♢スノーホワイト
殺島の双眸がこちらを見つめる。怒りも悲しみもない、正確に言えばそのような感情はあるが抑え込んでいる。必要だから殺す、荒事に馴れているプロフェッショナルの魔法少女の目だ。
仕事で人を殺す者は世間の感性から見ても異常だ、殺島は人間でありながらそんな異常者だった。それは少なからずショックだった。
スノーホワイトは意識を切り替え殺島を分析する。シートから飛んだ距離と着地の仕方、明らかに常人の身体能力ではない、だがその程度なら魔法少女にとって何の問題にもならない。
殺島を無力化した後は首都高を周り暴走族を止める。それか殺島を脅して暴走を止めさせるように命令させる。
暴走を止めた後は殺島を警察に突き出しあとは司法の手に委ねる。魔法少女として悪事を止めても裁く権利はない。そしてこれだけの騒動を起こしたのであれば死刑は免れない。
「
(油断してくれないと困る)
殺島の困った声が聞こえてくると同時に特攻服の懐に手を伸ばし拳銃を取り出し発砲する。その動きに驚愕する。
驚くべきはその速さ、どう考えても人間の範疇を完全に超え、魔法少女レベルである。予想外の出来事に虚を突かれた。
そして銃口を忙しなく動かしながら連射する。形状はリボルバーだがマシンガン並みに連射している。あれは何かしらの魔法少女の魔法で作られたアイテムか、魔法の国で作られたアイテムだ。
普通のリボルバーより遥かに速い速度で弾丸が飛んでくるが大半は外れ、足元のアスファルトに当り破片が宙に舞う。身体に飛んでくる数発は銃口から予測し躱す。
すると外れた弾丸が見えない壁に反射したように軌道を変え上下左右から襲い掛かる。スノーホワイトは咄嗟に身を屈め横に飛んで回避する。
危なかった。困った声で跳弾してくるのを察知したおかげで避けられた。やはり普通の拳銃ではないようだ。殺島への認識を改める。人間でありながら魔法少女並みの力を持っている恐ろしい相手だ。
魔法少女であればどんなに弱そうでも油断しないが、人間であればそうはいかない。どんなベテラン魔法少女、いやベテラン魔法少女だからこそあり得ないので油断し不意を突かれる。困った声を聞いて無意識に油断しないように戒めたおかげで避けられた。でなければ不意を突かれ攻撃を喰らっていた。
再度殺島を分析する。相手は魔法少女と同等、そして武器はリボルバーで遠距離攻撃を得意としている。
スノーホワイトは魔法の袋から棒の先に出刃包丁をつけたような武器、ルーラを取り出し脚に力を籠める。絶対ではないが基本的に飛び道具使いは近距離戦が苦手だ、距離を詰めて接近戦に持ち込む。飛び道具使いとの相手はリップルとの訓練で慣れている。足を止めず只管動き接近する。止まった相手は唯の的であるとリップルも言っていた。
すると弾丸は狙いを見透かしたように踏み出した右足の甲に飛んでくる。咄嗟に脚を引っ込めると同時に首を右に動かし前後からくる弾丸を回避し、その場に留まらせられる。
相手も接近してくる相手との戦いには慣れているようで、全ての弾丸がダメージを与えようと向かってくるわけではなく、進行方向を遮り逃げるスペースを削る弾丸を撃ちこんでくる。
弾丸はリップルの手裏剣やクナイのように物理法則を無視したような軌道を描かない。突然軌道を変えているように見えるが、見えない壁に当ったかのように軌道を変えている。そして軌道変更も一発で2回か3回、避けづらさでいえばリップルの飛び道具方が避けづらい。
だがマシなだけで避けづらいのには変わりなく、スペースを削る弾丸が的確で動きを抑制する。左右はもちろんジャンプして距離を詰めようにも、常に周辺の上空には弾丸が行きかい阻止する。それは宛ら弾丸の檻のようだ。
「どうしたスノーホワイト!?舞踏会に出るのは白雪姫じゃなくて
