暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第54話 ソングオブバイカーギャングメンバー

◆ガンマ

 

 河川敷からK西ジャンクションを目指し首都高に入る。それがガンマの部隊の走行ルートである。ガンマは集団の先頭を走る車の屋根の上に乗って暴走を楽しむ。

 車はバイクと違って風を感じられないので屋根の上に乗っていた。普通であれば事故は勿論ちょっとしたカーブでも屋根から投げ出されるので危険だ。

 しかし暴走族女神から貰ったヘルズクーポンというドーピング剤のおかげ身体能力と頑丈さが向上し、屋根から振り落とされることもなく、万が一振り落とされても受け身を取り無傷、道路に打ち付けられてもかすり傷程度、しかも多少の傷ならあっという間に再生するらしい。どこでこんな物を手に入れた。

 ガンマ達の車は一般道を横一線に並んで走る。普段の暴走では最低限の片側車線を守っている。

 それは倫理観に基づいて守っているのではなく単純に危ないからである。花奈であれば対向車を避けながら走るのは訳ないが、それ以外は運転をミスり事故る可能性がある。

 しかし今は改造車に乗っている。その頑丈さと突進力は凄まじく車と正面衝突しても相手の車が吹き飛ばされ、改造車は全く減速せず傷一つ付かない

 こうして進行方向に居る全ての車や歩行者を轢きながら進んでいく。目の前の対向車を弾き飛ばすと助手席にいた者がフロントガラスを突き破り飛んでいく。ガンマはその者に向けて手に持っていた蛇腹剣を振るって首を切断し血飛沫が宙に舞う。

 暴走の為に力をつけようとモデルをしてある程度成果を得られた。裏社会の人間に頼み込み依頼料を払って陽動の放火をしてもらった。折角の暴走なのに放火担当で参加が遅れるメンバーが可哀そうだ、このような雑務は外部に任せる。相手側も火事場泥棒が出来て利がある。

 そしてこの蛇腹剣、全長は20メートルと自作の蛇腹剣よりリーチは数倍で切れ味も何倍である。これもモデルで得た金とコネクションを使って作ってもらった。この武器は普通であれば使えないがヘルズクーポンで能力が向上しているので容易く扱える。

 ガンマは目に付く通行人や建物を蛇腹剣で切り刻む。他のメンバーも手持ちの武器で歩行者の首を殴り飛ばし切り飛ばし、そこらへんの石や飛んできた車の破片を拾い目に付く人間や建物に投げつける。能力が上がったおかげで人に当れば当った箇所が破裂し、建物に当ればクレーターができている

 暴走族女神の指示で今後の為に、警察や世間に対して邪魔すれば潰されると分からせるために徹底的に破壊し殺せと言われる。確かに警察は簡単に倒せるが鬱陶しいのに変わらないので、今後手を出さなくなれば楽しく暴走できる。

 

 しばらくすると進むと数百メートル先にパトカーがバリケードのように立ちふさがり、警官30人ぐらいが空に向けて発砲する。確か日本の警察は銃を打つ前に警告の為に空砲を打つと聞いたことがある。

 そして銃口を向ける。ヘルズクーポンのお陰で見えたが普通の人間には見えない距離で警告になっていない。それだけ手段を選んでいる場合ではなく何としてでも止めようという決意か。

 警官たち迄残り100メートル程度、ガンマは極道技巧(ごくどうスキル)絶対主役(惚れるな危険)を使う。

 対象を己に釘付けにして身動きを取れなくする技、それはヘルズクーポンによって強化される。今までは10メートル程度まで近づき、釘付けにできるのは2人ぐらいだったが今では100メートルにいる警官30人の身動きを止めていた。

 警官は訝しむ、引き金を引こうとしているのに引けない、何故かあの女に視線が行ってしまう。今頃そう思っているだろう。そして猛スピードで進む改造車に対し使命感と恐怖で葛藤、あるいは生命の危険を感じて逃げようとするが動かない。その顔は徐々に恐怖の色に染まり、轢かれた際はその表情は絶望一色になっていた。

 

 他人の意志に左右されず意のままに道路を暴走し、風を感じ皆と同じ喜びを感じる。その快感に身もだえする。

 

──お前昔のアタシみたいな目してんな。辛くて退屈で孤独が辛いって言ってる。

 

