暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第55話 迷少女少年のグローリアス・デイズ

♢スノーホワイト

 

 スノーホワイトは苦々しい顔を浮かべながらファルに指定されたI袋の道路の中央に陣取る。目の前には大破し炎上した車、轢かれて一部が破損した死体や焼け焦げた死体があり、血の匂いと肉が焼けた独特の匂いが充満している。それはかつての東南アジアに行きテロを止めた際に見て嗅いだものと似ている。

 日本でこのような光景を見せられるとは思わなかった。改めて未曾有のテロが起こっていると実感する。ここに着くまで多くの死傷者の困った声を聞いた。本当であればすぐに駆け寄り応急手当てをし、病院に連れていきたかった。だが傷病者を無視してこの場所に着いた。

 暴走を止めなければ被害は出続ける。そのためには暴走する車を破壊しバリケード代わりにし暴走を妨害、それを何か所かでやるのがスノーホワイトとリップルで暴走を止める最適な方法とファルが言った。

 それが今出来るベストなのは分かる。だが多くの人を守るために少数の助かるかもしれない命を見捨てた。神様でもない限り理想の結果は得られ続けられない。だからこそ少しでも努力し少しでも理想の結果を得られるように行動する。分かっているつもりだが、申し訳なさと悔しさの念が体中を駆け巡る。

 スノーホワイトは目を凝らし耳を澄ます。まだ暴走族はこちらに来ていないようだ、その間に近くにあった警官や一般人の死体を道路わきに寄せる。残された遺族の為に、これからくる車に潰され遺体が損壊しないようにする。それが唯一できることだ。死体に手を合わし冥福を祈る。

 すると前方から猛然とした勢いで迫る人が屋根の上に乗った黒い車が見える。あれが暴走族の乗っている車だ、スノーホワイトは道路中央に立ち魔法の袋に手を入れ、薙刀状の武器であるルーラを取り出す。

 車はみるみるうちに距離を縮めていく。これは法定速度の倍以上は出しているだろう。車が10メートル手前に迫ったところでスノーホワイトは距離を詰める。

 運転席に向かい左手でフロントガラスを突き破り、同時に運転手を掴み引き釣り出し、屋根にいる暴走族も捕まえて放り投げながら。空いている右手でルーラを振るいタイヤを破壊する。

 その一連の動作を迫る車に手当たり次第していく。破壊された車はコントロールを失い蛇行しながら数百メートル進んで停止し、破壊された車が最初に破壊された車に次々とぶつかっていく。これを繰り返しながらバリケードを作り暴走車を堰き止める。

 10台ほど破壊すると暴走車に変化が起こる。法定速度を超え迫っていた車が徐々にスピードを落とし、玉つき事故を引き起こしながら引き返していく。

 何が起こっている?その行動を訝しんでいると怒号のような声が聞こえる。声の方向を向くと目を血走らせながらこちらを睨む暴走族が居た。

 あれは放り投げた暴走族だ、あのまま制御を失った車に乗っていれば死ぬので、車の中から引き釣りだし、屋根の上から引き釣り下ろした。

 本当であれば丁寧に移動させたかったがそんな余裕はなく放り投げた。頭から落ちないようにしたが、足や腕で着地しあの勢いであれば骨は折れて動けない。だが目の前の暴走族達は平然としている。

 

「ピンク髪!上等(ちょうし)こいてんじゃねえぞ!」

暴走族王(ゾクキング)暴走族女神(ゾクメガミ)には悪いがここで殺す!」

「お前のせいで、俺達がどれだけ辛い思いしたか思い知らせてやらあ!」

 

 50人以上の暴走族達がスノーホワイトに襲い掛かる。その駆け寄るスピード、武器を振るうスピード、どれも明らかに人間離れしている。一瞬驚くが魔法少女と比べて脅威ではなく冷静に無力化する。だが人間にとっては明らかに脅威だ、下手したら拳銃の弾丸すら避けられる。

 それにあの車も比較対象がないので何とも言えないが、フロントガラスを破る感触やタイヤを斬る感触が明らかに普通の車より硬い。この世の中でここまで硬い物質はそうそうない。

 その硬い車が100キロを遥か超えた速度でぶつかる。その破壊力は想像を絶するもので護送車を吹き飛ばせても不思議ではない。

 この暴走は警察では止められない、下手したら自衛隊でも止められないかもしれない。魔法少女しか止められない。

 