殺島の攻撃の苛烈さが増す。上から降り注ぐ弾丸をバックステップで躱し、右斜め後ろから来る弾丸を左ステップで躱し、左から水平に這うように来る弾丸をルーラで弾く。
上下左右からあらゆる部位に襲い掛かる弾丸を躱しルーラで弾いていく。弾丸は当っていないが、何発か掠り頬や太腿に赤い横線を作っていく。
回避しながら幾つか気づいた点がある。弾丸には2種類あり、何もない空間を跳弾する弾丸と、舞っているアスファルトの破片に当って跳弾する弾丸がある。
そして殺島の攻撃には一つ一つ意図がある。どの場所でどの角度で反射して、反射した先の地点でどのように反射するか計算している。いわばオートではなくマニュアルだ。
その洞察による膨大な困った声はしっかり発し、その声を聞いて攻撃を予測し何とか避けられている。
飛び道具使いとは何人も戦ったが、これほどまでに考え洞察し予測しながら戦う相手は初めてで、聞いているこちらの調子が悪くなりそうなほどの量だ。
であれば相手も相当苦しいはずで、いずれ攻撃の精度が落ち、弾丸の檻にも綻びが出来るはず。それが出るまで待ち続ける。むしろそれしか距離を詰める方法は現時点ではなかった。
スノーホワイトは弾丸をしのぎ続ける。この戦いはどちらが音を上げる耐久戦の模様を呈していた。
宙に舞っている破片に跳弾した弾丸が右の二の腕に当り、痛みが走る。隙を作るような痛みでもなく、ダメージも戦闘に支障はない。だが今まで最も深く当った弾丸だった。
今の弾丸は完全に計算された弾丸ではない、とりあえず破片に当てあとは弾丸に行先を聞いてくれという大雑把な攻撃だ。
スノーホワイトの魔法は読心術の一種であり、戦闘において有用な魔法である。だが弱点も存在する。
それは読心しても躱せない圧倒的な速度の攻撃、そして意志がない偶然の攻撃、疲れによる計算ミスか、魔法を推察しそれとも敢えてなのか?前者であれば綻びが出来る予兆、後者であれば膠着状態が破られる可能性が一気に増す。
弾丸は依然変わらずスノーホワイトに襲い掛かる。同じように心の声から意図を察知し回避するが、全てを捌き切れず弾丸が肩と腿と頬を浅く抉る。意図のない攻撃が増えている。このままでは偶然によって致命傷を受けてしまう。
スノーホワイトは宙に舞うアスファルトの破片をルーラで振り払う。偶然の攻撃は破片に跳弾した弾丸、そして殺島もそれに気づいた。
そうなれば破片を使った意図のない跳弾が増えてくる。であれば破片を周りに散布させなければいい。それだけで意図のない跳弾は打ちづらくなる。
すると意識を地面に向けると同時に2発の弾丸がアスファルトを突き抜け額と心臓に向かって飛んでくる。その速度は今までの弾丸より明らかに速い。
咄嗟に首を傾け、ルーラの柄を心臓にかざす。柄に当った瞬間強い衝撃が襲い思わずルーラを落としそうになりながらも弾き、額の弾丸は首を横に傾け避けるが完全に避けきれずこめかみ付近が抉られる。
そのダメージに怯む間もなく突如全力で右に大きく跳ぶ。弾丸の檻に引っかかり右わき腹と背中に弾丸が当たり、制服風の白のコスチュームが血で染めながら攻撃に備えると同時に殺島に視線を向ける。その表情は動揺と落胆の色を帯びていた。
物に当れば反射すると思わせておいてのアスファルトを突き抜ける弾丸、予想外の攻撃で反応を遅らせると同時に通常の弾丸より速く強い。あれが決め技のようなものだったのだろう。だがあれすら囮だった。
突き抜けた弾丸によって作られたトンネルを通っての次の弾丸、それは魔法少女の目で何とか捉えられる小さな弾丸だった。弾道も急所に向かっていない。一見喰らっても致命傷にならなそうだが、心の声がそれを喰らえば致命傷になると伝え、多少のダメージを覚悟で全力回避した。
殺島は決め技を躱された落胆を押し込め引き金を引く、だが弾丸は銃口から発射されない、その瞬間スノーホワイトは攻撃を躱し弾丸の檻を潜り抜け一気に近づく。