 脳裏に初めて花奈に出会い覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)に誘われた時の記憶が浮かび上がる。もしあの時花奈に誘われていなかったらどんな人生を送っていただろう?何も感じず虚無の人生を送っていた。

 こんな楽しい事を教え誘ってくれた花奈には感謝してもしきれない。もしこの世に神が居るとしたら花奈かもしれない。

 ありがとう花奈、そして頑張ってくれ。皆の夢を邪魔する化け物を殺して夢をずっと見させてくれ。

 ガンマはそう願いながら目の前の歩行者の首を飛ばした。

 

◆デルタ

 

 デルタ達はH切JCTの料金所を突破し首都高に入る。改造車によって進路上の車や歩行者を轢いていき、警察が設置したバリケードも吹き飛ばしていく。暴走する時はバイク派で、車での暴走は乗り気がしなかったが、全てを吹き飛ばす爽快感を味わうと揺らいでしまう。

 

「見てデルタ!超常(やば)いぐらい飛んでる!」

 

 運転席からギャル風の女が窓を開け屋根の上にいるデルタに話しかける。ギャル風の女性はゆな、以前逆ナンされてから付き合い、それからゆなも暴走に興味を持ちハイエンプレスに入り一緒に暴走していた。

 活動休止時も暴走できない辛さや退屈さを分かち合い支えてもらった。ゆなが居なければ耐えられなかったかもしれない。

 

超絶快楽(ちょうたのし)い!」

「運転交代するか?風が快感(きもち)いぞ」

「いい、こうやって運転して対向車(ノーマル)とか歩行者(パンピー)を吹き飛ばすの楽しいし」

 

 ゆなは声を弾ませながら運転する。運転技術とスピードとスリルへの欲求はデルタ以上でニケツしている時に危険運転で何度も死が過った記憶が蘇る。当時は最悪だったが暴走を禁止されてからはそれすら最高の思い出だった。

 しばらく暴走すると前方には人員護送車が見える。今まで普通車ならぶつかっても吹き飛ばせた。だが普通車より大きく襲撃に備えて改造されている護送車を吹き飛ばせるか、デルタの脳裏に一抹の不安が過る。

 すると景色が流れる速度が一気に速まる。デルタと対照的にゆなは不安を微塵も感じないかのようにスピードを上げていた。

 流石ゆな、思わず己の彼女の勇猛さに頼もしさを覚える。するとデルタは屋根からボンネットに移動する。

 

「ちっとデルタ、前が見えない!」

「そのままアクセル全開(べたぶみ)で進め!」

 

 ゆなは一瞬戸惑うが指示に従いアクセルを踏み、デルタはしゃがみ相撲の立ち合いのような姿勢を取る。そして改造車と護送車がぶつかる手前で動く。

 

 仁王の如し

 

 デルタの極道技巧で単純な相撲のぶちかましだが、威力は桁外れでバイクと正面衝突してもバイクを吹き飛ばすほどである。それがヘルズクーポンで強化されたらどうなってしまうのか?

 純粋な興味、そして暴走族女神から指示で警察や世間にハイエンプレスの凄まじさを見せつけろと言われた。そうであれば人が護送車を吹き飛ばすぐらいやっておいたほうがいいと考えていた。

 

「出た~!デルタくんの極道技巧仁王の如しだ!」

驚嘆()ねえ!護送車を吹き飛ばした!」

 

 デルタのブチかましで護送車は宙に舞う。ぶつかった場所にはデルタの額の跡がくっきりと出来ていた。

 その様子にメンバー達は興奮し、待ち構えていた警官たちは信じられないと恐怖し、そのまま後続の改造車に轢かれ護送車と同じように宙に舞う。

 生き残った警官も暴走を止めようとデルタに飛び掛かる。だが張り手によって首が飛び、胴体も勢いそのままに首都高から落ちていき、そのまま逆走する。

 

「デルタ超常(やば)い~」

「だろ、今ならあの化け物達にもぶっ殺せる」

「ダメダメ、暴走族王(ゾクキング)暴走族女神(ゾクメガミ)の言うとこきかなきゃ」

了承(わか)ってる」

 

 デルタは仕方がないとため息をつく、後で聞いた話だが、忍者の化け物と戦った時に実はこのヘルズクーポンを使っていたらしい、であれば勝てるわけがない。そしてどうやってその化け物に勝つのか?方法を考えようとするがやめる。

 ヤジが殺すと言ったからには絶対に殺してくれる。それを信じればいい、それにそんな事を考えている暇があったら暴走を楽しめとどやされる。

 