「ファル、バリケードはこれぐらいでいい」

「もう少し欲しいぽん、漏れたら突き破られるぽん」

 

 ファルの言葉に歯を噛みしめる。ファルの計画ではバリケードを作り次第、別の場所に行きバリケードを作り首都高を封鎖する。

 なのでバリケードは完全に通れないようにしなければならない。ここで焦って他の場所に行けばバリケードを作った意味がなくなる。早く次の車が来い、そう願いながら暴走族達の襲来を待つ。

 数分が経過する。あれ一向暴走族達は現れない。このままではバリケードが完成しない。これは他の場所に移動した方がいいのではないか?ファルに提案しようとすると前方に何かが見える。

 それはバイクだった。暴走族は車に乗っているとファルから知らされている。暴走族とは無関係な部外者か考えたが否定する。

 バイクは猛然と迫って来る。そのスピードは暴走族の車の比ではなく、地球上のどの車やバイクより速い。するとバイクの運転手は突如シートに立ち上がりジャンプする。その跳躍力は常人より高い。

 数コンマほど運転手に意識が移る間にバイクはすぐそこに迫っていた。咄嗟に回避しバイクはそのまま直進しバリケードを吹き飛ばした。

 バイクであの硬い車で作ったバリケードを吹き飛ばした?いくらスピードがあってもバイクの質量と硬さで吹き飛ばせるものなのか?

 スノーホワイトの意識はバイクと壊されたバリケードにいくが、即座に前方に居るジャンプした運転手に向け、呆然としていた。

 

「殺島くん?」

 

♢リップル

 

 リップルは積み重ねた車の頂上から前方を見つめる。ところどころで車が炎上し視界を赤く染め、首のない一般人や警察官の死体が転がり、蹲っている暴走族がいる。

 ファルに指定された場所に到着し、指示通り暴走する車を材料にしたバリケードを作った。バリケードを作る際には暴走族を車から出してから車を破壊した。死んで当然の行いをしているが殺しはしない。途中で逆上して襲い掛かったが無力化して端に転がしている。

 暫くすると暴走族が来なくなり、その間に暴走族の車以外の車を拾い積み重ね即席の櫓を作る。その高さは10メートルを超えていた。

 リップルの魔法は「手裏剣を投げたら百発百中だよ」である。実際は手裏剣以外でも投擲すれば軌道を自由自在に操作し高精度で命中できる。

 そして射程距離の数キロ先の暴走族の車や一般人や警官を襲う暴走族に手裏剣を投げる。これで被害が抑えられたがごく僅かだ、暴走族の暴走を止めなければ被害は増え続ける。

 魔法の端末を見るが返事は来ない。魔法少女の知り合いにファルが指定するポイントに行ってバリケードを作ってくれと依頼していた。

 僅かに落胆するがある意味予想通りだった。基本的に魔法少女は小さな手助けをする。人命救助はしても破壊を伴うバリケード作りは魔法少女活動の範疇外だ。

 さらにこれだけ人間離れして行動をすれば魔法少女の存在が世間に知れ渡り、魔法少女資格が剥奪される可能性もある。リップルは勿論スノーホワイトも覚悟の上だ。ここで人々の為に動かなければ魔法少女ではない。

 リップルは周りの惨状を見て唇を噛みしめる。こうなるのであればもっと苛烈な手段をとっておけばよかった。

 半年前はバイクを破壊して力を誇示し心を折った。だがもっと肉体を傷つけトラウマでバイクに乗れない程に痛めつければ良かった。当時はあれで充分だと思ったが、今思えば花奈の仲間達を傷つけたくないと配慮してしまった。

 そして花奈は今も首都高のどこかに居て、暴走し一般人を轢き殺し邪魔する警官を殺しているだろう。一緒に暴走してないが充分に分かる。

 かつては気の迷いでバイクで走るのを最優先にし、人に暴力を振りかざした。しかし花奈はその比ではない。暴走の邪魔する者は全て殺す。少しでも早く暴走を止め被害を抑え人々を守る。それが魔法少女として友達としての責任だ。

 

 暴走族の車は一向に来ない、ファルが想定するバリケードとしての強度は足りないらしいが、ここで待っても時間を無駄にするだけだ。ここでこの場に留まらず首都高を駆けずり回り片っ端から暴走族の車を破壊し、暴走族を無力化するべきか?