スノーホワイトは待っていたのは射撃精度の低下だけではなかった。心の声で常に弾切れになったら困ると聞こえていた。
リップルは無尽蔵に手裏剣とクナイを作りだせ、飛び道具使いには残弾無限というタイプが多い、だが殺島はそのタイプではない。そして戦闘開始当初からその声は聞こえ、比較的に大きかった。それは比較的に早く弾切れを起こす証であると推測しそれに賭けた。
殺島は拳銃を捨て構える。構えを見ただけで分かる。徒手空拳は不得手だ。スノーホワイトはルーラの間合いに入る。両肩を突いて左右の動きを封じる。あとは相手の耐久力を確認しながら殴打して気絶させ捕縛する。
ルーラを突き出した瞬間に殺島の姿が消えた。消えたのではなく身を屈め攻撃を避けた。その一連の動きは今までの身体能力では考えられないほど素早い。心の声を聞く前に反射的にルーラを引き、柄を正中線を守るように立てる。その瞬間大きな衝撃と激痛が腹部に走り車のバリケードを突き破りながら吹き飛ばされる。
動作からして前蹴りを喰らったのは分かった。だが今までの姿から考えられないスピードとパワーだった。何が起こった!?
吹き飛ばされるコンマ数秒でも情報を得ようと殺島に視線を定める。その目は異様なまでに黒かった。
◆殺島飛露鬼
スノーホワイトは
その弾丸は通常より小さく急所に当らなければダメージはないが他と違い1つの特性がある。この弾丸は体内に入れば運動エネルギーがなくなるまで体内で延々と跳弾し、どの部分に当ってもいずれ心臓や脳などの急所に辿り着く。
魔法少女の身体は人間より頑丈であるが、人間と同じように心臓や脳などの器官が破壊されれば死ぬのに変わりはない。当たりさえすれば必殺の弾丸、だが通常の弾丸を喰らって迄回避を優先した。まるで心を読んでいるかのようだ。
そうだとしたらならば
魔法の拳銃は魔法少女がこめた魔力で弾丸が作られる。弾丸は威力や速さや形状の大小や反射回数によって魔力消費量が変わる。
この半年間どの弾丸をどれだけ打てば弾切れになるかを体に叩き込んだ。しかしスノーホワイトは弾丸をしのぎ続け、何とか殺そうと無意識に速度と威力が高い弾丸を撃ちづけた結果だった。スノーホワイトは予想していたかのように即座に間合いを詰める。その瞬間決断した。
殺島にはまだ奥の手が残っている。禁断のヘルズクーポン2枚服用、通常のヘルズクーポン2枚服用でも戦闘力は格段に跳ね上がり、それをマジカルドーピングとヘルズクーポン服用状態で実施すれば想像を絶するほど強くなれるだろう。
その代償として通常のヘルズクーポン2枚服用で5分後に死ぬ。マジカルドーピングで強化されていても同じぐらいの時間で死ぬだろう。
弾切れを起こした時点で勝ち目はなくなった。理想は数か月の余生を皆と暴走しながら楽しみ、花奈にチーム運営を引き継がせることだが仕方ない。最優先は暴走の邪魔になる魔法少女の抹殺、例え死んでも殺すのが役割だ。数か月後に死のうが数分後に死のうが変わりない。
「
殺島は全速力で走り50メートル先に吹っ飛んだスノーホワイトとの距離をコンマ数秒で詰める。相手は態勢を整え迎撃態勢に入っている。
右足が地面に突く瞬間を狙うようにスノーホワイトは薙刀を足元に振る。先程のようなヌルい攻撃ではない、足首を切り飛ばすつもりだ。
地面についている左足指を使って軽く跳ぶ、これで右足は刃の部分を通り過ぎて柄の部分に当る。下手したら骨が砕けるが今の状態なら痛みは鈍く、コンマ数秒で治るので問題なく、そのまま素手の間合いに入る。
左足指で跳んだ瞬間薙刀の軌道はVの字を描き首元に迫る。予想外の変化だが、強化された動体視力と反射神経で動きを捉え右手甲で刃の横を叩き弾きあげ、勢いそのままに懐に入り顔面に左ストレートをぶちこむ、先程と同様に勢いよく後ろに吹き飛ぶ。