「ゆな、この暴走が終わったら結婚するか」

 

 思わず口をふさぐ。暴走が最高に楽しくて勢い余って言ってしまった。こういうのはムードを作って落ち着いた場所で言うつもりだったのに。

 

「いいよ」

 

 一方ゆなも日常会話のテンションで了承した。

 

浅慮(かる)、いいのか?」

「いいって言ってるじゃん。デルタは嫌なの?」

「いやじゃねえよ」

「場所どうする?覇威燕無礼棲のメンバー全員来て欲しいな」

「そうだな、仲人はヤジに依頼(たのもう)ぜ。オレとゆなをくっつけてくれた愛天使(キューピット)だしな」

「じゃあ、この暴走が結婚前の前祝だね」

 

 ゆなはさらにアクセルを踏み順路を走っている一般車を吹き飛ばし、飛ばされた車は爆発し搭乗者の生首が飛ぶ。

 デルタはその様子を見て満面の笑みを浮かべる。相撲が出来なくなり絶望している時にヤジに出会った。

 ヤジには多くのものをもらった。暴走という相撲に変わって熱中し楽しめるモノ、暴走を楽しみ苦楽を共にした大切な仲間達、そして最高の彼女であり妻になるゆな。

 生涯を通して返せない恩を貰った。もしかして返せないかもしれない、それでも友達として返していきたい。

そして欲張りついでにもう1つお願いしておく。化け物共を殺しこれからも暴走させてくれ。

 親友の生存と己の願望を願いながら、立ちふさがる警官を殺害していく。

 

 

◆室田昇一

 

「つばめ!見てるか!俺は最高に楽しいぞ!」

 

 昇一は交通安全のお守りを握りながら叫ぶ。それはかつてつばめが持っていたお守りで仏壇に供えていたが今日の為に持ってきていた。

 本来ならつばめが着ていた特攻服を着たかったがサイズが合わず、一部を切り取って持っていくのも気が引けたのでやめた。

 昇一は幸せの絶頂だった。暴走が始まり改造車で暴走すればするほど、つばめを失った悲しみや辛さが薄れていく。邪魔する警官や障害物を轢き飛ばし、周りに居るメンバーと視線が合い達成感や楽しさを共有する度に歓喜に満たされる。

 ヘブンズクーポンに手を出さなくて本当に良かった。暴走こそ最高に楽しく幸せだ、麻薬は数回で体を壊すが、暴走なら体を壊さず何回でもこの幸福感を味わえる。

 あの時暴走族女神と暴走族王に合わなければどうなっていただろう。妻が死んだ悲しみが癒えず苦しみ続け野垂れ死んでいた。そんな惨めな結末を2人が変えてくれ、こんな素晴らしい体験をさせてくれた。

 昇一は心の中で亡き妻に謝る。すまない、今だけお前を忘れて暴走に没頭する。脳裏に残っていたつばめの姿が消え、周りに居る仲間達の楽しそうな姿が脳裏を満たしていく。

 

◆中藤

 

 車や人が文字通り宙に舞い道路は炎上し赤く染まる。まるで漫画のワンシーンのようだ。そんな光景が目の前で映っている。現実は小説より奇なりと言うが本当の意味を今理解した気がする。

 邪魔する全てを破壊しながら暴走する。なんと気持ち良いことか。これ以上の快楽はこの世に無いと断言できる。

 今着実に脳が焼かれている。もし走馬灯が浮かび上がるとしたら、漫画が本連載になった時やアニメ化映画化決定や漫画の賞を取った時ではなく、今の光景だろう。

 中藤は5感を最大限使い今の状況を記憶する。皆は何も考えず暴走すべきだが、こちらはそうはいかない。

 この暴走は娯楽であると同時に取材だ。この経験を帝都リベンジャーズに活かし、漫画を通して全ての読者に興奮や楽しさを伝える。暴走に興味がある者は全てを投げ打って暴走族になるように、興味が無い者には少しでも刺さり、いずれ暴走族になるように。

 次のシリーズのネタが次々と浮かび上がる。きっと帝都リベンジャーズ史上最高のシリーズと呼ばれるのは確実だ。

 しかし読者は可哀そうだ。いくら帝都リベンジャーズに影響され暴走族になり、暴走を楽しむようになっても、今この場に参加できない。

 恐らくこれ以上の暴走はないだろう。化け物共に潰されてフラストレーションを溜めてからの暴走、改造車とドーピングという圧倒的な暴力で邪魔する者を排除し、暴走族女神と暴走族王が憎き化け物を排除する。

 

 なんというカタルシスか!