 そう判断を下しバリケードから降りようとすると、視界の数キロ先に一台のバイクが映る。搭乗者は赤色のレースクイーン風の服の上に特攻服を羽織った黒髪ロングで白のメッシュの女性、そのバイクは異常なスピードで走っていた。その速度からしてここまで数秒で着く。どう考えてもバイクが出せるスピードではない。

 これは魔法で作られたバイクだ、搭乗者は魔法少女で、魔法少女として人助けしようとする気配はない。ということは暴走族側、もしや一連の暴走行為はこの魔法少女の仕業かもしれない。

 リップルは即座に生成した手裏剣とクナイを魔法少女に投げる動作に入る。その瞬間に相手と視線が合う。目に籠っているのは敵意と殺意、あれはリップルの敵だ。暴走に関係しているか否か以前に対処する必要がある。

 相手との距離残り1キロ、手裏剣とクナイを投げる。狙いはバイクと相手の腕、殺しはしないが無力化する。手裏剣とクナイは斜め下の軌道を描き飛ぶが、すぐさま水平軌道になって道路を埋め尽くすように飛んでいく。

高所から投げおろせば爆撃のように広範囲攻撃は可能だが、相手に到達する前に加速され躱される可能性がある。ならば水平軌道で当てる。この軌道であれば加速しても逃げ道はない。

 手裏剣とクナイがバイクの魔法少女に迫る。あと数メートルで到達するというところでバイクが横倒しになる。急な方向転換で転倒したかと推測したがバイクの車体は地面に当っていないのを確認し、そのままスライドするように走行し弾幕を突破する。

 魔法のバイクである限り一般のバイクのような動きはしない。ジャンプするか横のスライド移動で回避するか、それを予想していたがまさか下を潜るとは、リップルは完全に裏をかかれていた

 ならば地面を這うクナイと手裏剣を大量に投げようとするが、相手は距離を詰めバリケードを駆け上がり轢き殺そうとしている。

 リップルは投擲を止め横に飛んで回避しバイクの魔法少女とすれ違う。このままバリケードを駆け上がればジャンプしてしまう。その無防備になったところを攻撃する。

落ちながらすれ違ったバイクの魔法少女の背中に向けて手裏剣を投げようとするが、バイクはジャンプせずバリケードを駆け下りていく。明らかに物理法則を無視している。

 降りた進行方向先に手裏剣を投げる。バイクの魔法少女は手裏剣を置き去りにしてから超高速でUターンして飛来してきた手裏剣をなんなく躱した。

 

「忍者ってことはヤジとデルタをやった魔法少女か!?ピンクにリベンジしたかったが、まずはお前から……」

 

 バイクの魔法少女は敵意と殺意を剥き出しにして大声を張り上げていたが、徐々に尻つぼみになり、表情も怒りから困惑と動揺に変化していく。

 

「お前、華乃か?」

 

 バイクの魔法少女は指を差しながら呟いた。

 

◆殺島飛露鬼

 

 仲間達からI袋でピンク髪の魔法少女が出現したと報せを受け、現在地から近い殺島が現場に向かう。やはり出てきたか。本来ならば暴走を邪魔する魔法少女の存在は歓迎すべきではないが、妙に嬉しかった。探す手間が省ける。リベンジを果たせる。それもあるが魔法少女が魔法少女らしい行動をしてくれるからだ。

 キューティーであれば、デイジーであれば、ひよこちゃんであれば、人々を苦しめる存在がいれば助け守るために悪役に立ち向かう。それが魔法少女だ。

 だが現実の魔法少女は違う。人間社会への干渉を避けろという指示に従い、あるいは自分の利益の為にフィクションのような魔法少女的行動をしない。それでもピンク髪の魔法少女は正しく魔法少女をしてくれる。それが嬉しいのだ。

 I袋に向かっている途中に今度はK西で忍者の魔法少女が現れたと報せが届く。こっちもやはり来たか、当然花奈が忍者のほうへ向かう。

 前回とのマッチアップとは逆になったか、相手が油断してくれるという面で忍者を相手したかったが仕方がない。

 殺島はI袋に向かいながら過去を振り返る。帝都高速での暴走であの若い忍者と戦って死んだ場所は池袋だった。前の世界とこの世界はほぼ同じで、I袋は前の池袋と同じだ。同じ場所で超常的存在と戦う。何か運命的なものを感じる。

 脳裏に若い忍者との戦いが蘇る。あれは強かった。足を潰してもピストルディスコをパクり、己を弾丸にして攪乱して攻撃してきた。そしてピンク髪は忍者以上だ。

 

勝てるか?