手応えが浅い、まだ殺しきれてない。予感通りにスノーホワイトは吹き飛びながらバク宙してアスファルトにブレーキ跡を作りながら着地し、こちらを見つめる。鼻から血を流しながら目のギラつきは全く消えていない。
再び間合を詰めるとスノーホワイトが攻撃を繰り出す。心臓への突き、右半身になって躱しながら素手の間合いに入る。
だが心臓に到着する前に突きは右薙ぎの斬撃に変化し、胸部を斬られる前に払い落とす。薙刀はアスファルトに叩き落とされるが、反射したかのように即座に振り上げられ肝臓を狙う。バックステップで回避する。
三度間合いを詰める。スノーホワイトが侵入を拒むように攻撃を繰り出す。首元への横薙ぎ、身を屈めて避けようとするが追尾するように上段から中段に変化する。身を伏せて避ける。そのままクラウチングスタートのように飛び掛かろうとするが、弧を描くような振り上げの斬撃が迫り回避を強いられる。
殺島は何度も素手の間合いに入ろうとするが阻まれる。身体能力は間違いなく上だ、だが避けにくい攻撃や避けた先に追尾する攻撃など、まるで心を見透かしたような巧みな攻撃に身体能力が封じ込まれている。
そして一撃ごとに攻撃の鋭さや反応速度が増している。決して気のせいではない、まさかこの瞬間で成長し続けているとでもいうのか。
オールドブルーが言っていた。魔法少女は感情で動く生き物だ、感情の振れ幅によって覚醒と呼ばれる現象を起こし急成長を起す。
何が急成長を起した?生存本能か?違うそんな感情で強くなるわけがない。スノーホワイトがそんな魔法少女らしからぬ感情で強くなるわけがない。
だとしたら使命感、いや魔法少女としての理想だ、理想の己が死に暴走が続き何度も実行されることで、弱く正しい人が死ぬのを防ぐために強くなろうとしている。
まさに魔法少女だ。
暴走族にとって不俱戴天の仇であり喜ばしくない現象のはずなのに妙な嬉しさが込み上げる。だがその感情は刹那で押し込み目の前の敵を倒すことに全てを注ぎ込む。
殺島の極道技巧は遠距離技、同じ破壊の八極道のガムテのように技量が有るわけでなく、シグマ、ガンマ、オメガのような近接戦闘の極道技巧を持っていない。喧嘩で実戦経験はあるがガムテのようなプロから見たら素人と大差ない。
云わばオリンピック選手レベルの身体能力を持った格闘技初心者、それなりの相手なら問題ないが、スノーホワイトはガムテのようなプロだ。勝てる道理はない。
「
殺島はバックステップで距離を取ると同時に右の道路わきに跳び落ちていた日本刀と釘バットを拾う。殺島が来る前にスノーホワイトに挑んだハイエンプレスのメンバーのもので何かの拍子でこの近くに飛んだのだろう。刀と釘バッドを手に取った殺島はスノーホワイトに迫る。
間合いまで数十センチのところで急停止、これでタイミングをずらしたからの急加速、これで間合いに侵入を試みる。だがスノーホワイトはまたしても狙いすましたかのように止まった瞬間に距離を詰め薙刀を突く。殺島は強引に右回転しながらバットを宙に放りながら両手で日本刀を持ち、前世での記憶を思い出す。
──どうやるかって?あれだよあれ、俺自身が刀になるんだよ。そうすればできる。
友人であるシグマの言葉とその姿を思い出す。抗争の日々で鍛え上げた剣術はパトカーを細切れにするまで昇華させた。
極道技巧
マジカルドーピングとクーポン2枚服用で爆発的に向上した能力、そしてその極道技巧を何度も目にした殺島にはこの極道技巧は実現可能だった。
スノーホワイトに無数の斬撃が襲う。この技は威力だけではなく洗練された動作は動きの読みにくさに繋がる。辛うじて薙刀で急所を守るが斬撃で体は切り裂かれ白い制服風のコスチュームが赤く染まる。
そして日本刀をスノーホワイトの目の前に放り投げ、先ほど放り投げた釘バットを手に取り。オメガとの記憶を思い出す。
──どうやるかって?こう踏み込んだ力を上手い感じに膝から腰に伝えて最後は腕に集める。こんな感じに!