 

 もしヤンキー漫画以外を描いて打ち切られてなければ、もし実家がN県N市でなければ、あの時ハイエンプレスと出会っていなければ、もし20代でありながら暴走族に入りたいという、あり得ない願いを暴走族女神が受け入れてくれなければ、もし暴走族王が帝都リベンジャーズで暴走族ブームを作ってくれと託されてなければ、この黄金時代は決してなかった。

 そして黄金時代はこれからも続く。1人でも多くこの楽しさを味わってもらい。暴走族女神や暴走族王を喜ばせる。それがこの世に生まれた意味であると思っていた。

 

 

◆ゴッドスピード

 

超絶(やべ)えだろ極道車!」

「すげえ、護送車を吹き飛ばせるだなんて戦車みたいだ」

「おお、良い振り(スイング)だな、練習(トレーニング)の成果が出てるな」

有難(あざ)っす暴走族女神(ゾクメガミ)!」

 

 バイクに乗って極道車集団の間を器用に行き来しながらメンバーに声をかける。皆良い笑顔をしている。それだけで心が満たされる。

 ゴッドスピード達はI橋JTCを突破し首都高を逆走していた。パトカーや護送車が吹き飛ばされ宙に舞い、首都高利用者と警官の首が飛び死体が外に投げ出され降りそそぎ、道路は炎上し悲鳴が響き渡る。

 こんなのジャブにすぎない、皆が暴走を続ければ被害は拡大するニュースになって世間もハイエンプレスの恐ろしさを知るだろう。

 その内に軍隊が出てくるかもしれない。ヘルズクーポンと極道車があれば軍隊すら倒せる。そうなれば日本でハイエンプレスを止められる存在はいない。そして魔法少女達の耳に嫌でもニュースが入り止めようと駆けつけてくるだろう。

 ゴッドスピードは目の前に飛んできた生首を軽く払う。ハイエンプレスの脅威を知らしめるために徹底的に破壊して殺せと指示を出したが、当人は一切破壊も殺しもしていなかった。

 ヤジが言うには魔法少女を殺しても首都高を暴走していただけなのに、攻撃されたので応戦しましたで無罪だが、一般人を殺せば監査部─魔法少女の警察─に逮捕される可能性あるので極力手を出すなと言われている。罪状があるとすればスピード違反ぐらいだ、それでは捕まえられない。

 邪魔する警察や対向車を轢き飛ばす楽しさを味わいたい気持ちがあるが、是が非でもやりたいわけではないので皆で譲る。

 五感と直感力を研ぎ澄ます。いずれ魔法少女が駆け付け暴走を止めに来る。前後の集団に襲い掛かっていればすぐに駆け付ければいい、だがこの集団が偶々襲われる。また魔法少女が首謀者だと不意打ちしてくるかもしれない。

 身の安全を守る。皆を守るために一瞬でも早く察知しなくてはならない、そうは分かっていてもつい口元が緩んでしまう。

 暴走は最高だ、何も縛るものがおらず自由に好きな事ができる。それを仲間達と共有できる。これ以上の娯楽は存在しないと断言できる。

 もっと味わいたい、だが魔法少女に負ければもう二度と味わえない。想い後ろ髪に引かれながら意識を切り替え神経を張り巡らせ魔法少女の存在を探る。

 

◆殺島飛露鬼

 

 殺島達はO井JCTの検問を突破する。逆走しながら妨害する警官を殺害し一般車を轢き飛ばしていく。

 やはり暴走は良い。何者にも縛られず風が全てを背後に置き去りにする。退屈さも辛さも全て。

 だが心地よさに浸るのはここまでだ。楽しむのではなく楽しませる。メンバー達に暴走をより楽しんでもらう。それが花奈の願いであり殺島の願いだった。

 場を盛り上げるには盛り上げ役が必要だ、殺島は特攻服からリボルバーを取り出す。それは魔法の拳銃ではなく、普通の拳銃である。魔法の拳銃は弾が籠っておりその気になれば数万発撃てるが、対魔法少女で弾切れという最悪な結末は避けたいので使用しない。