 

 一瞬弱気になるが即座に掻き消す。勝てるかではなく勝つだ、マジカルドーピングで前より遥かに強くなった。皆のために、何より花奈のために勝たなければならない。

 3代目ラズリーヌや虹の魔法少女との戦いを思い出しながらI袋に向かう。すると道の中央に積み重なった極道車とピンク髪の魔法少女が居た。極道車を使ってのバリケードとはやり方まで忍者と同じだ。そのデジャビュに思わず苦笑する。

 殺島はアクセルを回しながらシートに乗っかり飛ぶ。花奈と違ってバイクに乗りながら戦えないので乗り捨てる必要があった。どうせ乗り捨てるならダメ元で奇襲とバイクを手放しピンクの魔法少女に突っ込ませるが案の定あっさり躱される。

 殺島は着地し30メートル前のピンク髪色の魔法少女と正対する。虹の魔法少女と戦った時は不意打ち気味に攻撃して成功した。あれはベターな選択だったがベストではない。

 殺島のアドバンテージは人間でありながら魔法少女並みの強さがあるという点だ、いきなり戦わず言葉を交わし弱者と印象づける。弱者であると思えば思う程落差が増し対応しづらくなる。あるいは心許させ少しでも警戒を解く。これがベストの戦法。

 

「殺島くん?」

「おっ、光栄じゃん、俺みたいな弱者男性(しゃばぞう)を知ってるなんて、すっかり有名人(インフルエンサー)ってか」

 

 虚勢を張っているように強がりの言葉を言いながら様子を窺う、存在を知っていても不思議ではない、だがこの動揺の仕方は異様で不意打ちすれば決まりそうなほど心が乱されている。

 

「もしかして、小雪か」

 

 殺島は気が付けば問いかけていた。目の前のピンク髪の魔法少女と小雪の容姿は全く違う。だが魔法少女と小雪が連想され、もし小雪が魔法少女なら同じような行動をしているだろうなと何となく連想していた。

 ピンク髪の魔法少女から返答はない。だが仕草と雰囲気が小雪だと思えば雄弁に答えを語っていた。

 

真実(マジ)か……」

 

 殺島は思わず呟く。言葉で機先を制そうとしたが逆に制された。それ程までに動揺していた。

 

「殺島くんはハイエンプレスのメンバーだったの?」

 

 小雪は悲痛な表情を浮かべながら問いかける。機先を制されたと思ったが、小雪も予想以上に動揺している。状況は5分5分だ、動揺を治める時間を稼ぐように2拍ほど間を開けて答える。

 

「ああ、副リーダーだ」

「じゃあ、これも殺島君が計画したの?」

「立案者はリーダー、オレは準備係だ。極道車とか用意するの大変だったぜ」

「なんで!なんで……こんな酷い事ができるの!?キューティーシリーズが、魔法少女が好きならこんな事しない!魔法少女が好きは噓だったの?」

 

 小雪は激昂した後今にも消えそうなか細い声で問いかける。その激昂と弱弱しさは今までの付き合いで見たことがない態度と表情だった。魔法少女は精神も強靭になると訊いていたが、とてもそう思えない程揺れている。

 

不真実(うそ)じゃねえ、魔法少女は大好きだ」

「嘘だよ」

不真実(うそ)じゃねえ、魔法少女は好きだ、あの娘達の正義の心には心底尊敬(ガチリスペクト)で憧れている。」

「だったら……」

「憧れには色々ある。その憧れになりたいから憧れる。なれるかもしれないから憧れる。そして絶対(ゼッテー)になれないから憧れる。オレはそれだ」

 

 魔法少女は太陽だ、慈愛に満ち正義の心を持っている。性善説を信じるならば誰もが憧れる。小雪は憧れているがその憧れはなりたいという原動力になって、こうして魔法少女として悪と対峙している。そして殺島はどうやってもなれない。

 