オメガがバットを人に振ればホームランボールのように飛んでいく。そのひと振りは極道技巧にまで昇華させた。
極道技巧 黄金の旋風
殺島は釘バットを柄頭に向かってフルスイングし、刀は粉々に砕け破片が弾丸のようにスノーホワイトに襲い掛かる。殺島の身体能力で魔法少女の強靭な肉体を斬れば普通の日本刀では耐え切れないのは分かっていた。それを利用して散弾銃代わりにしていた。
破片でも至近距離で魔法少女並みの力で打ち出されればダメージを喰らう。スノーホワイトは破片が目に入らないように反射的に目を背ける。その隙に乗じて素手の間合いに入る。
かつての聖華天の中には素手の極道技巧を使うアルファがいた。その拳は当れば頭蓋骨が複雑骨折になるほどの一撃、
極道技巧
殺島はスノーホワイトの胸部に仏破砕拳をぶちこむ。2つの骨が砕ける音が響き渡ると同時にスノーホワイトは血反吐を吐きながら吹き飛ぶ。
スノーホワイトの胸骨は粉々、そして殺島の右手も全力で殴ったせいで全ての指が歪に曲がっていた。だが指は瞬時に修復する。2枚服用によって身体能力だけではなく治癒能力も格段に向上し、これぐらいの骨折なら瞬時に治る。
殺島は即座に吹き飛んだスノーホワイトに追撃を図る。そのスピードは吹き飛ぶスピードより速い。
このまま追撃されると悟ったスノーホワイトはブレーキをかけながら踏みとどまり迎撃態勢を取る。
アルファ、シグマ、オメガ、
かつての仲間達の極道技巧を使用することで爆発的に上がった能力を生かした。だが素手で使える極道技巧を使える者は他にまだある。
──どうやるかって?私以外見るなってオーラを出す。そしてソイツが一番気になる表情と動作をする。
殺島は使命も憎しみも一旦忘れ、小雪と魔法少女について語り合った日々を思い出し笑顔を作りながら注目しろと念を込める。スノーホワイトと視線が合うとあたかも背後に誰かがいるかのように視線を移動する
極道技巧
相手の意識を逸らしその間に攻撃するガンマの極道技巧、以前本人がスノーホワイトに使ったが通用しなかった。オリジナルが通用しないのにコピーが通用するか?