 殺島はバイクのシートから立ち上がると隣の車両の屋根に乗り、軽やかなステップを刻みながら拳銃を打ち対向車を爆破していく。

 その振り付けはとあるダンス&ボーカルグループの国民的ヒットソングのダンスだった。ヘルズクーポンによって能力が向上し完コピし、本家さながらのキレだった。

 

暴走族王(ゾクキング)が何か舞踊(ダンス)してるぞ!?」

「あれは●パンプのステイツの振り付けだ」

驚愕(スゲ)完成度(キレ)だ!」

 

 メンバー達は殺島の楽し気な雰囲気と踊りの完成度に目を奪われる。すると皆が示し合せたようにその曲の歌を歌い始め、好き勝手即興で踊る。

 そして歌はサビに入ると殺島は横を向きながらケンケンのように飛び、左手でサムズアップしながら腕を振り、飛んでいない方の足を振るという特徴的な踊りを見せる。

 この特徴的な振り付けは世間で大流行し、動画などで真似して踊る動画が数多く作られ、若年層の大半は踊れるほど浸透していた。

 そして覇威燕無礼棲のメンバーも知っており殺島と同じように踊る。その動きは一切の乱れが無かった。

 ダンスが終わると各所から笑い声が漏れる。暴走中にダンスを見ることもなければやったこともなかった。いざやってみると妙な楽しさがあり、皆でやった事で連帯感が生まれていた。

 これで場がさらに盛り上がった。もしかして場が冷えるかもしれないと危惧していただけに思わず安堵の息を漏らす。

 

♢姫川小雪

 

 都内某所の食堂、その内部は築年数の経過を感じるが掃除は行き届いており清潔感があった。そこはグルメサイトにも載ってない個人店だった。

 小雪は目の前に出されたチンジャオロース、リップルは回鍋肉を口に運ぶ。家で母親のチンジャオロースを食べたことがあるが全然違う。母親の料理の全てを上回っている美味しさだ。

 一方リップルは噛みしめるようにゆっくりと食べ、飲み込むたびに考え込む。料理をしているだけあってどうやって再現しようと考えているかもしれない。

 

「ここ当たりだ、美味しくて値段も手ごろだ」

「本当、地元にあったら通ってる」

「どこでこの店知ったの?ネットで検索しても出ないけど」

「今日の集まりで教えてもらった。ネットで高評価の場所にしようと思ってたけど、言う通りにして正解だった」

 

 2人は料理を楽しむかのように喋るのをやめ食事を続ける。

 姫川小雪改めスノーホワイトは魔法少女狩りとしての依頼を果たすためにT都の都心に足を運んでいた。依頼は魔法少女の詐欺グループを検挙するという内容で魔法によって手口はすぐに分かり、主犯グループの戦闘力も弱かったので簡単に検挙できた。一方リップルも知り合い魔法少女との寄り合いでT都の都心に足を運んでいた。

 同じ日にT都の都心に居る。その偶然を利用してどこかで食事でもとろうという流れになり、どこに行くかと話し合った結果、この定食屋だった。

 

「今日は何したの?」

「カラオケ、流行の曲なんて知らないし苦労した。とりあえず魔法少女ソングで凌いだ」

「まあ、知っている可能性は高いからね」

「そういえばテスト近いんでしょ、どう?」

「一応勉強しているけど、最近は色々と立て込んだから、多分成績落ちるかも」

「お疲れ。勉強を教えられればいいんだけど、偏差値はそっちのほうが高いから役に立たない」

 

 2人は料理を食べ終わり、デザートが来る間に世間話をする。リップルはお疲れと言ってくれるが、1人暮らしでバイトをしながら、魔法少女としてのコネクションを作るために精力的に寄り合いに足を運んでいる。リップルのほうが忙しいはずだ。

 会話が途切れ何となくテレビに視線を向ける。画面ではタレントがクイズに挑戦している。すると突然画面が切り替わり、ニュースキャスターの緊張した面持ちが映る。

 

「緊急ニュースです。首都高で暴走族が首都高全域で逆走し、甚大な被害を出しています。死傷者は不明です。首都高速に向かうのは大変危険です。絶対におやめください」

「暴走族の暴走との関連性は不明ですが、首都圏で数百件の火災事件が発生しています」

 

 暴走族、火災事件、まさか!?