「そんな事ない。魔法少女を好きだって気持ちがあればなれる」

絶対不可能(ムリゲー)だ。オレは暴走族だからよ」

 

 悲観と諦念を帯びた笑みを小雪に向ける。暴走という他者を踏みにじる手段でしか幸福を得られない異常者、それが暴走族殺島飛露鬼だ。生まれ変わってもそれは変わらず、その異常者が真の魔法少女になれるわけがない。

 小雪は口をわなわなと動かし言いよどむ。罵倒しようとしているのか説得しようとしているのか、どちらか分からないが、魔法少女好きの友人がこんな異常者であるのに絶望し軽蔑しているのだろう。

 

「なあ小雪、オレ達を黙認(みのが)してくれねえか」

 

 この言葉に弱弱しかった小雪の表情に怒りが帯びる。暴走で皆に迷惑をかけているのにどの口で見逃せと言っているのか、心情を察するとすればこんな感じだろう。殺島は小雪に構わず話を続ける。

 

「小雪、実は魔法少女については少し博識(くわし)くてよ、魔法少女ってのは小さい手助けしかするなって言われてんだろ?魔法少女によってこの世界を大きく変わるのを嫌悪(いや)がる。そうだろ?キューティーみたいな魔法少女ばかりなら世界中から戦争が根絶(なくなって)る」

 

 小雪の動きは見せないが仕草で肯定している。正確に言えば戦争の火種は消えないが、発生したらその力で瞬く間に鎮圧できる。

 

「だからこの暴走でも魔法少女は無活動(なにもしねえ)。だが小雪と忍者の魔法少女は違げえ、愛と正義のためなら規則何て超無視(ガンむし)するキューティーみたいな魔法少女で、オレの憧れだ」

 

 魔法少女の実情を知り、憧れを失いかけたが失いはしなかった。それはピンクの魔法少女─小雪─がいたからだ。何故途中まで黙認していたのか知らないが半年前に覇威燕無礼棲を潰しに来た。

 

「そして憧れは暴走族(おれたち)の敵だ。暴走族は暴走してえ、小雪達は阻止したい。決して相容れない。生存(いき)るか死滅(くたば)るかだ。こうなったから俺達は友達(ダチ)でいられねえ。けど憧れであり魔法少女友達(キューティーとも)を殺したくねえ」

 

 魔法少女の存在と実情について口にした。魔法少女を知らず倒せると勘違いした愚者を演じるのが利口で暴走族として正しい。

 だが殺島飛露鬼として友人であり魔法少女である姫河小雪を殺したくない。ただの友達だと思っていたが、暴走族としての利を投げ打ってまで説得するほど大切な存在であるのを今頃気づいた。

 

「私もそうだよ。姫川小雪として大切な友達を傷つけたくない。でも魔法少女として暴走を終わらせる。ハイエンプレスは今日で解体する。どんなに傷つけてもメンバー全員が二度と暴走する気にならないように心を折る」

 

 小雪は薙刀のような武器を構える。今まで怒り悲しみ動揺したりと揺れていた表情は無表情に変わる。それは小雪が決して見せない表情で思わず背筋が凍る。

 

「良い眼だ、ギラついてる。真っすぐに強い意志にギラついて、決して容赦しねえって正しい者も道を歩む良い眼だ。それこそ魔法少女の目だ」

 

 本心ではこの展開を望んでいたのかもしれない。小雪を殺したくない。だが見過ごせば魔法少女ではない。小雪には憧れる魔法少女でいてほしかった。

 

「ありがとう」

 

 小雪は一瞬頬を緩ませるが即座に無表情に戻る。こうなったらいくら言葉を投げても揺れない。殺島は懐からマジカルドーピング剤を手に取る。

 

「殺島君、最後に訊きたい事がある」

「なんだ?」

「なんで暴走するの?」

「楽しいからだ。暴走している時だけ現実の辛さや退屈さを忘れられる」

「本当に?」

 

 小雪はじっと見つめる。その声色は咎めているのではなく、本心を訊きたいという純粋な願いが籠っていた。殺島は根負けしたかのように目線を外し、頭を掻きながら観念したかのように答える。

 

