女神コールをして、嬉し涙を流している者すらいる。ヤジが焚きつけた熱をさらに燃え上がらせられたようだ、これで最高のテンションで臨める。
「最後に確認だ!ピンク髪の化け物と忍者みたいな化け物が現れたら絶対に手を出すな!確認次第
「押忍!」
メンバーが一斉に返事する。ヘルズクーポンでいくら強くなっても魔法少女には絶対に勝てない、それはヤジがからよく聞かされていた。無駄な犠牲を出さないように発見次第逃走するように徹底しておく。魔法少女を殺してもメンバーが全滅したら何の意味もない。
「それ以外の
ゴッドスピードは近くにあった極道車の上に乗り高らかに宣言すると同時に4つに分かれていた部隊全ての極道車が首都高に向けて出発した。