 

 小雪は思わず立ち上がりこれ以上ない程目も開きながらテレビを見つめる。リップルも同じく立ち上がり目を見開きながら画面を見ていた。

 

「ファル、この騒ぎについて調べて!」

 

 小雪は周りの目を気にせず電子妖精のファルに頼む。ファルであればSNSやネットから放送以上の正確で詳細な情報を調べられる。

 ファルが調べ終わるまでテレビを見続ける。火をつけて陽動してからの暴走決行はハイエンプレスの常套手段だ。完全に心を折ったはずなのにまだ折れていなかったのか?見通しが甘かった。

 ふとリップルの横顔を見る。リップルの友達がハイエンプレスのメンバー、しかもリーダーだった。ハイエンプレスを潰した後に行方不明となり心配していた姿が強く印象に残っている。

 友達が凶行に及んだ悲しさと怒りと再び暴走させた後悔で頭がグチャグチャになっている。どう声をかければいいか分からない。

 

「スノーホワイト、この騒ぎはハイエンプレスの仕業だぽん、車で首都高を逆走中、護送車や普通に走っている車とかバイクを逆に轢き飛ばしてるぽん。恐らく改造車だぽん、警官も止めようとしているが返り討ちにあい殺され、利用者も巻き沿いをくらい首都高の外に死体が降り注いでいるぽん、大破した車のガソリンが燃えて各所で炎上、以前カラミティ・メアリのテロよりひどい被害が数百か所で起こっている。控えめに言って地獄だぽん」

 

 ファルは拾ってきた情報や画像を画面に表示する。そこには覇威燕無礼棲と書かれたフラッグを掲げる暴走族、宙に舞う護送車やパトカー、炎上している道路、屋根の上でダンスを踊っている暴走族達というふざけた動画もあった。

 思わず怒りで唇を噛みしめる。画像に移る暴走族達は皆笑っている。こんな凶行を笑顔でするだなんてどう考えても人間じゃない。

 

「今すぐ止めよう。リップル手伝って」

 

 小雪はすぐさま声をかける。リップルの心中を察するが今は1秒でも早く動ける魔法少女が1人でも必要だ。

 

「わかった。知り合いに手伝ってくれるように声をかける」

 

 リップルは振り絞るように返事する。そしてファルに意見を求める。ハイエンプレスの構成員は大よそ10万人、その暴走を最速で効率的に止める案が浮かび上がらない。ファルであれば圧倒的な演算能力で最適解を出してくれる。それに頼る。

 

「スノーホワイトがI袋、リップルがK西に行くぽん、そこで暴走集団を迎撃し車を破壊しまくって障害物にするぽん、改造車なら相当硬いし何十台も積み上げればバリケードになるぽん。本来ならあと3か所バリケードを作る必要があるけど、これしか被害を最小限にする方法が無いぽん。ナビはこっちでするからリップルはマップを開いて向かうぽん」

 

 画面には現在地からI袋の指定された場所へのナビが映り、リップルの魔法の端末にも同じものが映る。2人は店を出てそこらの物陰で魔法少女に変身する。

 

「リップル、気をつけて」

 

 スノーホワイトはリップルに言葉をかけると、雑居ビルの屋上に駆けあがりビル伝いに移動する。

 精神状態は魔法少女の戦闘に大きく左右する。今のリップルは精神が不安定だ、それに何か知らないが嫌な予感がする。最悪人に見られても仕方がないと割り切り全速力で移動する。

 

(痛くて困る)

(市民を守れなくて困る)

(パパとママが動かなくて困る)

(このまま死んで妻に会えなくなって困る)

(キューティーヒーラーが助けてくれなくて困る)

 

 大量の困った声がガンガンと響き渡る。いつものパトロールとは違う悲痛で切実な困った声、過去にカラミティ・メアリが引き起こしたテロの現場に向かった時も似た声が聞こえたが、あれ以上の量と大きさだ。

 すると首都高が見える。遠目から見て分かる程道路が燃え上がり周りのビルの光に負けない程首都高を赤く染めている。車のエンジン音と犠牲者の悲鳴が響き渡り、パトカーと車と警官と一般人の死体が降り注いでいる。

 ファルが控えめに言って地獄だと言ったが決して大げさではない。魔法少女が起こす犯罪や悪事には目を覆いたくなるものもあった。中東の紛争を止めた時もあまりの光景に呆然としたこともあった。だがこの光景はそのどれよりも悲惨な光景だった。

 絶対にこの悪事を止める。スノーホワイトは断固たる決意を抱きながら目的地に向かった。

 

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