記憶保持(おぼえて)るか?去年の夏休みにキューティーの映画見た後、飯食いながら駄弁ったの」

「うん、私が怒って帰っちゃった」

「その時オレが悪は悪いか?正しくいるのは疲れるし強さが必要で誰もができるわけではない。悪は弱者で弱いからそういう生き方しかできないかもしれねえって言った。その後に極論だってメッセージを送ったがあれは本心だ。困難の日々に耐えきれず暴走に逃げて、人様を踏みにじって迷惑な方法でしか幸せを感じられない。世間の誰からも理解されない孤独な者、それが暴走族で覇威燕無礼棲だ。オレはそんな奴らを少しでも肯定してやりたい、それは昔も今も変わらない。そしてどうしようもなく弱くて孤独な奴がいる。オレはそいつを肯定したい、居場所を作りたい。救いたい。いや、救わなきゃならねえ」

 

 生島花奈、圧倒的なカリスマで皆を引っ張るリーダー、花奈によって多くの孤独な者が救われた。だが花奈は皆を救う神ではない。誰よりも弱い孤独な者だ。

 皆の辛さや退屈さを癒すために暴走している。それは紛れもなく本心であるが主な部分ではない。暴走するのは皆で暴走するのが楽しいから、誰も居ないと孤独と現実の退屈さと辛さに耐えられないから。

 もし覇威燕無礼棲が潰されれば花奈は間違いなく心が死に自殺する。前の世界では娘を守れなかった。今度は守る。それがこの世界に来た理由だから。

 

「殺島君は優しいね。弱い人の為に、大切な人の為に戦う。でもそれは魔法少女の優しさじゃない。魔法少女は皆を守る存在、殺島くんを肯定したら悪に走りそうな弱い自分に必死に抗っている人達が傷つき不幸になる。そんな人たちを守るのが魔法少女の清さと正しさだから」

 

 スノーホワイトは宣言するように言い放つ。その優しさで心から孤独な者達に同情し、魔法少女として容赦せず切り捨てる。その言葉は殺島が理想とする魔法少女そのものだった。

 

「実はな小雪、オレは魔法少女になれたんだ」

 

 予想外だったのか小雪は目を丸くする。それは驚くだろう。男が魔法少女になったケースはあるならしいが、とんでもなく低確率だそうだ。

 

「それで魔法は『みんなを笑わせるよ』って魔法だ」

「素敵な魔法だね」

「もし魔法少女として活動するならラフメイカーだな」

 

 何時ぞやの雑談で名付けてもらったラフメイカー、由来は周りの皆が笑顔だったからそうだ、その名前は魔法少女として理想そのものであり気に入っていた。誰かを倒すのではなく、皆を笑顔にするのが魔法少女だ。

 脳裏に魔法少女ラフメイカーとして小雪と一緒に街をパトロールして人々を助ける映像が浮かび上がる。

 もし花奈に出会うより先に魔法少女になっていたら、そういった未来があったかもしれない。だがそれは可能性であり終わった話だ。

 今は暴走族として花奈の為に、魔法少女として憧れで友達である小雪を殺そうとしている。後悔は何一つない。

 

◆ゴッドスピード

 

 3代目ラズリーヌとの雑談で、魔法少女の顔と人間時の顔にはどこかしら似たところがあり、それを察知できれば正体を察知できると聞いた。きっと3代目とかラズリーヌ候補生では無理だ。友達の華乃が忍者の魔法少女だったから判別できた。

 

「まさか、花奈なの?」

 

 華乃も正体に気付いたようで、信じられないと目を見開きこちらをまじまじと見つめる。

 

「華乃!よくもヤジを!デルタを!皆のバイクを()ってくれたな!」

 

 ゴッドスピードは激昂する。半年前の襲撃で皆のバイクがスクラップにされた。暴走族にとってバイクは何よりも大切なモノであると知っているはずなのに。

 

「あんたこそ、暴走のせいで何人死んだと思ってんの」

 

 華乃は謝るどころか親の仇のような目でにらみつける。それは今までの抗争相手が出していた敵意が幼稚園児に睨まれたぐらいに思えるほど別格だった。魔法少女という怪物が出す殺意、本性を隠していると思ったがここまでとは思わなかった。無意識につばを飲み込む。

 

「知るか、寧ろ派手に暴れるのが目的だ。一般人(パンピー)や邪魔する警官(イヌ)共を殺しまくって覇威燕無礼棲の恐ろしさを強制理解(わから)せ、華乃とピンク髪の魔法少女をおびき出す。それより何であんな愚行(まね)をした?」