だが今の殺島の能力は魔法少女レベル、その強化された能力でガンマの極道技巧を使えば通用する。ヤクとドーピング、そしてガンマの極道技巧を信じる。
スノーホワイトの意識と視線がコンマ数秒ほど後ろに向く、その瞬間に全力で距離を詰める。
その直後に殺島に意識を向ける。コンマ数秒しか意識を逸らせなかったがそれで充分だった。殺島は残り数メートルまで距離を詰めていた。
スノーホワイトは咄嗟に突く。それを滑るように掻い潜りながら膝を曲げ踵を浮かし両こぶしを縦にして地面につける。スノーホワイトも突きから軌道を変え頭頂部に薙刀を振り下ろす。
──やりかた?全てを注ぎ込むんだよ。力士は刹那に生きる者だ、だから一瞬に全力を出すんだ
極道技巧 仁王の如し
相撲の立ち合いからのブチかましを必殺技までに昇華させたデルタの極道技巧、その破壊力はアルファの仏破砕拳すら超え、知る限り素手での極道技巧で最も破壊力がある技だが隙が大きく当りづらいという欠点もあった。それをガンマの極道技巧で補う。
額に肉体の感触と骨が砕ける音と自身の頭蓋骨が折れる音が伝わると同時に先ほど以上の速さで吹っ飛び、道路を超えてその先のビルの自動ドアを突き破る。
「アルファ、シグマ、オメガ、ガンマ、デルタ、
殺島の脳裏に仲間達の姿が浮かび上がる。能力だけではだめだった。前世と現世の仲間達が研鑽した極道技巧を使ってやっとダメージを与えられた。改めて仲間達に感謝の念を抱く。
死にはしないが重大なダメージを与えたはずだ。トドメを刺さんとビルの中に入る。エントランスには誰一人いなかった。オフィスビルらしいが首都高暴走の近辺なので従業員達は全員帰宅したのだろう。
「私は負けられない……ラ・ピュセル……アリス……リップル……の為に倒れるわけにはいかない。ここで止めて……暴走を終わらせる」
スノーホワイトは口から血を吐きコスチュームを真っ赤に染めながらこちらを見つめる。皆の極道技巧は柔じゃない、相当のダメージを与えているはずなのにスノーホワイトの目のギラつきは失せるどころか増している。
そして背後に人影のような何かが見える。スノーホワイトは背負っているのだ、魔法少女として誰かの想いを、想いを力に変えるのは魔法少女の専売特許だ。
だが殺島も同じく背負っている。10万人の孤独な者の願い、何より生島花奈という最愛の孤独な者の願いを。
「俺も負けらねえ!
両者同時に間合いを詰めより、スノーホワイトが胴体に向かって横薙ぎを放ち、殺島は薄皮一枚で回避する。返す刀で斬り上げ、切り下ろしからの突きと連撃をしかける。
相変わらず斬撃変化と相手の嫌な事を的確につく攻撃、そして攻撃のキレと速度が増している。想いの強さでさらに強くなっている。
殺島は守勢を強いられる。身体能力で攪乱して間合いに入ろうにも狙いは全て看破され、被弾覚悟で突っ込もうにも全て即死、および手足の欠損を狙う攻撃で迂闊に飛び込めない。
このままでは能力差が縮まる以前に時間切れで死んでしまう。何かないか?殺島は攻撃を回避しながら打開策を模索する。
──帝都八忍、
──いい年こいた大人がなにやってやがる。
──あんたどこか…で心が折れちまったんじゃねーか、暴走に──逃げちまいたくなるぐれーに…!!!
──オレはまだ…
──てめえも…いい眼してた。弱気な
脳裏には何故か殺島を殺した相手であるガキの忍者の姿が浮かび上がる。心の弱い部分を無意識に抉ってくる忌々しいガキ、そして忌々しいほど強かった。あれは身体能力が強いのではない、技術も心も強かった。もし忍者の技と心が備わっていれば目の前の相手に勝てる。
さらに脳裏には死の直前の映像が浮かび上がる。喉への突きで首が切断された。確か親指と小指をくっつけ、その上にくっつけた人差し指と薬指をのせ、人差し指と薬指の間に中指を乗せていた。
あの絶対的身体能力を持つ忍者はパンチでもなくキックでもなく、この握りをした突きを出した。それには絶対に何かしらの意味があるはずだ。殺島は気が付くと忍者の握りを真似する。
スノーホワイトの薙刀が右袈裟で振り下ろされる。その握りのまま薙刀に向けて突きを放つ。パンという乾いた音ともに薙刀を弾く。その光景にスノーホワイトと殺島すら驚いていた。
「あ~