 

 華乃は視線で人が殺せるほどの殺気を放つがゴッドスピードも目を逸らさず睨み返す。恐怖は殺意で抑える。暴走族の魂を踏みにじった。それは絶対に許せない。

 

「暴走族の魂を破壊されれば己の弱さと不甲斐なさに絶望して、次はないと脅せば暴走しなくなると思ったから。なのになんで……」

 

 華乃の表情に唇をギュッと結び悔しそうな顔をしている。確かに効果的だったが、あれで暴走を辞めるほど柔じゃなく暴走への欲求は小さくない。

 

「ところで華乃、箒に乗った魔女みたいな魔法少女を知ってるか」

 

 ゴッドスピードは華乃への殺意を抑えながら話題を変える。つばめは多分魔法少女でN市で死んだ。忍者の魔法少女はN市に出没していたらしい。もしかしたら何かしらの可能性があり、死の真相を知っている可能性がある。

 

「トップスピード、それが室田つばめさんが魔法少女に変身した名前、そして私とコンビを組んでいた」

 

 やはりつばめは魔法少女だった。これは可能性として信じていたが、華乃とコンビを組んでいたのは驚きだ。つばめを中心に妙な繋がりに運命的な何かを感じていた。

 

「それで何でつばめは死んだ」

「魔法少女同士の抗争みたいなもので殺された。私も傍に居たのに、ごめん」

 

 華乃は深々と頭を下げる。先程まで恐ろしいほどまでに殺気を放っていたのが嘘のように弱弱しい。

 

「トップスピードは最後まで赤ちゃんの為に生きようと必死に足掻いた。あの時も見過ごせば生き残れたかもしれないのに、私の我儘に付き合って人々を守ろうとした。花奈が言うように情けなくなかった」

 

 華乃は訴えかけるように見つめる。その声色や表情から誠実さのようなものが伝わってくる。それは魔法少女として鍛えた直観力、何より華乃は喜ばせるために嘘をつく人間ではない。

 これは紛れもない事実だ。結果的に死んだが最後まで根性を見せた。喧嘩でも根性を見せて負けたメンバーは絶対に貶さない。この瞬間ゴッドスピードはトップスピードを赦していた。

 

「それでつばめを殺した魔法少女は誰だ?」

「スイムスイム、でもそいつは私が殺した」

「そうか、感謝(サンキュ)な」

 

 ゴッドスピードは先程までの殺気出した様子が嘘のような爽やかな笑顔を見せる。華乃がつばめの為に仇を取ってくれた。華乃が仇を取る程つばめを想っていてくれたのが無性に嬉しかった。

 一方華乃もその落差に毒気が抜かれたのか笑みを浮かべ、二人の間に渦巻いていた殺気立った空気は緩んでいく。

 

「華乃、アタシ達を黙認(みのが)してくれねえか?」

 

 このままでは暴走を邪魔する華乃を殺さなければならない。暴走の為と云えど友達を殺したくはない。ならば邪魔さえしなければ殺す必要もなくなる。別に覇威燕無礼棲に入ろとは言わない。暴走とは別に華乃とバイクで走れれば充分だ。

 

「それはできない。私は魔法少女だから」

 

 華乃は一瞬頷きそうになるが即座に首を強く横に振る。その目にはまた怒りが滲んでいる。それは暴走ではなく別の何かに向けられている。

 

「花奈も暴走止められない?世の中には楽しい事が多くある。何なら一緒に見つけよう。協力するから、それに前にもメンバーと一緒にゲームしたりして遊んで楽しかったって言っていた。私も一時期そっち側にいた。それでも戻れた。だから花奈も戻れる」

 

 今度は逆に華乃がゴッドスピードを説得しにかかる。一瞬暴走を貶されたと思いキレかけるが何とか抑える。

 

「確かに皆と遊ぶのは楽しい。華乃とバイクで走ったり駄弁ったりするのも楽しい」

「だったら」

「それは付属(オマケ)なんだよ。暴走しているから楽しめるだけだ」

 

 暴走は娯楽であると同時に必要不可欠なモノ、酸素みたいなものだ。暴走が現実の退屈さや辛さを癒してくれる。癒された心の余裕があるから他の娯楽が楽しめる。もし暴走が出来なければ心は死ぬ。

 

「つばめの夫に昇一って奴がいる。そいつはつばめが死んだ悲しさに耐えられなかった。けど暴走によって救われた。暴走は必要なんだよ」

 

 昇一だけじゃない、デルタだって相撲が出来なくなった悲しみを、ガンマは何しても詰まらないという苦痛を暴走が救った。それ以外にも暴走によって救われたメンバーは多く居る。

 一億歩譲って暴走を止めるのはいい、そうなれば退屈過ぎて自殺するだけですむ。だが華乃はそれだけで満足しない。全ての人間が暴走しないのを望んでいる。そうなれば多くのメンバーが不幸になる。リーダーとしてそれは絶対に認められない。暴走族女神として皆を救う。

 華乃は顔を伏せるが再び顔を上げる。その目には諦めはない、まだ説得するつもりだ。

 

「前にカラミティ・メアリってカスがいた。そいつは私をおびき寄せる為にN市の国道で銃火器で一般人を攻撃した。花奈がやっている事と一緒、私はそれを止めようとしてトップスピードも一緒についてきてくれた。もしトップスピードが生きてこの場に居たら一緒に花奈をとめる。トップスピードに顔向けできる?」

「できる。暴走は皆やアタシに必要だ。つばめは好きだけど暴走を邪魔するなら殺す」

 

 ゴッドスピードは即答する。つばめは暴走より昇一をとった。それに対して恨みはないがこちら側、暴走族ではないという何よりの証拠だ。暴走族であれば他に浮気や寄り道しても最後は暴走に戻ってくる。

 オールドブルーの所でトレーニングした日々で実感した事がある。暴走族とそれ以外は分かり合えない。3代目ラズリーヌや他のラズリーヌ候補生とそれなりに仲良くなった感はある。だが妙な疎外感を感じていた。今思えば他の人間が暴走族ではないからだ。

 華乃と出会い親しくなった。それは華乃が暴走族なる可能性があったからだ。現にバイクで走りたいからと、ババアとかをボコボコにしたこともあった。だが結局は魔法少女というあちら側に戻った。

 あちら側の人間に暴走という世間から認められない手段でしか幸福感を得られない者達を真に理解できるわけがないから。

 

「これで最後通告(ラスト)だ。アタシ達を黙認(みのがす)気はねえな?」

「ない、魔法少女として、トップスピードの相棒として花奈達の悪事を見過ごせない」

 

 華乃はゴッドスピードと同じように即答する。もはや歩み寄れない。2人の道は完全に違えたと理解した。皆の為に、己の為に友達を殺すしかない。

 

── 

 

覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)! 総長(リーダー)!」

覇威燕無礼棲(ハイエンプレス) 副総長(サブリーダー)

 

(((花奈、覚えておけ)))

 

 殺島とゴッドスピードに過去の会話の記憶が蘇る。

 

「魔法少女ゴッドスピード、改め暴走族女神(ゾクメガミ)生島花奈(いくしまはな)

暴走族王(ゾクキング)殺島飛露鬼(やじまひろき)

 

(((100%ぶっ殺すと決めた相手には堂々と名乗る)))

 

 こちらの世界にはそんな慣習はないかもしれない。だが覚悟と決意を持って殺さなければならない相手が居る時に必要だと、殺島は教えゴッドスピードは記憶していた。

 

(アタシ)暴走(ユメ)永久不滅(ずっと)だ」

(メガミ)理想郷(ユメ)(オレ)が守る」

 

(((それが、裏社会の流儀(うらマナー)だ)))

 

 その相手が目の前に現れた。大切な友であろうが己の為、夢の為、信念の為、大切な者の為に殺す。裏社会の流儀(うらマナー)は礼儀であり決意表明であった。

 

「名乗れ!魔法少女!」

「名乗りな、魔法少女」

 

「N市担当、魔法少女リップル」

「魔法少女狩り、魔法少女スノーホワイト」

 

 スノーホワイトとリップルも名乗る。名乗りの風習もなくする必要もないが目の前の相手から溢れる決意と覚悟と誠実さがそうさせる。

 

「魔法少女として悪事は止める。親友だろうが容赦しない」

「清く正しい魔法少女として、弱く正しい人を守る」

 

 

─さあ決めようか、暴走族が生存(いき)るか死滅(くたば)るか

 

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